ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

151 / 309
ちょっと仕事が忙しくなって昨日は投稿が出来ませんでした。

いよいよバカップル解禁ですw


第十五話   本能(煩悩)の赴くままに

『だぁ~っ!そうじゃねぇつってんだろうが!最初っからやり直しだぁ!』

 

「やってるわね……」

 

 

 無線機のスピーカーから夏妃の怒号と砲声が轟く中、空港の管制塔を想わせるガラス張りのタワー上の空間でラブが()()()を覗きながらそれに耳を傾けている。

 正月休みも終わり、迎えた新学期は年度の集大成となる最終学期である。ラブ率いるAP-Girlsにとっては初の公式戦となる新設校のみが全国大会のチケットを懸けて戦う総当たり戦、新設校リーグが控える非常に重要な学期であった。

 始業式の終了後早々に訓練を始めたAP-Girlsだが、ラブは主治医のルシアよりまだ二週間程激しい運動は止められているため、彼女のみ実戦には参加せずに、演習場を管理するコントロールタワーで訓練全体を統括する役割に専念していた。

 

 

「え~っと隊列の正面からの映像貰える?」

 

「はい…今正面にいるドローンは8号機ね……お待たせしました」

 

「ん、ありがと…大分飛ばしてるわね、まぁ夏妃らしいけど……」

 

 

 艦全体に厳島特有の少数精鋭思想が色濃く反映している為に、人員の絶対数が少ない笠女学園艦はあらゆる面で機械化と自動化がなされ、それはこの戦車道の訓練施設でも例外ではなかった。

 今ラブがマルチモニターで確認している空撮映像も、厳島のグループ内で独自開発された最新のドローンから送られているもので、彼女達は日頃からこのように最新機材を取り入れた、おそらくは戦車道の世界で最も先進的な訓練を行っていたのだ。

 西住流とほぼ同時期に生まれた厳島流ではあるが、その思考は常に柔軟性を維持し、流派にとってプラスになるものであるならば積極的に取り入れ、それを糧に更なる進化を続けていた。

 

 

「夏妃~飛ばし過ぎよ~。そこはもう少し抑えて精度を重視して頂戴」

 

『わ~ってるよっ!』

 

 

 いつもの咽頭マイクをではなくインカムを使用しているのを忘れ癖で喉下に手を当ててしまったラブは、それに気付き苦笑すると腰に付けている無線機本体のトークボタンを押して夏妃に呼び掛けたが、今日の訓練の実戦指揮を押し付けられた彼女の返事はいつも以上にガラが悪かった。

 

 

「それじゃあもう一度ターゲットドローンの用意をしてくれる?」

 

「了解です……的の傾斜はどうしますか?」

 

「今のティーガーⅠ想定のまま真っ直ぐでいいわ、単に命中精度の確認だからね~」

 

「はい、設定変更はなしと……」

 

 

 ラブの指示を受けたオペレーターがパソコンとそれに繋がれたジョイスティックに手をかけ、モニターに映る映像を見ながら地上走行型のドローンの操作をしている。

 どうやらドローンに搭載されたカメラから送られたリアルタイムの映像を見ながら操作しているらしく、周りにも同様のシステムがある処を見ると同時に複数のドローンを使う事も可能なようだ。

 

 

「準備完了、いつでも行けます」

 

「おっけ~♪夏妃聞こえる?市街地遭遇戦ケースB-3もう一度行くよ」

 

『了解だ!』

 

 

 無線で指示を出しながらラブがメインモニターに目をやると、ブルー・ハーツを先頭に極端に車両間隔の狭い楔形を形成したAP-Girlsの5両が石畳の市街地区画を疾走していた。

 そしてその攻撃陣形こそラブがミニカイルと命名し、大洗戦以降対戦者を震え上がらせている高速機動からのピンポイント同時砲撃を行う為の陣形であった。

 この陣形の先頭はこれまで隊長車であるLove Gunが勤めていたが、そのLove Gunの主たるラブが不在な今、夏妃の指揮するブルー・ハーツが楔の頂点に収まっていた。

 どうやらAP-Girlsは既に全車がミニカイルの先頭を勤められるレベルに達しているらしく、もしこの事実を世代交代を果たした各校の隊長達が知れば厄介な事になったと頭を抱える事だろう。

 そしてもう一つ特筆すべき事実は、鈴鹿のブラック・ハーツと共に最後尾を固めるLove Gunの車長を、同車の通信手である花楓が他の車長となんら遜色なく勤めている事かもしれない。

 これは以前サンダース戦などでも目撃された光景ではあるが、この密集隊形での高速機動でも問題なく指揮を執れるという事が彼女の指揮能力の高さを如実に示していた。

 因みに、この件が最初に確認された頃より、各校の間ではAP-Girlsのメンバー全員に車長クラスの指揮能力があるのではとの憶測が流れていたが、同時に懐疑的な声も上がっていた。

 噂をする当人達はその考えが良い処を突いている事に気付いていないのだが、それを知るのはもう少し先の事であり、実際には更に恐ろしい現実が待ち受けているのだった。

 

 

「さて、それじゃ行きますよ~」

 

 

 ターゲットドローンの操縦担当者が両手をグーパーさせた後にジョイスティックを握り前に倒し込むと、市街地区画の朽ちた教会を模したセットの陰に身を隠していたターゲットドローンが殆どタイムラグなしで前進し始めた。

 サイズ的にはアンツィオが使用するタンケッテより一回り程小さいだろうその車体は、どちらかというとマイクロユンボなどの重機に見た目の印象は近く、実際ターゲットの鉄板を乗せた車体その物が旋回する処を見ると、ベースとなっているのは重機の類と見るのが正解かもしれない。

 

 

「さて夏妃はっと……うん、さっきよりは抑えてる、これなら行けるわね」

 

 

 ラブはドローンが中継しているリアルタイム映像からAP-Girlsの機動速度を読み取り、夏妃がしっかりと修正を入れている事に満足げに頷いていた。

 

 

「う~ん、それにしてもここから俯瞰で訓練見るのもいいわね、現場でドタバタやってると気付かない事もここからだと結構よく見えて来るわ」

 

「ここは眺め自体もいいですからね~♪でも厳島隊長、あまりモニターばかり見過ぎないよう気を付けて下さい、まだ眼鏡にも慣れていないはずですから」

 

「あ……うん、気を付けるわ」

 

 

 どうやらこのコントロールタワーの責任者らしい生徒が、自身が掛けるピンク色のスクエアタイプのフレームの蔓を摘みながら微笑んだ。

 

 

「うふふ♪でも眼鏡がとても似合ってますよ、朝から学校中が凄い騒ぎですもの♡」

 

「そお?」

 

「えぇホントですよ、気の早い子は隊長が使ってるフレームをネットで検索してますから」

 

「え~?なにそれ~?」

 

 

 今日は始業式のみでまだ昼にもなっていないのに校内では既にラブの眼鏡姿は話題になっており、その話の広がり方の速さにラブも目を猫のように細め苦笑していた。

 

 

「そりゃ~全校生徒の憧れの()()()の動向は常にチェックされてますから♪」

 

「カンベンして~」

 

 

 あちゃ~っとばかりにラブが悲鳴を上げると、コントロールタワーに詰める演習場の管制スタッフ達から一斉に笑い声が起こった。

 ラブはAP-Girlsのみならず学園全体の憧れの的であり、彼女が身に付けるちょっとしたアイテムですらも少女達にとって興味の対象になっているのだった。

 

 

「厳島隊長、AP-Girls会敵10秒前です」

 

「了解よ、ブルー・ハーツと真上からの映像を出してくれる?」

 

 

 ラブの指示を受けた映像担当のスタッフがカメラを切り替えると、メインモニターにラブの指示したカメラから送られてくる映像が分割画面で表示された。

 疾走するAP-Girls追って飛ぶドローンからの映像を見ると、彼女達の組む隊列の間隔の狭さと各車の操縦手の技量の高さが窺える。

 

 

「さぁいよいよね……」

 

 

 楔を崩す事なくドリフト旋回で交差点を左折したAP-Girlsの前を、枝道から姿を現した的を掲げたドローンが横切ろうとしていた。

 

 

「撃てぇ!」

 

 

 これでも抑え気味らしいがそれでもかなりの高速機動中であり、通常であればまず撃とうなどと考える事は出来ない状況だが、楔の頂点に位置するブルー・ハーツのコマンダーキューポラに収まる夏妃の号令と共に5門の長砲身50mmから徹甲弾が撃ち出された。

 

 

「Jack pot♪」

 

 

 砲撃直後ラブは目を狡猾な狐のように吊り上げ艶然とした笑みを浮かべ呟くと、それに合わせるようにターゲットドローンに搭載された的が火球に飲み込まれていた。

 

 

「Break!」

 

 

 火球が収まらぬうちに夏妃が叫び瞬時に隊列が崩れると、左右に分かれてターゲットドローンの脇を次々駆け抜けて行った。

 そして彼女達が駆け抜けると共に巻き起こした風が纏わり付いていた黒煙を薙ぎ払うと、そこにはど真ん中に大穴を空けられた的を掲げたターゲットドローンが残されるのみであった。

 

 

「いいわね♪このパターンはもう誰が頭張っても問題ないわ」

 

 

 ラブが手元のクリップボードを取り上げてチェックリストらしき書類に何やら書き込み再びモニターに目を向けると、一度崩れた隊列が今度は一列縦隊で組み直され、何事もなかったように石畳を履帯で削りながら市街地区画を走り去っていった。

 

 

「それでも夏っちゃんがヘッドの時の突撃速度はFour cardの中でも突出して速いですね」

 

「そうね、これからは状況に応じてそれぞれの特性活かした隊列を組むのもアリかもね~」

 

 

 メインモニターに各車長のパラメーターを呼び出したオペレーターの一人がその数値を比較しながら言った事にラブも同意しつつ、新たな選択肢に大いに気を良くしていた。

 

 

「さて、もう1ラウンド位は出来ますがどうしますか?」

 

「ん~そうねぇ……いや、いいわ、みんな呼び戻してちょうだい。まだ初日だし、午前中はこれで終わりにしましょう、ディレクター達もゆっくりお昼休みを取ってくれていいわ」

 

 

 ラブの提案を受けてピンク色のフレームの眼鏡を掛けた少女は一礼すると、他のスタッフ達に訓練の終了を宣言し、全ドローンに対してプラットホームへの帰投コマンドを送信させた。

 

 

「帰って来たわね…それじゃ私もお昼食べに……」

 

 

 そこまで言いかけたラブだったがそれまでの楽しげな表情が一転暗いものになり、やたら重い足取りで地上に降りるべくエレベーターに乗り込んで行った。

 愛は前日の()()()()()()アクシデント以降、自発的にラブの下を離れ、食事の時すら一番遠い席に着き、口を利かない処か目すら合わせない程徹底してラブと距離を置いていた。

 そして愛はラブの()()()までそれを続ける気でいるらしく、彼女さえ隣にいればカップラーメンですらご馳走になるラブの落ち込みようは酷いものであった。

 

 

「うぅ……」

 

 

 本人達は悲劇に浸りきっているが、それに巻き込まれる他のAP-Girlsのメンバー達にとっては只々傍迷惑な喜劇でしかなかった。

 

 

「ねぇ、何もそこまでしなくてもいいんじゃないの?」

 

 

 冬休みが終わり日常の喧騒を取り戻した昼休みの学食に、AP-Girlsが午前の訓練を終え旺盛な食欲を見せる姿があった。

 昨夜部屋に泊めた愛が深夜にやらかした結果、少々寝不足な鈴鹿が疲れの滲んだ声で話し掛けたが、愛は更に身を小さくして彼女の影に隠れてランチの定食を食べていた。

 

 

「…だから私を巻き込むな……」

 

 

 それはとてもささやかな願いだったが叶う事はなく、解禁日まで連日連夜存分に巻き込まれ、無駄に消耗戦を繰り広げるはめになっていた。

 だがそれは鈴鹿だけに限った事ではなくチーム全員に降り掛かる災難でもあり、ラブと愛は後日非常に大きなツケを全員に払わなければならなかった。

 

 

「…マジで高く付くからね……」

 

 

 鈴鹿に愛がピトっと張り付くようにしているのを見て、恨みがましい視線を送るラブを睨み返した彼女はドスの利いた声で呟くのだった。

 そして、その後ゆっくりと昼休みを過ごしたうえに午後は軽い調整程度の訓練であったにもかかわらず、鈴鹿だけは独り疲れ切った顔で訓練を終えていた。

 

 

「鈴鹿、今夜からは私がそこで寝るから……」

 

「いいからアンタはそのままベッド使ってて、私は昔からこういうの慣れてるから……」

 

 

 笠女入学前は一体どんな生活をしていたのか気になる処であるが、AP-Girlsのメンバーの間で互いに過去を詮索する事はなかった。

 前夜に続き愛は鈴鹿の部屋で過ごす事になっていたが、今夜は最初から鈴鹿がリビングに敷かれたラグの上に寝床を作り就寝に備えていた。

 

 

「でも……」

 

「変に気を使わないで寝なさいよ、私もこれ以上言い合って疲れる気はないの」

 

 

 言うだけ言ってそれ以上は聞く耳持たぬといった態度を示した鈴鹿に愛は済まなそうな顔をしたが、実は昨夜のような轍を踏まぬ為に目の毒でしかない奇跡のロリ巨乳のキャミソール姿から目を逸らしているだけであった。

 鈴鹿としてもこれ以上事態をややこしくして、ラブに理不尽極まりない恨みがましい目で睨まれるのは御免だったのだ。

 だが、訓練こそ普通にこなしてはいるものの、それ以外ではロリ巨乳とグダグダなラブが確実に鈴鹿のライフを削り、三日目には見かねた凜々子がドクターストップを掛け、以降愛は他のメンバーの部屋を転々としながら解禁日までを過ごしたが、その間確実に禁断のロリなたわわはメンバー達の精気を吸い取り続け、チーム全体が悶々とした危ない集団と化していた。

 

 

「愛と密室にいるのがあんなにヤバい事だと思わなかった……」

 

 

 おあずけ解禁となる最終日。愛を自室から送り出した後に夏妃が深い溜め息と共に呟いたこの言葉はメンバー全員の気持ちを代弁したものであった。その最終日に病院で衛星回線を通してニューヨークにいる彼女の主治医であるルシアの問診を受け、やっと()()の許可が出た途端下心全開で猥褻な笑みを浮かべたラブは、一緒に話を聞いていた亜梨亜の存在を忘れてすっ飛んで帰ってしまい、海の向こうのルシアを爆笑させていた。

 

 

「お~い……」

 

「愛……♡」

 

「もしも~し、聞いてる~?」

 

「恋……♡」

 

「聞いちゃいねぇ……」

 

 

 瘴気のようなレベルで悶々としたフェロモンを放ち、ラブと愛が見つめ合って今にも熱い抱擁を交わし唇を重ね舌を絡ませそうな勢いだったが、彼女達がいるのは愛の巣である二人の部屋ではなくAP-Girlsのブリーフィングルームであり、今も訓練前のミーティング中であった。

 しかし、その前に病院に行っていたラブは亜梨亜を病院に置き去りにして学校に戻ると、この部屋に直行し愛の手を取りねっとりとした視線を絡ませていた。

 そんな二人に日替わり隊長の凜々子が投げやり気味に呼び掛けはしたが、盛る寸前みたいなバカップルの耳にその声は届いてはいなかった。

 

 

「バカに付ける薬があったら私一斗缶で買うわ、それであのバカ二匹の頭からぶっかけるの」

 

 

 抑揚に欠ける平坦な声でそう語る凜々子は表情からも感情が読み取れなかったが、よく見るとその瞳には鬼火のような怒りの炎が宿っていた。

 かくして右目の手術後に初めて全ての制約から開放されたラブは、凜々子の怒りを買いつつも、その後の訓練ではそれまでの鬱憤を晴らすかのように無双の大暴れでFour cardを瞬殺してのけ、訓練終了後は愛の手を引いてあっという間に姿を消し、夕食を取りに出掛ける時まで姿を見せなかった。

 

 

「雌臭い……」

 

「ちょ!?」

 

「夜まで待てないとかサルね」

 

「な!?」

 

「訓練後汗掻いたまま盛るとかどんだけ飢えてんだ」

 

「くっ……!」

 

 

 夕食に向かう集合時間に寮であるマンションのエントランスに二人が姿を現すと、既に集まっていたAP-Girlsのメンバー達は開口一番口々に言いたい事を言っていた。

 

 

「あ…アンタ達ね……」

 

 

 震える声で言い返そうとするラブであったが誰一人聞く耳を持たず、すっかりテカテカな顔の彼女はそれに対してそれ以上何も言えなかったが、そんなラブに寄り添う愛は幸せそうであった。

 

 

『そうですか、それは何よりでした……』

 

「えぇ、お陰様で今日から戦車に乗っても大丈夫とお墨付きを頂きました……」

 

 

 ラブがAP-Girlsから好き放題言われていた頃、暴走した彼女に置いてきぼりを食らった亜梨亜は、しほにやっとラブに課されていた全ての制限が解除された事をを報告し、遠く九州は熊本にいるしほの声も喜びが溢れとても軽やかだった。

 

 

「それで、もう恋は戦車に乗っていますか?」

 

「えぇ乗っていますとも、戦車処か愛さんにも」

 

 

 投げやりな口調で亜梨亜が爆弾を投げた瞬間、電話の向こうで何やら色々と落ちたり割れたりする音が続き、止めのデカい音はどうやらしほが椅子から転げ落ちた音らしい。

 

 

「あ…亜梨亜さま……」

 

「全くあの子ったら、解禁になった途端、母親を病院に置き去りにして肉欲に奔ったのよ?」

 

「……」

 

 

 漸く椅子によじ登ったしほの搾り出すような声を無視するように、亜梨亜は教育機関のトップにあるまじき台詞を乱発していた。

 

 

『若かりし頃のアナタにそっくりじゃないですか……』

 

「何か言った……?」

 

『いえ別になんにも!』

 

 

 いつもの西住流の制服が着崩れ髪も乱れたしほは、答える声も投げやりだった。

 しかし、今のしほの言いようからするとラブはその外見だけでなく言動までもが亜梨亜に似ているという事になるが、今の彼女からは凡そ想像が付かなかった。

 だがラブとまほ同様に幼き頃からの付き合いがあるしほは、その辺も一番良く解かっているのだろう。

 もうそれ以上の愚痴に付き合いきれなくなったしほは、尚も何やら言っている亜梨亜を無視して一方的に電話を切っていたが、亜梨亜はそれにも気付かず10分程愚痴を言い続けていたという。

 そんなやり取りがあった事など知るよしもないラブは、学食で夕食を取る間中AP-Girlsからそのケダモノぶりをネタにされていたが、愛が傍らに寄り添っているので何を言われても堪える事はなくその雰囲気のまま寮に戻り()2()()()()()に突入するのだった。

 

 

「テメエらいつまで盛ってやがるっ!?今何時だと思ってんだぁ!?」

 

 

 騒音対策が万全なマンションであるはずなのだが、エンドレスで電撃戦に耽る二人のせいで真下の部屋に住む夏妃は眠る事が出来ぬ程の騒音にキレてしまい、二人の部屋のドアを蹴飛ばしながら大声で怒鳴っていたがそれすら気付かぬ程ケダモノ達は蜜の味に溺れていた。

 

 

「うるさいのはアンタの方よ!こんな時間に廊下で怒鳴るバカが何処にいるのよ!?」

 

 

 そういう凜々子も声を荒げている辺り冷静な判断が出来ていないが、夜中の3時ともなればさすがにそれも無理のない事で、最後の最後まで迷惑掛け放題なバカップルには何を言っても無駄だった。

 

 

 

 

 

「やっと来たか……」

 

 

 解禁から三日後の放課後、漸く盛りを過ぎ落ち着きを取り戻したラブは、隊長執務室で一通の封書を手に感慨深げに呟いていた。

 その封書の差出し人には日本戦車道連盟の名が記され、宛名は笠女戦車隊隊長宛になっており、その様子からすると何やら公的な物である事を感じさせた。

 

 

「ふ~ん、一応は理事長の名前で私宛に送られて来てるのね……」

 

 

 封書の裏と表を幾度か見返したラブがペーパーナイフで開封し目を通すと、在り来たりな挨拶文の後に続く文面は、新設校による総当たり戦の正式な日程表と、参加校隊長並びに福隊長を集めての合同説明会を兼ねた顔合わせ会の告知であった。

 

 

「…10日後ねぇ……何?このドタバタぶりは。大体試合そのものも結局は大幅前倒しで一月スタートになってるし……もしウチ(笠女)がこの日程に練習試合とライブイベントでも入れてたら連盟はどうする気だったのかしら?有料ライブはあくまでも試合と切り離した戦車道とは別のイベントなんだし、キャンセルになれば確実に損失が発生するけど連盟にそれをどうにか出来るとも思えないわ……」

 

 

 大洗の初出場初優勝によって暗黙の了解が崩壊した高校戦車道全国大会はそのあり方の転換期を迎えており、これまで出場経験のない高校には代表校を選出する地区大会への参加が義務付けられていた。

 そして経験の浅い一年生しか存在しない新設校にはルーキー校のみで戦う総当たり戦が用意され、その優勝校に全国大会出場のワイルドカードが与えられる事になっていた。ラブには他校との実力差が大き過ぎる事が解かっているため話が出た初期の段階から自分達を地区予選組に回すよう要請していたが、それが聞き入れられる事はなく、彼女は大いに不満を感じていた。

 

 

「ホント、こういう事はもっと早く告知してほしいもんだわね。ウチだって明日の朝には出港だし連盟本部には空路で行く事になるけどヘリを置く場所確保出来るのかしら?」

 

 

 愚痴混じりに送られて来た書類に目を通すラブだが、傍らで事務仕事を手伝う副長である愛はいつもの無表情でそれに応える様子はない。

 だがよく観察していればその表情は満ち足りており、平たく言えばテカテカで、更によく観察していれば時折二人は瞬間的に熱い視線を絡ませたりしていた。

 そして愛と同じく執務室で弾薬の申請書を纏めていた凜々子はこめかみに怒りのバッテンを浮かべ、イライラと書類を書き殴っていた。

 

 

「ねぇ?それよりこっちの方が問題だと思うけど、ラブ姉はどうするつもり?」

 

 

 凜々子の隣でメールのプリントアウトらしき書類束を纏めたクリップボードを鈴鹿が掲げて見せ、それを見たラブは腕を組み渋い顔になった。

 

 

「日程的には総当りまでに二、三試合ぐれぇは出来んだろ?」

 

「移動距離とかそれに掛かる時間とか考えてないでしょこのバカ!」

 

「んだとぉ!?」

 

 

 ノートPCで備品申請書をチェックしていた夏妃はカレンダーに目を向けて笠女の展開能力ならそれ位出来るだろうと考えたが、それを即座に凜々子に否定されカッとなり声を荒げていた。

 

 

「まぁ確かにこれ以上お断りも出来ないし、肩慣らしの意味でも一試合はやっておきたいわね…でも事前の告知やチケット販売の事を考えると最短でも連盟でも説明会の後か……」

 

 

 ラブの呟きを受けて愛は即座に壁の大型スクリーンに艦の予定航路を呼び出すと、合同説明会が行われる予定の日付を入力してその前後の予想ポジションを表示させ、更にその近辺で邂逅出来そうな学園艦の校名をピックアップしていた。

 

 

「ん~、私と愛が東京に行って戻って準備時間を考えるとこの辺りかな……?」

 

 

 ラブがレーザーポインターで指し示した学園艦のデータを愛が即座に呼び出した。

 

 

「で?なんて学校?」

 

「聖ジョアンナ(優雅)女学院……」

 

「…どっかで聞いたような名前ね……」

 

 

 フっと脳裏に紅茶女のシルエットが過ぎったラブであったが、変な先入観は持たぬ方がいいと思い直し、軽く頭を振ってその考えを脳内から追い出すと視線で愛にその先を促した。

 そして愛も無言でそれに応えるように、聖ジョアンナ女学院のデータをスクリーンに表示した。

 

 

「え~っと、再履修校だけど去年の春から経営が変わったのに伴って校名も変えてるのね……使用戦車はチャーチルとマチルダ……」

 

 

 データベースに登録されていた基本情報に加え愛がアクセスした聖ジョアンナの公式ページを見た一堂は、そのトップページを見て暫く言葉を失っていた。

 

 

「なあ?これいいんか……?」

 

『……』

 

 

 彼女にしてはえらく歯切れの悪い物言いに、その場にいる者誰一人として答える事が出来ない。

 そんな彼女達の目に映る聖ジョアンナの公式ページのパッと見はどうにも紅茶女の所属する伝統校の公式ページに酷似しており、全員どう突っ込んでいいか言葉が見付からないようであった。

 

 

「ほ、他の艦の日程はどうかしら……?」

 

「駄目…他はみんな微妙に日程が厳しくなるわ……」

 

 

 愛が他の候補を検索したが、どの艦も後に控える総当たり戦に影響が出るスケジュールになる位置関係にあり、どうやら他に選択肢はないようであった。

 

 

「この聖ジョアンナが一番熱心に申請して来てはいるみたいだけどね……」

 

 

 鈴鹿はクリップボードに纏められたプリントアウトの束の中から、聖ジョアンナのメールを選び出しその枚数を数えながら呟いた。

 

 

「ここまでして頂いてお受けしないのもさすがに失礼ね…いいわ、この聖ジョアンナからのオファーをお受けして……私の名前で受諾のメッセージを送っておいて頂戴」

 

「解かった……」

 

 

 愛がラブの下した決定を受け即座にメールの作成を始め、凜々子と夏妃が顔を見合わせると、あまり気乗りしないのか独り鈴鹿は肩を竦めた。

 

 

「みんなそんな顔しないの、相手を選り好みしてるとか思われたらイメージ悪いじゃない……」

 

 

 しかし決定を下したラブの口元も微かに引き攣っており、些か説得力に欠けていた。

 そしてその時全員が直感的に感じていたものは、最低な形で彼女達の前に現れるのであった。

 

 

 




なんか最後の方でまた変なのが出て来たww

古い付き合いの同業者が倒れてしまい一部業務を私が引き受ける事になったので、
暫くの間定期的な投稿が出来ないかもしれません。
出来るだけ週2ペースは守りたいけどちょっと微妙な状況です。
ですが投稿が途切れる事がないようにはしたいと思ってますので宜しくです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。