凜々子をもう少し暴れさせたくなって大幅に加筆してしまいました。
「こちらパンター3号車、ヤークトパンター1号車に砲撃支援要請!攻撃地点は6の3、弾着タイミング──は30秒後!ターゲットはイエロー!繰り返すターゲットはイエロー!」
『こちらヤークトパンター1号車、パンター3号車からの要請を受諾、攻撃地点6の3に指定タイミングでの砲撃準備完了……砲撃10秒前、パンター3号車及び周辺に展開中の車両はフレンドリーファイアに注意せよ!5,4,3,2,1撃て!』
旋回砲塔を持たず固定砲身の不利はあるが、それを感じさせぬ無駄のない動きで砲撃準備を終えたエニグマのヤークトパンター1号車は無線による支援要請を受け、指定座標に向け抜群な破壊力を誇る主砲を振り向けると必殺の
「来るぞ!弾着5秒前!イエローハーツの状況は!?」
「大丈夫!まだ気付いてない!」
エニグマのパンター3号車が凜々子のイエロー・ハーツと遭遇し、そのまま戦闘に突入したのは全くの偶然であった。
通常であればドイツ戦車の最高傑作と言っても差し支えのないパンターG型と長砲身50mm搭載とはいえⅢ号J型では、装甲火力共に差があり過ぎてまともな神経の持ち主であれば正面切ってやり合おうなどとは考えまい。
だがAP-Girlsの少女達に関してはその限りではなく、先程から平気でパンターG型相手に真っ向勝負を挑んでいるのであった。
しかも凜々子指揮するイエロー・ハーツは、火力が同等であればとっくに討ち取っているであろう勢いでパンター3号車を翻弄し続けていた。
「さすがパンター硬いわね!……?なんだ!?」
それは研ぎ澄まされた凜々子の感覚が捉えた一瞬の違和感。
イエロー・ハーツの攻勢に押され後退を続けていたパンター3号車が交差点に差し掛かる直前、まるで時間調整をするようにほんの一瞬だけその逃げ足を緩めたのを彼女の目は見逃さなかった。
「シックスステップ !」
根拠はないが頭の中に鳴り響いた警報に、凜々子は迷う事なく真剣な表情で短く叫ぶ。
彼女が叫んだのは嘗て日本ではブレイクダンスと呼ばれたストリートダンスの基礎のステップの名称であり、どうやら彼女達AP-Girlsは緊急時の戦闘機動の指示をダンスステップの名称で行なっているようであった。
実際イエロー・ハーツの操縦手である
そしてイエロー・ハーツが進行方向に対し半回転して背を向けたその瞬間、本来なら進入していたであろうタイミングで交差点の真ん中に徹甲弾が弾着し深々とアスファルトに突き刺さっていた。
「っく!何処から!?」
凜々子は背後から叩き付けられた衝撃に驚くより前に、その敵意が飛来した方向を見極めるべく周囲を見回すのだった。
「背後から来たわね、距離は…ダメ、砲声が確認出来ない……それなりロングレンジだと思うけど」
砲撃を受けた直後から聞き耳を立てていたイエロー・ハーツ砲手の
「ピンポイントで狙って来たわね…でもラブ姉のアレとは何かか違うわ……」
凜々子は
「今のはナニ……」
だがさすがの凜々子もまだその攻撃のからくりまでは掴めていないのだった。
「凜々子のヤツ今の砲撃よく気付いたなぁ……」
「見ろ…今のリプレイだ……フム、交差点進入直前に何か回避指示を出しているな……」
凜々子の指揮するイエロー・ハーツがパンター3号車を追撃する途中、突如一回転したと思うとその進行方向に徹甲弾が弾着しモニターに見入っていた観戦客が騒然となっていた。
「あの大穴は
またも繰り出されたAP-Girlsの超人的な能力に呆れ気味なアンチョビとまほの言葉に続き、その見慣れた破壊力にエリカが呟いていた。
「そうですわね…あぁ、あんな所にヤークトパンターがいましたわ……」
エリカの呟きに続きダージリンが指差した分割画面の一つに、どうやら小学校の校庭らしい開けた場所でヤークトパンターが砲撃を行なった瞬間の映像が映されている処であった。
「動き出したわ!射点を変える気ね!」
「Wow!一年生しかいないチームとは思えない
一つ所に留まり砲撃を続けるのはいずれ場所を特定されカウンターを喰らう危険性が高く、エニグマのヤークトパンター1号車が一撃で移動を開始した事にカチューシャとケイは感心していた。
「う~む…これまで新設校を一年生だけの新興チームと高をくくって見向きもしなかったのは大きな間違いであったなぁ……なぁエリカ……?」
「はい、これは今後の課題と教訓にしたいと思います」
「頼む……」
まほとエリカは最近の緩い関係ではなく、嘗ての隊長と副隊長の表情で目配せを交わす。
そして他の者達も二人と同様に、その考えを改めたようであった。
「こちらヤークトパンター1号車、これより射点換えの為直援のⅣ号と共に移動を開始する。その間の支援射撃は2号車に移行、想定移動時間は約2分の予定」
『了解』
カチューシャの予想は当たっており、エニグマのヤークトパンターは同一射点から続けての砲撃を行なうつもりはないらしく、予め設定した射点に一撃毎に移動を繰り返す周到さを見せていた。
「ある程度予想はしていたがあれを避けるのか……」
「でも使い方次第で充分行ける!」
「今度は私達も行くよ!」
「えぇ解かってる、他はまだ戦闘に入ってないわね……こちらパンター3号車、ヤークトパンター2号車に続けて砲撃支援要請!攻撃地点は──」
最初の一撃こそかわされはしたが何がしかの手応えを感じたらしいパンター3号車の車長は、士気の高い搭乗員達に背中を押されるように続けての砲撃支援を要請すべく無線に向かっていた。
「
「ん、了解……」
対峙するパンター3号車の動きを注視しつつも凜々子はイエロー・ハーツ通信手の
「はぁ?エニグマのヤークトパンターにノックされたですってぇ?」
『誰もそうは言ってないわ』
「たった今寧が言ったじゃないよ……」
『私が言ったのは長距離からのピンポイントな狙いで狙撃を受けたという事で、ラブ姉みたいな変態的な大技を喰らったとは一言も言ってないわ』
「変態……」
寧の報告を受けたラブだったがその内容に妙な声を上げ、次いで気だるげながらも寧の辛辣な物言いに言葉を失うのだった。
『そんな瑣末な事で黙り込んでないでラブ姉はサッサと対応を考えて頂戴』
「みんな私に優しくない……」
『こっちはラブ姉の寝言に付き合ってる暇はないからこれで切るわよ』
言うだけ言った寧は、それで用は済んだとばかりに無線通信を一方的に終えていた。
「どの場面でヤークトパンターを投入してくるかと思ったらここでか……」
「うん…凜々子が最初に撃たれたのは偶然でしょうけどね……」
寧の報告はLove Gunの搭乗員達も皆聞いており、砲手の瑠伽は報告が始まって直ぐにそれがヤークトパンターによるものだと断定していた。
実際そのラブの予想も正解でありエニグマの隊列が倉庫街に到達したのを確認後分散し単騎駆けで行動し始めたAP-Girlsであったが、凜々子のイエロー・ハーツ以外はまだ誰も会敵しておらずラブは未だ晶のフラッグ車と接触を果たしていなかった。
その一方で凜々子の接触したエニグマのパンター3号車は、部隊を二手に分けたうち副隊長の紗江子と行動を共にしていた車両であり、丁度倉庫街で先行し偵察を始めた処での接触であった。
そしてそこで凜々子はヤークトパンターの砲撃を受け、ギリギリの処でそれを回避したのだ。
「ロングレンジでピンポイントの砲撃ねぇ……」
「随分呑気に構えてるけど凜々子にヘルプ付けなくていいの?」
頭の中で状況の整理と分析をしているラブに瑠伽が一応言うだけ言ってはみたものの、やはり彼女の予想通り帰って来た答えは素っ気ないものだった。
「大丈夫でしょこれ位……それより早く晶ちゃんに会えないかしら?」
ラブの言いようは冷たく無責任に聞こえるが、この程度の状況を何とか出来ないようではとてもAP-Girlsのメンバーが務まらない事は全員が解かっており、聞いた瑠伽もまたこの件に関しては眉一つ動かさずにすっと肩を竦めて終わりだった。
「また愛にお尻抓られるよ?」
「う……とにかく今は晶ちゃんのパンターとの接触が最優先なの!」
それでも決して楽な相手ではないパンターG型と晶相手の戦いを前に何処か嬉しげなラブに通信手の花楓が突っ込めば、赤い顔でラブは頬を膨らませていた。
ラブがそんな調子でLove Gunのメンバー達にあしらわれていた頃、凜々子指揮するイエロー・ハーツは寧が無線で状況報告する間もパンター3号車相手に戦闘を継続していた。
「サイドステップ!撃てぇ!」
相変わらずトリッキーな機動で相手の攻撃を回避しながらカウンター攻撃を繰り返す凜々子のイエロー・ハーツであったが、やはりⅢ号の50mmではパンターの正面装甲の相手は厳しかった。
「解かってはいてもやっぱイヤになるわね…いくら当ててもちっとも効かないんだから……」
右に左にクルクルと激しく廻りながらパンター相手に戦い続けるイエロー・ハーツのコマンダーキューポラ上の凜々子は、フィッシュボーンに編んだ金髪を揺らしながらも少し忌々しげな視線をパンター3号車の車長に向けていた。
「それもそうだけどさっきの攻撃も早めに尻尾掴んでおかないとまずいんじゃない?」
「解かってるわよ、何としてももう一回撃たせてからくりを暴かなきゃいけないわ!」
「また的になるのか……」
攻守の指示の合間に寧の問いに凜々子が答えれば、操縦手の紗英は気乗りしない様子でぼやく。
車長である凜々子の指示通りにイエロー・ハーツを操る事に関しては絶対の自信とそれを裏打ちする実力を持つ紗英であったが、それでも自ら的になりに行くのは気分のいいものではないだろう。
だがもう一方のパンター3号車の車内でも、イエローハーツとは根本的にその内容が違うが搭乗員達の間で葛藤があるのだった。
「何で当たんないのよ!?」
「落ち着けアンタは悪くない!向こうが普通じゃないんだから!」
「大丈夫と解かっててもこうも正面から何発も撃ち込まれるとなぁ……」
「だから向こうが普通じゃないんだってば!」
「と、とにかく何とか次の交差点にイエロー・ハーツを引っ張り込もう!」
理解の範疇を超えるイエロー・ハーツの動きに翻弄されながらも、再びヤークトパンターによる援護射撃を受けるべく予定ポイントまで渾身の演技で後退を続けるパンター3号車であった。
「よし後ちょっと…こちらパンター3号車!ヤークトパンター2号車に砲撃支援要請──」
再びキルゾーンにイエロー・ハーツを引き摺り込むべく後退を続けたパンター3号車の車長は、慎重にタイミングを計りながら遂に支援要請を行なうのだった。
『まだか…まだ来ないか……?』
心の中でそんな事を呟きながら凜々子はその兆候を見逃さぬよう全神経を総動員して警戒しながらもそれを顔に出す事なく戦うが、今度はパンター3号車の車長も更に慎重に行動し手の内を見せないよう勤めていた。
そんな風に互いに微妙な駆け引きを続けるが、それでも両車は徐々に交差点に接近して行く。
『いつ…どのタイミングで来る……?』
一歩タイミングを見誤れば命取りとなる駆け引きに、凜々子の頬を冷たいものが伝い落ちる。
「──3,2,1撃てっ!」
倉庫街でイエロー・ハーツとパンター3号車がトランプの神経衰弱のような駆け引きを続ける中、支援要請を受けたヤークトパンター2号車の主砲が完璧なタイミングで遂に火を噴いた。
「よし!タイミングは完璧だ、我々も次の射点に移動するぞ」
一仕事終えたヤークトパンター2号車の車長は不敵な笑みを浮かべると操縦手に向け移動の指示を出し、それを受けて通信手もその旨を僚車に向け通達するべく無線の回線を開いていた。
「あれは撃つな…ターゲットはやっぱり交戦中の凜々子君か……」
「あぁ…彼女以外まだ誰も会敵していないからな……しかしそれにしても試合展開がバカに速いな、双方が短期決戦を狙ってるようには見えないがこの調子だと午前中にカタが付くんじゃないか?」
「まだ大雑把なデータしか入れてませんが、それでもその可能性は高いですわね」
まほとアンチョビの会話に続き、愛用のノートパソコン相手にずっと何やらやっていたアッサムがアンチョビの予想を肯定するように口を開いた。
「ほう?」
「まあこれは何か根拠云々というよりも、単にラブとエニグマの古庄隊長の相性がいいという程度の事ですけど……何しろラブはともかく古庄隊長のデータが少ないですからね」
アッサムが提示したノートパソコンのモニターには、何が何やら素人目ではさっぱり解からぬ各種データをグラフ化したものが表示されていた。
「fum…相性ねぇ……」
「お前何か違う事考えてるだろ?」
「バ、バカ!そんな訳ないじゃない!」
ふと何やら考え込んだケイにナオミが人の悪い笑みを浮かべ突っ込みを入れれば、ケイも即座に言い返したものの顔が赤い上に噛んでいるので図星なのは明らかだった。
「ホレ、アホな事言ってるうちにヤークトパンターが撃つぞ」
ケイとナオミが愚にも付かぬ会話に時間を費やした僅かな間に砲撃準備を終えたヤークトパンターの主砲が火球を生み、放たれた徹甲弾が指定された交差点目掛けて飛び去って行った。
そしてその徹甲弾が目指す交差点には、今まさにパンター3号車を追ってイエロー・ハーツが進入しようとしていた。
『ウィンドミル!』
モニターに映る凜々子が険しい表情でひと際大きな声でストリートダンスの大技の名を叫ぶ中、これは確実に直撃弾になるとその場面に注視していた者達は等しくそう思っていた。
だが飛来した徹甲弾がイエロー・ハーツの機関部に突き刺さったと誰の目にも見えたその時、まるで瞬間移動でもしたかのように交差点の中心にいたはずのイエローハーツの姿は消えていた。
「なにっ!あれを避けただとぉ!?」
俄かには信じられない事ではあるが何が起こったのかしっかりと見ていたまほが驚きのあまり若干裏返った声で叫ぶ中、それまで以上に激しいスピンターンで直撃を回避したイエロー・ハーツは履帯から尚も火花を上げながら回転を続けていた。
「これも避けたのか!?だが……撃てぇ!」
パンター3号車の車長はあまりにも激しい機動でアハト・アハトの洗礼を回避してみせたイエロー・ハーツとその車長である凜々子を脅威の目で見ていたが、それで呆ける事なく二の矢となる攻撃命令を下し、撃ち出された徹甲弾がスピンを続けるイエロー・ハーツに襲い掛かった。
「……チッ!よくも!」
激しい回転運動にコマンダーキューポラから振り落とされぬよう身体を支える凜々子に向け、それまでとは違うベクトルの衝撃が更に彼女を揺さぶった。
ヤークトパンターからの砲撃は寸での処で見切って回避して見せた凜々子であったが、その為の緊急機動は諸刃の剣でありスピンが収まるまではほぼ無防備となり、そこを逃さずパンター3号車の車長が行なった砲撃は見事イエロー・ハーツに直撃しこの日のエニグマの壱番槍となっていた。
残念ながらその一撃は致命弾にはならず砲塔側面を軽く抉るに止まっていたが、それでも凜々子の象徴である黄色のハートマークを削り取っており、車長としてイエロー・ハーツ預かる彼女のプライドにも傷を付けていた。
「凜々子……」
「解かってる……スモーク!」
黙っていれば良家の令嬢にしか見えぬ凜々子だが、今の彼女は両の目を吊り上げ怒りの視線をパンター3号車に向けている。
だがそんな彼女に対し通信手の寧が気だるげながらも通りの良い声でその名を呼べば、凜々子も完全に冷静さを失ってはおらず即座に撤退の指示を出しお馴染みのピンクスモークを焚くと、早々に交戦エリアから離脱していた。
「ふっ…この場合逃げられたと言っていいのかな……?」
どピンクのスモークに完全に視界を奪われ身動きが出来ずにいたパンター3号車の車長であったが、スモークが晴れ始めた頃にはイエローハーツの姿はとっくに消えておりその引き際の良さにに感心しながらも彼女にはまだ局地的な戦闘とはいえ勝ったという実感は持てなかったようだ。
「やってくれたわ!」
ラブの設定した15分という時間制限を無駄にしない為、パンター3号車との交戦エリアから離脱後も止まる事なく移動を続けるイエロー・ハーツのコマンダーキューポラ上の凜々子は、掠めたに近いとはいえ直撃弾に抉られた自らのパーソナルマークである処の黄色のハートマークを身を乗り出し確認した後に、語気も荒くその胸の内を吐き出していた。
「確かにそうねぇ……でもちょっと箔が付いてよかったじゃない」
「なんですってぇ!?」
彼女と同様に砲塔サイドハッチから身を乗り出し被弾箇所を確認していた砲手の林檎にあっけらかんと言われた凜々子は即座に噛み付いたが、林檎は肩を竦めただけでそれを受け流していた。
「でも凜々子も今ので何か掴んだんでしょ?」
「…まあね……」
凜々子の性格をよく知るだけにイエロー・ハーツのメンバー達に隠し事は通用せず、彼女も仏頂面のまま不承不承といった風に短く答えるのだった。
「寧…ラブ姉呼び出して……」
「はいよ……」
その声はいつもと変わらず抑揚に欠け気だるげだが、何処か楽しげな通信手の寧の様子に指示を出しながら苛立たしさを覚える凜々子であった。
「全く…ウチの連中はどいつもこいつも……」
「私関係ないじゃ~ん」
「うるさい!」
それまでだんまりを決め込んでいた装填手の
「成る程な…そういう事か……」
「どうした?何か解かったのか?」
「いやなにね、エニグマのヤークトパンターの運用方法だけど実に単純な話なんだよ」
「安斎、それはどういう事だ?」
エニグマのヤークトパンターによる支援射撃を注意深く観察していたアンチョビは、凜々子同様に2発目にしてその正確な狙いと弾着のタイミングのからくりに気付いたようであった。
「うんまぁ多分当たりだとは思うんだけどな……あの倉庫街は縦横比率が違うとはいえ碁盤の目になってるだろ?そして2発共に弾着は綺麗に交差点のど真ん中だ」
「あぁ……」
「成る程ね……」
「そういう事……」
アンチョビが皆までもいう事なく、まほ達も彼女の云わんとする処に気付いたようだ。
「そう、おそらくは交差点に縦横で番号を振ってるんだろう」
「将棋の6,4歩とかアレだろ?」
「そうそう、それで後は倉庫街の外に十字砲火も可能なように配置した2両のヤークトパンターが、射点を変えつつ指示に従い交互に砲撃する訳だ」
「あのエニグマの古庄という子…相当おやりになるわね……」
「おぉ、ダージリンのおやりになるわねが出たぞぉ♪」
ダージリンの口から出た高い評価にアンチョビがからかうように節を付けて言ったが、晶に興味を引かれているらしいダージリンはそれに対し何も言い返さなかった。
「ちょっと卒業までに手合わせしてみたいけど如何せん時間がないわね!あの子達にしたってこのリーグ戦でスケジュールはギチギチみたいだしね……」
「今後の事はクラーラ達に託すしかなさそうですね……」
思いがけず現れた興味を引かれる存在に、今の予定で手一杯なカチューシャとノンナもかなり残念そうにしているがその気持ちはその場にいる者は皆同じであった。
「ふふふ♪皆骨の髄まで戦車道に対する想いが染み込んでいるのですね……実に結構な事です」
『えっ?』
思いがけず上機嫌なしほの言葉を聴いた者達は一斉に驚きの声を上げたが、言葉同様に機嫌よさ気な表情の彼女はその表情のまま再びアンチョビの手に自分の手を愛しげに重ねていた。
「だぁぁっ!一度ならず二度までもぉ!いい加減にしろこのクソババぁ!」
『この親子はぁ……』
アンチョビを挟んで再び始まった親子の掴み合いに、皆呆れるもそれを口に出しはしない。
「だから私を巻き込むなと何度言えば解かるのだぁ!?」
これまでも何度となく巻き込まれた低レベルな争いにアンチョビが悲鳴を上げるが、頭に血の上ったまほはともかくしほの方は全く動じていなかった。
「菊代、まだ大分時間はありますが混み合うと相当に時間が掛かりますので、今のうちにお嬢さん方の昼食の手配をお願い出来ますか?」
「畏まりました奥様」
『ゴチになります♪』
「お前らまでぇ!少しは人の話を聞けぇ!」
凄まじい勢いで何度も掴みかかるまほの手を軽くあしらいながらも菊代にお昼の手配なんかをしてみせるしほと、ちゃっかりとそれに乗っかる仲間達にキレたまほの絶叫が寒空の下のスタンド上に虚しく轟いていた。
「そう……そういう事だったのね了解よ凜々子」
『えぇ、そういう事よ……でも仕掛けが解かったとしても脅威である事に違いはないわ』
ラブは凜々子が身体を張って解いたエニグマの長距離からの砲撃のからくりを無線で報告を受けていたが、自身が設定した時間制限中に未だ会敵出来ない事が不満なようであった。
「解かってるわよ、でも凜々子以外まだ会敵してないんだものどうしようもないわ……」
『この撃たれて感じる変態が!』
「あ~!また凜々子が酷い事言った~!」
無線越しに浴びせられた毒にラブが不満を口にしたが、その時には既に凜々子は無線を叩き切り彼女の抗議は完全に無視されていた。
「でもラブ姉どうするの?凜々子が言うように例えネタバレしてもこの支援射撃が厄介な事に変わりはないわよ?相手は
Love Gunの砲手である瑠伽が至極全うな意見を口にしたが、まだいじけて何やらブチブチ言っているラブの耳にそれが届いているかはかなり怪しかった。
「ラブ姉聞いてる?」
「……」
さすがに呆れた瑠伽が溜め息混じりにラブに問い直したが、彼女からの返事はなかった。
「いたわ…見付けた……」
「は?何ですっ──ム……」
瑠伽の問いには答えずいじけて愚痴っていたラブだったが、突如顔を上げたと思うと訳が解からず問い返そうとした彼女の形の良い唇をスラリと長い指で塞いでいた。
「2ブロック先の交差点左側の倉庫の影に晶ちゃんのパンターがいるわ」
「な……ラブ姉!?」
突然の事に面食らった表情で瑠伽は目を白黒させているが、それまでグダグダ言っていたラブもいつの間にか表情を一変させ戦う女の顔になっていた。
「さぁ瑠伽、お仕事の時間よ?」
「…了解よ……」
彼女の豹変には慣れている瑠伽は、若干躊躇はしたが即座にラブが言う事に外れはないと砲手の仕事に専念すべく臨戦態勢で砲手席に座り直した。
「中々面白い手を思い付くみたいね…うん、楽しいわ……さぁ、掛かってらっしゃいお嬢ちゃん♪」
思わず息を呑む程美しくも恐ろしい砲弾の女神の笑みに、観戦エリアの大型モニターでそれを見た者達の間から溜め息の小波が起きる。
その美しき凄惨な笑みを合図に、戦いは怒涛の最終局面に突入して行くのであった。
毎回しほさんは何しに来てるんでしょうねぇw
余計な事を思い付かなければエニグマとの一戦は次回で終了です。
一応修正前の原稿ではお風呂回突入なんですがどうなる事やらww
それにしても忙しい…最後にちゃんと休んだのはいつだろう……?
最終章第二話見に行きたいなぁ……。