「すっごい重そ~」
滑走路の端からのろくさと滑走を始め、中々上がらぬ速度に滑走路をほぼ目一杯まで使い切り、漸く浮かび上がりどうにか飛び去って行った巨人機、サンダース大付属が所有するC-5Mスーパーギャラクシーを見送ったラブは、尚も手を翳しどこかヨタ付いて見える巨体が爆音を残し遠ざかって行くのを見ながらそう呟いた。
「ありゃあペイロード超過してんじゃないのかぁ?」
「さぁな…相当強化はしてるらしいが……」
「
「それでも重量は相当よ?」
笠女の航空戦力を総動員でひと足先に帰途に就いた各校の隊員達を見送った後、スーパーギャラクシーの離陸を見物に来た一行は改めてその非常識な機体サイズに呆れていた。
しかしそれだけの図体を誇ろうとも旋回して挨拶の一つもせず真っ直ぐ飛び去る処を見ると、ラブの言うように相当重いのであろう事は容易に想像出来た。
「しかしそう考えるとお前の
笠女が運用する超弩級上陸用舟艇S-LCACの桁外れなスペックを思い出しながら、腕組みしたアンチョビはゆっくりと首を左右にふった。
「確かティーガーⅡだけでも25両は積載可能だと言ってましたね……」
初搭乗した際に話を聞いたS-LCAC1号艇艇長、顔だけはまほにそっくりだがたわわのサイズでは完全に凌駕している
「そんな怪物を6艇も運用するだけでも札束に羽が生えて飛んで行く処か、金庫に羽が生えて飛んで行きそうだなぁ……」
あまりにもスケールが違い過ぎて実感の湧かぬアンチョビが、あっと言う間に大金が消えて行く事だけが解る表現を口にした。
「えっとね、S-LCACもあれで完成って訳じゃなくてまだまだ試験運用の段階なのよ。みんな
日頃は音楽と戦車の事しか頭にないお姫様を演じているラブがその合間に時折見せる顔は、彼女が間違いなく厳島の女帝の後継者である事を見せつけるものであった。
天才の一言では済まない程の頭脳を持つ彼女が、自分などより遥かに大人であると認めるのは正直悔しいが、家業を熟知し時折グループの最高責任者である亜梨亜の相談役にもなっている事をしほ経由で聞かされてからは、その差を一層意識せざるを得なかった。
「あれだけの化物スペックでまだプロトタイプって事なのか?」
「あの6艇も同じに見えて全部微妙に違うのよ、まだより多くのデータを集めなきゃいけないから、稼働させる度に収集したデータを厳島マリンから学園艦に乗り込んで来てるエンジニアが解析して、都度改修しながら運用してるの。だからしょっちゅう仕様が変わったりしてるのに、稼働率を落とさない船舶科の子達ってとんでもない連中よね~」
次々とラブの口から語られる話は尽くスケールが大き過ぎ、西住流の家に生まれ自分も世間から見れば充分に一般的ではない事は自覚していたが、そんなまほと妹であるみほから見てもラブはあまりに住む世界が違うと感じていた。
「っと、まぁそんな細かい事はともかくさぁ、い~かげん量産とは行かなくても販売の目途を付けないとシャレになんないのよね……このままだと只の赤字じゃ済まない事態になるわ、だけど現状じゃ例のバカみたいな騒音とか問題が山積み過ぎてホント頭痛いわぁ~」
神妙な面持ちでラブの話に聞き入っていたまほは、突如としてラブが身も蓋もないしょっぱい話を始めた為、ゆっくりとその場に倒れ込んでしまった。
「まほ、何そんなトコで寝てんのよ?」
「……」
例えどんなに凄くても、やっぱりラブはラブで昔から何も変わっていない突き抜けたびっくりバカのままだとまほは思うのであった。
「またそんな生な話を……つーかオマエはその辺がやっぱ厳島の人間だな、どんなにぶっ飛んでてもエグい金勘定だけは忘れないんだから」
「え~?なによそれ~?」
アンチョビの容赦ない彼女への評価にラブは口を尖らせ抗議するが、それだけで物事全ての判断基準にはならないものの、彼女の損得勘定が速い事は昔からよく解っていたのでアンチョビはラブの何処か可愛い抗議を一切受け付けなかった。
「あの~、そろそろ寮へ戻りませんか?もうギャラクシーの姿も見えませんし……」
「ん?あぁ、そうだな」
グダグダと騒いでいるうちに離陸したスーパーギャラクシーは、日の暮れ始めた冬空に溶け込みとっくに影も形も見えなくなっていた。
「車両の方も既に格納庫の方に収容済で人員も撤収完了していますので、後はもう我々も寮の方に戻るだけになっています」
「そうか、後始末を全て人任せにしてしまったなぁ……」
「今日は1両も走行不能にならなかったし別にいいんじゃないですか?直下達も余裕で大樽転がしながら寮の方に戻ったみたいですし」
「なんだ、アイツらこんな試合の時までやるつもりか?」
エリカがさも当たり前のように言った事に、まほは少し呆れたように応じた。
「オイ西住、一体なんの話だ?大樽ってなんだ?」
二人のやり取りの意味が解らずアンチョビが口を挟み、その傍ではラブも首を傾げている。
「あ…もしかしてアレ……?」
「なんだみほ、オマエなにか知ってるのかぁ?」
少し口元を引き攣らせたみほにすかさずアンチョビが向き直ると、みほは視線をエリカに向けた。
「あぁ、別に大した事じゃないです、単に寮で祝勝会をやるってだけの話ですから」
みほの視線に答えるようにエリカが説明すると、アンチョビとラブもそう言う事かと頷いた。
「成る程な、して大樽とは?」
「それはアレだ、笠女学園艦で世話になった時
「フム、そういう事か…なら私が何か作るとしよう、
宴会となれば黙っていられないアンチョビが早速何やら算段を始め、材料調達に動き始めた。
「ハァ…私が日常使っているスーパーでよければ寮の近くに……」
少し考え込んだエリカがそう答えると、アンチョビもひとつ頷くと自分の財布を取り出して中身を確認しながらエリカに案内を頼むのだった。
「うん、エリカの通う店なら品質がしっかりしていそうだな♪早速で悪いが案内を頼めるか?」
「えぇ、それは一向に構いませんが……」
少し戸惑いながらもエリカが了承すると、それに続きラブが大声で騒ぎ始めた。
「なんだ急に?騒がしいヤツめ!」
「スーパー!お買い物!私も行く──っ!」
「ハァ?」
やたら必死にアピールするラブに、アンチョビが訳が解らんといった表情になる。
アンチョビ達には中々解り難い事であったが、元々が超の付くお嬢様である処にアイドルとしてメジャーデビューを果たした上に、安全な学園艦暮らしが始まってからは特にそういう機会がすっかり奪われたラブにとって、スーパーでお買い物という響きはとても魅力的なものだったのだ。
デビュー間もない大事な時期故に亜梨亜も母としては心苦しい部分が多いのだが、無用のトラブルを避ける為にある程度娘を籠の鳥にせねばならなかった。
ラブもそれは充分に理解していたがやはりストレスは溜まるので、笠女同様自分にとって安全に過ごせる黒森峰の艦内であれば、少しは羽を伸ばしたくなるのも無理のない事だろう。
「それで帰ったら私もお料理する~♪」
「え?オマエ包丁なんか握った事あるのか?」
どうしても厳島のお嬢様のイメージが先行してしまう彼女と、料理をする姿が結びつかないアンチョビがついステレオタイプな事を言ってしまい、それを聴いたラブが途端に頬を膨らませた。
「失礼ね──っ!私だってお料理位出来るわよ!」
「あ、スマン…そうか……」
思いがけない反論に目を白黒させたアンチョビが、両の手の平でラブを制しながらどうにかそれだけ答えると、みほが彼女の肘の辺りチョイチョイと突きながら耳打ちした。
「アンチョビさん、ラブお姉ちゃんはお料理は得意です…ウチで一緒に暮らしていた頃からお母さんや菊代さんのお手伝いをしていました……」
「そうだったのか……」
アンチョビがラブに視線を戻すと、彼女がビシッと指を突き付け少し怒ったように言った。
「そーよ!大体みんなにバレンタインに贈ってたチョコレートだって私の手作りだったのに、それも忘れたっていうの!?」
「あ…あぁ、そうだったな、本当にスマン……」
アンチョビはもうタジタジでひたすら頭を下げるしかなかったが、そこで窮地を脱する為に蚊帳の外みたいな顔でボケッとしている西住姉妹に話を振った。
「ら、ラブがそれだけやっていたならオマエ達はどうだったんだ?」
『う゛……』
途端に言葉に詰まる姉妹の様子に、アンチョビはそれだけで全て察しが付いた。
「…なんだ、オマエら姉妹揃って座りしままに食うは徳川だったのか……」
アンチョビの指摘に姉妹は揃って返す言葉が見付らなかったが、そこにすかさずエリカが更なる追い撃ちの
「ドゥーチェ、過去形のだったじゃなくて現在進行形ですよ」
「エ、エリカ何を!?」
「エリカさん!?」
明らかにダメ出しする声音のエリカに姉妹はあたふたする。
「隊長はまぁドゥーチェも御存じの通りですし、みほの方も五十歩百歩の似た者姉妹ですよ……っていうかみほ!聞いてるわよ、アンタ相変わらず放っておくと直ぐにコンビニ弁当らしいじゃない、このままじゃ健康面が不安だって沙織も言ってたわよ!?全く、隊長がチームメイトにそんな事で心配かけてどうするのよ!?」
「エ…エリカさん……?いつの間に沙織さんと!?」
「今は携帯のメールで簡単にやり取り出来るでしょうが!」
「うぇ!?」
エリカは当たり前の事を聞くなとばかりに自分の携帯を振って見せる。
下手をするとゴミの大半がコンビニ弁当殻になっているみほは、思いもよらぬ内通者の名前に愕然とした表情になっている。
「なんだ、二人共全然成長してないんだ」
『ぐ……』
エリカの暴露に続き、ラブもしっかりと止めを刺す忘れなかった。
それからエリカの案内でスーパーに立ち寄った一行は、異様にはしゃぐラブを諌めながら買い物を済ませると、小梅や直下が祝勝会の準備をしているであろう寮に向け歩き始めた。
「あ、エリカさんお帰りなさい」
寮に戻ってみれば案の定隊員達が宴会の準備を進めており、既に麦ジュースの大樽も食堂の隅に据え付けられていた。
「って、凄い荷物ですね……」
両手に近所のスーパーの大袋を下げたエリカを見た小梅は、その買い物量の多さに目を丸くする。
「ドゥーチェが宴会用に何か作ってくれるそうよ」
それを聞いた黒森峰の隊員達が一斉に歓声を上げているのは、この6連戦ですっかりアンツィオの味と流儀に慣らされた証拠だろう。
その様子に苦笑した表情のまま困ったように溜め息を吐きながらエリカが厨房に向かえば、それに続く者達も両手にエリカと同じ様に大袋を下げ付いて行った。
「ねぇエリカさん、挽き肉を買ったって事は作ってくれるんだよね……?」
厨房に入りアンチョビやラブと共に仕込を始めようとしていたエリカの傍にやって来たみほは、上目使いでおねだりする時の表情を浮かべて見せた。
「…作るわよ……」
「やたっ!エリカさんのハンバーグだ♪」
小躍りしながら万歳しかけたみほだったが、そこをエリカに捕まり両のほっぺのお肉を摘まれそのままび~っと引っ張られていた。
「ふぇ!?
「アンタねぇ、ホント少しは自分でも作れるようにしなさいよね!いつまでもコンビニ弁当ばかりやってると百年の恋も冷めるわよ?何より沙織が心配するように身体に良くないわ、ボコられグマばっか見てないで料理もちょっとは覚えなさいよ!」
「ふえぇ……」
「ふえぇじゃない!沙織と優花里に言って監視させるわよ!?」
「優花里さんまで!?」
沙織だけではなく優花里までもがエリカの内通者である事にみほは大いにショックを受けているが、エリカはつまらなそうに鼻を鳴らすだけだった。
「ふふっ、試練だなみほ」
まほが二人の掛け合いを面白そうに笑っていたが、ピザの生地作りをしていたアンチョビがすぐさま彼女にも釘を刺した。
「何を笑っている、お前もだぞ西住」
「う゛……」
その後はアンチョビとエリカが腕を振るいラブもまたその包丁捌きで二人を感嘆させ、西住姉妹を大いにへこませていた。
「さて、準備の方はこれでいいですね…それではラブ先輩とドゥーチェには着替えて頂きます……あ、そうそうみほもね……」
「着替えるってエリカさん…あ、まさか……!」
「そうよみほ、これは幹部隊員の義務よ」
エリカはみほに向かい、少々意地の悪い不敵な笑みを浮かべて見せた。
「なぁエリカ、やっぱり私も着替えないとダメだろうか……?」
「今更何を言ってるんですか?」
まほがアンチョビの方をチラチラと見ながら自信なさ気な声でエリカに問うたが、こちらには実に素っ気なく表情一つ変えずに答えるのみだ。
「オイ、着替えって何だ?コイツらのリアクション見てるとイヤな予感しかしないんだが?」
騙し討ちで黒森峰に短期留学させられた上に、ひん剥かれて着替えさせられた生々しい記憶があるアンチョビは、着替えと聞いて懐疑的な顔をしている。
ラブに至っては引き攣った不安げな表情でたわわを抱き締め、ジリジリと擦り足で厨房からの脱出を試みようとしていた。
しかしエリカはそれに応える事なく黒森峰の女狐の笑みで、パチリとひとつ指を鳴らした。
「あ゛ぁ゛ぁ゛~!やっぱりぃ~!」
アンチョビの悲鳴と共に厨房に雪崩れ込んで来た小梅達の手で担ぎ出され、そのまま短期留学生トリオは更衣室へと連行されて行った。
「ちょっと待てぇ!何で私まで一緒に連行されねばならんのだぁ!?」
それが当初からの予定通りなのか単なる巻き添えなのかは判らぬが、数にモノを言わせた一団にラブとアンチョビとみほの三人と一緒に神輿宜しく担ぎ上げられたまほが、大声を上げて抗議したが誰一人その声に耳を貸すものはいなかった。
「こ、これはぁ……♡」
結局は寄って集ってひん剥かれ悲鳴を上げながら着替えさせられたアンチョビが、姿見で己の姿を確認した瞬間それまでとは打って変わって可愛い声で歓声を上げていた。
「とてもお似合いですよ、色の方もそれで正解だったようですね」
少し得意気なエリカが満足気に頷いている。
「う~む、まさかディアンドルまで用意していたとはなぁ……」
姿見の前でクルリと一回転してみたアンチョビは、赤を基調として仕立てられたディアンドルに少女らしく嬉しそうに目を細めている。
スカートの裾がツインテと共に回転に合わせてふわりと舞い、その可愛さに居合わせた者達が皆萌えていたが、彼女の容姿にディアンドルはとても良く似合うのでそれも当然といえるだろう。
「おぉぉぉぉ──っ!あんざいぃぃぃ!」
「にしずみ…それはもういいから……」
アンチョビのディアンドル姿にテンション爆揚げなまほに、アンチョビは半ば諦めたような疲れの混じった声を出していた。
だが実際エリカの言うようにその配色は彼女の髪色に良く似合い、大胆な胸元のデザインと共に彼女をより一層可愛く見せていたので、まほに興奮するなと言ってもそれは少々酷な事だろう。
「だけどまほ、あなただってとっても可愛いわよ~♪」
「はぅっ!?」
ラブにそう言われた途端、まほは真っ赤になって胸元を押えその場にしゃがみ込んでしまった。
「い、いや!私はその……み、見るなよぅ!」
「うふふ♪まほは本当に可愛いわねぇ♡」
ラブに弄られ耳を塞ぎながらしゃがみ込んでいるまほの隣では、何故かみほがやはり着替えさせられたディアンドル姿でガックリと膝を突いており、理由はお見通しだったがエリカは実に愉快そうな表情でみほの事を弄り始めた。
「やあねぇ、みほはそんな所で何をやってるワケぇ?」
「うえぇ…解ってるクセにぃ……エリカさんのイジワルぅ……」
昔の制服とパンツァージャケットがそのまま着られたという事はディアンドルもまた同様であり、改めて全く成長していない(特に胸の辺り)という事実が深々とみほのメンタルを抉っていた。
そしてそんなみほの様子がエリカの中のドSな黒森峰面を刺激し、ゾクゾクとした悦楽の表情を浮かべた彼女は非常に満足そうであった。
「まぁそんなにヘコまなくったって二人共とても可愛いぞぉ♪」
アンチョビは困ったヤツらだといった風に姉妹を交互に見比べた後、視線をラブに向けた。
「なによ?」
既に開き直った態度のラブは、腰に手を当てたわわを強調するように胸を張った。
『なぁエリカよ、いくらなんでもこれはやり過ぎなんじゃないか……?』
『さすがに私もここまでとは聞いていなかったので……』
視線が集中する先で偉そうに仁王立ちするラブは、燃えるような波打つ深紅の髪をより一層美しく見せる深い緑を基調とするディアンドル身に着けていたが、その胸元はアンチョビ達の物より更に大胆に開いており、突き上げるたわわは今にもポロリと零れ落ちそうで、その谷間は一度視界に入ったらもう目を逸らす事が出来ない程深い渓谷を形成していた。
「別にいいけどさ…どうせいつもの事だし……それより気になるのは結構傷が見えちゃってるからみんなが気持ち悪くないかって事よ……」
ハッとしたエリカであったが、見知った仲間に見られる事自体は抵抗がなくなって来ていたラブが直ぐにそんな彼女の事をフォローしていた。
「ありがとうエリカさん、私は大丈夫よ…でもこれはさすがに大胆過ぎだと思ってさぁ……」
苦笑するラブは両手を広げ、仕草でエリカに傍に来るよう促すとおずおずとやって来た彼女の事をそっと優しく抱きとめた。
「エリカさんは本当に優しいね」
「ラブ先輩……」
最初は確かに感謝の念を込めたハグであったかもしれないが、美人のエリカを抱き締めご満悦だったラブはその美しいもの好きな性根から直ぐにその気になり、感謝のハグは速攻でご褒美のハグに切り替わって手癖の悪さを発揮していた。
抱き寄せたエリカの髪を優しく撫でていたラブの手の動きは、その撫で心地の良さにスイッチが入りその動きはお触りプレイな愛撫になり、やがてエリカの顔を徐々にたわわの谷間へと引き摺り込んで行くのだった。
「ちょ!?あの!ラブ先@△♯☆──」
ストップを掛けようとしたエリカだったが、その顔を谷間に押し付けられて途中からはもうくぐもった声で何を言っているのか判らなくなっていた。
「あぁ──っ!ラブお姉ちゃんダメ────っ!」
ラブのたわわ渓谷に埋もれ蕩けて行くエリカに涙目になったみほが、慌てて二人の間に割って入り必死に引き剥がそうとしていた。
「あら?何よみほ、して欲しいなら最初からそう言えばいいのに~♪」
「ち──が──う──っ!」
危うく自分まで谷間に埋め立てられそうになったみほは、絶叫しながらエリカの手を取り這々の体でラブのたわわ地獄から逃げ出した。
「毎度毎度しょうがないヤツだ……ホラ、勝ち戦の祝をするんだろ?料理が冷める前に行くぞ」
「あ、ゴメン」
気が付けばラブ達を担ぎ込んだ者達も着替えを済ませており、ならばとエリカの生着替えに手を出そうとしたラブだったが再びみほと争ううちに電光の速さでエリカは着替えを終えていて、その望みはいともあっさりと断たれていた。
「惜しい……」
「アホウ!おら、サッサと行かんか!」
再度アンチョビに急き立てられ、漸く全員揃って更衣室を出るのだった。
そして食堂へと戻ってみれば準備の方は万端滞りなく終わっており、隊長であるまほが麦ジュースのジョッキを高々と掲げて見せればあっと言う間に飲めや歌えの宴会が始まった。
盛り上がりが最高潮になった頃、昼食の時に引き続きラブがギターの弾き語りで宴席に華を添えたが、やはり大胆に露出した胸元が目を惹き鼻から鮮血を迸らせる物が続出しノンアルコールのはずなのに酩酊状態の者が溢れているのは、どうやらラブの色香に中てられての事らしかった。
「うぅ、もうこれ以上は飲めないし食べられない……」
「それ以前に疲れた…体力の限界だ……」
「やっぱ一年生って元気ね……」
「お前だって一年生だろう……」
「……」
祝勝会のお座敷がはねてラブ達は寮の部屋へと戻り始めたが、昼過ぎに終わったとはいえかなりハードな試合をこなしたうえにその後は昼食会という名の宴会と祝勝会が続けば、さすがにタフなまほと宴会慣れしているアンチョビでも顔に疲労の色を浮かべているし、歌いっ放しだったラブなどはもうフラフラな状態になっていた。
「おらぁ~後少しだぁ、キリキリ歩けぇ~」
今にもその辺に座り込んで寝てしまいそうなラブにアンチョビがはっぱを掛けるが、そのアンチョビもその声に張りがなくツインテのリボンも萎れていた。
「ホラ!みほもしっかり歩きなさいよ!」
「ふえぇ…エリカしゃん眠いよぉ……」
「もう!本当にだらしないんだから!」
言っている傍から廊下の隅に座り込み寝息を立て始めたみほを睨み付けたエリカは、溜め息を吐いた後に雑嚢でも運ぶように軽々とみほを肩で担ぎ上げると階段を登り始めた。
「すまんエリカ……」
「いえ……」
表向きは鉄の秩序を誇る黒森峰もそこで暮らすのはやはり所詮は他と同じ女子高生であり、他校の生徒同様にストレスも溜まればそのはけ口を求めるのは一緒であった。
そして上に立つ者は上手くガス抜きをさせてやらねばならず、それもまた指揮官として求められるスキルの一つであった。
「みほ!起きなさいよ、部屋に着いたわよ!」
「ふにゅ~」
「この子はぁ……」
自身も疲れているにも拘わらず、みほを肩に担いだまま階段を登っても息一つ切らさず部屋までやって来たエリカは、肩に乗っかったまま寝息を立てていたみほに起きるように言ったが寝惚けたみほの返事は要領を得ず、さすがにイラっと来たエリカは思わずみほをハンドボールのシュートのように二段ベッドの下段目掛け力任せに叩き込んだ。
「ふぎゅ!?」
放り込まれたみほが妙な呻き声を上げたが、エリカは埃を払うようにパンパンと両手を叩きながら思い知ったかとばかりにフンっと鼻を鳴らすだけだった。
「エリカさんお疲れ様……」
「……」
ラブの労いの言葉にも、エリカは疲れた顔を向けるだけで特に何も答えなかった。
「さて、明日も早い…私達も休むとしよう……」
「そうね……」
エリカの荒業に呆気に取られていたアンチョビも、眠気に勝てなくなる前に一つやらねばならぬ事があり、自分のベッドに腰を下ろし眠そうに目を擦るラブの方へと向き直った。
「ホレ…そのまま寝るな、ちゃんと着替えなきゃダメだ……」
今にも倒れ込んで寝てしまいそうなラブを促しディアンドルを脱がしにかかったアンチョビだが、眠くてぐずるラブ相手にかなり手こずっていた。
事故の後遺障害とたわわのサイズの影響で自分だけでは衣服の脱ぎ着に問題があるラブは、着替えの際に介助が必要でありただでさえ大変なのだが、寝落ち寸前な処に身に着けているのがディアンドルではアンチョビ一人だとどうにもならずエリカの助けを必要としていた。
「これでいいですか?」
黒森峰の既製品のジャージではたわわ周りに問題があるのは前夜に解っていたので、エリカがラブのトランクから愛が入れておいたらしい西住家宿泊時にも着用していた肉球柄のパジャマを取り出し、一応確認の為にラブに掲げて見せた。
「着なきゃダメ~?」
「ここは笠女の寮じゃないんだからちゃんとパジャマ着ような……」
日頃何も身に着けずに寝ている彼女にとってパジャマなど窮屈極まりない代物だが、それでは自分達が落ち着いて寝る事が出来ないのでアンチョビは尚もぐずるラブを宥め、何とかパジャマを着せようとしたがぷるんぷるんなたわわが邪魔して中々前ボタンを留める事が出来ず、丸見えな美しいピンクの先っちょにアンチョビとエリカは耳まで熱くなるのを感じていた。
そんなアンチョビが視線を感じ振り向くと、目を血走らせまほがラブのたわわな生着替えショーをガン見しており、疲労の極に達しつつあったアンチョビは低い声で釘を刺した。
「にしずみ…もう寝ろ……」
「はい…おやすみなさい……」
その声と視線に込められたものを、さすがに朴念仁なまほも感じ取ったらしく素直にベッドに潜り込んだ。
「どいつもこいつも本当に世話が焼ける……ホラ!お腹の辺りのボタンくらい自分で留めろ!」
それから暫くの間苦労した二人はどうにかラブにパジャマを着せると、セントラルヒーティングが効いているとはいえ、風邪でもひかれたら厄介なのでラブにしっかりと布団を被せると、そこで漸く一息吐けたのだった。
「ご苦労だったな…エリカ……」
「いえ、…ドゥーチェこそ……」
二人は疲れ切った顔を見合わせ再度力なく深い溜め息を吐くと、やっとの事で自分達も着替えてベッドに倒れ込む事が出来た。
それから数刻、寮内の灯りも全て消え日付けも変わって大分経った頃の事、カーテンの隙間から差し込む月明かりの中ベッドの上にむくりと起き上がる人影があった。
「うぅ…飲み過ぎた……」
隊員達の労を労いながらの差しつ差されつだったとはいえ、夢だった試合に快勝しての祝勝会に大いに気を良くしたまほは、つい麦ジュースを飲み過ぎ変な時間に目を覚ましてしまったようだ。
「…トイレ……」
フラフラと部屋を出ていったまほは暫くして出て行った時と同じようにフラフラと戻って来たが、その様子から完全に寝惚けているのは明らかだった。
「ねむい……」
薄闇の中、まほのシルエットがのそのそとベッドに潜り込んで行く。
そして再び部屋の中に寝息以外の音が聴こえなくなった頃、その音に混じって微かながら衣擦れの音がし始めた。
「…ん?何……まほぉ?何寝惚けてんのよぉ……」
フラフラとトイレから戻ったまほだったが、どうやら寝惚けて自分のベッドではなくラブのベッドに潜り込んでしまいそれにラブ気付いたのだが、眠気には勝てず彼女もそのまま眠ってしまった。
だがそれから間もなくして室内にちゅ~ちゅ~チュパチュパと何処か湿り気を帯びた音が響き始め、まほにベッドに潜り込まれたがあまりに眠くてそれを許してしまったラブは、たわわの敏感な先っちょに強い刺激を感じ夢の世界から現実の世界へと引き戻された。
「ん…え……何よ……え!?ちょ!まほ!?」
布団の中、意識が覚醒すると共に胸元の開放感を感じ、更にまほが自分のたわわに張り付きモミモミちゅ~ちゅ~している事に気が付いた。
「いや!ちょっと…そこは……あぁん♡だ、だめ……みぎゃ──っ!★Å@!」
堪り兼ねたラブが上げた悲鳴に、暗闇の中アンチョビ達は何事かと飛び起きた。
「ぬわっ!何事だぁ!?」
「な、ナニ!ラブ先輩!?」
「ふぇっ!?」
ベッドから飛び降りたエリカが部屋の灯りを点け辺りを見回すと、彼女の目に俄かには信じ難い光景が飛び込んで来るのだった。
「た…たいちょう……」
「なんだどうし…にしずみぃ……」
「お、おねえちゃん……」
呆然と立ち尽くす三人の前、ラブのベッドに潜り込んだまほがラブの肉球柄のパジャマの前をはだけ、彼女の敏感なたわわの先っちょに吸い付く姿があった。
「何事ですか!?」
ラブの絶叫で叩き起こされた者達が続々とラブ達の部屋に駆け込んで来て、その結果として見てはならぬものを見る事になってしまったのであった。
『隊長…最低……』
「ちょっとぉ!なんでもいいから早くこのバカをなんとかしてぇ!」
尚もラブが悲鳴を上げたが、あまりの事に頭が真っ白になり固まってしまったアンチョビ達は反応出来ず、未だに起きる事なくちゅ~ちゅ~と先っちょを吸い続けるまほに業を煮やしたラブが、拳を握りしめ渾身の力で彼女の頭をぶっ叩いた。
「ぐぇっ!な…!?アレ……?」
力任せにラブに頭をどつかれてまほもやっと目を覚まし、たわわの先っちょから口を離した。
「ま──ほ──っ!アンタね──っ!」
口元からだらしなく涎を垂らしたまほは、目覚めたとはいえ状況と空気が全く読めていない。
「えっ…何で?あ、濡れてる……」
ラブに頭を叩かれるまで自分がちゅ~ちゅ~していたたわわの先っちょに気が付いたまほが、まだ寝惚けた頭でまさに寝言呟くと、すっかりパジャマの前がはだけてたわわを丸出しままのラブが怒りに震えてプルプルとしていた。
そのプルプルに合わせてたゆんたゆんしているたわわの先っちょは、無事だった方は可愛らしいピンク色なのに対し、まほのちゅ~ちゅ~されてしまった方の先っちょは余程強く吸われたのか鬱血して真っ赤になり、まほの唾液に濡れエロい光を放っていた。
「西住お前……」
「あ、あんざい…?えっと、これはその……え?まさか?あ、赤くなってる……」
アンチョビと目の前のたわわを交互に見比べたまほは徐々に状況が呑み込めて来たのか、それに従い顔色が青くなって行きダラダラと冷や汗を流し始めた。
「お姉ちゃん…また……?」
『また!?』
その場にいる者達全員の驚愕の視線が突き刺さる中、まほはワタワタと手を振り必死に自己弁護しようとしたが、それより先にラブの怒声が室内に轟いた。
「あ…アンタ小5の夏から全然成長してないじゃない!この……まほのおバカ────っ!!」
紫電一閃、怒声と共に繰り出されたラブの右手のフルスイングが、まほの左の頬にくっきりとモミジを刻み付けていた。
「がっ!?」
『あぁ……』
そしてその一撃でまほはベットの上に轟沈し、居合わせた者達は対AP-Girls戦に於いて、ラブが拡声器パフォーマンスで何を言おうとしていたかを知る事となった。
ラブの短期留学もまだ後二日、果して彼女は無事笠女に帰る事が出来るのだろうか。
まあタイトルでお察し回でしたねw
一応やりたかったエリカのハンバーグネタも入れられたけど、
実は黒森峰編は一番最初に思い付いたのがこのエピソードだったんですよねww