ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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長かった第三章も今回が最後となります。

ラブもお風呂回は回避出来たんですけどねぇw


第九十三話   Starting Grid

「…コイツら……」

 

 

 セクシー過ぎるラブの厳島流の制服姿に辛抱堪らん状態になった四匹のケダモノは次々部屋を飛び出したきり中々戻らず、一人で衣服の脱ぎ着が出来ぬラブが途方に暮れてそのまま寝てしまおうかと思った頃になってやっと戻って来たのだった。

 そして揃って部屋を出た時以上に息を切らして頬を上気させ、着衣は微妙に着崩れて髪も同様に跳ねたり解れたりしていた。

 

 

「す、済まない…すっかり待たせてしまったな……」

 

 

 ジトッとしたラブの視線に耐えかねたアンチョビが謝罪の言葉を口にしたが、ラブはそれには答えず制服を突き上げるたわわに両手を添えると努めて穏やかな口調で言うのだった。

 

 

「私出来ればもうこの制服を脱ぎたいんだけど……」

 

「あ…そ、そうか……そうだよな!」

 

 

 アンチョビは慌てて疲れた様子のラブの介助をしながら厳島流の制服を脱がせ、皺にならぬよう丁寧にハンガーに掛けるとそれを壁際のフックに下げた。

 その後は就寝にそなえてパジャマを着せてやると、ポニーを解き緩い三つ編みに編んでやり寝ている間に解けぬようリボンで結んでやった。

 

 

「ありがと……」

 

 

 編み込んで貰った長い三つ編みを肩から前に垂らすと、ラブは礼を言って自分のベッドに腰を下ろし一息吐いて室内を見回せば、皆も寝る為に着替え始めていた。

 

 

「…今度は私が編んであげる……」

 

 

 アンチョビが着替え終わるのを待っていたラブは、彼女を椅子に座らせるとツインテを束ねるリボンを解き始めようとしたが、最初に左のリボンに手を掛けた処でぼそりと呟いた。

 

 

「何でかしら?リボンの結び目が随分と崩れてるわ……」

 

 

 その呟きでアンチョビだけではなく他の三人の心拍も跳ね上がり、揃って冷や汗を掻いていた。

 

 

「そ…そうかぁ?にゅ、入浴後にちゃんと結べてなかったかなぁ……?」

 

「そうかもね……」

 

『く、黒森峰の風紀委員(Gestapo)の尋問より怖ぇぇぇ──っ!』

 

 

 アンチョビの背後に立ち両肩にそっと手を置いて実に優しくアンチョビに接するラブであったが、その表情は魔女の口付けと名付けられた超長距離予測射撃を行なう時のそれであり、その甘いハスキーボイスと裏腹な無表情に全員胆が冷える思いだ。

 特に黒森峰風紀委員(Gestapo)の恐ろしさをよく知るだけにまほとエリカとみほの三人は、それを上回る美しくも底冷えするような恐ろしい光景に震え上がっていた。

 

 

「…全く……いつまでそうやって固まってるつもり?ホントにもう……自分達ばっかりパートナーと楽しんで雌の匂いぷんぷんで帰って来て実にいい御身分よね~」

 

 

 突然口調を変えたラブに露骨な表現で指摘され震えあがっていた三人は激しく咳き込み、アンチョビは椅子の上でバランスを崩して後ろに倒れ込みラブのたわわの谷間に埋まっていた。

 

 

「さ、出来たわよ?」

 

「その…ゴメンナサイ……」

 

 

 ラブの制服姿にムラムラした堪え性のない四匹のケダモノは、わざとらしく部屋を出てそれぞれのパートナーと荒ぶった内なるケダモノを開放すべく格闘戦を演じた結果、それをネタにラブにチクリと痛い処を突かれていた。

 

 

「まぁいいわ、アンタ達のケダモノは今に始まった事じゃないし……」

 

『……』

 

 

 全てを悟ったように言われたケダモノ達は、全員真っ赤な顔で小っちゃくなった。

 

 

「それよりもう寝ましょ、私は明日東京まで飛ばなきゃいけないんだから」

 

 

 さすがに疲れた様子のラブが首を左右に振り子のように振りながらそう主張すると、まほが独り何やら呟きながら考え込んでいる。

 

 

「どうした西住?」

 

 

 そのおかしな様子にアンチョビがまほの顔を覗き込むと、それまでブツブツと呟いていたまほが顔を上げて妙な事を言い始めた。

 

 

「なあ、今夜はみんなで一緒に寝ないか?」

 

「は?」

 

 

 まほの唐突な提案にアンチョビの思考回路が固まる。

 

 

「お姉ちゃん何を言っているの?毎晩みんなで寝てたじゃない」

 

 

 さすがにみほも姉であるまほが何を言っているか理解出来ず、呆れた顔をしている。

 

 

「いや、だからホラ、映画とかであるじゃないか…みんなで集まってしゃべったり雑魚寝っていうのか?何て云うのかな……ホラ、あれだよ~」

 

「雑魚寝って西住オマエな……」

 

「あ~、もしかしてまほ姉はパジャマパーティーの事を言ってるんですか?ご実家に泊めて頂いた時みたいにしたいって事ですか?」

 

「そう!それだよ!」

 

 

 どうにも要領を得ない話だったが、思い当った事をエリカが確認するように聞いてみると、それまで自分の考えが思うように伝わらずじれったそうにしていたまほが、やっと解って貰えたとばかりにその顔に満面の笑みを浮かべ首を上下に何度も振っていた。

 

 

「子供ですか……?大体この部屋でどうやってみんなで一緒に寝る気なんです?」

 

「それは……」

 

 

 そんな事だろうとは思ったが敢えて質問してみれば、案の定具体的なプランはないようだ。

 

 

「しょうがない人だなぁ……みほ、アナタ物置とリネン室の場所解るわね?」

 

「え?あぁうん……覚えてるけど?」

 

「なら物置にある新しいブルーシートとリネン室からシーツと毛布を5,6枚づつ取って来てくれる?嵩が張るからリネン室のカゴカート使って構わないから」

 

「う、うん……でもなんで?」

 

「遅くなるから説明は後よ」

 

「私も一緒に行こうか?」

 

 

 運ぶ量を考えてアンチョビがそう申し出ると、エリカもお願いしますといった風に頷いた。

 

 

「じゃ~私も行く~♪」

 

 

 そう言いながら右手を上げたラブにエリカは苦笑して、お願いしますとアンチョビに向かって目で合図を送ると彼女も仕方ないと肩を竦め三人揃って部屋を出て行った。

 

 

「それでエリカ、私は何をすれば……?」

 

「まほ姉には私と一緒に力仕事をして貰いますよ」

 

「力仕事?」

 

 

 物置とリネン室を回りエリカに指示された物をカゴカートに乗せ三人が部屋に戻ると、自分達が使っていたスチール製の二段ベッドが移動させられ部屋の真ん中に空間が出来ていた。

 

 

「うわ!凄いな、一体どうやったんだ?」

 

「単純に力技ですよ」

 

 

 軽く手を叩きながら答えたエリカは、早速カートからブルーシートを取り出し始めた。

 

 

「さあ広げるのをみんな手伝って」

 

 

 エリカに言われ少し戸惑いながら、広げたブルーシートを協力しながら床に敷いた。

 

 

「そしたら今度はベッドのマットレスをこの上に並べましょう」

 

「成る程そういう事かぁ」

 

 

 アンチョビはエリカの目論みを察したらしく、さっさとマットレスを降ろす準備を始めた。

 

 

「ホラ、皆も早く手伝え!床に並べてでっかいベッドを作るんだよ!」

 

「あ……あぁ、成る程ね~」

 

 

 ラブが納得したと声を上げると皆も同じらしく、総出でマットレスをベッドから運び出してブルーシートの上に並べ、更にその上にシーツを重ねて広げ更に毛布を敷き詰めればあっと言う間に即席の巨大ベッドが完成した。

 

 

「うん、これなら大丈夫そうね」

 

 

 念の為上に乗ってみたエリカがその感触を確かめ満足そうに頷いた。

 

 

「まほ姉出来ましたよ、こんな感じで如何ですか?」

 

 

 聞かれたまほはどうかと見れば、顔をパ~っと輝かせたと思うと勢い良くエリカの隣にダイブして、その反動でエリカは横に転がってしまった。

 

 

「子供ですかっ!?ったくもう……さ、みんなもういいですよ」

 

 

 エリカに促されそれぞれ自分の枕や毛布などを運ぶと、即席巨大ベッドの上に思い思いに寝そべってその寝心地を確かめている。

 

 

「どうなるかと思ったけど大丈夫そうね」

 

「最初は何を言い出すかと思ったがまぁこれなら……」

 

「お姉ちゃん……ラブお姉ちゃんのベッドでもいつもそれやってたよね?」

 

「何よそれ?」

 

 

 自分もスペースを確保して寝床を作っていたエリカは、まほの想い出話らしい事がみほの口から零れたのを聞き逃さず興味深げな顔をした。

 

 

「あっと…え~っと……いいかな?」

 

 

 みほは当事者の姉ではなくラブに許可を求めるような顔を向けると、ラブも別に何を言っても構わないという風に軽く肩を竦めるだけだった。

 

 

「ほら、エリカさんも知ってる横須賀のお城……」

 

「え?あぁ、ラブ先輩のご実家ね……それで?」

 

「うん、ラブお姉ちゃんの部屋のベッドが屋根付きで大きくてね……それで子供の頃横須賀に行く度に、お姉ちゃんは今みたいにベッドに飛び込んでたんだよ」

 

「屋根…天蓋の事ね……」

 

 

 以前であれば想像も付かなかったであろうが、最近のまほの様子を見ているとそんな姿も容易に想像する事が出来るようになっていてエリカも思わず吹き出した。

 

 

「お、おいみほ!」

 

 

 またしてもみほに過去を晒されまほは恥しそうに抗議したが、それは一層笑いを誘うだけだった。

 

 

「そう云えば熊本に来る直前にどうしても帰らなきゃいけない用があって、私だけ……愛が付いて来ちゃったけど実家に帰った時久し振りで自分の部屋で寝たわ」

 

 

 愛の名を聞き時系列から考えたエリカは、そこで改めて何処が愛の変化の分岐点であったかに気付き意味有り気な視線をラブに向けてにっこりと微笑むのだった。

 

 

「え?なに?エリカさんどうかした?」

 

「横須賀のご実家ですか?」

 

「うん、そう……」

 

「愛も一緒に?」

 

「うん……」

 

「成る程そういう事でしたか」

 

「う゛……」

 

 

 実に嬉しそうに微笑むエリカと、その意味を理解したラブの頬がぽっと赤くなった。

 

 

「ラブ先輩?」

 

「ん……?」

 

「幸せですか?」

 

「……!…うん……♡」

 

 

 意味深な会話と耳まで赤くなったラブの様子に意味が解らぬ三人は、キョロキョロとラブとエリカの顔を交互に見比べたりしているが、ポンコツ(西住)姉妹は措いといて、エリカはアンチョビにだけ解るように唇だけ動かし『詳しくはまた後で』と伝えると、彼女もおぼろげな推測しか出来ていないがアンツィオ戦から黒森峰戦の間の事がずっと気になっていただけに、了解とばかりに小さく首を上下にコクコクさせていた。

 

 

「ナニ?なんの話?」

 

「お子ちゃまには関係ない♪」

 

「痛い!」

 

 

 エリカは匍匐前進で首を突っ込んで来たみほのおでこに、良い音をさせてでこピンを決めた。

 

 

「いやあ、アンタのデコいい音するわねぇ♪」

 

「ふえぇ…酷いよエリカさん……」

 

 

 おでこを抑えて涙目で抗議するみほの様子に、エリカが実に楽しげに笑う。

 

 

「これだよ!こういうのがやりたかったんだよ!」

 

「うわっ!?」

 

 

 突然ガバっと起き上がったまほが拳を握りしめて力説し始めたのに驚いたアンチョビが、腹這いで枕に顎を乗せた体勢から勢い余って横にころんと転がって仰向けになってしまった。

 

 

「に~し~ず~みぃ~」

 

「あ…ごめん……」

 

憑き物(隊長)が落ちるってこういう事かしら……?」

 

「あははははは……」

 

 

 呆れたようなラブの突っ込みに、エリカも力なく笑う。

 

 

「オマエの人生ここまでどういう過ごし方してきたんだよ……?」

 

「アンチョビさん…それお姉ちゃんに聞きますか……?」

 

 

 自分でも愚問であるのは解っていたがそれでも目の前の戦車道馬鹿に、アンチョビもそう突っ込まずにはいられなかった。

 

 

「まぁねぇ、まほもずっとお姉ちゃんで隊長さんだったもんね~」

 

「お前だってずっと隊長だったじゃないか」

 

 

 ラブにほっぺをツンツンされたまほが照れ隠しのように語気を強めたが、そんな程度の事でラブを抑える事は出来ずクスクスと笑いながらまほのほっぺを弄り続けていた。

 

 

「あれ?そう言えばラブよ、お前熊本で暮らした後アメリカへ渡ったんだよな?」

 

「そーよ、それがどうかした?」

 

「そのなんだ……アメリカにいた間戦車道はどうしてたんだ?」

 

 

 アンチョビの思いがけない質問にラブもキョトンとした顔になり、まほとみほもラブのアメリカ時代の事を殆ど知らない事に気付きハッとした表情になった。

 

 

「あら?言ってなかったかしら……?」

 

 

 その場にいる全員が、改めてラブの生い立ちは謎が多い事に気付き室内を沈黙が支配した。

 ラブが口をつぐんでしまった一同に視線を巡らせると、全員が彼女の質問に無言で頷き肯定する。

 

 

「そりゃ勿論乗ってたわよ~、生活が落ち着いてからLove Gunも船便で送って貰ってね、時間がある時は亜梨亜ママと一緒に乗ってたわ。ただ同じ年頃の子達とは試合は中々出来なかったわね……その代り現地の社員の人達が作ってたクラブチーム相手によく戦ってたわ」

 

「Love Gunまで……」

 

 

 簡単に戦車まで引越しさせてしまう厳島の財力と、それを何とも思っていないような感覚にアンチョビも暫し絶句したが、厳島のクラブチームというキーワードが頭の中で引っ掛かった。

 

 

「ちょっと待ってくれ……今会社のクラブチームと言ったか?厳島流は身内だけで継承してる流派じゃなかったのか?」

 

「だから()()()()()()()()()って言ったじゃない。うちの会社も何だかんだで戦車道経験者が多いから福利厚生の一環で社員のクラブチームに戦車と練習場を用意してたのよ。社員の国籍も多様化してるから色んな国の流派の人がいて面白かったわ」

 

「そういう事か……でも小学生、それも低学年の子供が大人相手に戦車道ってのはどうなんだ?」

 

「バカねぇ、そんなの練習の合間に遊び相手になってくれたのに決まってるじゃないよ~」

 

「額面通りに受け取っていいのかなぁ……」

 

 

 ラブは笑いながら謙遜ではなく本気で言っていたようだが、後日当時を一番よく知る亜梨亜から聞いた話では、練習の度に違う社員をLove Gunに乗せながらも単騎駆けで暴れ回り、クラブチームを手玉に取り軽く捻っていたらしく、それを聞いた者達は小学校低学年のリアルロリ巨乳のラブが、Love Gunを駆って大人相手に大立ち回りを演じる姿を想像してムラムラしながら青くなったそうだ。

 

 

「あ、そうだ……」

 

「どうしたのエリカさん?」

 

 

 エリカが自室から持ち込んだノートPCを通学にも使っている校名入りのショルダーバッグから引っ張り出し始め、ネットに繋ぐと何やら調べ始めた。

 

 

「隊長さんで思い出したわ、他の学校の人事がどうなってるかと思ってね…あ……」

 

 

 手始めに聖グロのHPにアクセスしたエリカは、話の途中でいきなり言葉に詰まった。

 

 

「どうしたエリカ?」

 

 

 エリカと一緒にみほも固まっているのを見たまほが首を伸ばしていると、エリカが無言でノートPCをまほ達の方にくるりと向きを変えて見せた。

 

 

「こ、これは……」

 

「ぷっ!」

 

「千代美ぃ…無理ないって……でも……くっ!」

 

 

 まほとアンチョビとラブが凝視するモニターには恐らく紅茶の園であろう室内で、引き攣った表情で隊長の交代式典に臨むダージリンとルクリリ他、その事態が信じられぬといった感じで雁首揃えた写真がトップページのトピックスに掲載されていた。

 

 

「ちょっと失礼……」

 

 

 脇から手を伸ばしたエリカが今度はサンダースのホームページにアクセスすると、開いた瞬間トップページの写真が目に飛び込んで来てどうにか耐えていた三人の腹筋が崩壊した。

 

 

「だからいきなり笑わすな~!」

 

 

 辛うじてそう叫んだアンチョビもその後はずっと笑っている。

 引き攣った顔で隊旗の引き継ぎをするケイとアリサの背後に立ち、必死に仏頂面をするナオミの顔が面白過ぎたのだ。

 

 

「あの…プラウダも見ますか……?」

 

「…頼む……」

 

 

 爆発的な笑いが収束した処でエリカが遠慮がちに尋ねると、まほが腹筋をヒクヒクさせながら答えたが、エリカがプラウダのホームページを開いた瞬間三人の腹筋は止めを刺された。

 

 

「こんな時まで肩車するかぁ~!」

 

「ノンナぁ!顔ぉ!」

 

「これホントにノンナかぁ!?」

 

 

 死ぬほど笑った三人の呼吸が漸く落ち着くと、今度は揃って隊長の顔になり出揃った強豪の新体制について意見を交し始めた。

 

 

「事前に解ってた事ではあるがこうして出揃うと何処も堅実な人選って感じだな……」

 

「まだこれからだがアンツィオ(ウチ)は堅実とは言えんか…別に強豪でもないしな……」

 

「あら?ぺパロニさんは間違いなく優秀な隊長さんになるわ」

 

「まぁアレも下からは慕われてはいるけどなぁ……」

 

「それは隊長としてとても大事な事よ?」

 

 

 エリカやみほにとってはいよいよ自分達が中心となる学年であり皆ライバルとなる訳だが、大洗の廃校騒動以降各校の繋がりが強くなり、そこにラブと言う存在が加わってからは以前ほど互いの関係はギスギスしたものではなくなっていた。

 それでも戦うとなれば誰もが全力で戦うだろうしそれが何よりの楽しみであったが、そこでパジャマパーティーでガールズトークをするはずが、結局はガールズ戦車トークになっている事に気付いたエリカは、このメンツではやっぱり只のガールズトークは無理な相談なのかと思うと可笑しくてクスクスと笑い出していた。

 

 

「あらどうしたのエリカさん?」

 

「いえ、結局戦車トークになってるのが可笑しくて……」

 

「あ……」

 

「まあこの顔ぶれですからね……」

 

 

 これにはエリカ本人も含め、全員が恥かしそうに顔を見合わせてはクスクスと笑っていた。

 そしてここでエリカは突然人の悪い笑みを浮かべると、先程みほをお子ちゃま扱いして一旦流した話題を敢えてもう一度引っ張り出す事にした。

 

 

「エリカさん?」

 

 

 ムクリと起き上がったエリカをみほが不思議そうに見ている前で彼女は這って移動すると、そのままゴソゴソとラブの毛布の中に潜り込み、ピッタリとラブに密着した。

 

 

「エ、エリカしゃん!?」

 

 

 アワアワするみほを余所にエリカはラブの隣で肘を突いて両の掌に顎を乗せると、腹這いで枕に顎を乗せているラブの肩に寄り掛かるように顔を傾けた。

 

 

「あら?エリカさん、やっと私の気持ちを解って貰えたのね♡とても嬉しいわ♪」

 

 

 みほがアワアワするのが面白くてラブもノリノリでエリカに付き合ったが、彼女もまだエリカの真の狙いには気付いてはいなかった。

 

 

「ねぇ()()()、横須賀の夜の事を詳しく聞かせて欲しいわ♡」

 

「……!」

 

 

 ラブがしまったと思った時にはもう既に遅く、エリカはニッコリと微笑みながら毛布の中でラブのスラリと長い脚に自身の脚を絡めてその動きを封じていたのだった。

 彼女はこのタイミングで今一番旬の話題を放っておく事はないと思い直し、即座に電撃戦を展開するとあっと言う間にラブを攻略し自分の制圧下に置いていたのである。

 そしてこれこそがエリカの隊長就任後、最初の金星かもしれなかった。

 

 

「えっと…え?あの…エリカさん……?」

 

 

 この瞬間にアンチョビもキターっとばかりにクワっと目を見開き腕立ての要領でガバっと上半身を起こして臨戦態勢を取り、エリカもその期待に応えるべく西部戦線の塹壕戦並にこのネタを徹底的に掘って掘って掘りまくった。

 

 

「お、おい…エリカ……?」

 

「まほ姉が望んだ展開にして差し上げますから黙って見てましょうね」

 

「…ハイ……」

 

 

 エリカに諭すように言われたまほは、毛布を被ったまま可愛くその場に正座した。

 

 

「さてラブ姉♪さっさと白状(ゲロ)して楽になろっか?」

 

「ひゃっ!エリカさん!?」

 

 

 エリカはラブの枕に彼女と顔を並べるようにポフっと顎を乗せ毛布の中に右手を滑り込ませると、張りのあるラブのヒップをサワサワと撫で始めラブも脱出不能のトラップに掛かった事を悟った。

 

 

「え、エリカさん…何で……?あっ……!」

 

 

 それでもどうにか脱出路はないかと抵抗を試みようとしたラブだったが、更にキュっと身を寄せたエリカの右手がお尻の総丘から渓谷部へと侵攻作戦を開始し、その大胆さと繊細な指使いにビクッと震えたラブは驚愕の視線をエリカにむけた。

 

 

「今日を逃したら、旬も逃してしまいますからね。それに私も今回は色々頑張ったつもりなので、少しご褒美が欲しくなったんですよ♪」

 

 

 すぅっと目を細めラブのお株を奪うような女狐の微笑を浮かべたエリカは、これまでの度重なるお触りですっかり把握しているラブの敏感なポイント目掛け、精密な()()を繰り返しながら時折耳元にホワっと吐息を吹き掛けつつ尋問を開始した。

 

 

「ねぇラブ姉?短期間であの愛が随分可愛くなりましたけど、アンツィオ戦と黒森峰戦の間…横須賀のお城に帰られたと先程も仰ってましたが、そのお城で一体どんなお伽話があったのか私達にも詳しく聞かせて頂けませんか♡」

 

「そ…それは……ん♡」

 

 

 どうにか言い逃れようとするラブであったが、エリカの苛烈な城攻めを前に抵抗虚しく瞬く間に落城し、洗い浚い白状させられてしまうのであった。

 アンチョビなどは鼻息も荒くメモを取りながらも、エリカの手腕を褒め称えていた。

 

 

「へえ、それで……?」

 

「あ…だから……あん♡」

 

 

 エリカはすっかり骨抜き状態のラブを座らせ自分にしな垂れ掛からせると、繊細な指使いでボディタッチを繰り返しそれがスイッチとなったようにラブは自白させられて行くのだった。

 

 

「うふふ♪成る程、愛されてますねラブ姉♡」

 

「あぁん♡」

 

 

 完全に蕩けエリカの思うままに鳴かされるラブはまるで名器と呼ばれる弦楽器のようで、その艶めかしさに他の三人は時折首の後ろをトントンしながら被り付きで見入っている。

 美人二人の絡みは美しくそしてエロく、見物人は色々と限界に達しつつあった。

 

 

「やっぱりラブ姉は可愛い(ヒト)ですね♡お蔭で素敵なお話がいっぱい聞けましたよ♪」

 

 

 全てを白状させたエリカはラブの耳元でそう囁き、ぽや~っと呆けた状態の彼女の頬にちゅ♡っとわざとらしく音を立ててキスをすると、それを一番身を乗り出してみていたみほが遂に臨界点を超えて鼻息も荒く知波単もかくやという吶喊を敢行した。

 

 

「エ、エリカさんらめぇ!」

 

「ちょ、うわっ!みほ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

 

 みほに飛び掛かられたエリカはさすがにラブとみほの二人は支えきれず、そのまま後ろに倒れ込んでしまい、脱力した状態で彼女に抱き抱えられていたラブも一緒に倒れていた。

 そしてその勢いはラブのたわわを盛大に揺らし、遂には重大事故が発生してしまった。

 ブツッという音と共にラブの肉球柄のパジャマの胸のボタンが弾け飛び、押えを失ったたわわがその弾力で胸元の薄布を押し退けアンチョビとまほの目に4DXで飛び込んだ。

 

 

「う゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛──っ!」

 

「ぱ、ぱんつのあほ──っ!」

 

 

 ラブのパジャマのボタンが弾け飛ぶのと同時に、アンチョビとまほの八九式の装甲並に脆い理性もあっさりと吹き飛び怒涛のバンザイ突撃を敢行するのだった。

 

 

「え……?あ!ちょっとヤメっ!」

 

 

 エリカに頭の芯の方まで蕩けさせられていたラブは、突撃して来たアンチョビとまほに左右のたわわの先っちょをちゅ~ちゅ~されその意識が覚醒した。

 

 

「ち、千代美!まほぉ!?先っちょ……うぅん♡ダメ!ちゅ~ちゅ~ダメぇ!」

 

 

 必死に抗議の声を上げるもそんな事で止まるケダモノではなく、その強い刺激にラブは弓なりに仰け反り爪先まで小刻みに痙攣している。

 

 

「ん…え?今度はなに?ってみほぉ!アンタどこ……いやん♡お、おへそぉ!?」

 

 

 最初に吶喊しその後両側から奇襲を掛けたまほチョビの間に挟まれていたみほは、何をトチ狂ったか乗っかっていたラブのお腹の上で、そのまま顔を押し付け彼女のおへそをちゅ~ちゅ~し始めて、ラブもそのくすぐったさから何とか逃れようと必死だったが三人に圧し掛かられては身動きも取れなかった。

 

 

「ちょっと…アンタ達いい加減に……あん♡えぇ?エリカさん!?」

 

 

 どうにか逃れようともがくラブはその背中に柔らかく彼女を支えるクッションの感触を感じ、それがエリカの鍛え抜かれた弾力性抜群なたわわである事に気が付いた。

 しかしその事に気付いた時には時既に遅く、エリカも再び侵攻を開始しており雁字搦めのラブはなす術もなく制圧されつつあった。

 

 

「あ…らめぇ♡ソコは……あぅん♡」

 

 

 エリカの舌がラブの首筋を這い、ラブの表情がいよいよ本格的に蕩けて行く。

 そしてその艶めかしく輝く唇から零れるハスキーボイスがケダモノ達の更なる燃料となり、欲望は一層激しく燃え上がり最早歯止めなど効くはずもない程盛っていた。

 

 

「や…ちょっ!みほ!パジャマ脱がさ……千代美!アンタ何脱ぎ始めて……まほ!アンタまで!?」

 

 

 圧し掛かっていた三人が身を起こしたと思うと寝巻代わりに着ていたジャージを脱ぎ始め、その隙に脱出しようと思ったが、尚も自分が下敷きにしているエリカに拘束されていてそれも叶わない。

 そしてあれよあれよという間にすっぽんぽんになってしまった三人が、再び半脱ぎ状態で一旦放置されたラブのパジャマを本格的に脱がしに掛かって来た。

 

 

「もう!アンタ達いい加減にし…あ、目が逝ってる……」

 

 

 三人の色に濁った眼を見たラブが絶望的な声を出すと、それまで彼女を拘束していたエリカの力が緩みそっと優しく抱き起こすと、思わずラブも一縷の望みと共に振り向いた。

 

 

「エリカさん…あ……これ、あかんヤツや……」

 

 

 振り向いた彼女の直ぐ目の前には悪の黒森峰の新隊長の顔があり、今度こそラブは目の前が本当に真っ暗になり完全に詰んでいる事を理解した。

 

 

「終わった……」

 

 

 歌舞伎の引き抜きのような早業で一糸纏わぬ姿になったエリカも加わり、すっぽんぽんの美少女四人に速攻でひん剥かれたラブはされるがままに敗戦必至の機甲戦に突入して行った。

 

 

「あ~ん、折角お風呂回乗り切ったのにぃ…あ、ソコは……先っちょホントやめ……ん♡」

 

 

 一人押し退けても次々と責められて徐々にラブの抵抗力は低下して、最早残弾もゼロに近い。

 セントラルヒーティングの効いた室内は、暖められた空気以上に彼女達が発散する熱気と狂気で咽返るようなピンクの空気に染まっている。

 

 

「ぱんつのあほ──っ!」

 

「それはさっき聞いた!」

 

「やってやる──」

 

「ボコは止めて!」

 

「アンツィオ・エクスプレス!」

 

「千代美!アンタ意味解って言ってんの!?」

 

「ラブ姉……Go for it♡(やっちまえ)

 

「ぐ…エリカさん……」

 

 

 こうしてラブはその抵抗を最後に四匹のケダモノのピンクの欲に飲み込まれて行った。

 

 

「いや…お願い……そ、ソコはダメ……コリコリもちゅ~ちゅ~もらめぇ♡ア、アンタ達さっき()()()来たんじゃなかったの!?こ、この底無しのケダモノどもぉぉぉぉ……!」

 

 

 ラブ最後の抵抗も失敗に終わったその時、既に明かりの消えた彼女達の部屋の前の廊下には二人の人影が何やら緊張した雰囲気でピンクの嬌声と瘴気が漏れる扉を前に固まっていた。

 

 

「あ、開けなくていいの……?」

 

「あ、アンタこそ……」

 

 

 消灯間もない寮内を巡回して来た週番の二人は、何をやっているかダダ漏れなその扉を前にして顔を見合わせ互いに牽制するようにその職務を譲り合っていた。

 その扉の向こうに誰がいて何が起こっているかも見当は付き、それが甚だしく風紀を乱す行いである事も解っているが二人には恐ろしくて目の前の禁断の扉を開く事は出来なかった。

 

 

『い…異常なし……』

 

 

 週番の二人が示し合わせたように頷き点検表に判を押すと、そっと静かに遠ざかって行く。

 その結果、ラブが助かる最後のチャンスも失われたのであった。

 

 

『あれ…?なんで裸なんだろう……?』

 

「……」

 

 

 明けて翌朝、最後の一滴まで燃料を使い果たし力尽きたケダモノ達が空腹感で一斉に目を覚ました時、全員揃ってラブにしゃぶりついた状態にも拘らず放ったその第一声に軽く殺意を覚えたラブは、彼女達のお尻にパンツァーファウストをねじ込んでやりたい衝動に駆られていた。

 そして少々気まずい雰囲気のまま朝食を取り身支度を整えると、いよいよ黒森峰に別れを告げる時間が訪れたが、部屋を出てみれば廊下には全隊員が並んでラブ達を見送ろうとしていた。

 

 

「うわぁ♡」

 

「これは……っ!」

 

「なんてあざとくエロっぽい……」

 

「……」

 

 

 目の前を引き攣り気味の笑みを浮かべ厳島流の制服姿のラブが通り過ぎて行くと、その背後からアダルト過ぎるラブの艶姿に熱い吐息交じりの声が後を追うように零れていた。

 

 

「まぁ…無理もないか……」

 

 

 アンチョビのその呟きが、ラブの後ろに付き従う者達の気持ちを代弁していた。

 

 

「お忘れ物はないですか?大きな荷物は後で艦の方に届けておきますので…あの、本当にギターはご自分で持って行かれるのですか……?」

 

 寮の玄関でラブが15㎝のピンヒールを履きその脚線美との合わせ技で再び騒ぎが起きる中、寮の前に小梅の運転で横付けされたオペルブリッツのオムニバスに乗り込む前、エリカが確認するように聞くとラブも肩を竦めながら答えた。

 

 

「結局この四日間大して曲作りが進んでないもの、東京までの行き帰りの道中何か思い付いた時対応出来るようにしておきたいのよ」

 

「解りました、ではオペルの方に積んでおきますね」

 

 

 隊長となってもそのマメさは変わる事はなく、誰よりも先に動いて荷物の積み込みを始めようとするエリカに、他の隊員達が慌ててそれを制して作業を始めていた。

 

 

「うふふ♪エリカさんらしいわね」

 

 

 仕事を奪われ戸惑うエリカの様子にラブがクスクス笑ううちに、出発準備も整い寮の玄関前に溢れた機甲科の寮生達も名残惜しそうに別れの挨拶を口にし始めた。

 

 

「みんなありがとう♪次に会うのは全国大会かな?必ず行くから待っててね……あ、でもその前にまた練習試合位出来るかな?」

 

 

 既にそれぞれの学校の制服に着替えたアンチョビとみほと共に、ラブが別れの挨拶をすると中には泣き始める者も現れ、これにはもう困った顔で笑うしかなかった。

 姦しい一団に見送られオムニバスにラブ達が乗り込むと、小梅が一つクラクションを鳴らし互いに手を振り合う中、一路空港に向けオムニバスは走り始めた。

 

 

「え?今日からもう普通に訓練するんだ……?」

 

「えぇ、まあ訓練とは言っても午前中は点検整備になりますけどね。年内にまだ何戦か練習試合の予定もありますしあまりのんびりしている訳にも行きません」

 

 

 新隊長のエリカの口から聞かされた話はさすが黒森峰と云わざるを得ず、これから帰って隊長の引継ぎを行なうアンチョビなどは、同じ事をぺパロニ達にやらせようとしたら途端に口を尖らせてオヤツの増量でも要求されるだろうと容易に想像出来、途端に何とも情けない表情になっていた。

 そしてその後も暫くは空港まで見送りに行く特に親しかった隊員達と取り留めもない話をするうちに、オムニバスは空港施設の車寄せに辿り着いた。

 

 

「まだ迎えの機体は到着していないようですね……」

 

「そうだな…ん?誰だ……お母様……?」

 

 

 オムニバスを降りて空港建屋に入った処でまほの携帯の着信音が響き、制服のポケットから取り出し液晶を見たまほは不思議そうな顔をした。

 

 

「済まないちょっと待っててくれ……はいモシモシ、お早うございます…え?はぁ、それは……確かに仕方ないですね…はい、こちらは大丈夫です……では」

 

 

 東京の連盟本部で行われる家元会議にラブと一緒に出席する予定のしほからの連絡に、何か不測の事態が起きたかと不安げな表情になったラブであったが、そんな彼女に向けてまほは何とも微妙な笑い顔で困ったように口を開いた。

 

 

「あ~、すまんラブ、お母様は今道場のヘリポートに着いた処で、これからこちらに向かうそうだ」

 

「何かあったの?」

 

 

 心配げな表情のラブに、まほは違う違うと手を振りながら苦笑しつつ答えるのだった。

 

 

「いや、そうじゃないんだ……出際に家の前でご近所のおばちゃん達の井戸端会議に捕まっちゃったらしくてな、中々解放して貰えなかったらしいんだ」

 

『あぁ……』

 

 

 現役女子高生からしてみれば相手は最強の生き物であり、まだまだ若いしほでは太刀打ち出来ないであろうと彼女達もそれ以上何も言えなかった。

 

 

「それでは到着までラウンジで何か温かい物でも飲みながら待ちますか?」

 

「だな……」

 

 

 一行は滅多に離発着もなく人影もまばらな空港ロビーのラウンジに陣取ると、しほの搭乗する厳島の所有機であるオスプレイの到着を待つ事とした。

 

 

「飲み物と言ってもこんな処では……皆さんコーヒーでいいですか?」

 

「あぁ構わない」

 

「えぇそうね」

 

 

 全員それで構わないという事でエリカが注文に行き掛けると、みほがそれを制して傍にいた小梅と共にラウンジのカウンターに向かって行った。

 

 

「ふ……それにしても今回は色々と乗る事が出来て本当に楽しかったわ♪特にマウスとかヤバいわね、あれはちょっとクセになりそうだわ。でもそれもエリカさんのお蔭ね、本当にありがとう」

 

「全くだなぁ、最初はどうなる事かと思ったがいい体験をさせてもらったよ」

 

「いえそんな…別に私は何も……」

 

 

 ラブとアンチョビに礼を言われたエリカが照れて頬を染めると、たった四日とはいえ夢が叶ったまほもキリリとした実に良い笑顔を浮かべエリカに感謝の気持ちを伝えていた。

 

 

「頭が固い私には、卒業するまでにとてもこんな事は思い付きもしなかっただろう。エリカのお蔭で叶わないと思っていた事が実現出来た……ありがとう本当に感謝している」

 

「そんな…私は……」

 

 

 感極まった表情のエリカに、まほは閃いたとばかりにもう一つの贈り物をする事にした。

 

 

「そうだエリカ、今日帰ってからだが、私のビットマンを君に任せたいのだがどうだろう?」

 

「え…隊長……?」

 

「私はもう隊長じゃないぞ?出来れば隊長であるエリカにはビットマンに乗って貰いたいのだが?」

 

「……!はい…ハイ!謹んでお受け致します!」

 

「そうか、良かった」

 

 

 目じりに涙すら浮かべるエリカに、まほは清々しい笑顔で応じラブとアンチョビも穏やかな微笑でそれを祝福していた。

 

 

「おめでとうエリカさん、これで名実共にエリカさんが黒森峰の隊長さんね♪」

 

「だな、やはり黒森峰の隊長といったらティーガーⅠだろう♪」

 

 

 一緒に喜ぶ二人にエリカも自然と笑顔になりその場の雰囲気も華やいだものになったが、小梅と共にトレイにコーヒーを乗せ戻って来たみほはその光景に足が止まってしまう。

 

 

「どうしたのみほさん?」

 

「うぅ…何だかあそこだけ大人過ぎて入り込む隙がみえない……」

 

 

 ラウンジの日当たりの良い席でエリカとラブが並んで談笑している姿は、二人が美人なだけにそれだけで絵になり、みほからすると気後れして近寄り難く見えるようだ。

 

 

「あははは……」

 

 

 彼女のそんな処をエリカが可愛く思っているのは周知の事なので、思わず乾いた笑いをもらした小梅は生温い目でみほを見守っていた。

 それでもどうにかテーブルに戻り皆にコーヒーを配った処で、みほもエリカがまほのビットマンを継承した事を聞き我が事のように喜んでいたがそこであっと小さく声を上げた後に、彼女は少しオズオズしていたがそれでも意を決したように小梅に向かって切り出した。

 

 

「あのね小梅さん、もし…もし小梅さんが良かったらなんだけど……私が乗っていたカリウスに小梅さんが乗ってくれないかな……?あっ!勿論エリカさんが許可してくれればの話だけど……」

 

「みほさん!?」

 

 

 ハッとした小梅が口元を覆うが、そこでエリカが鼻を鳴らし注目が彼女に集まった。

 

 

「ふん……やぁねぇ、みほはそんなに私を悪者にしたいワケぇ?」

 

「え?あ!そんな意味じゃ……」

 

「冗談よ…馬鹿ねぇ……いいんじゃない?脚のあるパンターの機動戦闘は下の世代の指揮官候補に経験値積ませるのに丁度いいし、やはりアハト・アハトを眠らせておく手はないもの」

 

 

 エリカがそう答えみほもやっと胸にわだかまっていたものが消え、小梅も目じりに浮かんだ涙を拭って笑顔を浮かべていた。

 

 

「なら私が乗らせて貰ったベルターは直下あたりが乗る事になるか……」

 

「わ、私ですかぁ!?」

 

 

 いきなりアンチョビに話を振られ驚いた直下の声が裏返る。

 

 

「おっと、人事と配備は隊長の権限で外様が口出しする事ではなかったな」

 

 

 湿っぽくなりかけていた処をアンチョビが上手い事笑いを取ってそれを回避させる。

 それからは他愛のない話が続いたが、やはり話はラブの今後の動向へと変わって行った。

 

 

「──それでその家元会議とやらは今日の午後からという事か……でも私とみほが便乗させて貰って時間の方は大丈夫なのか?なんなら私の方は連絡艇を捕まえて帰ってもいいんだが?」

 

「それは大丈夫、アンツィオも大洗も東京までの道中の太平洋上を航行中なのは確認済みだし、ウチのオスプレイの脚なら充分に余裕があるわ」

 

「ならいいんだが……」

 

 

 気になっていた事を再確認したアンチョビは、それでやっと落ち着いたらしくソファーの背もたれにその身を預けるとコーヒーを一口啜った。

 

 

「しかし秋の観閲式からこっち、ドタバタに付き合わせる形になったがどうにか6連戦も消化して、今日の家元会議が終わればやっと一息という処か?」

 

 

 アンチョビ同様コーヒーを啜っていたまほがカップをテーブルに戻しラブに目を向ければ、彼女は一瞬何かを言い淀んだ後に記憶を探るように考えながら話し始めた。

 

 

「…そうねぇ……一応今の処は直ぐに試合の予定は入っていないけど、この間歌った新曲のキャンペーンやらAP-Girlsもアイドルとしての小商いはちょこちょこあるのよね~」

 

「小商いて……」

 

 

 如何にも厳島なもの言いに、まほの隣でアンチョビも苦笑している。

 しかし再会してから此処までの間にも、彼女が時折見せる商才は間違いなく厳島の者特有のものであり、既に彼女が亜梨亜の後継者としての片鱗を見せているとアンチョビも感じていた。

 

 

「いずれにしても無理だけはするんじゃないぞ、身体を壊したら元も子もないからな」

 

「大丈夫よまほ、この四日間私も羽を伸ばさせて貰ったし、ウチ(笠女)の艦とAP-Girlsの娘っ子達も休養取る事が出来たから」

 

「そうか?ならいいんだが……」

 

 

 周りの目が自分に集まっている事に気付いたラブがにっこりと微笑んでそう答えた事で、まほだけではなくラブもまたこの四日間に満足している事を再認識して安堵の表情を浮かべていた。

 しかしそうしてエリカの気持ちも和んだ処に、空気を直接叩くような爆音を轟かせ厳島のイメージカラーであるマリンブルーを纏った特徴的な機体が空港のヘリポート区画に舞い降りて来た。

 

 

「あぁ、来たわね……」

 

 

 振り向いて背後を確認したラブは、カップに残っていたコーヒーを飲み干ししなやかな身のこなしでソファーから立ち上がったが、その瞬間周囲からどよめきのような声が同時に湧き起っていた。

 

 

「やっぱ目立つわよね……」

 

 

 仲間内でも飛び抜けて身長が高いノンナより、更に10㎝ほど上背があるラブが15㎝のピンヒールを履くとその迫力は相当で、その制服のデザインと相まって今の彼女はまさに女王様そのものだ。

 

 

『踏まれたい……』

 

「何よ……?」

 

 

 ラブの声のトーンが下がり全員が慌ててサッと目を逸らす。

 やはりケダモノは何処まで行ってもケダモノだった。

 

 

「待たせましたね、それではまいりましょう……」

 

 

 駐機スポットに移動すると、一旦オスプレイから降り立ったしほがラブ達を待ち構えていた。

 

 

「そうしていると本当に亜梨亜様の生き写しねぇ…‥♡」

 

「しほママぁ……」

 

 

 厳島流第二種礼装姿のラブを見たしほは頬に朱を走らせうっとりと彼女の事を見つめており、何とも言えない居心地の悪さを感じたラブは恥しそうにモジモジとしていた。

 

 

「オホン…そ、それでは行きますよ?」

 

 

 照れ隠しに思わず咳払いで誤魔化したしほに促されたラブは、今一度振り返り見送りに来た者達に最後の別れの挨拶をする。

 

 

「それじゃあまたね!今度は()()で会いましょう♪」

 

 

 飛び切りの笑顔でそう言った後、得意の投げキスを決めたラブは手を振ってオスプレイに乗り込んで行きみほも名残惜しげに手を振りそれに続いた。

 

 

「それじゃあな西住、私の方も落ち着いたら改めて連絡する。ちょっとみんなに話さなければならない事があるから()()全員に召集を掛けるからオマエもそのつもりでいてくれ」

 

「あ、あぁ解った……だが──」

 

「済まないが今説明する時間はない、必ず連絡するからそれまで待っていてくれ」

 

「そうか解った……」

 

 

 アンチョビに耳打ちされたまほも彼女の目を見てそれ以上の事は言わず、手を上げ立ち去るアンチョビに同じように応え黙って見送った。

 最後にしほが無言で見送りの一同を見回し機内に姿を消すと、直ぐにハッチが閉じられエンジンが鈍い唸りを上げると独特の形状のローターがゆっくりと回り始めた。

 やがてそのローターも高速で回転を始め、駐機スポットにダウンウォッシュを叩き付けながらふわりと熊本の冬空に舞い上がり、別れの挨拶のように見送るまほ達の頭上を一回りするとそのまま東京目指してあっと言う間に飛び去って行った。

 アンチョビが最後に言った事を気にしつつ、それを見送ったまほの傍にエリカも佇んでいる。

 

 

「隊長……」

 

「もう()()()だろ?」

 

「ぷっ!」

 

「さあ帰ろう、やらなきゃいけない事が山積みだ」

 

「ハイ!」

 

 

 もう一度振り返り空を見上げれば既にオスプレイは空に溶け込み姿は見えない。

 確かに次に会うのは覇を競う舞台となるかもしれないが、それが決してラブの大言壮語ではない。彼女が其処にやって来る事はエリカの中で既定の事実であり、その舞台で対峙する時の事を考えると背中に冷たいものが過るのを感じるが、同時に表現し難い快感も湧き起り、その感覚にエリカはその身を震わせるのであった。

 その時に想いを馳せエリカはもう一度冬空を見上げると、踵を返しその一歩を踏み出した。

 みほだけではなくエリカもまたラブにとっては強力なライバルであり、もし全国の舞台で激突する事になれば想像を絶する戦いとなる事だろう。

 だがラブにはそこに辿り着くまでにまだいくつもの難関が待ち構えており、その道のりは前途多難と一言で言うには過酷なものかもしれない。

 しかしそれでもラブ何も臆する事なくそれに立ち向かうだろう。

 何故ならラブにはそんな彼女の事を愛し支える者達が周りにいて、彼女もまたその者達に惜しみない愛情を注いでいるのだから。

 ラブとAP-Girls、彼女達の闘いはまだそのスタートラインに付いたばかりなのだ。

 

 

 




練習試合6連戦は試合内容の密度を上げた結果どうしても長くなりました。
それでも大分見直して100話は行かずに済みましたが……。
これから先もラブの事だから波乱に富んだ展開になると思いますが、
彼女の事を応援して頂けると嬉しいです。

取り敢えずこれまでよりお風呂回が減りそうだから、
それ以外のネタを考えないといけませんw

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