ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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忙し過ぎてまだ当分このペースが続きますがご了承下さい……。

漸くAP-Girls公式戦デビューが見えて来ました。
恋愛戦車道もある意味ここからが本番な訳ですが、
ここに来るまでが本当に大変でしたw


第二十話   ボン(ノウ)カレー

「ついにやってしまった……」

 

 

 暴力的なダウンウォッシュを大地に叩き付け、厳島のイメージカラーであるマリンブルーに染め上げられたItsukushima OneことBell Boeing V-22 Ospreyが横須賀の空に舞い上がる。

 国際線ファーストクラスと同等の仕様に仕立てられた機内で座席に収まっているラブは、離陸直後から何故か両の手で顔を覆いブツブツ何やら呟き続けている。

 

 

「そしてあれは絶対にバレてる……」

 

 

 元祖Love Gunを復活させる準備の為に自宅である横須賀の城に単身戻っていたラブであったが、艦に帰投するべくItsukushima One搭乗する直前、ラブが幼い頃より厳島家に仕えるメイド長である雪緒に掛けられた言葉に頭が沸騰し思わずその場にしゃがみ込みそうになっていた。

 

 

「恋お嬢様の()()()()()()雪緒は嬉しゅうございます、次は是非愛お嬢様や他のお嬢様方とご一緒にお戻り下さいませ」

 

 

 どうにも含みがあるようにしか聞こえてならない雪緒のもの言いに、それが昨夜の一件を指しているとしか思えないラブは顔を覆ったまま自らの膝に突っ伏していた。

 実のところそれは完全に彼女の思い込みでしかないのだが、彼女はその耳まで真っ赤にしていた。

 意外に思うかも知れないが、実はラブが最愛の相手である愛を想って独り行為に及んだのはこれが始めての事であった。

 何故なら二人は寮で同室でありラブが常に愛にべったりであった事に加え、互いに意識し過ぎて一線を超えるまでは妙な処で理性が働いていたのが一因らしかった。

 だが、その()()()を彼女が生まれた頃よりずっと身の回りの世話をして来た雪緒に知られたかもしれないと思うと、とてもではないが平常心を保つ事など出来ず延々と悶えていた。

 

 

「…顔から火が出そう……」

 

 

 しかしそれ以前に今朝雪緒が彼女の事を起しに来た時、すっぽんぽんであった事を忘れていたり肝心な処がアチコチ抜けている辺りはそれだけテンパっているという事なのだろう。

 

 

「恋お嬢様、間もなく着艦でございます」

 

「うぇ!?も、もお?」

 

 

 Itsukushima Oneのチーフパーサーに声を掛けられたラブがガバっと身を起すと、直ぐ傍に立っていた黒髪を結い上げた長身の美女が穏やかに微笑んでいた。

 横須賀を離陸してから数時間、笠女学園艦に追い付くまでの間ずっと同じ処で思考をループさせて恥ずかしさに悶えていた事に気付いたラブは愕然とした顔になった。

 

 

「私はアホか……」

 

 

 着艦したItsukushima Oneからヘリデッキに降り立ったラブは、吹き抜けた風にポニーに纏めた真紅の髪を揺らしながら冴えない表情で母がいるはずの艦橋区画を見上げていた。

 

 

「…取敢えず報告に行かないとね……」

 

 

 ラブが長年使い込み傷とネームシールとバーコードシールだらけのトランクを引き摺り歩き出すと、聞き覚えのあるエンジン音と履帯音を響かせFAMOの愛称で呼ばれるハーフトラックが、彼女の方に向かって走って来るのが見えた。

 

 

「あれ?あの子達……」

 

 

 鈴鹿の運転するFAMOにはAP-Girlsのメンバー全員が乗り込んでいるらしく、近付くにつれ走行音以上に賑やかな少女達の喋り声が聴こえて来た。

 

 

「まだ授業中よね……?」

 

 

 腕時計とFAMOを見比べたラブはまだ昼休みには早過ぎる時間であり、彼女達が授業中に抜け出して来た事に気付き少し顔をしかめた。

 

 

「お帰りラブ姉」

 

「お帰りじゃないわよ、まだ授業中でしょうに──」

 

 

 FAMOを運転して来た鈴鹿が声を掛けるなりラブはそう切り返したが、鈴鹿はそういうのはいいからといった風にヒラヒラと手を振りその先を言わせない。

 

 

「授業っていったって戦車道の座学だしさ、ちょうどコレが来たからその事話し合ってたのよ」

 

「コレ……?って何よ?」

 

 

 鈴鹿がヒラヒラと振っていた手の中に、まるで手品のように一通の封書が現れた。

 

 

「何よソレ……?」

 

「まだ解からないの?」

 

 

 鈴鹿が封書の下に印刷されている発送元のロゴを強調するように指差す。

 

 

「あら?連盟から…あ、そうか……」

 

「えぇ、おそらくそうよ……」

 

 

 日本戦車道連盟から笠女戦車隊の隊長であるラブ宛に送られて来た封書の中身はといえば、時期的に考えれば新設校総当たり戦の対戦表ぐらいしか思い当たるものはない。

 

 

「なんだ…開封してないじゃない……」

 

「そりゃ隊長のラブ姉宛に来た物を、私らが勝手に開封出来ないわよ」

 

「何を今更…愛もいるんだからさっさと確認すれば良かったのに、何の為の副長よ……」

 

 

 ラブが鈴鹿から受け取った封書を見れば開封もせず中身の確認すらしておらず少し呆れた表情をして見せたが、これはさすがに彼女の大らか過ぎるというか大雑把な部分が現れていた。

 

 

「意外とっていうかそういう処は無頓着よね…個人情報の管理とかどうなってるのかしら……?」

 

「あれじゃね?本人が気にしなくても周りが全部やってくれるとかそんな感じじゃね~のか?」

 

 

 逆に鈴鹿が呆れる傍で、どうでもよさそうな顔をした夏妃が頭の後ろで手を組み適当そうに言った。

 

 

「どんだけお嬢様…だったわね……」

 

 

 常に一緒にいるせいで最近はつい忘れがち且つ感覚が麻痺しているが、ラブは世界的に見れば桁違いなお嬢様であり、本人がそれに関して一番無自覚だったが、かなりの頻度で物事に無頓着であったり世間知らずな一面を垣間見せる事があった。

 

 

「…何よ……?」

 

 

 二人をラブが少し据わった目で睨み付けるが、夏妃も鈴鹿も動じる事なく軽く受け流している。

 

 

「そんな事よりサッサと開けなさいよ」

 

「そんな事……」

 

 

 何か言いたげに凜々子に視線を向けるラブだったが凜々子もまた動じる事はなく、逆に苛立たしげな目付きでラブを睨み返していた。

 

 

「どいつもこいつも……」

 

 

 ブツブツと文句をいいながらラブが手元の連盟の名と例のロゴマークが入った封書に目を落とすと、自然と彼女の傍に寄り添い同じように封書を覗き込んでいた愛と目が合った。

 

 

「た、ただいま……」

 

「お、お帰り……」

 

 

 何ともぎこちなく言葉を交わした二人だったが、愛が封書に伸ばし掛けていた手とラブの手が触れた瞬間、電撃が奔ったようにラブと愛はビクリとしたと思うと揃ってその頬を朱に染めていた。

 

 

「はは~ん……」

 

 

 その二人の反応に素早く何かを察したらしい凜々子は極めて人の悪い下種な笑みを浮かべると、吊り上げた口角から含みたっぷりに目の前のバカップルにカマを掛けるのだった。

 

 

「何よ二人してぇ、たった二日のお預けも我慢出来なかったワケぇ~?」

 

 

 ニヤニヤと笑う凜々子にそう言われた途端二人の顔は一気に真っ赤になり、ラブは何か言い繕おうとしたが唇から洩れる言葉は意味を成していなかった。

 

 

「な!ななな…い、いいい言って……り、凜々子ぉ!?」

 

 

 その反応に凜々子が更に口角を吊り上げいやらしい視線を容赦なく二人に浴びせると、耳まで真っ赤にしたラブと愛は両手で顔を覆いその場にしゃがみ込んでしまうのだった。

 

 

『い、い……イヤ──────っ!』

 

「何よ図星ぃ……?」

 

 

 あまりの解かり易さに呆れて鼻白む凜々子だが、そんな彼女の様子に鈴鹿が更に呆れた視線を向け冷めた声で言い放った。

 

 

「あんたのその下品さ、夏妃といい勝負よ」

 

「んだとぉ!?」

 

 

 即座に夏妃がそれに反応し声を荒げたが、それを遮るようにラブが更に大きな声で怒鳴っていた。

 

 

「あ、あんた達はまだ授業中でしょう!直ぐに教室に戻りなさい!」

 

 

 だが彼女がそう叫んだまさにその時、学校の方から午前の授業の終わりを知らせるチャイムの音が聴こえ学園艦自体も一つ汽笛を鳴らすのであった。

 

 

「…学校戻ってお昼食べてなさいよ……私は亜梨亜ママに色々報告しきゃいけないんだから……」

 

 

 疲れたようにラブが学校の方を指差すと、気遣わしげな愛以外の全員がニヤニヤ笑いながらFAMOに乗り込みそのまま走り去って行った。

 

 

「全く…午後の訓練覚えてらっしゃい……」

 

 

 走り去るFAMOを見送ったラブは、手の中に残った連盟の封書に改めて目を落とした。

 

 

「新設校リーグ戦か……」

 

 

 リーグ戦といいながらも総当りでそれぞれの学校が対戦するのは一回限りであり、その辺からも連盟が試行錯誤している様子が窺えたが、それが新設校への配慮として妥当なものであるかどうかはまだ誰にも解からなかった。

 全国大会参加校の大幅増加に対応する為今年からは地区予選が行われる事になり、ラブとしては当然地区予選に出るつもりであったのだが、一年生のみの新設校にとってそれは不利であると判断した連盟は試験策として新設校リーグを設け、そこで勝ち上がった学校に全国大会出場のワイルドカードを与える事を決定していた。

 だが同じ一年生とはいっても本来であればもう高校を卒業する年齢であり、厳島流家元のラブが鍛えたAP-Girlsは通常の新設校と同じ枠に入れるのは無理があると判断したラブは、何度となく連盟に笠女は地区予選組に回すよう要請と抗議を行ったが決定が覆る事はなかった。

 

 

「これじゃ何も救済策にならないじゃない…まぁいいわ、まだ私にも策はあるもの……」

 

 

 冬空を見上げたラブはスッと目を細めた後、その目を母がいる艦橋区画へと目を向けそちらに向けてトランクを曳き歩き始めた。

 その後彼女は亜梨亜にLove Gunのレストアの為の準備が整った事と、間もなく届く新戦力の改修プランを始め幾つかの報告を彼女と昼食を取りながら行っていた。

 

 

「何よ!?さっきの復讐のつもり!?」

 

 

 昼休みが終わる少し前に教室に現れたラブは、おそらく亜梨亜に手伝ってもらい既にパンツァージャケットに着替えていた。

 そして始まった午後の実地訓練では凜々子に対するプログラムだけ明らかにハードルを上げ、その復讐心を満たしているように見えた。

 

 

「あの女狐……」

 

 

 額に汗を浮かべ肩で息をしながらAP-Girlsのブリーフィングルームに戻った凜々子は、短く疲れた声で呪詛の言葉を吐き出すと荒々しく席に着き手にしたスポーツドリンクを一気に飲み干していた。

 

 

「あんた一言多いのよ」

 

「…鈴鹿うるさい……」

 

 

 そんなやり取りが目の前で展開していても既に隊長の顔に戻ったラブは、お遊びはここまでといった風に連盟からの封書を開封するのだった。

 

 

「…緒戦の相手は(あきら)ちゃんのトコか……」

 

「晶ちゃん……?」

 

「この間話したでしょ?説明会で会った私立エニグマ情報工学院付属女子高等学校の古庄晶(ふるしょうあきら)隊長の事よ……ちょっと見た目の雰囲気は鈴鹿、あなたに似てるわよ」

 

「は?私……?」

 

 

 鈴鹿の疑問に答えそのおまけの情報に彼女がポカンとするうちに、ラブが対戦表を愛に手渡せば彼女は直ぐにそれをスキャナーでパソコンに取り込み、ブリーフィングルームの大型モニターにそれを映し出していた。

 

 

「私の第一印象では彼女もエニグマも相当に実力があるはずよ。少なくとも俄かの再履修校処か、全国大会経験校クラスでも喰える程度の実力はあると思うわ」

 

「マジかよ……?」

 

 

 自分達の桁外れな強さを棚に上げて驚いてみせる夏妃だが、それには復活した凜々子かいつも通り突っ込みを入れて毎度お馴染み夫婦漫才をやっていた。

 

 

「それにしたってウチ以上の学校がそうそういるとは思えないわ…だけどこのエニグマってのもまた凄い名前の学校よねぇ……」

 

「ドイツ系の情報工学に特化した学校みたいだからなぁ……」

 

 

 他のメンバー達も混じりあれこれ話しているがAP-Girlsも全国から人材を集めただけに、隊長である晶を始め隊員達の何人かを知っているとの声も聞こえて来ていた。

 しかしそこで凜々子が校名について言及すると、パソコンでエニグマの公式ページを検索していた愛がいつもの無表情で説明を始めた。

 

 

「大学自体も開校から10年、その間に高等部の開設準備を進めていたのね……ただ大学の方ではまだ戦車道チームは存在していないわ、多分晶達がそのまま大学に進んでチームを創るんだと思う……」

 

 

 愛はパソコンを操作して、エニグマの戦車道チームの特設サイトを大型モニターにも表示した。

 

 

「現在の保有戦車数は10両か…それでもみほの所(大洗)より多いけどね……フラッグがティーガーじゃなくてパンターっていうのが良く判ってるって感じだわ」

 

 

 映し出された車両編成を見ればフラッグを含む計4両のパンターG型を始め、同じく4両のⅣ号はG型の初期生産仕様のF2型、そして強力なアハト・アハト(88mm)を装備するヤークトパンター2両という、バランスの取れた機動力重視といってよい編成であった。

 

 

「うん、私好みのチーム編成だわ……やっぱあれね、時間を掛けて準備した学校は違うわね~」

 

 

 前倒しに前倒しを重ね、ラブの戦車道への復帰と進学に併せて開校した笠女との違いを指摘したラブは、そこで自虐的に苦笑して見せるのだった。

 何しろパンターG型2両を仮押さえして他と比較検討しているうちに、大洗の快進撃に便乗した戦車バブルが到来した結果、戦車の購入価格の高騰と粗悪な車両が市場に溢れ彼女達は泣く泣く5両のⅢ号J型のみで戦う事を強いられていたのだ。

 だがもしパンターの導入や他のプランが当時問題なく進行していれば、あの6連戦も全戦全勝していた可能性も大いにあり、もしそうなればまほ達は更に肝を冷やす結果になっていただろう。

 

 

「エニグマの試合の動画も纏められてるけど見る?」

 

「ええ、お願い」

 

 

 ラブの意向に従い愛が動画のリストを表示すると、やはり新設校とあってか中々名の知れた学校からは相手にされ難いらしく対戦相手は無名校が多かった。

 

 

「まぁまほの黒森峰辺りになっちゃうと、過密日程で難しいしともすれば教導試合になっちゃうから仕方ないけどねぇ……でも戦績見れば殆ど勝ってるしちょっと見る目があれば一年しかいなくても強い学校だと解かるのにね、こんな相手と戦えば良い経験値が積めて大いにプラスになるのに…ってこればっかりは言っても中々理解は得られないか……」

 

 

 ほぼぼやきのようなラブの呟きだが彼女の言う事は事実であり、例え新設校であったとしてもエニグマのように開校前から入念に準備をして人材を集めた学校の実力は侮る事が出来ず、ラブの言うように対戦すればかなりの経験値を積む事が出来るのだが、中々それが理解出来る者はいないのが現実でありそれ故新設校は実戦経験を積むのに苦労するのだった。

 そのいい例というか最たる者がパ~ジリンであり、愚かにも彼女は自分が素人であるにも拘わらず新設校と侮り次々勝負を挑んでは惨敗を繰り返し、ノーゲーム扱いになったAP-Girlsも含めれば実質6戦全敗していたのだった。

 それは奇しくもラブがまほ達と戦った戦績とスコア上は全く一緒だが、その内容の差はお話にならないレベルであり、そもそもが比べる事自体がナンセンスというものだ。

 

 

「確かにいい動きしてやがるな、戦車自体も相当いい状態だぜ」

 

「ブラフの掛け方や対戦相手を誘導するのも巧いわね」

 

「隊列行動も綺麗だけど、決して型にはまっているって訳でもないわね」

 

「どの砲手も命中精度がかなり高いじゃない」

 

 

 動画を見進めるうちにAP-Girlsのメンバー達から出る評価は非常に高く、彼女達も隊長である古庄晶率いるエニグマを強い相手であると認識したようだった。

 

 

「あ…聖ジョ戦の動画もあるわね……」

 

 

 順を追って画面をスクロールさせて行くとパ~ジリンの聖ジョアンナとの試合の動画も存在し、それに気付いた瞬間メンバー達の顔に不快の念が現れていた。

 

 

「でもこの再生時間見てみろよ、たったの30秒だぜ?見る価値あんのか?」

 

 

 凜々子の呟きに続き夏妃が吐き出すように言えば皆それで納得行ったらしく、即座に見る価値なしと判断しその動画はスルーしていた。

 

 

「あんた達……」

 

 

 ラブは思わず溜め息を吐いたが、実際その動画には試合開始の場面とパ~ジリンのチャーチルが撃破される場面しか収められておらず、残念ながらAP-Girlsが下した見る価値なしの判断は実に正しいものであった。

 

 

「…とにかくよ……私達にとってこの新設校同士の戦いは、云わば全国大会へ向けての前哨戦でしかないわ。全勝で勝ち上がって全国に行くわよ、そうでなければ私の考える作戦も無駄になるからあなた達もそのつもりで心して戦ってちょうだい……いいわね?」

 

 

 最後はラブが真剣な表情で話を纏めると、この時ばかりは全員が神妙な表情で彼女の話に聞き入り無言で頷きラブの考えに従う意思表示としていた。

 そしてそれを受けたラブも、ゆっくりと一つ頷きその日の訓練の終了を宣言した。

 

 

「やっぱ冷えるわね~、初戦は市街地戦ステージでホッとしたわ……これがいきなり雪上戦とかいわれてたら精神的に削られるトコだったわ~」

 

 

 訓練終了後サウナで汗を流した後学食で空腹を満たし通学路をぞろぞろとメンバーを引き連れ寮へ戻るラブは、対戦表に記載された試合会場を思い浮かべ少しホッとした表情を見せていた。

 八甲田の雪山で行なったプラウダとの一戦で露呈した今のラブ最大の弱点は、原因が身体的な問題だけに中々これという解決策も見出せずチームにとって一番の懸案事項であった。

 冷え込んだ冬の夜空に向け吐いた白い息を見上げたラブの傍らで、そんな彼女の腕を気遣わしげに取った愛と目があった途端昼間の一件を思い出し再び二人の頬に朱が奔った。

 

 

「はは~ん……」

 

「オメぇも学習しろよ……」

 

 

 そんな二人の様子に再びゲスな笑みを浮かべた凜々子に夏妃もさすがに呆れきっていたが、寮に戻った後いつもならばつまらない事でも皆互いの部屋を頻繁に行き来するのが常であるのに、ラブと愛だけは部屋に籠もったきり翌朝まで姿を現す事はなかった。

 

 

「目の下に隈が出来るまでとかコイツらどんだけ盛ったのよ……」

 

「…何を解かりきった事を……」

 

 

 前夜は二人の反応にニヤついていた凜々子だが、目の下に隈を作りながらもテカテカなラブと愛にそう言ったきり言葉を失い夏妃は力なく突っ込んでいた。

 

 

 

 

 

「ラブ姉~!」

 

「あ、晶ちゃん♪」

 

 

 新設校リーグ戦が始まる三日前、ラブ達の姿は試合に向け周囲から閉鎖状態となった試合会場である地方都市の市街地にあった。

 しかしそこは市街地とはいっても街全体が廃墟と化した印象があり、どうやらこの新設校リーグ戦で使用した後に再開発が行なわれる事になっているようであった。

 新設校リーグ戦が行なわれるのに先立ち亜美の発案で集められた6校の隊長達は、その際の話し合いにより試合前の現地偵察は合同調査という形式で行い、会場の危険箇所の情報等の共有とその結果として円滑な試合運営とフェアな戦いをする取り決めをしていた。

 そして今日はその合同調査初日であり、実質ゴーストタウンである市街地の中心近くにある元役場らしき建物の駐車場でエニグマと合流を果たしたのであった。

 

 

「なんか私達、再開発の解体費用を浮かせる為に試合をさせられるような気がしません?来る途中で再開発の立て看板見たんですけど……」

 

「私達は聖グロ戦とサンダース戦で既に経験済みよ~」

 

 

 ラブは合流したエニグマの隊長である古庄晶に、その二試合の経緯をザッと説明してやった。

 

 

「…解体処分費用請求したくなりますね……」

 

「あはははは♪」

 

 

 二人がそんな会話をするうちに既に両校の隊員達も挨拶を済ませ交流を深め始めていたが、そこはやはり目の前に現れた人気アイドルグループであるAP-Girlsに、エニグマの隊員達がはしゃぐ姿の方が目立つ形となっていた。

 

 

「あまりはしゃぐなって言っておいたんだけどなぁ……」

 

 

 大きく溜め息を吐き肩を落とす晶の姿にラブは苦笑していたが、そんな彼女にも熱くユリユリな視線が多数集中しており苦笑を重ねるしかなかった。

 

 

「えっとね~、事前に送られた資料じゃこの元の役場だけ電気水道が生きてるらしくてね、ここを拠点に調査するのがいいと思うの。泊りがけの調査になるから野営の機材も持って来てはいるけどこの役場の中で寝た方が楽かもね、実際使用許可も出てるから」

 

 

 手元の資料を確認しながらラブが提案すれば同じく資料に目を通していた晶もそれに同意し、元役場である鉄筋三階建てのさして大きくもない建物を調査隊本部に定めた。

 

 

「あ…ここの最上階っていうか屋上は体育館みたいですね、ここなら全員で使うのに丁度いいかも……確認してみますか?」

 

「あ、ホントだ……」

 

 

 資料に目を通していた晶の指差した元役場の項目にその記述をラブも確認し全員で階段を上り最上階に行ってみれば、そこは確かにバレーボールコートが2面程の小さな体育館であった。

 おそらくは昔は地元のママさんバレーの練習などに使われていたであろうその体育館は、時代を感じさせるもののトイレや水道のほか電気なども生きており、見晴らしも利くので調査隊のベースキャンプとしては申し分がなかった。

 

 

「ラブ姉!下の階までは小さいけどエレベーターが使えるから、機材と物資の搬入もそんなに苦労しなくて済みそうよ、それと三階には調理場もあるから結構便利が良さそうだわ」

 

「あらそう♪それじゃ早速基地造り始めましょ」

 

 

 体育館を確認後直ぐに元役場内を偵察していた凜々子の報告に手を挙げて応えたラブは、晶を始めその場に集まっていた者達ににこやかに告げるのだった。

 

 

「役場っていうよりも、地域のコミュニティーセンター的な役割の方がメインだったのかしら?」

 

 

 凜々子が言う通り大して大きくないエレベーターは載せられる機材と物資の搬入専用と定め、後は人海戦術で地上班と屋上班に分かれ少女達はあっという間に搬入作業を終わらせていた。

 学校は違えども団体行動に慣れている少女達の事、この程度の単純な作業であれば即座に連携し効率良く作業を進め、今は運び込んだ荷物の仕分け作業に移っていた。

 

 

「無線の機材は放送設備のある舞台の脇の調整室がいいわね、あそこなら電源も延長ケーブルなしで問題なく行けそうだわ」

 

「キャットウォークに双眼鏡設置しておけば、調査中常時四方を確認出来そうね」

 

「あまり高い建物がないのが幸いしてるわよね~」

 

「元々は防災用だと思うけどダンボールの備蓄がいっぱい残されているから、それを使って体育館の床を養生すれば大分寒さが違うんじゃないかしら?」

 

「無線基地構築するから通信手は集合してくれる~?」

 

「炊事班決めるからクジ引きするよ~!」

 

 

 作業開始から一時間と掛からずに基地造りを終えた少女達は、それを終えると役割分担も即ローテーションを組み、両校合同の調査班を編成後は速攻で第一陣が調査に出発していた。

 

 

「なんかエニグマの隊員の子達ってさ、こういう事に随分手馴れてるわね~」

 

「あ~、情報処理技術の講習の一環でこんな感じの実習もあるんですよ……実際就職したとして、果たしてこんな事をやる企業があるとも思えないんですけどね~」

 

「あはは♪」

 

「でも笠女っていうかAP-Girlsも妙にサバイバル慣れしてるように見えるけど気のせいかしら?」

 

「あぁ…私達最初履修許可が下りなかったのは前に話したわよね?その頃はアメリカのヤキマで米軍の現用戦車相手に連日地獄を見てたのよ……」

 

「え゛…マジ……!?」

 

 

 取敢えず第一陣を見送り自分達は無線指令室に居残りとなったラブと晶は、互いの学校の印象を話しつつ無線による報告にも耳を傾け、それに併せて送られて来る写メや動画に目を通していた。

 

 

「う~ん、思った以上に街中は荒れてるみたいねぇ……」

 

「元々財政再建に失敗して街そのものが破綻したみたいですからね…再開発が決まったのも通過点とはいえ高速がここを通る事になったのと、街の破綻後に温泉が見付かったかららしいし……」

 

「運が良いのか悪いのかって感じねぇ……」

 

「ねぇ~」

 

 

 二人は次々と入って来る報告を元に用意しておいた地図にあれこれ書き込みを入れ、体育館に残されていたホワイトボードを問題点の一覧にしていた。

 

 

「晶ちゃんの提案したこの合同調査は正解だったわね~、単独でやってたら見逃しそうなポイントを見付け出して報告が来てるわ」

 

 

 ラブの指摘通り混成の調査班は、慣れた者同士だと見落としそうな部分を異なる視点で見ている為、効率良く問題点を見付けてはその報告が入っているのであった。

 

 

「蝶野教官が用意してくれた特設サイトへの報告はどうしますか?」

 

「そうねぇ…第一報は夜までに情報を纏めてからの方がいいんじゃないかしら?あまり細々書き込みしても却って解かり難くなると思うわ……」

 

「そっか、そうですね……そろそろ第一陣を戻らせませんか?昼の休憩を取ってそれから活動した方がモチベーションも下がらなくていいと思うんですけど」

 

『う~ん、晶ちゃんって本当に優秀な隊長さんだわ♪』

 

「ラブ姉?」

 

「あ、ゴメン……そうねそうしましょう、第一陣を撤収させて頂戴」

 

「了解」

 

 

 ラブの目から見ても実に良く考えを巡らせ行動する晶に内心微笑んでいると、不思議そうに声を掛けられ慌ててラブもそれに同意し撤収の指示を出すのだった。

 

 

「ラブ姉、もうじきお昼の支度が出来るから第一陣を呼び戻してくれる?」

 

「あら?丁度今その指示を出した処よ~」

 

 

 計ったようなタイミングで現れたのは、炊事班の一番クジを引き当てた凜々子であった。

 

 

「まぁ今日のお昼は時間がなかったからウチ(笠女)のレトルトカレーだけどね~」

 

 

 報告に来た凜々子は苦笑しながら念の為にそう告げたが、それを聞いたエニグマの隊員達は一斉に凜々子の方に振り向き歓声を上げていた。

 

 

「え!?笠女の学園艦カレー!?」

 

「マジ!?」

 

「一度食べたかったのよ!」

 

「私一度お取り寄せしたわ!凄い美味しいわよ♪」

 

「あんたいつの間に!?」

 

「あら……」

 

 

 予想外の反応に、ラブを始めその場に居合わせたAP-Girlsのメンバーは呆気に取られていた。

 自分達AP-Girlsだけではなく、笠女給養員学科の生徒達が生み出した学園艦カレーもその評判が高い事を再認識したラブ達はビックリ顔で互いに顔を見合っていた。

 

 

「…まほがあれだけ食べるのも、もしかして普通の事なのかしら……?」

 

「いや!あの人のアレは絶対普通じゃないから!」

 

 

 驚きを隠せないラブとAP-Girlsのメンバー達であったが、まほの常軌を逸した食いっぷりを知っているだけにそのラブの呟きだけには凜々子が即座に突っ込みを入れていた。

 レトルトカレーを温める大鍋はゴトゴトと盛大に湯気を上げ、第一陣が帰るのを待ち受けている。

 

 

 




実は今日も午前中仕事してたのですが、
さすがに疲れてもう止めです……だって明日も仕事せざる得ないですから……。

バカップルもそうですが、凜々子とか見てるとAP-Girlsって似た者集団かなw
今後もR指定を気にしつつ書く事が続きそうですww

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