ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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本日からめでたく最終章第二話の公開が始まりましたが、
さっきまで仕事をしていたし明日も同じ……。
う~ん、マジで今回は劇場に見に行けないかも……。


第二十五話   深まる謎と高まる興奮

「う~ん…何度見てもありゃあ確かに中学時代のラブの動きだなぁ……」

 

「お母様…お母様はどう思われますか……?」

 

「…私だって解からないわよ……でも微妙におかしな所はあるけれど、あの戦闘機動は厳島流の形である事に間違いはないわね……」

 

 

 

 

 

『あぁ…細かな違いはありますが、やはり古庄選手と厳島選手の動きは良く似ていますね……』

 

『厳島選手といえば厳島流の家元を襲名しているとの事ですが、古庄選手は厳島流の指導を受けているという事でしょうか?』

 

『さぁそこまでは…ただ厳島流派これまで身内のみで継承して来た流派と聞いていますので、それはあまり考えられないかと思いますが……』

 

 

 

 

 

「妙に見慣れた動きだと思ったらまさかのラブ姉か……」

 

「でも中学時代のだろ?」

 

「ラブ姉曰くね……」

 

「う~ん…どういう事か試合が終わったら聞いてみっか……」

 

「あの子素直に答えるかしら……?」

 

 

 

 

 

 様々な疑問が交錯する中再び動き始めた両チームは、互いの姿を求めて索敵行動を開始していた。

 

 

「うふふ♪ラブ姉困惑してるかしら?」

 

「それいい加減キモいからやめてくんない?」

 

「…失礼ね……」

 

 

 先程からずっと恋する乙女モードな晶に対し、隊長車の砲手を務める勝気な鳶色の瞳とセミロングの黒髪が印象的な木戸睦美(きどむつみ)がストレートに言えば、さすがに晶もむっとした表情を見せた後に真顔に戻っていた。

 

 

「それにしても一発も当たらないとさすがにへこむわね……」

 

「あら?そんなへこむ事ないわ、腕のいい相手程ラブ姉はギリギリの処で見切ってかわすもの、あの回避機動は睦美の腕がいい事を認めている証よ?」

 

「砲手としちゃ当たってナンボなんだけどね……」

 

 

 一体晶はどれ程ラブの事を研究して来たのか、実際狙いが正確な相手程ラブの回避率が高い事をよく知っているようであった。

 

 

「とにかくこの後もその調子で頼むわ、さっきはまだラブ姉も様子見だったしそれは私も同じ事……今度はこっちも搦め手を使わせて貰うし、いつまでもこのままって訳には行かなくなるんだから」

 

「晶がそう言うなら任せるわ」

 

 

 エニグマの隊列はラブの姿を求め、警戒しながらも市街地を進んで行く。

 

 

 

 

 

『ん~、昔どっかで晶ちゃんと会った事があったのかしら……?でも中学時代鹿児島の学校と対戦した記憶はないわねぇ……』

 

 

 市営球場の駐車場から進発した後、ラブは周囲に警戒の目を配りながらも、過去に晶と会った事がないか改めて記憶を辿っていた。

 だがいくら考えても思い当たる事はなく、愛にまたお尻を抓られたくはないので、それ以上この件に関して考えるのは止めにした。

 

 

「ラブ姉!8時方向に履帯音多数!」

 

 

 そしてそれにタイミングを合わせるようにミニカイルの左翼で殿を勤めるブルー・ハーツの夏妃が警戒の声を発すると、AP-Girlsは即座に臨戦態勢を取るのであった。

 

 

「あら?すれ違いね、やっぱり晶ちゃんは私が思っていた以上に行動が速い子だわ」

 

 

 通り二つを隔てすれ違う形となったAP-Girlsとエニグマの両チームだったが、最後尾で交差点を通過中であった夏妃の耳は履帯がアスファルトを削る音を聞き逃してはいなかった。

 

 

「どうする?このまま廻り込んで後ろを取る?」

 

 

 ブルー・ハーツの隣で後列右翼を固める凜々子が、更に別働隊がいないか周囲を警戒しながらラブに対応を問うたが、ラブは即座にそれを否定するのだった。

 

 

「いや、向こうももう気付いているでしょ?この区画はさして道も広くないし、このまま追っても互いにグルグルするだけで千日手になるだけよ。市街地戦なら元の商業区画か市営団地の辺りの方がいいんだけど、でも今はもう少し開けた所の方がいいかな~?」

 

「開けた所というとさっきのフェリーターミナル以外じゃ自然公園かゴルフ場…どっちも跡地だけど、それぐらいかしら……?」

 

 

 凜々子は頭に叩き込んである地図の中から、比較的広くて戦車戦向きな場所をピックアップした。

 

 

「どっちももう草ぼうぼうで、撃ち合ったらあっという間に山火事になるぞ」

 

「そうよね…それに偵察の時、冬枯れの雑草のチクチクだらけで酷い事になったし……」

 

 

 夏妃の指摘に凜々子は余程不快であったのか、心底嫌そうに顔を顰める。

 

 

「開けているというより広さと手頃な遮蔽物がある、街外れの倉庫街がいいんじゃないかしら?あそこなら運送会社の車両基地もあったから仕掛けるにしても丁度いいんじゃない?」

 

『あぁ…成る程あそこね……』

 

 

 背後の二人の会話に鈴鹿が割り込む形で提案すれば、夏妃と凜々子の二人は一瞬考え込んだ後に頭の中に地図を思い浮かべハモって答えるのだった。

 

 

「仕掛けるといえばあちらもそろそろ何か仕掛けてくるでしょうね……ちょっと楽しみだわ、晶ちゃん今度は一体何を見せてくれるのかしら?」

 

 

 例え飛び抜けた実力を誇るAP-Girlsであったとしてもその戦力差から考えれば決して楽に戦える相手ではなく、まして相手の指揮官が相当に優秀である事がハッキリしている状況であるにも拘わらず、尚もこの発言が出るラブの神経はやはり普通ではないだろう。

 だが既にこの類の事に慣れっこなAP-Girlsのメンバー達も、白い目を向けはしても特に何もいう事はなく次にラブが出すであろう指示を待っていた。

 

 

「そうねぇ…確かにあそこなら悪くないわねぇ……尤も晶ちゃんにとっても何かやるには最適な場所と言える訳だけど……まぁいいわ、各車このまま倉庫街に向けて次の交差点で転進するわよ」

 

『了解!』

 

 

 ラブが方針を決めればAP-Girlsそれに異を唱える事なく全員が従う。

 事戦車道に関してはラブの決定は絶対であり、彼女達は与えられた役割をこなすべく全力で行動するのが常であったが、その反動か日常では彼女に対する扱いが意外にぞんざいなのが面白い処だ。

 

 

「そうと決まれば挑発して晶ちゃん達を倉庫街まで引っ張って行きましょう♪花楓、突撃ラッパを用意してくれる?」

 

「了解…でも普通戦車道の試合で挑発っていったら砲撃とか機銃掃射よね……」

 

 

 久しぶりに車載スピーカーの電源を入れながらぼやくLove Gun通信手の花楓だったが、ラブは至って真剣に車載スピーカーの有用性を語るのであった。

 

 

「あら?車載スピーカーは重要な装備よ、無駄弾を使わずに相手を攻撃出来るんだから」

 

「だったら試合にペイント弾積んで、その分実弾の搭載数減らすのも変よね?」

 

「スピーカーもペイント弾も大事!そもそもスピーカーがなかったら歌う時困るじゃない!」

 

「あ~、ハイハイ……」

 

 

 拳を握って力説するラブに面倒になった花楓は、適当に相槌を打ちながら自分の仕事に戻った。

 

 

「…準備出来たわよ……」

 

「よし!次の交差点で180度反転、突撃ラッパ行くよ!」

 

 

 例えこの突撃ラッパや拡声器パフォーマンスのようにそれがふざけた行動であったとしても、一度ラブの命令が下ればAP-Girlsは一切迷う事なくそれに従い行動を開始する。

 その証拠に彼女達の瞳にはラブの命が下ると同時に、危険極まりない好戦的な光が宿っていた。

 

 

「花楓、突撃ラッパ鳴らせ!」

 

 

 AP-Girlsの隊列が交差点に進入するタイミングで、ラブの号令と共に砲塔後部に括り付けられた車載スピーカーから間の抜けた騎兵隊の突撃ラッパが鳴り響く。

 更にラブが掲げていた右手を振り下ろせば5両のⅢ号J型は、その軌道と隊列を一切乱す事なく履帯から火花を散らし右回転で180度のスピンターンを決めて見せた。

 そして観戦エリアではモニターに見入っていた観戦客達がその瞬間一斉に息を呑み、次いで歓声と共に盛大な拍手をAP-Girlsに送っていた。

 

 

 

 

 

「始めたか……」

 

「全く下品なんだから……」

 

 

 AP-Girlsが全車同時のスピンターンを決め観戦エリアが拍手と歓声に包まれる中、その弄り易い性格のせいで中学時代からラブに試合中散々おちょくられて来た筆頭のまほとダージリンが、揃って渋い顔でモニターを見つめていた。

 

 

「転進したという事は何処かでトラップなり仕掛けるポイントを決めたという事か……」

 

 

 事前に用意していた地図に目を落としながらアンチョビは、ラブやりそうな事と如何にも彼女が使いそうな場所を探している。

 

 

「一年生相手でも手加減なしか……」

 

「西住……それ本人の前で絶対に言うなよ?アイツが拗ねたらしつこいの忘れるてるだろ?」

 

「え?あ…あぁ……」

 

 

 最初アンチョビの言わんとする処が理解出来ない様子のまほであったが、ラブの前で言えば地雷確実なNGワードを口にしていた事に漸く気付いたらしかった。

 

 

「…なんでああも拘るんだか面倒な……」

 

「だからそういう処がダメだとアンチョビ先輩は言ってるんですよ……」

 

 

 自分が中々一年生扱いして貰えない事が目下最大のコンプレックスになりつつあるラブであったが、そこら辺の心の機微が理解出来ないまほに対し、最近女子力の教育係を担当しているエリカは盛大に溜め息を吐きながらダメ出しをしていた。

 

 

「そんな事よりラブは一体何をやる気なのよ!?」

 

「さぁ…彼女の考える事は私達凡人には理解致しかねますから……」

 

 

 小さくて可愛いもの好きなラブの、いっそ偏執的と言っていい愛情表現を込めた戦いを仕掛けられた経験が多いカチューシャの叫びに、凡そ凡人とは言い難い才能を持つノンナが控えめに答えた。

 

 

「まぁあれだ、何をするかまでは解からんが動くならそろそろだろう…今日はまだ隊列を崩していないから単騎駆けもあるかもしれんな……」

 

 

 地図から顔を上げたアンチョビが、暴走族宜しく突撃ラッパをエンドレスで鳴らしながら疾走を始めたラブを映すモニターを見ながら呟くように言った。

 

 

 

 

 

「晶!8時方向にAP-Girls発見!通り一つ向こうよ!」

 

「行き違ったか!全車停止!警戒態勢は維持せよ!」

 

 

 ラブが予想した通りエニグマもまた夏妃が気付いたのとほぼ同じタイミングでAP-Girlsを発見し、隊列最後尾で周囲を警戒していたⅣ号の車長は即座にそれを隊長である晶に報告していた。

 

 

『どうする晶、ここで反転して後を追う?』

 

 

 AP-Girls発見の報にすかさずエニグマの副隊長の紗江子が反応する。

 

 

「いや……この数で反転して追尾するとなると却って時間が掛かる、ここはこのまま──」

 

 

 無線で指示を仰いで来た紗江子に少し考えた後に答え掛けた晶であったが、肝心の部分でそれを遮るようにラブの鳴らした間抜けな騎兵隊の突撃ラッパが聴こえて来た。

 

 

「なにコレ……」

 

「突撃ラッパ…よね……?」

 

「これはホラ、アレよ!」

 

「あぁそうか、ラブ姉の……」

 

 

 最初その音の正体が何か気付くまで間があったものの、ラブと彼女が率いるAP-Girls対策で何度も見た動画の中で度々鳴り響いていた挑発の為の突撃ラッパだと理解した瞬間、エニグマの隊員達の間には何とも云えぬ脱力感が漂っていた。

 

 

「まさか私達が試合中にこれを聴く事になるとは思わなかったわね……」

 

「それにしてもアレね……気が抜けるっつ~かコレ何か腹立つわね~」

 

 

 まほ達の試合の動画でラブのやっすく下らない挑発にキレる場面を何度となく見て来たが、自分達がやられてみて初めてその理由を理解した晶達であった。

 

 

「距離が変わらない…って事はこっちが挑発に乗るのを待ってる訳?そう……そういう事ならラブ姉に付き合うわ……全車このまま前進!次の交差点を左折してAP-Girlsのいる通りに進入しそのまま彼女達を追撃する!但し無用に接近しない事、相手の意図が読めるまでは距離を置いての追撃戦に徹して決して深追いをするな!」

 

『了解!』

 

 

 初めての体験に戸惑いもしたが、晶が指示を出せば迷う事なくそれに従う辺り、エニグマもまた統制の取れた質の高いチームである事が窺える場面であった。

 

 

「次の交差点に進入すれば近くにAP-Girlsがいる訳だけど、側面晒した途端に撃たれたりしない?」

 

 

 止むことなく一定の間隔で突撃ラッパが鳴り続け、隊列がAP-Girlsの背後に廻り込むべく前進を続ける中、エニグマ隊長車の砲手の睦美が少し慎重な表情で晶の事を見上げている。

 

 

「ううん、それは絶対にないから大丈夫……ああして誘っているのにラブ姉はそんな事はしないわ」

 

 

 どれ程ラブの事を信頼しているのか、晶は睦美の不安を即座に否定した。

 

 

「晶がそう言うなら間違いないんだろうけどさ……その根拠というか自信は何処から来る訳?」

 

「あの厳島恋はそんな手で勝ちに来る人じゃない、睦美だって何回も動画を見たでしょ?」

 

「そりゃ見たけどさ……」

 

「なら睦美にも解かるはずよ、厳島恋の戦車道がね」

 

『う~ん…エグい手でゴリゴリに容赦ないのはよく解かったけどさ……』

 

 

 自信たっぷりに言い切った晶であったが、それに対する答えを睦美は言葉にする事は出来ず、胸の内で呟くしか出来なかった。

 そして先頭を走る晶のパンターG型が交差点に進入すると、確かにラブは彼女の言うように攻撃する素振りも見せず1ブロック先の交差点で、Love Gunのコマンダーキューポラ上で艶然と微笑みながら晶が来るのを待ち構えていた。

 

 

「あの余裕ってどこから来るのかしら……?」

 

 

 照準越しにラブの姿を確認した睦美は、常識的にその戦力差を考えればとてもそんな真似は出来ないはずなのに、余裕ぶちかましなラブの様子に只呆れるだけであった。

 

 

「あれよ!あれこそが厳島恋よ!」

 

「だから何で喜ぶのよ……?」

 

 

 睦美には中々理解出来なかったが、晶が小学生の頃から憧れに憧れた厳島恋が直ぐ目の前で当時さながらに挑発パフォーマンスを披露している事実に、彼女の興奮は頂点に達していたのだった。

 

 

 

 

 

「あら?何か気のせいか喜ばれてるような……」

 

 

 相手がまほ達であればブチギレるなりして即座に撃って来たし、それ以外の対戦相手であればビビって逃げたりするのが常であったが、どうにも晶の様子がそれとは違う事にラブも戸惑っていた。

 

 

「おいラブ姉!なにボケっとしてやがんだ!?」

 

「え?あ、ゴメン……それじゃ作戦エリアに向けて移動開始して頂戴」

 

 

 予想外の晶の反応にさすがのラブもどう対処したものかと指示を出すのが遅れたが、気の短い夏妃が怒鳴るとラブも我に返り行動を開始するのだった。

 

 

「なんか調子狂うわね……」

 

 

 予定している作戦エリアである倉庫街に向け移動を開始したが、追尾してくるエニグマもそれが安全圏であると判断した距離以上に間隔を詰めて来ず、冷静な判断が出来ている事はラブにも解かったものの、晶の発するオーラが依然おかしい事に彼女の困惑は続いていた。

 

 

「あの子さっきこっちが発砲しない事を解かってるようだったわね」

 

「それだけラブ姉の事を研究しているって事でしょうよ、やはりその専門教育を受けているだけあって晶達の情報処理能力は相当なものだもの」

 

「だよなぁ…一緒に偵察してても必要な情報とそうでないものの見極めが速かったからなぁ……」

 

 

 凜々子の晶動きに対する分析に鈴鹿と夏妃がそれぞれ思う処を口にしたが、それは間違ってはいないが当たりでもない事を彼女達が知る由もなく、試合後に真相を知った際には彼女達は盛大に脱力する事になるのであった。

 だがそんな彼女達の思惑を他所に、もう間もなく試合は第2ラウンドに突入しようとしていた。

 

 

 

 

 

『──さん、宮本さん?』

 

『え…?あ……失礼、えぇと……』

 

 

 今までに見た事もないその奇抜過ぎるラブの挑発パフォーマンスに、初体験である解説の宮本は生中継の放送席にいる事を忘れ暫し硬直していたが、実況担当アナウンサーに数度その名を呼ばれやっと自分が今いる場所を思い出したようであった。

 

 

『結果的に双方様子見に終わった第1ラウンドでしたが、三笠女子の厳島隊長が自発的にその居場所をああして晒したという事は、ここからいよいよ本格的な戦闘に突入すると見ていいでしょうか?』

 

『えぇ…そうですね……ああいった形の威嚇や挑発は始めて見ましたが、あれだけ激しい戦闘機動をする両チームですので、燃費や足回りへの負担を考えると比較的早く勝負を決めに行く可能性もあるでしょうね……ですが何というか彼女はいつもああいったパフォーマンスを…?戦車にあれだけのスピーカーを搭載しているのも始めて見ましたし……』

 

 

 最後は逆に疑問を呈する宮本であったが、そこは生中継で不測の事態に慣れている実況アナウンサーが即座にフォローしていた。

 

 

『あぁ、厳島選手は中学時代から所謂マイクパフォーマンスをよくやっていたようですね。高校戦車道にAP-Girlsというアイドルグループとして参戦してからは、試合中に歌う事もありますから』

 

『はぁ…そうですか……』

 

 

 AP-Girlsの名は宮本も知ってはいたしテレビから流れる歌も聴いた事はあったが、プロリーグ化に向け多忙な彼女は最近高校戦車道に目を向ける機会がなかったので、ラブの特殊な挑発パフォーマンスに只々面食らった様子でその言葉は何処か虚ろなものだった。

 

 

 

 

 

「まぁそうなるわな……」

 

 

 観戦エリアの大型モニターの分割画面に映る何処か腑に落ちない様子の宮本の表情に、云わばラブの挑発パフォーマンスのベテランであるアンチョビの呟きは何処か達観したものであった。

 

 

「あれが普通の反応よ!」

 

「確かに……」

 

「私達がそれだけラブの非常識に慣らされてしまったという事ですわね……」

 

「I hate to admit it, but……認めたくないけどね……」

 

 

 全員が挑発に乗り敗北を喫した経験があるだけに、その表情は酢でも飲んだようなものだった。

 

 

「揃いも揃って苦もなくコロコロとやられていましたね…ですが、亜梨亜様に軽く捻られ続けて来た私達にそれを責める資格はないでしょう……」

 

『亜梨亜様の高校時代ってどんなだったんだろう……』

 

 

 渋い表情のまほ達に続き不意に過去を語ったしほであったがその目は何処か遠い目をしており、それが逆に亜梨亜の恐ろしさを際立たせ、皆背中に冷たいものが奔る思いであった。

 

 

「ですがあの古庄という選手は恋の挑発に動じず適切な距離を保って追尾していますね…先程からの戦いぶりも只単にあの子の事を研究してのものとは思えないのですが、さて……」

 

 

 モニターの中で追撃戦を始めた両校であったが双方共に一切発砲する事はなく、それはどちらかというと単なる移動区間のようであった。

 

 

「う~ん…このまま進むと先にあるのは……ここか、ラブはこの倉庫街でやり合う気か……」

 

「どれ……あぁ、ここならアイツの得意なストリートファイトにはうってつけな場所だな」

 

 

 アンチョビが地図を指でなぞり確認していると、その手元を覗き込んだまほもアンチョビの指が指し示す倉庫街を確認すると納得したように頷いた。

 だがその時まほの視線の先、地図上にあるアンチョビの華奢な手にそっと重なる手があった。

 

 

「は?」

 

「え…?家元……?」

 

 

 重ねた手の主はいつも通り彼女の隣に割り込んでいたしほその人であり、彼女は只無言でにっこりと、娘には絶対に見せぬ笑みでアンチョビの読みの正しさを評価していた。

 

 

「だ、だから何をやっているのだぁ!」

 

「……」

 

 

 そしていつも通りアンチョビを間に挟んで始まった掴み合いに、これまたいつも通りアンチョビが悲鳴を上げるのであった。

 

 

「毎度毎度いい加減にしてくれぇ!」

 

 

 冬晴れの空の下、スタンド上に響くアンチョビの悲鳴を他所に再び試合は動き始めた。

 

 

 

 

 

「フム…このまま進むとその先は倉庫街か……あそこならラブ姉の得意なストリートファイトにもって来いな場所よね…でもそれならそれでコッチにもやりようがある、その対策も立ててあるし準備だってしてあるんだ……よし!例の手を使うぞ、ヤークトパンターと直援のⅣ号はそれぞれ担当の射点に向かえ、そしてこちらの指示があるまで待機せよ!」

 

『了解!』

 

 

 回避とカウンター攻撃が可能なギリギリの距離でAP-Girlsを追尾していた晶であったが、進むに従いラブの思惑が見えて来たらしく、それに対応する策を講じる為に行動に移っていた。

 

 

『頼んだぞ…ラブ姉みたいな訳には行かないが似たような事は出来るんだ、あの倉庫街ならそれにはうってつけの場所だしその準備は万全だ……うふふ♪ラブ姉驚いてくれるかしら?』

 

 

 隊列を離れたヤークトパンターとⅣ号を鋭い視線で見送った晶は前に向き直りその先を疾走するラブの背中に目を向けると、今度は一転してうっとりとした目でその真紅の髪を見つめていた。

 

 

「晶、やるのね?」

 

「えぇ、本隊も二つに分けるから紗江子も頼んだわよ?」

 

「問題ないわ、でも別行動の間は戦闘スタイルは元に戻してね」

 

「うん解かってる、さすがに私もフルタイムでラブ姉の真似は無理だもの」

 

 

 ラブが仕掛けるのと同時に晶もまたそれに対する策は予め準備してあるらしく、ラブが何を意図しているか予想が付いた今はそれに合わせた作戦を発動するのみであったようだ。

 しかし副隊長の紗江子の指摘に答えた晶の様子からすると、どうやら彼女も常にラブのように戦える訳ではなく、時間制限らしきものがあるようだった。

 

 

「晶!ラブ姉が加速したよ!」

 

 

 晶の予想が当たったのか、緩いコーナーを抜けその先に倉庫街が見えた途端、AP-Girlsは一気に加速すると晶達を振り切るように倉庫街目掛け突進していった。

 

 

「なんて加速なのよ……」

 

 

 あっという間に自分達をぶっちぎって置き去りにして行った5両のⅢ号J型の加速力に、それまでの戦闘での加速もまだ抑え気味であった事を知り愕然とする晶であった。

 

 

「とことんバケモノね…でもその分車両に掛かる負担も大きくなるから、またこれで少し残りの高速機動が出来る時間を削った事になるはずだわ……」

 

 

 憧れのラブと相対する事で時折変な電波を発する晶ではあるが、いざ作戦行動となればその指揮に問題はなく、一年生隊長としては極めて優秀な存在と云えよう。

 そしてそれを最も理解しているのは対戦者であるラブであり、彼女はいたく晶の事が気に入ったらしく相当高く評価していた。

 

 

 

 

 

『ん?部隊を分けたわね…ヤークトパンターが別行動か……どういう風に運用するか楽しみね』

 

 

 肩越しにチラリと後方を確認したラブは距離があるものの数両が隊列を離れるのを認め、それはおそらく固定砲身のヤークトパンターであろう事を予想していた。

 

 

「どうかした?」

 

「え?あぁ、晶ちゃんが何か仕込み始めたみたいよ」

 

 

 いつものようにサイドハッチから顔を出していたLove Gun砲手の瑠伽は目ざとくラブの変化を認め見上げる形で問うたが、さすがに現段階では何も解からぬラブの答えも曖昧であった。

 

 

「そう?でもそろそろ何か仕掛けてくる頃合いよね、それが何かは解からなくてもさ」

 

「そういう事よ」

 

 

 だが瑠伽もまたラブの答えがある程度予想が付いていたらしく、返す言葉もラブがそれが解かっているなら問題ないという考えに沿ったものであった。

 

 

「各車に通達、倉庫街にエニグマの隊列が到達した段階で単独での行動を許可する。制限時間は15分。その間にエニグマの隊列を分断しろ。但し、その編成から彼女達も部隊を二つに分けて行動する可能性がある事に留意して行動せよ」

 

『了解!』

 

 

 瑠伽に答えた後ラブは少し表情を引き締めると、この日初めてAP-Girlsに対し時間制限があるとはいえ単独行動の許可を出していた。

 だが単騎駆けこそ厳島流の本領であり、その許可が出た瞬間AP-Girlsの少女達の表情が一変し、その瞳に肉食の捕食者の光を宿して鋭い牙を剥くのだった。

 

 

 

 

 

『あ、ここで遂に三笠女子が動いたようです……それに呼応してエニグマも部隊を分けました。宮本さん、いよいよ双方明確な作戦行動に出るようですがこの状況ですと三笠女子が飛び込んだ倉庫街での市街地戦闘になると見ていいでしょうか?』

 

『えぇ、高速機動が得意らしい三笠女子向きなフィールドと言っていいでしょう。一方で固定砲身のヤークトパンターを後方に下げたのは、待機というよりおそらくは支援射撃を行なわせる為だと思われますがどういった形で行なうか気になる処ですね』

 

『成る程、ですが高速機動が売りな三笠女子に対し破壊力のある88mmとはいえ、距離を置いての支援射撃が果たして通用するでしょうか?』

 

『はい、ですからそこがこの戦闘での一つの見所になると思います』

 

『そうですか──』

 

 

 ラブの挑発から始まった第2ラウンドも双方が明確な戦闘に向けて行動を起せば、実況も熱を帯び始めそれを受けて観戦エリアの観戦客達のテンションも上がって行く。

 だがここで一つ面白いのは、解説の宮本の目が今日の仕事である解説者の目ではなく優秀な人材を求めるプロチームの監督の目になっている事であったが、これに関しては当の本人も気付いていおらず、モニター越しではあるがそれに気付いたしほだけが苦笑を浮かべていた。

 

 

 

 

 

「ラブ姉来たよ……」

 

「えぇ…そうね……」

 

 

 倉庫街に突入後、丁度中心に位置する少し広めに作られた交差点で再びスピンターンで反転してエニグマの隊列が追って来るのを待ち構えていたラブは、Love Gunの操縦手である香子の声に短く答えた。

 それまで閉じていた瞳をラブが開けばそのエメラルドの瞳はその穏やかな声音とは裏腹に、美しくも危険極まりない光を放っていた。

 

 

「それじゃあいいわね……AP-Girls!Get ready! Get set!」

 

Go for it!(やっちまえ!)

 

 

 再び掛けられたいつもの掛け声にAP-Girlsの闘争心が剥き出しになる。

 ラブにより手綱を解き放たれた美しき野生の美姫達は、いよいよ本領を発揮するべく大地にその爪を突き立てるのであった。

 

 

 




次回は決着が付くまでノンストップで戦闘が続きます。
果たしてどんな結果になる事やら……。
と、云う訳でお風呂回はもう少しお待ち下さいw
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