ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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タイトルでお察し回ですが、今回もR-15指定で大丈夫か不安ですw
ベタなネタだけど一度はやってみたかったのでww


第七話   My love to you(愛をあなたに)

『もげろこのバカップルが……』

 

 

 黒森峰への短期留学と初の家元会議への出席というイベントをたて続けに消化しラブが帰艦した翌朝、ハードスケジュールに加え彼女が投下した爆弾によりちょっとした騒動も起こり、疲労の蓄積を見越した亜梨亜に早めに休むよう言われたにも拘わらず、ラブと愛は明らかに()()()()しましたといった顔色でAP-Girlsのメンバー達の前に立っていた。

 しかし二人揃って顔色は悪い癖にその表情は満たされてテカテカしており、そうなるよう仕向けながらもバカップル真っ盛りなラブと愛にメンバー達も多少イラッとする事が増えていた。

 

 

「全員揃ったわね?さあ行くわよ、朝食済ませたら商工会青年部で打ち合わせと現地確認ね、複数会場だから手分けして行くわよ。その後は学校に戻ってリハと衣装合わせ、タイスケ(タイムスケジュール)はマジでギリだからのんびりしてる余裕はないからね」

 

 

 朝っぱらからグダグダになりかけた空気を引き締めるよう鈴鹿が一つ手を打って注意喚起すると、メンバー達も思い出したようにいそいそと移動を始め学校に着くと学食へと直行し、ハードな一日に備えて猛然と朝食を取り始めたが、その中でも特に()()()()で激しく消耗したラブと愛の二人が旺盛な食欲を示し目立っていた。

 その日は鈴鹿の予想通り非常に忙しのない一日となり、ラブの目の件に関して話をする余裕など誰一人持ち合わせておらず、夜も全員が翌日に備えてベッドに倒れ込んでいた。

 そして迎えたクリスマスイヴ。

 この日はも朝から市内各所に設けられた特設会場を駆け回りながら、ビンゴゲーム大会やトークショーにミニライブを繰り返し、締めに芸術劇場で行われたチャリティイベントが終わるまで文字通り休む暇もなく笑顔を振り撒き地元のクリスマスを盛り上げていた。

 尚、当日彼女達が身に纏っていたあざといたわわなサンタコスは各方面で物議を醸し(好意的な)、笠女同様母港でクリスマスを迎える聖グロのダージリンとアッサムなどは時間が許せばラブの目の事と合わせて駆け付けるつもりでいたが、やはり地元横浜のクリスマスイベントの目玉である聖グロの看板が抜け出す事など出来ず、後日ラブのサンタコス姿の写真と動画を目にした二人は彼女の衣装より尚赤い、血涙と共に鼻血を流したという噂話がまことしやかに囁かれている。

 一夜明けて翌25日のクリスマス本番は、彼女達の通う笠女の母港と地上施設として間借りしている米海軍横須賀基地(ベース)のクリスマスイベントに終日参加する事になっていた。

 オープニングパレードを皮切りに、基地内の広大な運動場であるバークレー・フィールドにおいて以前もセッションを行なった七艦バンドこと第七艦隊音楽隊とのスペシャルステージをこなし、夜には基地司令部のツリーを背景にクリスマスキャロルのアカペラコーラスを披露して、ベースのクリスマスの夜に煌びやかな彩を添えていた。

 

 

「来年はもうちょっと配分考えて貰おうね……」

 

 

 二日間歌いっ放しの踊りっ放しで全ての予定を消化したAP-Girlsは、フラフラになりながら辿り着いた笠女の学食でやっとクリスマスらしい夕食にありついていた。

 AP-Girlsを結成して初のクリスマスは地元への貢献を意識し過ぎた為に完全にオーバーワークとなり、こういった部分に運営面での経験不足が露呈していた。

 そしてヘロヘロな彼女達の為に、給養員学科の生徒達が特別に用意してくれたブッシュドノエルを始め数種類のクリスマスケーキにガチで泣き、事前に決めていた通りその場でプレゼント交換会を行ない彼女達の細やかなクリスマス会は終了した。

 その後は歩くのも億劫といった感じでノロノロと寮へ帰り着きそれぞれの部屋へと戻って行ったが、やはりその間際には皆が皆明日の事で何か言いたげな視線をラブへと向けて行くのであった。

 

 

「お風呂…入らないとね……」

 

 

 このまま寝てしまいたい、そんな考えが幾度となく頭の中を過ぎったがやはりそこは女の子であり汗を掻いた後そのままで寝るのは躊躇われ、まして愛する者と一緒に眠るのであればその思いは尚更の事であり、ラブと愛は疲れた表情ながらも入浴の準備を始めた。

 

 

「……」

 

 

 いつもであれば愛と二人きりの入浴の時間はラブにとっては至福のひと時であり、例え彼女の機嫌が悪い時でも入浴後には大概それも直っているのが常であったが、今日ばかりは疲労感が全てを上回っており口数も少なかった。

 それでも身体が温まれば多少は疲れも取れて、気持ちにも余裕が出て来た。

 

 

「ふぅ……とにかく疲れたけど今日のステージ自体は全てトラブルもなく完璧と言っていい出来だったわ、一年の締めくくりとしては申し分ないわね♪」

 

 

 ベッド上にアヒル座りで愛に髪を梳いて貰いながら、ラブはこの二日間を思い起こし満足気な表情で呟いていた。

 

 

「終わったわ……」

 

 

 愛がいつも通りにラブの髪を緩い三つ編みに編み込むと、今度はラブが愛の髪を編み始める。

 

 

「あ…そうか……次にこうして愛の髪を編めるのは年が明けてからか……」

 

 

 明日入院してしまえば退院するのは年が変わってからであり、彼女は年末年始を病院で過ごす事が決まっていた。

 

 

「よし、出来たわ♪」

 

 

 愛の髪を編み上げたラブは、愛おしげに三つ編みのしっぽの先を撫でている。

 

 

「の、飲み物を取って来るわ……」

 

「あ…うん、お願い……」

 

 

 不意に愛が立ち上がり、ラブの手の中からするりと愛のしっぽがすり抜けて行った。

 

 

「いよいよか……」

 

 

 遂に三年前に失った光を取り戻す事が出来る。

 確かに不安もある、逆に何も不安がないと言えばそれは嘘になる。

 しかし彼女は手術の成功自体はそれを信じ、微塵も失敗するとは思っていなかった。

 自らの新しい未来に思いを馳せ、今はまだ見えぬ右目で膝の上に広げた掌を見つめているとその掌に影が差し、顔を上げてみれば目の前に愛が佇んでいた。

 

 

「ん?愛……それは?」

 

 

 顔を上げたラブの視線の先、愛の首に何かが結ばれているのに気が付いた彼女は怪訝な顔になる。

 

 

「れ、恋……」

 

「え…?えぇっ!あ、愛……!?」

 

 

 らしくなくもじもじと恥ずかしげにしていた愛が意を決したようにバスローブを脱ぎ捨てると、彼女の小柄な身体とそれには不釣り合いなサイズのたわわが露わになった。

 

 

「恋…メ、メリークリスマス……」

 

 

 震えて消え入りそうな声で必死にそう言った彼女の全身がほんのりピンク色なのは、入浴して充分に温まっているからというだけではなさそうだ。

 

 

「う…そぉ……」

 

 

 これ以上はない程に驚いたラブが改めて愛の事をよく見れば、彼女の首に結ばれているのは赤と深い緑色のクリスマスらしいリボンであり、それに気付いた瞬間彼女も全てを理解した。

 明日彼女が入院してしまえば、年が明けて退院するまで()()()()になる事に。

 そしてそれはバカップル真っ盛りな二人にとってこれ以上に堪える事はなく、云わば今夜がラストチャンスである事に気付いたのであった。

 今目の前で一糸纏わず首に結んだリボンのみで身体を()()()()()した愛は、彼女自身がクリスマスプレゼントであり、日頃の愛からは想像も付かぬその大胆さと一途さに、そして何よりもその可愛らしさに疲労困憊なはずのラブのリミッターは吹き飛び加給圧は一気に最大に達していた。

 

 

「愛♡」

 

 

 吸い寄せられるように広げられたラブの腕の中に抱かれた愛が潤んだ瞳で見つめ何かを言いかけたが、とっくに歯止めの効かなくなっているラブの唇がそれを塞ぐ。

 

 

「ん……♡」

 

 

 覚えたての蜜の味は二人を簡単に溺れさせる。

 今日を最後に暫くは肌を重ねられぬという想いが二人の気持ちをより一層焚き付けて、一度火が着いたが最後貪るように互いを求め合い、揃って力尽きるまで数え切れぬ程の絶頂を迎えていた。

 

 

『コイツらは……』

 

 

 やがて夜が明け朝食を取りに学食へと向かう時間、いつまでたっても集合場所に現れぬ二人に業を煮やした夏妃が直接部屋まで起こしに行ってみたが、()()()()したラブと愛はノックと電話の波状攻撃でも中々起きず、やっと姿を現した頃にはゆうに一時間は経過していた。

 しかしやっと現れた二人の姿に、AP-Girlsのメンバー達も呆れて絶句するのであった。

 何しろ白々と夜が明ける頃までケダモノと化し盛って互いを貪り吸い尽くしていたので、出涸らし状態の二人は大洗の会長の好物の干し芋のようになっていた。

 

 

「み、みんなおはよう…さすがに昨日は疲れたわねぇ……」

 

『白々しい……』

 

 

 ラブと愛に向けられる目は何処までも白い。

 だが、二人揃って雌の残り香を漂わせているようであればそれも当然だろう。

 AP-Girlsのメンバー達がそんな二人を微妙に吊し上げつつ向かった学食は、いつもに比べれば利用する生徒も大幅に少なく閑散としていた。

 

 

「そっか、冬休みに入ったんだもんね……」

 

 

 地元横須賀と世話になっているベースのクリスマスイベントに全面協力した後、それらの全イベント終了後笠女もそのまま冬休みへと突入していた。

 なので彼女達も今日は制服やパンツァージャケットではなく、学校のトレーニングウェアの上にそれぞれ私服の上着などを羽織り至ってラフな出で立ちで学校に来ていた。

 学食も給養員学科の生徒達ではなく通常はその指導に当たる者達が運営しているが、それも今日までとなっており以降は新学期まで学食もお休みになる為、冬休みの間艦に居残る生徒達には艦内に無数にある飲食店にその業務が委託される事になっていた。

 

 

「ま、正月休み中は逆に自分でメシ位作るかね…後はベースの方にも店はあるしなぁ……」

 

 

 いつもに比べれば不気味な程静かな学食を見回した夏妃が、納豆を手早くかき回しながら誰に言うともなしに呟いていた。

 退路を断った訳あり少女の集団であるAP-Girlsのメンバー達に帰る場所はなく、この笠女学園艦そのものが彼女達にとっての家であり帰る場所なのであった。

 そしてそこに彼女達を導いた者は他の誰でもないラブであり、彼女こそが少女達にとっては絶対にして唯一無二の女神なのであった。

 だがそのラブが自分達の為にリスクの高い賭けに挑もうとしており、彼女達としては思い止まらせたいのが本音なのだが、それを中々言い出し難い状況をラブに作られてしまい昨夜も疲れているのに悶々として中々寝付けずにいたのだった。

 

 

「いや、何言ってんのよ?あなた達はちゃんと()()に帰りなさいよ」

 

「ハァ?ラブ姉こそ何言って…あぁ、そういう事……ねぇ、まだ一度も帰った事がないのにラブ姉が一緒じゃないんじゃさすがにちょっと私達だけじゃ帰り難いわ」

 

 

 今の彼女達にとって笠女学園艦が家である事は前述した通りだが、将来的な事を見据えて全員本籍地は観音崎にある厳島の城になっており、長い休みなどはそこで過ごす事になっているものの肝心のラブが一緒でない事にはどうにも気後れして()()を躊躇しているのだった。

 

 

「何よそれ……?雪緒(ゆきお)ママが待ってるんだからちゃんと帰りなさいよね~」

 

 

 城を切り盛りする厳島家のメイド長の名を出すラブだが、色々スケールが違う彼女にはその辺の感覚がいまいちピンと来ないようであった。

 その後朝食を終えた彼女達は寮であるマンションに戻ったが、ラブが病院に行くまでの間にも何とかならないものかと足掻き続け各人が方々に相談メールを送りまくっていた。

 そしてその送り先こそがまほを始めラブの昔からの仲間達であり、この時既に全員が笠女学園艦目指して移動中であったのだ。

 実の処彼女達は昨夜中々寝付けない段階から、迷惑とは知りつつも相談メールを送り始めていたのだが、各人が互いに相談なしに行動していた為に受ける側の者達は大量且つ矢継ぎ早に届くメールの対応に苦慮していたのだった。

 中でも距離的に一番近いダージリンとアッサムは一番集中してメール届き、日付けが変わる頃には二人して翌日は笠女に赴きラブに会う事を決意していた程だ。

 

 

「はいは~いっと……あ、もしもし~うん今降りるわ~」

 

 

 さすがに一晩中盛ったので病院に向かうまでの時間は二人共大人しく自室で過していたが、迎えに来た亜梨亜からの電話にラブが出ると、愛も緊張した面持ちで身を硬くしていた。

 愛もラブが手術を受ける事に諸手を挙げて賛成という訳ではなかったが、一晩肌を重ねる合間に少しづつ話し合い渋々ながらもそれに関して同意していた。

 但しそれでもまだ気持ちは揺れ動いており、その証拠に時折ラブに向かい何かを言いかける素振りをしては思い止まる事を繰り返し、その様子は何ともいたたまれないものがあった。

 

 

「さて、それじゃあ行くわ」

 

「…えぇ……下まで送るわ……」

 

 

 ラブは黒森峰への短期留学時にも使用したトランクを曳きショルダータイプのキーボードを肩に掛けて部屋を出ると、愛もそれに続きエレベーターホールへと向かったが他の階でも何やらドタバタしている様子が窺えて、どうやら彼女の動きはAP-Girls全員が把握しているようであった。

 

 

「足りない物があったら私が持って行くから……」

 

「ええ、お願いね……大丈夫よ、必ず手術は成功するわ。だから愛も心配しないで待っていてね」

 

「……」

 

 

 エレベーターを待つ間に愛を安心させようと微笑ながらそんな事を言って見せたが、不安に押し潰されそうな愛が潤んだ瞳で彼女の事を見上げていた。

 

 

「えぇと…それじゃあ手術が上手く行くようにおまじないしてくれる……?」

 

 

 更に優しく微笑んだラブが愛の身長に合わせて大きく屈んで見せると、愛も迷う事なくラブの両の頬に手を添え唇を重ねるのだった。

 

 

「ん……♡」

 

 

 二人の唇が離れた瞬間到着を知らせるチャイムが響き、エレベーターのドアが開いた。

 

 

『この盛りの付いた雌犬どもが……』

 

 

 到着したエレベーターに乗っていた先客である鈴鹿は、扉が開きかけた一瞬にその隙間から見えた光景に全てを察して座った目で内心そう毒づいていた。

 

 

「亜梨亜様がもう迎えに来ていらっしゃるわよ?」

 

「うん、解ってるわ……」

 

 

 どうやら鈴鹿は荷物持ちのつもりで上がって来たようだが、エレベーターのドアが開くなりそれが余計なお世話である事を思い知らされるのであった。

 しかしそのエレベーターに乗り込んで来た二人は三文芝居でとぼけてみせるが、愛の頬がほんのりと朱に染まっているのに気付いた鈴鹿はクスリと笑っていた。

 エレベーターが一階に到着しエントランスホールに出てみれば、そこにはAP-Girlsのメンバーが既に全員揃ってラブが降りて来るのを待ち構えていた。

 

 

「それじゃみんな、行って来るね~」

 

 

 軽い調子でひらひらとラブが手を振りながらトランクを曳き車寄せに向かうと、少女達が泣きそうな表情でそれに続き歩いて行く。

 

 

「お待たせ亜梨亜ママ」

 

「おはよう恋……」

 

 

 現れたラブと彼女に影のように付き従う愛の顔を見た亜梨亜は、それきり何も言わなくなった。

 顔色から二人が出涸らしである事に気付き、昨夜何があったかを見抜いていたのだ。

 

 

「う…ナニ……?」

 

 

 何ともいえない気まずい沈黙にラブもどうにかそれだけ言ったが、亜梨亜は何も答えず無言で車に乗るよう促すのみだった。

 後部座席にトランクとキーボードを積み込んだラブは、長い脚を折畳み助手席に収まった。

 亜梨亜がキーを捻ると骨董品と呼んでも差支えのないエンジンは、それを感じさせる事なく新車のようなレスポンスで目を覚まし、ターボ車特有の野太いエキゾーストノートを響かせている。

 

 

「後で行くわ……」

 

「それより帰省の支度しなさいよ」

 

 

 助手席側に回り込んだAP-Girlsを代表するように愛が短く言ったのだが、ラブは下がり眉毛の困った笑い顔でそう返した。

 

 

「それでは行きますよ?」

 

「あ、うん……ホント、みんなちゃんと()()するのよぉ?」

 

 

 そんなラブの言葉を残してマルニターボはマンションの車寄せから滑らかな走りで滑り出すと、母港入りで下艦した者も多く交通量の少ない道を一路病院に向けて走り去って行った。

 

 

「さ、私達も色々仕度しないとね…でもその前に……」

 

 

 愛の隣に立った鈴鹿が気遣うように彼女の背に腕を回し語り掛ける。

 しかし途中から声音に不穏な色が混じり、愛を抱く腕にも力が籠められた。

 

 

「愛には()()と話を聞かせて貰わないといけないわね……」

 

「……!」

 

 

 AP-Girlsが彼女に寄り添うのではなく包囲していた事に気付いた時には既に手遅れで、ハッとした愛が周囲に視線を巡らせるとサディスティックな笑みを湛えた顔が並んでいた。

 

 

「まずはそのそそる首筋に付けられている赤い印(キスマーク)について説明して貰おうかしら?」

 

「くっ……!」

 

 

 とっさに慌てて首筋に手を当ててしまった愛は、その瞬間自ら全てを認めたも同然であった。

 しかしこんな状況下でも自分を見失わず結束力の高いAP-Girlsを、果たして褒めていいのかどうかは意見の分かれる処かもしれないが、がっくりと力なく項垂れた愛を連行するように少女達はマンションの中へと姿を消して行くのだった。

 

 

「さあ、こっちよ……」

 

 

 病院へ到着した亜梨亜が操るマルニターボは一般駐車場へ入る事なくそのまま病院建屋の地下駐車場へ隠れるように滑り込むと、こちらもまた如何にも秘密の通路といった感じの廊下を抜けてその先にある他には誰も患者のいない受付へと進んで行った。

 艦内で暮らし就労する者達は全て厳島の社員ではあるが、情報という物は何処から洩れるか解らない為に、今回のラブの極秘入院もそれらのリスクを回避する為に細心の注意が払われていた。

 

 

「それでは私は手続きをして来ますからここで暫く待っていなさい」

 

「は~い」

 

 

 亜梨亜が窓口で入院手続きを始めたが、ソファーに腰を下ろしたラブがその様子を眺めていると、それは入院手続きというよりも経営者と社員のやり取りにしか見えなかった。

 実際笠女学園艦で働く者達は、厳島とその傘下の企業の社員でありその印象はあながち間違いではない。

 しかしこの受付ロビーにはラブ達以外誰もおらず、これはもしかすると極限られた人間しか使えない特別な窓口なのかもしれなかった。

 

 

「お待たせ致しました、それでは病室へご案内致します」

 

 

 亜梨亜と共にやって来た事務系の職員に促され、彼女の案内でラブはエレベーターに乗ってほぼ最上階と思われる病室へと昇って行った。

 そしてエレベーターを降りてホールを抜けると、病室へと向かう通路がありその先には警備員が常駐するオートロックの二重扉とナースステーションがあるが、その雰囲気からしてこの階全体がVIP専用というか厳島家専用なのは明らかだった。

 

 

「どうぞお入り下さい」

 

 

 通された病室もやはり普通ではなく、学校の教室程も広さのある個室であった。

 中の作りもまた病室というより格式の高いホテルのスイートルームのようであり、ミニキッチンやトイレにバスルームまで設えられており、完全に外部と接触せずに済む造りになっていた。

 

 

「は…ねぇ亜梨亜ママ……これはいくら何でもやり過ぎじゃない?」

 

 

 病室に入り室内を見回したラブも、その第一声はさすがに呆れたと云わんばかりのものだった。

 

 

「何を言っているのですか、あらゆる意味で今回の事は極秘裏に済まさねばなりません。それは恋、あなたが一番よく解っているのではないですか?」

 

「そりゃそうなんだけどさぁ、この病室はさすがにねぇ…って、何よこの眺め……」

 

 

 窓際に寄ったラブが外に目をやれば、市街地区画の舷側に近い位置に建つビルの上層階の病室からは横須賀の海が一望出来、浦賀水道を行き交う船舶の姿もよく見えていた。

 

 

「さぁ、そんな事よりお弁当を作って来ましたから食べてしまいましょう。午後からは術前検査があるのですからね」

 

「え?亜梨亜ママのお弁当♪」

 

 

 今は互いに多忙極まる身故に、母の手料理を口にする機会が激減しているラブにとってそれは何にも勝る知らせらしく、彼女は満面の笑みを浮かべ亜梨亜が包みを広げ始めたダイニングテーブルへと軽やかなスキップで近寄って行った。

 そして久し振りに親子水入らずで母の手料理を堪能したラブが、思いがけぬ形でゆっくりと親子の時間を他愛のないお喋り費やしすっかりリラックスした頃、検査の時間が来た事を知らせに病室付きの看護師が着替えの淡い緑色の患者用ガウンを手に病室へとやって来た。

 

 

「どうしてこうなるのでしょう……」

 

「……」

 

 

 病室に繋がる四畳半程の広さのウォークインクローゼット内で、亜梨亜は事前にオーダーしてあったらしいガウンをラブに着せ始めたが、そこは毎度のお約束でたわわがギリギリのパツパツで、検査の都合上ノーブラな為にばっちり先っちょのぽっちが浮き出て見えていた。

 がっくりと肩を落とす亜梨亜の前で、ラブは赤い顔でたわわを抱き締め涙目になっていた。

 だがいつまでもそうしている訳にも行かず、親子は諦めて検査に向かうのであった。

 

 

『結論から言えば思った以上に現在の恋の目は良い状態でした。これならば明日手術を行なっても何ら問題はありません』

 

『ホント!?ルシア先生?』

 

 

 検査を終え陽が西に傾き始めた頃ラブの病室を訪れたDr.ルシアは、彼女が何よりも待ち望んだ検査の結果をもたらしていた。

 

 

『ええ、本当よ。当初の診込みより手術の成功率も高くなると思うわ』

 

『わお♪これぞ吉報ってヤツね!』

 

 

 ソファの上で飛び上がらんばかりに喜ぶラブに微笑んで見せたルシアは、亜梨亜が淹れたコーヒーで喉を潤すとそのまま話を続けた。

 

 

『明日は先日説明した通り朝9時より手術を開始致します。予想される手術時間は約7時間、既に同意書にサインも頂いていますが、その所要時間の長さと難易度から考えて全身麻酔を使用します。今夜は食事を取って頂いて構いませんが、明日は朝食抜きになりますのでご注意下さい』

 

『は~い、でも寝て起きたら終わってるんだから私は楽なものね~』

 

『ふふっ♪それもそうね、でも私も恋のライブで元気を貰ったから明日は全力で手術させて貰うわ』

 

『あ~!そうだったわ♪私達のライブはどうだった?』

 

 

 説明に続きAP-Girlsの話になり、ラブはその感想を聞きたがった。

 

 

『もう驚いたの一言よ、あなた達の年齢であのパフォーマンスは驚異的ね。コッチ(アメリカ)で公演やっても問題なく通用するっていうか間違いなく成功すると思うわ』

 

『う~ん、その気になっちゃうわねぇ♪』

 

 

 これは後に現実となるが、それはまだもう少し先の話だ。

 明日の手術に関する話を終えた後もラブと亜梨亜は暫くの間、コーヒーと共にルシアとの談笑を楽しみ、空が夕焼けに染まり始めた頃ルシアはラブの病室を後にした。

 

 

「ふぅ、いよいよって感じね~。そうだ、ねぇ亜梨亜ママ、夕飯ってどうするの?多分じきにあの子らが来ると思うんだけど……」

 

「今日はまだ外出も自由ですから外食も可能ですし、この病室は特殊なのでデリバリーを使う事も出来ますよ。なのであの子達が来てから決めると良いでしょう」

 

「そうなんだ…増々やり過ぎな感じねぇ……」

 

 

 とても病室にいるとは思えない内装に、ラブも未だに入院した実感が湧かずにいる。

 窓辺により浦賀水道へと目をやれば、夕焼けの中を今も絶える事なく多数の船舶が行き来しており、世界屈指の交通量と云われるのも頷ける光景であった。

 

 

「んん…?あ、あれは……」

 

 

 高い防音性を誇る病室であるがそれでも外界の音も多少は聴こえ、ラブは微かにバタバタというヘリ特有の飛翔音が近付いて来るのに気付き病室からも見えるヘリデッキの方へと目をやれば、丁度そこを目指し降下して来る少々毛色の変わった機体の存在に気が付いた。

 フォッケ・アハゲリス Fa 223、世界で最初に量産されたそのドイツ生まれの翼竜はドラッヘの名で呼ばれ、国内では黒森峰女学院が運用している事が戦車道好きの間では知られていた。

 現に降下して来る機体には、黒森峰の校章の鉄十字が描かれておりそれを証明している。

 恐らく操縦しているのは新隊長である逸見エリカ、そして同乗者は前隊長の西住まほであろう。

 

 

「…まぁ来るだろうとは思ったけどさ……」

 

 

 それまでの実に機嫌の良さそうな表情とは一変し何とも渋い表情になったラブは、声までもが面倒そうな声音となり、アンチコリジョンを明滅させながらヘリデッキへと降下して行くドラッヘをなんとも恨めしそうな目付きで見つめていた。

 

 

 




次回は再びいつものメンツが顔を揃える訳ですが、
そうなると結局は騒動になるだけなんだよなぁw
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