ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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しょ~もないタイトルと姑息なお風呂回前後編w


第十三話   おっけ~浴場(欲情)

『ねぇ恋、日本に来てからずっと気になっていたんだけどさ、みんながあなたの事ラブって呼ぶじゃない?それは一体なんでなのかしら?』

 

『それ…今になって聞く……?』

 

 

 ラブの右目の手術から11日目、術後の経過も順調であったラブは予定通り7日の午前中に退院し、その日の午後には忙しなく帰国する主治医であるルシアを見送る為、厳島の専用機が待機する艦の空港区画に来ていたが、別れの挨拶の後帰国間際のルシアの質問に彼女は傾いていた。

 

 

『なるほど、恋……ラブは本当にみんなに愛されているのね♡』

 

『えぇ~なにそれ~?』

 

 

 ラブのニックネームの由来を聞いたルシアは納得すると同時に、彼女が友人達から如何に愛されているかを知り微笑みながら彼女の頬に別れのキスをしてやるのだった。

 

 

『うふふ♪それじゃあね、私はこれで帰るけど後の事は全て病院のスタッフで対応出来るようにしてあるから安心なさい。でも少しでも何かおかしいと感じたら連絡するのよ?』

 

『うん、解かったわ…でも私が退院したら直ぐに帰国するなんて……』

 

 

 ラブが少し寂しそうな表情を見せるとルシアは苦笑を浮かべ、波打つラブの髪を撫でていた。

 

 

『来週早々に学会があるのよ、勿論患者の個人情報は秘匿するけど今回の手術の事は早々に発表させて貰うわ。この手術が成功した事であなたのように苦しんでいる患者を救う新たな道筋が確立されたのよ、医者としてこれ程嬉しく思う事は他にはないわ』

 

『そっか…私の手術が突破口になるんだ……』

 

『恋、あなたの手術はとても難易度が高かったわ、けどお陰で私達が開発した機器と手術方法は極めて有効であることが証明された…でもそれ以上に重要だったのは何よりあなたが私を信頼して全てを任せてくれた事と成功を信じて疑わなかった事よ……それこそが手術が成功した一番重要なポイントよ』

 

 

 ルシアはラブを抱き寄せると、その耳元で万感の思いを込めて囁いた。

 

 

『ありがとう恋…私を信じてくれて……』

 

『あ…ダメよ先生、私まだお風呂に入れてないから……』

 

『大丈夫よ……うふふ♪その眼鏡とっても似合ってるわ』

 

『え?あぁ…最初の一本だけは特急で仕上げてくれたのよ、他のカラーコートの物はまだ少し時間が掛かるみたいだけど……ホントに似合ってる?』

 

『えぇ、本当よ♪とても可愛いわ』

 

 

 一旦その身を離したルシアはラブの頬に両手を添えて、眼鏡越しに彼女のエメラルドの双眸を見つめながら満足げに微笑んでいた。

 

 

『ルシア先生、恋姉様の目を見えるようにして頂いて本当に有難う御座います……』

 

 

 最近では大分表情が豊かになったとはいえ基本が無表情な愛が、はにかんだような彼女の精一杯の笑みを浮かべてルシアに感謝の気持ちを伝えた。

 

 

『ねえさまかぁ…恋は本当に愛されてるのねぇ……でもお二人さん、改めて言っておくけどまだ後二週間はおいた(激しい運動)はしちゃあダメよぉ♡』

 

『ル、ルシア先生!?』

 

 

 思いもよらぬ不意打ちについ大きな声を出しそうになったラブは辛うじてそれを堪えたが、頬を赤らめ目を白黒させるのであった。

 そしてそんなラブの隣では、愛が両手で顔を覆って恥ずかしそうに俯いていたが、彼女は耳まで真っ赤になっておりこれはどうやらルシアが愛の()()を見事に突いた印らしかった。

 

 

「愛…それはあなたのキャラじゃないでしょ……」

 

『まぁ冗談はともかく、戦車に乗るのとステージに立つのも後二週間は控える事。焦る気持ちは解かるけど、ある意味この期間が一番大事だから理解してね』

 

『えぇ、それは解かってるわ。その為の下準備はしてあるから大丈夫よ』

 

 

 入院前に彼女は自分が実質不在となる期間の訓練プログラムを作成しており、それに関しては彼女は何も心配してはいなかった。

 また学校側でも6連戦の中頃から増え始めた練習試合のオファーは受けておらず、それに付随するステージに穴を空ける心配もなかった。

 

 

『それとさっき気にしていたお風呂は今日から入ってもいいけれど、その時は必ず右目の周りに保護フィルムを貼る事を忘れないでね』

 

『うん、気をつけるわ…あぁ~、でもこれでやっとお風呂に入れるのね~』

 

 

 年頃の少女にとってやはり何日も入浴出来ないのは相当な苦痛である事は想像に難くなく、自分の脇の臭いを確認するような仕草を見せるラブの様子にクスッと笑ったルシアは、ちょっとした悪戯心からラブと愛に更なる追い討ちを掛けた。

 

 

『愛さん、恋の事良く洗ってあげてね♪でもくれぐれも()()してはダメよ♡』

 

 

 少々意地の悪い笑みを浮かべて意味ありげな視線を向けられた愛は、恥ずかしそうに再び両手で顔を覆うと共にとうとうその場にしゃがみ込んでしまうのであった。

 

 

『せんせぇぇぇ……』

 

『可愛いわねぇ♪』

 

「可愛いけどキャラが違いすぎるでしょ……」

 

 

 ルシアにいいようにあしらわれ、ガックリと肩を落としたラブもまたその頬は赤かった。

 

 

『面白過ぎるわ……』

 

 

 ここまでの様子を少し離れた場所から窺っていたAP-Girlsのメンバー達は、ルシアに弄られる愛のリアクションに過去最高の見ものを見る思いであった。

 

 

『ルシア先生……』

 

 

 騒ぎがひと段落すると時計を確認した亜梨亜が最後に挨拶をするべくルシアに声を掛け、彼女もその感謝の念に満ちた亜梨亜の表情に柔らかな笑みを以って応えるのだった。

 

 

『亜梨亜様、これにて帰国させて頂きますが今後も定期的に経過観察を続けますし、今回の手術に立ち会った医師達にも緊急時の対処法は充分にレクチャーしてありますのでご安心下さい』

 

『本当に有難う御座います、この感謝の気持ちをどうお伝えしたらいいか……』

 

『何を仰います亜梨亜様、これまでの絶大なるご支援があったればこそ機器の開発も術式の確立も可能だったのですから、感謝するのはこちらの方ですわ。何より一番難しいと思われていた恋お嬢様の手術が成功した事は、医療従事者にとってはとても大きな一歩なのですから』

 

 

 ルシアが逆に感謝の言葉を口にした事で、恐縮した亜梨亜は深々と一礼した。

 

 

『ルシア先生……私共にはこのような形でしか感謝の気持ちをお返しする事が出来ないのですが、今回手術に使用した機器の増産と人材育成の為の資金は全て提供させて頂きます。どうか恋と同じように苦しむ方達の為にお役立て下さい』

 

『亜梨亜様!』

 

 

 驚きに大きく目を見開き両手で口元を覆ったルシアは、次いで両腕を大きく開き亜梨亜を招き寄せよせるとその想いの全てを込めた抱擁で感謝の気持ちを表すのだった。

 

 

『まぁルシア先生ったら……』

 

 

 ルシアの背に腕を回した亜梨亜は、苦笑しながらされるに任せていた。

 

 

『大人の色気って堪らんわぁ……♡』

 

 

 感動の場面であるはずだが本能(煩悩)に忠実なAP-Girlsの少女達にとっては、空港のロビーで熱い抱擁を交わす美女二人の姿は妄想を掻き立てる刺激的なものでしかなかった。

 だがそんな煩悩少女達のお楽しみの時間も、ルシアの搭乗する厳島の専用機の準備が整いチーフパーサーが迎えに来れば終わりを迎える。

 

 

『それじゃあ恋元気でね、あなたの進む道が素晴らしいものであるよう祈っているわ』

 

『ルシア先生♪』

 

 

 ルシアより身長が上なラブが少し腰を折る形で別れのハグを交わした後、今度は先程とは違い至って真面目な表情で彼女は亜梨亜に最後の挨拶をするのだった。

 

 

『亜梨亜様…亜梨亜様のご好意を無駄にせぬよう努力を続ける事をお約束致します』

 

『どうかお体に気をつけて』

 

『亜梨亜様も……それでは失礼致します』

 

 

 二人が同時に一礼すると、先程までふざけていたAP-Girlsも一部の隙もなく整列しルシアに向けて全員が一斉に深々と頭を下げていた。

 

 

()()は本当に愛されているのねぇ♪』

 

 

 最後にその一言を残したルシアを乗せた専用機は、その厳島のイメージカラーである鮮やかなマリンブルーを見送る者達の目に焼き付けながら横須賀の空に舞い上がっていった。

 

 

「空ってこんなだったのね……」

 

 

 快晴の冬空に溶け込み見えなくなるまでルシアの搭乗した機体を見送ったラブはそのまま暫く空を見上げていたが、そうして両の目で空を見るのはあの三年前の初夏の悪夢の日曜日に、開け放った初代Love GunであるパンターG型のコマンダーキューポラから見た空以来である事を思い出した。

 

 

「恋……?」

 

「何でもないわ…明日から新学期かぁ、でも自分で望んだ事とはいえなんて冬休みだったのかしら……まぁ新曲は3曲出来たけどさ……でも今はそんな事はどうでもいいからお風呂に入りたいわ、さすがにこの状態は私もう耐えられな──」

 

 

 空港建屋の展望デッキでルシアを見送っていたラブがそこまで言いかけたその時、彼女も聞き覚えがある爆音が辺り一帯に轟き始め、その音が何を意味するか考えた彼女の眉根が寄っていた。

 

 

「この音は……アイツらなんで来た?つ~か誰が呼んだ?」

 

 

 どんどん近付く暴力的な排気音に全てを察したらしいラブが、背後に控えるAP-Girlsに鋭い視線を奔らせると悪びれる風でもなく夏妃が手を挙げていた。

 

 

「いやぁ、なんか知らせとかないといけないかなって気がしてよぉ」

 

「アンタね……」

 

 

ラブがガックリと肩を落とすのに合わせるように、爆音の主である最早毎度お馴染みな巨人機、サンダースが運用するC-5Mスーパーギャラクシーが彼女の頭上をフライパスして行った。

 

 

「…オマイら……何しに来た……」

 

 

 まだ大声を出したりする事を止められているラブが声を抑え苦々しげに声を絞り出している前で、アホの子達が彼女の初眼鏡姿にほっぺをオカメインコのようにしてデレた顔で雁首揃えている。

 明日からの新学期に備え帰省を終えそれぞれの学園艦に戻っていたアホの子達は、夏妃からの御注進(メール)を受けるなり即行動に移り、今回はケイがスーパーギャラクシーで各艦を回り全員をピックアップして来たのであった。

 

 

「アンジーまで……」

 

 

 手術の時こそ押し掛けるのは控えたが退院したとなれば話は別なのか、はたまたラブの初眼鏡姿の魅力には勝てなかったのか、杏はみほの隣で他の者と同様ほっぺをオカメインコにして携帯のカメラを構えていた。

 

 

「大体アンタらだって明日から新学期でしょうが……」

 

「No problem!写真撮ったらぱぱっと送って帰るから問題nothingよ♪」

 

「問題nothing…じゃねーよこの日本語英語女……」

 

 

 仏頂面でラブが皮肉を言うが、残念ながらケイの耳には届いていなかった。

 

 

「ラブ先輩申し訳ありません…でも…でも……♡」

 

 

 まほとみほの間に立ち言葉では謝罪するエリカであったが、その声と表情は完全にデレて内股でキュンキュンになっていて、ラブはそれを見て絶望的な顔になった。

 

 

「エリカさん……」

 

 

 ストッパーとしてまほに同行したはいいが、やはり彼女もラブの眼鏡姿に骨抜きされ、その隣ではみほがしたり顔でウンウンと頷いていた。

 そしてラブが最後の頼みの綱とアンチョビに目をやれば、まほの隣でネタが降臨したらしい彼女は手帳に高速で何かを書き付けているのだった。

 

 

「こりゃダメだ…ねぇ、私ずっとお風呂に入ってないしノーメイクなのよ……?」

 

 

 AP-Girlsのメンバーは化粧する事が義務付けられているが、ルシアからの指示で戦車道と同様にまだ暫くは控えるよう言われており、前髪はいつも通り落としているとはいえ普段は化粧で多少誤魔化している傷痕も露な事もあってその辺の心情的な部分からも訴えてはみたが、元々の美しさが桁違いなラブには本来化粧など必要はなく、その内面の美しさを知っている者達にとってその言い訳は全く通用しなかった。

 その後もオカメインコ達はやや不機嫌なラブが何を言っても『まぁまぁまぁ』としか答えず、パシャパシャと携帯のカメラのシャッター音を響かせてパパラッチ宜しくラブの初眼鏡姿を目の色変えて撮り続け、携帯のメモリーカードがお腹一杯になった頃漸く満足したアホの子なオカメインコ達は来た時同様忙しなく帰って行った。

 

 

「ホント何しに来たのよ…二度と来んな……」

 

 

 滞在時間数十分、爆音と排気煙を残し飛び去るスーパーギャラクシーを恨みがましい目で見送ったラブは、その目を背後にいるはずの夏妃に向けたが既に彼女の姿はなかった。

 

 

「夏妃め…逃げたか……亜梨亜ママもいつの間にかいないし……」

 

「亜梨亜様なら外せない用があるとかでオフィスに行かれたわ……」

 

「愛……」

 

 

 オカメインコの群れに手を焼いているうちに母と情報の漏洩源である夏妃の姿は既になく、退院早々ドタバタした日常が始まった事に力なく首を左右に振っていた。

 

 

「私達も帰りましょう…お風呂を沸かすわ……背中流してあげるから……」

 

「……!」

 

 

 新年早々先が思いやられる事態にげんなりしていたラブであったが、そんな今の彼女にとって最も癒しとなる一言さらりと言った愛に、抱き付きそうになるのを彼女は寸での処で堪えていた。

 

 

『ええ、お陰さまで全てが無事に終わりました。家元会議からこっち、しほちゃんには色々と面倒を掛けてしまったわね……このお返しはいずれちゃんとした形でさせてもらいますからね』

 

 

 しほが亜梨亜からの電話を受けたのは、道場の門下生でも年少者達の初稽古の後に七草粥の振る舞いを終えひと段落付いた頃であった。

 ラブの入院中も逐次報告は受けてはいたがやはり退院の知らせこそが一番安心するものであり、それを聞いた時には亜梨亜に聞こえぬようそっと溜め息を吐いたしほは、空いた手でそれまでの緊張を解きほぐすように自らの肩を揉んでいたが、自分でも驚く程こっていた事に気付きその痛みに思わず顔をしかめていた。

 

 

「亜梨亜様、どうかお気遣いなく……」

 

 

 諸々丸投げにされた時は亜梨亜に対し心の内でこの貸しは高く付くなどと嘯いていたしほではあるが、文字通り肩の荷が下りた思いの彼女は心の底からホッとしたのであった。

 

 

「それよりも亜梨亜様、恋達はもう間もなく新設校同士の総当たり戦が始まりますがそちらの方は大丈夫なのでしょうか?連盟の不手際で申し訳のないことですが、総当たり戦の初戦が一月下旬に前倒しになりましたのでそれに恋が間に合うかどうか……」

 

 

 微妙に表情を曇らせたしほが執務室から庭へと目を向けると、朝からすっきりとしなかった空から彼女の心情を表すように白い物が舞い落ち始めていた。

 

 

『それでしたら問題ありません、後二週間は念の為運動は止められていますがそれ以降は一切制限はなくなりますので。その間もAP-Girlsの訓練の監督は出来ますし、恋自身はその程度のブランクでどうにかなる程柔に育ててはいませんから』

 

 

 しかしそんなしほの想いを払拭するように亜梨亜は問題なしと言い切った。

 

 

「はぁ…亜梨亜様がそう仰るなら大丈夫なのでしょうね……」

 

 

 医師からの指示はともかく亜梨亜の子育てが如何なるものであったかは、夜叉姫に鍛えられたしほとしてはあまり想像したくはなかった。

 だがラブが既に厳島流家元である事を考えれば、彼女がその程度の強さを身に付けている事も同じく家元であるしほには想像に難くない事だろう。

 

 

『あの子なら間違いなく全国大会までは駒を進めるわ、そこで黒森峰と当たるか否かはクジ運次第ですけどね……そうそう、まほちゃんの卒業祝いにはそちらに伺うわ…でも時の経つのって本当に早いわね、まほちゃんがもう大学生だなんて……ハァ、私が年取るのも無理ないわねぇ……』

 

 

 ラブと共に姿をした三年前、いや、もっとそれ以前から年を取った気配のない亜梨亜の言う事にはどこか釈然としないしほであった。

 

 

「それ本気で言ってらっしゃいますか……まぁそれはいいとして、私はまほの卒業前に千代美さんのご両親の所に常夫さん共々ご挨拶に伺わねばなりませんからご予定は早めに──」

 

『それよっ!』

 

「うわっ!?」

 

 

 突然耳元で響いた亜梨亜の叫びに驚いたしほは思わず携帯を取り落とした。

 

 

『もしもし!ねぇしほちゃん聞いてる!?』

 

 

 足元に落ちた携帯からは尚も亜梨亜の叫びが聞こえ、何やら必死さだけが伝わってくる。

 落とした携帯を拾い上げたしほは興奮気味に捲し立てる亜梨亜の声に、またしても厄介事を予感しそのまま切ってしまおうかなどと考えていた。

 

 

「聞こえていますよ……」

 

 

 しかし考えはしても実際そうする訳にも行かず、しほは耳に当てずとも聞こえる亜梨亜の声に向かい勤めて落ち着いた声で呼びかけた。

 

 

『ああ良かった、切れちゃったのかと思ったわ!しほちゃん千代美さんのご両親に──』

 

「ですから亜梨亜様アクセルから足を離して下さい!」

 

 

 しかしその程度では止まる所を知らぬ亜梨亜に、さすがにしほも切れてしまう。

 

 

「いいですか?何を仰りたいのか全く話が見えません、落ち着いて最初から順序立てて話して下さい。但し充分に聞こえているのでもっと小さな声でお願いします()()()()()()()()

 

『……』

 

 

 高校時代の二つ名と呼称を繋げて呼ばれた亜梨亜はそこでやっと口を噤み、少々しほにお小言を喰らった後にグダグダ感の残る口調で事情を語り始めた。

 アンチョビとは直接話をしたものの今更どの面下げてな程時間が経過してしまい、彼女の両親にラブと二人だけで会う事に大きな不安を抱えている事を吐露し、しほと常夫が挨拶に行く際に自分達親子も便乗させて欲しいと願い出たのであった。

 

 

「だからどうしてその程度の事で亜梨亜様はそうもポンコツになるんですか……?」

 

『だってそうは言うけど開校前後からのゴタゴタ続きで、完全にタイミングを逸しちゃったんだもの。いくら千代美さんにああは言って頂いても、いざお会いするとなったらとなったら私もうどんな顔すればいいのやら…その点しほちゃんが一緒にいれば心強いし……だからお願いよぉ~!』

 

「あぁもう解かりました、解かりましたから大きな声出さないで下さい!」

 

 

 話すうちに段々と声のトーンが上がって来た亜梨亜に、もう考えるのが面倒になったしほが些か投げやりな調子で彼女の依頼を了承した。

 

 

『しほちゃんありがとう!予定はしほちゃんのいいように組んで貰って構いません!こちらは全てそれに合わせますので宜しくお願いします!』

 

 

 しほに諌められたにも拘わらず、音が割れる程の声で感謝の言葉を電話の向こうで叫んでいた。

 だがあまりの煩さに再び携帯を耳から遠ざけたしほは、予感が的中しやはり面倒な事態になった事で電話を切らなかった事を後悔していた。

 

 

『亜梨亜様…これは本当に高く付きますからね……』

 

 

 掌の上で賑やかな携帯を見つめ、しほは心中そんな事を呟いていた。

 そして亜梨亜がしほ相手に携帯でドタバタを演じていたその頃、久しぶりで寮であるマンションにたどり着いたラブは部屋に入るなり深呼吸をしてしみじみと呟いていた。

 

 

「あぁこの匂い、二人の部屋の匂い…愛の匂いだわ……帰って来たのねぇ~♪」

 

「な、なにバカな事言ってるのよ…お風呂沸かすわ……」

 

 

 部屋に帰り着くなり戯言をぬかすラブから赤くなり掛けた顔を逸らし、愛は今最もラブが望む事である入浴の準備をする為バスルームへ小走りに飛び込んで行った。

 ルシアにまだおあずけを言い渡されているにも拘わらずラブが不用意な事を言った為に、途端にそれを意識してしまった愛は耳まで熱くなっている事を自覚していた。

 バスタブの栓をした事を確認した愛はコントロールパネルを操作して湯を張り始めたが、これからラブの入浴の介助をする事を考えると平常心を保てるか自信がなくなっていた。

 

 

「バカ…なんであんな余計な事を言うのよ……」

 

 

 湯気の立ち込め始めたバスルームで愛は独り悶々とした想いを持て余しながら、バスタブに噴出する湯の流れが作る渦を見つめていた。

 

 

「沸いたわ……」

 

「や~♪待ち兼ねたわ~」

 

 

 愛の想いなど露知らぬラブは能天気に喜んでいるが、一方の愛は何処か悲壮感が漂い自分を抑えるのに必死なようだが、待ちに待った入浴にラブはそれに気付いていなかった。

 

 

「…保護フィルムを貼るからそこに座って……」

 

「うん、お願いね~」

 

 

 ラブは鏡台の前に座ると眼鏡を外し、右目と頬に奔る深い傷痕を隠す為に長く落としている前髪をヘアピンで留め、愛が作業し易いよう顔を上げ瞳を閉じた。

 入浴の許可を得てはいるが、まだ患部である右目は当面の間は保護するよう指示を受けており、その為の保護フィルムを貼ってやるのも愛の役目になっていた。

 だが保護フィルムを手にした愛がそれを意識せぬよう作業に集中しようとしていたが、その目の前では形の良いラブの唇が艶かしく彼女の事を誘っているように見える。

 

 

「…出来たわ……」

 

「ん、さんきゅ~愛♪」

 

 

 次いでラブはルシアの見送りの為に着用していた制服を脱ぎに掛かるが、肩に可動範囲制限のある彼女は自力で全てを脱ぐ事が出来ず、いつものように愛が脱がせてくれるのを待っていた。

 

 

「愛……?」

 

 

 しかし背後に回った愛が一向に彼女の制服のブレザーに手を掛けず、不思議に思ったラブが振り返ってみれば愛が制服の肩に手を掛ける体勢で固まっているのが見えた。

 

 

「あれ?どうしたのよ?」

 

「…ごめんなさい、なんでもないわ……」

 

 

 ラブの問い掛けにやっとそれだけ答えた愛は、やや震える手でラブの制服を脱がせに掛かる。

 部屋に戻りコートを脱がせた時と違い、ブレザーを脱がせればその下のブラウス越しに透けて見えるブラのラインが嫌でも目に入り、愛の理性は徹甲弾を撃ち込まれたように激しく揺れていた。

 そしてその高校生にあるまじきけしからんサイズで、背中越しでもはっきりそれと分かる程突き出たたわわが止めを刺すように愛の目を奪っていた。

 

 

「よし外れたわ~」

 

「う、うん……」

 

 

 そんな彼女の目の前でラブがリボンタイを解きブラウスのボタンを全て外せば、これまた高校生にあるまじき大人なデザインでけしからん黒のブラとグランドキャニオンですら惨敗なたわわの谷間が露になり、愛は荒くなり始めた息を必死に抑えながらブラウスを脱がせていった。

 衣擦れの音と共にラブの背中からブラウスを剥ぎ取ると、今の愛の目にはかなり刺激の強過ぎるラブのたわわをガードする最後の砦、黒のマジノ線とでも云うべきブラが姿を現した。

 そして愛が更に震える手で封印を解くようにブラのホックを外してやると、抑圧から解放されたたわわが止めを刺すかの如くぷるんと弾けた。

 

 

「あ、後は自分で出来るわよね…私先に行って自分の支度してるわ……」

 

「え?あぁ解かったわ……」

 

 

 ラブの肩からブラのストラップを外してやった愛は逃げるようにバスルームへ向かい、その余所余所しさを不思議に思ったラブはポカンとその背中を見送っていた。

 

 

「……?あ、早く脱がなきゃ……」

 

 

 ブラを外したラブは厳島と笠所のイメージカラーになっているマリンブルーのチェック柄のミニスカートを下ろし、その日本人離れした長さと比率を誇る美脚を覆い隠す絶対領域(オーバーニーソックス)を脱ぐと、最後の薄布一枚のみの姿で愛に続きバスルームへと向かった。

 

 

「ね~、もういいかな~?」

 

 

 洗面所兼用の脱衣所で脱いだ衣類を洗濯ネットに分けて入れたラブは、バスルームにいる愛に声を掛けるが返事がなく洗濯機にネットを入れた後に中を覗いて見ると、出しっ放しのシャワー片手に愛が何処かぼ~っとした様子で佇んでいた。

 

 

「愛…さっきからどうかした……?」

 

「な、なんでもないわ…さ、もういいわよ……」

 

「そお……?」

 

 

 訝しむラブであったが、約10日ぶりの入浴で浮かれた彼女には愛の心情まで頭が回らなかった。

 そんな彼女が軽い足取りでバスルームに足を踏み入れれば、それに合わせてたわわもユサユサと踊り愛の目を釘付けにする。

 

 

『助けて……』

 

 

 今の愛にとってその光景は拷問でしかなく、思わず天を仰いだ愛の唇からはそんな彼女の胸のうちが呟きとなって零れていたが、それはじきにラブも思い知るものであった。

 

 

「うぅ……冬場とはいえお風呂は入れないのは辛かったわ~」

 

 

 かくして湯煙の中バカップル真っ盛りな二人には、ある意味入院中よりも尚辛い禁欲地獄の二週間が幕を開けたのだが、その真の辛さは愛ですらまだ理解出来てはいなかった。

 

 

 




最近やっと登場人物達が程好くポンコツになって来た気がしますw

尚ここから先新設校同士の総当たり戦の前に、
高校編の第一章で蒔いた伏線の回収話が幾つか入ります。
個人的にはそこにやっとたどり着いた事が感慨深いものがありますが、
お読み頂いている皆様にも楽しんで貰えるといいなぁと思っています。

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