ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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直下さんもネタにされてばかりじゃ可哀想なので活躍させてみました♪

戦闘の方も大分激化して来たので楽しんで頂けると良いのですが……。


第八十五話   Shell of ecstasy(恍惚の砲弾)

「照準は直撃じゃなくていいわ、飛び出し易いようにお尻の辺りの茂みを狙ってあげて」

 

 

 ラブの指示を受けてLove Gunの砲手は、茂みの中に見え隠れするヘッツァーの後方の茂みへとその照準を合わせる。

 単眼直進ズームのスコープの中、ヘッツァーの車長角谷杏は自分を見つめるラブの視線に気付く事なく、直下のヤークトパンターを撃つタイミングを計っていた。

 

 

『直下さん準備はいい?仕掛けるわよ、Love Gunの砲撃と同時に動いてね』

 

「了解……」

 

 

 周囲を警戒するフリを続けながらその指示を待っていたヤークトパンターの車長の直下は、自分を監視する杏にそうと気取られぬようラブからの無線連絡に短く答えた。

 

 

「よし…徹甲弾装填、いつでも転進出来るよう備えろ……」

 

 

 引き続き警戒するフリを続けながら、直下は装填手と操縦手に指示を出し自身もその瞬間に備え全ての意識を集中させていた。

 

 

「うん、いい頃合いね…榴弾装填!始めるわよ……ヨシ撃て!」

 

『そこから今すぐ離れるんだ!早くっ!』

 

 

 ラブが砲撃命令を下すのとミカが杏に撤退を促したのは同時であり、残念ながら彼女がそれに気付き指示を出したタイミングは今一歩遅かった。

 ミカから無線で退避するよう警告を受けるのと同時に、背後から襲い掛かった激しい衝撃にヘッツァーの操縦手である柚子は、思わずヘッツァーを前進させ茂みから飛び出していた。

 

 

「うひゃあ何だい今のは?」

 

「ダメだー!もう終わりだぁ!」

 

「桃ちゃん落ち着こう?」

 

 

 しかし今回に限っては桃の言う事は正しく、三人が気付いた時には直下のヤークトパンターが旋回を終え、主砲をヘッツァーへと指向していた。

 

 

『あ……』

 

「撃てぇ!」

 

 

 そして発射されたヤークトパンター必殺のアハト・アハト(88㎜)がヘッツァーの正面の傾斜装甲を易々と貫き、その打撃力でくるりと一回転した後白旗を揚げさせられていた。

 

 

「や~ら~れ~た~!」

 

 

 白旗と同時に杏の断末魔の声が響き、次いで審判の撃破判定コールが無線を通し両軍の参加全車両へと伝えられた。

 

 

『UD-Girls ヘッツァー走行不能!』

 

 

 そのコールがなされるとヘッドセットを押えて無線の内容に聞き入っていたケイの目が吊り上がり、可愛らしい唇からはそれに似合わぬ怒りの言葉が吐き出された。

 

 

「アンジー!お、おのれラブ!よくも……そのデカ乳必ずや私が捻り上げてやるんだから!」

 

『もうラブがやったと決め付けてるし…しかも戦車じゃなくてセクハラで決着付けようとするとかどーよ……?』

 

 

 バカップル絶頂期のケイに、周囲は処置なしと生温く白い視線を向ける。

 

 

「やった……ヨッシャやったぞぉ!」

 

 

 全国大会の一件の影響で有難くない二つ名を奉られた直下は、遂にその恨みとでもいうものを晴らし、握りしめた拳を天に向かって突き上げた。

 

 

『少しは気が晴れたかしら……?』

 

 

 夏妃が先日の黒森峰戦の際、直下の事を履帯子などと呼んでしまったが為にその件で一層弄られる事が多くなった直下に対しての後ろめたさもあり、この作戦をお膳立てしたラブとしてはこれで少しは彼女の気も晴れるかと気になっていたようだ。

 

 

「あ、ラブ先輩!ありがとうございます!」

 

 

 満面の笑みの直下が、無線越しのラブの問いに元気に答えた。

 

 

『それなら良かったわ……それじゃあ直下さんは本隊に合流して戦列に加わってくれる?いよいよアハト・アハトの圧力が必要な場面が迫ってるから』

 

「了解です……でも大丈夫ですか?あの継続の隊長も──」

 

『問題ないわ、彼女は私の()()よ、確実に仕留めて見せるからここは私に任せてくれる?』

 

 

 クセ者であるミカの事を考えると自分達も残った方がよいだろうと進言し掛けたが、それを遮りラブが彼女の事を明確に獲物と呼んだ事に直下の背中は再び凍り付いた。

 

 

「わ、解りました、私達は本隊に合流します…ご武運を……」

 

『うふふ♪ありがと直下さん♡』

 

 

 茂みから姿を現したLove Gunに目をやると、コマンダーキューポラ上のラブが実に可愛らしい笑みを浮かべながら、直下に向かい投げキスを放っていた。

 

 

「……!」

 

 

 ハートの正面装甲を一撃で撃ち抜かれクテっとした直下を乗せたヤークトパンターは、本隊と合流すべくそのまま離脱して行くのだった。

 

 

「さてと…ミカさんと遊ぶ前に……ねぇ小梅さん、ちょっとヘッツァーに横付けして貰える?」

 

「はい……」

 

 

 ラブがLove Gunをまだ黒煙を吹き上げ続けるヘッツァーに横付けさせると、接近する履帯の音に気付いた杏が煤けた顔で這い出して来た。

 

 

「や~、ものの見事にやられちゃったね~」

 

「うふ♡ごめんねアンジー」

 

 

 顔を出した杏は照れたように頭を掻き、その仕草が大そう可愛らしく思わず萌えたラブは堪え切れずに口元をムニュムニュさせていた。

 

 

「いやぁ、それにしてもあんな所にいるなんて全然気付かなかったよ」

 

「その辺はまぁ経験値の差ってトコかしらね~?でも普通の選手だったらあの段階でヘッツァーを見付けられなかったのは事実ね、それ位車体の特性を活かした巧い隠れ方をしていたもの」

 

「そんなモンかねぇ?結局はこうしてやられちゃったしね~」

 

 

 杏はヤレヤレのポーズで器用に肩を竦め見せた。

 

 

「まあそう言う事も含めての戦車道かな……どう?戦車道って面白いでしょ?」

 

「ほえ?」

 

 

 戦車道が面白い、大洗存続の為に戦車に乗る事を選び戦って来た彼女にとってそんな事を考える余裕などなく、それは初めて聞かれた事であった。

 

 

「面白い…戦車道……」

 

 

 杏はラブの言った事を反芻してみるが、今ひとつピンと来ないのは戦車道は大洗存続の為の手段であり、そんな事はこれまで考えた事などなかったからだ。

 

 

「決めるのはあくまで本人であって強制するものでは…あ……ゴメンね、アンジーの事を責めてるんじゃないの、誤解しないで聞いてね」

 

 

 大洗を守る為に戦車道から逃げて来たみほを、強制的に杏が引き戻したのを思い出したラブはしまったという表情で拝むように手を合わせた。

 

 

「ええと…私はね、もしイヤじゃなければこれから先もアンジーには、あなたの戦車道を続けて行って欲しいと思ってるの……」

 

「私の戦車道……」

 

 

 再びラブの唇から発せられた考えもしなかったその言葉は、つい今まで自分の中には存在しなかった全く新しい選択肢を示していた。

 

 

「えぇそうよ…尤もこの先この世界の方が、あなたの事を放っておくとも思えないけどね……」

 

「へ?そりゃあ一体……?」

 

 

 次々と飛び出す不可解なキーワードに杏は首を捻る。

 

 

「おっと、今はこれ位にしておきましょう。まだ試合中だもの……また後でね、アンジー♡」

 

「あ、うん……」

 

 

 ラブのチャーミングなウィンクと投げキスにドキっとした杏を残し、Love Gunは獲物を求め単騎走り去って行くのだった。

 そしてその獲物であるミカは、後方から一連の動きを息を殺し見守っていた。

 BT-42の車内ではアキとミッコが、いつもとは違ってミカに謎の余裕がない事を、彼女がカンテレを全く爪弾かなくなっている事で感じ取っていた。

 

 

「ねぇミカ、ヘッツァー助けなくてよかったの?」

 

 

 それでも一応はアキが問い掛けはしたが、ミカは直ぐに口を開きはしなかった。

 

 

「ミカ……?」

 

「…あの場面、例え出て行ったとしても結果は変わらなかったし、我々も瞬殺されていたさ……」

 

「えぇ~?いくらなんでもそこまではないんじゃない?」

 

 

 アキもミッコの操縦技術の高さには一目も二目も置いていたし、そのテクニックを以ってすればそうそう直ぐにやられるとも思えないのであった。

 

 

「彼女は我々がここに潜んでいるのにも気付いているさ…言ったろう?彼女は魔女だって……我々はとっくの昔に彼女のキルゾーンに入ってしまっているんだよ」

 

「そんな……」

 

 

 アキはこんなにも余裕のないミカを見るのは初めてだった。

 そして彼女がここまで明確に怯えの色を浮かべて見せるのもまた初めてであり、故にアキもそれ以上は言葉を続ける事が出来なかった。

 だがミカも決して諦めた訳ではなく、その証拠に彼女の目はまだ死んではいなかった。

 

 

「hum…やっぱりラブにやられたわね……」

 

「もう別働隊を使う手はダメですわね、これ以上戦力を割いてもラブに削ぎ落とされるだけだわ」

 

「そうね、もうチマチマやるのはヤメよ!ミカを呼び戻して全面攻勢に出るわ!」

 

「それが良さそうですわ……」

 

 

 意見の一致を見たケイとダージリンとカチューシャの三人は再度の進行に備え準備を始め、ミカを無線で呼び戻そうとしたが彼女はそれに応じようとはしなかった。

 

 

「ナニやってんのよ!?サッサと戻って来なさいよ!」

 

 

 思わず声を荒げるカチューシャだが、それに対してミカはやんわり柳に風と受け流す。

 

 

『済まないがそちらに戻る事は出来そうにないよ…君達だって解ってるだろう?私が今や厳島さんの手の中にいる事をね……』

 

「それは……」

 

 

 どうやらミカが、ラブと単騎で相対するつもりでいる事を悟ったカチューシャも言葉に詰まった。

 

 

『なに、私もむざむざやられる気もないさ…精々足掻いて見せるとしよう、その間に君達の本隊も勝負に出るといい……』

 

 

 パンターを駆るラブ相手にタイマン勝負を仕掛けるとなれば、それはただでは済まない事は誰にも想像に難くなく、決死隊のような悲壮感すら漂うミカのもの言いに、無線を耳にしていた者達は揃って息を飲むのであった。

 しかし正面に広がる草原ギリギリまで偵察に出ていたシャーマンA1より、黒森峰本隊現るの報が入り、いつまでもそうしている事は許されなかった。

 

 

「カチューシャ、UD-Girls本来の目的を果たしましょう」

 

「解ってるわよ!今度こそ正真正銘のガチンコで行くわよ!」

 

 

 カチューシャもまたダラダラと長引かせるつもりはなく、派手に決めるつもりらしい。

 

 

『カルパッチョさん、P40は後方からの支援射撃に回って頂けるかしら?』

 

「え?ハイ、それは構いませんが……」

 

 

 突如無線でダージリンに名指しされたカルパッチョは、思わずカエサルと顔を見合わせ不思議そうな表情をしていた。

 

 

『…私もこれ以上アンチョビの恨みを買いたくありませんの……』

 

 

 初っ端にターゲットにされたのが余程堪えたのか、ダージリンの声音からは彼女の口元が引き攣っているだろう事が伝わって来て、皆笑いを堪えるのに苦労していた。

 一方潜伏中のBT-42の車内では事情を知らぬ故に何が可笑しいのか解らぬが、自分達も打って出ねばならぬ事だけは解っていた。

 

 

「ねぇミカ、厳島さんってそんなに強いの?」

 

 

 ミカが徹底してラブを避けていた事もありアキとミッコの二人は、直接彼女の戦いぶりを見ていないのでその強さを今ひとつ実感出来ていなかった。

 

 

「彼女は強い…そして何ものより美しい……」

 

「何よそれ?だから──」

 

「ミッコ!」

 

 

 また訳の解らぬ事をとアキは言い掛けたが、それを遮りミカが操縦手であるミッコの名を鋭い警告を含んだ声で叫ぶと、即座に反応したミッコの操縦によりBT-42は身を隠していた茂みから弾かれたような勢いで飛び出した。

 

 

「ちょ!急にどうしたのよ!?えっ!?」

 

 

 突然の事にアキが文句を言い掛けたが、その直後に爆発と衝撃がBT-42を叩いた。

 

 

「アキ、おしゃべりは後にしよう…今は彼女の強さをその身を以って体験しておくんだ……」

 

「解った……」

 

 

 事此処に至りアキもまた、ラブが叩き付けて来た生な殺気を感じ取ったらしい。

 

 

「ミッコいいかい?決して止まるんじゃないよ、それと単調な動きも厳禁だからね。もし少しでも気を抜いたら、その瞬間にあの魔女に狩られてしまうから注意するんだ」

 

 

 言われるまでもないとばかりに忙しなく操縦桿を操りBT-42を振り回すミッコは、いつになく真剣な表情で冷や汗なのか頬を光るものが伝い落ちていた。

 そして狩りを始めたLove Gunの砲声を合図として本隊同士も全面衝突に突入し、激しい砲撃戦を繰り広げていた。

 

 

「みほ!サンダース組が突出している、エリカと共にそちらを叩け!」

 

『了解!』

 

 

 カチューシャのKV-2を中心とする本隊の中で左翼側に展開していたサンダース勢の車両群が、目に見えて突出し始めており即座にそれに気付いたまほは、みほとエリカに共同でそれらを抑えるよう命令を下した。

 

 

「みほ、榴弾で脚を止めて!精密射撃はこっちに任せなさい!」

 

「解った!」

 

 

 極限まで接近して併走する新旧ティーガーを駆る二人は、ブランクを感じさせぬコンビネーションで突出するシャーマンに向かって行く。

 

 

「榴弾装填用意!目標は突出するシャーマンのうち中央のA1の前方を指向!」

 

 

 みほの指示でカリウスの主砲が、滑らかな動きで目標に向け旋回する。

 

 

「照準ヨシ!」

 

「エリカさん!」

 

「こっちもいいわ!」

 

「榴弾装填!」

 

 

 装填手が渾身の力で榴弾を装填し閉鎖機が閉じる。

 

 

「装填完了!」

 

 

 みほがエリカに視線を奔らせると彼女もまた視線を重ね、その高揚し熱い二人のアイコンタクトを合図にみほは攻撃命令を下した。

 

 

「ヨシ撃てぇ!」

 

 

 特大の火球が視界を覆い一瞬で飛び去った榴弾が、狙い通り最も前に出ていたシャーマンA1の直前で炸裂してその行き脚を鈍らせた。

 

 

「今よ撃てっ!」

 

 

 間髪入れずエリカが砲撃命令を下し、A1の正面装甲を貫き大穴を開けその息の根を止めた。

 

 

『UD-Girls シャーマンA1走行不能!』

 

 

 白旗が揚がると同時に審判のコールがなされ、これでUD-Girlsは2両が戦線離脱した事になった。

 

 

「ほう、やるじゃないかエリみほは!」

 

 

 アンチョビは崩壊し掛けるサンダース勢のフォローに回ろうとするルクリリのチャーチルを足止めしつつ、完璧なコンビネーションを見せた二人を称賛している。

 

 

『ケイ、お下がりなさいな……血気に逸るとはらしくないのではなくて?』

 

 

 突出し過ぎた挙句戦力を失う事になったケイをダージリンが諌めるが、ラブに杏を討ち取られそのラブを倒しに行く事が出来ない状況で、ケイは中々冷静になる事が出来ずにいた。

 

 

「……Shit!少し下がるよ!」

 

 

 しかしそのケイを諌めたダージリンも自ら騎乗するブラックプリンスでKV-2の脇を固め、更には後方に配したカルパッチョのP40に攻撃目標の指示を出している為に、それ以上の事をやる余裕が一切なかった。

 

 

「ヤバイヤバイヤバ……イぃ!」

 

 

 ミッコの超絶技巧でチョロチョロと逃げ回り反撃を繰り返すBT-42であったが、ジワジワと追い詰められ既に相当にガタが来ているように見えた。

 やはり厳島流にとって最良とされ、その使い方を熟知しているパンターG型に乗るラブの強さは尋常ではなく、ミカの指揮の下勇戦するもBT-42は限界点に達しつつあるようだった。

 自らを鼓舞するようにカンテレの弦を弾きSäkkijärven Polkka(サッキヤルヴェン・ポルカ)を奏でるもそのリズムは乱れがちで、アキはこれ程まで余裕のないミカはを見たのは初めてだった。

 一方Love Gunの車内では小梅達が、自分達にこんな戦闘機動が出来る事が信じられぬといった面持ちで、BT-42追い詰める処まで来ている事に驚いていた。

 彼女達にしてみればまるで魔法にでも掛けられたかのようで、得も言われぬ高揚感に包まれその感覚はまさにイク時の絶頂感が延々と続く感じであり、彼女達は戦う事でその快感を貪るように味わい続けている。

 

 

『これが厳島…これがラブ先輩…しゅごしゅぎぃ……♡』

 

 

 ラブの指揮の下鬼神の動きを見せるLove Gunの搭乗員達は、ラブという名の媚薬に中てられ今や全ての能力が解放され、蕩けたアヘ顔で戦闘という名の快楽に溺れていた。

 

 

「うふふ♪やっぱりミカさんって凄いわ、それに応えるアキさんとミッコさんも…でももう終わりにしましょう……さあみんな、次で決めるわよ。背後を取って機関部を破壊すれば、如何にクリスティー式と云えどもそれでお終いに出来るわ」

 

 

 これがTシリーズ辺りであればもう少し粘れたかもしれなかったが、BT-42ではラブの駆るパンターG型を相手にするにはミカでもさすがに荷が重かった。

 

 

「来るよ……いよいよ本気で仕留めに掛かるつもりらしいね」

 

 

 ミカの口調こそいつもと変わらぬが諦めにも似た言葉にアキもミッコも手一杯で何も答えぬが、二人もそれまでとはLove Gunが発する殺気のレベルが桁違いに変わった事を感じ取っているのか、表情には悲壮感のようなものが浮かんでいた。

 

 

「小梅さん、準備はいいかしら?」

 

「ハ、ハイ……でも私に出来るでしょうか?」

 

「大丈夫よ、ここまでに見せて貰ったあなたのドラテクなら問題なく行けるわ」

 

 

 近接戦闘の繰り返しから一旦距離を置いて正対し、Love Gunはこれが最後と突撃を開始した。

 

 

「小梅さん、あなたならやれる。言った通りにすればいいだけ、さあ本当のあなたを見せて頂戴」

 

 

 愛の言葉を囁くようなラブのハスキーボイスが心地良く耳を撫で、まるで媚薬でも嗅がされたように身体の芯が熱くなり、今なら何でも出来る気がして来る。

 対峙するBT-42もまた覚悟を決めたのか真っ直ぐこちらに突撃を開始した。

 

 

「あら?ミカさんも解ってるわね……徹甲弾装填!鮮やかに決めて見せるわよ~♪」

 

 

 緊張する場面にも拘わらず、ラブの歌うような声に小梅達のテンションも上がって行く。

 そして双方が交錯する直前、如何にもフェイントという感じで小梅がLove Gunを軽く右に振った。

 

 

「……ミッコ左!」

 

 

 ミッコはミカの指示通りBT-42の左を抜けるであろうLove Gunの予想進路に向けカニ走りに移行したが、小梅はそのままLove Gunを90度スピンさせミカの読みとは反対にBT-42の右側を滑り抜けた。

 

 

「しまった!」

 

 

 ミカがブラフの掛け合いに敗れ珍しく悔しそうな声で叫んだその時、平行に横滑りしながらすれ違う両車が一直線に重なった。

 

 

「撃て!」

 

 

 絶妙なタイミングでラブが砲撃命令を下し、放たれた魔弾が吸い込まれるようにBT-42の機関部目掛けて飛んで行き、無防備に曝された脆弱な後部装甲を貫くと一撃の下にその心臓部を粉砕した。

 

 

「ウソ……」

 

 

 ミカが読み負けた事にアキは呆然とし、一切反応しなくなった操縦桿を握ったままのミッコも、何が起こったのか分からずにポカンとしていた。

 

 

『UD-Girls BT-42走行不能!』

 

 

 無線から伝わる無情のコールにダージリンも唇を噛む。

 

 

「今のラブは、やはりミカさんでも止める事が出来ませんでしたわね」

 

 

 アッサムも砲撃の合間、オレンジペコが次弾を装填する間にそう呟いた。

 自軍の奇襲部隊が全滅した今、フリーになったラブが何時何処から襲い掛かってくるか予想も付かず、UD-Girlsは相当に不利になったと彼女は判断していた。

 

 

「ふぅ…君は本当に恐ろしい(ヒト)だね……」

 

 

 白旗を揚げたBT-42の横にLove Gunを寄せたラブに対し、肩を竦め些か自嘲気味な笑みを浮かべながらミカは素っ気なくそんな事を言うのだった。

 

 

「まあ、それは一体どういう意味かしら?」

 

 

 ラブも彼女のそんなもの言いに合わせるように、蠱惑的な笑みで応じて見せた。

 

 

「全く君には敵わないね……さあもう行きたまえ、試合はまだこれからなんだからね」

 

「ねぇ、ミカさん」

 

「なんだい?」

 

「後でゆっくりお話がしたいから、先に帰ったりしないでね」

 

 

 大学選抜戦の際、試合終了を待たずにミカが姿を消したのは中継を見て知っていたので、ラブはわざとらしい媚びるような声音と表情で予防線を張って見せた。

 

 

「生憎騙されて拉致されて来た身なのでね、帰ろうにも足がないから大丈夫さ」

 

「それじゃあまた後で……きっとよ♡」

 

 

 投げキスをひとつ残し立ち去るラブの背中を、ミカは眩しそうに見送っていた。

 

 

「全く…本当に君はズルい(ヒト)だ……」

 

「え、何?ってミカ、何赤い顔してんのよ?」

 

「……」

 

 

 少し大人な駆け引きは、まだちょっとアキには解らないようであった。

 

 

「西住!一気に畳み掛けるぞ!私は隊列を離れてラブと一緒に側面を突いてやる!」

 

「任せた!パンターの部隊も連れて行け!本格的に攻勢に出るぞ!」

 

 

 不敵な笑みを浮かべたアンチョビは了解とばかりに敬礼をひとつ投げると、3両のパンターを引き連れ戦列から離脱して行った。

 

 

「千代美!」

 

「おぉラブ!さすがだな、あのクセ者(ミカ)をああも短時間で討ち取るとはな!」

 

 

 フルスピードで戻って来たLove Gunと早々に合流を果たしたアンチョビは、会心の笑みを浮かべると両手放しでラブの事を絶賛した。

 

 

「うふふ♪本隊への奇襲に出るんでしょ?まほも勝負に出るのね」

 

「話が早くて助かる、我々が側面を突いてUD-Girlsを十字砲火に晒してやろう!」

 

 

 少し興奮気味なアンチョビの頬が紅潮して見えるのは、然るべき戦力を与えられ存分に力を発揮出来るからだけではないだろう。

 

 

「ねぇ千代美、あなたのベルターを軸に()()を組みましょうよ♪」

 

 

 その隊列と云う単語に含まれたラブの意図を即理解したアンチョビが、牙を見せニカッと笑った。

 

 

「ふっ…そうか、その手で行くか……よかろう……UD-Girlsのどてっ腹、我々が食い破って大穴を空けてやるとしよう!」

 

「お~♪」

 

 

 ラブが能天気に拳を天に向かって突き上げ、その姿が妙に可愛らしくアンチョビを始め他の者達も思わず目じりを下げ萌えてしまった。

 そして気を取り直したアンチョビはラブ発案の隊列、ベルターを先頭としたコンパクトな楔形隊形であるミニカイルを形成すると、UD-Girlsの側面を突くべく進発するのだった。

 

 

「さすが黒森峰、例え急造部隊であっても隊列行動はお手のモノだな!ウム、実に頼もしい!」

 

「ホントね~♪」

 

 

 愉快そうに笑うアンチョビに、ラブも嬉しそうにしている。

 遂に試合も最終局面を迎え、ラブチョビの快進撃の幕が切って落とされた。

 

 

 




私は大洗の会長のあの命中率を大学戦車道やプロリーグが、
放っておくとは思えないんですよね。
ヘッツァー改装前の38tで戦ったプラウダ戦の無双ぶりとか、
どこからも声が掛からなかったらおかしいレベルだと思いませんか?

黒森峰対UD-Girlsの一戦も次回でいよいよ決着です。
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