ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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また新たなたわわがw

※今回作中の二重カギカッコでの会話の連続は、英会話のつもりでお読み下さい。
英訳しかけて途中でヘタれましたw


第五話   Low success rate

「さて、どう伝えたものか……」

 

 

 日本戦車道最大流派である西住流道場の一角にあるヘリポートから、ダウンウォッシュで埃を巻き上げながら爆音を残して飛び去る異形の機体は、厳島のグループ専用機であるカスタムメイドのオスプレイだ。

 コールサインがそのまま機体のパーソナルネームとなったItsukushima Oneを見送ったしほは、今一つの難問に頭を悩ませている最中であった。

 事の発端は昨夜の事、どうにかラブの厳島流家元として初の家元会議出席を乗り切ると、文京は本郷にある西住家東京別邸に後見役となった島田流家元である島田千代と、関東最大の流派である坂東相模流家元の榊弓江を招き祝杯を挙げた後の事であった。

 宴席も大いに盛り上がり心地の良い疲れと共にしほが床に就くと、甘えた声を出したラブが嘗て両親を亡くし一時的とはいえ彼女が母親代わりを務め始めた頃のように彼女の布団に潜り込み、しほも困った子だとばかりに彼女を抱き寄せると、ラブがさらりと実にさり気なく彼女が悩む事になるとなるひと言を放ったのであった。

『目の手術を受ける』ラブのその短いひと言は、睡魔が訪れもう間もなく眠りに落ちようとしていたしほの意識を瞬時に覚醒させ、彼女の眠気を吹き飛ばしていた。

 しかし彼女がそれについてラブに問い質そうとした頃には、しほの胸に抱かれ安心しきったラブは幸せそうな笑みを浮かべ、既に夢の中へと沈み込んでいたのだった。

 眠れる時に眠れないようでは戦車乗りもタフな家元業も勤まらないので、しほもどうにか眠りに付いたがやはり熟睡には程遠かったらしく、目が覚めた時には微妙な疲労感が残っていた。

 明けて翌朝の朝食の場では千代と弓江が同席している為にラブに昨夜の事を問い質す事は出来ず、その後も千代を見送れば自分達も弓江と共にフライトとなるので中々その機会がなく、結局その事で話し合う事が出来たのは神奈川の清川村に程近い坂東相模流の総本山である道場に弓江を降ろしてからの事であり、そしてその際しほはラブから実に何とも厄介な頼み事をされたのだ。

 果して漸く二人きりとなったItsukushima Oneの機内では、如何なる会話がなされたのであろう?

 

 

「恋、昨夜あなたが言った事は一体どういう事なのかしら?」

 

 

 弓江を降ろしたItsukushima Oneが高度を上げ、再び巡航速度で安定飛行に入った辺りでしほもやっとその疑問をラブに問い質す事が出来た。

 

 

「ん?あぁ…言った通りの事なんだけどな……」

 

 

 少し間を置いてしほが何を言っているのかに気付いたラブだったが、答えは実に素っ気なかった。

 

 

「亜梨亜様からのメールは何かその事と関係があるのでしょう?」

 

「うん…アメリカからね……向こうにいた頃ずっと診てくれていたドクターがね、私の目の手術をする為にクリスマス休暇がてらもう来日してるんだって」

 

 

 それを聞いて手術をする事自体が既に決定事項である事をしほは悟った。

 

 

「そう……でもそれを決めたのはいつ?」

 

 

 しほがいつ手術をするのかではなく、それをいつ決意したのかを問うて来た事にラブは驚きの表情を浮かべ、その読みの深さに自分などではまだまだ彼女に遠く及ばない事を思い知るのだった。

 

 

「そっか…さすがだね……決めたのはサンダース戦の直前だけど、それを考える切っ掛けになったのは大洗戦よ。理由はもうしほママだって解ってるんでしょ?」

 

 

 しほの問いに答えながらも今度は逆に問われた事に対し彼女は何も答えなかったが、ラブはそれを肯定の印と受け止めそのまま話を続けた。

 

 

「あの時私にはウサギが見えなかった…いえ、見失ったと言うべきよね。正直言って勝ったと思った……でもそこにこそ私の慢心と油断があった訳で、結果としてM3を自分の目の死角に入れてしまったわ。これぞ痛恨のミスっていうヤツね……」

 

 

 大洗との一戦の最終局面に於いて、ラブは何があっても諦めない事が信条の厳島流にあって唯一後先考えない戦闘機動、最強にして最凶の荒技嵐櫻(らんおう)を発動し。一気に大洗を窮地に叩き込むとあんこうを撃破寸前の処まで追い詰めていた。

 しかしその場面である意味実に大洗らしいアクシデントが発生し、逆にラブが討ち取られAP-Girlsは勝てた試合を落としたのであった。

 だがあれをミスと呼ぶのであれば、それは第三者の目から見ても相当に酷な事と云えるだろう。

 

 

「今のAP-Girlsにとって最大のお荷物はこの私、実際操縦や砲撃はおろか装填すら満足に出来ないんだものそれも当然の事よね」

 

 

 酷評というのが生易しく感じられる自己評価をするラブだったが、このいっそ冷酷ともいえるレベルの判断力がなければ、個々に求められる能力が少数精鋭の流派ゆえ他に比べると格段に高い厳島流の家元など勤まらないだろう。

 

 

「私もね、その辺の事を考えるともう現役として戦車に乗る事なく、指導者としてあの子達の育成に専念する事も考えないではなかったわ。何ていうのかな?直接背中を見せてやらないと伝わらないモノもあるじゃない?うぅん……でもそんなは建前よね、やっぱり私も戦車に乗りたいし勝ちたいのよ。勿論自分が100%に戻れないのは解ってる、それでも強い私をあの子達に見せておきたいのよ。だからその為にも出来る事はやっておかないといけないわ」

 

「それで成功率は……?」

 

 

 ラブの意思が揺るがないであろう事を承知しているしほも、ここで無駄な事は一切聞かない。

 

 

「今の段階でどの程度なのかは私にも解らないわ…事故に遭った当時国内では手術不可能って診断だったから……その後渡米してからの見立てでも1%にも届かなかったと思う」

 

「それでも手術を受ける気は変わらないわけですね?」

 

 

 さすがのしほもその成功率の低さに微かに眉を曇らせたが、翻意を促すでもなくそう聞いたのはあくまでもラブの意思の再確認であったようだ。

 

 

「うん、変わらないわ。だって当時手術は勧めないと言っていたドクターがこうして来日してくれたって事は、何か勝算があっての事だと思うもの。大分時間がたってるから、きっと新しい手術方法とか当時出来なかった事が出来るようになったんだと思うわ」

 

 

 あくまでもポジティブな思考でそう語るラブであったが、僅か数年で限りなくゼロに近かった成功率が100%になるとはどれ程楽観的に考えても到底思えず、そのハイリスクノーリターンとしか思えない賭けに娘同然のラブが打って出ようとしている事に、一見平静を装ってはいるもののしほは一瞬目の前が真っ暗になった。

 

 

「…それはもう決定事項で、決意は揺るがないのですね……?」

 

「うん、だから亜梨亜ママもドクターを呼んでくれたんだもの…さすがにこの時期に来て貰えるとは私も思わなかったけどね……でもお蔭で新設校のリーグ戦に間に合うわ。私絶対に全勝で勝ち上がって全国大会に行って見せるからしほママも必ず見ていてね♪」

 

 

 どうにも失敗するとは欠片も思っていないらしいラブに、しほもこれ以上は何を言っても無駄であると判断し、ならばせめて手術が上手く行くようにと胸の中で祈るのであった。

 

 

「ただね~、手術するにあたって問題がない訳でもないのよねぇ……」

 

 

 まだ更なるリスクがあるのかとしほは心臓を締め付けられるような感覚を抱いたが、ラブはそんなしほの様子に気付かず面倒そうに深い溜め息を吐いていた。

 

 

「……その問題とは?」

 

「…ウチの娘っ子達よ……」

 

 

 一瞬ラブが何を言っているのか解らなかったが、直ぐにそれがAP-Girlsのメンバー達の事を指している事に気付いたしほの表情が怪訝そうなものになった。

 

 

「何と言っても一緒に暮してる訳だからさ、黙ってあの子らが知らないうちに手術受けるなんてまず無理じゃない?だからそれをどう伝えたらいいものか考えたら頭痛くって……あ、凜々子解るわよね?あの子にはうっかり亜梨亜ママに手術受けたいって伝えた時に同席させちゃってて。一応口止めはしてあるんだけど、結局帰ったら全員に伝えない訳にはいかないし……」

 

 

 手術以上にどんな難題があるかと身構えたしほは、ボヤキ交じりにラブが言った事に脱力した。

 

 

「…でもやっぱり一番の問題は愛ね……まぁ他の子達もなんだけど、目の手術を受けるなんて言ったらまず間違いなく騒いで反対するのが目に見えてるのよねぇ…さて、どうやってあの子達を説得するかが目下の悩みのタネだわぁ……」

 

 

 ラブの言う事はそのまま手術の成功率の低さを示しており、彼女の健康状態の事を常に気を遣っている少女達にとっては手術の失敗がイコール完全な失明を意味する事は簡単に理解出来る事なので、例えそれがラブが望んでの事であったとしても到底容認出来るものではなく、もしそれを知れば相当激しく抵抗されるのは火を見るより明らかだった。

 しかしそれでもAP-Girlsに対しては、彼女達が自分と共に戦い勝ち残って行く為ならば必要な事であると、大義名分を掲げて押し切れば勝算があると踏んでいた。

 そしてしほはそんなラブのしたたかさを見抜いており、更にはそんな駆け引きすら面倒と言いながらも彼女が楽しんでいる事も見抜いているのだった。

 

 

「全くアナタという子は……」

 

 

 呆れ果てた、それがしほの偽らざる今の気持ちだが、同時にラブの戦車道に対する想いが如何に強いかも再認識していた。

 

 

「でね、私としてはここからが最も厄介だと思う事なんだけどさ…それに関する対応をね、しほママにお願いしたいなって考えているんだけど……」

 

 

 それまでとは一変して急にその口調は歯切れが悪くなり、そういう時のラブが決まって自分で言ったように厄介事を押し付けて来る事もよく解っていた。

 

 

「それで私に何をしろと……?」

 

 

 あまり聞きたくはなかったがそれでも一応はという態度で先を促せば、ラブも表面上は実に言い難そうな風を装ってはいるがその様子からすればしほに丸投げする気満々だ。

 

 

「え~っとね、まほの事なんだけどさ…あの子も手術の事知ったら絶対反対って騒ぐと思うのよ。ただ私としても後から知った事とはいえ、三年前みたいな事態は避けたいから事前に知らせようとは思うんだけどね……みほの方はまぁアワアワするだけで大丈夫だろうけど、やっぱまほが一番騒ぎそうだからしほママの方から上手く伝えておいて欲しいんだけど……ダメかな?」

 

 

 案の定一番面倒な事を丸投げしようとしているラブに対し今度はしほが至極面倒そうな顔をしたが、話の様子からしても手術まで大して時間もなさそうな状況に軽い頭痛を覚えたしほは、いっそ自分もまほの天敵である英子辺りに丸投げしたくなったが、話が話だけにあまり拡散させる訳にも行かず、退路がない事を悟り盛大に溜め息を吐くと上目使いで自分を見るラブを手で制した。

 

 

「解りました……まほには私から伝えておきましょう、ですが、それで素直に聞くかどうかは別問題ですよ?それこそ三年前の事があるから余計にね……それと他の子達はどうするのです?そこまでは私もさすがに面倒見切れませんからね?」

 

「まぁ取り敢えずまほに伝えてくれるだけでいいわ…そうすれば自動的に他の連中にも伝わるだろうし、それだけでも無駄に時間と体力使わなくて済むと思うから……」

 

 

 しほの指摘通り揃って言っても素直に聞く相手ではないので、ラブもここやはむなく問題を先送りする事で一種の現実逃避に奔ったが、結局は後日つめかけた者達を相手にラブは自ら説明する事になるのだった。

 

 

『この貸しは大きいですよ?亜梨亜様……』

 

 

 予想以上の厄介事に、思わず胸の内でそんな事を考えるしほであった。

 そこから暫くの間、熊本までのフライト中は二人も他愛もない話に時間を費やしていたが、それはどちらかといえばラブがしほを独占出来る時間を楽しんでいるように感じられた。

 

 

「これから増々冷えますからね、風邪などひかぬよう気をつけるのですよ」

 

「うん、ありがとしほママ……またね」

 

 

 熊本まではお喋りと用意されていた機内食による昼食に時間を費やし、辿り着いた西住流道場のヘリポートに降り立ったしほは、態々機体から降りて彼女をハグして中々離れないラブの背中をトントンと軽く叩き内面はまだまだ幼い娘をあやしていた。

 そしてやっと満足したラブが彼女から離れ、乗り込んだItsukushima Oneが飛び立ちそれを見送ると、その瞬間からはいつもの眼光鋭い西住流家元の顔に戻っていた。

 

 

「奥様、お帰りなさいませ」

 

「菊代……黒森峰に向かいます、車の用意を」

 

「何か問題でも?」

 

「…問題というより厄介事ね……少し急ぎます」

 

「畏まりました」

 

 

 多くを語らずともそれがどういう類の問題であるのか読み取れているのか、出迎えに現れた西住家女中頭の菊代は一礼するとしほの荷物を乗って来たⅡ号戦車に積み込み始めていた。

 この手の問題は早く片付けるに限るとばかりに、しほは未だ母港熊本港に停泊中の黒森峰学園艦に向かい、まほにラブの目の手術の件を伝えるつもりであった。

 

 

「あ~、やっぱウチの学園艦ってバケモンだわ……」

 

 

 家元会議に出席しそのまま東京で一泊の後、しほを熊本まで送りそれから艦の後を追ってみれば、桁違いの快速ぶりを発揮した笠女学園艦は、既に眼下の相模湾に浦賀水道通過の順番待ちの為にその白亜の巨体を浮かべていたのだった。

 

 

「それにしてもなんて忙しさだったのかしら?でもあのタイトスケジュールを余裕でこなした脚の速さはやっぱ只事じゃないわね…あ、あの子ら練習してるわ……」

 

 

 着艦の為に降下するItsukushima Oneが機体を軽くバンクさせた際に、チラリと見えた艦上の演習区画で弾着によるものらしい土煙が派手に上がるのが見え、例えラブが不在であってもAP-Girlsが普段と変わらずにハードな練習をしているのが確認出来た。

 

 

「入港前位は少しのんびりしてもいいんだけどな……」

 

 

 何だかんだと文句を言いながらも何事にも決して手を抜かず全力で事に当たる少女達の事を思い、ラブはクスリと笑うのだった。

 

 

「愛……」

 

 

 そして何よりもやっと関係が進展した愛の事が今は堪らなく恋しく、とにかくただ彼女の事を抱き締めたいと思うラブであった。

 そんなもの思いにラブが耽っているうちに機体はヘリデッキ上空に到達し、ホバリング体勢からゆっくりと高度を落とし殆ど衝撃を感じさせずに着艦したのだった。

 

 

「恋お嬢様!」

 

「ん?あ、ハイなんでしょう?」

 

 

 Itsukushima Oneからヘリデッキに降り立って直ぐ、チーフパーサーに呼び止められたラブが振り向けば彼女は無線のインカムを耳に当て何かを確認中であった。

 

 

「──はい了解です…お待たせ致しました……今コントロールから連絡が御座いまして、代表が恋お嬢様を直接こちらにお迎えにいらっしゃるそうなので、このままお待ち下さいとの事です」

 

「へ?亜梨亜ママが?」

 

 

 チーフパーサーからの伝言にラブがきょとんとする傍から、彼女の耳に特徴的なターボエンジンのエキゾーストノートが聴こえて来た。

 

 

「あら?マルニターボ……」

 

 

 BMW2002Turbo、日本ではマルニターボの愛称で呼ばれたその車は、丸目二灯に押しの強いキドニーグリル、白いボディに赤と青と水色のトリコロールストライプのワークスカラーを纏い、今時の電子制御ではない70年代生まれの機械式の猛々しい嘶きを轟かせるバイエルン生まれのじゃじゃ馬だ。

 

 

「お帰りなさい恋、家元会議は如何でしたか?」

 

「ただいま亜梨亜ママ♪うん、榊先生って素敵な方だったわ」

 

「榊先生……?恋、あなた榊先生にお会いしたのですか?」

 

 

 今回の家元会議に弓江がラブの後見として数年ぶりに姿を現した一件は全て英子の独断によるもので、これに関しては亜梨亜の耳にも一切の情報が入っておらず突然ラブの口から出たその名に亜梨亜も驚きを隠せずにいた。

 ラブもまた亜梨亜がこの事を全く知らずにいた事に驚きつつ、軽く今回の顛末を説明した。

 

 

「そうでしたか、敷島様が……」

 

 

 ラブから経緯を聞いた亜梨亜は弓江と英子に礼をせねばと考えていたが、英子に関しては三年前の事故以来何か特別な縁のようなものを感じ始めていた。

 

 

「解りました、詳しい事はまた後で聞きましょう。とにかく今は車に乗りなさい、先生がお待ちでいらっしゃいますからね…荷物は……恋、このギターケースは?」

 

 

 愛用のトランクとアコギのギターケース、それと並んで置かれたMUSIC MANのハードケースとアンプ等を纏めたキャリアーを指差した亜梨亜の問うような視線にラブの表情は固まってしまう。

 

 

「と、取り敢えず車に乗ってから話すわ……」

 

「……?」

 

 

 何やらぎこちないラブの様子に怪訝な顔をする亜梨亜だが、ラブはマルニターボのトランクと後部座席にいそいそと荷物を積み込むと、しほに叱られた一件で懲りもせずにさてどう誤魔化したものかといった顔で、コンパクトなボディの助手席に窮屈そうに潜り込んで行った。

 そして厳島のグループ本社が入る艦橋区画へと向かう道すがら何とか自分に都合よく何があったか伝えようとしたが、しほ以上に誤魔化しの効かない亜梨亜相手に対しそれは無駄な努力であり、結局は洗い浚い白状する事になりそれを聞いた亜梨亜もほんの一瞬だが何とも渋い表情を浮かべていた。

 

 

『…私までしほちゃんに叱られるわね……』

 

 

 金銭感覚に関しては亜梨亜ですら天文学的数値で世の中と桁が違っている為に、その下で育ったラブがやらかした結果、その事でしほからお小言を言われるのはある意味自業自得であった。

 内心で溜め息を吐きながら亜梨亜がステアリングを握るマルニターボは、やがて山脈のようにそびえる巨大な艦橋の内部にある役員の駐車区画へと滑り込んで行った。

 

 

「<ruby><rb>Hi,Ren! I have been waiting for you♪</rb><rp>(</rp><rt>ハイ、恋!アナタの事を待ってたのよ♪</rt><rp>)</rp></ruby>」

 

Dr.Lucia!?(ルシア先生!?)

 

 

 艦橋区画上層部にある亜梨亜のオフィスに入るなり、待ち構えていた印象的なブルーアイにブロンドヘアを少しワイルドな感じのセミショートにした長身の美女が、軽やかに駆け寄ったと思うとラブをハグして嬉しげに彼女の腰に手を回していた。

 その横を何事もなかったように通り抜けた亜梨亜はデスクに自分のバッグを置き、ミニキッチンに向かうと三人分のコーヒーを淹れ始めていた。

 

 

『先生、コーヒーを淹れ直しましたのでこちらへどうぞ』

 

『あらいけない!うふふ♪それにしても恋は更に綺麗になったわね♡』

 

『え~?そんな事ないですよ~?』

 

 

 一旦はラブを開放したものの、彼女の腰に手を回したままのルシアと呼ばれた美女は、そのままラブと共に並んで勧められたソファーに腰を下ろすと、亜梨亜が手ずから淹れたコーヒーの香りに目を細めひと口啜っては至福の表情を浮かべていた。

 

 

『相変わらず亜梨亜様の淹れて下さるコーヒーは絶品ですわ』

 

『お上手ね、これは更に増資しないといけないのかしら?』

 

『まあ♪冗談はさて置き今年も当星条旗記念病院への多額の御出資と個人的な育英基金への御寄附にはどれ程感謝している事か……お蔭様をもちまして今年も多くの難病に苦しむ子供達に高度な治療を受けさせる事が出来ました、全職員になり代わりお礼を申し上げます』

 

 

 榴弾暴発事故後渡米したラブの長期間の治療とリハビリを、諦める事なく行なった星条旗記念病院の関係者達の献身的な患者への奉仕の精神に感銘を受けた亜梨亜は、その理念を貫くのに必要な資金を出資すると同時に寄付も行っており、その結果として同病院は多くの命を救う病院として周辺地域から絶大な信頼を得ているのだった。

 その星条旗記念病院でラブの目の治療の担当医であったルシア・キンバーは、ラブの帰国後も彼女の視力回復の道を模索していたらしく、今回は何か研究の成果と共に来日したようであった。

 

 

『それで先生、今回は手術の依頼を引き受けて頂けた訳ですが、それはつまり何か新しい道が見つかったと考えて宜しいのでしょうか?』

 

『はい、恋お嬢さんの場合、複合的な問題があり単純に眼球の移植等では済まない状態だったのですが、私も開発に参加し今年の夏新たに合衆国で認可された機器と、私が研究を続けていた施術方法を合わせれば今までと比べ物にならぬ精度で手術が出来るようになり、更にこの方法なら移植ではなく恋お嬢さんの眼球をそのまま再生させる事が可能になりました』

 

 

 亜梨亜に対し情感を込めて感謝の意をを伝えた時とは違い、自分の努力の成果を誇るでもなく今度は淡々と現状を報告するルシアであった。

 

 

『凄いわルシア先生!これで私はまた右目でモノを見る事が出来るようになるのね♪』

 

『恋、少し落ち着きなさい……それで先生、成功率の方はどれ位なのでしょうか?』

 

 

 ラブが既にどのような結果になろうと手術を受ける決意を固めているとはいえ、やはり母親である亜梨亜としては失明のリスクが高いのであれば手術は断念させたいと思うのは当然であろう。

 

 

『亜梨亜様の御懸念はご尤もと思います、ですからその事も含めてまずは恋お嬢さんご自身と亜梨亜様に改めてご説明した上で、最終的に決めて頂こうと考えています』

 

 

 そう言うとルシアは姿勢を正し親子を見据え一礼した。

 一方でラブはと云えば即手術と浮かれていただけに、亜梨亜とルシアのやり取りに言葉を失い失望の色を露わにしていた。

 だがそんなラブを余所にルシアは亜梨亜に今一度目で問い質すと、彼女もまた無言で一つ頷いたのを受け、ラブの隣に移動すると腰を下ろしそっと彼女の手を握った。

 

 

『恋、最初にあなたを診察した当時は、最新の医療機器と技術を以ってしても手術はほぼ不可能だったわ。あの日から私もそれまで以上に研究を重ね、機器の開発にも積極的に協力したの。そして今回亜梨亜様からご連絡を頂き直接話をするべきだと思ったからこうして日本に来ました』

 

 

 直ぐに手術が受けられないのかと動揺したラブは悲しげな表情になったが、ルシアはそんなラブを安心させようと優しく微笑んで見せた。

 

 

『事此処に至って私も嘘や希望的観測は口にしません。単刀直入に言うわ、恋、アナタの目の手術の現状での成功率は30%よ……これがほぼ正確な数字と思ってもらっていいものよ』

 

『30%……』

 

 

 その五割に遠く及ばぬ数字に、さすがに亜梨亜は深刻な顔になった。

 

 

『凄い……』

 

『え…恋……?』

 

 

 俯いて肩を震わせるラブの口から漏れた言葉に、亜梨亜の表情が怪訝そうなものに変わる。

 

 

『凄い……凄いわ!聞いた亜梨亜ママ?30%だって!最初にルシア先生に診て頂いた時は限りなくゼロに近くて諦めましょうって言われたのに、それが今は30%に上がったのよ!?これは凄い事よ!?これ以上先延ばし出来ない状況でこの数字は申し分ないわ!お願いルシア先生……私の右目、先生になら任せられる!手術をお願いします!』

 

 

 これ以上はない程に笑顔で顔を輝かせるラブにルシアは圧倒され、同時に彼女の恐ろしいまでにポジティブな思考と度胸に驚かされるのであった。

 そこで気圧されたルシアが亜梨亜に目を向けると彼女もまた覚悟を決めたらしく、瞑目していた目を開くとルシアに向かって深々と一礼するのだった。

 

 

『…解りました……恋お嬢さんの手術を執刀させて頂きます』

 

 

 背筋を伸ばしキリリと引き締まった表情でルシアが宣言すると、それまで以上に喜びの感情を爆発させたラブが彼女の事を熱烈に抱き締めた。

 

 

『ありがとうルシア先生♪』

 

『あぁん♡』

 

 

 向き合う形でラブが正面からルシアをハグした結果、彼女のたわわな胸部傾斜装甲は御多分に漏れず、やはり天晴れなサイズであったルシアの胸部傾斜装甲と激しく激突していた。

 

 

『そう…地元のクリスマスイベントに出演ですか……解りました、それでは手術は27日に行いましょう。前日に入院して頂き術前の検査を行います。検査は午後からですが、余裕を見て昼前後には病院入りして頂けますか?』

 

 

 ハイテンションなラブを余所にルシアは亜梨亜とスケジュールの調整に入り、イヴとクリスマス当日はAP-Girlsの地元と米軍横須賀基地(ベース)内のクリスマスイベント出演があるので、術前の事前検査の事を踏まえ入院日は26日と定めた。

 

 

『解りました、それでお願い出来ますか?』

 

 

 ちょうど学校も冬休みに入り、芸能界と戦車道界共に対外的には超機密事項扱いのラブの目の手術をするにはベストなタイミングであったが、より万全を期す為に手術は笠女学園艦内の厳島グループ直系の医療機関で行われる事になっていた。

 

 

『事前に見学させて頂きましたが素晴らしい設備でした。あれなら全く問題はありません』

 

 

 実の処、彼女はその時既に搭乗した厳島の専用機で本国から持ち込んだ最新の医療機器も病院に運び込み、準備を整えていたのだった。

 その彼女から手術を行う環境にもお墨付きを貰った事で、亜梨亜も漸く安堵の表情を見せた。

 

 

『これで後は私も当日まで日本でのクリスマス休暇を楽しませて頂きますわ……そうそう♪恋、あなたの出るクリスマスイベントも楽しみだわ』

 

『うふふ♪任せて、最高のクリスマスにしてあげるわ♡』

 

 

 ウィンクを決めたラブが再びルシアの胸に飛び込んで、激突したたわわがプルンプルンする。

 屈託なく笑う彼女の顔には、欠片も手術に対する不安な様子は見られなかった。

 そんなラブの事を亜梨亜も仕方ないといった風に苦笑していると、オフィスの内線電話が鳴り彼女はデスクに戻ると受話器をとった。

 

 

「はい?えぇ…そう……解りました通してちょうだい」

 

 

 彼女の声音に何か不穏なものを感じたラブが彼女の方を見ると、小さく息を吐いた亜梨亜はまた面倒な事になったといった表情を浮かべていた。

 

 

「あの子達が来たわよ…あなたの携帯が繋がらないから探し回っていたみたいね……」

 

「あ…機内モードにしたままだった……」

 

 

 訓練中にItsukushima Oneが降下して来るのを見たAP-Girlsのメンバー達はそれがラブの帰艦を意味する事が解っているので、早々に連絡を取ろうとしたが彼女が携帯を機内モードのままにしていた為に連絡が付かず、ラブの事を探し回った彼女達はとうとう亜梨亜のオフィスにまで来たらしい。

 

 

「下まで来ているそうよ…説明は自分でね……」

 

「うげぇ……」

 

 

 最初からそのつもりではあったが、まだ何も心の準備が出来ていないラブは途端に困った顔で縋るように亜梨亜の方を見たが、彼女はわざとらしくそれに気付かぬフリをしている。

 帰った早々厄介な事になったと肩を落とすラブだが、もう問題を先送りする程の時間は全く残されておらず、肩だけではなく首までガックリと落としている。

 そしてラブが首を落とすタイミングに合わせたように、オフィスの入る艦橋区画を揺るがす野太い汽笛が鳴り響き、笠女学園艦が母港横須賀に入港すべく浦賀水道に向け動き始めたのだった。

 

 

 




マルニターボとか今回も私の煩悩がダダ漏れですが、
レストア済みとか余裕でいっせんまん越えだもんなぁw

ラブの手術となるとまた周りが大騒ぎになりそうですね……。
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