ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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陸自の制服にエプロンとか♡


第二十九話   魔女の思惑

「ふぅ…まさかこんな凄まじい試合を見る事になるとは思いもしなかったわ……」

 

 

 新設校リーグ戦の中継の間中放送席に解説として詰めていた実業団チーム関東車輌の監督である宮本は、ヘッドホンを外しながら思わずその口から本音を漏らしていた。

 

 

「え?何か仰いましたか?」

 

「あ…いや別に大した事では……」

 

 

 宮本より少し送れてヘッドホンを外していた実況担当のアナウンサーは、彼女が何を言っていたか聞き取れなかったらしく宮本の反応に不思議そうな顔をしていた。

 

 

「そういえば宮本さん今日は確か……」

 

「えぇ、明日の試合が夜戦なので今日のうちに東京に戻る予定になっています」

 

「本当にお忙しいのにありがとうございました」

 

「いえ、中々興味深い試合を見る事が出来たのでこちらこそ呼んで頂けて幸運でした」

 

 

 時間に追われる宮本は、実況担当アナウンサーと挨拶を交わしながらも帰り支度を始めていた。

 彼女は挨拶と身支度もそこそこに席を立つと、早々に交戦エリア外の仮設へリポートに向かうべくテレビ局の名が入った派手なテントを後にするのだった。

 

 

『う~ん…新ライセンス制度で彼女達がプロライセンスを取得出来るのは2年後、彼女達が3年生になってからか……あ、厳島さんの場合どうなるのかしら……』

 

 

 そこまで考えた処で彼女はそれが極め付けの地雷案件である事に気付き思考が停止し掛けていた。

 

 

『と、とにかくあの子達に私が接触出来るようになるまでまだ大分時間があるわね…大当たり世代の西住まほ達は結局大半が大学に進んだし……まぁこれだけゴタゴタが続いてるのを見れば高卒でいきなりプロ入りしようとは思わないわね……実際こんな事で新人にいらない苦労させるよりいいか……』

 

 

 プロリーグ設立目前にその去就が注目されていたまほ達が大学進学を選択した事で、本来ならこの状況下に有望株を確保出来なかった事を嘆く場面だろう。

 しかし辻が引き起こした問題の根は予想以上に深く、宮本始め実業団の監督達はこの混沌とした状況に前途ある若い選手を巻き込む事を躊躇していたのだ。

 チームの連絡機が待機するヘリポートへ向かう為、テレビ局差し回しの車に乗るべくすれ違う中継スタッフと挨拶を交わしながら関係者用駐車場に向かう宮本は、日本戦車道が置かれた状況について改めて考えを巡らせていた。

 

 

『全く文科省…あの辻とかいうメガネはとことん日本戦車道の足を引っ張ってくれたものね……カールの件といい問題山積みだわ……』

 

 

 大洗の廃校騒動に端を発する一連の問題は現在の日本戦車道の国際的な立場を非常に微妙なものにしており、それは宮本達の仕事にも多大なる悪影響を与えていたのだ。

 これまでにも何度となくあった事だが、宮本は思い出し笑いならぬ思い出し怒りにこめかみに怒りのバッテンを浮かべるのだった。

 

 

『…しかしあの厳島のお嬢さんがあれ程だったとは……彼女なら今直ぐ関東車輌(ウチ)に来ても即隊長としてチームを任せられるレベルにあるわね…島田のお嬢さんも只事ではない才能の持ち主だけどそれでもまだ実業団で戦うには未成熟、何より年齢の問題でプロライセンス取得可能になるまでまだ大分時間が掛かる……そういう意味でも一番成熟しているのは…実際よく揺れてたわね……イヤイヤイヤ!けどあのお嬢さんは将来的にどの道に進むのかしら?厳島流の家元な訳だしその場合プロとして活動出来るの?まさかあのままアイドルに?う~ん……』

 

「宮本さんお久しぶりですね」

 

「え?あ……」

 

 

 いつの間にか自らの考えに没頭していた彼女は突如背後から声を掛けられ、振り向いて不意を突いたその声の主の姿を見た瞬間言葉を失い完全に思考も停止していた。

 

 

「どうかしましたか?」

 

 

 硬直してしまった宮本をいぶかしむのは変装(仮装)してラブの公式戦デビューを観戦に訪れていた西住流家元西住しほその人であったが、周囲を行き交う試合関係者もしほの怪しい出で立ちに目を逸らし足早に立ち去っていた。

 

 

「あ…これは西住先生ご無沙汰致しております……今日はまた何故……?」

 

 

 西住流と厳島流の関係性について宮本も知識としては持ち合わせているが、しほが短期間とはいえ幼少期のラブを母親代わりとして育てた事までは知る由もなく、彼女は素で不思議そうにしている。

 

 

「えぇ、今日は大事な娘の初の高校戦車道公式戦ですから見届けにやってまいりました」

 

「はぁ、娘…ですか……?」

 

 

 まほとみほの事は知っているがそれ以外に娘がと宮本の思考は再び停止しかけたが、例えアホなコスプレをしているとはいえ続けてしほ放った言葉に彼女の意識は現実に引き戻されるのであった。

 

 

「そうそう、プロリーグスタートに向けて問題になっていた一部チームが行なった選手の引き抜き行為と、それに対するプロテクトとペナルティ制度が正式決定しましたので、近日中に連盟からお手元に資料が届くと思います」

 

「そうですか!これでやっと私達も安心してチーム運営が行なえますよ」

 

 

 ここ最近彼女達チーム運営に関わる者達を悩ませていた問題に策が講じられた事を告げられると、それまでドン引き状態にあった宮本もそれを忘れ目を輝かせていた。

 

 

「これまで色々と遅れに遅れて現場には随分とご迷惑を掛けてしまいました…それにしても文科省……あのメガネにはつくづく足を引っ張られましたね、やはりあの時アハト・アハト(88mm)の的にしておくべきでした……」

 

「あははは……」

 

 

 辻問題の当事者であるしほが自分以上の怒りを抱いている事は当然の事であるが、彼女なら本当にやりかねないと思った宮本はその口元を引き攣らせ力なく笑うのであった。

 

 

 

 

 

「…状況……終わり……」

 

 

 宮本がしほと出くわしその対応に四苦八苦していたその頃、亜美は笠女施設科が設営した仮設入浴施設の温泉で現役女子高生戦車道選手の底なしケダモノパワーにその肢体を蹂躙され力尽きていた。

 

 

「…私はいつもこんなですけど……?」

 

「……」

 

 

 彼女の隣で散々弄ばれた先っちょがヒリヒリするたわわを湯に浮かべていたラブが力なく言えば、それに加わってしまった経験のある亜美はこれに関してそれ以上何も言えなかった。

 

 

「それより恋お嬢さん、例の件は何処まで本気なのかしら?」

 

「例の件……?」

 

「この新設校リーグ戦の事で熊本で仰っていた事ですよ……」

 

 

 先程の凜々子への件も含め、ラブが熊本で言っていた事が亜美は気になっていた。

 

 

「あぁ、あの事ですか……うん、一部は前言撤回します」

 

「それじゃあ……」

 

 

 亜美は自身が直接指導も行なっているエニグマの強さはよく知っているだけに、ラブの言っていたこの新設校リーグ戦を完勝で勝ち上がるという宣言はさすがに厳しいのではないかと危惧していた。

 

 

「別に彼女達を見くびっていた訳ではありません……確かに私が思っていたより遥かに晶ちゃん達が強いのは認めます、認めますが、あの宣言自体を撤回するつもりはありません」

 

 

 そうきっぱりと毅然とした態度で言い切ったラブの表情は思わず見惚れる程に美しく、亜美は思わずゴクリと生唾を飲み込むのであった。

 

 

「で、ですが……」

 

「私達が全戦パーフェクトで勝ち上がる事に変わりはありません、そうでなければ私の計画も思い描いた通りに行かないでしょう…だから絶対失敗は許されないんです……そしてそれ以上に大事なのはその先にある私の闘いであって、それが最終的に彼女達の為でもあるんですから……」

 

「恋お嬢さん……」

 

 

 ラブの真の狙いが何処にあるのかは彼女にも解からないが、相手がラブである以上聞いても答えないであろうし正直聞くのも怖い亜美であった。

 

 

「さっきから二人だけで何を話してるんですか?」

 

「晶ちゃん……」

 

 

 ()()()()()で汗を掻いた晶達がシャワーを浴び直して戻って来ると、ラブと亜美が何やら声を潜め話し合っており気になった晶は思わず首を突っ込んでいた。

 

 

「大した事じゃないわ…でもそうねぇ……戦車道は独りでは戦えない、信頼出来る仲間がいて初めて戦う事が出来る……でもね、私には独りで出来る事もある……まぁそんな話よ」

 

「はぁ……」

 

 

 さっぱり要領を得ない晶が怪訝な顔で首を捻る。

 

 

「それは私が厳島流の家元だという事よ~」

 

「どういう事…でしょう……?」

 

「さぁ……?」

 

 

 ラブの言っている事の真意が解からぬ晶と亜美の二人は、今度は揃って首を捻っていた。

 

 

「そんな事よりさぁ、ちょっと提案があるんだけど──」

 

 

 

 

 

「あら?回収した晶ちゃんのパンターこっちに来てたのね」

 

「えぇ、あの倉庫街から港に出るにはこっち通った方が早いですから」

 

「あ、それもそうだったわね」

 

 

 試合後汗と煤と埃を温泉で洗い流したラブ達は、翌日のライブに備えそれぞれの母艦に戻る事なく再び観戦エリアへと戻っていた。

 何故そんな事になったかといえば単純な話であり、元役場の体育館での合宿が相当に楽しかったらしいラブがもう一晩同様に過ごしたいと言い出したからであった。

 そしてそれに同意した晶達に加え、亜美も合流しての合宿延長戦に突入するのだ。

 

 

「まぁもう一泊するのに積みっぱの私物回収するのにも丁度よかったしね~」

 

 

 そう言うや晶は軽い身のこなしで戦車回収車上で白旗を揚げたままのパンターG型に駆け上がると、そのまま車内に潜り込んで行った。

 

 

「へぇ、そんなに夏妃ちゃんのお鍋って美味しかったんだ」

 

「ふふ♪夏妃の女子力はチーム一ですから」

 

「あ~っ!」

 

『え?ナニ!?』

 

 

 晶達隊長車の搭乗員達が必要な私物を回収する間雑談するラブと亜美であったが、突如パンターの中から響いた晶の声にハモった後顔を見合わせていた。

 

 

「う~ん失敗したわ…試合中コレを使うの忘れてた……」

 

「そ、それは……」

 

 

 そう言いながらコマンダーキューポラから顔を出した晶が手にしている物を見た亜美が絶句すると、それに続きAP-Girlsのメンバー達が揃って渋い顔になっていた。

 

 

「晶…何もそこまでパクんなくても……」

 

「リスペクトと言ってリスペクトと!」

 

 

 コマンダーキューポラ上の晶の手に握られているのは拡声器のハンドグリップであり、メガホン部分にはご丁寧に手書きでエニグマ大付属と大書されていた。

 ラブが拡声器を使用する度に一番迷惑を被っているLove Gun砲手の瑠伽が、それを見た瞬間力なく嫌そうに言えば自信たっぷりに言い返す晶であった。

 

 

「晶ちゃん……」

 

 

 これにはさすがにラブも口元を引き攣らせ、背後のAP-Girlsからの悪影響の声を聴こえないフリで誤魔化すしか手がなかったようだ。

 

 

 

 

 

「呆れた、本当に前線基地ね…だからここを壊さないように交戦していたって事か……」

 

 

 元役場に到着し体育館にラブ達が構築した()()()()を目にした亜美は、その完成度の高さと設備の充実振りに呆れた顔で呟いていた。

 

 

「え~?だって野営するより断然こっちの方がいいし、このままにしておけば私達の後で試合する子達も使えるからいいじゃないですか~」

 

「それはそうかもしれないけど……」

 

 

 短時間で終わったとはいえ相当激しい部類の高速機動戦を演じており、そんな中両校揃って独自に決めた交戦規定に則り壊していい所、悪い所を選り分けて戦っていた事に只々呆れていた。

 

 

「それよりラブ姉、招待受けてる身でこんな事言うのもなんだけど明日のリハーサルとかやらなくて大丈夫なの?普通ライブとかの前って準備で忙しいんじゃないの?」

 

 

 ラブの提案を受け入れ今夜も元役場で一緒に一夜を過ごす事に決めた晶だったが、AP-Girlsのメンバー全員がその事で焦ったりした素振りは一切見せず、余裕の表情で平然としている事が彼女としては気になっていたらしい。

 

 

「ん?あぁ、それなら何も問題ないわ。日頃からその為のレッスンやら繰り返すのが私達の日常だし、ここに来るまでの間に散々やって来てるから大丈夫、明日も本番前に全体の確認はするけど、もう準備万端整ってると思ってもらっていい状態よ」

 

「なんか凄いわね……」

 

「何言ってるのよ~、私達の所属するのは芸能科よ?それ位当たり前に決まってるじゃない。晶ちゃん達が日々情報の取り扱いについて学んでいるのと同じ事だと思うんだけど?」

 

「そうかしら…なんか違うような気がするけどラブ姉がそう言うなら……」

 

 

 それから暫く日が傾くまでの時間を他愛のないガールズトーク(雑談)と言う名の戦車談義に費やしたラブ達は、敵味方関係なく過ごした共同生活最終夜の夕食の準備を始めるのだった。

 

 

「なぁ、メシの支度するのは別に構わねぇんだけどよぅ、本当にまた鍋でいいのかぁ?材料は色々運んで貰ったから他にも色々出来るぜぇ?」

 

 

 本人曰くちゃんこと言っていた鍋の美味しさに夕食の準備を任された夏妃であったが、出された注文がそのちゃんこ鍋であった事に少し困惑気味であった。

 

 

「ねぇ夏妃さんってそんなにお料理が上手なの?」

 

「えぇ、あの夏妃はAP-Girlsのメンバー中最も女子力が高いのですわ…あんながさつなのに……」

 

 

 まるでエニグマの隊員達の胃袋を掴んでいるような夏妃の様子に、亜美が思わずラブに質問すればその横から凜々子が答えたがその声音は何とも面白くなさそうだ。

 

 

「凜々子ぉ……」

 

「ナニよラブ姉?」

 

 

 そんな凜々子を諌めようとしたラブであったが目の座った彼女にこれ以上何か言っても、自分に火の粉が掛かるだけなのでラブはそこで口を噤んでしまった。

 

 

「オラぁ凜々子!そこで何グダグダやってやがる!オメぇが手伝わなきゃメシの支度が間に合わねぇだろうが!さっさとコッチ来て手伝いやがれ!」

 

「い、今行くわ!」

 

 

 怒鳴られながらも凜々子はエプロンを着けながらいそいそと夏妃の下へと駆けて行く。

 

 

『解かり易いなぁ……』

 

 

 毎度の事なのでAP-Girlsは気にも留めないが、エニグマの隊員達からすれば凜々子のツンデレぶりは思わず身悶えしそうな程にツボを突いたものらしかった。

 

 

「夏妃さん達だけにお任せも悪いわ、私にもエプロン貸して頂ける?」

 

「え?教官はいいですよ、ゆっくりしていて下さい」

 

「ふふ♪私もやりたいのよ、これでも修行して結構色々出来るのよ?」

 

 

 亜美の申し出を単に申し訳ないからと断りかけたラブであったが、彼女の()()の一言を深読みして思わず好奇心丸出しな視線を亜美に浴びせてしまうのだった。

 

 

「あ!べ、別にアイツ(英子)の為なんかじゃないんだからね!」

 

 

 ラブの視線の意味する処を即理解した亜美が思わず大声でツンデレ極まりない台詞を口にすると、それを聞き逃さなかった少女達が一斉に喰らい付いて離そうとはしなかった。

 

 

「え!やっぱり教官にはそういうお相手がいるんですか!?」

 

「あ゛……」

 

 

 亜美も自ら撒き餌した事に気付いたが時既に遅かった。

 

 

「お相手は一体どんなヒト(女性)ですか!?」

 

「蝶野教官のハートを射止めるなんてどんな猛者(女性)なのよ!?」

 

「そりゃやっぱり同じ教導教官(女性)の──」

 

「ちょっ!あなた達!」

 

 

 あくまでもユリ前提で電撃戦を展開する少女達を前に真っ赤になりながら否定を試みようとした亜美だったが、料理修行のきっかけがラブの事故の際に英子の部屋でアンチョビの料理を口にしたからだとは言えず、ラブの手からエプロンをひったくるように受け取ると捨て台詞を残し夏妃達の後を追ってその場から逃走するのだった。

 

 

「と、とにかく!私は夏妃さん達を()()しに行きますからね!」

 

 

 だがそんな台詞もまた飢えた少女達には燃料でしかなく、彼女が今夜のピロートークのメインディッシュになる事は決定事項であった。

 

 

『うぅ…夜が怖いわ……』

 

 

 背後から刺さる好奇の視線を感じつつ、内心そんな事を考えながら歩を速める亜美であった。

 

 

 

 

 

「実際ありゃあとんでもない実力を秘めてると思うぞぉ……まだ全てを見てないから何とも言えんが、こうなると新設校リーグ戦に参加している他の学校も要注意な存在と認識して間違いなかろう」

 

 

 ここはラブ達が試合を行なったゴーストタウンの隣町にある、昭和の空気漂う昔ながらの純喫茶。

 メニューの方もレトロ感満載で、集った少女達には却って新鮮さを感じるそんな店だ。

 いくら彼女達が同じ高校戦車道選手で強豪校揃いとはいえ、今回はあくまでも一般観戦者と同じ扱いである為に、自前の航空戦力で観戦に訪れたとしても会場近くのヘリポートは使用出来なかった。

 そして隣町の仮設へリポートを使用した結果として試合終了に伴う民間シャトル便のラッシュに巻き込まれ、それをやり過ごす為にこうして喫茶店に転がり込んで時間を潰していたのだった。

 そして彼女達の話題はといえば当然今日の試合の事であり、今もアンチョビが晶率いるエニグマの強さに対し率直な評価を口にしていた。

 

 

「確かにな……おいエリカ、黒森峰(ウチ)の一年生と比較してどう見る?」

 

「そうですね…相対的に見てウチの一年はここと言う場面での判断や行動で上級生に頼る傾向が強いので、一年同士で戦った場合喰われる可能性が高いかもしれません……」

 

 

 既に隊長職を引き継ぎ黒森峰の指揮官となっているエリカの目の確かさに満足そうに目を細めるまほであったが、同時に彼女の指摘は伝統ある強豪校故の問題であり一朝一夕にどうにか出来る事ではない事も彼女自身が一番解かっていた。

 

 

「それに関しては黒森峰だけの問題ではないですわね……」

 

「humm……ウチも三軍二軍…イヤ、一軍でもヤバイかも……」

 

「ウチの頼れる同士は…ダメかも……」

 

「ウチなんざそれ以前に火力と装甲で話にならんわ」

 

 

 最後を締めるようにアンチョビがお手上げポーズで肩を竦めるとその場に集った少女達が一斉に溜め息を吐き、それがまた今日彼女達が受けた衝撃の大きさを窺わせるのであった。

 

 

「まぁあれだな…この新設校リーグ戦のワイルドカードを手に全国大会に勝ち上がって来るのは、ラブ率いるAP-Girlsで間違いないだろうが問題は……」

 

「どうしましたの?」

 

 

 結果の予想を決定事項のように語り掛けたまほであったが、その最後で言葉に詰まった彼女の様子に只ならぬもの感じたダージリンが顔を窺えば、まほは何とも云えない苦々しげな表情をしていた。

 

 

「なぁオマエら……このリーグ戦、ラブのヤツが何勝で全国大会に勝ち上がって来ると思う?」

 

「それは……」

 

 

 まほの後に言葉を続けたアンチョビに真っ先に目を合わせられたダージリンだったが、さすがに彼女もそれを言うのは憚られるのか言葉に詰まるのだった。

 

 

「安斎……」

 

 

 ラブがその爆弾発言をした際に同席していたアンチョビが何を言おうとしているのか直ぐに解かったらしいまほだったが、アンチョビの表情を見てそれを止める事は出来ず同じくその場にいたエリカもまた彼女と同様であった。

 

 

「オマエらだって何となく想像は付いてるんだろ?」

 

 

 ぐるりとその場にいる者達の顔を見回したアンチョビは、一息吐いた後に熊本の西住家を訪れた際にラブがぶち上げた目標を語って聞かせるのだった。

 

 

「な……」

 

「いくらなんでも……」

 

「何考えてんのよ……」

 

「本気なの……?」

 

「まぁ本気だろうなぁ……」

 

 

 最後の一言を受けてアンチョビが無責任な声音で答えれば、皆がそれに何か言い返そうとした。

 しかしラブがそういう事を言う時はそれが既に決定事項である事を身に染みて解かっているだけに、全員ただ口をパクパクさせるだけで何もいう事は出来なかった。

 

 

「とにかくだ、ラブのヤツが何を企んでいるかは解からんがAP-Girlsが来るのは確実だろう。私達に出来る事があるとしたら後輩達に徹底してその事を叩き込む事ぐらいな訳だ……どうしたエリカ、顔色が悪いようだが大丈夫か?」

 

「……」

 

 

 黙り込んだ者達を前に話を纏めに掛かったアンチョビだったが、この中にあって唯一の当事者となるエリカはいきなり気が重くなり目の前が真っ暗になっていた。

 

 

「…あ、ウチの離陸の順番が近いようですからこれで失礼致しますわ……」

 

 

 何とも重苦しい沈黙がその場を支配し始めた中、ノートパソコンで仮設へリポートの離陸状況をチェックしていたアッサムが聖グロの離陸順位が一桁になったのを見てスッと立ち上がった。

 

 

「そうか、気を付けてな……」

 

「そういえば来た時は私達が最後でしたけどアンツィオの機体が見当たりませんでしたわね…ねぇアンチョビ、あなた一体どうやってここまで来たんですの?」

 

「どうやってって西住のヤツが迎えに来てくれたからドラッへに便乗させて貰ってだな──」

 

「あらあらあら♪」

 

「いやだから近くを航行しているからと──」

 

「まあまあまあ♪」

 

「大体操縦してくれたのはエリカで──」

 

「へ~ほ~ふ~ん♪」

 

「ってオマエらなぁ!」

 

 

 ほんの些細な事でも速攻で喰らい付くすっぽん共に、髪を掻き毟りながらアンチョビが切れる。

 

 

「あ、あんざいぃぃぃ……」

 

「だから西住ぃ!オマエも一々変な声を出すなと何度言われれば解かるのだぁ!?」

 

 

 このようにどんな場合も自分を見失わない辺りが彼女達の強さかもしれなかった。

 

 

 

 

 

「いやもう夏妃さんの手際の良さは必見って感じだったわ!そしてこの味付け確かに本物ね♪」

 

「きょ教官…そ、それ程じゃないっすよぉ……」

 

 

 女子高生と共に鍋を囲む亜美は夏妃が調理場で見せた料理の腕前とその出来栄えに、賞賛の言葉を口にしながらも箸を止める事はなかった。

 

 

「でしょ?もう私達もこのまま夏っちゃんを連れて帰れないかとずっと相談してるんですよ~♪」

 

「おいいぃぃ……たかがちゃんこでそこまで言うかぁ~?」

 

 

 夏妃にしてみればほぼ手抜きな寄せ鍋程度でここまで褒め称えられる事が気恥ずかしいらしく、思わず頭を抱えて身悶えるのであった。

 

 

「ホントよね、たかが鍋ぐらいでさ……」

 

『ホント、解かり易いなぁ……』

 

 

 箸を進めながらも面白くなさそうな凜々子だが、そんな彼女を見守る周囲の目は生温かった。

 

 

「ふ……この新設校リーグ戦も開始前はどうなる事かと思ったけど、いきなりこれだけレベルの高い試合を見せ付ければ上の方の考え方も変わるかも知れないわね」

 

「ん?教官、お風呂の時のラブ姉といいそれはどういう意味でしょう?」

 

 

 改めてラブに向けてのカマを掛けるような亜美の台詞に入浴中の事も含め再び不思議そうに首を突っ込む晶だったが、さすがに何も知らぬ彼女には全くその会話の意味が解からなかった。

 

 

「ん~っとそれはねぇ、まだ晶ちゃん達には早い話なのよ~」

 

「うわぁラブ姉っ!?」

 

 

 話をはぐらかすのにはそれが一番の方策とでも考えたらしいラブは突然晶の背後に回り彼女を背中から抱き締めると、その破壊力抜群な胸のたわわなアハト・アハトぐいぐいと押し付け更には晶の頬に自分の頬でスリスリ攻撃を仕掛けるのだった。

 

 

「あ…ラブ姉そんな……なんて良い匂い…それにこの感触……♡」

 

 

 ラブ渾身の頭の悪い攻撃に、晶の思考は蕩けてしまいそういう意味ではこの攻撃は成功と言えたかもしれないが、さすがにこれには皆揃ってドン引きしていた。

 だがラブとしては、今この段階で自分の目論見を晶達に知られれば最悪彼女達が変な欲や慢心を抱いてそのバランスを崩しかねない恐れがあり、何としても秘匿するつもりだったのだ。

 

 

「さて……お腹も一杯になったし寝る前にもう一度みんなで温泉に入りに行こっか?」

 

「あら?いいわね♪やっぱり温泉は何回か入らないと勿体無いわ」

 

「えぇそうですよね♪……そして教官、その後は解かってますよね~?」

 

「あぅ……」

 

 

 ラブの超絶人の悪い笑みに言葉を失う亜美だったが、既に退路を断たれた事も理解していた。

 ラブ達の頼れる教導教官であるお姉さん、蝶野亜美の夜はまだまだこれからだった。

 

 

 




AP-Girlsの事だけではなく高校戦車道の事全体を見据えて動くラブは、
やはり人としての器が桁外れに大きいんだと思います。
勿論たわわのサイズの方もw
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