ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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10連休?何それ……?

笠女対聖ジョの一戦は呆気なく終わりますw


第十八話   逆鱗

「聖ジョアンナ女学院マチルダ走行不能!」

 

 

 無線の共用回線と観戦エリアのスピーカーから審判長の声で、聖ジョアンナ女学院の10両いたマチルダの最後の1両が撃破された事を告げるコールがなされ、これで残る戦力はパ~ジリンの騎乗するフラッグ車であるチャーチルのみとなっていた。

 試合開始から約30分、わずか5両のAP-Girlsを包囲して袋叩きにしようと目論んだパ~ジリンであったが、その狙いとは裏腹に分散させた配下のマチルダは1両また1両と撃破され続け、たった今最後の1両も討ち取られパ~ジリンはチャーチルの車上で間抜け面を晒していた。

 

 

「な…何よ……何がどうなってるのよ!?」

 

 

 砲声と爆発音に続き無線から聞こえる味方の撃破コール、更に撃破された車両からの要領を得ない無線連絡にパ~ジリンはイライラを募らせていたが、それが何度も続き残るは自分のみとなった事を知った時、漸く彼女はAP-Girlsの強さと自分が完全に追い詰められた事に気付いたのであった。

 

 

「あ~もぅ…殲滅戦じゃないのにあの子達ワザとマチルダから潰して回ってぇ……」

 

 

 観戦エリアにある審判団本部席のテントの下、関係者の控えの席にはどういう訳かLove Gunを駆りAP-Girlsの指揮を執っているはずのラブの姿があった。

 

 

「あの~教官?そろそろこのロープを解いて頂けませんか?」

 

 

 隣に座る亜美の顔を覗き込むラブは、何故かロープで椅子にグルグル巻きにされていた。

 

 

「……」

 

「教官……?」

 

 

 更に首だけを傾け亜美の様子を窺おうとするラブだったが、亜美はその動きに合わせて顔を背け彼女と目を合わせないようにしていた。

 

 

「…ゴメンなさい……私にそのロープを解く事は出来ないわ……」

 

「え゛……?」

 

 

 パ~ジリンの暴言に激怒したAP-Girlsは彼女を許すつもりは毛頭なく、そんな相手に対しても慈悲深さを発揮しかけたラブを椅子ごと縛り上げ、自分達だけで試合に望んだのであった。

 だが更に彼女達の胸のうちはといえば、自分達にとって神聖な存在であるラブがあのような醜悪極まりない存在と砲火を交える事が絶えられないというのが大きかったのだ。

 

 

「…私も命が惜しいの……」

 

「……」

 

 

 試合開始前ラブを縛り上げた直後に鈴鹿が言った『ラブ姉を宜しく』の一言の言外に含まれた、『例え何があっても試合終了まで絶対に縄を解くな』という警告を亜美は正確に受け取っていた。

 

 

「だって…あの子(鈴鹿)の目、全然笑ってなかったんですもの……」

 

「……」

 

 

 ヘビに睨まれたカエルという訳ではないが、鈴鹿の瞳の奥に宿った鬼火に、今の彼女達に逆らうのは危険であると本能で感じ取っていたのだ。

 そんな二人が見守る中、分散していたマチルダ相手に襲撃を繰り返していたAP-Girlsは最後の1両を討ち取ると、いよいよパ~ジリンに怒りの鉄槌を下すべく一列縦隊で移動を開始していた。

 パ~ジリンが物心付く前から古い考え方の祖父母に甘やかされた結果、これ以上はない程の三文安に育ってしまったのはある意味気の毒な事かもしれないが、彼女も既に高校生であり自分がおかしい事に気付かなければいけなかった。

 これまで人に対して一度も頭を下げた事などない人生は、常に周りへの感謝の気持ちを持って行動しているラブとは真逆な存在だ。

 だがこの状況に至って尚、自分が悪いとは全く考えもしないパ~ジリンに残されているのは破滅への一本道のみであった。

 

 

「何でよっ!?聖グロと同じ戦車なのに何でこんなにやられてるのよっ!AP-Girlsは聖グロに勝てなかったのに何でウチはこんな一方的にやられてるのよぉ!?」

 

 

 恐怖に駆られて逃げ込んだ倉庫の中で何でを連発しながら喚き散らすパ~ジリンだが、その何での内容はといえば果たして本当に聖グロとAP-Girlsの一戦を見ていたのか疑いたくなるものだった。

 全てに於いてやる事の底が浅いパ~ジリンは物事の本質について深く考える頭を持ち合わせておらず、そんな彼女が戦車道の基礎を真剣に学んでいるはずもなかった。

 そしてそれを証明するように、倉庫に逃げ込んだ後も偽装工作など一切行っておらず、履帯痕もばっちり残したままでAP-Girlsに見付かるのも時間の問題だろう。

 現にAP-Girlsは既にチャーチルが残した履帯痕を発見し追跡を開始しており、パ~ジリンが潜伏する倉庫も視界に入っていた。

 

 

「誰も応援していないわ……」

 

「え……?」

 

 

 試合開始から30分程でフラッグ車を除く10両が葬られた聖ジョだったが、地元であるにも拘わらず彼女達への声援も追い詰められた事に対する失望の声も聞こえなかった。

 そして観戦エリアのモニターにAP-Girlsが映る度に歓声が上がる事を考えると、聖ジョ自体が地元でも受け入れ難い存在である事が見て取れた。

 しかしそれはパ~ジリンと学校自体に人気がないというよりも、経営母体となった祖父を頂点とする親族企業とその強引な経営方針が原因で地元でも煙たがられている事にあったのだ。

 

 

「地元なのに聖ジョアンナへの声援が全然ないのよ…確かに決して評判の良い学校ではなかったのは事実だけれど、まさかこれ程とは……」

 

「教官……」

 

 

 教導任務で全国を巡る亜美だが、聖ジョは数ある俄か履修校の中でもダントツに成績が悪く、対戦相手からも尽く嫌われ馬鹿にされていたのだ。

 そんな相手にも亜美は辛抱強く指導したが、隊長であるパ~ジリンにそもそも聞く耳がなかったので、彼女の指導も全て無駄に終わっていた。

 

 

「私も色々と言ってはみたけど、話が通じないというかとにかく人の話を聞かない子なのよ……」

 

 

 

 指導者として忸怩たる思いもあるだろう亜美が渋面でその心情を吐露するが、彼女が言った事を証明するかのように観戦エリアのスタンドからはAP-Girlsへの声援が飛び、聖ジョがパ~ジリンのチャーチルのみになってからは後1両コールが起こる始末だった。

 

 

「さすがにこれはちょっと……」

 

 

 囃し立てるようなコールにさすがにラブも気色ばんだが、よく聞けばそのコールの合間には相当にどぎついパ~ジリンへの罵り言葉も聞こえていた。

 しかしそのコールと罵声以外にも断片的に洩れ聞こえて来る話を総合すると、試合開始前パ~ジリンがラブに暴言を吐いた場面を観戦者の何人かが録画しネット上にアップしており、それが瞬く間に他の観戦者の間にも拡散し一層聖ジョへのブーイングを加熱させるのだった。

 今や観戦エリア全体がパ~ジリンの事を唾棄すべき存在として認識し、その異様な空気に飲まれたラブと亜美が言葉を失う中、AP-Girlsは遂にパ~ジリンが潜伏する倉庫を発見していた。

 

 

「…これは……なんという事を……お嬢さん何故あの時言って下さらなかったの?」

 

 

 私物のタブレットでネットにアップされた動画を確認した亜美の表情が俄かに険しくなった。

 礼に始まり礼に終わる、その基本を蔑ろにするパ~ジリンの行いは指導教官である亜美にとって見過ごせるものではなく、ラブに対し問い質す口調も自然と厳しいものとなっていた。

 

 

「それは……」

 

 

 公式戦が始まる前の肩慣らしの機会をお流れにさせたくなかったラブは、もしあの時それが亜美の耳に入っていれば試合中止もあり得ただけに、それを避けたい彼女は自分に対するパ~ジリンの暴言を敢えて言わずにいたのだった。

 

 

「恋お嬢さんも家元なのですからこれがどういう事か解かっていらっしゃるはずです。今後こういう事があった場合速やかに報告をして下さい、宜しいですね?」

 

「はい…ごめんなさい……」

 

 

 戦車道の道に外れるパ~ジリンの行いは処分の対象となるものであり、実際亜美もそれを検討するかのように険しい顔をしている。

 

 

「始まるぞっ!」

 

 

 観戦者の叫びにハッとした二人がモニターに目をやると、港近くにある倉庫群の中にある羽尻の屋号の入った倉庫をAP-Girls包囲していた。

 そしてモニターに大きく映った愛が咽頭マイクを押さえ指示を出すと、5両のⅢ号J型が一斉に砲身を仰角最大に振り上げ倉庫の屋根目掛けて砲撃を開始した。

 連続する砲声と共に爆発音と破壊音が続き、倉庫の中からは降り注ぐ瓦礫の雨に晒されたパ~ジリンの耳障りな悲鳴が聞こえて来た。

 大きく崩れ落ちた倉庫の天井にこれは生き埋めになるかと思われたその時、開かれたままの倉庫の大扉の中から大量の埃を纏い堆積物を乗せたチャーチルが姿を現したが、幸い怪我こそはしていないものの、コマンダーキューポラからその身を晒したままのパ~ジリンは埃に塗れその体形も相まってお供えから一転今度は黄粉のおはぎのようになっていた。

 これがもし昨年のみほであったならば窮地を脱した事で拍手が起きた場面かもしれないが、既に試合直前の悪行がばれたパ~ジリンでは会場全体から失笑が洩れるだけであった。

 

 

「げほっげほっ!て、てめぇら絶対許さ──」

 

「許さないのは我々だ」

 

「!?」

 

 

 倉庫から這い出し埃に咽るパ~ジリンがAP-Girlsに包囲されている事に気付き怒声を上げ掛けたが、そんな彼女の言葉を遮って鈴鹿が底冷えするような声で言い放った。

 彼女が埃にやられ充血した目で周りを見れば、AP-Girlsの全メンバーが搭乗するⅢ号J型から顔を覗かせていたが、全員がその美しく整った顔に憤怒の表情を浮かべていた。

 

 

「試合前、貴様が厳島恋に放った言葉……我らは絶対に許さぬ」

 

 

 勤めて冷静に言い聞かせるように語る鈴鹿だが、彼女を含め全員が纏う怒りのオーラに圧倒されさすがのパ~ジリンも黙り込んだ。

 だがそれも束の間の事で彼女は直ぐに感情に任せ吼え始め、その箍が外れた様子に僅かに呆れの色を浮かべたものの直ぐに元の表情で汚物を見る目を彼女に向けていた。

 

 

「なんだその目はぁっ!?クソっ!撃て!撃てぇ!」

 

 

 追い詰められてなお現実が見えないパ~ジリンが攻撃命令を下したが、フラッグ車であるにも拘わらず基礎を学ぶ事なく戦車道ごっこしか経験がない隊員しか搭乗していない為、その狙いは最初から大きく逸れ明後日処か明々後日の方向に飛び祖父の会社の倉庫に大穴を開けていた。

 

 

「夏妃、凜々子…あなた達の間隔を開けて包囲を薄くして……1ブロック先のコンテナヤードの空きスペースにヤツを引きずり出すわ」

 

『了解』

 

 

 この試合で隊長を務める愛はいつも通りの無表情で指示を出すが、その瞳に宿る怒りの炎は誰よりも強く冷静に指示を出す声も逆にその怒りの大きさを感じさせるものだった。

 

 

「あの子達……」

 

「どうかしましたか?」

 

「いえ……」

 

 

 中継映像から愛が指示を出し夏妃と凜々子が素人にも解かり易く意図的に包囲の手を緩めたのを見て取ったラブは、頭に叩き込んである地図と照らし合わせ彼女達が何を考えているか察し僅かに眉を顰めたが、おそらく彼女と同じくそれを察したであろう亜美のカマをかけるような問いに答える声も歯切れが悪かった。

 そしてまんまとその手に乗ったパ~ジリンはAP-Girlsの意図に全く気付く事なく、用意された脱出口という名の地獄への入り口へと飛び込んで行った。

 只でさえ元から足の遅いチャーチルだが、限りなくジャンクな上に整備不良も合わさりカメ以下な鈍足ぶりを発揮し逃げる姿を直ぐに追う事なく見送ったAP-Girlsは、その姿が見えなくなってから互いに目配せをした後に整然と隊列を組んで行動を開始していた。

 実際規定範囲内で極限までチューンされたAP-Girlsの使用するⅢ号J型の快足を以ってすれば、この程度のハンデを与えて与えたとしても全く問題にならず、余裕の後追いで先回りを果たしてコンテナヤードに最後の包囲陣を構築して見せたのだった。

 

 

「始まるわね……」

 

 

 本人は逃げたつもりでコンテナヤードに飛び込んで行くパ~ジリンのチャーチルを見ていた亜美の呟きに、これから何が起こるか予想が付いているラブはその身を硬くしていた。

 

 

「申し訳ございません教官…私は……私達はこの試合を放棄します……」

 

「え……?お嬢さん今何と?」

 

 

 ラブの突然の申し出に、亜美も戸惑い問うような視線をラブに向ける。

 

 

「…あの子達はこの試合に決着を付ける事をしません……」

 

「しないと思うではなく、しないと言い切るのは何か根拠があっての事なのね?」

 

「…はい……」

 

 

 明確な答えは口にしないがラブの態度にそれが決定事項である事を感じ取った亜美が再度問えば、態度同様に硬い声で短く答えるのだった。

 

 

「残念ながら試合に参加していない今のお嬢さんにそれを宣言する資格はないわ……でも彼女達が試合中どこかのタイミングで、それを宣言するのは間違いないのね?」

 

 

 俯くラブに指導教官として確認する亜美に、彼女は小さく頷くのみであった。

 

 

『撃て……』

 

 

 無線越しの愛の砲撃命令に合わせ5両の主砲が一斉に火を噴いたが全ての砲弾はチャーチルに当たる事はなく、その背後から追い立てるように撃たれていたのは明らかだ。

 逃げたつもりが再び包囲網に飛び込んでしまった事に狼狽するパ~ジリンが更に逃走を指示するが、AP-Girlsは巧みな砲撃でそれを許さずチャーチルは完全にコンテナヤードに封じ込められた。

 そして徐々に間隔を詰めたAP-Girlsが形成した五角形の中で逃げようとする方向に砲撃を受け続けるチャーチルは、グルグルと円を描きながら逃げ回る事しか出来なくなっていた。

 

 

『そろそろいい頃合じゃないかしら?』

 

「…そうね……次の周回でピンク・ハーツの前を通過した処から始めるわ。砲撃順はピンクの次はブルー、イエローブラックで最後はLove Gunよ、これを維持してエンドレスで行くわよ」

 

『了解』

 

 

 鈴鹿からの無線に応じた愛の指示に各車が答えると、それまで無表情を貫き通していた愛の顔に凄惨と形容するしかない怒りの笑みが浮かんでいた。

 

 

彩華(あやか)、最初が肝心よ?解かってるわね?」

 

「任せな……」

 

 

 左側に結ったサイドポニーのオレンジ髪を微かに揺らしたピンク・ハーツの砲手である澤嶺彩華(さわみねあやか)は、照準を覗き込みながら短く答えた。

 

 

「来たわ……撃て!」

 

 

 反時計回りでAP-Girlsが形成した五角形の中を旋回し続けるチャーチルが目の前を通過した直後、ピンク・ハーツの主砲から撃ち出された徹甲弾は浅い入射角で外側からチャーチルの側面を叩いた。

 その結果旋回運動中であったチャーチルは、バランスを崩しフラットスピンに陥った。

 だがAP-Girlsが本領を発揮するのはここからであり、その恐るべき正確さを誇る砲撃技術を以って彼女達の崇拝するラブに暴言を吐いたパ~ジリンに生き地獄を体験させるのであった。

 

 

「来たぜ……撃てぇ!」

 

 

 スピンしながら目の前を通過したチャーチルに向け夏妃が絶妙なタイミングで砲撃命令を下すと、打ち出された徹甲弾は再び浅い入射角でチャーチルの装甲を叩きスピンを加速させる。

 その後も同様の砲撃が続きチャーチルはスピンしながら螺旋軌道を描き、最後には五角形の中心でAP-Girlsから順番に砲撃を受け続け独楽のように延々と回り続けるのであった。

 実際それは独楽回しの要領であり、入射角の浅い砲撃は破壊が目的のものではなくチャーチルのスピンを維持させるものであった。

 だがその曲芸のような砲撃は飛び抜けて正確な射撃技術があって始めて成り立つもので、これ程の技術を高校一年にして身に付けた彼女達とそれを仕込んだラブはやはり驚異的な存在といえよう。

 

 

「やっぱり……」

 

 

 これを予想していたらしいラブは中継映像を映すモニターを見て肩を落とすが、上空のドローンから送られる映像に観戦客達は騒然となっていた。

 何故なら計ったように正確な五角形を形成しその中に閉じ込めたチャーチルを、その中心点から逸らす事なく砲撃のみでスピンさせ続けるAP-Girlsのスキルの高さを目の当たりにしたからだ。

 だがこの攻撃も正確さと規則性の向上の為にラブが取り入れた訓練の応用でしかなく、彼女達にしてみればとりたてて難しい事をしている訳ではなかった。

 

 

「ちょっ!…なっ……や、やめっ!……目が…目が……目がまわ……」

 

 

 その一方でクルクルと強制的に回転させられ続けているチャーチルのコマンダーキューポラ上で、パ~ジリンも言葉にならぬ絶叫を上げ続けていた。

 何しろ今のチャーチルは回転軸のぶれない超高速の超信地旋回をさせられている訳で、完全に目が回ったパ~ジリンは文字通りいつ果てるとも知れない生き地獄を味わっている最中であったのだ。

 しかしパ~ジリンにとっては生き地獄であったとしても、観戦客にとっては今までに見た事もない芸術的な砲撃を見るまたとない機会となっていた。

 

 

「弾切れが先かチャーチルが力尽きるのが先か…その前に羽尻さんが白旗を揚げるのは無理そうね……その辺の匙加減を全て彼女達は見切っているという事なのかしら?」

 

「……」

 

 

 亜美の確認するようなもの言いにラブは答えなかったが、それを肯定の印と理解しているらしく亜美も特に深く追求する事なく視線をモニターに戻していた。

 

 

『愛、そろそろよ』

 

「ええ、解かってるわ……後二順で止めるわよ」

 

 

 丁度亜美がラブにそれを指摘していたまさにその時、チャーチルの装甲がいよいよ限界に達しつつある事を見切った鈴鹿が愛と無線でそんなやり取りをしていた。

 

 

『撃ち方止め!』

 

 

 鈴鹿とのやり取り通りきっちり砲撃が二順した処で愛の砲撃中止命令が無線から響き、無間地獄のような攻撃が止むと徐々に回転速度が落ちたチャーチルは停止すると同時に両の履帯が切れていた。

 そして例え50mmで浅い入射角といえど連続した砲撃を受け続けた装甲もほぼ限界に達しており、亜美の予想通りAP-Girlsが寸止めでギリギリ走行不能直前に攻撃の手を止めた事でそれを証明していた。

 

 

『状況終わり…撤収する……』

 

 

 元の無表情に戻り冷徹な目でパ~ジリンを見ていた愛が短く命令を下すと、ピンク・ハーツを先頭にAP-Girlsはチャーチルをその場に放置して綺麗な一列縦隊でコンテナヤードを後にしていた。

 

 

「お…終わった……?お…お……オエぇぇぇ──っ!」

 

 

 朦朧とした意識の中やっと地獄のような連続回転から開放された事を悟ったパ~ジリンであったが、張り詰めていたものが途切れた途端それまでどうにか堪えていた吐き気を抑えられなくなり、コマンダーキューポラにはまったまま盛大に胃の内容物を砲塔上にリバースしていた。

 そして戦車道の試合中継にあまり慣れていない地元ケーブル局はその光景を全て流してしまい、観戦エリアにちょっとしたパニックを引き起こしていた。

 唯一の救いはと云えばテレビ中継は録画ダイジェストになっていたので、その惨状がお茶の間には届く事がなかった事ぐらいかもしれない。

 

 

「三笠女子学園戦車隊は只今を以って当試合の放棄を宣言します……」

 

 

 聖ジョのフラッグ車であるパ~ジリンのチャーチルに止めを刺す事なく隊列を組んだまま観戦エリアにある運営本部の前まで戻って来たAP-Girlsは、試合全体を統括する審判長の前に整列し敬礼した後、ざわつく観戦客の注目が集まる中隊長を務めた愛が無機質な声でそれだけを申告した。

 それを受けた審判長である亜美の同僚は、表情こそ崩さなかったが戸惑いの視線を亜美に向けた。

 だが亜美の方もその視線に何も言葉で返す事はなく、只無言で一つ頷いてみせるだけだった。

 

 

『…了解……触らぬ神に祟りなしってヤツね……』

 

 

 心中で亜美にそう答えた審判長はAP-Girlsに向き直ると愛の申告を受諾したが、勝者をコールする事なく試合結果の方は無効試合扱いとする辺り亜美同様話の解かる人物なようだった。

 だが、それでも試合終了後の両校挨拶は筋を通すように行われたが、その場に目を回したパ~ジリンとチャーチルの搭乗員の姿はなかった。

 しかし何故彼女達がそんな事をしたかといえばその理由はたった一つ、あのような唾棄すべき存在相手にチームとしての初勝利を上げるのはそのプライドが許さず、更にその勝利を自分達の女神であるラブに献上する事も許されない事であったのだ。

 

 

「だから私達は絶対ステージには立たないわよ!」

 

「ちょっと凜々子……!?」

 

 

 1時間に満たぬ短時間で聖ジョを壊滅させたAP-Girlsであったが、運営本部のテントへと戻った彼女達はラブの戒めを解くと共にパ~ジリン達の為に歌う事を拒否していた。

 

 

「私達はラブ姉を愚弄した相手に歌を聞かせるつもりはないと言ってるのよ?」

 

「鈴鹿!?」

 

 

 凜々子が声高に言い放ったのに続き鈴鹿が静かな口調ながら明確に拒絶の意思を見せれば、その後もメンバー達が続々と異口同音に激しく拒否の姿勢を見せるのだった。

 

 

「こればっかりはラブ姉が何を言っても聞けねぇぜ!」

 

「もしこれ以上言うなら私達は二度とステージには立たないわ……」

 

「な…夏妃、愛……」

 

 

 その拒絶反応の激しさに戸惑うラブであったが、彼女も今回はステージに立つ事への抵抗感とか嫌悪感を抱いているのは事実であり、自分でもどうしたらいいか解からなくなっていた。

 

 

「あのぉ……」

 

 

 無言で睨み合う形になっていたラブとAP-Girlsであったが、そんな彼女に背後からおずおずと相当に怯えた様子で声を掛ける者があった。

 

 

「え……?あ、ハイなんでしょう?」

 

 

 出口の見えない迷路に迷い込んだような状態に陥っていたラブは、最初その声が自分に向けられたものである事に気付かず反応が数テンポ遅れていた。

 

 

「わ…私、聖ジョアンナ女学院の教務課の者ですが……ほ、本日と明日のイベントへの本校の生徒達のご招待を…ご、ご辞退申し上げたくご挨拶に伺いました……」

 

 

 年齢は判り難いが白髪混じりの聖ジョの教務課職員を名乗る男性は、現役女子高生相手に相当に緊張した様子で盛大に噛みまくりながらも思いがけぬ事を告げに来たのであった。

 

 

「あ、あのそれは一体……?」

 

「そ、それはその…ほ、本校の生徒が……い、厳島様に対し無礼極まりない発言をしたと連絡が御座いまして…当方でもそれを確認致しましたので……そ、そのような事があってはご招待をお受けする訳には行かないと……と、とにかくそういう事ですのでご了承頂きたく……し、失礼致します!」

 

 

 酷く顔色も悪い上に挙動も不審な教務課職員は、言うだけ言うと返事も聞かずポカンとするラブの下から転げるように逃げ帰ってしまうのだった。

 

 

「どういう事……」

 

 

 その申し出に心の何処かでホッとしながらも、状況がさっぱり解からぬラブは戸惑いの表情で逃げ去る教務課職員の背中を見送っていた。

 果たして何が起きたかといえば極めて単純な話であり、観戦者がネットに投稿したパ~ジリンの暴言動画は瞬く間に拡散しその情報は学校関係者の耳に入っていたのだ。

 そしてその動画を確認した学校関係者達は、それに付随する関連情報を目にして文字通り真っ青になり学校経営者であるパ~ジリンの祖父に連絡を取っていた。

 だが豪腕で知られるとはいえ所詮地方の豪族程度な上に、古い考え方しか出来ない祖父は当初状況を舐めていたが、さすがにその息子は娘が如何に馬鹿な事を仕出かしたか理解し慌てて関係者に指示を出し事態の収拾に乗り出したのだった。

 しかしたった1時間程の間の出来事ながらその時既に手遅れになっており、例え厳島が一切手を下さなくとも周りが黙っておらず、後々聖ジョと羽尻の親族企業は中々に大変な目に遭うのであった。

 結局試合後のミニライブ以降の全てのイベントに聖ジョの生徒の姿は一切なく、空いた席には地元の福祉施設の子供達を招待する事でその事態を収めたのだった。

 

 

「疲れた……」

 

 

 全てのイベントを終え出港した後、ラブがぼそりと呟いたその一言が一連の事態を集約していた。

 だがネット上でで拡散したパ~ジリンの暴言動画は如何に厳島の力が絶大であったとしても完全に消し去る事は不可能であり、その発言の悪質さに今後の高校戦車道への悪影響も懸念され、連盟と文科省は揃って聖ジョアンナの履修の可否を巡り審議に入る事を決定していた。

 特に文科省の場合はこれまでの厳島に対する不始末を少しでも清算したいらしく、聖ジョアンナに対する履修取り消し処分に向け実に積極的であったという噂だった。

 そんな動きがラブ達のあずかり知らぬ処で起こっていた頃、それとは別に聖ジョアンナに対して圧力を掛けるべく動き始めた一団があった。

 

 

「そう…そうですわね……その辺はお好きにして頂いて結構よ…えぇ、それ以外の手配は全てこちらでしておきますので前日に本艦にお越し頂ければ……それではその線で宜しくお願い致しますわ」

 

 

 古風な受話器を優雅な所作で本体に戻したダージリンは、穏やかな笑みを浮かべているがその目だけは全く笑っていなかった。

 試合当日生中継こそなかったがネット上に流れるであろうAP-Girlsの情報はダージリン達もチェックしており、件の映像も当然彼女達の目に入っていた。

 特にダージリンの場合聖ジョアンナの存在も把握してはいたが、あまりに低俗に過ぎるが為に彼女もパ~ジリンの事を相手にするのも煩わしく放置していたのだった。

 だがそれは彼女の責任ではないにも拘わらず自分が放置した為にという自責の念に加え、愛達からの報告にその怒りは頂点に達し、パ~ジリンに鉄槌を下すべく猛然と活動を始めたのだ。

 尤もダージリンが動き始めるのと同時に他の者達も動き始めており、中でも遠縁ながら血縁者であるまほの怒りようは凄まじく過去最大に恐怖を撒き散らしていたという。

 そして笠女対聖ジョの試合から数日後、あれだけの目に遭い初めて親からこっ酷く叱られるも反省の素振りも見せないパ~ジリンに宛て、一通の招待状が届いたのであった。

 少しでも彼女に考える頭があればラブとダージリンとの関係に思い至りその招待状が発する危険極まりない香りに気付いたはずだが、残念ながら残念なお頭のパ~ジリンとその取り巻きにはそれを嗅ぎ取る事は出来ず、その上辺だけを見て憧れていたダージリンからの招待状という名の死刑執行令状の誘いに小躍りしながら応じてしまうのであった。

 

 

 




ちょっと忙し過ぎて毎晩ぶっ倒れてる感じで原稿の進みが遅いです……。

相変わらずAP-Girlsの技はとんでもないですね……。
次の話の冒頭で登場後はパ~ジリンもやっと退場しますが、
我ながらとんでもないキャラクターだったなぁw
まぁ最後はお察しの通りの展開で粛清されて終わりですがww
そしてその背後にはお約束で最強の黒幕がwww

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