それとたかちゃんが絡んだ時のひなちゃんの危ない感じも同じですねw
今回はチョビ子も中々に黒くていい感じですww
「カチューシャ、踊らされ過ぎよ?」
「こ、こんなの計算のウチよ!」
UD-Girlsが陣地展開した正面を大胆にも単騎で駆け抜けるLove Gunに対し、全車で砲撃を加えているがそれらを全て余裕で躱し、尚且つ主砲はフラッグ車であるKV-2を指向していた。
「当らない!何で!?」
Love Gunの操縦桿を握る小梅はラブの指示通りに操縦しているだけだったが、彼女の感覚的にはまるで飛来する砲弾の方が命中寸前に逸れて行く感じだった。
「Hey!どういう事よ!?あのパンタ……Love Gunに乗ってるのAP-Girlsじゃないんでしょ?なのにこれは一体どういう事なのよ!?」
本家Love Gunを操るAP-Girlsと違い急造チームであるはずのLove Gun黒森峰バージョンが、悠々と弾を避けながら目の前を颯爽と駆け抜けて行く。
「これがラブを相手にするという事ですのね……」
自分が仕掛けたお遊びであるにも拘わらず、目の前の状況にダージリンは唇を噛締めている。
充分な戦力を与えられたラブがこれ程までに脅威になる事を、自分が完全に失念していた事にダージリンは苛立たしげな表情を浮かべていた。
そしてそれがあからさま過ぎる陽動であると解っているにも拘らず、UD-Girlsの全ての目は疾走するラブの美しい姿に奪われていた。
視線を逸らそうにも逸らす事は出来ず、瞬きするのすら惜しく感じる程に美しいラブの姿は、今この瞬間其処にある全てを支配しているようだった。
「厳島さんって本当に綺麗ね……」
「なんでこんなにドキドキするのかなぁ?」
「だから言ったろう?彼女は魔女だって…駄目だね…私も目を逸らす事が出来ない……」
ミカですら抗う事が出来ないその美しさは、やはり何かの魔力でも秘めているのだろうか?
そんな事を考えてしまう程に全ての視線を釘付けにするラブの美貌は完璧に陽動の役目を果たし、この状況下に警戒せねばならぬアンチョビの存在を見事に忘れさせていた。
「クックック…そう、そのままいつまでもラブに見惚れているがいい、紅茶坊主め……」
「照準合わせヨシ!」
林の中に自らが車長を務めるティーガーⅠの123号車、嘗てはしほも車長として搭乗しベルターのパーソナルネームを持つ車両のコマンダーキューポラに収まるアンチョビに、同車の砲手が獲物を捉えた事を報告した。
「ウム、そうか……」
「ええ、解ってるわ……一発では仕留めない、まずは痛い思いをさせればいいんでしょ?」
「
アンチョビの想いを的確に酌んだ砲手の言葉に、彼女は芝居がかった仕草と口調でイタリア語の最上級の称賛の言葉を送り、砲手もまた胸に手を当て大仰に一礼した。
「ヨ~シ!徹甲弾装填!」
装填手の拳が凶悪な鈍い光を放つ88㎜の牙を砲身に押し込み閉鎖機が閉じる。
「覚悟しろよ、地獄を見せてやるからなぁ……撃てぇ!」
雷鳴が如き発射音が轟き解き放たれた徹甲弾が、ダージリンがの駆るブラックプリンス目がけ空気を切り裂き矢のように飛んで行く。
完全に意識をラブに持って行かれていたダージリンはLove Gunを追って砲塔を旋回させ、無防備に砲塔後部をアンチョビに向けて晒していた。
「せめてもう一撃……ペコ、装填急ぎ──きゃあ!?」
意識の外、油断したダージリンの背後から襲い掛かった徹甲弾は、ものの見事に彼女の尻を力任せに蹴飛ばしていたが、その狙いそのものは巧妙に外され致命傷にならぬよう撃ち込まれていた。
「
双眼鏡を覗くアンチョビが再び称賛の言葉を口にする。
「ドゥーチェ・アンチョビにそこまでお褒め頂くとは恐悦至極」
ベルターの砲手も再び胸に手を当て恭しく一礼する。
しかし二人がそんなおふざけに興じる程に今の砲撃は完璧であり、ブラックプリンスの車内は激しく揺さぶりかき回されていた。
「な!これは!?」
「アナタが遊び過ぎるから!」
「もう付き合いきれません!」
ラブとアンチョビの連携プレイにまんまとはまる形になったダージリンは、カップこそ取り落とさなかったがその中に満たされていた紅茶は粗方零していた。
そしてその攻撃により注意が分散し隊列を乱したタイミングで、それを逃す事なくアンチョビは間髪入れずに次なる手を打っていた。
『今だにしずみぃ!』
無線から響くパートナーの声に目を輝かせたまほは、配下の重戦車の群れに突撃命令を下した。
「攻撃開始!撃てぇ!」
隊列が崩れた処に集中砲火を浴びては戦列を維持する事も儘ならず、さすがのカチューシャも一時撤退を指示、下手をすれば潰走になりかねない場面であったが、小さな暴君カチューシャの身体のサイズに似合わぬ大音声がそれを防いでいた。
「急ぎなさい!ここでやられたら元も子もないわ!何よりいい笑いものになるわよ!」
街道上の怪物の名に違わぬ勇戦ぶり見せながらKV-2で殿を務めるカチューシャは、見事に瓦解しかけた自軍を守り切り撤退する事に成功したが、KV-2は満身創痍でパッと見にはボロボロであった。
「Oh!さすが街道上の怪物ね、これだけやられて無事なんてマジびっくりだわ!」
「これ位の事KVたんならどって事ないわ!それよりまんまとしてやられたわね!いくらお遊びでもこれはちょっとやられ過ぎよ……でもラブのあの姿を見られたのは思わぬ収穫だったわね♡」
たった今記憶に焼き付けて来たばかりの美しいラブの姿を、思い出し反芻しながらハァハァする辺りは揃いも揃って救い難いケダモノぶりだ。
「よおラブ、よくやってくれた。お蔭で私も大分スッキリしたよ」
本隊にアンチョビが合流して直ぐにLove Gunも無事戻り、満足気なアンチョビの表情にラブもまたニッコリと微笑み、その可愛さにまほ達の顔も緩み切っていた。
「緩み切ってるわね~、試合中にあんな隊長見た事ないわ…あ、試合中以外でもないか……」
尤も最近ではそれも怪しくなって来てはいるが、エリカはコマンダーキューポラ上で不気味に笑うまほに呆れていたが、彼女もその顔は相当に緩んでおり隣に停車する
「エリカさんだってお姉ちゃんの事全然言えないよ?」
「うっさいわねぇ、アンタだってさっきからずっと……ううん、ずっとそれ以前から常にグニャグニャふわふわ緩みっぱなしじゃない」
「ふえぇ!?エリカさん酷い!」
フンっと鼻を鳴らしそっぽを向いたエリカだったが、その目は面白そうに笑っていた。
そんな彼女の視線の先ではラブが屈託なく笑っているが、そう言う時の彼女は年相応かそれ以上の幼さを見せるのであった。
「ホント、可愛い
日頃は実年齢以上の大人っぽさと色っぽさで、見る者に溜め息を吐かせるラブが時折見せるこんな表情の破壊力は絶大であり、頬を朱に染めたエリカも萌えずにはいられなかった。
「さて西住よ、第1ラウンドはこちらが制したがカチューシャの引き際も見事だったぞ?ここからはさすがに奇襲を仕掛けてからという手もそうは簡単に通用せんだろう。ダージリンのヤツも目一杯ケツを蹴飛ばしてやったからな、あの紅茶女の性格からしてこのまま終わるはずもなかろうし……さあ、ここからどう攻める?」
ここまではダージリンに対して溜め込んでいた恨みで動いて来たアンチョビだが、それでも試合全体を見通す目は曇らせてはおらず隊長であるまほに次なる一手を問うていた。
「ウム、今の撤退戦で殿を務めたカチューシャも相当消耗しているだろうし、ダージリンも精神的にかなりささくれ立っているだろうな。ケイとナオミは面白がってはいても、それ程奇をてらった事はしないだろうからこの先怖いのはノンナ…それとやはりミカだな……」
指折り数えたまほだったが、ミカに関しては不確定要素も多く言葉尻も曖昧なものになっていた。
「後な、角谷が何かやって来る可能性もあるぞ。それと
アンチョビの予想に注目していた一同は、最後の一言で全員疲れた嫌そうな顔をすると共に、ルクリリの冥福を祈り合掌したり十字を切ったりしていた。
だがそこはさすがアンチョビ、彼女の予想は実によく状況を言い当てているのだった。
「ふ…ふぇ──っくしょん!」
別にアンチョビの噂のせいという訳ではないだろうが盛大にクシャミをしたルクリリは、その勢いのままダージリンに言い募った。
「ですからダージリン様がやり過ぎなんですってば!少しは自重して頂かないと周りが持ちません!おいペコ!お前もソコで空気のフリしてないで何とか言え!」
「これ以上私を非常識な事に巻き込まないで頂きたいのですが……」
露骨に目を逸らすオレンジペコにイラっと来たルクリリは、こめかみに怒りのバッテンを浮かべ力任せに彼女の頭にヘッドロックを決めた。
「ふわっ!?な、ナニを!?」
「やいペコ!来年は私が隊長でお前が副隊長なんだからな!覚悟しとけよぉ!?」
ルクリリは彼女を解放したと見せかけて、今度は両のほっぺをび~っと引っ張ってみせた。
「りゅ…りゅふりりひゃま!?は、はにゃひて……」
「あははははは♪何を言ってるか解らないぞペコぉ?」
キレて何処かに淑女を落っことして来ていたダージリンも、地を隠そうともせずに手荒くオレンジペコをモフるルクリリに完全に毒気を抜かれていた。
「ね、ねぇひなちゃん…私はいつまでこうしてればいいんだ……?」
「あら?たかちゃんはず~っとこのままでいいのよ」
「ひぃ……」
「うふふふふふ……たかちゃん♡」
P40の車内では拉致同然にここ熊本まで連れて来られたカエサルが、ここまでずっと相当目付きが危ない事になっているカルパッチョにモフられていた。
アンチョビの予想に反しP40は、今日一日使い物にならなそうな気配が濃厚だった。
「…何かP40はドロドロしたオーラを放ってるわね……まあいいわ……さて!仕切り直しよ!重砲中心の編成は変えないわ、こっから先も力押しのガチンコ勝負で行くわよ!」
小さな暴君の勢いは未だ衰えてはおらず、ノンナもいつも通りな処を見るとこれはどうやら何も問題なしという事らしい。
「お~いカッちゃ~ん♪」
「だから誰がカッちゃんよ!?」
当初の方針通りぶれる事なく戦闘続行を決めたカチューシャに、いつもの人を喰ったようなニヤニヤ笑いの杏が傍にやって来た。
「あのさ~、
「アンジーが偵察に出るって事?」
途端にケイが心配そうな顔をするが、杏の方はヘラヘラと手を振っている。
「やだな~、これって云わばお遊びっしょ?ならそんな心配しないでよ、そもそもがこのUD-Girlsってのが噛ませ犬なんでしょ?ならそれっぽく振る舞おうってだけだからさ~」
つい戦車に乗ると真剣勝負をしてしまう彼女達だが、杏の指摘で当初の目的を思い出したしたようで、悪い癖が出たといった風に一斉に苦笑していた。
「それでもそんな気になるならそうさねぇ……そうだ、継続ちゃんにちょっと手伝って貰おうか」
不意に指名されたミカであったが困ったような笑みを浮かべ肩を竦めてみせたのは、どうやらそれが了承の印という事らしかった。
「それじゃあどんぐり小隊復活って事で」
「小隊って2両だけしかいないじゃないのよ!」
「じゃあカッちゃんも来る~?」
「誰がどんぐりですってぇ!?」
「いや、誰もそこまで言ってないけど」
『ぶふぉ!』
こういう時は全員カチューシャから目を逸らし、肩を震わせる以外手がないのをよく知っていた。
「ア……アンタら纏めて粛正されたいの!?」
一応のお約束を経て、UD-Girlsは再び攻勢に転ずるべく行動を開始した。
「う~ん、千代美ちゃんとお姫様が組むと凄いモノがあるわね~♪」
「確かにね…もしあの二人が高校戦車道で同じチームだったならってつい考えちゃうわ……」
共闘したのはこれが初めてであるにも拘わらず、阿吽の呼吸で連携プレイを演じてみせたラブとアンチョビに、英子と亜美は手放しで称賛を送っている。
しかしもしそれが実現していれば、同世代の選手達は三年間地獄を見る事になっていたであろう。
「む~、そう考えるとよくこれだけ分散したものね…まあ有力選手はそれなりの学校が獲得合戦するのが常だけどさ……そういう意味でもこの世代はかなり面白かったわ、でもそれも厳島恋というピースが欠けたからこそ成立した部分があると私は思うけどね」
「それは…確かに……」
自分の発した『IF』に対する英子の解答に、亜美も言葉に詰まった。
この世代を見守って来た者達は過去を振り返りここに至るまでの経緯を見返すと、どうしても結論はそこに行き付いてしまうのであった。
『あの事故さえなかったら……』
特に当時そのからくりを見抜けず欠陥砲弾の導入に同意してしまった各流派家元、中でも最大派閥であり発言力も大きい西住流にあって、当時は家元代行であった西住しほはラブの親代わりを務めた経験もありその苦しみは如何許りであったことか。
「あ、動き出したわね……」
あの時を思い出し少し気が重くなりかけていたが、UD-Girls本隊から離れ別行動を始めたヘッツァーとBT-42の姿に意識が向いていた。
「あの2両は……」
「えぇ、選抜戦でカールを攻略した別働隊に加わっていた2両ね…角谷さんには随分と要らぬ苦労をさせてしまったわ……あんな事はあってはならない事よ、そもそもがあのような行為がまかり通っていた事自体が凡そ信じられないわ」
「まぁ今も取り調べは続いているんだが何しろ逮捕者数が只事じゃないからな、全容解明にはまだ暫く時間が掛かるよ。これはあくまで噂の域だしここだけの話だが一応主犯の辻とかいう輩な、その必要がないのに大洗より先に廃校に追い込んで学園艦も解体された学校もあるだろ?受け取った裏金やらの事も含めておそらくは一生籠の鳥って話も聴こえて来てるんだ……ええと話が逸れたな…そうだ、あの継続の隊長、何と言うかアレも捉え処がないというかよく解らない娘だな。そもそもが滅多に表に出て来ないしな……」
「あ~、まあそう言わないであげてよ……決して悪い子じゃないのよ?」
そう言う亜美も目が泳いでいる辺りは、やはり教導任務で相手をしても相当に扱いが難しいというか面倒な様子が見て取れた。
「それ位は解ってるわよ…しかしあれは偵察か陽動、或いは奇襲に打って出るか……しっかしなんとも強烈にアクの強い組み合わせだわありゃ……」
「またそういう事を……」
だがしかし、これもまた強く否定出来ない亜美であった。
果たしてこの局面でどんぐり小隊投入が吉と出るか凶と出るかは解らぬが、試合の行方に何がしかの影響を及ぼす存在にはなりそうだった。
そしてどんぐり小隊が動き始めたのとほぼ同じ頃、まほも全軍に前進の命を下し、UD-Girlsを捻じ伏せるべく履帯を大地に突き立てた。
「どうしたラブ」
進発して間もなく一見そうとは見えないが、ラブが頻りに周囲を警戒している事にアンチョビは気付きそれとなく無線で呼び掛けていた。
『ん~?ちょっとね~』
「…ミカか……」
ラブも直ぐには答えなかったが、アンチョビにすればその僅かな沈黙で充分であったらしい。
『お見通しってヤツか……』
「そりゃあアッチの不確定要素といったらアイツ位だからな」
ラブも千代美には言われたくないだろうなと思いつつも、それは口には出さずにおいた。
「……なんだ?」
『ううん、なんでもないわ……ねぇみほ、アンジーはどの程度独自の判断で動けるのかしら?』
「ふぇ!?アンジー……あ、会長さんですか?」
『えぇ、そうよ』
無線越しの突然の指名に、みほはいつものようにあわあわしている。
「ええと、その…判断力はとても高い人だと思いますけど……」
『みほ、私は戦車道の事を聞いているのよ?』
ラブの声のトーンが違う事に気付いたみほは早回しで必死に考え、少し噛みながらも上官に状況報告を行う新兵のように答えた。
「あ…じょ、状況に合わせて的確な判断が出来る人だと思います……」
『そう……解ったわ』
みほの杏に対する評価に一つ頷いたラブは短くそう答えた。
『オイ、どうした?ミカと角谷に何かあるのか?』
ここまでのやり取りを黙って聞いていたまほも、さすがにラブの含みのあるもの言いが気になったのか、咽頭マイクを押さえながら振り返り様子を窺っている。
「まほだって解ってるでしょ?ミカさんが選抜戦の時みたいに無双したり、アンジーに全国大会でやったのと同じ事をやられたら相当に厄介だって事はさ?」
『あぁ…そうだな……まかせていいか?』
ラブの指摘にほんの一瞬とても面倒そうに顔をしかめたまほは、即座にその厄介事全てをラブに押し付けるのだった。
「まあ最初からそのつもりだからいいけどさ……」
『ならば私も一緒に行こう』
再びの別働任務にアンチョビも直ぐに名乗りを上げたが、それはラブが手出し無用とばかりに彼女の事を押し止めた。
「いえ、千代美は本隊に残って頂戴。あなたまで動いてしまったら即こちらの動きが向こうの別働隊にも知れてしまうもの」
『そうか、でも大丈夫か?』
「大丈夫よ、練度の高い搭乗員と共にパンターG型に乗ってるのよ?大概の事は何とでもなるわ」
ラブが無線交信中に言った『練度の高い搭乗員』の一言に、頼りにされている事を意識した小梅達が嬉しそうにぽっと頬を染めている。
厳島のドクトリンとって最良とされるパンターに騎乗するラブは自信たっぷりであり、それは聞く者にとってもとても頼もしい限りだった。
『解った、でも気を付けるんだぞ』
「えぇ、ありがと千代美……そうだまほ、私に直下さん貸してくれる?」
『えぇ!?わ、私ですかぁ!?』
いきなり名を呼ばれた事と彼女にとって悪夢の象徴であるヘッツアー絡みの任務である事に、直下は驚きで目をシロクロさせている。
「うふふ♪全国大会での恨みを晴らさせてあ・げ・る♡」
『は?はぁ……』
悪戯っぽく蠱惑的なラブの声に、直下の心拍は跳ね上がった。
「心配しないでも大丈夫よ、悪いようにはしないしヘッツアーを仕留めたら直下さんには先に本隊に戻っててもらうからさ~」
「りょ、了解です……」
直下はそれがラブの声にときめいてなのか、それとも不安感から来るものなのかドキドキする胸と熱くなった耳にどうしたらいいか解らなくなっていた。
「それじゃあ行くわ、じきにカチューシャ達も仕掛けて来るでしょうからそっちは宜しくね」
『了解だ……』
同い年ながら既に厳島流の家元であるラブの状況判断にまほも従う事に決め、彼女が短くそう答えるとラブも頷き直下のヤークトパンターを引き連れ早々に本隊から離脱して行った。
『え?あの…ラブ先輩、何でこっちなんですか……?』
隊列から離れ迷う事なくLove Gunを進めるラブに、直下は少し戸惑い気味に質問した。
「ん?何でってこの草原区画を見付らずに迂回するには、私達も奇襲を仕掛けるのに使った林を通るしかないじゃない。次にカチューシャが攻勢に出る時は多少は搦め手も使って来るだろうし、手持ちのカードから考えたら動くのは継続のミカさんとアンジーのヘッツァーと見て間違いないわ」
過去の経験上ラブの予測が良く当たるのは知っているので、直下もここでそれ以上の事は何も聞く事はしないのだった。
「それでね直下さん、あなたのヤークトパンターにはアンジーのヘッツァーを釣り上げる為のエサになって貰いたいのよ」
『エ゛?』
独特な色っぽいハスキーボイスで露骨にエサになれと言われた直下がけったいな声を上げた。
「あぁゴメンなさいね、厳密にはエサのふりをして欲しいのよ。それで喰い付いたら私がアンジーのお尻に火を付けて炙り出しあげるから、そこを直下さんが仕留めるの」
『ラブ先輩!』
ラブの思いもよらぬ提案に直下もハッしたが、同時に彼女はもう一つの問題が気になった
『でもラブ先輩、大洗のヘッツァーはそれでいいとしても継続のBT-42の方はどうしますか?先輩の予想では一緒に行動してるんですよね?あのミカって隊長の方が厄介だと思うんですが?
過去の経験と選抜戦でミカ達が見せた大立ち回りを思い出した直下は、不安げな面持ちになった。
「大丈夫よ、その状況になったとしても彼女はそう簡単に表には出て来ないわ、あのミカって子はそう言う意味ではとても狡猾な子だもの」
『ハァ……』
「安心なさい、直下さんにはヘッツァーを仕留めたら先に本隊に合流して貰うから…BT-42は……ミカさんは私の獲物、彼女を狩るのはこの私よ」
直ぐ目の前を走行するLove Gun上のラブが振り返って見せた妖艶な微笑と獲物と狩るという危険な単語に、直下はゾクリと背筋に冷たいものが奔るのを感じていた。
やはりこの
背筋が凍る想いをしながらも熱に浮かされたような表情で、ラブの背中と走行風に踊る彼女の深紅の長い髪に見惚れる直下であった。
「ありゃ?Love Gunじゃないね…アレ?あのヤークトパンターって確か……」
一応ラブの奇襲を警戒しつつ進出して来たどんぐり小隊は、車高が低い分隠密性が高いヘッツァーが先行し、茂みに身を潜めて偵察を行なっていたが、予想に反して現れたのはLove Gunではなかった。それが因縁浅からぬ直下のヤークトパンターである事に気付いた杏は、双眼鏡越しにキョロキョロと周囲を警戒しながら進む直下の姿に、へにょっと眉を下げ困った顔になった。
「お~い、継続ちゃん聞こえる~?少し予想と違うお客さんが来ちゃったけどどうするかね~?」
杏は双眼鏡を覗いたまま咽頭マイクを押さえ、後方で待機しているミカの乗るBT-42を呼び出した。
「くぁいちょお!気付かれる前にやってしまいましょう!」
「桃ちゃん交信中だからちょっと待とうね?」
「桃ちゃんと言うな!」
杏がトークボタンを離すと同時に桃がクワっと牙を剥いたが、早々に柚子に諌められていた。
『それはどういう意味かな?厳島さんの姿は見えないのかい?』
戻って来たミカの声は、多分に警戒の色と疑問を含んでいた。
「あ~、見えるのはヤークトパンターだけだねぇ……」
杏の報告にほんの僅かながら言葉に詰まり虚ろな表情を見せたミカは、何かに思い至ったらしくハッとした表情になると彼女にしては珍しく無線に向かって叫んでいた。
『そこから今すぐ離れるんだ!早くっ!』
「ほえ?どうしたのさ継続ちゃん?」
杏もミカの反応にさすがに驚いている。
だが、直下のヤークトパンターを監視しながらミカと無線でやり取りする杏は、彼女を見るもう一つの目がある事に全く気付いていなかった。
「見付けたわアンジー、そんな所にいたのね♡」
嬉しそうにキュッと口角を吊り上げたラブは、その形の良い唇に淫靡に舌を這わせるのだった。
タイトルのドイツ語はいい加減ですけど響きは好きかも♪
ラブもいい感じにヤバくなって来ていますが、
次回以降戦闘も激化してもっとヤバくなって行くのでお楽しみに。