ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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あまりに忙し過ぎて週に一回の投稿しか出来ない状態です……。



第十七話   ぱ~じりん

「あぁ…あの子が例の……」

 

 

 話で聞いただけの先入観のみで相手を判断するのは良くないと思いつつも、大声で何やら色々と間違えている気がする、どこかで聞いた覚えのある妙な丁寧語で話す一団の中、とりわけ騒がしい存在に目を留めたラブはそれが噂通りの人物であると直感していた。

 

 

「おっ紅茶とお茶菓子の準備は出来ていますのっ!?」

 

『う~ん…あれじゃ確かにパ~ジリン言われるのも無理ないわ……』

 

『ちょっ!アンタ達聞こえるからやめなさいって!』

 

 

 背後に従えたAP-Girlsから聞こえた容赦ないファーストインプレッションにラブが低い声で注意したが、何処か面白がった雰囲気が消える事はなく、彼女自身もその奇妙な一団を前に平静を取り繕うのに酷く苦労していた。

 

 

『あの喋り方だけ聞いてっと──』

 

『やめてっ!あの可愛いロージーと目の前のアレを一緒にしないでっ!』

 

 

 夏妃が何やら言いかけたが、何を言わんとしているか気付いたラブは即座にそれを押し止めた。

 だが己の美学的に受け入れ難いものがあるらしいラブも何だかんだで結構酷い事を言っているが、彼女も相当にテンパっているらしくそれに気付いていないようだった。

 

 

『…これは失敗したかもしんない……』

 

 

 ラブの後悔を他所に徐々に距離を詰める一団は、直ぐ目の前に降臨したAP-Girlsに一層テンションを上げて更におかしなイントネーションと言葉遣いで騒ぐのであった。

 彼女らしくない弱音とも取れる呟きを耳にしたAP-Girlsのメンバー達は一斉に白い目を向ける。

 何故なら対戦相手を決める段階で彼女達が気乗りしなかった処を、選り好みは良くないとラブが決定を下していたのを忘れてはいなかったのだ。

 そしてその対戦相手ある聖ジョアンナ(優雅)女学院は前年の春に経営が変わったばかりの高校で、現在の校名からはそれを一切感じ取る事は出来ないが元々は水産系の色の強い学校であった。

 しかし近年の生徒減少に伴い廃校間近の声も聞こえた頃、所謂地元でも豪腕と云われるような存在である母港の地場産業の経営者がバーゲン価格で買い叩いたというのがもっぱらの噂で、一説には進学が危うい孫娘の為に祖父である経営者がその受け皿として学校そのものを買収したなどという話もあり、改めて調査した結果はいずれもあまり健全な印象は抱けないものだった。

 更にラブは事前に新設校リーグ戦の説明会の際に、ダメ押しで各校の隊長から聖ジョアンナとその隊長に関する香ばしい話を散々聞かされていた為に一層その印象が強かった。

 

 

『あの子らも言いたい放題言ってたもんなぁ……』

 

 

 ラブは自分が聖ジョアンナと練習試合をすると言ったその時、各校の隊長達が見せた反応を思い出しそれらが概ね事実であろう事を予感していた。

 

 

 

 

 

「あの白大福ホント身の程ってものを知らないわよね~」

 

「白大福……」

 

 

 新設校リーグ戦説明会終了後、戦車道喫茶ルクレールにて親交を深めていたラブを始めとする新設校の指揮官達は、AP-Girlsの次の練習試合の対戦相手が聖ジョアンナ女学院と知るや微妙な反応を見せ、不審に思ったラブが問い質すと口々に隊長の事をボロクソに言い始めたのだった。

 

 

「だからこそパ~ジリンじゃない」

 

「大体何をどうトチ狂ったらああなるんだか……」

 

「そもそも戦車道の事を何も解かってないし……」

 

「私パ~ジリンとやるまであんなに酷い状態の戦車って見た事なかったわ」

 

「あれはジャンクでしょ?」

 

「新設校相手なら楽に勝てると思ってるとかさ、ホント底が浅いよね」

 

「さすがパ~ジリンだよね~」

 

 

 堰を切ったように話し始めた少女達の言う事はどれ一つとして芳しいものはなく、ラブの気力はどんどん萎え始めていた。

 それでも何か一つでも救いになるような話はないのかと亜美に目をやれば、彼女の方はあからさまにラブから目を逸らしその行動が少女達の言う事を肯定していた。

 

 

「教官……」

 

 

 言いたい放題な少女達を諌める事なくどちらかというと後ろめたさを隠すような素振り見せる亜美も、どうやらパ~ジリンと聖ジョにはあまり良い印象持っていないらしい事が伝わって来た。

 後になって思えばその時点でも既に引き返せるポイント通り過ぎていたのだったが、実際パ~ジリンと相対していない段階ではそんな事まで考えるは出来なかった。

 

 

 

 

 

「ようこそ聖ジョアンナ女学院へですわ!私が隊長の羽尻厚子(はじりあつこ)ですの!」

 

『羽尻だからパ~ジリン…直球ね……』

 

『これっ!』

 

 

 騒々しい事この上ない一団に招き入れられた一室は紅茶の園とは程遠く、その雰囲気はショッピングモールかホームセンターのフードコートのそれであった。

 おそらくは聖グロの公式ページで僅かに紹介されている写真から乏しい想像力を働かせて紅茶の園を再現しようとしたのであろうが、全てにおいて安っぽい印象が漂い、実際白いガーデンテーブルの脚には剥がし忘れたらしいホームセンターの名前の入ったセロテープが残っていた。

 

 

「お、お招き頂きありがとうございます、私が私立三笠女子学園戦車隊隊長の厳島恋です」

 

 

 パ~ジリンこと羽尻厚子の強烈な見た目と妙な丁寧語のインパクトと、油断していると背後から撃つように遠慮ない呟きを浴びせて来るAP-Girlsの板挟みに、逃げ場のないラブは口元が引き攣りそれをごまかすのに苦労を強いられていた。

 

 

『ダージリンとアッサムが淹れた紅茶は特別なのね……』

 

 

 香りもへったくれもない上にただ渋いだけの目の前の茶色い液体に、ラブの心は折れる寸前の処まで追い詰められていた。

 

 

『マカロン…はいいけどせめて袋から出せよ、ってかコンビニ菓子じゃね~か……』

 

『シベリアだっけ?このあんこサンドは……』

 

『渋紅茶に月餅……』

 

『鈴カステラは私も好きだけどさ……』

 

『なんで柿の種なのよ……?』

 

 

 そしてラブのみならずAP-Girlsもまた、パ~ジリンとその取り巻き達の全てを勘違いしたとしか思えないビジュアルと言動に、地味にダメージを蓄積し始めていた。

 

 

「さあ、お替りは幾らでもございますことよ!」

 

『帰りたい……』

 

 

 パ~ジリンの頭のてっぺんから突き抜けるような声にラブ以下AP-Girls全員がそう思っていたが、交流会を含め各種イベントが用意されている為に最終日のライブが終了するまではそれも叶わず、暗澹たる気持ちで目の前でキーキー囀る白大福を見ていた。

 

 

「そ、そうですか、昨年の秋から戦車道を……」

 

「えぇ、そうでございますのよ。我ら聖ジョアンナの優雅さを世に知らしめるには、戦車道は実にうってつけだと思っていますわ」

 

『だからオメェさっきから何杯砂糖入れてんだよ?』

 

「ゆ、優雅さですか……?」

 

「そう!優雅さですわ!それこそ我が校が最も重要と考える事でございますのよ!」

 

『まだ入れるか…だからそんなに太るのよ……あのお腹回りってチャーチルのコマンダーキューポラの口径より太いんじゃないの……?』

 

 

 ラブと会話をする間もティーカップに砂糖を入れ続けたパ~ジリンは、恐らくカップの中で砂糖が溶け切らず飽和状態なった頃、漸く満足行く甘さになったらしく納得した様子でズルズルと品のない音を立てて謎の液体を啜り始めた。

 

 

『ウソ……飲んでる…美味しそうに……』

 

 

 ドン引きするラブを他所に一人喋り続けるパ~ジリンだが、話の内容は何とも底が浅く低俗極まりないものばかりで所謂ネット上の裏サイトで拾ったと思しき下世話な話の数々に、徐々にラブのみならずAP-Girlsメンバー達もその表情が険しくなり始めていた。

 真っ当な選手であれば忌み嫌う戦車道裏サイトにはとるに足らぬ噂話から強者への妬みややっかみを始めデマの類が飛び交い、それらの発信者の多くが戦車道の本流から外れたり脱落した者達である事は容易に想像がつくものであった。

 そんな中でも昨年秋以降盛り上がりを見せているのはラブとAP-Girlsに関する話題だったが、例えそのような場所であってもやはり厳島に手を出すという事は非常にリスクが高い行為であると認識されているらしく、ネット上でも異例な程ぼかした形で彼女達の根も葉もない噂話が溢れていた。

 そんな所で拾い集めたいい加減な情報を元に一人勝手に話し続けるパ~ジリンに、欠片も良い感情持てぬまま打ち合わせを兼ねたお茶会と交流イベントの初日を終えたのだった。

 

 

「みんなゴメン…再履修校の情報収集を怠った私のミスよ……まさかこんな学校があるとは思いもしなかったわ」

 

「何言ってるのよ、再履修校が一体どれだけあると思ってるの?全ての情報を事前に集めるなんて無理に決まってるじゃない、私達も正直大洗の乱以降の再履修組の事は舐めてかかってた処があったから、それでラブ姉が責められるなら私達も同罪よ」

 

 

 落ち込むラブに鈴鹿が返した言葉は概ね事実であり、開校に際しそれなりの人材をスカウトして意識も高い新設校に比べ、大洗の成功を受けて飛び付き雨後の筍のように増加した再履修校に関しては、平たく言ってしまうならばラブ達の眼中にはなかったのだ。

 

 

「まぁあんな学校が存在するなんて普通思わないわよ……」

 

「だよな…あの調子だとよ、戦車もまともに扱えるか怪しいもんだぜ……」

 

 

 夏妃と凜々子も渋い顔で腕組みしたまま頷き合い鈴鹿の言う事を肯定し、二人揃ってラブの責任ではない事を強調するのだった。

 更にラブの隣に座る愛は彼女の手にその小さな手を重ね、無言で只一つ頷いて見せた。

 

 

「みんなありがとう…なんとかこの一戦を乗り切ってこれからの教訓としましょう……」

 

 

 その夜は今までに経験した事のない種類の疲労感と共に眠りに付いたラブ達であったが、翌日に更なる試練と事件が待ち受けているなど誰も考えもしなかった。

 そして翌朝試合会場となる聖ジョアンナの母港である港町は、一種異様な雰囲気に包まれていた。

 

 

「なんだありゃ……」

 

 

 そう言ったきり絶句した夏妃の視線の先には1両のチャーチルと10両のマチルダが並んでいたが、どの車両も見るからに素性の悪い粗悪な中古品な上に整備不良と扱いの悪さが丸解かりだった。

 

 

「ちょっと…あれ本当に使えるの……カーボンコーティング大丈夫なんでしょうね?」

 

 

 凜々子がそう疑うのも無理がない程にどの車両もエンジンから異音を発しているにも拘わらず、隊員達は気にした様子も緊張感もなくダラダラとした動きで試合開始に備えていた。

 

 

「しかしよぅ……あれってお供えか何かか?」

 

『ぶふぉっ!』

 

「ちょ!?夏妃!」

 

 

 でっぷり肥えたパ~ジリンがチャーチルのコマンダーキューポラに納まり周囲に何やら指示を出しているが、どう見てもキューポラにはまって抜けられなくなっているように見え、その様は確かに夏妃が言う通り妙に白い顔色もあってかお三宝に盛られた鏡餅のように見えた。

 

 

「アンタなら言うと思ったわ……」

 

 

 夏妃の言い放った的確な表現に最初こそ吹きはしたが、その後はゲンナリした表情になった凜々子は前方のチャーチル上で大騒ぎするの見苦しい物体から目を逸らした。

 

 

「あら!?ラブおはようですわ!」

 

「ぐ……」

 

「い、いきなりあだ名呼び捨て!?」

 

「どんだけ厚かましいのよ!?」

 

「いっぺんシメるか!?」

 

 

 ラブ達が現れたのに気付いたパ~ジリンが例の頭のてっぺんから突き抜けるような声で絶叫すると、朝っぱらからいきなりラブがダメージを受けAP-Girlsは俄かに殺気立っていた。

 確かにラブは親しくなった他校の一年生に先輩扱いされる事に抵抗を感じてはいたが、昨日初めて会ったばかりな上に親しくなれる要素が皆無な相手にラブと呼ばれる事には抵抗があった。

 

 

「お、おはようございます…羽尻()()……」

 

 

 彼女らしくないと思われるかもしれないが、ラブは敢えてそこを強調するようにパ~ジリンの事をさん付けで呼び一線を引いた態度で接していた。

 ラブは性格的には付き合いの長い周囲の者ですら驚く程寛大であったが、その彼女を以ってしてもパ~ジリンの底の浅さと戦車道に対する考えの甘さは受け入れ難い事だった。

 

 

「ふんっ!って誰か早く引っ張りなさいよ!」

 

 

 ラブに向かって大声で叫んだ後コマンダーキューポラから這い出ようとしたパ~ジリンだったが、大方の予想通り自力ではそれもままならないらしく慌てて取り巻き達が引っ張り出そうとしていた。

 

 

「ちょっと梯子は!?降りられないじゃない!」

 

 

 やっと引っこ抜いてもっらったパ~ジリンが今度は梯子を要求し、ラブ達が呆気に取られている目の前で押さえてもらった梯子をおっかなびっくりといった風に降りて来た。

 

 

「そりゃラブ姉もつっかかるけどさ……」

 

「やめて……」

 

「戦車に自力で乗り降り出来ないって……」

 

「あれって安全規定に引っ掛かるんじゃないの……?」

 

 

 AP-Girlsがアレコレ突込みを入れる中、最後は文字通り転がり落ちるようにチャーチルから降車したパ~ジリンが、尻餅を付いて汚した正直誰も見たくないであろうミニスカートの尻を叩きながらラブの下へとやって来るのだった。

 

 

「全く……隊員がグズだと隊長は苦労しますわ!」

 

 

 己の肥満を恥じ入る事なく悪態を吐くパ~ジリンの言葉に、ラブの口元が微かに歪む。

 この類の行為はラブの最も嫌うものであり、徐々にではあるが彼女も限界点に達しつつあった。

 

 

「アナタ大丈夫……?」

 

「何がですの?何も問題ありませんわ!」

 

 

 虚勢を張るように踏ん反り返るパ~ジリンであったが、ここまでの一連のドタバタでタンクジャケットは皺が寄り着崩れた上に、その額には脂汗が滲んでいた。

 

 

「ちょっと胸がつかえただけですわ!ラブだってよくあるんじゃなくて?」

 

『お前のは腹肉だろうが!』

 

 

 どうにか声に出すのを堪えたAP-Girlsであったが、心の中では一斉にそう突っ込んでいた。

 そんな事には一切気付かぬパ~ジリンは、ねめつけるような嫌らしい視線を無遠慮にラブの胸に浴びせ、益々彼女に対する嫌悪感をアップさせるのだった。

 

 

「それにしても…ラブ達は本当に()()()()5両しかないんですのね……そんなのでよく戦車道をやろうと考えたものですわ……あぁ、そうでしたわねラブ達はアイドルでそちらのパフォーマンス優先だからそれでいいという事なのかしら?なら連敗続きでも問題ないのでしょうね」

 

 

 どうやらパ~ジリンの目にはここまでAP-Girlsが実質的に6連敗しているという事しか映っていないらしく、その本質は全く見えていないのであった。

 

 

「ウチの戦車はⅢ号のJ型よ、それに私達はアイドルの片手間やパフォーマンスの為に戦車道をやっている訳ではないの。もしここまでの試合を見ていれば解かって貰えると思うのだけど……」

 

「ちょ、ちょっと間違えただけですわ!試合だってちゃんと見てましたわ!でもAP-Girlsが一勝もしてないのは事実でしょう?たった5両で我が校相手に何が出来ると言いますの!?」

 

 

 パ~ジリンの戦車道選手としての資質が限りなくゼロに近い事に軽い眩暈を感じつつふとその背後へと目をやれば、点検の真似事をしていた聖ジョの隊員が取った行動にはっとしたラブが堪り兼ねたように声を荒げた。

 

 

「ちょっと!あなた達何をやっているか解かってるの!?今直ぐお止めなさい!」

 

 

 突然の事にキョトンとする聖ジョの隊員達だが、ラブの表情は真剣且つ非常に険しいものだった。

 だが何故ラブがここまで厳しい物言いをするかといえば、それは1両のマチルダの搭乗員が危険極まりない操作を行ったからであり、隊全体の安全を預かる隊長であり厳島流の家元でもあるラブから見れはそれは凡そ容認出来る行為ではなかった。

 ラブが声を荒げる原因となったマチルダは1両としてまともな車両がいない聖ジョ戦車隊の中にあっても、ひと際激しくエンジンから異音を発しており搭乗員の二人が車体後部上で様子を見ていたのだが、車内にいた搭乗員が外部の安全確認を一切行わずに砲塔を旋回させたのであった。

 ラブが声を上げた瞬間寸での処で砲塔は止まっていたが、それはラブの声や車体上に人がいる事に気付いての事ではなくたまたまそこで止めただけの事であり、もしそのまま旋回運動を続けていれば間違いなく砲身で二人を薙ぎ払い只では済まない事態を引き起こしていただろう。

 

 

「羽尻さん!アナタは仮にも責任者でしょう!?一体日頃どんな安全管理を行っているの!?」

 

「な、なんですの急に偉そうに!?」

 

 

 大洗の活躍だけを見て戦車道に飛び付いた上に、我が侭放題に育って来たパ~ジリンは周りに目を配る事など一切しないというか出来ないので、突然のラブの叱責の意味が理解出来ず瞬間的に生白い顔を真っ赤にして怒鳴り返していた。

 

 

「えぇ!厳島流家元として偉そうに言わせて貰うわ!羽尻さん、アナタは戦車道チームの隊長処か選手としても失格よ。今みたいな状態で戦車に乗り続けていれば、遠くない未来に必ず取り返しの付かない事故を起すわ。そうなる前に適切な指導を受けて基礎から学び直すか、戦車に乗る事そのものをお止めなさい。アナタのやっている事は上っ面のみのごっこ遊びであって戦車道でやっていい事ではないの、もし私の言っている事が理解出来ないのであれば後者を選んで戦車から降りるべきだわ」

 

「い、厳島流!?何よそれ、聞いた事ないわ!家元ぉ!?ふざけんじゃないわよ、アンタ高校生じゃない!何訳の解かんない事言ってんのよ!?」

 

 

 いともあっさりと安過ぎるメッキが剥がれたパ~ジリンが、はるかに身長が高いラブを見上げて喚き散らすが彼女は動じる事なく鋭く厳しい視線を逸らさなかった。

 

 

「厳島流の名前は日本戦車道連盟設立と同時に登録されて以来、その名前が登録を外れた事はないわ。私が家元である事も事実よ、連盟の公式ページを見るといいわ、既に家元として家元会議の一員に名を連ねているから。でもね、そんな事はどうでもいいの……私が問題視しているのはそんな事じゃない、隊長であるアナタを筆頭にチーム全体が安全性を始め様々な大事な事を軽視している事よ。改めて言うわ、羽尻さんアナタはその考え方を改められないのであれば戦車に乗るべきじゃない、アナタのやっている事は戦車道とそれに真面目に取り組む選手達に対しての冒涜でしかないわ……それともう一つ言わせて貰うならば今直ぐその醜悪な猿真似を止めてくれる?その変な言葉遣いと勘違いも甚だしい振る舞いは私の大切な親友に対する侮辱であって正視に堪えないの」

 

 

 自分に対する事であればいくらでも耐える事は出来たが、彼女が大事に想う事や人達に対する侮辱的な行いはさすがに見過ごす事は出来ないのであった。

 しかし彼女の想いはパ~ジリンのお粗末なお頭と心に届く事はなく、激高し淑女には遠く及ばないが本人はそう信じて疑わなかった仮面をかなぐり捨てその低俗な本性を露にしていた。

 

 

「い、家元だから何だってのよ!?同じ一年生って言ったってアンタ留年生なんでしょ!?ちょっと美人で人気アイドルだからって調子に乗んじゃねーよっ!わ、私知ってるわよ!?アイドルとか言ってお高く留まってるけど、アンタ顔から体中傷だらけのバケモンだって言うじゃねーか!」

 

「おいテメェ!今なんつったぁ!?」

 

「ヒィッ!?」

 

 

 興奮のあまり裏サイトで拾い集めたラブに対する噂を基にした暴言を叩き付けていたが、即座に抜き身の刃のような夏妃の怒りを突き付けられビビッて尻餅を付いていた。

 そして尻餅を付いたパ~ジリンが見上げれば、AP-Girlsのメンバー全員がそれだけで彼女を射殺しそうな視線を突き付けていた。

 

 

「どうしたんですか?これは何の騒ぎ!?」

 

「え…?教官?どうしてここへ……?今日は担当ではなかったはずなのに……」

 

「え?えぇ、ちょっとね……」

 

 

 突如現れた亜美に驚いたラブであったが、尻餅を付いたパ~ジリンから不審げな目を逸らさぬ彼女は曖昧な返事を返すだけだった。

 

 

「それより何があったの?何か揉めているように見えたけど気のせい──」

 

「何でもありませんわ!」

 

 

 重ねて問いかけた亜美の言葉に被せるようにそう答えたのはパ~ジリンであり、興奮していたとはいえ彼女も今の自分の発言は相当問題がある事を自覚しているようであった。

 一触即発の事態に介入する形となった亜美であったが、実の処彼女は一度指導した事のある聖ジョアンナとパ~ジリンの芳しくない評判が気になり足を運んでいたのだ。

 

 

「お~い、亜美!どうかした?」

 

「あ…あぁゴメン何でもないわ……」

 

 

 今日の担当である同僚の教導教官に軽く手を挙げ答えた亜美は、ラブに向けて気遣うような視線を残しその場を立ち去って行った。

 

 

「私の事を何と言おうと別に構わないわ、でも戦車道とそれに真摯に取り組む人達を軽んじた行動は絶対に認める訳に行かないの。まだ私の言っている事が理解出来ないかしら……?」

 

 

 立ち上がりはしたものの忌々しげな視線をラブに向けるパ~ジリンは、今にも暴発しそうな夏妃を始めAP-Girlsのメンバー達を手で制する彼女の想いなど、残念ながら理解出来る程の頭を持ち合わせてはいなかった。

 

 

「ふ、ふざけんな!今日の試合でヒーヒー言わせてやるから覚悟しとけよっ!」

 

 

 テンプレートのような捨て台詞を残し、逃げるようにパ~ジリンは立ち去って行った。

 

 

「お、おいラブ姉!あんな馬鹿に何言いたいように言わせてんだよ!?」

 

「ラブ姉、こればかりは私も夏妃と同意見よ……」

 

 

 夏妃に凜々子が同意すると他の者達も同じだと怒りの表情で頷いており、愛に至ってはパ~ジリンを一撃で仕留める為に限界まで弓を引いているような雰囲気であった。

 

 

「あ、あなた達駄目よ…そんな感情を試合に向けては──」

 

 

 ラブが怒りに震えるAP-Girlsを諫め掛けた処で、タイミング悪く両チームに試合前挨拶の為に集合が掛かり話はそこで途切れてしまった。

 そして整列した両チームであったが怒りの波動を隠そうともしないAP-Girlsに対し、聖ジョの隊員達は非常に気まずそうにソワソワしており、どうやらこのチームはパ~ジリンが祖父の威光を笠に着て作ったチームである事が見て取れた。

 そして何とも殺伐とした雰囲気の両校挨拶が終了するとラブが改めてAP-Girlsを諌めに掛かったが、少女達はそれに答える事はなく変わりに鈴鹿が指を鳴らすと力自慢のブルー・ハーツのメンバー達が進み出てラブの両側から関節を極めていた。

 

 

「ちょ、ちょっとあなた達何考えてるのよ~?」

 

 

 途端に不安げな声を上げたラブに答える事なく彼女達は無言でラブを運営本部のテントへと連行し、その殺気立った雰囲気に目が点になっている亜美の隣へと座らせた。

 

 

「み、みなさん怖い顔してどうしたの?」

 

「教官、今日はラブ姉見学なのでここで預かっといて下さい」

 

「え?け、見学?あなた達一体何を言って……」

 

「ちょっとぉ!冗談は止めなさいよ!隊長の私が試合に出なくてどうするのよ~!?」

 

 

 鈴鹿が抑揚に欠ける声で淡々と亜美に告げると、立ち上がり掛けたラブの両肩を夏妃がグッと背後から押さえ込み、いつの間に用意していたのかロープを手にした凜々子が椅子毎彼女をグルグルと縛り始めるのであった。

 それは異様な光景であったが居並ぶAP-Girlsが放つ高度に濃縮された殺気に、その場に居合わせた審判団を始め関係者全員が一切何も言えなかった。

 

 

「フラッグ車はLove Gunのまま変わらずに車長のみ花楓に交代…普段の訓練通りやればいいだけの事だから何も問題ないわ……そして隊長は愛、あなたが勤めなさい」

 

 

 椅子ごと縛り上げたラブの前で、鈴鹿の仕切りで即席のブリーフィングが始まった。

 あまりの事に口をパクパクさせるラブを無視するように鈴鹿が指示を出し、他のメンバー達も何の迷いもなくそれに従っている。

 

 

「全員やる事は解かっているわね?厳島流の恐ろしさ、一生忘れられないようにしてやりなさい」

 

「す、鈴鹿あんたねぇっ!」

 

 

 実に恐ろしい事を淡々と告げる鈴鹿に我に返ったラブが咎めるように声を掛けたが、それすらも聞こえぬような態度で指示を出し続けた鈴鹿はそれが終わると漸くラブに向き直った。

 

 

「いくらラブ姉の言う事でもこれだけは聞けないわ…私達はあの女のラブ姉に対する暴言を許す程に広い心を持ち合わせてはいないの……あの女は私達の絶対の女神を愚弄した……この万死に値する行為にはそれなりの対価を支払わせなければいけないのよ……」

 

「鈴鹿……」

 

 

 能面のような表情で語る鈴鹿の怒りようは余程のレベルに達した者でないと解からない種類のものであったが、そのレベルに達している亜美などはその顔が青ざめていた。

 

 

「蝶野教官……」

 

「は、ハイっ!?」

 

「暫くの間ラブ姉の事宜しくお願いします……」

 

 

 鈴鹿はそれだけ言うと返事も聞かずに踵を返し、AP-Girlsを引き連れその場を立ち去っていった。

 後に残されたラブは再び絶句して何も言う事が出来ず、その隣にいる亜美もAP-Girlsが撒き散らした恐怖に呼吸するのも忘れたように硬直したままそれを見送ってしまった。

 かくして後に『ジョアンナの(優雅なる)大虐殺』と伝説的に語られる事になる、一方的な試合がここに幕を開けるのであった。

 

 

 




色々酷いパ~ジリンは底の浅い俄か履修校の象徴的に登場しましたが、
正直ここまで酷くなるとは自分でも思いませんでしたw
ですがそれも創作活動ではよくある事かもしれません。

前書きの通りの事態で最低限週一回は投稿出来るよう努力してますが、
ちょっと時間は今までのように行かないかと思います。
読んで頂いている方には本当に申し訳ないのですが、
どうか気長にお付き合い頂けると幸いです。
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