ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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今回は一方的なものながらラブと晶の関係が明らかになります♡


第二十四話   飛び交う疑問

『宮本さん、プロの目から見てこの試合展開速度は如何でしょうか……?』

 

『私はもう現役を退いていますし厳密にはまだプロリーグもスタートしていない訳ですが……それでも敢えて言うのならば、実業団でもこんな高速機動戦は滅多にお目に掛かる事はないですよ……』

 

 

 新設校リーグ戦生中継の実況アナウンサーの問いに答えた解説役の宮本であったが、観戦エリアのモニターのサブ画面で見てもその顔色は何処か青ざめて見え、うわずった声と合わせて目の前で展開される試合が尋常ではない事を物語っていた。

 エニグマの隊長である晶の思考を読み切ったラブが予想した通り、両校は嘗てはフェリーに乗り込む長距離トラックで賑わったであろうフェリーターミナルのトラック溜まりで会敵すると、そのまま一気に高速機動戦闘に突入していた。

 そしてその速度は大学選抜の代表も経験し、実業団では隊長として所属チームを二度の優勝へと導き、現在はプロリーグ化に向けて同チームの監督として手腕を振るう宮本程の者でも、対応するのに相当苦労する領域に達しているのだった。

 

 

「慣れって怖いな……」

 

「あぁ…そうだな……」

 

「自分が戦った分も含め6連戦全て見てると、確かに慣れますわね……」

 

「Don't say sleep……何寝言言ってんのよ?」

 

「そうよ!あのバカみたいに速い試合展開は昔っからじゃない!」

 

 

 大きく世代が違う宮本にとって中学時代に姿を隠してしまったラブは云わば未知の存在であり、その速度は驚異的なものかもしれなかったが、付き合いの長い者達にとってはそれが普通だった。

 実況アナウンサーと宮本のやり取りを聞いていたまほの呟きに反応はそれぞれだったが、ラブの相手をする事でいつの間にかそれに慣らされていた事が改めて浮き彫りになっていた。

 

 

「それにしてもどういう事だ?大分押されちゃいるが、それでもあのエニグマの隊長はラブのスピードに付いて行ってるじゃないか……」

 

 

 まほの困惑は宮本のそれと同種のものであり、同じ高校生とはいえ三年生と一年生ではそれなりにジェネレーションギャップというものが存在する上、晶達のような新興勢力はまほのように保守派で体制派な黒森峰に身を置くものにとってはそれだけでも驚異的に見えるようだ。

 

 

 

 

 

「当たらない…本当に当たらない……昔見たまんまだ、あれも避けるんだ!」

 

 

 フェリーターミナルでの戦闘に突入する直前、エニグマの隊長である晶は固定砲身のヤークトパンター2両とその直援としてⅣ号2両を分離し、パンター4両とⅣ号2両の隊列を率いてAP-Girlsとの高速機動戦闘に突入していた。

 絶対的な速度はAP-Girlsの操るⅢ号J型が遥かに上回っているが、エニグマの車輌も相当にレベルの高いチューンが施されているらしく、その試合展開の目まぐるしさはアンチョビ率いるアンツィオとの一戦を彷彿とさせるものがあった。

 そんな戦いの最中、エニグマの隊長の晶は解説の宮本やまほ達が驚愕する程の試合運びをしていたが、本人にはその自覚はなく撃てども当たらぬAP-Girlsが見せる高速機動に興奮を覚えていた。

 この日対峙するまでに何度も繰り返しAP-Girlsの試合の映像は見て来たが、やはり戦車に乗り直接その目で見る光景は別世界であった。

 そして彼女は目の当たりにしたラブの卓越した指揮とそれに付いて行くAP-Girlsに対し、恐れではなく感動と興奮といった感情が合わさった熱い視線を向けていた。

 

 

「あ~、晶が欲情してるわ~」

 

 

 晶の指示に的確に反応し砲撃を行なっていた隊長車の砲手は、頭上で悔しさなど微塵もない明らかな歓喜の声を上げている晶に向け呆れて投げやりに言うのだった。

 

 

「え?だってあの厳島恋と戦っているんだよ!?これがどれだけ凄い事か解からないの!?」

 

 

 その晶の喜びの感情を隠そうともしない彼女の様子に、砲手だけではなく他の隊長車の搭乗員達もそれぞれの役割を果たしながらもまた始まったとばかりの表情をしていた。

 ラブ本人の前ではおクビにもそんな表情は見せなかった晶だったが、今の彼女は冷静且つ優秀な指揮官の仮面を外し恋する少女のような顔を見せているのだった。

 

 

「それはもう解かったからさぁ、今はこの状況を何とかしないとマズイんじゃないの?」

 

「それなら大丈夫、もうそろそろタイムリミットなはずだから……9時方向注意!」

 

 

 何処か熱に浮かされたような晶だが戦闘に関する指示に遅れやミスはなく、今も側面を突くべくミニカイルを組んだままドリフトで軌道を変えて来たAP-Girlsに対し、四葉のクローバーと言い表される車体の12時から3時6時9時の方向のうち左側面を表す9時方向を指示すると、操縦手に所謂食事時の角度を取らせ致命弾を受けぬよう巧みに防御を続けていた。

 このように既に数発の直撃弾を受けながらも全て巧く受け流しているので、双方共にまだ脱落する車両は出ていなかったが、ここで晶の言動に関して二つの疑問点が浮上する。

 一つはここまでエニグマが行なった砲撃をかわし続けるラブに対し言った昔と変わらないという台詞と、もう一つはタイムリミットいう台詞の二つだ。

 連盟本部に新設校の隊長が集まった際とこの三日間、晶はそれに関しラブに対して只の一言も言及する事はなかったが、これは種を明かせば単純な話で、実は彼女は中学時代のラブの試合を観戦した事があったのだ。

 それは彼女がまだ小学戦車道で日々練習に明け暮れていた頃の事。

 その年の中学戦車道全国大会終了後、熊本で行なわれた黒森峰中等部と臨海中学の練習試合を観戦するため親に連れられ鹿児島から訪れていたのだ。

 何故なら既に小学戦車道で頭角を現し始めていた晶は黒森峰進学も視野に入り始め、そんな彼女に対し両親も一度黒森峰の試合を見せた方が良いだろうと配慮しての事であった。

 だがそこで彼女の目を奪ったのは、その年の最優秀新人賞であるヤングタイガー賞を受賞したばかりのラブの指揮するLove Gunの踊るような戦闘機動であった。

 何しろ西住流本家より鳴り物入りで進学したまほを擁する黒森峰を、単騎駆けで手玉に取りながらポニーに結った真紅の長い髪を風に靡かせ華麗に踊るが如く戦い続けるラブの姿は、彼女がこれまでに見て来た戦車道とは別世界でありそれを見た瞬間晶のハートをラブが鷲掴みにしていたのだ。

 云わばラブは晶にとって戦車道という枠の世界に於ける初恋の人であり、高等部からラブが黒森峰に進むと噂を聞いた時は自分もそれを考えた程であったのだから。

 だが現実には悪夢の榴弾暴発事故によりラブが姿を消し、彼女もまた地元鹿児島で新設されるエニグマからのスカウトを受け二人が同じパンツァージャケットに袖を通す事はなかったのだ。

 そしてもう一つのタイムリミットに関する疑問であるが、これもまた単純な話であり、AP-Girlsがこれまでに戦った練習試合の動画を徹底的に見返した晶は、彼女達が使用するⅢ号J型が常に常軌を逸した高速機動を行なえる訳ではなく、おそらく時間に制限を抱えている事に気付いていたのだ。

 現に晶が予測した通りラブは側面からの攻撃を終えた直後、一部ではお馴染みになりつつあるピンクのスモークを焚くとあっという間にフェリーターミナルから姿を消しいた。

 

 

「終わったか……今の戦闘でラブ姉かなり私の情報も収集して行ったんだろうな…あ……♡」

 

 

 スモークが晴れ自分達以外いなくなったフェリーターミナルで晶は自分の言った事の意味を思い返し、ラブの視線が自分の全身をくまなく舐めるように観察している処を想像して恍惚とした表情を浮かべるのだった。

 

 

「ダメだこの変態……」

 

 

 晶が漏らした声に付き合いがそれなりに長い砲手は彼女が何やら妄想に浸っているであろう事が容易に想像が付き、それが当たりである事をモジモジと内股になってキュンキュンしている頭上の丸見えのミニスカートの中の様子から確信していた。

 

 

 

 

 

「ん~♪晶ちゃんは私の予想以上だったわ!」

 

 

 ファーストコンタクトを果たした後ラブはAP-Girlsを引き連れ一時的に後退し、今はフェリーターミナルから500m程離れた場所にある内野席しかない小さな市営球場の駐車場で一息吐いていた。

 

 

「そうね、基礎がしっかりしていて大崩れしないタイプだわ……でも只堅実に守勢に徹するなだけじゃなくて瞬間的に攻勢に転じる判断力の速さも持ち合わせたかなり優秀な指揮官ね」

 

 

 極端に間隔の狭い楔形の隊形を維持したまま停車しているAP-Girlsの中で、Love Gunの直ぐ後ろで右翼を固めるブラック・ハーツの車長である鈴鹿は、ミネラルウォーターで喉を潤した後にいつも通りのクールな表情を崩す事なく対戦相手の隊長である晶をそう評していた。

 

 

「お~!思いがけず鈴鹿から高評価が出たわね~♪」

 

 

 自身が相当に気に入っている晶に対してAP-Girlsの黒魔女鈴鹿が与えた高評価に、ラブは目を丸くし驚いた後に満面の笑みを浮かべるのだった。

 

 

「二番煎じで飛びついた俄か履修校と違って、始めからかなり戦車道に力を入れている新設校でチームの立ち上げをする()()()隊長よ?これ位の評価は当然じゃない」

 

「…何か言い方にトゲがあるような気がする……」

 

 

 微妙に一年生の部分を強調する鈴鹿の口調にラブの声のトーンが下がったが、鈴鹿はその程度の事で動じるような相手ではなかった。

 

 

「そんな事よりラブ姉はどうするつもりなの?最初から解かっていた事とはいえ実際晶は温い相手じゃないわ、去年一年…いいえ、おそらくは私達と同様に入学前から準備していたはずだから現段階でもチームの完成度は相当なものよ。下手をすれば三年生が引退して新体制への移行期にある今なら、全国大会クラスの学校だって食われる可能性は充分にあるわ」

 

 

 まほ達が聞けば間違いなく渋い顔をするであろう事を表情一つ変えず平然と言ってのける鈴鹿を、ラブが彼女達に変わり何ともいえぬ渋い顔で見つめている。

 だがそれでも鈴鹿は眉一つ動かす事はなく、只淡々と話を続けるのだった。

 

 

「火力と装甲と総数は圧倒的に向こうが上、更に新設校ゆえにデータは少ないわ。逆に私達はあの6連戦の中継でかなりの手の内を晒している……決して有利な状況ではないけどその辺の事をラブ姉はどう考えているのか是非お聞かせ願いたいものだわ」

 

 

 相手が誰であっても戦車道に関する事であればどこまでも辛辣であり狡猾な鈴鹿だったが、自分達AP-Girlsを相手に圧倒的な火力や数だけで勝てるものではない事は彼女自身が一番良く解かっていた。

 だがそれでもこの場で敢えてこういったもの言いでラブとやり合える辺りが鈴鹿であり、その実力と相まってまほ達が彼女の事を一番警戒した所以であるかもしれなかった。

 

 

「解かってるクセに鈴鹿は直ぐそういう言い方するんだから……」

 

 

 初めて試合で使用するクリアタイプのレンズを入れたゴーグルに付いた煤を拭き取りながら、ラブが軽く鈴鹿を睨んで見せたがそれも彼女は軽く受け流している。

 

 

「だけど現実問題、晶達はウチのスピードにかなり付いて来てたわよ?相当に研究して来てるのはあの動きを見れば明らかだし、何よりそっち系の学校だからそれが一番の得意分野じゃないのかしら?それとさっきは待機して手を出して来なかったヤークトパンターを晶がどの局面で使って来るかも気にならない?あの子相当なやり手よ、軽く肩慣らしとか言ってられる相手じゃないわ……それとね、晶の戦い方なんだけど試合運びと揮下の戦力の使い方…戦闘中の雰囲気がラブ姉に似てる気がするのは私だけかしら……?」

 

 

 鈴鹿の指摘は他のメンバー達の気持ちを代弁しているらしく全員が無言で頷いているが、その表情は試合中の彼女達にしては珍しく硬く真面目なものであった。

 勿論彼女達が知る由もないことではあったが、それは小学生であった晶がラブの戦い方に魅せられて以来、ラブの事を研究し続けてきたからに他ならなかった。

 

 

「それは……」

 

 

 ラブ自身もそれは感じ取っていたようだが、記憶を辿っても過去に晶との接点は一切なく、それ以上の事は何も言えず言葉に詰まるのだった。

 そもそも只事ではない記憶力を誇るラブが、かなりの美少女である晶に会っていれば絶対に忘れるはずはなかった。

 

 

「痛っ!あ、愛!?」

 

 

 彼女の心の内を見透かし口元の微妙な変化を見逃さなかった愛が、すかさずラブのお尻を抓る。

 

 

『またコイツらは……』

 

 

 水面下で二人の間に何が起きたかお察しなAP-Girlsのメンバー達が白い目を向ける中、ラブは愛に抓られたお尻を摩りながらやっと鈴鹿の指摘に答えるのだった。

 

 

「もう愛ったら……鈴鹿の指摘は当たっていると思うわ、エニグマは相当私達の事を研究して来ているわね。でもそれは何処の学校もやる事だし、あくまでもその研究レベルの差でしかないわ…ヤークトパンターに関しては、距離を置いての砲撃戦と近接戦闘前後に支援で使って来るでしょうね……それと晶ちゃんの戦い方は確かに厳島流…私の戦い方に似ているわ、それが彼女独自のスタイルなのかこの試合の為に私の事を研究しての事なのか解からない。でも一つハッキリと言えるのは、もしそれが後者であるならばあれは過去の私……中学時代の私の戦い方よ」

 

『……!?』

 

 

 晶が中学時代の自分に憧れその戦闘スタイルを研究していた事はさすがのラブでも知る処ではなかったのだが、その晶の戦い方が過去の自分のものである事を見抜いている辺りはやはり恐るべきはラブといえるであろう。

 

 

「いずれにしてもエニグマは大当たりな人材を手に入れたものね、彼女ならどの学校でも確実に隊長の任に当たる事が出来るわ…それが例え黒森峰であったとしてもね……」

 

 

 自分達が考えていた以上であったラブの晶に対しての高評価に、話を振った鈴鹿を始めAP-Girlsのメンバー達は揃って驚きに目を丸くしていた。

 そしてその次には彼女の過去の自分の戦闘スタイルという指摘に、その意味する処が解からず困惑の表情を浮かべるのであった。

 

 

「細けぇ事はともかくよ、晶が強えぇ相手だってのは間違いねぇんだからそれでいいじゃねぇか」

 

「またアンタはどうしてそうおバカなのよ……」

 

「んだと凜々子!?もういっぺん言ってみやがれ!」

 

 

 夏妃らしい大雑把なもの言いにいつも通り凜々子が溜め息と共に吐き出し、これもいつも通り夏妃が噛み付くが、他のAP-Girlsはもう何もそれに突っ込む者はいなかった。

 

 

「つまりラブ姉は晶相手にどう戦うかもう方向性が決まってるのね?」

 

 

 恒例の夫婦漫才は放っておいて鈴鹿がラブに確認するように問えば、当のラブの方は何も答えず只不敵な笑みを鈴鹿に返すのみであった。

 

 

「解かった……ラブ姉がどうするか決まっているならそれでいいわ」

 

 

 鈴鹿はそれだけ言うと話は終わったとばかりに自らが車長を務めるブラック・ハーツの点検を始め、他の者達もそれぞれが搭乗する車両の担当箇所の点検を始めるのだった。

 何しろラブ曰く魔改造ではないと言うものの、ピーキー且つ極限までチューンされたAP-GirlsのⅢ号J型は強力な破壊力を秘めながらも非常にナーバスな一面も併せ持つ為、常にその状況を細かくチェックしてやる必要もあるのだ。

 

 

「恋…ちょっと待って……」

 

「ん~?な~に?」

 

 

 自らもLove Gunの再起動前のチェックを行なうべくコマンダーキューポラから車内に入り掛けたラブであったが、声を掛けた愛の方に極上の笑みを浮かべ振り向いた。

 すると軽い跳躍でピンク・ハーツの砲塔からLove Gunの砲塔へと飛び移った愛は、腰のベルトにつけたポーチからハンカチを取り出しラブの顔に着いた煤を軽く拭ってやるのだった。

 

 

「ありがと愛♡」

 

「……」

 

『ケっ!』

 

 

 ここまで一連の動きは極自然なものであったが、以前と変わらぬ無表情ながらも愛の発する雰囲気が非常に柔らかくそれだけでAP-Girlsのメンバー達はお腹一杯になっていた。

 

 

「さぁ第2ラウンド行くわよ~♪」

 

 

 たったこれだけの事でモチベーションが爆上げになる安上がりなラブは実に上機嫌で進発の命を下し、コンパクトな楔形隊形を組んだままAP-Girlsは再び動き出すのであった。

 

 

 

 

 

『あ、たった今市営球場まで後退していた笠女が再び動き出したようです。え~、ここまで両校から戦線離脱した車両は一両もなく、先程の戦闘は互いに様子見といった処でよいでしょうか?』

 

『そうですね、全体の構図としては攻勢に出た笠女に防戦一方のエニグマというものでしたが、随所でエニグマの隊長の古庄選手も攻撃に転じておりそれはどれも的確なものでした』

 

『しかし笠女はエニグマの砲撃を尽くかわし被弾数はゼロと記録が報告されていますが……?』

 

 

 テレビ中継の実況アナウンサーが最初の小競り合いから双方手を引いた後、スタッフにより纏められ手元に来た資料を確認しつつ解説の宮本に話を振る。

 

 

『えぇ、コンパクトとは言え隊列を組んだままで直撃を回避できる笠女の隊長、厳島選手の指揮能力はやはり飛び抜けていますね。ですが、もう一方の古庄隊長も的確な指揮で笠女の攻撃を凌ぎ切っています。今の戦闘では手数の多さから数字上の支配率は笠所が大きく上回っていますが、実質互角であったと見ていいでしょう……そして少し気になったのですが両校の隊長の戦闘スタイルが似ているように思えます、もうちょっと見てみないと何とも言えませんがもしそうなら喧嘩四つの面白い試合展開になりそうですよ』

 

 

 図らずも鈴鹿が気付いた事を宮本も指摘したが、かなり戦車道に精通する実況アナウンサーもこの段階でそれが重要な事であるとは気付かぬようであった。

 

 

『そうですか……それにしても初の試みであるこの新設校リーグ戦、まだ試合開始からさほど時間は経過していませんが両校共とても()()()()()のチームとは思えない戦いぶりですね』

 

『…はい、そうですね……しかし新設校の場合チームの立ち上げに必要な人材の確保に力を入れますから、既存の強豪校以上に一年生でもその意識は高いのではないでしょうか?』

 

 

 無意識に一年生という微妙な地雷を振られ、宮本の返答に微妙な間が空く。

 しかしそれに気付かなかったのか実況アナウンサーはそのまま話を続けた。

 

 

『成る程、ではこの新設校リーグ戦で勝ち残り全国大会のワイルドカードを手にした学校が全国の舞台で大暴れする可能性も充分にあるという事ですね?そうなると俄然他の会場で行なわれている試合の行方も気になって来ます』

 

 

 全国大会までの日程の都合でこの新設校リーグ戦は全戦が同日開催される事になっており、その様子は中継を担当する局の垣根を越え互いに連携し速報を入れる事になっていた。

 しかしほぼ同時刻にスタートしたため試合開始から一時間と経過していない現段階では、どの会場で行なわれている試合でも目立った動きは出ていなかった。

 むしろラブ達の試合の動きが異様に速く、その情報がダイジェストで他会場に配信されると、あまりの高速機動戦闘の激しさにそれぞれの観戦エリアの観戦客が大きく沸く程であったという。

 

 

 

 

 

「さすが宮本監督はよく解かっているようだな…それにしても……」

 

「あぁ……」

 

「そうね……宮本監督が気付く程ですもの、皆も気付いていますわよね?」

 

「これはどういう事よ!?」

 

「What?私に噛み付かれても知らないわよ?」

 

 

 学生時代から活躍を続け監督としても実績のある宮本が実に的確な解説をしている事にさすがという思いを抱きつつも、晶の戦闘スタイルに関して指摘した事は彼女達にとって驚きであった。

 ラブと中学時代から遣り合って来た彼女達にとってそれは見慣れたものであり直ぐに気付く事であったが、世代的な関わりがギリギリなはずの晶がまるでラブの指導でも受けたかのように戦う姿は驚きであり謎であった。

 

 

「あれは似ているとかそういう問題じゃないな…見ろあのリプレイを……ホラやっぱりだ、今の回避機動から攻撃に転じるタイミングと動きはラブそのものだぞ……」

 

 

 アンチョビが指差す先のモニターの中、晶のパンターG型がカウンターで砲撃を行なう場面がリプレイで流れていたが、その姿は元祖Love Gunと同じパンターG型である為に中学時代のラブを髣髴とさせるものがあり皆その光景を困惑と共に見つめていた。

 

 

「これはどういう事だろう…?あの古庄という隊長は以前何処かでラブの指導を受けた経験があるのだろうか……?」

 

「そんな話は私も聞いた事がないな…そんなサプライズな出会いがあればまず間違いなく私の所に電話の一本もしてくるはずだからな……」

 

 

 アンチョビの疑問にラブと姉妹同然であり、最近では嘗てのようにまめに連絡を取り合うまほも腕を組み難しい顔で首を捻っている。

 

 

「あれは今の恋ではなく嘗ての……そう、中学時代の戦闘スタイルですからあなた達が懐かしく思うのも無理はありませんね」

 

「えぇ!?お母様、それは一体どういう意味ですか……?」

 

 

 ラブの動きに良く似た戦闘機動を行なうエニグマの隊長に困惑し沈黙しかけたまほ達であったが、そこで不意にまほの母であり西住流の家元である西住しほが口を開き、彼女が言った事に更に驚いたまほは大きく目を見開くのであった。

 

 

「皆さんも良く御覧なさい、あれは恋の中学時代の戦闘スタイルであって家元となる為に亜梨亜様から更なる指導を受けた現在のものとは大分違うはずですよ?」

 

 

 しほに言われモニターに繰り返し流れている先程の戦闘を見直すうち、やっと彼女達もその違いに気付いたが今度は別の意味で騒然となるのであった。

 

 

「あ…確かにあれは中学時代のラブだ……」

 

「Seriously?マジで…あ、本当だわ……」

 

「ちょっとぉ!これはどういう事よ!?」

 

「ですから誰彼構わず噛み付くのはおよしなさい……」

 

「うぅむ…確かにあれは中学時代のラブに良く似ているがこれは益々訳が解からんぞぉ……」

 

 

 事情を知らぬ彼女達にとってしほの指摘で違いに気付く事は出来てもそれは謎の解明に繋がるものではなく、むしろ一層謎を深めるものでしかなかった。

 

 

 

 

 

「それにしてもどういう事かしらね……?」

 

「え?何がよ?」

 

「あの晶の戦い方よ…少なくとも私達が見たエニグマの過去の試合の映像じゃあんな戦い方はしていなかったわ……それが今回突然ラブ姉のコピーみたいな戦い方をして……ホント謎だわ」

 

「私に聞かれてもねぇ……」

 

 

 ブラック・ハーツの車長席で疑問を口にする鈴鹿に同車の通信手である伊澤芹香(いさわせりか)はセミロングのソフトウルフの髪を左右に揺らし答えるが、彼女もまたその謎の真相を知る訳がないのでそれは答えにはなっていなかった。

 

 

「その辺の理由は解からないけどさ、晶が強い相手である事は変わらない訳でしょ?なら今はそれでいいんじゃない?もしやり難いって言うならポジションいつでも変わるよ?」

 

「やめてよこんな楽しい試合で……」

 

 

 面白そうな表情で自分を見上げながらそんな提案をして来る芹香であったが、鈴鹿は即座にそれを却下し渋い顔をするのであった。

 これまでにも度々そんな場面を見せて来たが、AP-Girlsが恐ろしいのは全てのメンバーがどの役職も問題なくこなせる事であり如何なる事態にも即応出来る事であった。

 そしてこれから再び戦闘に突入するという状況下でも、このよな会話を平気で出来る精神的なタフさもまた彼女達の強さの現れの一面であろう。

 

 

 

 

 

「全方位警戒!AP-Girlsは絶対それ程遠くへは行っていないからな!奇襲には充分に気を付けろ!」

 

 

 フェリーターミナルでの戦闘後、部隊各車の点検をさせた晶は隊員達に小休止をさせると再び隊列を組みAP-Girlsを追って移動を開始していた。

 

 

『ね~晶、次は私達の出番も作ってよね~』

 

「あぁ解かってるよ……それより見ていてどうだった?」

 

『確かに晶の言う通りだったわね……』

 

「そうか……アハト・アハト(88mm)は最終局面で大きく試合を左右するからな、その時まで絶対気を抜くんじゃないぞ、いいな?」

 

『了解よ』

 

 

 先程の戦闘で固定砲身のヤークトパンターに出番はなく晶は護衛のⅣ号を付けて待機させていたが、どうやらそれは戦力を温存しただけではなく一歩引いた処からの観測要員の役割を与えていたらしく、今の会話でも何か重要な事を確認していた様子が窺われていた。

 

 

「全くアイツらもなんだかんだで血の気が多いな……」

 

「それ晶が言う……?」

 

 

 ヤークトパンターとの無線交信を終えた晶の呟きに呆れ顔の砲手が即座に突っ込むが、その晶も楽しげな顔をしている処を見ると彼女もその状況を楽しんでいるようであった。

 

 

「まぁ様子見にしても全く手も足も出ない訳じゃない事が解かったからね、私も思い付く限りの事は全てやるつもりよ…ふふっ♪ラブ姉は気付いてくれたかしら……当然気付いてるわよね、どうするラブ姉?私をどうあしらうつもり?…あ♡……お願いよラブ姉、私の事をもっとよく見て……」

 

「ダメだこの変態……」

 

 

 脳内妄想ダダ漏れな晶に対し、エニグマ隊長車の砲手はこの日二度目の呟きを漏らすのだった。

 

 

 




晶が段々危なくなって行くなぁw

いよいよ公開目前ですが、仕事があまりにも忙し過ぎて待ちに待った最終章の第二話を見に行けないかも……。
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