ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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とうとう書いてしまった恋愛戦車道初のひとりえ○ち♡

これR-15指定で大丈夫かなぁw


第十九話   沈む者溺れる者

「お、お願い…お願いします……ゆ、許して……下さい……」

 

 

 ガチガチと噛み合わぬ歯を鳴らしながら命乞いをするような台詞を吐くパ~ジリンは、チャーチルのコマンダーキューポラ上でがたがたと震えながら醜悪な表情で涙と鼻水を滝のように流していた。

 

 

「何か聞こえまして?」

 

「さぁ?」

 

 

 目の笑っていないダージリンのわざとらしい問い掛けに、ブラックプリンスの砲手であるアッサムが素っ気なく答えるがその目はダージリン同様に一切笑っていなかった。

 そんな彼女達の騎乗するブラックプリンスの周囲に展開する戦車群に、ルクリリのチャーチルやニルギリのクロムウェル処か聖グロが所有する英国製戦車の姿は1両もなかった。

 確かにその場にいる全車の砲塔側面には聖グロリアーナ女学院の校章が描かれていた。

 だがそこに居並ぶ戦車達は聖グロの戦車ではなく、それ以前に英国製の戦車でもなかった。

 

 

「あなた達はどうかしら?」

 

「さあな、そこにいる整備のなってない戦車の耳障りなエンジン音のせいで何も聞こえん」

 

 

聖グロのタンクジャケットを身に付けたまほがぶっきらぼうにそう答えたが、その仏頂面から察するに彼女は相当に機嫌が悪いようだった。

 聖グロの校章を描かれたティーガーⅠ(ビットマン)のコマンダーキューポラに収まるまほは、不機嫌さを隠そうともせず重戦車の正面装甲すら貫き通しそうな鋭い視線をパ~ジリンに一切遠慮する事なく浴びせていた。

 だが怒りの目をパ~ジリンに向けているのは彼女だけではなく、その場にいる全ての者がその双眸に紅蓮の炎をたぎらせパ~ジリンを睨み付けているのだった。

 

 

「ふざけんじゃないわよ!こんなチンケなヤツ相手にいつまでチンタラやってるつもりよ!?」

 

 

 聖グロの校章入りのKV-2の砲塔上に仁王立ちするカチューシャがいつものように牙を剥くが、ダージリンは表面上涼しげな顔で受け流していた。

 

 

「カチューシャ、だからこそじっくりとやる必要があるのではなくて?」

 

「カチューシャ様、ここはダージリンの言う通りに」

 

「わ、解かってるわよ!」

 

 

 KV-2の隣に並ぶIS-2のコマンダーキューポラから顔を出すノンナもまた、ダージリン同様いつも通りのクールな表情だがその目は蔑みの感情むき出しだった。

 

 

「Hey!でもさすがにもういいんじゃない?」

 

「だな……」

 

「しかしここまで庇いだてする要素が見当たらん輩も珍しいな……珍しいといえばミカのヤツもあんな表情出来るんだな、私はアイツのあんな顔は初めて見たぞ」

 

 

 いつもならストッパー役になるだろうアンチョビもブレーキを踏むつもりはないらしく、そんな彼女の指摘に視線が集中するミカも、それに気付かぬ程生な怒りの感情をそのまま顔に出していた。

 聖グロリアーナ女学院戦車道チームの演習場にまんまと誘き出されたパ~ジリンは、相変わらずジャンクレベルではあるが取り敢えず修理の終わった戦車と共にノコノコと聖グロの学園艦を訪れ、何ひとつ怪しむ事なく自ら罠の中に飛び込んでいたのだ。

 しかしこの包囲陣を改めて見るといつもの面子であったが、その顔ぶれが少々異なっていた。

 首謀者であるダージリンとアッサムの召喚に応じその場に集ったのは全員ラブと縁のある三年生のみであり、みほやエリカを始めルクリリやカルパッチョなど年下の者達の姿はなかった。

 当然彼女達も怒りを爆発させ参加するつもりであったが、これは完全な私刑でありそのような場にこれからが大事な時期である後輩達が参加することをダージリンは認めていなかった。

 何故ならもし何かあったとしても卒業も決まり後腐れのない自分達のみが責任を全て被る事で、後輩達には累が及ばぬようにする彼女なりの配慮であった。

 だがさすがのダージリンにも考えが及ばぬ事であったが、この件に関して彼女の心配と配慮は完全に杞憂に終わる事になっていた。

 練習試合として地上で試合を行う場合、通常なら当然連盟から審判団が派遣されるので、このような行為が許されるはずもなく即座に試合中止が言い渡されるであろう。

 それを避ける為にもダージリンはお茶会と合同演習という名目でパ~ジリンを誘き出し、学園艦という閉鎖された云わば密室のような環境で用意周到に事に及んだのだが、この段階で連盟と文科省は聖ジョアンナへの指導の停止と履修許可の取り消しをほぼ決定していたからだ。

 思惑はそれぞれだが、現場レベルでは公平な立場であらねばならぬ亜美を始めとする教導教官と審判員達の、聖ジョ並びにパ~ジリンへの拒絶反応が凄まじかったのだ。

 故に事前にこの事が連盟等に知れたとしても黙認される可能性が高かったし、後に亜美達の耳にもダージリン達が何をやったか届いたのだが、彼女達に一切何のお咎めもなかった。

 

 

「More than that……ミカもだけどさ、それよりもっと驚いたのはアンジーよ…あのアンジーがあんな顔をするなんて私今まで思いもしなかったわ……」

 

 

 ケイが驚く以前に大洗の生徒会長である角谷杏がこの場にいる事の方が驚きであったが、これは杏がラブにとって戦車道とは関係なく初めての友となった事にダージリンが配慮しての結果であった。

 杏もまたパ~ジリンのラブへの暴言動画を目にして不快感を露にしており、そこにダージリンからの打診を受け二つ返事で参加を表明していたのだ。

 大洗の危機にあってもその胸の内の想いを中々面に表す事のなかったあの杏が、憤怒の表情でヘッツアー上で腕組みしパ~ジリンを睨み付ける様に、最近ではすっかりその杏と良い仲のケイもその驚きを隠す事が出来なかったのだ。

 

 

「何で…何でアンタみたいなバケモノがここにいるのよ?……何で聖グロのタンクジャケットを着てるのよぉ!?」

 

「ふん…初対面の人間をいきなりバケモノとはご挨拶だな……私と笠女戦車隊隊長……AP-Girlsのリーダである厳島恋は遠縁ではあるが姉妹のように育ってな、ラブは私にとっては姉のような存在だ。そのラブを愚弄した罪、万死に値するものだと理解する頭が貴様にはあるのか?」

 

「ひぃ!」

 

「私達の最愛の友厳島恋に対するあなたの暴言、そして私達を繋ぐ戦車道を地に貶めるようなその振る舞いは断じて許す事の出来ないものよ……」

 

「……」

 

 

 このように怒らせてはいけない人達を纏めて怒らせてしまったパ~ジリンに助かる余地など微塵もあろうはずもなく、既に再生不能な程に撃破された10両のマチルダと同様かそれ以上の目に遭わされるのは確定事項であり、今更の命乞いなど火に油でしかなかった。

 事ここに至って漸くパ~ジリンもそれを理解したらしく、太り過ぎて出入りもままならぬコマンダーキューポラから必死に車内に逃げ込もうとしていた。

 

 

「は、早く引っ張りなさいよぉ!い、痛い!ぐ…ぐるじいぃ……ぷぎぃぃぃ!」

 

 

 その見苦しい事この上ない光景とまさに豚のようなパ~ジリンの悲鳴を聴くに至り全員の怒りも頂点に達し、どうにか彼女が車内に引きずり込まれるとこの計画の首謀者のダージリンはすっかり凍り付いた瞳で目の前のチャーチルを睨みつけたまま、瞳同様に凍て付いた声音で先程からイライラしっぱなしのカチューシャに唆すように水を向けた。

 

 

「あら?やっとあちらも用意が整ったようですわね…ねぇカチューシャ、最後の攻撃命令はあなたがお出しなさいな……」

 

 

 ダージリンの含みしかない氷の微笑にその意図を読み取ったカチューシャは、その顔に見た者が震え上がるような過去最凶の笑みを浮かべていた。

 

 

「あらそーお?それじゃあ遠慮なくやらせて貰うわ!」

 

 

 これぞ小さな暴君の面目躍如といった感じそれに応じたカチューシャであったが、無線の共用回線を通して下された命令はトーンを抑えた底冷えするような短いものであった。

 

 

『粛清なさい……』

 

 

 敢えて聞かせる為に使った無線の共用回線を通して聴こえて来たカチューシャの攻撃命令にパ~ジリンとチャーチルに搭乗する取り巻きは失神し掛けたが、次いで始まった苛烈を極める砲撃にそれすらも許されずこれまでの人生で最悪の恐怖を体験する事になるのだった。

 最初は直撃させる事なく周囲を取り囲むように砲撃を続け、弾着の衝撃と飛来する石などが装甲を叩く音に悲鳴を上げただ耳を塞ぐパ~ジリン達であった。

 だがそれはまだ序章に過ぎず徐々に弾着ポイントを狭め更なる恐怖を煽った後、いよいよ直撃弾が出始めると車体は大きく揺れ、それに合わせて丸いパ~ジリンは文字通り狭い車内で右に左に前に後ろにと激しく転がり回っていた。

 そして元々がジャンク同然なパ~ジリンのチャーチルは、通常なら耐えられたであろう数発の直撃弾で敢えなく白旗を揚げたのあったが、それで彼女達の恐怖が終わる事はなかった。

 何故ならその揚がった白旗を即座にアンチョビがP40の主砲で吹き飛ばすという狡猾さを見せ、そのまま攻撃を続行させるという策を弄して見せたからだ。

 撃破判定などではなく実際にもう全く動けない状態ながらも、車内を守るカーボンコーティングだけが完全に機能しておりそれが地獄もまだ続く事を保障していた。

 止む事のない砲撃に元はチャーチルであった何かは、既にその外観からはそれがチャーチルであるとは例え優花里であっても解からぬ程に変形していた。

 履帯が千切れ飛び転輪や誘導輪が脱落し転がって行くがそれでも砲撃は止む気配は全くなかった。

そしてその砲撃の中でも最も圧巻だったのはまほが砲手として放った一発であろう。

 真正面にティーガーⅠを移動させたまほは砲手とバトンタッチすると、自ら照準を合わせチャーチルの主砲の砲口にアハト・アハト(88mm)を撃ち込み、唐竹割りのようにその砲身を真っ二つに引き裂いてみせたのだった。

 

 

「ダージリン、後一発で弾切れになるわ……」

 

「そう、それは残念ね……ちょっとそこ代わって下さる?」

 

「それは構いませんが……」

 

 

 尚も容赦ない台詞を吐くダージリンであったが、アッサムに代わり最後の一発を撃ち込むと、そこで漸く全軍に攻撃終了の命を下したのであった。

 元チャーチルであった物体はそれがチャーチルである処か戦車である事も解からぬ程変形し、限りなくジャンクに近い状態から今や完全に再生不能なジャンクに成り果てていた。

 

 

「アイツなんだかんだでパ~ジリンに腹を立ててたんだなぁ……」

 

「そりゃあまぁなぁ……」

 

 

 止めを刺した後再びコマンダーキューポラ上に姿を現したダージリンであったが、その眉間に刻まれた深い縦皺にその心の内を悟ったアンチョビの呟きに、パ~ジリンの醜悪極まりない姿を思い出したまほも答え難そうに歯切れ悪く呟いた。

 パ~ジリンの劣化という言葉が生易しく聞こえる似ても似つかぬ猿真似を彼女は全く相手にしていなかったのだが、それを実際目にすれば腹を立てるなという方が無理であった。

 だがそんな彼女が元チャーチルであったジャンク改めスクラップを一瞥し、不快そうに鼻を鳴らしそこで漸く制裁が終わったのであった。

 因みに今回の企みに於いてダージリンがパ~ジリンに飲ませた紅茶は、ドラッグストアで箱買いした聞いた事もないメーカーの一本当たりの単価が100円以下の安いペットボトルの紅茶を、ただ鍋にぶち込みグラグラ煮立てただけのものであった。

 しかしそれに気付く事なく例によって飽和する程砂糖を盛って満足げにそれを飲んだパ~ジリンは、やはりどこまで行ってもパ~ジリンでしかなかった。

 だがそんな存在にではあるが最後の武士の情けとして戦車輸送車を総動員し、11両のスクラップを聖ジョ学園艦に放り込みそれを以ってダージリンは状況の終了を宣言した。

 その後参加者達が鼻息も荒いままそれぞれの母艦に帰投した頃、計ったようなタイミングで日本戦車道連盟並びに文科省から聖ジョアンナ女学院に対し正式に指導と履修の停止が通達され、パ~ジリンの戦車道ごっこは完全にその息の根を止められる事となった。

 それに対し当初は抗議の声を上げ掛けたパ~ジリンであったが、連盟にしても文科省にしても一切取り合う事がなく云わば全てが黙殺される事になったのだが、それはやはり三年前の榴弾暴発事件の只一人の犠牲者であるラブと厳島に気を使ったというのが一番の理由であるのは間違いなかった。

 祖父もまた孫娘と共に猛り狂っていたが、家業そのものに影響が出始めた事でやっと現実を知る事になりその矛を収めたのであった。

 それは何故かといえば、娘に対するパ~ジリンの言動に亜梨亜が直接何かアクションを起すよりも前に、周囲が迅速に動き羽尻の家業に即影響が出るレベルで融資の引き揚げや取引の停止を行った為であり、例え亜梨亜が一切何も言わなかったとしても羽尻など比較にもならぬ程巨大な存在である厳島を恐れ、それは云わば周りが一斉に気を使った結果なのであった。

 その結果聖ジョアンナとパ~ジリンの名は戦車道界から完全に姿を消し、その後二度と誰の目と耳にも入る事はなかった。

 

 

 

 

 

「恋お嬢様、本当に手伝うのはこれだけで宜しいのですか?」

 

「うん、これだけでいいわ…後の事は自分でやるから……っていうか自分だけでやりたいし他の誰にも見せたくないの……お願いだから一人でやらせて頂戴」

 

「畏まりました、それでも何か御座いましたら直ぐにお呼び下さいませ」

 

「ありがとう雪緒(ゆきお)ママ、でもアレを用意して貰ってあるから大丈夫よ」

 

 

 ダージリン達が聖ジョアンナ女学院とその首魁であるパ~ジリンに対し粛清を行っていたその頃、防大と同じ横須賀は小原台の山の上にそびえ建つ自宅である城の一角にラブの姿があった。

 しかし今回の帰宅は前回付いて来た愛の姿もなく、完全に単身での帰宅だった。

 そんな彼女の目の前には、格納庫から引き出された元祖Love Gunである希少な赤外暗視装置搭載型のパンターG型の姿があった。

 その姿はかなり塗装も剥がれ赤く錆が浮き煤け何とも哀れなものであったが、今は厳島家のメイド長である藤代雪緒(ふじしろゆきお)と数名のメイド達の手で、当家所有の90式戦車回収車を使い格納庫より引き出され白日の下に晒されていた。

 しかし雪緒を筆頭にメイド達は全員揃って濃紺のワンピースと白のエプロンのエプロンドレス姿であり、そんな姿でありながら一体どんな手を使ったのか着衣を一切汚す事なく作業を終えていた。

 その様子と手際の良さから察するに、彼女達もまた只者ではない事を感じさせる一幕であった。

 

 

「さて…やっぱり手順からいうと中からよねぇ……」

 

 

 排水設備とシャワーゲートの整った洗車スペースに収まったLove Gunと用意しておいて貰った高圧スチーム洗浄機を見比べたラブは、車体によじ登ると各部ハッチを開き水抜き等の下準備を始めた。

 

 

「これが全部私の血か…うぅ、我ながらグロいわ……」

 

 

 榴弾暴発事故の後、警察と自衛隊による調査を受け証拠品としての役目を経て厳島家に返却されたLove Gunは、それから今日まで当時の姿のまま格納庫で独り眠り続けていた。

 しかしこれから高校戦車道を戦って行く上でその必要性を痛感したラブは、Love Gunを復活させる事を決意し単身帰宅していたのだが、何故誰も連れて来なかったかと云えばそれはやはりこの血染めのLove Gunの車内を、例え最愛の愛相手でも見られたくなかったからに他ならなかったのだ。

 

 

「しかし我ながらホントよく死ななかったわね……」

 

 

 三年以上の間事故当時のまま放置されたその車内は、血の海であったであろう床面には救急隊員達を始め初動に当たった者達の足跡が残り、更には其処此処に血染めの手形も見受けられ当時車内が凄惨なスプラッターの現場であった事を窺わせるのに充分な状況であった。

 それはもう気の弱い者であれば卒倒するのは確実な光景であり、時を経て赤黒く変色した血痕が如何に酷い事故であったかを如実に物語っていた。

 事実、己が流した血でありながら、ラブもその光景にはさすがに顔色が冴えなかった。

 

 

「さて…やるか……」

 

 

 現場で使うのが普通な高圧洗浄機を作動させたラブが、その力任せのような圧力で温水を車内に向け噴射し始めると、やがて剥がれて溶け出した彼女の血が若干元の赤い色を取り戻し流れ始めた。

 

 

「うぅ…これはやっぱあの子達連れて来なくて正解だわ……」

 

 

 車外に流れ落ちた水も目に見えて赤いのが解かり、そのグロテスクな光景に自分の判断が間違っていなかった事をラブは確信していた。

 現在ラブ達AP-Girlsが使用するⅢ号J型同様に、Love Gunにもレストアと同時に更なるチューンを施す事を彼女は決断していたが、その準備が整った事を提携する陸上自衛隊高等工科学校から受けたラブはその前にこうして大掃除をする事にしたのだった。

 だがそれに当たり同行を申し出たAP-Girlsを学園艦に残り待っているよう説き伏せるのに相当苦労したラブは、Itsukushima Oneが発艦するなり眠りに落ち横須賀に着くまで爆睡する程疲れていた。

 しかしそうまでして只独り横須賀に戻りLove Gunを真っ赤に染めた自らの血を洗い流そうとしたのは、AP-Girlsに凄惨な光景を見せたくなかっただけではなく目の手術と共に己が過去と決別する意味もあったようだ。

 

 

「う~ん、覚悟はしていたけどこれはちょっとやそっとじゃないわねぇ……」

 

 

 高温の温水で固着して赤黒くなっていた車内の血を洗い流すラブであったが、やはり三年以上経過するとそれは生易しい作業ではなく細部に亘っての事となると簡単に終わる事ではなかった。

 洗浄機のノズルを駆使して時折溜め息交じりにいつ果てるとも知れぬ作業を続けるラブであったが、ポケットに入れた携帯が震えている事に気付き作業の手を止めた。

 

 

「もしもし~」

 

『恋お嬢様、間もなくお昼になりますが昼食は如何なさいますか?』

 

「え?もうそんな時間……?」

 

 

 ラブは防水性の作業着の袖を捲り腕時計に目をやると確かに後10分程で正午になろうとしており、作業開始から既に3時間以上経過している事に驚くのであった。

 

 

「参ったわね…そちらに戻るわ……雪緒ママ一緒に食べてくれる?」

 

「畏まりました、ご用意は出来ておりますのでいつお戻りになられても大丈夫です」

 

 

 それに直ぐ戻ると答えたラブは洗浄機のエンジンを止めると、早々に城へと戻って行った。

 他所の金持ちな家の事情は知らないが、ラブは普段何もない時などは家に仕える者達と食卓を囲む事を好み、雪緒を始めとするメイド達もそれに応えるように心掛けていた。

 一つには幼少期に両親を亡くした事と、多忙である亜梨亜が不在な時などは独りとなる幼いラブの気持ちを慮っての事であったが、厳島家が元々そういった事をよしとする傾向もあったようだ。

 

 

「それで作業の進み具合の方は如何ですか?」

 

「これがまた中々どうして…でもまぁ間違いなく今日中には終わるけどねぇ……」

 

 

 城の厨房に続くメイド達の休憩室で雪緒達と昼食のテーブルを囲むラブは、さすがにゲンナリした様子で雪緒の問いに答えていた。

 

 

「でもこれでレストアに出せば、その後の改良も全国大会には間に合うと思うわ……他の導入が決まった車両ももうじき納入されてくるし、そっちの方と合わせて全国大会には出揃うわね」

 

 

 全国大会出場を決定事項としてラブは語るが、これが一般的な戦車道選手の発言であれば傲慢且つ思い上がった発言と取られるのが相場であろう。

 しかしこれがAP-Girlsのリーダーであり厳島流家元である彼女の場合、それが本当に事実として聞こえ疑う余地が感じられないあたりが恐ろしい処なのだろう。

 

 

「それはよう御座いました……処で今夜のご予定は如何様に?」

 

「うん、もう一泊してから艦に帰るわ…さすがにこのまま帰るのはちょっとねぇ……」

 

 

 午前中の作業だけでもあの惨状に精神的にかなり疲れを感じており、ラブとしてもその日のうちに再びItsukushima Oneに揺られるのは避けたかったらしい。

 

 

「畏まりました、それではそのようにご用意させて頂きます」

 

 

 昨夜前泊したのに続き今夜も自室で眠ることに決めたラブは前回帰宅した際は愛が同行していた事をふと思い出し、その夜が二人にとって初体験となった事も思い出していた。

 

 

「う゛……」

 

「如何なさいましたか?」

 

「な、何でもない……」

 

 

 急速に顔が熱くなり赤面しているであろう事を自覚したラブは、昼食を平らげると早々に作業に戻るべくその部屋を後にしたが、雪緒の穏やかで楽しげな表情が全てを見透かしているように思え、その足取りは逃げるように速くなっていた。

 あの日以降何もなければほぼ毎夜のように肌を重ねるラブと愛であったが、回を重ねる程に互いにその想いは強まり互いを激しく求め合う事になっていた。

 だがそれでも初体験となったあの日の夜の思い出は鮮烈であり、今もそれを思い出しただけで鼻の奥がつーんとなり思わず首の後ろをトントンするラブであった。

 

 

「…さ、作業に集中しよう……」

 

 

 思わず身体の芯が熱くなりムラムラと高まるものを抑え切れなくなりそうになったラブは、そう言葉にすると同時に洗浄機のノズルを手にし無理矢理その気持ちを切り替えようとしていた。

 そして実際彼女は一心不乱に洗浄作業を続け、日が暮れる少し前最後の仕上げにシャワーゲートを使い車体全体を洗い流し、どうにかその日の作業を全て終えたのであった。

 

 

「お…終わった……後は工科学校の皆さんに託すのみだわ……」

 

 

 再び雪緒達の手で格納庫に戻され陸上自衛隊高等工科学校に送り出すのみとなったLove Gunに、再び会う時は嘗ての雄姿を取り戻した時であると想いを馳せるラブであった。

 そしてその夜昼食の時と同じく雪緒を始めとするメイド達と食卓を囲んだラブは、昼間以上に高いテンションでその時間を楽しんでいた。

 皆ラブが幼い頃からこの城に仕えていた者ばかりであり、当時から彼女にとっては優しいお姉さんでありママであった者達との時間は彼女にとっても貴重なものであった。

 実は雪緒にしても他のメイド達にしても厳島の血縁に当たる家の者達であり、当然というか皆美しく非常に立派なたわわの持ち主ばかりだった。

 やはりどうやら厳島の血筋の女性は美しく整った顔立ちと、世間一般から比べるとたわわのサイズが規格外にご立派になる家系のようだ。

 そんなたわわに囲まれてなお桁外れな存在感を示すラブのたわわだが、彼女の年齢を考えるとまだ成長期であり将来的にどこまで成長するか考えると恐ろしくもあるものだった。

 

 

「さあ恋お嬢様、お休みになられる前にお風呂でよく温まって下さいませ」

 

「え、えぇ…そうね……」

 

 

 食事を終えラブが一息ついた頃、雪緒はラブに入浴を促したがその答えは些か歯切れが悪かった。

 事故以降独りでは入浴もままならぬラブは常に誰かの介助を必要とし、日頃はパートナーである愛がそれら一切を担っていた。

 昨夜はメイド長である雪緒がその代役を果たし何ひとつ問題はなかったが、今夜のラブは少々事情が異なりその誘いに躊躇するのであった。

 何故ならば昼間の一件以降作業に集中するもすっかり意識してしまった彼女の身体は非常に敏感になり、芯に籠もった熱は下がる事なく疼き続けていたのだった。

 実の処夕食の際のハイテンションも、理由の一端はどうやらこれも一因であったようだ。

 だがそれで入浴を断れば勘の鋭い雪緒に怪しまれるのは必定であり、ラブは必死に平静を装い雪緒と共に入浴に挑むのであった。

 

 

「昔と変わらず美しい髪のままで、雪緒も嬉しゅう御座いますわ」

 

 

 ラブの燃えるような真紅の長い髪を洗う雪緒は、その指通りの感触を楽しむかのように満足気な表情を浮かべ何度も頷いていた。

 

 

「そ、そお……?」

 

「はい♪恋お嬢様が幼き頃より仕えさせて頂いて来た私の指は、この感触を忘れていませんわ」

 

 

 聞きようによっては非常に危ない雪緒の台詞にラブは一瞬身を硬くしたが、雪緒の指使いは実際丁寧且つ心地良く彼女は直ぐに夢見心地で蕩けかけていた。

 

 

「気持ちいい……」

 

 

 髪を洗う前に背中を流して貰った段階で何度も変な声を出しそうになったラブは、今もヤバイ状況ながら何とか首の皮一枚ぐらいの処でどうにかその自我を保っていた。

 

 

「さぁ終わりました、後はゆっくりと温まって下さいませ」

 

「う…うん、分かったわ……」

 

 

 洗い上げた長い髪を結い上げて貰ったラブは、ぎこちなく頷くと湯船にそのアハト・アハトなたわわを浮かべ盛大にお湯を溢れさせていた。

 

 

「それにしてもお正月休みは大変賑やかで楽しゅう御座いました♪お嬢様達は皆素晴らしい子ばかりで久しぶりでこの城も活気付きましたわ。これからもどうか機会があれば皆様と共にこちらにもお戻り頂ければ、この雪緒も嬉しく思います」

 

「…ありがとう雪緒ママ……今度の長いお休みには、私達だけではなくてまほや他の友達もいっぱい連れて来るからね……その時はみんなで色々お話がしたいわ」

 

「それは楽しみで御座います……その時が来るのが待ち遠しいですわ♪」

 

 

 その後暫く並んで湯船にたわわを浮かべ、他愛のない会話を二人は楽しむのであった。

 

 

「それでは恋お嬢様、明日は少しゆっくり目で宜しいのですね?」

 

「うん、Itsukushima Oneのクルーにもそうお願いしてあるから大丈夫よ」

 

「畏まりました、それでは今夜はお疲れでしょうから()()()()とお休み下さいませ」

 

「う、うん…おやすみなさい雪緒ママ……」

 

 

 ラブの寝支度を整えた雪緒は一礼して彼女の部屋から退室しようとしていたが、意識し過ぎなせいかそんなつもりは毛頭ない雪緒の言葉にも、何かを見透かしたようなものの言い方を感じた彼女の返事は少し口篭っていた。

 

 

「……」

 

 

 退室する雪緒が入り口のスイッチで部屋の照明を落とすと、室内は足元に微かに灯るフットライトの灯りのみとなった。

 

 

「やっぱこのベッドって独りだと広いな……」

 

 

 囁くように呟いたラブであったが、その広さが余計に前回このベッドで愛と過ごした一夜を意識させ、火照った身体の疼きを一層加速させてしまうのであった。

 そして雪緒の手前一応身に付けた薄布のナイトウェアが煩わしく思えベッドの中でどうにか脱ぎ始めたラブだったが、その際にたわわの先っちょの敏感な薔薇の蕾を衣擦れが刺激してしまい、思わず色っぽい声を漏らしてしまうのであった。

 

 

「ん…あっ……ダメ……!」

 

 

 だがやはり昼間から悶々とし続けた彼女の身体はそれでスイッチが入ってしまい、ダメだという思いとは裏腹に彼女の長く美しい指は自身の敏感な箇所を刺激すべく蠢き始めていたのであった。

 

 

「あ…そこは……だ、ダメ…ん……あ、愛……♡」

 

 

 やがて彼女の部屋に微かに湿り気を帯びた音が聴こえ始め、それに合わせ蕩けたラブのハスキーボイスも彼女の唇から洩れ始めた。

 

 

「ん…もっと……い、いや…そんな事……」

 

 

 最早歯止めの効かなくなった彼女の瞳は潤み焦点も合っておらず、理性も吹き飛び妄想の中の愛の責めに身を任せ淫靡な指の動きは留まる処を知らなかった。

 

 

「お、お願い……」

 

「もっと…もっと……」

 

『あぁ…そこよ……』

 

『や、止めないで……』

 

『好き…あなたの事が好き……』

 

『愛しているわ…()……』

 

 

 ラブが独り妄想の海に溺れていたその頃、愛もまた独りには広過ぎるベッドの上でラブと同様の行為に耽っていたのであった。

 未だバカップル絶頂期のままの二人にとってはたった二日の事が我慢が出来ないらしく、愛は昂ぶった気持ちを慰めるべくラブと同じタイミングで妄想の海にダイブしていたのであった。

 

 

『あっ…あっ……来る…い、イク……』

 

()…お、お願い……い、いかせてぇ……』

 

 

 二人の虚ろな瞳から、同時に一筋の光るものが零れ落ちる。

 遠く離れていながらも、この瞬間二人の気持ちと求め合う身体は完全にシンクロしていた。

 そして頂点に達しつつあった二人は同時に弓形に身体を海老反らせると、そのつま先はきゅっと指まで力が入り全身が小刻みに痙攣し遂には絶頂を迎えるのであった。

 

 

『あぁっ!()……!』

 

 

 一層大きくその肢体を仰け反らせた二人は、頂点に達した直後糸の切れた操り人形のように力尽きるとそのまま深い眠りに落ちて行くのだった。

 そしてその時の二人の姿勢はといえば、互いを求め抱き締めるような姿勢をとっていた。

 相思相愛、それはこの二人の絆が少々の事で途切れるものではないと思わせる光景であった。

 

 

 




相変わらず忙し過ぎて原稿は進まず週一ペースがやっと……。
今日の午後やっと少し休めたけど明日からまたずっと仕事です……。

今回のラストは初稿とは大幅にその内容が変わっています。
その理由はと言えばやはりパ~ジリンがあまりに酷過ぎたからですが、
正直此処まで変わるとは書いてる本人も予想出来ませんでしたw

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