『ラブ姉!そっちにまほ姉が行ったよ!』
「ほーっほっほっほ!単騎でこのLove Gunに戦いを挑むとはいい度胸ね!いいわ、たっぷりと揉んでやるから掛かってらっしゃい!」
内輪の紅白戦形式の試合とはいえ、確信犯で相手にも筒抜けな共用回線を使っての報告に、ラブも同じく共用回線を使用して応答していた。
『ぶはははははっ!』
その超わざとらしいラブの高笑いと喋り口調に、演習場のあちこちで爆笑が起こる。
波乱のまほの隊長引退宣言とエリカの隊長就任劇、そしてそれに伴い催された大宴会の席上でエリカの口から飛び出した『まほ姉』なる『隊長』に変わる新しい呼称は、一夜にして隊員達の間で大ブレイクし、こうして無線でも『まほ姉』が飛び交っていた。
更に同期の三年生達からはまほちゃんやらまほっちやら果てはまぽりんまで飛び出して、まほは人生最大の弄りを経験していた。
「お……オマエらいい加減にしろよぅ!」
朝一から始めた試合中、時折りこうして涙目のまほの怒声が轟くが、それは却って笑いを招くだけの逆効果でありなんの抑止にもなってはいなかった。
しかもこの試合、よく見ると三年対一、二年生の連合チームが戦っており、使用している弾もペイント弾、双方の布陣もデタラメで、一見すると子供の雪合戦の様相を呈していた。
何故こんな事態になっているのかを知るには朝食の時間まで遡る事になる。
「紅白戦?」
「ウム、今日で短期留学も終わりだろ?もうこんな機会も中々ないだろうからな、だからペイント弾を使って一日中撃ち合うのはどうかと思ってな」
体制の変更に伴い今朝の朝練はミーティングのみで終わり、いつもより若干早く朝食を取り始めたその席で、まほは昨夜のうちから考えていたのか得意気に提案を始めた。
「それを紅白戦でやるって事?」
「ああそうだ、実弾を使ってしまうと被弾したらそこで終わって一日中は楽しめないからな、ペイント弾を使用しての紅白戦をやるんだ。チーム分けの方はエリカ率いる一、二年生チームと私達三年生チームとで戦うというのはどうだろう?」
「やるのはいいけどさ、それを決めるのは私でもまほでもないわよ?」
「え?あ……?」
ラブが答えながら視線をエリカに向けると、さすがにまほも気が付いた。
「さすがに直ぐには隊長さん気分は抜けないか……」
「あ、いやその……」
苦笑するラブにまほはしまったとばかりに冷や汗を掻いていたが、食事の合間に携帯相手に何かやっていたエリカは暫くして響いた着信音に画面を確認すると、これまでまほがずっと見て来た淡々と事務処理をこなす副官の顔で報告を始めた。
「教科主任にその旨申請して許可を取っておきました……
「ぐっ……」
最後のまほ姉の処で表情を一変させニッコリと微笑んだエリカは食べ終えた朝食のトレーを手に立ち上がると、準備があるから先に行くと一言残してサッサと立ち去って行ったが、どうやら彼女はまほ姉という響きが自分でも相当気に入ったらしく、慌てて残りを平らげバタバタと後を追い掛けるみほにも機嫌よく接していた。
「ん~♪エリカさんって本当に可愛いわね~♡」
「確かになぁ、これで隊長になって注目度が上がってきゃーきゃー言われるようになると、みほのヤツも気が気じゃなくなるんじゃないのかぁ~?」
「……」
食後のお茶を啜りながら、ラブとアンチョビがお気楽に無責任な事を言って笑っている。
まほはそれまで全く見た事がなかったエリカの一面に言葉が出ないようだ。
「ところでさ~まほぉ?」
「ん…なんだ……?」
「私はどっちのチームなのかしら?」
ラブの声のイントネーションに不穏な空気を感じ取ったまほは、暫し考えた後に慎重にラブの様子を窺いながらその口を開いた。
「ええと…一、二年生チームで……」
「……結構」
微妙な間に内心ドキドキしたまほだが、ラブから返って来た反応にどうやら寸での処で地雷を踏み抜かずに済んだと判断した彼女はホッと胸を撫で下ろしていた。
「で、それはいいとしてだな、一体どういうルールでやるつもりなんだ?笠女でやった時みたいな訳には行かんだろ?こう言っちゃなんだが、保有する車両全部使うような規模になるだろうし、そうなると重量級と軽量級でどういう判定にするか難しくないかぁ?」
細かな処にまで気が回るアンチョビがすかさず尋ねて来たが、今回はまほもその辺まで考えていたらしく彼女の問いに即答した。
「あぁ、それなら今回は一発は一発だよ」
「ん?どういう事だ?」
「重戦車だろうが軽戦車だろうが一発喰らったらアウトという事だよ」
アンチョビは腕を組みそのシンプルなルールに付いて自分なりに検討した。
「ふ~む、そうなるとやっぱり小回りが利く軽戦車なんかの方が有利にならないか?」
「だから今日は何回でも復活できるルールで行こうと思うんだよ」
「そりゃ~一体どんなルールなんだぁ?」
さすがにアンチョビもまほが何を考えているか想像が付かないらしく、思わず隣に座り彼女と同じように腕組みしていたラブと顔を見合わせていた。
「お前達小学生の時に体育の授業で平均台を使った陣取りゲームをやったのを覚えてないか?ラブは熊本で暮らした時に同じクラスでやっただろう?」
「あ~、アレ……」
「フム、平均台の上で一対一でジャンケンして負けたらまた列の最後尾に回って戦うあれか……」
「そう、ソレだ。あの要領で演習場に設けたそれぞれの陣地からスタートして、被弾したら一旦その陣地まで戻って仕切り直す、そして最終的に陣地に攻め込まれた方が負けって訳だ。これなら一戦辺りの時間もそうかからないだろうから何回でも戦えるぞ?」
「成る程ね~、まほも随分面白い事考えたじゃない♪」
「だろ?途中振り分けた車両で不利が出たら、車両だけ入れ替えればいいさ。ウチの連中は一応一通り扱えるよう訓練してるからな」
「じゃあ私がヤク虎乗ったりするのもあり!?」
「あ、あぁ…そうだな……」
実質何でもアリルールに色めきたったラブが嬉々として聞くと、まほも言葉に詰まりながら答えたがその顔は若干青ざめ口元は引き攣っていた。
そしてまほがラブの隣に座るアンチョビに目を向けると、彼女も酢でも飲んだような表情で胃の辺りを摩っている処で、どうやらヤク虎で暴れるラブがリアルに想像出来てしまったらしい。
「ごちそうさま♪それじゃあ私はエリカ隊長のお手伝いしに行ってるわね♡」
食器を片付けると軽やかなスキップでたわわを揺らしながら食堂を出て行くラブを見送った二人だったが、向き直ったアンチョビが冴えない表情でまほに問い質した。
「ど~すんだにしずみぃ~、あの調子だと絶対マウスにも乗る気だぞぉ~?いくらペイント弾と言ってもだなぁ、まずただじゃ済まんぞぉ~?」
「私はまたやってしまったか……」
途端に胃の辺りがズッシリと重くなるまほであった。
「逸見隊長♡お手伝いに来ました~♪」
「う゛…ラブ先輩……」
頭のてっぺんから突き抜けるようなハイテンションな声と共に現れたラブに、丁度弾薬庫を開錠し扉を開いていたエリカもまほと同じように口元を引き攣らせていた。
「さすが黒森峰ね、保有車両数が多いから弾薬庫もハンパないわね~。あ、ペイント弾はウチと同じタイプじゃない」
「…笠女学園艦でお世話になった時に使用して、扱い易かったのであの後早速導入しました……」
弾薬庫内に整然と並ぶペイント弾を見たラブは、その中にあって一際目立つヤークトティーガーとマウスが使用する128㎜弾に目を止めると美しいエメラルドの瞳に、世にも凶悪で物騒な光を燈らせ口角を吊り上げ微笑むのだった。
もし前に立つエリカが振り向きその笑みを見ていたら、恐らくは確実に卒倒していただろう。
「それじゃあ搬出は一年生がやるので、その前に私と搬出分のチェックをやって頂けますか?」
「私も一年生なんだけど……」
「……」
それを聞いた瞬間エリカが胃の痛そうな顔をしたので、ラブもチョロっと舌を出しエリカからリストを束ねたクリップボードを受け取りチェックの手伝いを始めた。
「エリカさ~ん、小梅さんが一年生は全員揃ったって~」
「コラ~、エリカさんじゃなくて隊長でしょ~?小梅さんも副隊長って呼ばなきゃダメじゃない」
「って、アレ?何でラブお姉ちゃんがここに?」
エリカを追って寮の食堂を飛び出したみほも、一応はエリカを手伝っていたらしい。
隊長となって早々に小さな積み重ねの気苦労を感じつつも、彼女はまほ発案のペイント弾戦の準備を淡々と進めて行くのだった。
「はぁ~、やっぱスゲぇ保有数だわ……」
嘗て隊長時代の西住しほが車長として搭乗し、ベルターのパーソナルネームを与えられたティーガーⅠ 123号車。その砲塔上に立ち、ズラリと並べられた戦車群を感心半分呆れ半分で眺めていたアンチョビは、これからそこに並ぶ戦車全てが撃ち合う事が何かの冗談のように思えてならなかった。
「サンダースと黒森峰が双璧かしらね?一番数が少ないのはウチで間違いないんだろ~な~」
「あぁ……でも来年度にはパンターが入って来るんだろ?」
たった5両のⅢ号J型のみでやり繰りしているラブが遠い目で黒森峰の戦車群を見ながら何処か達観したような物言いをするので、アンチョビも以前彼女が言っていた事を思い出し聞いてみたが、聞かれたラブは途端に鬱の入った顔になった。
「戦車の方はボチボチなんだけどね、ここに来て人材確保の方に問題が出て来たわ……」
「は?そりゃあ一体どういう事だ?」
「ええとねぇ…来年度からは笠女も一般受験生を受け入れる訳なんだけどさ、まぁAP-Girlsが目立ってるんで願書の方も凄い数来てて、私達の芸能科だけでも倍率は恐ろしい数字になると思うのよ。ただ、問題なのは一応推薦枠って形になってるスカウトで集める人材なのよね。予想はしていたけどやっぱり今年は厳しいわ……今のAP-Girlsメンバーが飛び抜けた逸材だっていうのは認めるけど、来年新一年生を育成して全国大会までにあのレベルってのは絶対無理。計画を見直して一部軌道修正もやむなしかなぁ?……多分例年以上に人材が分散してるはずよ、これも大洗効果なのかしら?」
景気の悪い顔でラブが語った笠女の内情は、アンチョビにもある程度は想像が付いていた。
恐らくは彼女達がスカウトされた段階からラブが何某かのカリキュラムを与え、それぞれが笠女進学前から厳島流の教育を受け始めていたであろうとアンチョビは推測している。
しかしそれでも春から冬までの間にああも化物じみた成長をする事はまず普通では考えられず、彼女達が元々持っていた資質が如何に突出したものであるかが窺い知れた。
と、ここまで考察した処でアンチョビは、
「お、おいラブ…まさかスカウトの選考基準に……まさかとは思うが、その…お、大きさが関係して来るんじゃないだろうな……?」
妙にたどたどしく喋るアンチョビの視線に気付きそれを辿ったラブは、その終着点が自身のたわわである事を知り、その瞬間彼女が何を言わんとしているか理解した。
「ば、馬鹿ねぇ!そ、そんな事ある訳ないじゃない!そ、それよりもうじき試合開始よ!今日は敵同士だからね!コテンパンにしてやるから覚悟なさい!一年舐めんなぁ!」
泳ぐ視線とそのあからさまな話題転換と態度に、アンチョビは笠女の入学の選考基準にたわわのサイズも関係がある事を確信した。
『やっぱり関係あるのか…なら私にはどう頑張っても無理な話だな……』
自分の胸に目を落とし小さく溜め息を吐いたアンチョビだが、相変わらず自分の可愛さとか年齢や身長を考えれば充分スタイルが良い事とかには無頓着で、もし彼女が笠女に入学したいなどと言えば一も二もなくラブが特待生として入学させてしまうだろう事には想像も及んでいなかった。
「よっしゃあ!三年生をぶっ潰すぞぉ!」
『Jawohl!!』
「一、二年生舐めんなぁ!」
『舐めんなぁ!』
一、二年連合の総大将であるエリカを差し置いてのラブのアジ演説に、スタート地点である陣地に集結している一、二年生の隊員達はすっかり変な方向でテンションを上げている。
しかし総大将であるエリカもラブとはそれなり長く付き合いがあり、その強烈に過ぎるキャラクターを熟知しているのでそれに対して何も言わなかった。
何より言っても疲れるだけで無駄だし、後の展開を考えればイヤでもライフを削られることになるので、今は少しでも体力を温存しておきたいというのが本音だろう。
「それでは
そんなエリカの心情を見透かしたように、期待で顔をテカテカさせたラブが早速エリカのライフをざっくりと削りに来て、エリカはそのまま寮に帰りたくなっていた。
『何でこの
既に死にそうな目のエリカの前で、とうとうラブはドゥーチェ・コールのノリでエリカ・コールを始めてしまい、それに真っ先に乗ったみほが先陣を切って拳を突き上げコールしていた。
「みほ……」
それに続く狂乱のエリカ・コールに彼女は目の前が真っ暗になっていた。
本当に今日はもう帰ってしまおうかと思ったその時、無情の試合開始を告げる信号弾が上がり、コールと共に期待の籠った視線がエリカに集中した。
「みほ…帰ったらマジでしばく……全くもう……えぇい、どうにでもなれ!Panzer vor!」
『Jawohl!』
短期決戦で何試合も行う事を想定して互いの距離を短めに設定していたので、風に乗ってエリカ・コールはまほ達の耳にも届いていた。
「なんか…向こうはえらく盛り上がってるな……」
はっきりと何を言っているかまでは聞き取れぬが何やら大声で連呼しているのは解るので、そのハイテンションぶりは伝わっているらしく、まほも反応に困った顔をしている。
「とにかく会敵してみない事には何がどうなってるかは解らんな。取り敢えず指示出せよ、何戦やるか解らんがのんびりしてるとラブに好き放題やられるぞ?何しろこっちにマウスとエレファントが来てるとはいえ、ヤークトティーガーとヤークトパンターはあっちに行ってるんだからな。普段は厳島には不要とか言ってるけど、こういう時は嬉々としてヤク虎使って来るに決まってるからな」
「あぁ…そうだな……」
まほもアンチョビも嫌になる程ラブの性格は解っているので、彼女が何かおっぱじめる前に動くよう促されたまほは、ラブを一年生として扱った事を後悔し始めていた。
そして始まった一回戦、接敵するなりセオリー無視の一斉突撃を仕掛けるエリカの部隊をまほが力技でねじ伏せるうちに、まんまと抜けだしたLove Gunが陣地を占領し一、二年連合が先勝した。
「お前セコイぞっ!」
陣地に立ててあった旗を靡かせ戻って来たラブにまほが思わず怒鳴り声を上げたが、挑発するように小悪魔の笑みでそれに応えたラブはすれ違いざまに引っこ抜いて来た旗を投げて寄こした。
仏頂面でそれをキャッチしたまほは、そのまま陣地替えをする為止まる事なく通り過ぎた。
そして陣地を入れ替え始まった二回戦、早々にヤク虎に跨ったラブが戦場を支配する厳島の女王の顔で現れる。三年生チームは涙目でそれに立ち向かったが、そちらに気を取られているうちに小梅の指揮で抜け出したLove Gunにまたしても旗を奪われ連敗を喫した。
「オイにしずみぃ、いくらお遊びでもこのままじゃ示しが付かんぞぉ?」
一、二年生にやられたというより案の定その背後でエリカ達を躍らせるのではなく、自ら好き放題踊り回るラブに苛立たしげな様子のアンチョビがベルターの車上で渋い顔をしている。
「アイツこういうお遊びは
再び入れ替わった陣地で次の信号弾待ちの合間に、ラブを如何に封じ込めるかまほとアンチョビは策を講じていた。
「西住……私にⅡ号を貸せ、ラブのヤツはどうせまた調子に乗ってヤク虎で来るに決まってるからな、私がⅡ号でその裏をかいてやる」
「任せる…私にはお前達の仕手戦みたいな駆け引きには付いて行けないよ……」
中学時代の二人が散々繰り返して来た展開を思い出し、まほは心底面倒そうな顔をしている。
そして信号弾が上がり始まった三回戦、アンチョビの予想通りヤークトティーガーの128㎜を無闇矢鱈とぶっ放しながら現れたラブに、ギリギリまでまほのティーガーⅠの陰に隠れていたⅡ号戦車でアンチョビが襲い掛かり、側面を一気に駆け抜けながら機関砲でペイント弾を叩き込んで行った。
「にゃ!?千代美!?ひきょうもの~!」
「オマエがいうな──っ!」
怒鳴り返したアンチョビはそのまま一、二年連合の隊列を突破して旗の奪取に成功した。
その後もお昼までに三戦消化し、ここまでのスコアは三勝三敗の五分で昼休みを迎えたのだった。
「全くオマエというヤツは……だがあれだけ重戦車を使いこなせるなら厳島流でも使えばいいじゃないか、あればあったで困るものでもないだろうに」
演習場に出前されたランチをパクつきながら結局最後の一戦で星を五分にされ、午後も乱戦になる事を想定していたアンチョビが、午前中ヤク虎で猛威を振るったラブに言った。
しかしそれに関してラブは即座にゆっくりと首を左右に振りながら否定する。
「確かに大火力は魅力だけどね、やっぱり厳島流の戦闘スタイルには不向きよ。そもそもが身内のみの少数精鋭の高速機動戦闘に特化した流派だもの、足の遅さは致命傷にしかならないわ」
「う~ん…ある意味西住流以上に徹底してるよなぁ……でも厳島流が掲げる
何度失敗しても信念を曲げず決して諦めない事を表す百折不撓という短い言葉を、唯一絶対の流派の是として掲げる厳島流にしては矛盾を感じる部分でありアンチョビはその事を追及してみた。
「少数派の厳島流に持久戦は不向きよ、千代美だって解ってるでしょ?だから千代美とやり合う時はいつも私ボロボロだったじゃない、アナタだけよ?私をあそこまで翻弄したのって……」
「だから意味有り気なセリフをそういう顔して言うんじゃない」
隙あらば思わせ振りなセリフを並べ言葉遊びを始めるラブに、能面のような顔と抑揚の欠けた声で突き放すようにアンチョビが答えるが、ラブも全く懲りた素振りは見せない。
「ま、大義名分は措いといてさ、重戦車じゃ戦ってて優雅さとか華麗さに欠けるのよね~」
「やっぱり本音はソコか……」
周囲を囲む者達は唖然としているが、どうやらアンチョビはラブが厳島の訓えだけではなく、自分の美学に則り戦車に乗っている事に気が付いていたようだ。
「なによ~?とっても大事な事よ~?」
「そんなこったろうと思ったよ、お前昔からフィニッシュブローを決める時とかは明らかに意識して派手に決めに行ってたからな」
「そんな事ないわよ~、私いつだって美しく戦ってるわよ?みんなもそう思わない?」
可愛らしく笑いながら堂々と言い切ったラブに、ランチを食べる手を止め成り行きを見守っていた者達は返答に困り再び手を動かし始めたが、アンチョビだけは懐疑の目を向けていた。
『本当かぁ?エグい手ガンガンぶっ込むクセに……』
「なによ~?」
スルーと無遠慮に刺さる視線に不満げに頬を膨らますラブをよそに、アンチョビは再び口にこそ出さぬがそのラブらしい行動について彼女なりに心の中で思った事を呟いていた。
『まぁコイツの飛び抜けた実力ならそれも許されるか……』
実際、彼女が試合中に手を抜く事は一切無く、常に全力で戦い、成果もあげているのは承知しているので、その美学に関して異論は無い。ラブが戦う姿は美しく、それだけ彼女に華があるという事だろうとアンチョビは考え、自分を納得させていた。
「さて、午後もこのまま試合を続けるとして、問題は車両の入れ替えをどうするかだな……」
「でっかいのだけ入れ替えればいいんじゃない?」
ランチを食べ終えコーヒーで一息ついたまほが思案顔で言った事に、ラブは至ってシンプルな答えを提示してまほもそれもそうかとあっさりと頷いた。
「しかしこの水溶性のペイント弾は扱いが楽でいいな、前のアクリル系のやつは乾けば剥がせたけど結構力技になるから大変だったよな」
「アレ下手すると下の塗装ごと剥がれるんだよな、いっぺん校章ごと剥がれた事があってあの時は全員口あんぐりで言葉を失ってたよ」
「あ~それは戦車道あるあるよね~」
「まあ
「そうそう、黒森峰も今格納庫の脇に設置する工事中なんだよ」
「あら?あの工事はそういう事だったの」
「あぁ、それが出来るまではメーカーが貸してくれた高圧洗浄機で洗うんだが、台数はあっても今日はさすがに洗うの大変だぞ?」
「それ先に言ってよね~」
食後のコーヒーを啜りながら如何にも隊長な会話を次々と繰り広げる三人の姿に、エリカも思わずクスクスと笑ってしまう。
「何だエリカ?何が可笑しい?」
何が可笑しいのか不思議そうな顔をしたまほが問うと、エリカは更に可笑しそうにクスクスと笑い中々まほの問いに答えようとしない。
「どうしたんだ?」
「さあ?」
アンチョビとラブが顔を見合わせ小首を傾げた頃になって、やっとエリカも口を開いた。
「いえ…折角
「エリカ!?」
そして再びクスクスし出したエリカに言われた事に、三人揃って恥かしそうに頬が赤くなった。
「でももうそれは今に始まった事じゃないし
尚も面白そうに言うエリカに、三人は揃って一言も反論出来ない。
「あぁ、
「エ、エリカさん!?」
三人プラスみほの反応に、彼女にしては珍しく実に愉快そうにケラケラと笑っている。
そして最後はエリカの独壇場で終わってしまった昼休み明けの一戦目。
「私もさすがにコレだけは乗った事がなかったのよね~♪」
好奇心丸出しなラブがマウスの車長とハイタッチで入れ替わり、マウスの車長席に収まった。
「おぉ…私でも余裕で乗り降りできるわ……みんな~宜しくね~♪」
『やぼ~るラブ姉♪』
一気にテンションが上がったマウスの搭乗員達が揃ってそれに応じる。
また、レプリカとはいえ憧れのLove Gunに搭乗したマウスの車長もウッキウキな様子だった。
しかしその一方で、ラブが搭乗した途端に禍々しい妖気を発し始めたマウスに、エリカは何とも形容し難い視線を送っていた。
「さすがに味方だとしてもアレはないわ……」
「うえぇ……」
砲塔上に登り軍神立ちを決めるラブの姿に、みほはちびりそうな顔で青くなった。
「さ~て、それじゃちょっぴり本気で行ってみようかね~♪」
車長席に戻るなりそう言ったラブの顔から表情が消え失せる。
「…砲塔を左に2度振って……」
『魔女の口付けキタ────ッ!』
抑揚に欠けるラブの声を聞いた瞬間、マウスの搭乗員達は興奮と緊張感に包まれた。
「いいわ…少し砲を下げるわよ──」
試合開始を告げる信号弾待ちの段階で旋回し始めたマウスの砲塔に、それが何を意味するか十二分に理解しているエリカとみほの顔から血の気が引く。
「ちょ!いきなり!?」
マウスによるラブの予測射撃がこの場面で狙う相手の心当たりは一人しかおらず、エリカは心の中でそっと静かに十字を切りながら念仏を唱えた。
『ナンマンダブまほ姉…ご愁傷様……』
そうしながらもエリカはつい考えてしまう。
これがもし実弾を使う実戦であったなら?
そしてそれが全国大会の決勝であったとしたら?
『秒殺で終わる全国大会の決勝戦……』
この時エリカは厳島流が超重戦車を運用しない流派で良かったと、心の底から思ったのであった。
そこまでエリカが考えた処で上がった信号弾と、それと共に空気を震わす128㎜の砲声。
戦車道の試合としては至近距離のスタート地点故、タイムラグも殆どなくまほのビットマンにペイント弾が襲い掛かるのとほぼ同時にその砲声は彼女に耳にも届いていた。
「ぐはっ!?」
「な、何事!?」
「アレに決まってるじゃない!」
「いきなりかよ~!?」
ダイレクトヒットで砲塔にペイント弾を撃ち込まれ、油断していた訳ではないが車内に逃げ込むのが遅れたまほは、盛大にぶちまけられた塗料を浴びてしまった。
「
ビットマンのすぐ隣にベルターを止めていたアンチョビも、少なからず飛沫を浴びていた。
過去最悪のラブのノックに、両軍の隊員達が顔色を失っている。
「この雰囲気…まほ姉直撃喰らったわね……」
「うん……」
どうにか言葉を絞り出したエリカだが、青ざめたみほの返事も弱々しい。
そしてその衝撃から我に返った者達は敵味方関係なく一斉に叫んでいた。
『それは反則だ!』
悪夢のような事態だが、まだ午後の
ナントカに刃物とはこの事ですねw
しかしエリカが絡むとみほはとことんポンコツにww