ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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そりゃあ怒られるよなぁ……。
因みにレスポールは気を付けないと腰を痛めます(マジで)


第四話   Expression of determination(決意表明)

 足元のアンプから流れ出す音色に酔いしれるように、ラブがエレキギターの弦を弾き続けている。

 時折、琥珀のような輝きを放つそのボディーを愛しげに眺めては、陶然とした表情を浮かべ休む事なくまるで対話するように新しい相棒の感触を確かめていた。

 しかし彼女が先程からエレキの演奏をしている空間は、まるで熊本にある西住家のあの座敷そっくりであり、エレキを掻き鳴らすにはどうにも不釣り合いな部屋であった。

 そして更に妙なのは彼女の前には幾つかの膳が並び、その膳の数だけほろ酔いで上機嫌な顔も並んでおり、そのせいか座敷でエレキを弾くラブの姿は何処かお座敷芸者めいて見えるのだった。

 その日、戦車道各流派の家元が集う家元会議に初めて出席するラブの後見として、血縁であり姉妹流派とも云われる西住流家元西住しほと、長年の確執に終止符を打ち良好な関係を築きつつある島田流家元の島田千代に加え、ラブの榴弾暴発事故以来何かと縁のある敷島英子の紹介により後見役の一人となった関東地方最大の流派である坂東相模流家元の榊弓江の三人は、ラブの家元会議デビューが予想以上の成果を上げ無事に終わった事を受け、ここ文京は本郷にある西住別邸に祝杯を上げるべくこうして集っているのであった。

 だがそのような席でラブがエレキを掻き鳴らすのは些か奇異な光景だが、それにはちょっとした事情があり話は時間を小一時間程遡る事になる。 

 

 

「恋!全くアナタという子は!何と云う乱暴なお金の使い方をするの!?」

 

 

 日本人離れした長い脚を窮屈そうに折畳んで正座をしたラブが、座敷の隅っこでこめかみに怒りのバッテンを浮かべたしほに叱られていた。

 これがみほ相手であれば西住流鉄の掟で責め立てれば直ぐに涙目になる処であるが、相手がラブではその手の責めが一切通用しないのがよく解っているので、しほは敢えて徹底的にちびっ子扱いする事で彼女を精神的に追い込んでいた。

 

 

「高校生があんな大金を持ち歩いて、もし何かあったらどうするのですか!?」

 

「……」

 

「何だんまり決め込んでいるのですか!?」

 

「だって……あれは亜梨亜ママが──」

 

「言い訳ですか!?お黙りなさい!あ~ホントにもう!大体亜梨亜様も亜梨亜様よ……」

 

 

 やはりたわわの重量があるせいか、正座が大の苦手なラブはそれだけでも既に涙目になっている。

 痺れた爪先をモジモジさせながら少しでも早くお説教タイムが終わるよう頭を低くしていれば叩かれて、何とか言い繕おうとしても叩かれる悪夢のような無限循環のドツボに彼女はまっていた。

 

 

『うぅ、長いなぁ…いつになったら終わるのよぅ……?』

 

「ちゃんと聞いているの!?今いつになったら終わるのかとか考えていたでしょう?とぼけたってお母さんちゃんと解っているんですからね!?」

 

「ぐ……」

 

 

 ほんの僅かな沈黙も、その内心を見事に見透かしたしほの新たなお小言の燃料となり、短く唸るしか出来ないラブは完全に八方ふさがりだった。

 しほのお説教が始まって暫くした頃、あまりの言われように凹んだラブを見かねた千代と弓江が助け船を出し掛けたのだが、100万を超えるエレキギターを高校生であるラブがポンっと現金一括の即金払いで買ってしまった事を聞くに及び、二人揃って言葉を失った結果助け船は座礁し彼女の救助作戦はあえなく頓挫していた。

 

 

「あのようなお金の使い方、今後は絶対許しませんからね!解りましたか!?」

 

「…解りました……」

 

「なんですかその顔は?」

 

 

 しほの口元がヒクッと引き攣ったその瞬間、ラブは慌ててしほに向かって手を突いて謝った。

 

 

「しほママごめんなさい…もうしません……」

 

「…次はありませんよ、いいですね……?さぁ、お客様をこれ以上お待たせする訳にはいきません、恋もお座敷の用意を手伝いなさい」

 

 

 完膚なきまでに打ちのめされたラブが頭を上げて立ち上がろうとしたが、すっかり痺れた脚は全く云う事を聞かず彼女はそのまま手を着く事も出来ずに前のめりに転がってしまい、胸のたわわなエアバッグでダイブした結果、ボヨンとワンバウンドした彼女はそのまま横に転がっていた。

 そしてその際畳に打ち付けた衝撃が痺れた足全体に広がって、何とも情けないまるで猫のような悲鳴を上げた。

 

 

「全くだらしのない……ホラ、お客様の前でいつまでそうしているつもりですか!?」

 

「うぅ…ひどい……」

 

 

 (亜梨亜)よりも厳しい(しほ)の前ではさすがのラブも手も足も出ず、一方的にボコられて口から見えない白煙を吹き頭の天辺に白旗を掲げていた。

 

 

「成る程ね…亜梨亜ちゃんらしいやりようだけど相変わらず顔に似合わぬ荒っぽさだねぇ……」

 

 

 本宅で供される物と遜色のない熊本料理の膳が並び、杯を重ね舌の回りも良くなった頃。弓江は今回の家元会議にラブのみが出席するに至った経緯をしほから聞き、亜梨亜の狙いに感心すると同時に呆れたらしく、気持ちそのままな感想を口にするとそのまま杯を煽るのだった。

 

 

「まぁ、あれだけやり込められれば当面は六芒も何も言って来んだろうが用心に越した事はない、お嬢さんも会議に出る時は充分気を付けるんだよ。尤もまだ現役高校戦車道の選手なんだ、余程の事がない限り律儀に出席する必要もあるまい。もし出る時はしほちゃんか千代ちゃんと必ず一緒にいるんだよ?私もこれを機に時々は顔を出すようにするから何かあったら頼ってくれて構わないからね」

 

「先生有難う御座います、お忙しい中本日は本当に助かりましたわ」

 

 

 しほが何度目になるか解らぬ礼を述べながら、弓江がたった今飲み干したそらぎゅうと呼ばれる独楽のような形で飲み干すまで置く事が出来ない杯に、こちらも変わった形のガラという直接火に掛けて焼酎を温める酒器を傾けていた。

 

 

「いやなに、最近じゃすっかり楽隠居の身で暇を持て余しているからね。普段やってる事といやあボケ防止に道場の方で小学生やら中学生相手に基礎を教える日々さ……でも子供はいいねぇ、真綿が水を吸うとはあの事だ、教えた事をぐんぐん吸収して成長する姿を見るのは実に楽しいもんだよ」

 

 

 教育者の鏡とも云ってもいい弓江の戦車道への献身的な取り組み姿勢に、三人の若き家元達も見習うべき先達の言葉として熱心に耳を傾けていた。

 一部の心無い者達の評価など意に介する事もなく、流派の信念を貫き志ある者に教えを説く弓江こそ日本の戦車道の重鎮であり縁の下の力持ちであろう。

 

 

「それにしても忌まわしきは六芒ですわ、相変わらず何が言いたいか解らないしその実態もハッキリしない…そもそも流派と呼ぶのもおこがましいし試合実績もパッとしない……今の代表の田荘もいい話は聞きませんね。実質金で今の地位に付いたとの噂が消えないし、その金の出所も相当怪しいともっぱらの評判ですから……」

 

 

 大学戦車道になると多少六芒の息の掛かった者の存在がチラホラとし始めて、レベルの低下を危惧する千代としては目を光らせねばならず、自然と表情が険しくなる。

 

 

「社会人のプロ化で道を閉ざされる可能性もあるからか、生き残りの為にやる事が節操なくなって来てるみたいね。今は実業団の西住の門下生にも、六芒に引き入れようとすり寄って来たらしいわ」

 

 

 不快そうに鼻を鳴らしたしほだが、これらの事実は島田と坂東相模でも確認されており、これに関しても今後も注意が必要という事で互いに連絡を密にする旨を取り決めた。

 

 

「さて、こんな話はここまでにしよう、これ以上は折角の酒と料理が台無しになる」

 

 

 年長者である弓江がそこで話を締めた事で、暗い方向に傾き掛けていた席も再び賑やかになった。

 そして話はやはりラブとAP-Girlsの話題が中心となり、そうなると当然彼女が今日購入したエレキギターへも興味の矛先が向けられるのは必然といえた。

 

 

「まぁ価格の事はさておいて、それ程の名器がどんなものか私にも拝ませてくれるかい?」

 

「は、はぁ……」

 

 

 それが原因でしほにこっ酷く叱られたばかりのラブは思わずしほの顔色を窺ったが、彼女も同じ事で何度も小言を言う性質ではないので、上目使いで自分を見るラブに表情は変えずに頷いて見せた。

 しほの許しを得たラブが座敷の隅に置いていたハードケース持って来ると、取り出したMUSIC MANをまるで赤子でも抱くように愛しげに掲げて見せた。

 

 

「ほう、綺麗なもんだねぇ……」

 

 

 弓江は初めて間近で見るエレキギターに感心したように呟き、品の良い輝きを放つトランスゴールドのボディに見入っていた。

 

 

「持ってみますか?」

 

「いいのかい?」

 

「どうぞ……」

 

 

 ラブは弓江の傍に行くとそっとMUSIC MANを差し出し、少し緊張した面持ちの弓江も慎重に受け取り、腕に重量が掛かった瞬間驚きにその目を見開いていた。

 

 

「こいつは驚いた…エレキというのはこんなにも重い物だったのかい……」

 

「そんなにですか……?」

 

 

 興味を惹かれた千代に向けてラブが頷いて見せると、弓江からMUSIC MANを受け取りその重みに彼女も驚きの表情になった。

 

 

「え?こんなに……?」

 

「ちよきち、ちょっといい……?」

 

 

 二人の反応を見たしほも、千代からバトンタッチして手に持った瞬間思わずうなってしまった。

 

 

「これはちょっと……」

 

「このMUSIC MANで3㎏ちょっとだったと思います…これでもエレキの中では比較的軽い方になりますね……現在私がステージで使っているのはレスポールというエレキですが、私の仕様は特に重くて5㎏近い重さになっています……まあ戦車砲の砲弾よりは軽いんですけどね」

 

 

 比較対象が戦車砲の弾である事にラブが苦笑するが、それを聞かされた三人は一様に驚いた顔をしており、再びMUSIC MAN手にして重量を体感していた弓江は一番驚いていた。

 

 

「5㎏だってぇ!?これだって相当重く感じるのに……孫娘と一緒に見たお嬢さんのコンサートの中継じゃ軽々と扱ってるからてっきりもっと軽い物だと思っていたよ……」

 

「あら♪私達のステージ見て頂いてたんですか!?」

 

 

 弓江は一瞬しまったという顔を見せたが、観念したのか仕方ないとばかりに白状した。

 

 

「いやね、今年中学に上がった孫娘がお嬢さんのファンでねぇ……実は家元会議の事を英子と話してる最中にうっかり聞かれてしまったもんだから、一緒に連れて行けだの言われて今日も出る直前までえらい難儀したんだよ…それでね、大変厚かましいお願いなんだが孫娘の為にひとつサインを頂けないものだろうかねぇ……?」

 

 

 そう言いながら弓江が手元の自分のバッグから手帳を出したのを見て、ラブはその極めて控えめな弓江の依頼にへにょっと眉毛を下げて笑った後、直ぐに自分のバッグからこういう時の為に持ち歩いているCDを取り出すと、保護フィルムを剥がしジャケットにサインを入れ始めた。

 

 

「応援して頂いて嬉しいです♪でも……こっちの方がもっと喜んでもらえるかな?」

 

「いや、お嬢さんそこまでして頂く訳には!」

 

「お孫さんのお名前は?」

 

「え…あぁ、愛実(つぐみ)、愛が実ると書いて愛実だが……」

 

「愛実さんかぁ、素敵なお名前ですね♡つ・ぐ・み……っと、よし出来た♪」

 

 

 サインを入れたジャケットをケースに戻したラブは弓江にCDを手渡し掛けたが、そこで何か物足りなさを感じ少し考え込んだ表情になった。

 

 

「ふ~んなんかこれだけだと芸がないわねぇ……あ、そだっ♪」

 

 

 ラブは座敷に運んで貰ってあったアコースティックのギターケースのポケットの中から、自分専用で『Love』の刻印が入ったオリジナルのギターピックを取り出すと、CDケースとジャケットの間に差し込み満足気に微笑むのだった。

 

 

「これでよし……榊先生、これを愛実さんに渡して下さい、その時応援してくれてありがとうと伝えて頂けると嬉しいです」

 

「ここまでしてもらうなんて何だか申し訳ないねぇ……でも有難く頂くよ」

 

 

 恭しい仕草でCDを受け取った弓江は、そのままCDを掲げるようにしたまま頭を下げた。

 

 

「今年中学というとウチの愛里寿の一つ下という事ですね、もう13歳でしょうか?」

 

「いや、それが気の毒な事に誕生日がクリスマスイブでね、毎年クリスマスケーキと誕生ケーキが兼用で宥めるのに一苦労さ……でも今年はこのCDでその心配もなさそうだねぇ」

 

「あら~、それは大変だ……」

 

 

 実際弓江は孫娘の誕生日で相当苦労して来たらしく、その安堵の表情にラブも苦笑していた。

 

 

「恋、ちよきちの処の愛里寿お嬢さんもあなたのファンなんだそうよ」

 

「え?そうだったんですか!?」

 

「ちょ!しぽりん!」

 

 

 熊本の西住家訪問後、彼女だけがラブと面談した事を知った愛里寿がすっかり拗ねてしまい一度はしほに泣きついた千代であったがあまりのラブの多忙ぶりに改めてしほには口止めをし、彼女も愛里寿の事でラブに接触を図るのは避けていたのだった。

 

 

「もっと早く仰って下さればよかったのに……」

 

 

 ラブはそう言うともう一枚CDとギターピックを用意すると、愛実の物と同様にサインを入れてそれを千代へと手渡した。

 

 

「あ…有難う御座います……これでやっと愛里寿の機嫌も直ると思います……」

 

 

 熊本以降ずっと愛里寿に素っ気ない態度を取られていた千代は、感極まって涙目になっていた。

 

 

「そんな大袈裟な……ウチの学校まだちょっとドタバタしてて、AP-Girlsも年内はもう地元のクリスマスイベントに参加するだけなんですけど、年明けからは色々と独自の音楽イベントを開催するので愛実さんと愛里寿さんには改めて招待状を送らせて頂くので宜しくお伝え下さい」

 

 

 更なる申し出に弓江と千代は恐縮しきりだったが、機嫌の良いラブは一向に気にしていなかった。

 

 

「処でお嬢さん、厚かましいついでにもう一つお願いがあるんだがちょっといいかい?」

 

「あ、ハイなんでしょう?」

 

 

 何やら気恥ずかしそうにしている弓江にラブが目を向けると、彼女はラブがケースに戻したMUSIC MANを指差しながらお願いを口にした。

 

 

「もしよければ…それ、どんな音がするのか聴かせて貰えないもんかねぇ?」

 

「え?なんだそんな事ですか構いませんよ…‥でもエレキはアンプに繋いで使うからかなりうるさいんですけど大丈夫かな……?」

 

 

 ラブが少し心配げにしほの様子を窺えば、それは一向に問題ないといった感じで頷いていた。

 

 

「それじゃあ準備するので少し待ってて下さいね……」

 

 

 楽器店が高額商品を現金一括で買ったのでサービスとして付けてくれたアンプなどのセットが思わぬ形で役に立つ場面が到来し、ラブは早々にギターストラップの長さを調整し電源を確保するとアンプやエフェクターをシールドで手際よく繋ぎ、ヘッド部分にクリップタイプのチューナーを取り付けるとチューニングを始めた。

 

 

「今取り付けたその小さな機械は何かね?」

 

「コレですか?これはチューナーです、今からこれを使って正しい音が出せるよう弦のチューニング……調律をするんです。今はこんな小さな物でもとても正確に音を合わせられるんです」

 

 

 見る物全てが珍しい弓江は興味津々でラブのやる事を見物しており、ラブもそれに付き合い一つ一つ丁寧に説明しながら作業を続けている。

 

 

「ヨシ…出来た……それじゃあやりますけど、かなり大きい音がしますので気を付けて下さいね」

 

 

 ひとつ息を吸ったラブが弦を弾くと彼女の足元のアンプが力強い音を叩き出し、事前にラブに注意喚起されていたがそれでもこれ程間近でエレキギターの音を聴いたのは初めてな三人は、その音圧とそれまでとはまるっきり違うラブの姿に驚きの表情を浮かべていた。

 そして始まった独演会に最初は驚いて固まっていた三人も、ラブの演奏する華麗な姿に段々と気分が高揚し再び杯を煽る手が進み始めた。

 

 

「いやいや、こんなに楽しい酒席は初めてだよ……何と言うかこのエレキの音というのはクセになるね、実に貴重な体験をさせて貰ったよ」

 

「でしたら是非先生も席を御用意するのでAP-Girlsのライブにお越し下さい♪」

 

 

 こりゃ失敗とばかりに口元を手で覆った弓江の様子に、皆の口から一斉に笑いがこぼれた。

 そして夜も更けそのまま西住別邸に宿泊する事になった弓江と千代は、順に湯浴みをするとそれぞれ用意された部屋で床に就くのだった。

 一人では髪を洗えぬラブもまたしほと共に入浴し、今は並べて敷かれた布団の上で洗髪後結い上げてあった髪を解き緩い三つ編に編んで貰っていた。

 

 

「あなたの髪を編むのは本当に何年振りでしょう……」

 

 

 長いからさも大変だといった口調ではあるが、実際の処はその艶やかで心地良い櫛の通りを堪能しラブには見えぬが相当に機嫌のよい表情をしているしほであった。

 

 

「ん~、もうちょっと自分で何とか出来る位に切ろうかとも思ったんだけどね、それを言うと途端に愛が物凄い怒るのよ~」

 

 

 しほもその手触りの良さにうっとりしながら、それはそうだろうと思っていた。

 

 

「編み込みの加減はこれ位で大丈夫ですか?」

 

「うん、大丈夫よ」

 

 

 念の為に確認したしほは最後にリボンで留めてやると、編み上げた三つ編みを肩から前に垂らしてやり、軽く肩を叩いて終わった事を知らせてやった。

 

 

「ありがとしほママ♪明日の朝はゆっくりでいいのよね?」

 

「ええ、千代も榊先生も急ぎの用はないとの事だから慌てずともよいでしょう」

 

「そっか、なら今夜は少ししほママとおしゃべりしても大丈夫ね~♪」

 

 

 無邪気なラブに苦笑するしほだが、布団の上に転がったラブは楽しげに脚をパタパタしている。

 しかしその時ラブの携帯がメールの着信を知らせ、ラブの脚はピタリと止まった。

 

 

「あれ~?亜梨亜ママだ、なんだろ……?」

 

 

 携帯の液晶に表示された亜梨亜の名に不思議そうな顔をしたラブが届いたメールを読み始めたが、画面をスクロールし読み進めるうちにピタリとその手が止まった。

 

 

「あぁ…そうなんだ……」

 

「どうかしましたか?」

 

「ん~ん、なんでもない……」

 

 

 布団の上に腹這いの状態でメールを読んでいたラブの様子の変化が気になったしほが声を掛けてみたが、若干上の空な感じで返事をしたラブはそのまま返信メールを打っている。

 

 

「これでよし……ねぇしほママ、愛里寿さんってどんな子なのかしら?」

 

「…異例の飛び級で大学選抜チームの隊長を務める位ですから優秀な子ですよ……それが何か?」

 

「いや、大洗連合との一戦は私も何度も映像見直したからそれ位は知ってるわよ」

 

「…まぁ無理のない事だけど、大分背伸びして無理をしている感は否めないわね……ちょっと性格的にシャイな処があるように感じるわ」

 

 

 ラブの急な質問に戸惑いながら、しほは少し慎重に考えながら答えているように見えた。

 

 

「ふ~んそうなんだ……」

 

「最近では黒森峰始めあちこちに短期留学して大分人慣れして来たみたいだし…そのね、みほとはだいぶ仲が良いみたいなのよね……」

 

「へぇ~って何よしほママ?その渋い顔はどういう意味よ?」

 

 

 話がみほと愛里寿の関係に及んだ処で急にしほの表情が変化し、ラブも妙な顔をする。

 

 

「ボコなのよ……」

 

「は……?」

 

 

 咄嗟の事でしほが何を言い出したのか解らずラブも思わず間の抜けた声を上げたが、アゴに梅干しを作ったしほはそれに構わずそのまま話を続けた。

 

 

「あの島田のお嬢さんも例のボコられグマが大好きらしいのよ……」

 

「あ……?」

 

「私も知らなかったのだけど、そのボコのミュージアムが大洗にあるらしいのよ…あの子まさかそれを知ってて大洗を転校先に選んだのかしら……?それでね、あの二人は年パスで頻繁にそのミュージアムに通ってるらしいのよ。何でも二人が初めて会ったのもそのミュージアムらしくて、もう廃業寸前だったのをどういう経緯があったのか知らないけど、ちよきちの資金援助でリニューアルまでしたらしいのよね……一体何がどうなっているやら」

 

「……」

 

 

 物凄くどうでもいい聞きたくもない情報を延々聞かされたラブも、一気に疲れた顔になった。

 ラブが聞きたかったのはそういう事ではなかったのだがしほの口から流れ出す無駄情報は止まる事がなく、これはもう今日は有益な話は聞き出せないかと彼女も思った時、しほから不意に何故そんな事を聞きたいのかと問われ、やはりしほは凄いと再認識するラブであった。

 

 

「ん~っとね、いずれは何処かで一戦交える事もあるかと思ってさ……」

 

 

 しほもラブの狙いがそうであろう事は解っていたらしいが、敢えてそれに答えなかったようだ。

 

 

「恋が中継を見たのであれば、大体の事は解っているでしょうに」

 

「ん~、まぁねぇ……」

 

「似て非なる…というより流派としての思想からして丸っきり違う厳島と島田、果たしてどれ程それが理解出来る者がいる事やら……でもまだ暫くはあまり波風を立てないでちょうだい、さすがに今年は私も疲れたわ……」

 

「解ってるわ……」

 

「さぁ、灯りを消しますよ?いくら明日ゆっくりだといっても、そうそう寝坊する訳にも行きませんからね。何といってもまず榊先生を最初にお送りしなければいけないのですから」

 

「は~い」

 

 

 明日のフライトは清川村にある坂東相模流の総本山経由で一旦熊本まで飛び、しほを降ろしてから既に熊本を出て母港横須賀に向け航行中である笠女学園艦に帰投するプランとなっていた。

 これはしほと少しでも長く一緒にいたいラブの希望であり、しほもまたこのフライトプランを苦笑しながら受け入れていたのであった。

 しほが常夜灯を残して灯りを消すと、ラブも早々に布団に潜り込んだ。

 

 

「ねぇしほママ、榊先生ってとっても素敵な方ね。私ね、敷島さんって雰囲気が榊先生にとても似ている気がするの。敷島さんが生来お年を召したらあんな感じになるのかしら?」

 

「…そうですね、言われてみれば確かに似ていらっしゃるかもしれませんね……」

 

 

 弓江も嘗ての教え子の中でも特に英子の事を可愛がっているようであり、英子もまた弓江の事を生涯の師として慕っているので、自然とその雰囲気も似たものになって来たのかもしれなかった。

 

 

「それとね、知波単の絹代さんなんだけど、彼女も雰囲気が敷島さんにとても似てると思うの」

 

「知波単の…あぁ、あの西家御令嬢の……」

 

 

 しほは凛とした佇まいの日本美人である絹代の姿を思い起こし、その姿を自分の知る知波単時代の英子と重ね合わせ確かに二人がラブの言う通りよく似ていると思った。

 

 

「確か西家のお嬢さんも坂東相模流で基礎を学んでいるはずですからね、その教えに沿って人としての内面が形作られてゆけば、自ずとその雰囲気も似て来るのかもしれません」

 

「そっか~成る程ね~、やっぱり家元になると見る目が違うのね~」

 

 

 自分が漠然としか感じられなかった事を客観的な言葉にしてみせるしほに、ラブはやはり家元は違うと頻りに感心しているが、何をこの程度の事でとしほは呆れていた。

 しかし知波単が政治的に強いとはいえ、名家の令嬢である絹代が大洗に加担した事は後々何か影響がなければよいがと今更ながら危惧したしほは、遅れ馳せながら西家に礼状を送らねばと考えた。

 だが、貧弱な戦車とその極端に偏った教育方針で何かと奇異の目で見られがちな知波単であったが、政財界など多岐に渡る名家名門の子女が集うこの学校の立場はしほが思う以上に強く、絹代がやった事など何も問題視される事はなかった。逆に、義によって助太刀すべく大洗連合に加勢した絹代の株は学内の運営関係者の間でも急上昇し、そしてこれは余談だがそれに伴い彼女の内申も爆上げしていたらしい。

 

 

「ふぅ……敷島さんのお蔭で家元会議も無事に乗り切れる事が出来たし、しほママもこれで年内はもう大きなイベントは終わりかな?」

 

「そうね…尤も年末年始は毎年挨拶回りと来客で不眠不休になりますからね……」

 

「あ、そっか西住流本家の年末年始は不夜城だもんねぇ……」

 

 

 途端に気が重そうな声音になったしほに、お正月に会うと何処か萎れた様子のしほの姿を思い出したラブも、その声が同情的なものになっている。

 

 

「でもさ、来年はまほも進路が決まってるし気分的には多少楽なんじゃない?」

 

「あぁぁ……」

 

「な、何よしほママ!?」

 

 

 明るい話の材料で話を振ったラブだったが、突如しほが情けない呻き声を上げ彼女も驚いた。

 

 

「ドタバタしていて先送りしていたけど、年が明けたら千代美さんのご両親にご挨拶に伺わなきゃならないのよ~。もうどんな顔してお会いすればいいのか私解らなくてぇぇ……」

 

「も~、何かと思えばそんな事?どうして戦車道以外じゃそうしてポンコツになるのよ~?」

 

 

 彼女からすれば恐ろしくどうでもいい事でグダグダなしほに、ラブは激しく脱力する。

 

 

「そんな事言われたって将来の事を考えたら私お腹痛くなっちゃって……」

 

 

 正直付き合いきれないラブはそのまま話を先に進めた。

 

 

「名城総大だっけ……学部とかはもう決まってるの?二人共寮にでも入るのかしら?」

 

「え?…えぇ、学部は千代美さんと同じ工学部になるわ……」

 

「確か工学系が強い大学よね?土地柄自動車産業への就職率が高かったっけ…まあ戦車道やってりゃそっち方面の知識はガッツリ叩き込まれてるから特に問題はないか……」

 

 

 アンツィオの戦車道立て直しの手腕を買われたアンチョビが、地元愛知の大学から同大の戦車道へのテコ入れの目玉としてスカウトされ、それを受ける条件としてまほも彼女と同様特待生として引き入れる事に成功しており、ラブも二人が来年の大学戦車道の台風の目になるのは間違いないと踏んでいたが、しほにとってはそこに至るまでに難問が山積みなようであった。

 

 

「住まいはの方はもうキャンパスの近くの交通の便の良い場所にマンションを購入しました……二人暮らしなら3LKもあれば問題ないでしょう」

 

「ぶっ!」

 

 

 思わず噴いたラブだが、いきなり賃貸ではなく購入していたり二人が一緒に暮らす事前提だったり突っ込み処満載だったが、彼女ももう何処から突っ込んでいいか解らなくなっていた。

 

 

『私も人の事言えないけどさ……やっぱりしほママも超の付くお嬢様なのよね~』

 

 

 内心そんな事を考えながらもさすがにそれを口にする事は出来ず、彼女もこの話題をこれ以上掘り下げるのはそこで止めにした。

 それから暫くは他愛もない会話を続け眠気を感じ始めたラブは、ふとある事を思い付き即座にそれを実行に移していた。

 

 

「ねぇしほママ一緒に寝よ♡」

 

 

 そう言った時には既にしほの布団に潜り込んでいたラブに、しは呆れながらも咎めはしなかった。

 

 

「なんですか子供じゃあるまいし……ほら、冷えるからもっとこっちに寄りなさい」

 

「は~い♪」

 

 

 しほは腕を伸ばしラブの上掛けを手繰り寄せるとラブがはみ出さぬよう掛けてやり、母猫が仔猫にするように彼女の事を優しく抱き寄せてやるのだった。

 ダージリン辺りが見たら暴走必至な光景だが、伝わって来るしほの温もりにラブもまた嬉しそうに仔猫の如く目を細めていた。

 

 

「ねぇ、しほママ……」

 

「なんです……?」

 

「…私ね、目の手術を受ける事にしたの……」

 

 

 常夜灯のみが灯る薄闇に、彼女のその声は妙にはっきりと響いていた。

 

 

 




六芒会は増々矮小な臭いがプンプンとしてますが、
やっぱり軽い神輿で裏がありそうですね。

そしてまた最後の最後にラブが爆弾投げましたw
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