「なんで私まで……」
ダージリンの暗躍で笠女芸能科歌唱部にオレンジペコが短期留学生として放り込まれたその日、教室で呆然とする彼女の隣にはそれ以上に呆然とした表情の少女の姿があった。
オレンジペコと同じく笠女の桜色のブレザーを身に着けたその少女こそ、昨夏の全国大会での驚くべき大物喰らいぶりから大洗の
ダージリンから直接依頼を受けたオレンジペコはともかく、何故梓まで一緒にいるのだろうか?
「また何か面倒な謀?一体何が狙いなのかしら?」
再会時に約束していた元町でのセールを楽しんだラブとダージリンとアッサムの三人は、少し遅めの昼食を取るべく中華街を訪れ聖グロ戦車隊OGが経営する中華飯店で飲茶を楽しんでいた。
そして粗方飲茶をそれぞれの極めて健康な胃袋に収めた頃、そのタイミングを計っていたらしいダージリンがラブにオレンジペコの笠女への短期留学を打診したのだった。
一方のラブもその声音は如何にも嫌そうだが、探るようなエメラルドの光を放つその目は何処か楽しげでじっとダージリンの瞳を見つめていた。
「別に……狙いなんて何もありませんわ」
その如何にも棒読みなわざとらしいダージリンの返しに、ラブはつまらなそうに鼻を鳴らす。
だがラブにしてもそのやり取りを黙って聞いていたアッサムにしてもその口元には微かに笑みが張り付いており、どうやらこの三人にとってはこんな駆け引きも遊戯の一種のようであった。
「あの子もね…そりゃ優秀な子よ?でも今のままじゃちょっとね……」
一呼吸置いてダージリンは胸の前で降参したように小さく両の手を挙げて見せると、若干言葉を濁しながらもその胸の内を語り始めた。
「ペコがルクリリの次の隊長になる…それは決定事項と言っても差し支えないわ……ただ、今のままではあの子は小さく纏まってしまいそうなのよ……」
「確かにちょっと型に嵌った処があるかもね」
「…さすがよく見ています事……ペコもね…あの子も良くも悪くも聖グロなのよ……」
やはりその程度の事はお見通しかと思いながらも、ラブの言葉の中に今のオレンジペコではまだ彼女の眼中に入っていない事が透けて見えダージリンは少し口を尖らせた。
「あなたにしちゃ随分と月並みな事を考えるのね…なら私も月並みに答えさせてもらうわ……殻を破るのは本人であって私じゃない、私はあくまでもきっかけを与えるだけよ。もしそれでも自力で殻を破る事が出来ないのであれば、あの子はダージリンの真似が上手な子で終わってしまうわ」
そこがダージリンの一番危惧しているであろうと思われるポイントを、オブラートに包む事なく剥き出しで突き付ければほんの微かにだが彼女の口元が歪むのが見えた。
だがそれで満足したらしいラブは如何にも仕方ないといった風に素っ気なく肩を竦めて見せると、ダージリンの依頼を引き受ける事を了承した。
もとより引き受ける気満々なラブであったが、ここはやっぱり勿体ぶってダージリンの反応を見て楽しみたいという辺りが彼女の本音だろう。
「まぁいいわ……ダージリンの秘蔵っ子、預かってあげる」
ラブのその答えを受けて浮かべたあからさまな安堵の表情とその陰に隠された第一関門突破とでもいったようなダージリンの微かな笑みに、ラブは彼女が他にもまだ何か画策している事をあっさりと見抜いていた。
「ねぇダージリン……でもそれだけじゃないわよね?」
「え?何でそう思うのかしら……?」
「何年の付き合いよ……?」
惚けかけたダージリンであったが結局は頼まねばならぬ事なので、ほんの少し視線を泳がせた後にやたら理解のある先輩ぶった口調で語り始めた。
「ホラ…私だって鬼じゃないですからね、ペコが心細くないように
「お友達…?あぁ……」
ダージリンのお友達と言った際の声音とイントネーションにそれが誰を示すか気付いたラブは、あまりよろしくない目付きで遠慮なく彼女の事をねめつけていた。
「ダージリン…アンタのそういうトコ、とことんゲスよね……普通こういう場合って同じ学校のチームメイトを同行させるのが筋じゃないの?」
ラブはダージリンが同じ聖グロの選手を一緒に留学させるのではなく、周囲もいつの間にと驚いた程極自然にオレンジペコとそういう中になっていた大洗の澤梓を一緒に放り込む事を画策している事に気が付いたのだった。
「あ……今朝遅かったのもその事でみほ辺りに連絡取っていたからでしょう?」
これは完全に図星だったらしく、今度こそダージリンはそっぽを向いて誤魔化そうとしていた。
『ホント、こんな時程勘が鋭いんだから……』
舌の一つも打ちたいのをグッと堪えたダージリンは澄ました表情を繕ってはいたが、ラブの目はそれすらも見透かしているのが明らかで何とも座りが悪かった。
「やっぱりね……でもどうやってみほに梓ちゃんを生贄として差し出させたのよ?」
「ちょっと!あまり人聞きの悪い事言わないで下さる?」
デザートの杏仁豆腐を口に運び掛けていたラブはぷっと頬を膨らませたダージリンの視線が、微かに他のテーブルで常連と思しき老夫婦に挨拶している店のオーナーに向いた事を見逃さなかった。
『あ~、何か今ので色々と見えちゃったわぁ……』
目の前で不貞腐れたように不満を口にするダージリンの事をラブは面白そうに見ていたが、常人なら気付きもしないであろうヒントから彼女がどんな手口を使ったか予想が付いたらしい。
「これは多分アレね、このお店でエリカさんと素敵な飲茶デート何て如何かしら?とか言ってご招待を餌にみほを釣ったわね…それでアホなみほもあっさりと釣られて梓ちゃんをこの紅茶女に売ったと……あの色ボケめ……」
「だからラブ!なんであなたは私の手口をそこまで正確に言い当てるのよ!?」
「あれ?声に出してたぁ?」
それが果たしてうっかりなのか故意なのかはその表情から読み取る事は出来ないが、途中からラブは自分の予想を口にしており、ダージリンの様子からするとその予想は100%当たりらしかった。
「あなたねぇ!」
「別になんだっていいわ、一人だろうが二人だろうが預かってあげるわよ……例えそれが将来私の前に立ち塞がるであろう聖グロと大洗の隊長であったとしてもね」
『……』
面倒そうな気だるげな表情から一変、世にも恐ろしく楽しげで美しい微笑を浮かべて見せたラブにダージリンとアッサムの二人は返す言葉見付けられなかったが、この瞬間オレンジペコと梓の笠女短期留学は決定したのであった。
「ま、
「梓さん…ご迷惑をお掛けして本当に申し訳御座いません……」
これがダージリンの差し金である事を知るオレンジペコは、隣の席で呆然と呟く梓に向け巻き込んだ事への申し訳なさから小さく頭を下げる。
「え…?あ……!ゴメンなさいペコさん!私なら大丈夫だから!」
オレンジペコの声で我に返った梓が、慌てて両の手を胸の前で振った。
笠女の桜色のブレザーを身に纏った二人が短期留学初日、朝のホームルームが終わった直後の教室で小声で謝罪し合っていた。
前夜のうちにラブを乗せて飛来したItsukushima Oneに順次回収された二人は、そのまま笠女学園艦に収容されるとAP-Girlsが暮らす寮という名のかなり豪華なマンションの空き部屋のうちの一室に、仲良く放り込まれたのであった。
尚、余談ながら一つだけ言っておくならば、そのような状態ながらもその夜しっかりと煩悩に忠実に肉欲に溺れた二人もまた立派にケダモノといえるだろう。
「どうしたのよ二人共~?」
二人が来て早々という事で今朝の朝練はキャンセルし、皆でいつもよりゆっくりと朝食を取ったラブは朝から非常に機嫌が良かった。
それはやはり短期とはいえ笠女が最初に迎えた留学生が、彼女自身がかなり気に入っているオレンジペコと梓という事が大きいだろう。
そういう意味ではラブも今回のダージリンの企みには、随分と感謝しているようではあった。
「い、厳島様!?」
「ひゃあ!い、厳島先輩!?」
肩を寄せ謝罪しあっていた二人の間に満面の笑みのラブがいきなり顔を突っ込み、驚いた二人は裏返った声で叫びながら仰け反っていた。
「様ぁ?先輩ぃ?私二人と同級生なのにぃ?」
『う゛……』
途端にラブの声のトーンが下がりいじけた表情を浮かべた事でしまったと思った二人だったが、やはり本来ならこの春にはダージリン達と一緒に卒業するはずの年齢であるラブを中々同級生扱いする事が出来ない二人であった。
『ど、どうしよう……?』
『どうしようと言われましてもやはり年上の方を呼び捨てにするのは……』
『だ、だよねぇ……』
時々ラブの方をチラチラと見ながら梓とオレンジペコがヒソヒソやっているが、既に退路がない状況である事は二人にもよく解かっていたのだ。
だがこういった問題は簡単に割り切れるものではなく、二人はそれを直ぐに口に出来なかった。
「えぇと……」
それでもいつまでもそうしてはいられず、意を決した梓がまず口を開いた。
「い、厳島さん……?」
「……」
「う゛ぅ゛……」
まるで手探りするように妥協点を見い出すべく梓がまずさん付けで呼んでみるも、途端にラブの目尻に大粒の涙が浮かび彼女の目論みはいきなり頓挫していた。
『そこはやはりお名前で呼び捨てにして差し上げないと……』
『わ、私には無理よ!ペコさんお願い!』
『梓さんに無理なら私にだって無理ですよ……?』
完全に追い詰められた二人はもう答えが一つしかないのが解かっていながらも、それでも何とか逃げ道はないかと必死に無駄な努力でしかない作戦会議を行なう。
だが今のラブにはそんな二人の様子も楽しげなじゃれ合いにしか見えないらしい。
「二人共楽しそうね……」
『本当に面倒な
いじけて涙目で絡み始めたラブに、二人は声に出さず視線のみで呟き揃って溜め息を吐いた。
「ねぇ!友達は私の事を何て呼んでる!?」
『そ、それは……』
ある意味二人が最も恐れていた事をラブが言い出した事で、いよいよ二人には後がなくなった。
そしてそんな二人に向け、止めを刺しに行くかのようにラブが一気に畳み掛ける。
「さあ二人共!さぁさぁさぁ!同級生なんだから私の事はそれらしく呼んでちょうだい!」
「ら……」
「ラ?」
まるで窒息しそうな表情で梓が搾り出した声に、ラブの顔が期待の籠もった色でパァっと輝く。
「ラ……」
だが梓はその先を続けようとするも年上でありその年齢以上に大人っぽく信じられない程美しいラブを前にすると、その一言を一人で口にするのは抵抗がありその視線をオレンジペコに向けた。
『ラ…ラブ……』
梓とオレンジペコ、二人が揃って噛みながらも彼女の事を渾名で呼べば、ラブのエメラルドの瞳は大きく見開かれ歓喜の色が宿った。
だがそれも束の間、次の瞬間その瞳の色は失望の色に変わり大きくその肩を落とすのだった。
『…姉……』
結局は二人も晶達と同様にラブを呼び捨てにする抵抗感に抗う事が出来ずAP-Girlsや晶達同様に彼女の事をラブ
「様……」
聖グロで淑女としての立ち居振る舞いを徹底的に叩き込まれているオレンジペコは、この肝心な時にも条件反射で余計な一言を付け加えてしまうのだった。
そしてその一言に期待に身を乗り出していたラブはその場にガックリと崩れ落ち、床に膝と手を突き項垂れていた。
「ちょっ!ペコさん!そこで止め刺してどうするの!?」
「あ……」
思いがけぬ間抜けさを発揮してしまったオレンジペコが自らの失言に文字通り言葉を失い沈黙するのと入れ替わりに、それまで黙って様子を見守っていたAP-Girlsの腹筋が決壊した。
「やべぇ……ペコのヤツおもしれぇ」
「あっはっはっはっはっは♪いいわ最高よ!たった一撃でラブ姉を叩きのめすなんて!」
「あなた達笑い過ぎよ……」
取り返しの付かない大失態にオレンジペコが真っ赤になって小さくなる中、てんでに好き勝手言いながら笑い続けるAP-Girlsのメンバーに対し心にもない事を鈴鹿が言えば、それが呼び水となり更なる笑いを呼ぶのだった。
「ちょっとみんな……」
梓は一人オロオロするがAP-Girlsは笑い続け、唯一怒りそうな愛までもがラブに背を向けその小さな肩を小刻みに震わせていた。
「あんた達覚えてらっしゃい……」
かくしてオレンジペコと梓の笠女短期留学はグダグダな幕開けを迎えていた。
『ね、ねぇペコさん…これって本当に高1で教わる範囲なの……?』
『……』
ホームルーム明けの一限目の一般教科の数学の授業が始まって間もなくの事、開いた教科書の内容と俄かには信じ難い授業の進行速度に梓は目を回し掛けていた。
だが聞かれたオレンジペコも先程から教科書を凝視していたが、たったの一問も解く事が出来ず梓の声も耳に入っていない様子だった。
これは酷な言い方かもしれないが、かなり緩い空気の公立校である大洗に籍を置く梓に比べ、私学の名門である聖グロに通うオレンジペコの成績は学年の中でもかなり優秀であった。
そんな彼女ですら全く付いて行けない授業内容は明らかに高1で学ぶ内容ではなかったのだが、周囲のAP-Girlsの少女達は黙々とノートに数式を書き込んでいた。
そして止めのようにラブが例の変態技を炸裂させると、二人は遂にパニックを起すのだった。
「え?え?え?な、ナニ今の!?」
「わ……私にだって解かりません!?」
ラブが黒板に教科担任が書き付けた複数の問題を纏めて解いた瞬間、何が起きたのか全く理解出来ず思わず悲鳴を上げてしまっていた。
「ま、これが普通の反応だわな…慣れって怖えぇわ……」
一緒に学び始めた当初はその奇人変人ぶりに面食らったAP-Girlsの面々も今ではすっかりそれが日常であったが、改めて慣れの恐ろしさを指摘した夏妃の言葉に黙って頷く一同だった。
「なによ……?」
黒板の前で振り向き教室全体を座った目で睨み付けるラブだったが、この後も
「こ、これのどこが体育の授業なんですか!?」
数学に続き英語や戦車道の座学などラブの独壇場となるような授業が続いた後、午前中最後の授業は体育であったがオレンジペコと梓が連れて来られたのはダンススタジオであり、入念なストレッチと基礎練習に続き始まったのは明らかにAP-Girlsの新曲のダンスステップの練習であった。
「え?梓何言ってるのよ~?二人が留学したのは芸能科よ?これ位の事は当然じゃない……大体梓達のウサギさんチームなんて、大洗で試合した時既に私達の曲の振り付け完璧に覚えてたじゃない」
「で、ですが……」
「ペコまでどうしたの?私達はその芸能活動全てが成績に反映されるのは知ってるでしょ?」
ガチなダンスレッスンに息も上がり気味なオレンジペコが何か言い掛けたが、後が続かない上にラブがそれを遮り指摘した事は確かに彼女も知ってはいたが、実際それを体験するとなると慣れぬ事だけにさすがに身体が付いて行かないようであった。
だがラブも一見健常に見えて榴弾暴発事故の影響でその身体には多くのハンデを抱えており、そんな彼女が激しいレッスンに耐えているのはオレンジペコにとって驚異的な事であった。
「が…頑張ります……」
「解かって貰えたようね、これが終わればお昼休みだから後ちょっとがんばろっか♪」
自身もスポーツタオルで額の汗を拭いながらラブがステップの練習に戻ったのを見送ったオレンジペコは、梓と顔を見合わせ力なく頷いた後にスポーツドリンクで水分補給をしてレッスンに戻って行くのだった。
「うぅ…やっぱりとても同い年と思えない……」
「……」
午前中最後の授業であるダンスレッスンを何とか乗り切った二人は昼休み前にその汗を流すべく、ダンススタジオ併設のシャワールームで熱いシャワーを浴びていた。
二人共これまでにもAP-Girlsと共に入浴した経験はあったものの、その時は自分達以外にも標準的かあるいはそれ以下なサイズの者が多数おりこれ程その圧力を感じる事はなかった。
シャワールームは日本人には抵抗のある仕切りの衝立の低いタイプであり、隣り合ってシャワーを浴びるオレンジペコと梓は、自然と互いの胸元と周囲のAP-Girlsメンバー達の凶悪なサイズのたわわを見比べては深い溜め息を吐くのであった。
だがこんな状況下でそんな事をすればAP-Girlsはそれを見逃す連中ではなく、あっという間に二人は取り囲まれ
「あら?二人共どうしましたの?」
「なんでぇ?疲れてるなら早く言えってんだ」
「こういう時は私達に任せなさいな」
凜々子と夏妃と鈴鹿が畳み込むように二人に取り付けば、後は雪崩を打つようにAP-Girlsのメンバー達が入れ替わり立ち代りオレンジペコと梓の敏感な肌を責め立てた。
「あ…そ、そこはダメだって……」
「そ、そんな…もうこれ以上はお許し下さい……」
シャワールームで隅っこに追い詰められた二人は、気が付けば抱き合った状態でAP-Girlsの責めに蕩けた表情で最後の抵抗を試みていた。
だが休む事なく刺激され続けた二人の可愛らしいサイズの胸の膨らみの先っちょは、少しそのピンク色を濃くした状態でツンと硬くなり突き立っていた。
「うふふ♪二人共とっても可愛いわ♡」
日頃お風呂回ではやられる一方のラブが今日ばかりは立場が逆転し、そのエメラルドの瞳に危ない光を宿しその光景を楽しんでいた。
「ら…ラブせんぱ……」
「い…厳島さまぁ……」
「先輩ぃ?様ぁ……?」
『あ……』
蕩けた頭で許しを請おうとした二人であったがついうっかりNGワード口にした結果、ラブの嗜虐心に火が付き更なる責めを受ける事となった。
「まだ教育が足らなかったかしら……?」
「け、決してそのような事は……」
「こ…この感触は……」
背後に回り込み抱き合う二人を更に自分の胸の中に包み込むように抱き締めたラブが、その二人の耳元にほわっと熱い吐息を吹き掛けながら芝居がかった声音で囁く。
身長差のあるラブに抱き締められ爪先立ちになった二人は、耳朶を擽る吐息と背中に押し付けられた肉感的なたわわの感触にガクガクと小刻みにその身を痙攣するように震わせていた。
「うふふ♪二人共本当にとっても可愛いわ♡」
そんな二人の様子にラブは何とも淫靡な笑みを浮かべ、一人満足気に頷くのであった。
「さてお二人さん、午前中は大目に見たけど午後はそうも行かないわよ?」
「え……?」
「今度は一体どんな目に……?」
シャワールームで散々弄ばれた二人は、すっかり怯えた様子でラブに問い返す。
「あのね、あなた達が留学したのは笠女芸能科なのは解かってるわよね?」
ラブが何を言いたいのか解からぬ二人は、確認するような彼女の問いに恐る恐る頷いた。
「そう…二人共ちゃんと解かってるならいいわ……私達芸能科歌唱部に属する生徒は、校則で化粧する事が義務付けられているのよ」
「あ…だけどそれは……」
梓は大洗戦の後のあんこう鍋パーティーの際そど子が愛にその件で質問していたのを思い出したが、それはあくまでもAP-Girlsに限っての事だと思っていた。
「本当ですね……」
シャワー後脱衣所で袖を通したばかりのブレザーの胸ポケットから生徒手帳を取り出したオレンジペコは、服装等の項目の中に化粧に関する規定を見い出し呆然としていた。
「で、でもラブ…姉、私達化粧品なんて持ってないし……」
無駄と解かりつつも最後の抵抗を試みた梓だったが、ラブはあっさりとそれをスルーした。
「それじゃお願いね~♪」
ラブがお気楽に言いながら指を鳴らすせば、それを待ちかねていたように脱衣所に続くドレッサールームにAP-Girls専属のメイク班が雪崩れ込んで来るのだった。
「やっぱり……」
「え?ちょ…お止め下さいませ……」
虚ろな表情で全てを悟った梓とまだ状況が飲み込めぬオレンジペコは、まるでさらわれるようにメイク班に捕まりドレッサーの前に座らされると何も抵抗出来ぬままに化粧を施されていった。
無論オレンジペコにしても梓にしても、これまでに化粧の経験が皆無ではなかった。
特に二人が出会ってからはデートの時やその後のお楽しみの時間の前に、多少口紅など基本的な化粧品を使う事はあったがそれはあくまでも高校生の域を出ない物であった。
だが今二人に使われている化粧品は厳島のブランドの高級品であり、それを何ら惜しむ事なく使いながら同じ高校生が自分達に化粧を施すのが二人には信じられなかった。
基礎から始まりあれよあれよという間にメイク班が二人を変身させて行くが、その手際の良さは完全にプロのそれでありこれまで自分でして来た化粧とは別次元のものだった。
「さ、出来ましたよ」
二人に取り付いていたメイク班が波が引くように離れると目の前の鏡には自分の知らない自分が映っており、オレンジペコと梓はそれが自分だと解かっていながらもその美しさに溜め息を漏らし暫し鏡の中の自分自身に見惚れるのであった。
『これが…これが私……』
二人が同時に漏らした声にラブは満足気に頷くと、目を細めその口元に笑みを浮かべた。
「そう、それがあなた達……元々とても可愛い二人が更に可愛くて綺麗になったわ♡」
「そんな…私普通……地味だし……」
「私だって見た目が子供っぽい自覚はありますし……」
そう反論しながらも、ラブにそう言われた二人がここで初めて互いの今の姿を直視した。
『あぁ……♡』
互いに姿を目にした瞬間、二人はその頬に朱を奔らせ熱い吐息を漏らしていた。
もしその場に誰もいなければ、間違いなく二匹の雌のケダモノの理性のリミッターは簡単に弾け飛び、とても激しい格闘戦に突入していただろう。
「ふふっ♪いいわその表情……それでこそAP-Girlsのメンバーよ♡」
「えっ!?」
「い…ラブ…姉……今何と仰いました?」
嬉しそうなラブが最後に放った不穏な一言に二人が素に戻り問い質しかけたが、彼女はそれに全く答える事なく腕時計に目を走らせ両手を打ち鳴らした。
「さ!そんな事よりお昼よお昼!腹が減っては戦が出来ぬ、さっさと学食に行きましょう。午後からはいよいよ楽しい戦車道の実地訓練の時間よ♪」
「ラブ姉ぇ……」
「お願いですからちゃんと質問に答えて下さいませ……」
二人の声に答える事なくスキップするように先を行くラブは実に楽しげだが、オレンジペコと梓にはそれが魔女の何か不吉な儀式にしか見えなかった。
う~ん…この夏はお盆休みも返上になりそうです。
ちょっと投稿も遅れるかもしれません……。
この話はずっと書きたかったエピソードなので自分でも楽しんでます♪
しかし自分の煩悩優先で後輩を売るみほってww