ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

126 / 309
新年最初の番外編の投稿にてご挨拶はさせて頂きましたが、
本編はこれが今年初となる恋愛戦車道。

どうか今年も宜しくお願い致します。

ラブとアンチョビのコンビプレイがいよいよ始まります。
さて、二人はどんな奇策を披露してくれるのでしょう?


第八十三話   魔女の共演

「きゃ──っ!千代美ちゃんカッコいいわよ──っ!ガンバレ──っ!」

 

 

 箍の外れた英子の黄色い声援に砲塔上に突っ伏したアンチョビを乗せたティーガーⅠ、嘗ては現役時代の西住流家元の乗機でもあった123号車(ベルター)が行く。

 黒森峰対UD-Girlsの試合開始直前スタート地点に向かう黒森峰の隊列は、彼女にとって歩くトラウマである英子の登場でいきなり死にそうな顔になったまほ以外の全員が、必死に笑いを堪える顔芸に勤しんでいた。

 現在の状況の大元は、まほの失言にキレたラブがダージリンに愚痴電話をしたのが原因とはいえ、ダージリンの暴走が英子と亜美をも巻き込んで、結果そのしわ寄せが全て自分に回って来ている事に相当ムカついていたし、何よりアンチョビにはP40一件の恨みもあった。

 

 

「ラブ…頼みがある……」

 

 

 スタート地点に向かう途中、アンチョビは無線で後方に付けるLove Gun上のラブを呼び出した。

 

 

『なに?どうしたのよ……?』

 

 

 微かに振り向き咽頭マイクを押さえるアンチョビの目に映るラブは、小首を傾げ深紅のロングヘアを揺らしているが、その表情とはいえば全てを察しているような逆に何も解っていないかのような、何とも曖昧な表情をその顔に浮かべていた。

 

 

「紅茶女に…ダージリンに一発ぶち込んでくれ……」

 

『え~?』

 

 

 彼女の声のトーンに不穏なモノ感じつつも、やはり自分が原因なのでとぼける事が出来ずラブとしてもアンチョビの頼みを聞き入れるしかなかった。

 

 

『…解った、やるわ……』

 

「すまんが頼む……」

 

 

 そんなやり取りをするうちに、隊列はもう間もなくスタート地点に到着する。

 かたや観戦スタンド近くからのスタートとなるUD-Girlsは、カチューシャのKV-2を軸に隊列を整え作戦会議を行なっていた。

 

 

「作戦?そんなチマチマしたものいらないわよ!撃って撃って撃ちまくって突き進むのみ!この街道上の怪物は誰にも止められはしないわ!」

 

 

 小さな暴君ぶりを発揮し無茶を言うカチューシャだが、彼女のそのデタラメな発言を咎める者は誰もいない処か、寧ろそれに同調し妙なテンションで士気は上がっていた。

 

 

「OK!いいんじゃない?重砲中心にしてガンガン行きましょ!」

 

「そうね、隊長はカチューシャなんですから思うようにやるといいですわ」

 

「きしし……それじゃあカメさんはおちょくりに行くかねぇ?」

 

くぁいちょおぉぉぉ(会長)……!」

 

 

 云わば最終完成型ともいえる黒森峰を前に全員ハイになり、怖いとかそんな感情を突き抜けたある意味無我の境地のような顔をしている。

 

 

「やれやれ…旨い話にはなんとやらだね……これからは少し気を付けるとしよう……」

 

 

 どうやらスーパーのお買い得情報のチラシレベルの手口で釣られたらしいミカは、カンテレを爪弾きそれっぽい事を言って誤魔化したつもりらしいが、アキとミッコの様子からするとそれはあまり成功したとは言えないようであった。

 

 

「ミカってさぁ、結構単純な手に引っ掛かるよね~」

 

「食いモンに弱いんだよ!」

 

 

 思惑はそれぞれだが、黒森峰がスタート地点に到着し試合開始ももう間もなくだ。

 

 

「ええと…ダージリンのブラックプリンスにチャーチル、カチューシャがIS-2とKV-2であんざ…カルパッチョのP40……。で、ケイのサンダースが…こりゃ大盤振る舞いだな、ファイアフライとA1はともかくA6は私も実戦で初めて見たぞ。そしてミカのBT-42か……」

 

 

 今回は黒森峰に次いでラブを知る者の人数が多いサンダースがA1を2両投入し、4両体勢でこの一戦に臨んでいる為にUD-Girls側の総数は10両となっていた。

 一方迎え撃つ黒森峰側もティーガーⅠが3両にティーガーⅡが2両、Love Gunを含むパンターG型が4両にヤークトパンター1両を投入していた。

 

 

「なんか出発前の様子だと、人数合わせの関係か学校に関係なく戦車に乗り込んでるみたいね~」

 

「文字通りの混成部隊だなぁ」

 

 

 確かにUD-Girls側はラブの指摘通りの状況で人員の配置を行なっていたが、理由はそれだけではなく滅多にない機会に古い馴染みでもあるので皆面白がってやっている節があった。

 どうにも騙されて連れて来られたミカ以外は、明らかに全員その状況を楽しんでいた。

 

 

「それで西住、作戦というか方針みたいなものはあるのか?」

 

 

 アンチョビとしては今回はあくまでも隊長であるまほの指示の下で戦うつもりでおり、ラブもまた彼女と同じ考えのようであった。

 

 

「フム、みほに関しては基本的に私の下で隊列行動を取り黒森峰の王道の戦いをしてもらうつもりだが、安斎とラブには二人で自由に動いて貰おうと思っている」

 

 

 まほの言った事を少し考えたアンチョビが、確認するように口を開いた。

 

 

「それは私とラブに遊撃部隊として動けという事でいいんだな?」

 

「あぁ、そう考えて貰って構わない。せいぜいダージリン達を振り回してやってくれ」

 

「そうか解った、ラブもそれでいいんだな?」

 

「ええ問題ないわ、私の事は千代美の好きなようにしてくれていいわよ~♡」

 

「ぐっ……」

 

 

 思わせ振りで色気たっぷりなラブの返事に、アンチョビも言葉に詰まる。

 

 

「あぁぁあんざいぃぃ────っ!」

 

「だからその変な声を出すのは止めろにしずみぃ!」

 

 

 アンチョビの事となると即自分を見失うまほに、全員が肩を震わせている。

 

 

「さて……方針が決まった処で仕込みを始めましょ♪小梅さん達に()()()させてあげるわ♡」

 

「え……?」

 

 

 ラブの芝居っ気たっぷりな言い方に小梅達Love Gunの乗員達は、ドキリとして瞬時に身体の芯が熱くなるのを感じていたが、その時既にラブの顔からは一切の表情が抜け落ち、冷たく獲物を狙うパンターの一部品のようになっていた。

 

 

「小梅、5m先の急斜面にLove Gunを乗り上げさせて停止せよ」

 

「え?あ……ハイ!」

 

 

 やっとラブが何を始めたか気付いた小梅は、Love Gunを前進させると指定された急斜面に乗り上げ停車させたが、ラブの優しい面しか見た事のなかった彼女は言いようのない恐怖を感じていた。

 

 

「こ、これでいいでしょうか?」

 

 

 緊張しきった面持ちの小梅が、確認するように振り返る。

 

 

「ええ、こんなものでいいわ…この角度だと少し俯角を付ける必要があるか……主砲ちょい下げ、ほんの気持ちでいいわ」

 

「ハ、ハイ!」

 

 

 砲手も一変したラブの雰囲気に飲まれながらも、慌てて指示に従う。

 

 

「いいわ…そのまま左に2度……OK、そのまま待機せよ」

 

 

 笠女学園艦滞在時のペイント弾戦で同一チームとなった一部の者以外は、ラブの超長距離予測射撃を行う場面を見た者は殆どおらず、皆その様子を固唾を飲んで見守っていた。

 

 

「ああやって撃つっていうか撃たれてたのね……」

 

「あれってさ…超能力よね……」

 

「マウスとかヤク虎でやられたらそれこそ一発で終わりよね……?」

 

「それは…言うなよ……」

 

 

 味方ですら戦闘用の兵器の一部と化したようなラブに恐怖心を抱く中、審判役を務める西住流の門下生から無線で展開状況の確認が入り、既に両チーム共に準備が完了している旨返信するとそれを受けた審判が信号弾を打ち上げ試合が開始された。

 

 

「徹甲弾装填!」

 

 

 ラブの号令と共に装填手が握りしめた拳で徹甲弾を押し込む。

 

 

「……撃て!」

 

 

 信号弾の破裂直後に、Love Gunの主砲が火を噴く。

 思えばこれがラブにとっては三年ぶりとなる、パンターを駆っての実戦であった。

 

 

「パンツァーフォー!」

 

 

 それに続いて下されたまほの命令により、黒森峰の隊列が履帯を軋ませ前進を開始した。

 そして同じタイミングでカチューシャもUD-Girlsに対し前進の命令を下し進む事数メートル、ラブが代理で撃ち出したアンチョビ怒りの一撃は、ダージリンが駆るブラックプリンス目掛けてほぼ直上から襲い掛り、激しい衝撃と共に火球が砲塔を包み込むと車内の者達を揺さぶった。

 

 

「きゃ!?」

 

「なっ!?いきなり!」

 

「ダージリンがアンチョビを怒らせるから!」

 

 

 それがラブのノックの直撃である事はダージリンも直ぐに気付いたが、アッサムはそれが撃ち込まれた理由まで言い当てていた。

 

 

「やっぱ何度見ても正気の沙汰じゃないわ……」

 

「ホント……何で当たるのよ?」

 

「相変わらず詐欺か何かの冗談みたいな命中率ね……」

 

 

 味方であるダージリンがいきなり狙われたにも拘わらず、UD-Girlsの同世代の者達は口々に好き勝手な感想を言い合っている。

 爆炎が晴れ顔を出したダージリンの目には、対AP-Girls戦の後漸く修理を終えたばかりのブラックプリンスの砲塔が、撃破こそ免れはしたが今の一撃で出来たべっこりと大きな凹みが映っていた。

 

 

「…お、おやりになるわね……」

 

 

 試合開始早々、真っ先に自分が狙われた事にどうにか一言虚勢を張ったダージリンであったが、その口元はヒクヒクと小刻みに震え、それを見た各車の車長達は顔を真っ赤にして声を殺し砲塔をバシバシと叩きながら噴き出すのを堪えていた。

 

 

「ねぇミカ、今のナニ!?」

 

 

 突然砲塔が爆発したように見えたブラックプリンスに驚き目を見開いたアキの質問に、ミカは直ぐに答える事はなかった。

 

 

「ミカ……?」

 

「あれは…魔女の口付けだよ……」

 

「何よそれ……?」

 

 

 例によって素直に答えず遠回しなもの言いをするミカに、アキもいつも通り口を尖らせた。

 アキとて何が起きたのか丸っきり解らない訳ではなく、弾着と砲声の間隔から相当な長距離の砲撃である事は理解出来ていたが、果してその距離で目の前で起きた芸当が可能なのか解らなかった。

 

 

「彼女の口付けから逃れる術はない…只それが死の接吻にならぬよう祈るのみ……」

 

「も~、増々訳が解んない!少しは私達に解るように話してよね!」

 

「これしか言いようがないのさ……」

 

 

 やれやれと言わんばかりに肩を竦めるミカはといえば、何処か困ったように笑っていた。

 

 

「ホントミカってめんどくさい」

 

「まあこれで一難は去ったから大丈夫だろう。後はもう試合と云うよりお遊びみたいなものだからね、二人も存分に楽しむといいよ。但し厳島さんの事はよく見ておくように…彼女の動きは島田処の話ではないからね……例えそれが本来の乗機と隊員ではないとしても、彼女が動かせばたちどころに普通ではなくなってしまうからね……」

 

「…解った……」

 

 

 ミカの雰囲気から何かを感じ取ったらしいアキも、短くそれだけ答えた。

 

 

「当たっ……た?」

 

「ええ、間違いなく」

 

「ウソ……」

 

「本当よ」

 

「信じらんない……」

 

「ダージリンは付き合いが長いから当て易いのよ」

 

「えぇ!?そんなもんなんですか?」

 

「そんなもんよ……あぁ、後はまほとみほも当て易いわね~」

 

 

 その自信たっぷりなラブのもの言いとその直前までの様子とのギャップに小梅達は戸惑うが、今の一撃を命中させた事を彼女は確信しており、外したなどとは欠片も思っていないようだ。

 相手の思考を読みそれを元に行う超長距離予測射撃は、その対象の情報が多い程命中精度は上がる為、付き合いが長い者程よく直撃弾を喰らっていた。

 

 

「でもコレを安易に真似しようとか考えないでね」

 

「それは何でですか……?」

 

「こんな曲芸の練習に時間を費やすと基本が疎かになって、却って本来の砲撃の命中率を落とすわよ?欲をかいて私の真似をした結果自滅した子は大勢いるわ……黒森峰は強い、西住に学んだあなた達の戦車道はとてもレベルが高いの、その事を忘れず今のスタイルを貫き通しなさい、いいわね?」

 

『は、はい!』

 

 

 最後は有無を言わさぬ厳島流家元の威厳で話を締めたラブだったが、彼女の言う通り中学時代この技に魅入られ手を出して自滅した者は多数いたのであった。

 確かにそれは魅力的であろう、何しろラブも何度かこの一撃で試合を終わらせてしまった経験があり、負けたら終わりなトーナメント大会では楽して勝てると取り憑かれたように執着し、結果としてその他の部分で本来の実力を発揮出来ぬ程にバランスを崩し、立て直す事が出来ず結局戦車道そのものを止めてしまった者も少なくなかった。

 

 

「さ、千代美を追いましょ、私達は遊撃隊だもの精一杯暴れてやりましょう♪Tank move…あ…えっと、そうね……Panzer vor!」

 

『Jawohl!!』

 

 

 ラブの話に萎縮し掛けたが、彼女の黒森峰流の檄に小梅達も顔を輝かせテンションも上がり、先行するアンチョビのティーガーⅠ 123号車(ベルター)を追って前進を始めた。

 

 

「厳島のお姫様のアレは、もう芸術と言ってもいいわね」

 

「教導任務に就いて初めて見た時は何が起きたか解らなかったし、彼女が何をやったか解った時には本当に信じられなかったわよ」

 

 

 

 観戦スタンド上の英子と亜美は通常の試合中継とは若干勝手が違うものの、モニターを通して送られて来るリアルタイムの戦況を見守っていた。

 

 

「地元じゃ有名だったし、もう彼女なら当たり前って感じだったわね~」

 

 

 ラブの地元横須賀ではアメリカから戻って直ぐに頭角を現し、厳島のプリンセスという事も合わせて知らぬ者はいない存在であった。

 

 

「そりゃあ話には聞いた事はあったし、超長距離射撃が得意な選手はそれまでにも何人かは見て来たけど彼女のそれは桁が違い過ぎたわ、私が初めて見たノックが秒殺試合だったのよ…忘れもしないわ、開始25秒で対戦校フラッグ車のシャーマンのエンジンが吹き飛んだのを……」

 

「あぁ、それは私も中継で見てたわ……懐かしいわね~」

 

 

 基本的にラブのノックは試合開始直後にしか行われない為、当り処が悪かった場合ターゲットがフラッグ車であればそれは必然的に秒殺試合となっていた。

 そしてそれらの記録は、全て非公式ながら最短試合時間世界記録であった。

 高校戦車道においてはまだ秒殺試合は達成していないので、ラブが中学時代に叩き出した全ての記録は未だ誰も更新する者がいなかった。

 

 

「この先記録更新はあるかしら?」

 

「あるでしょうね……」

 

 

 寒空の下仲睦まじく寄り添う英子と亜美は二人で一緒に一枚のブランケットに包まっている事もあり、傍から見れば熱々でユリユリだがその話の内容は相当に物騒だった。

 

 

「千代美!」

 

「来たか……スマンな、でも少しスッとしたよ」

 

 

 先行していたアンチョビの123号車(ベルター)に追い付くと、そのまま背後にLove Gunを付けたラブに彼女はやっと晴れやかな顔を見せた。

 

 

「よし、先を急ごう。後ろに回り込んで今度はケツを蹴っ飛ばしてやる」

 

「お~♪」

 

 

 この時はまだ二人共同じチームの一員として戦うのが初めてである事に気付いておらず、ラブも特に何も意識する事なく行動していた。

 そしてラブとアンチョビが別働の奇襲部隊として動き始めたその頃、ノックを喰らったダージリンも持ち直しUD-Girlsも進行を再開しチマチマした事はやらないというカチューシャの方針の下、重砲を装備した車両を中心に密集隊形で前進していた。

 双方の進行速度がそのままであれば、ほぼ演習場の中央部に位置する起伏がある草原区画で両軍が激突する事になる目算であった。

 そしてその草原区画まで後少しの林の中、隊列中央のカチューシャは周囲をキョロキョロと見回し呆れたように無線機に向かい呟いていた。

 

 

「ここって西住流…西住家で所有してる演習場なのよね……?」

 

『Why?何よ今更?』

 

『まあ云わんとする処は解りますわ……』

 

 

 ラブがAP-Girlsを率いて彼女達の下へと戻ってからは、全てにおいて厳島の桁外れぶりに目を奪われっぱなしだったが、こと戦車道に関してはやはり西住は只事ではなかった。

 

 

『そういやこの間入らせて貰った温泉も、源泉がこの演習場にあるって言ってたっけ……』

 

『まほさんもみほさんも、何だかんだで結構世間知らずな所がありますわね……』

 

 

 改めて思い起こせば日常のやり取りの中で姉妹が垣間見せたお嬢様ぶりのスケールは、ラブ程ではないにしてもそんじょそこらのお嬢様とはその桁が違うのだった。

 

 

『やっぱ西住もとんでもねぇ……』

 

 

 その西住流の演習場の只中で、スケールの大きさを再認識する一同であった。

 

 

「来たわよ千代美!」

 

「お、止まったな…フム、この草原を挟んで撃ち合うつもりか……お~お、重砲前面に押し立てて相当にやる気満々じゃないか」

 

 

 砲撃戦が始まる前に草原を側面から見渡す事が出来るポジションを抑えたラブとアンチョビは、茂みの陰で簡単に擬装を施した車両の上から、それぞれラブは愛用の単眼スコープとアンチョビも自前の双眼鏡でUD-Girlsの動向を窺っていた。

 

 

「さて、どのタイミングでどう仕掛けるかだが、この状況で理想的なのは……」

 

「ここはアレね、まほ達が姿を見せる直前に、私達が仕掛けて注意を引き付けるのが妥当よね」

 

「だな」

 

 

 その小細工無用と云わんばかりの陣形を目にした二人は、ならばこちらはと得意の速攻の奇襲を仕掛けるタイミングを計るのであった。

 

 

「まあ向こうも始めに奇襲ありきで私達がいつ仕掛けて来るか計ってはいるだろうけど、何をやるかまではそう簡単に読めないわよね~」

 

「ほう?そう言うからには何か考えがあるようだな?」

 

「考えって程じゃあないけどさ~」

 

 

 ラブはアンチョビに大雑把に自分の考えを伝えるが、内容が本当に大雑把過ぎてLove Gunと123号車(ベルター)の搭乗員達は要領を得ない上に、それでいいのかといった風に驚いていたがアンチョビにはそれで充分らしく、彼女はなる程と大きく頷いているのだった。

 

 

「フム、背後に回らずこのまま側面からか……」

 

「えぇ、まず私が単騎駆けで真横から一気に主戦場ぶった切ってやるわ」

 

「それで当然注目がオマエに行った処で私がここから痛打を浴びせると……」

 

「そしてそのタイミングでまほの本隊が突撃すれば、それは相当面白い事になると思うわ♪」

 

「確かにな…問題は初撃で私が誰を狙うかで効果の程も違ってくる処だが……」

 

 

 アンチョビが腕を組み、これは難しい問題だと真剣な顔をして見せた。

 

 

「またまたぁ、この場合誰を狙うかなんて決まってるというか一択なクセにぃ~」

 

 

 ラブは人の悪いニヤニヤ笑いでそう指摘する。

 

 

「ほう?それは興味深いな、一体誰の事を言ってるんだ?」

 

 

 そう言うアンチョビも、その顔に人の悪いニヤニヤ笑いを張り付けていた。

 

 

『ダージリン♪』

 

 

 そうハモった後、二人は更に人の悪い笑みになるのであった。

 彼女達にとってダージリンは親友であると同時に最高のおちょくり対象であり、今この時こそ彼女を弄る絶好の機会であると二人は認識を共にしていた。

 

 

『う~ん…この二人がもし同じ学校だったらこれはもう誰も勝てなかったかも……』

 

 

 魔女の密談を傍らに控える形で聞いていた小梅は、聞かなければ良かったといった顔をしており、そのターゲットとなるダージリンが何とも気の毒に思えるのだった。

 

 

「あ~赤星よ、ダージリンに同情とかそう言った類のものは一切無用だぞ?アイツはこれまでにそれだけ色々とやらかしているんだからな」

 

「ハァ……」

 

 

 アンチョビの情けの欠片もない一言に、小梅は力なく嘆息した。

 互いに仲間想いなはずなのにこういう時はとことん容赦がなく、この辺の感覚が小梅にはちょっと付いて行けないのであった。

 

 

「ヨシ、その線で連携するよう西住にも連絡しておこう。草原区画に姿を現す前に本隊の方を一旦止めておかんと作戦が台無しになるからな」

 

 

 本格的な戦車戦に向けラブとアンチョビが動き始めたが、やはりLove Gunの搭乗員達は単騎で敵正面を駆け抜けるなどという無謀極まりない作戦は経験がなく、一様にその表情が引き攣っていた。

 

 

「ん?みんなどうしたのよ~?」

 

「どうしたのよってラブ先輩、私達じゃAP-Girlsみたいな訳には行きませんよ?」

 

 

 小梅が他の者達の気持ちを代弁するように答えたが、その語尾は若干震えたものになっていた。

 

 

「あ~、なんだそんなコト~?大丈夫よ~、この程度の事はアナタ達なら何の問題もなくこなせるから全然心配しなくても大丈夫よ~♪」

 

 

 ラブは至ってお気楽に言ってのけるが、例え彼女のそういう行動は過去何度も見ているにしても、実際それを自分がやるとなると既に生きた心地のしない小梅の操縦桿を握る掌は、汗でびっしょりになっていた。

 

 

「も~、だからそんな怖がらなくても大丈夫だってば~。厳島流を体験するいい機会だと思ってさ、私の言う通りに動いてみてよ~♪」

 

『うぅ…不安だなぁ……』

 

 

 小梅達の心配を余所に作戦は動き始め、まほの指揮の下Love Gun突撃のカウントはスタートする。

 

 

『ヨシ!10秒前から行くぞ!ラブ、安斎!準備はいいか!?』

 

「いつでもいいわよ~」

 

「問題ない」

 

 

 二人からの応答が返るのと同時にまほのカウントがスタートし、ゼロカウントでLove Gunが突撃すべく少し引いた場所から助走を開始し、丁度トップスピードに乗った処で草原に飛び出すと、そのまま一気にUD-Girlsが構築した陣地の前を駆け抜けて行った。

 

 

『Rock'n Roll!』

 

 

 ラブが手にした黒森峰の校名入りの拡声器を構え絶叫すると、全ての目と耳が彼女に集中した。

 

 

「なっ!?う、撃ちなさい!Love Gunを仕留めるのよ!」

 

 

 虚を突かれたカチューシャが慌てて命令を下し、UD-Girlsはバラバラに砲撃を始めた。

 

 

「はぁ!なんですって!?そっちからぁ!?」

 

「目の前横切るとかバッカじゃないの!?」

 

「What!相変わらず図々しい!」

 

 

 奇襲は予想していたがここまで大胆な行動に出るとは思っていなかったので、それぞれが悪態を吐きながら砲撃を繰り返しているがそれらは尽く躱されていた。

 

 

「も~、見越して撃ってるのにまた躱されたぁ……」

 

 

 ラブ初体験であるアキとミッコではあったが、ミカの指示でここまでに三発撃ったがその全てが回避されてしまった事に驚きを隠す事が出来なかった。

 実質一人で砲撃の全てを行なっているので大忙しのアキだったが、ミカの指示に遅れているつもりはないしミカの指示が的外れであるとも思えなかった。

 アキの印象としてはラブはそこに弾着するのが解っていて、事前にそこを避けるようにLove Gunを進めているかの如く感じていた。

 

 

「彼女には見えているのさ……」

 

「え~?それはどういう意味よ~?」

 

「言ったろう?彼女は魔女だって……」

 

 

 魔女の意味合いを計りかねたアキは怪訝な顔をする。

 そうする間にもLove Gunは余裕で砲撃を避け続け疾走していた。

 コマンダーキューポラ上で指示を出すラブの姿は、見る者の目にはまるで弾除けの呪いを唱える巫女のように映っているのであった。

 

 

 




早速ダー様がやられていましたが、やはり彼女はこうでなければw
正直言えばダー様弄ってる時はとても楽しいですねww

ちょっと最近書いてて気になるんですが、
超長距離予測射撃の時などに見せる顔と普段の顔。
果たしてどっちが本当のラブなのかという事……。

今年も相当忙しくなるのは解っていますが、それでもがんばって投稿は続けたいと思いますのでお付き合いの程宜しくお願い致します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。