当初予定を大幅に上回る話数になりましたがどうにか一区切り出来ました。
ラストの方でちょこっとだけドゥーチェ・アンチョビが登場します。
最後の最後で伏線を活かせました♪
※御指摘頂いた三話と十一話の誤字修正致しました。
私が横須賀の空に舞い上がったあの日以降、事態は一気に動き始めた。
警察からの判明している事のマスコミへの正式な発表、但し英子さんの言っていた通り被害者名に関しては未成年である事への配慮から伏せられていた。
それでも戦車道に詳しい者なら直ぐに解ってしまう事ではあるけれど。
そしてそれに合わせて製造元である東邦
一時は経営陣が行方を晦まし報道も過熱していた。
私達はといえばそれらのニュースを気にしつつも最後の夏の全国大会に向け奔走していた。
そんな最中に嬉しいニュースも飛び込んで来た、ラブが意識を取り戻したと。
まだ面会は叶わぬがそれでも私達は喜びに沸いた、皆涙を流し喜んだ。
ラブこそ居ないが、そのラブの為にも最後の全国大会を全力で闘おう、悔いの残らぬ全国大会にしようと皆で誓い合った。
結果から言えば、再び全国の舞台で砲火を交える事が出来たまほ率いる黒森峰に勝つ事は叶わなかった、中学三年間で公式戦では通算一勝しか出来なかった。
むろん勝てなかった事は悔しいが悔いは無い、全ての力を出し切ったのだから。
唯一悔いが残るとしたら、それはその舞台にラブが居なかったその一点だけ。
私達の戦いが終わる頃には捜査も進み色々と事実も明らかになって来た。
それは反吐が出る程に腹立たしい事実、経営状態が悪化していた件の製造元の会社は、戦車道への自社製品の納入に一縷の望みを掛け売り込みを開始したのだという。
但し全て自社製造で真面な砲弾を納入したのはテスト期間のみで、本採用が決まった後は下請けや更に孫請けなどろくに製造経験など無い小さな会社に二束三文で部品を造らせ、その寄せ集めを自社で組み立てだけしていたという。
真っ直ぐ飛ばなかったのは弾殻の肉厚が一定ではなかったから、暴発したのは軽く突けば反応する程いい加減な造りの信管だったから。
全てはそんな粗悪砲弾で利益を出し傾いた会社を立て直す為。
そんな事の為にラブは犠牲になったのだ。
次々判明する事実に私達は怒りに震えた、まほなどは怒り狂い母親である西住師範ですら手が付けられない程であったそうだ。
でもそれも当然だ、私だってそうだ!いや、私だけではない、皆がそうなのだ!
皆が怒りの業火を燃やす中も季節は進み秋の終わり頃待ちに待った知らせが届く。
遂にラブとの面会が叶うと言う。
その知らせに私達は全てを投げ出し横須賀に駆け付けた。
病院前に集った時やっと身辺も落ち着いた西住師範も姉妹と同行していて、私に対し大変恐縮した様子で頭を下げられ却って私の方が慌ててしまった。
それから全員でラブの居る病室へ向かったが皆の間には言い様の無い緊張の糸が張りつめ、病室まで行く間誰も言葉を発する事は無かった。
そして病室の手前まで近付いたその時──。
「イヤ!こんな…こんなのイヤァ!こんな…見られたくない!イヤよ!イヤぁぁぁっ!!」
病室から興奮したラブの絶叫が響く、そしてそれに続く宥める亜梨亜さんの声。
「落ち着いて!恋!傷に障るわ!落ち着いて、お願い!」
ナースコールがされたのか看護師が駆けて来る、その間もラブの絶叫が続く。
そして病室に看護師が飛び込むのと入れ替わりに、亜梨亜さんが病室から現れ私達に気が付くとふらふらと歩み寄って来たがすっかり憔悴しているのが明らかだった。
「しほ…さん、それにみなさん……」
「亜梨亜様!」
崩れ落ちそうになる亜梨亜さんを西住師範が慌てて支える。
疲れ切ったその姿は初めてお会いした時とはすっかり印象が違って見える。
それ程に亜梨亜さんは疲弊しきっていた。
そんな亜梨亜さんを支えながら西住師範が尋ねる。
「一体どうしたというのですか亜梨亜様?」
「しほさん…つい先程まで皆さんにお会い出来る事を楽しみにしていたのですが……」
そこまで話した亜梨亜さんの目線が次の言葉を探す様に中を泳ぐ。
そして絞り出す様に言葉を続けた。
「意識が回復してから気持ちの浮き沈みが激しかったのですが…ここ数日は安定していたのに…皆さんに会えると笑顔、やっと笑顔を見せていたのにまた……あぁ!」
ここまで話した処でひと筋の涙が頬を伝うと、亜梨亜さんは両の掌で顔を覆いながら膝を突いて嗚咽の声を漏らした。
西住師範がその亜梨亜さんを支え通路のベンチに何とか座らせる。
私達はその痛々しい姿にただ言葉も無く立ち尽くすのみだった。
その間もラブの絶叫は続いていたが、後から駆け付けたドクターにより薬が投与されたのかその声も不意に途切れた。
そして、そしてそれが私達の聞いたラブの最後の声になった……。
西住師範に背中をさすられ少し落ち着いた亜梨亜さんは途切れがちに続ける。
「せっかくお越し頂いたのに申し訳ございません…先程申しました通り恋も皆さんにお会い出来る事を楽しみにしておりましたのに…それなのに…それなのに!」
私はもう見て居られず亜梨亜さんの元に駆け寄ると跪き、膝の上で握られた量の拳にそっと手を重ね落ち着かせる様こう言った。
「亜梨亜おば様、どうかもうお止め下さい。私達は待ちます、何時までもラブが本当に元気になるその日までいくらでも待ちますから、ですからどうか!」
「…ありがとう、千代美さん……ありがとう皆さん……」
重ねた私の手に亜梨亜さんの涙が落ちる、背後でも皆が声を殺して泣いているのが解る。
亜梨亜さんの肩を支える西住師範の頬にも涙が伝っている。
「亜梨亜様、これまで影に日向に支えて頂いた西住、今度は私達が支えさせて頂きます。ですから何なりとお申し付け下さいませ」
「しほさん…ありがとうぅぅ…」
亜梨亜さんが西住師範に縋り付く。
私が立ち上がると皆と抱き合い声を殺し涙を流した。
その後暫くして西住師範が看護師さんに亜梨亜さんの事を頼み、別れの挨拶をすると私達は病院を後にする事となった。
横須賀中央駅の以前にも一人で立ち寄ったコーヒーショップ。
皆の前に思い思いの飲み物が並ぶが誰一人中々手を付けようとはしない。
そんな中西住師範が意を決した様にカップを手に取るとひと口啜る。
それから皆の顔を見まわした後に重かった口を開いた。
「皆さん、今日は遠い処有り難う御座いました。残念ながらあのような事になってしまいましたが、どうか長い目で見てやって下さい」
そう言うと一人静かに頭を下げる、それに対し私達もまた静かに頷く。
頭を上げた西住師範は更に続けてこう言う。
「厳島流が掲げる信条は
そこで話を締めると再び頭を下げられた。
私達もその言葉に再び頷くと自然と手を取り合うとまほが代表して口を開く。
「お母様、私達は信じます。ラブの、恋の心の強さを。必ず返って来る事を。その日が来ることを信じていつまでだって待ち続けます」
まほが皆の胸の内にある事を力強く宣言した。
その言葉に西住師範も静かに、しかし力強く頷く。
その後に目に込められた力を和らげると私を見つめ語り掛けて来た。
「安斎さん、こちらに来て頂ける?」
「はい」
西住師範の隣に座ると私の手を取りたった一言。
「ありがとう」
全ての想いが籠った一言を言うと私を優しく抱きしめる。
「さて、それでは私はひと足先に行っていますが皆は積もる話もあるでしょう。私は地方総監部で待っていますので話が済んだらいらっしゃい」
そう言うと西住師範は店を去って行く、今回は私も含め全員が西住家のバートルでそれぞれの学園艦に送って貰える事になっていた。
ただ今回は捜査で多忙を極める英子さんに会えない事が心残りだ。
「その…安斎」
「何だ?西住」
まずまほが口を開いたが言わんとする事は何となく解る。
「気にしてないよ、あの時の事も全国大会の事も」
「だが……」
「もう何度も謝って貰ったし全国大会も西住は全力で戦ってくれたんだろ?だったらそれでもう充分だよ。それに決勝の後の表彰式の事もあるしな」
「そ、それは!」
全国大会の表彰式、優勝旗を授与されたまほは力尽きその場にへたり込んだのだった。
準優勝盾を手にしていた私にはそれで充分だったのだ。
何かブツブツ言っているまほはそのままにして私は皆にいった。
「皆はもう大体進路は決まっているんだろ?高校に行っても再び砲火を交える図式は変わらないと思う。その舞台で私はラブが帰って来るのを待ちたいと思うが皆もそれは同じだよな?」
全員の表情が引き締まり一斉に頷く。
それぞれの想いに迷いが無いのは再確認出来た、ならば信じた道を進むのみだ。
その後は暫くそれぞれの近況を語り合った後席を立った。
店を出て直ぐの所でまほが私の袖を引いて何か言いたげに私の顔を見る。
「安斎、その…やはり黒森峰には来てくれないのか?」
「…あぁ、詳しくはまだ言えないが黒森峰には行かない。だがサンダースにも聖グロにもプラウダにも行く事は無い。それだけは言っておくよ」
「だがそれじゃあ一体…?」
「すまん、まだ正式に返答していないんだ。決まったら知らせるから今は待ってくれ」
「そ、そうか解った…それなら、それならまた高校でも戦うのだな?」
「お?やっと西住の顔になったな。その通りだよ」
「西住の顔ってなんだよ?」
「まあいいじゃないか、そういう事で」
それから私達は歩いて思い出のドブ板通りを通り抜け、西住師範とバートルの待つ海上自衛隊横須賀地方総監部向った。
秋の終わりともなれば陽が落ちるのも早い。
薄暮の横須賀の空にバートルのアンチコリジョンが明滅する。
私達にとって二度目の横須賀の空、その色は暗く重かった。
そして私達が横須賀を去った後、ラブと亜梨亜さんは私達の前から姿を消した。
私達が見舞う事も叶わず、その後始まった刑事と民事の裁判にも治療と療養を理由に代理人のみ、私達はおろか西住家の者ですら連絡が取れなくなっていた。
何処かで歯車の進みが狂い始めていた……。
季節は進み年も変わり春がやって来た。
私達は中学を、中学戦車道から巣立ち新たな道に進む。
その前に私には行かなければならない場所、会わねばならない人がいる。
新たな制服に袖を通す。
眼鏡を外しコンタクトを入れる。
おさげ髪を解き頭の両サイドで高くリボンで束ねる。
「さあ行こう、あの人に会いに!」
横須賀中央、訪れるのは三度目のコーヒーショップのテラス席。
「英子さん!」
「千代美ちゃん!ってその姿…あ!あの時言った事覚えてたのね!」
「はい!お久し振りです英子さん」
「思った通り可愛いわぁ♪でもその制服は?」
「これはアンツィオ高校の制服です」
「え?アンツィオ…あそこって確か……」
「ええ、現在は戦車道が衰退してほぼ無いも同然です。でもそこの理事長が私の試合を見て私の戦車道に惚れ込んだんだそうです。それで私にアンツィオの戦車道の復興を頼みたいとオファーを貰っていたんです」
「凄いわね…」
「はい、実は初めて英子さんにお会いした頃にはお話しを頂いていたけど迷いもあって保留していたんです」
「そうだったんだ」
英子さんがそう言いながら手の中でカップを弄ぶ。
そこに私がオーダーしていたエスプレッソが届く。
ひとくち口に含むと独特の苦みが口内に広がる。
「でもね、私の見立てだと他からもスカウトはあったんじゃない?」
「解りますか?全国大会常連校からは殆ど声を掛けて頂けました」
「ふぁっ!?私が考えた以上だったわ!」
「いえ、私はそれ程の選手ではないと思っているのですが嬉しかったのは確かです」
「でも選んだのはアンツィオなのね…」
「はい、私をそれだけ評価してくれたのも嬉しかったですし、挑戦のし甲斐のある事だと思いましたから」
「それは相当大変な道よ」
「はい、でもラブが帰って来た時、これが自分の戦車道だと誇れるモノを造っておきたかったんです…あとはその…特待生として学費が全て免除されるのも大きかったんですけど」
ちょっと恥ずかしかったけど包み隠さず全て話してエスプレッソに口を付けた。
英子さんも少し笑ってからこう言う。
「そっか…でもそれだと入学早々隊長職って事?」
「ええ、でもアンツィオでは昔から隊長の事をドゥーチェと呼び習わすそうです」
「ドゥーチェ…確かイタリア語で統帥とかそんな意味だっけ?」
「はい、そんな感じですね」
「ドゥーチェねぇ……ドゥーチェ安斎かぁ…」
そう言った瞬間英子さんの表情が一変する、
「ドゥーチェ安斎…いい響きじゃないか!分かった!私もドゥーチェ安斎の戦い篤と拝見させて貰おう!期待しているぞドゥーチェ!」
私も思わず姿勢を正し敬礼をしながら最高の笑顔でこう宣言した。
「解りました!見ていて下さい英子
でも私がそう宣言した瞬間英子さんの表情は崩れ、口をムニュムニュさせて抱きついて来て、自分のほっぺを私のほっぺにグリグリさせながら声を上げる。
「
「ひゃあ!くすぐったい!苦しぃ~!!英子さんってやっぱり~!」
「
「しまった~!言うんじゃなかった~!」
賑やかな午後のコーヒーショップのテラス席、吹き抜ける風は優しい。
何処かで狂ってしまった私達の歯車はそれでもまだ止まってはいない。
いつかまた、いつの日にかまた皆で笑いあえる日の為に私は私の道を進む。
そしてその先に再びラブが居る事を願って。
「がんばれ!千代美!」
「ハイっ!」
私達の戦車道はまだ始まったばかりなのだ。
全体通してチョビ子を泣かせ過ぎました。
でもこの後ももうちょっと泣かせてしまうかもしれません。
それとチョイ役から大化けした英子さんはこの後も是非活躍させたいです。
いよいよ高校編に突入しますが予定通りポンコツ展開出来るかな?
頑張って執筆に勤しみますので宜しくお願い致します。