「ふぅ……」
滾々と湧き出る源泉掛け流しの温泉に浸かりながら溜め息を吐く美少女。
その少女こそ私立エニグマ情報工学院付属女子高等学校戦車隊隊長であり、つい先程までラブ率いるAP-Girls相手に激しい戦車戦を演じていた
しかし彼女が浸かる温泉は、その様子が些か処か甚だしく風情に欠けるものであった。
それもそのはず。彼女が入っているのは災害時に自衛隊が被災者に対し提供した事ですっかり有名になった仮設の入浴施設と同じ物で、笠女施設科の生徒達が今回の試合会場となった街が財政破綻する直前に見付かった源泉と配管に目を付け、作業実習の名目の下ラブ達の試合にかこつけ自分達も温泉三昧する為に構築した仮設入浴施設だったからだ。
「う~ん……やっぱ勝てなかったかぁ~」
ラブを始めとするAP-Girlsと比較すると可愛く見えてしまうかもしれないが、年齢からすれば充分にご立派で梓やオレンジペコが見ればガックリと膝を突くサイズのたわわを湯にプカプカ揺蕩せながら晶はすっかり放心した様子で呟いていた。
「もう少し何とかなるかと思ったんだけどなぁ……」
湯煙の中ぼんやりしている彼女の脳裏に何度も浮かんでは消えるのは試合終了の瞬間の光景とそれを告げる亜美の声、そしてLove Gun上で強烈な存在感を誇るラブの姿であった。
「エニグマ付属フラッグ車走行不能!よって三笠女子学園の勝利!」
制御不能のフラットスピンに陥ったと見せかけたLove Gunが放った三発の徹甲弾は、全弾が同じ起動輪に叩き込まれ跡形もなく粉砕し晶のパンターに白旗を揚げさせていた。
「そんな……」
暫し揚がった白旗を呆然と見ていた晶は息の根を止められたパンターから降車すると、スピンしながらも全弾正確に機動輪に撃ち込まれた事を知り更に驚くのだった。
「晶ちゃん♪」
「え…あ、ラブ姉……完敗です……」
顔を上げれば直ぐ傍までやって来ていたLove Gunのコマンダーキューポラ上で、ラブが極上の笑みで微笑み掛けているのに気が付いた彼女はそれだけ言うのがやっとだった。
「完敗?そんな事ない、あなた達はとても強いわ……その強さは誇っていいものよ?」
「ラブ姉……」
ラブのエメラルドの瞳には欠片も嘘がない事は誰の目にも明らかであり、晶は高校入学後始めて対峙した強敵の言葉に胸が熱くなるのを覚えていた。
エニグマに入学し戦車道チームを立ち上げてからここまで練習試合は無敗で来たが、その相手といえば新設校と舐めてかかった再履修校や弱小校ばかりで、そこで重ねた勝利は彼女にとっては却ってストレスの溜るものでしかなかった。
かたやラブ達はと云えばたった5両のⅢ号J型で並み居る強豪相手の6連戦を戦い抜き、実質全敗こそしたがその試合内容はご存知の通りで見た者に強烈なインパクトを与えるものであった。
初の敗北と初の勝利、勝者と敗者、その悔しさと喜びは隣り合わせ。
だがその試合結果の価値は両者にとって、他者からは計り知れない程の価値を持つものであった。
「さすがにパンターとなるとⅢ号じゃ牽引はきついわねぇ……まぁ後は回収車に任せて私達は教官の待ってる観戦エリアに戻りましょう。さ、乗って乗って♪」
「はぁ……」
明るく笑いながら差し伸べられた手を戸惑いながら見上げる晶だったが、その胸中には不思議と初の敗北に対する深い悔しさは感じられずにいた。
『ありがとうございました!』
観戦エリアの運営本部前に戻ったラブ達は、両校が整列する前で改めて亜美による勝者コールの後に鳴り止まぬ拍手の中挨拶と握手を交わしていた。
そしてその背後のモニターにはもう何度目かになる勝敗が決した瞬間の映像が流されており、それを検証しながら試合中継の実況席に解説として座る実業団チームの監督である宮本が、改めてこの試合の講評を行なっている処であった。
『宮本さん、改めてこの試合を振り返って見た訳ですが、宮本さんから見て試合の分岐点はどの辺にあったのでしょうか?』
『…そうですね……敢えて言うならば──』
実況アナウンサーの問いに答える宮本であったが、その口調は何処か放送開始当初の切れが無く、心此処に在らずといった印象だ。
「ま、初めてじゃこんなもんだろ」
「そりゃいきなりあんなもん見せられりゃなぁ……」
モニターの中虚ろな表情で解説を続ける宮本に、まほは何とも気の毒そうな目を向ける。
今もそんな宮本の様子にアンチョビが腕組みして何度も頷きながら言った事に対し、フォローするように答えたがその言葉尻はやはり歯切れが悪かった。
「全く…何もあそこまでやらなくて勝てたでしょうに……」
自分の経験と照らし合わせ思う処が多々あるらしいダージリンが相当に渋い表情で呟けば、周りにいる者達も似たような表情で頷き合っていた。
「どんな相手でも手を抜かずに全力で…それがあの子の良いトコなのは解かってるわ……でもモノには限度ってものがあるでしょうが!」
解かってはいても感情の面では如何ともし難いらしく、その辺を抑えるのが一番苦手なカチューシャが爆発すれば、その場にいる全員が揃って肩を竦めるのだった。
「あなた達はあの子がその辺の融通が利く子だと思っているのですか?」
『ぐっ……!』
そして全員が肩を竦めたタイミングでそれを待っていたかのようにしほが言い放った一言に、誰一人として異を唱える事が出来ずにいた。
『──成る程、そう考えると具体的でとても解かり易いですね』
『まぁこれは私独自の解釈なのですが……』
『いえ、大変解かり易い解説にレベルの高い試合も大変スムーズに中継出来ました』
しほの身も蓋もない一言に全員が目を白黒させる中、試合を振り返っていた中継も終了時間が近いらしく実況アナウンサーも話を纏め始めた。
『ご覧頂きました通り高校戦車道新設校リーグ戦、私立三笠女子学園対私立エニグマ情報工学院付属女子高等学校の一戦は厳島選手率いる笠女の勝利に終わりました。しかし、試合時間こそ短かったものの非常に中身の濃い見応えのある試合展開は、凡そ一年生しかいないチーム同士の戦いとは思えぬ素晴らしいものでありました。この両校はこの先の試合も目が離せないものになりそうです……といった処で放送時間も後僅かとなりました、本日は解説にご自身も二度の全国制覇成し遂げ現在は監督として同チームを率いる関東車輌の宮本弘子監督にお越し頂きました。宮本さん、本日はお忙しい中本当にありがとうございました』
『いえこちらこそ、今日は非常に貴重な体験をさせて頂きました──』
実況アナウンサーが話を纏めるのに合わせそのバックに在京キー局が中継のテーマに使用している曲が流れ始め、宮本の顔にも緊張から開放された雰囲気が漂っていた。
「二人共お疲れ様、素晴らしい戦いぶりに私も熱くなったわ♪」
「教官♪」
「最初の一撃、完全復活と思っていいのかしら?」
「教官……」
試合後の両校挨拶を終え談笑していたラブ達の下へとやって来た亜美は、少し背伸びをしてラブの耳元で確認するように囁き少し驚いたラブにウィンクして見せた。
「あの~、どうかしたんですか~?」
「ん、何でもないわ晶ちゃん」
「そう?」
打ち解けているとはいえラブの視力に関してはまだあまり公にする訳に行かず、囁きあった二人は目配せを交わしていた。
「処で皆さんさっきまで何を話していたのかしら?」
「え?あぁ……試合は早く終わったけどやっぱりそれなりに汗を掻いたし、何と言っても煤塗れだから例の施設科が作ってくれた温泉に入りに行こうって」
「あ…ねぇ恋お嬢さん……その温泉、私も……?」
「うふふ♡そうでしたね、それじゃあみんなで一緒に入りに行きましょう♪」
ラブの返事に安堵すると同時に、子供のように目を輝かせる亜美にラブも晶も吹き出していた。
「──きらちゃん…ねぇ晶ちゃん大丈夫?」
「え?ラブ姉…あ、ゴメン聞いてなかった……」
「ねぇホント大丈夫?のぼせちゃった?」
「……だ、大丈夫なんでもない!」
試合終了の瞬間の事を思い起こしぼ~っとしていたが、間近から輝くエメラルドの瞳に覗き込まれた晶はハッとして我に返ると慌てて手を振り心配そうにしているラブから距離を置いた。
「……どうしたの?」
「ほ、ホントなんでもないです!」
「変な晶ちゃん……」
ドキドキが止まらない晶だったが、それに気付かぬラブは不思議そうな顔をしていた。
「ま、いっか……それより晶ちゃん、私あなたに幾つか聞きたい事があるんだけどいいかしら?」
ラブの唇が発した言葉に両校の隊員達は反応に違いはあるがそれぞれが注目している事は間違いなく、晶の返答や如何にと皆が一斉に口を噤めば溢れ出る湯の音のみが仮設入浴施設の天幕の中に響くのであった。
「……ええ構いません、何なりとお聞き下さい」
「ありがとう晶ちゃん……でも別に変な事を聞く訳じゃないからそんなに硬くならないで」
内心ではこの時を待っていた晶であったがそれでも滲み出る緊張感を隠し切る事は出来ず、それを見て取ったラブがすかさずそれを解き解すよう優しく言うのだった。
「ねぇ晶ちゃん、私と晶ちゃんは以前に会った事があるのかしら?」
抜群の記憶力を誇る彼女が何度思い返しても、いくら頭の中を探しても晶と会った記憶が見付からず、まずはその事からラブは問うのだった。
そして晶もまたその質問が来るのが解かっていたらしく、一つ息を吐き気持ちを落ち着けるとラブの試合を始めて見たその日から今日までの事を滔々と語って聞かせるのであった。
「そう…小学生の時に……そっか、あの試合か……」
ラブは晶の話を聞き漸く合点が行ったらしく、晶が見たまほとの試合の事を思い出していた。
そして何故自分が晶の事を思い出せなかったのかその理由に納得し、同時に彼女がその日からずっとラブの事を追いかけ続けていた事に軽い眩暈に似た驚きを覚えるのだった。
しかしAP-Girlsのメンバー達は感慨深げな彼女とは些か違う感想を、口々にあからさまに聞こえるようわざとらしくラブの事をチラ見しながらヒソヒソし始めた。
「このおっぱい小学生までたぶらかして……」
「もうその頃からロリだったか……」
「完全にアウトね」
「犯罪よ犯罪」
「愛、これ以上犠牲者増やさないよう見ときなさいよね」
「ちょ!あんた達!ちがっ!」
容赦なく言いたい放題なAP-Girlsにラブは涙目で抗議し掛けたが、その程度の事で止まる彼女達ではなくここぞとばかりに速射砲のようにラブの事を攻め立てていた。
「あんた達ねぇ……」
それから暫くして漸くAP-Girlsの責めのネタが尽きた頃にはラブもすっかりいじけていたが、そんな彼女達の様子を見ていた晶はうらやましそうにクスクスと笑っていた。
「本当に仲がいいのね…それにみんな心の底からラブ姉の事慕ってるのがよく解かるわ……」
「ちょっと晶ちゃん…この状況の何処を見てそんな事が言えるワケ……?」
しかしいじけたラブにそんな晶の想いは、残念ながら今ひとつ伝わらないようであった。
「話は終わった?それにしても古庄さん、映像で学習しただけで恋お嬢さんの機動をあそこまで再現して見せるなんてあなた本当に凄いわ」
それまで黙って話を聞きながら桜色に染まったたわわを湯に浮かべていた亜美だったが、そこで漸く晶が如何にして厳島流の機動術を身に着けたかに言及し、それがどれ程凄い事か語ると同時に素直に驚いてみせるのだった。
「ねぇ晶ちゃん…今は互いに忙しい身だから無理かもしない……でも将来あなたが戦車道を続けて行くとして、その時もしその気があるなら正式に厳島流を学ぶ気はある?」
「え?でも厳島流は身内だけで継承している流派ですよね……?」
これまでの経緯を語りラブ達を驚かせて来た晶だったが、今度は彼女が驚く番になった。
「うん……そうね、確かにこれまで厳島流は身内のみの極少数で継承して来たわ。故にその戦い方は単騎駆けを基本とした、極めて特殊な高速戦闘機動を多様する流派に昇華して来たと言っても過言ではないわ…でもそれに固執する程厳島流は頭が固くないのよ?家業が多忙を極める今、厳島の家の者で厳島流を継承し実戦の場に身を置いているのは家元を襲名した私のみなの……」
たった独りの厳島流、そう考えると何とも言いようのない寂しさを覚える晶だったが、そんな彼女に心配ないとでもいうようにラブは微笑んで見せた。
「でもね…私が家元の座に着いた時、その門戸を一般にも開く事を提唱して、それは親族会議の場で満場一致で認められているのよ…そしてこの子達が云わば門戸を開いた厳島流最初の門下生なの。そして将来的には厳島流をもっと世に広めるのが私の役目、だから晶ちゃん……ううん、晶ちゃんだけじゃなくてその気があるならみんな来てくれても私は受け入れるつもりでいるわ」
「ラブ姉!」
「わ♪ちょ!晶ちゃん落ち着いて!」
ラブに憧れ続けて来た晶は思いがけぬ話に今度こそ驚き昂ぶった気持ちを抑え切れず、飛沫を上げてラブの胸の中に飛び込んでいた。
「あらあら…それにしても温泉っていうから期待して来てみればまさかコレとはねぇ……」
ラブのたわわの谷間に埋もれる晶と飛び付かれてそれを支えるのに必死なラブの姿にクスクスと笑っていた亜美だったが、一息吐いた後にぐるりと周囲を見回し今度は溜め息を吐くのだった。
現役陸上自衛官である亜美にとってこの色気の欠片もない仮設入浴施設は馴染みが有り過ぎ、温泉のキーワードのみに食い付いた彼女にとってこれはまさかの展開だったらしい。
「ふふ♪ごめんなさい教官、うちの装備の大半が防衛装備品に準じているので」
「それをすっかり忘れてたわ~、でもこのお湯は最高だから問題ないわ♪」
それが意図した事かは解からないが亜美が他愛のない話を振った事で、湿っぽくなり掛けた空気は再び和やかなものに戻っていた。
「だけどさぁ、何が腹立つって試合後のミニライブが認められなかった事よね…私達の単位に関わって来る事なのに文科省も連盟も何考えてんのよ?これはちょっと亜梨亜ママに一言言って貰った方がいいかしら……?」
湯に浮かぶ機雷のように桁外れなたわわに視線を集めながらもそれには気にも留めず、眉間に縦皺を入れたラブが世にも物騒な事を呟けばそれが意味する処を知らぬ晶達だけがキョトンとしていた。
「えっと…単位…ですか……?」
「そうよ、私達AP-Girlsが笠女の芸能科歌唱部に属しているのは知ってるわよね?」
それに関しては笠女のAP-Girls公式ページにも記載されているし以前に聞かされているので知っているが、話が見えない晶達は取り合えず無言でコクコクと頷いた。
「そう、私達AP-Girlsの対外的な活動は授業の一環、所謂実習の場であって、全てが直接成績に反映されるのよ。つまり晶ちゃんや私達が履修する戦車道と同じように学期の終わりには成績表にその結果が記載される訳で、それを阻害される事がどういう事かもう解かるでしょ?」
『え゛?』
翌日の一般向け有償ライブへの招待は試合後の事で別枠とみなされ問題なしとなったが、それらのステージを始め全てが自分達が行う情報収集活動などと同様に、実習の成果として成績を左右すると知った晶達は全員その場で固まっていた。
何しろ最近はメディアへの露出も増え彼女達が多忙を極める事は部外者である晶達でも周知の事であり、それらが全て成績に直結するとなればラブが不満を口にするのも頷けるが、改めてラブ達が自分達とは全く違う世界の住人であると思い知らされたからだ。
「も~そんな顔しないでよ~、私達だって晶ちゃん達と同じ
「う゛……」
自ら禁じ手とも云える地雷ワードで話を纏めに掛かったラブに、晶は更に言葉に詰まる。
「何よ……?」
「べ、別に……」
ラブの声のトーンが下がった途端、慌てて目を逸らす以外晶に手は残されていなかった。
口元を引き攣らせ目を逸らす晶の表情に亜美が笑いを堪えているとそんな彼女に一瞬顔をしかめた後ラブもクスクスと笑いだし、そんな二人の様子にやっと晶も肩の力が抜け湯船に沈んで行った。
「さて、この話はこんなもんかしらね…ねぇ凜々子、ちょっとこっちに来てくれる……?」
「何よ?」
「まぁいいからちょっとこっち来てよ~」
「何なのよ全く……」
エニグマの隊員達に囲まれちやほやされご満悦だった凜々子は、突如指名され不満げに口を尖らせながら渋々といった態度でラブの隣に腰を下ろした。
「今日はお疲れ様、ホント良くやってくれたわ」
「別に大した事じゃないわ…でもまさかそれだけ言う為に……?」
ラブは凜々子が身体を張って晶達の仕掛けた罠を見破り試合の転機を作った事に対する労を労ったが、凜々子はラブがその程度の事で態々こんな手間をかけないのを知っているので警戒の視線を遠慮なくラブに向けていた。
「まさか…ただちょ~っと確認したい事があるのよ……」
にっこりと微笑みながらもラブは実にさり気なく凜々この腰に腕を回し、彼女の身を自らの傍へと引き寄せるのだった。
「ら、ラブ姉……?」
自分の身に何が起こるか明確ではないが危機が迫っている事を感じ取った凜々子の声が微かに震えているが、ラブはさもそれに気付いていないかのように彼女の耳元で話を続けた。
「この新設校リーグ戦が始まる前に私がした話は覚えてるわよね?」
「え?あぁ…覚えているわ……けどそれが何?」
「うん、リーグ戦終了後の私の計画をより完璧を期す為にも、全戦無傷で勝ち上がるって私が言ったのを忘れていないわよね?」
「えぇ…それが何か……?」
腰に回されたラブの腕とその意味あり気な口調と視線に、猛烈に嫌な予感を覚えた凜々子は何とか脱出を試みたがラブの腕から抜け出す事は出来なかった。
「どうしたの凜々子……?あぁ、それでその事を凜々子が本当に理解しているのかと思ってさ」
「理解しているのかって、ちゃんと全5両欠ける事なくエニグマに勝ったじゃないよ」
「うん勝ったわね…でも私は
「な!?だってあれは!それに無傷ってそういう意味な訳ぇ!?」
それまで話の内容的に晶達に聞こえぬよう小声で言葉を交わしていた二人だったが、だまし討ちに遭ったような思いに駆られた凜々子は思わず声を荒げていた。
何が起こっているのか解からぬが只事ではない事を察した晶達が不安げな顔をしているのを他所に、ラブはいつの間にか周囲を固めていたAP-Girlsに意味ありげな視線を巡らせていた。
「あなた達は解かっていたわよね……?ねぇ夏妃?」
「…まぁ何となく……」
「ほらね?」
「ほらね……じゃないわよ!」
今度こそ明確な危機感を抱いた凜々子は、何とかラブの腕から脱しようと立ち上がり掛けた。
「夏妃……」
「お、おぅ……」
ラブに名を呼ばれただけで凜々子の隣に滑り込んだ夏妃は、彼女が逃げ出せぬようがっしりとその腕を極めるのだった。
「ちょ!夏妃!?」
「悪く思うな……」
「思うわよ!」
阿吽の呼吸の夫婦漫才にウンウンと頷いたラブは、夏妃に向かって御神託でも告げるように有無を言わさぬハスキーボイスで命を下すのだった。
「あなたに任せるわ、好きにしていいわよ夏妃……」
「え?あ…そ、そうか……?じゃあ遠慮なく……」
「遠慮しろ────っ!」
凜々子の絶叫が虚しく天幕の中に響くがその程度で夏妃の手は止まる事はなく、彼女の美しく張りのある肢体を責め始めた。
「あ…ちょっと…いきなりそこは……」
方や黙っていればお嬢様風美少女の凜々子、そしてもう一方の夏妃はといえばその口さえ開かなければ虫も殺さぬ風にしか見えないロリ系美少女の夏妃。
そんな二人が湯の中で絡む様は、周囲でその様子を見守る少女達の劣情を煽るのに充分に過ぎた。
「おぉぉ……あいどるえ~ぶいの撮影現場ぁ……」
「そ、それはちょっと…でもこれは……」
「す、凄い…アイドルがあんな事……」
「きょ、教官いいんでしょうか……」
「私に言わないで……」
エニグマの隊員達が目を血走らせ夏妃による凜々子の公開処刑をガン見する中、AP-Girlsのメンバー達は彼女達とは些か違った感想を口にしていた。
「さすが夏妃ね……」
「えぇ、凜々子の泣き処を良く心得ているわね……」
「何と言うか知り尽くしてるって感じだわ」
両校の隊員達の想う処は様々だが、共通してその目付きは危なくなっていた。
「な、夏妃…お願いもう……あぁん♡」
美少女に責められるお嬢様の図式は相当に刺激が強いらしく、青い性の暴走機関車ならぬ暴走戦車達のリミッターは外れる寸前だ。
『これはマズイわね…巻き込まれる前に……』
「教官どちらに?」
「あ…手遅れ……」
これまでの経験上この場にいつまでも止まるのは危険と判断した亜美は即座に撤退すべく行動を開始しようとしたが、時既に遅く、彼女の両側に擦り寄ってきたエニグマの隊員二人に両腕を押さえながらしな垂れかかられていた。
「うふふ♡このスキンシップがAP-Girlsの強さの秘訣なのかしら?」
「紗江子!?」
いつもの無表情で凜々子のお仕置きタイムを傍観していた愛だったが、その耳元にガチでロリなエニグマの副隊長である紗江子に吐息と共に囁かれた瞬間、その無表情の鉄仮面に罅が入っていた。
そして晶がゆらりと立ち上がり、全ての理性の堤防が決壊する時がやって来た。
「ラブ姉……♡」
「あぅ……」
しかしラブも毎度毎度お風呂回で酷い目に遭っているにも拘らず、こうしてそのお膳立てをしてしまう辺り結構なおバカさんと言ってもいいかもしれない。
「これが現役陸上自衛官の鍛え抜かれたたわわ♡」
「いや!それ自衛官関係ない…あ……そんな吸っちゃ……!」
「二人だけで楽しんでいないで私達もご一緒させて♪」
「うわ!?何だオメぇら…あ、そんないきなり……あぁぁ……♡」
「わ、私はもう限界だから…ら、らめぇ……♡」
「ほんと愛ちゃんって存在そのものが奇跡だわぁ♪」
「さ、紗江子やめ…うそ……私が力負け……や、ダメそこは……」
「子供の頃から憧れたたわわがこうして目の前にあるなんて夢みたい……♡」
「あ、晶ちゃん…だ、だからソコは……ら、らめぇ!だからそんなトコ開発しないでぇ……!」
完全に自爆したラブを筆頭に再びエニグマに蹂躙されるAP-Girlsと、温泉に目が眩んだ結果その巻き添えになった亜美はいつ果てるとも知れぬ快楽の湯に溺れていた。
試合の方は短時間でその勝敗を決し太陽はまだ天高い位置にあるが、薄暗い仮設入浴施設の中だけはその時間帯にそぐわぬ美少女と美女の喘ぎ声に溢れていた。
一話だけとは言え今週も何とか投稿が出来ましたが、
やっぱり劇場に第二話を見に行く時間は取れません……。
余談ですが手品の先輩のたわわの揺れ方は参考になるなぁw
仕事の後に夕飯食べながら見ててそう思いましたww