ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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なんかこのペコと梓の留学編は毎回えっちだなぁw


第三十四話   AP-Girls TV

「ペ、ペペぺペコぉぉぉ!?」

 

 

 その夜、アッサムはこれまでに見た事がない程狼狽したダージリンの間抜け面を見た。

 

 

 

 

 

「お…お疲れ様でした……」

 

「そ、それでは私達はこれで……」

 

 

 オレンジペコと澤梓の笠女短期留学も三日目の夜を迎えていた。

 異常な進行速度の普通科目の授業に加えてこちらも過酷な戦車道の訓練と、更には二人にとって最もハードルが高いAP-Girlsのメンバーとしての歌とダンスのレッスン、そして止めにそれらを全て余裕でこなした上に放課後遊び回るAP-Girlsに引き摺り回され二人はもうフラフラだった。

 今夜も踊りに行こうと拉致同然に連れ出され、昼間のフィジカルトレーニングの方が生易しく感じる程ノンストップで踊り続けるAP-Girlsに付き合わされた二人は、倒れそうになるのを支え合いながら挨拶もそこそこに逃げるように部屋へと戻って行った。

 

 

「……そろそろかしら?」

 

「そろそろね……」

 

「どの程度までやるつもりなのよ?」

 

「パッと見で解かる程度までは……」

 

「もっとド~ンっと行くのかと思ったぜ?」

 

「さすがに一週間じゃ無理よ……」

 

「ぼちぼち今夜辺りから辛いんじゃないかしら?」

 

「多分そうね……」

 

「それでも止められないでしょうね……♡」

 

「そりゃあそういう時期だもの……♡」

 

「でもまぁ楽しみね……♪」

 

「そうね…楽しみだわ……♪」

 

『うふふふふふふふふ……♪』

 

 

 這々の体でエレベーターに二人が乗り込みドアが閉まると同時に意味あり気に意味不明な会話を交わすラブ達は、最後に何とも薄気味の悪い笑みを浮かべ低い笑い声を漏らしていた。

 

 

「うぅ…痛い……」

 

「私もです……」

 

 

 どうにか部屋に戻った二人だったが、蓄積した疲労と筋肉痛に揃って音を上げていた。

 梓に比べれば大分鍛えているオレンジペコだったが、その彼女からしてもAP-Girlsの日常は思わず梓の泣き言に即同調する程ハードなようであった。

 

 

「でもお風呂入らないと……」

 

「冬でもあれだけ踊るとさすがに汗を掻きますね……」

 

 

 筋肉の痛みに耐えながら二人は手分けして入浴の準備を始める。

 見切り発車で開校した当初は大浴場の開設こそ間に合わなかったが、その分AP-Girlsに限らず全ての笠女の生徒達が暮らす寮の風呂にはジャグジー等の設備が標準的に備わり非常に充実していた。

 

 

「あの高級ホテルみたいな宿泊施設といいこの寮といい、一体この学校どうなってるの……?」

 

「はぁ……」

 

 

 背中に打ち付ける泡の噴流に身を任せる梓の隣で同じようにしていたオレンジペコは、その梓の呟きにそれは相手が厳島だからとは中々言えなかった。

 何しろオレンジペコ自身も世間一般程度しか厳島のグループに対する知識は持ち合わせておらず、笠女学園艦に乗艦して初めてその経済力の巨大さを知ったのだから無理もないだろう。

 だが何よりも一番驚いたのは、ダージリンとアッサムがその厳島のプリンセスであるラブと極普通に友達付き合いしている事であった。

 

 

「さぁ梓さん、こちらに背中を向けて下さい、マッサージをしておかないと明日辛いですから」

 

「う、うん……」

 

 

 普通のマンションから考えても広めなバスタブの中オレンジペコは梓の背に廻ると、その目の前の白く小さな背中に愛おしげに指を這わせ始めた。

 

 

「んっ……!」

 

「やはり大分張っていますね……痛みますか?」

 

「だ、大丈夫……」

 

 

 やや緊張した表情でぎこちなく答えた梓だったが、その頬に朱が奔るのは湯に浸かり温まった事と筋肉痛だけが原因ではないだろう。

 何故ならマッサージを続けるオレンジペコの表情と瞳の光は何処か熱に浮かされたものに変わり、その指の動きもマッサージから愛撫へと変わっていたのだから。

 

 

「どうですか梓さん…気持ちいいですか……?」

 

「ん…き、気持ちいいけどそれマッサージと違っ……あん♡」

 

 

 最初は確かに筋肉痛を和らげる為のマッサージであったが、梓の背を撫で回すうちに完全にスイッチの入ってしまったオレンジペコは既に歯止めが効かなくなっていた。

 

 

「うふふ♪梓さんのうなじ…本当に綺麗……♡」

 

「ひゃあ!ペ、ペコさん……んぐっ!?」

 

 

 とろんとした目付きのオレンジペコが梓のうなじに舌を這わせ、その快感に振り向きかけた彼女が身体を硬直させるとすかさずオレンジペコはその唇を奪うのだった。

 

 

「ペ…ペコしゃん……♡」

 

「梓さん♡」 

 

 

 ティーネームを名乗る紅茶の園の住人とはいえ、まだ一年生であるオレンジペコはダージリンやアッサム達のように気軽に航空戦力を使用する事は出来ない。

 一方の梓もまた件の廃校騒動に巻き込まれるまでは、正真正銘至って普通の公立校の高校一年生であったのでオレンジペコ以上に移動手段は限られていた。

 故に思うように逢瀬を楽しむ事もままならず、こうして二人になれる時は揃って箍が外れ互いを求め快楽に溺れるのが常だった。

 そんな二人にとってこの短期留学の一週間はまたとない機会であり、疲労困憊状態であるにも拘らずそれにめげる事なく肌を重ね、それは結局留学期間中毎夜続くのであった。

 

 

「ハァハァ…ん……ペコ……」

 

 

 唇を合わせ舌を絡ませ続けるオレンジペコが背後から梓の胸のその可愛らしい膨らみにそっと手を重ねると、その息を一層荒くしながらその手に軽く力を込め優しく揉み始めた。

 

 

「……!?痛い!」

 

「え!?そんなに力は……ご、ごめんなさい大丈夫ですか梓さん?で…でも梓さんも……?」

 

「も……?ってどういう事ですか……?」

 

 

 オレンジペコも梓もその胸の痛みには覚えがあった。

 それは嘗て胸の成長が始まった頃に感じた痛み。

 まだ高校一年生の二人にとっては記憶に新しい痛みであった。

 

 

『……』

 

 

 暫し無言で見つめ合った二人は、そっと互いの胸の膨らみに手を伸ばす。

 

 

「痛い…でも……」

 

「気持ちいい……」

 

 

 互いに膨らみの頂にある可愛らしい桜色の先っちょに指を這わせば、痛みと共にそれまでに感じた事のない快感が全身を迸り二人はあっという間に快楽の淵に沈んで行った。

 覚えたての青く甘い蜜の味の前に、少々の痛みなど大した障害にはならないのだった。

 

 

「ペコ……♡」

 

「梓……♡」

 

 

 再び口付けを交わしながら膨らみを押し付け合い痛みと共に押し寄せる快感を貪り、入浴後も疲れ果て揃って寝落ちするまで互いを求め続ける二人であった。

 

 

 

 

 

「あれ…なんか……?」

 

「どうかしましたか梓さん?」

 

「え?ううん、なんでもないわ……」

 

 

 盛るだけ盛って寝落ちした事に対する何ともいえない後ろめたさを感じながら朝練の為に着替えていた二人であったが、梓はブラを着けた瞬間その違和感に戸惑いを感じたのであった。

 だが曖昧に返した梓の背後でブラウスのボタンを留めていたオレンジペコもまた、同様の違和感を感じ微かに首を傾げていたのだった。

 

 

「梓さん、急ぎましょう……少し寝坊してしまいましたから」

 

「う、うん…そうね……」

 

 

 寝坊といってもほんの10分程度の事であったが、二人はその原因が何であるかに思い至ると急に頬を赤らめ慌ててパンツァージャケットに袖を通すと足早に部屋を出て行った。

 

 

「あら?随分早いのね」

 

「あ…ら、ラブ姉おはようございます……」

 

 

 エレベーターを降りエントランスに向かうとラブが一人ソファーに腰を下ろし、缶コーヒー片手にクリップボードに纏めた何かの書類の束に目を通していた。

 

 

「あ、あの……他の皆様は?」

 

 

 スラリと日本人離れした長さを誇る脚を組み書類に目を通すラブの姿は、彼女の掛ける眼鏡も相まって知的な大人の女性の色気に溢れオレンジペコはドキドキしながら質問していた。

 

 

「ん~?もう降りて来るわよ……二人も何か飲んで待ってるといいわ」

 

「はぁ……」

 

 

 自分達が一番最後かと思いきやエントランスにはラブしかおらず、拍子抜けしたような顔をしたオレンジペコは何とも曖昧に返事を返していた。

 日常の言動がその容姿に反し妙に子供っぽいかと思えば今のように年相応以上に大人っぽい一面も見せ、果たしてどちらの彼女が本当の姿なのか掴み処がなくオレンジペコはそんな彼女の事が少し苦手なようであった。

 

 

「あの~、ラブ姉は何やってたんですか?」

 

「ん?あぁこれ?これは次の家元会議の資料よ」

 

「家元…会議……ですか?」

 

 

 聞き慣れぬ単語に首を大きく捻る梓だったが、ここでやっと書類束から顔を上げたラブがいけないといった表情になり簡単に説明してやるのだった。

 

 

「あらごめんなさい……二人共私が厳島流の家元である事はもう知ってるわよね──」

 

 

 家元の顔からいつものお気楽なAP-Girlsのリーダーの顔に戻ったラブが、自嘲気味に苦笑しながら解かり易く説明したとはいえやはりまだ高校一年生の二人にはピンと来ない話だった。

 

 

「まぁこんな話してもよく解からないよね…かく言う私だって解からないもの……」

 

 

 彼女程の頭脳の持ち主であればそんなはずはなく、最後の一言は同じ高校一年生である事を強調したいだけだろうとオレンジペコは思ったがそれを口にする事は出来なかった。

 

 

『本当に掴み処のない方ですわね…ダージリン様もアッサム様も厳島様とは普通に接していらっしゃいますけど、あれはやはり慣れなのでしょうか……』

 

 

 オレンジペコが内心そんな事を考えているとそれを見透かすようなラブの視線が自分に向いている事に気付き、どうにも落ち着かぬ彼女は視線を泳がせるのみだった。

 だがそんな彼女のちょっとした修羅場を助けるかのように向かい合わせで4機あるエレベーターが次々にチャイムを鳴らし、ドアが開くとAP-Girlsのメンバー達が続々と降りて来るのだった。

 

 

「お?ペコも梓もよく早起き出来たなぁ」

 

 

 朝練前の軽い腹ごしらえなのかリンゴをまる齧りしながら、意味あり気なニヤニヤ笑いをその顔に張り付かせた夏妃が実に面白そうに言うと、さすがに二人も即その意味を察して真っ赤な顔で俯いてしまうのだった。

 

 

「朝から本当に下品ね……」

 

 

 どうも低血圧気味らしい凜々子が低い声と共に座った目で夏妃を睨み付けるが、夏妃は全く堪えた風でもなく更に面白そうに言うのだった。

 

 

「はぁ?オメェこそ何言ってんだ凜々子?アタイは昨日の訓練がハードだったから二人が起きられるか心配してただけだぞ?」

 

「ったく…ああ言えばこう言う……」

 

 

 面倒そうな顔の凜々子はそれ以上夏妃の相手をせず無料の自販機からがぶ飲みサイズのブラックコーヒーを取り出すと無言でグビグビと煽り始めていた。

 

 

「あ、あの……」

 

「あぁ、いつもの事だから気にしないでいいわ」

 

「ハァ……」

 

 

 どうにか気を取り直した梓がおずおずとラブに声を掛けたが、再び書類に目を通していたラブは顔すら上げずそれだけ答えるのだった。

 だがそこで彼女が戸惑っているとマンションの車寄せに、乾いたエンジン音と共にFAMOの略称で呼ばれる大型ハーフトラックが鈴鹿の運転で滑り込んで来た。

 

 

「あのFAMOはいつもここの駐車場に置かれているのでしょうか……?」

 

「そうよ、だってそうじゃなかったら朝練で演習場行くのに不便じゃない…けどなんで……?」

 

「い、いえ特に意味は……」

 

 

 本来の軍用の塗色と違い厳島と笠女のイメージカラーであるマリンブルーで塗装された上に、荷台側面にはAP-Girlsの名が大書されたFAMOに乗るのがオレンジペコは少し恥ずかしいようだった。

 

 

「恋……」

 

「ん、ありがと愛……」

 

 

 それまで姿の見えなかった愛がまるでラブの影から生まれたように姿を現すと何やら薬の包みらしき物と共に紙コップを手渡し、ラブもそれを受け取り直ぐに服用していた。

 

 

「……」

 

 

 ダージリンとアッサムから少しぼかして聞かされてはいたが、一緒に生活していると確かにラブが服用する薬の数は相当多いと感じるオレンジペコであった。

 

 

「さ、それじゃあ行きましょうか」

 

 

 そんなオレンジペコの想う処に気付いた様子のないラブがすっと立ち上がれば、それを合図に全員が揃って寮であるマンションを出てFAMOに乗り込んで行った。

 

 

「今日はミニカイルを組んだままの同時ドリフト旋回から行くからね~♪」

 

『……』

 

 

 お気楽に言うラブであったが二人にとっては朝からいきなり高いハードル設定を示され、今日もまた過酷な一日になる事を確信し言葉を失うオレンジペコと梓だった。

 

 

 

 

 

「ペコさん大丈夫ですか……」

 

「な、なんとか……」

 

 

 どうにか午前中を乗り切った後の昼休み、学食では倒れ込みそうなオレンジペコを寄り添って支えながら昼食を取る梓の姿があった。

 朝練前の予想通りジェットコースターのような勢いで続く課業であったが、戦車道を履修して以来修羅場の連続であった梓の方がこういった状況には若干耐性があるようだった。

 

 

「あ、梓さんこそ大丈夫ですか……?」

 

「え?えぇ、去年の全国大会からずっとドタバタやってたから慣れ…かな……?」

 

 

 力なく会話しながら二人は寄り添い支え合い昼食を取り続けていた。

 

 

「ふふ♪バテてるけど食欲は落ちてないようね……結構結構」

 

「そりゃあ()()が求めてるものね~」

 

「この様子だといよいよ今夜辺りだよな……」

 

「えぇ、明日の朝が楽しみだわ……」

 

「準備は出来てる?」

 

「問題ないわ」

 

「今夜も間違いなく二人揃って()()()()押すわよね?」

 

「そりゃあ何と言ってもやりたい盛りだもの♡」

 

『うふふふふ♡』

 

 

 微笑ましげに昼食を取る二人を見守るラブ達がまたしても意味不明な会話を交わしているが、オレンジペコと梓はそれに気付く事はなかった。

 

 

 

 

 

『す、凄い……』

 

「何が……?」

 

 

 昼休み明け最初の授業は体育だったが笠女では季節に関係なく屋内プールが使える為、今日の授業内容は体幹を鍛えるアクアビクスになっていた。

 しかしオレンジペコと梓はプールサイドに現れたラブの、競泳水着がはち切れんばかりのたわわの存在感に圧倒されその視線を逸らす事が出来なかった。

 慣れてはいてもここまでガン見されるのは久しぶりらしく、ラブの目もさすがに据わっていた。

 だがそれも無理のない事で、そのビジュアル的破壊力は凄まじく、入学以来ずっと行動を共にして来たAP-Girlsのメンバー達ですら微かに頬を上気させていた。

 更に授業が始まりインストラクターの動きに合わせラブが身体を動かせば、それに伴い水面に浮き沈みする彼女のたわわは暴力的エロさで視覚を責めるのだった。

 

 

『やっぱり凄い……』

 

「……」

 

 

 レッスン終了後シャワールームで愛の介助を受けたラブが競泳水着の上半身を肌蹴ると、途端に抑圧から解放されたたわわな徹甲弾が弾け彼女はその手のグラビアなどでお馴染みな姿になっていた。

 ダージリンを始め仲間達がこの話を聞けば羨ましがりそれだけでご飯三杯はお代わり出来そうなラブの姿に、またもガン見する二人はその鼻を両の手で覆っていたが指の間から赤いものが滴り床のタイルの上に点々と落ちて行くのだった。

 そしてその後の一般科目の授業はほぼ居眠り状態で過ごした二人は、どうにか放課後の訓練も乗り切り疲れから舟を漕ぎながらも夕食を完食していた。

 

 

「疲れましたね……」

 

「うん……」

 

 

 どうにか部屋に帰り付いた二人は、ふらふらとベッドまで行くとそのまま同時に倒れ込んでいた。

 暫し無言でそうしていた二人だったが着替えなければとか疲れを取り汗を流す為にお風呂に入らねばなどと考えていたが、如何せん疲れ過ぎて起き上がる気力が湧かずにいた。

 だが顔を埋めていたオレンジペコがその顔を梓の方に向けると、同じような状態で寝落ち寸前の梓はその頬に後れ毛が掛かり何とも言えず色っぽく見えた。

 

 

「梓さん……」

 

 

 疲れ切っているにも拘らずムラムラと湧き上がる欲望を抑え切れないオレンジペコは、這いずるように梓に擦り寄るとその唇を奪っていた。

 

 

「ペ…ペコさん……」

 

 

 それは昼間の恋人同士の軽いものではなく夜の恋人同士が交わすディープなキスであり既にブレーキの効かぬオレンジペコは梓の唇を舌で抉じ開けると、そのままその舌を抑え切れない欲望のままに梓の舌に絡めていた。

 勿論梓も彼女にぞっこんではあるがどうもオレンジペコの方が傾向的によりそういった行為に積極的らしく、一旦火が付くと止まらなくなるように見受けられた。

 だが二人がそのまま行為に及ぼうかと考えたその時、前夜同様部屋のドアが荒々しくノックされると同時に夏妃の声が聞こえて来た。

 

 

「オラ~!何やってんだオメェら!早く行かないと間に合わなくなるぞ~!」

 

 

 ドア越しで尚はっきり聞こえる夏妃の声に飛び起きた二人だったが、特に何か約束した覚えもなく顔を見合わせ不思議そうに首を捻っていた。

 

 

「あ、あの…何かお約束していましたか…・・・?」

 

 

 恐々とオレンジペコが部屋のドアを開けてみれば、ここ数日のお約束で外には何人かのAP-Girlsのメンバー達が集まっていた。

 

 

「ん?なんだ寝てやがったのか…あれ?お前……まぁいいや今はそれ処じゃねぇさっさと支度しやがれ、急がねぇとマジで間に合わなくなるぞ?」

 

 

 ペコの唇に目を留め何かに言及しかけた夏妃であったが、それ以上に何か大事な事があるらしくその事に関する追求を止めた彼女は二人を急き立て出掛けようとしていた。

 

 

「で、ですから夏妃さん一体どちらへ……?」

 

「はぁ!?どちらも何も……おいペコ、今日は何曜日だ?」

 

 

 全く話が見えず困惑するオレンジペコを他所に、夏妃は彼女にその可愛らしい指を突き付けた。

 

 

「今日…ですか?今日は木曜日ですがそれが何か……?」

 

「なんだ解かってるじゃね~か……で、木曜夜8時と言ったら何がある?」

 

「あ…そうかAP-Girls TVの更新日だ……」

 

 

 AP-Girls TV、それは彼女達の公式ページで今年から配信され始めた30分のAP-Girls に関する情報番組であり、木曜日は週一で更新されるその番組の更新日であった。

 ラブを中心にほぼ内輪のネタ暴露の場であるその番組は非常に人気が高く、梓も毎週うさぎさんチームの面々と一緒に更新されて直ぐの初回放送を楽しんでいたのだった。

 

 

「解かってんならさっさと行くぞ!今日の初回は生放送だからな!」

 

「えぇ!?でもそれに私達は何の関係も──」

 

「何寝言言ってやがる?今は二人共AP-Girlsのメンバーだろうが!急いでスタジオ行ってメイクしないと放送に間に合わなくなるじゃねーか!」

 

『え…え?……え────!?』

 

 

 青天の霹靂とはこの事かと言いたくなる程驚いた二人が驚きの声を上げていると、面倒になったらしい夏妃が指を鳴らし控えているAP-Girlsのメンバー達に合図を送った。

 するとそれを待っていたかのように部屋に雪崩れ込んだAP-Girlsのメンバー達が二人を担ぎ上げると、問答無用でそのまま部屋から運び出していった。

 よく見ればその面子は荒っぽさには定評のあるブルー・ハーツのメンバー達であり、阿吽の呼吸で二人を担ぐと決して広いとは言えぬマンションの内廊下を器用に走り去るのだった。

 そして二人が連れて来られたのは欠かさず番組を見ている彼女達も見覚えのあるセットが配置された空間であり、それでそこがAP-Girls TVの収録が行なわれるスタジオである事に気付くのだった。

 

 

「ほ、本当にAP-Girls TVのスタジオだ……」

 

「あ~、やっと来た~」

 

 

 スタジオ内部を見回し呆然と呟く梓と、あまりの事にただ口をパクパクさせるオレンジペコ。

 そんな二人に向けて能天気な声を上げたのは他でもないラブであり、既にメイクも終えた彼女は現在売り出し中の新曲のメイン衣装である砂漠の九尾狐のミニスカ軍服姿になっていた。

 

 

「ら、ラブ姉!なんで私達まで!?」

 

「なんでって……二人は今AP-Girlsのメンバーなんだもの、番組出演も当然の事でしょ?」

 

「や……だからそうじゃなくて──」

 

「お~い!二人共来たからメイク宜しくね~!」

 

 

 梓の抗議に一切耳を貸さず、ラブはメイク班を呼ぶと二人のメイクを頼むのだった。

 事ここに至り梓もオレンジペコと同じく口をパクパクさせるだけであったが、傍らのトルソーに掛けられた2着の砂漠狐のミニスカ軍服にこの日最大の嫌な予感を覚えていた。

 

 

「ラブ姉!この衣装はもしや……!?」

 

「そうよ~、この衣装は二人の為に特別に用意した物……これを着て私達と番組に出て、最後は一緒に歌うのよ~♪」

 

 

 ラブの爆弾発言に絶句した梓は、そこで漸く初日から今日まで受けさせられたレッスンがこの番組の為である事を理解したのだった。

 

 

「こ…この人は絶対悪魔だ……」

 

 

 それが放送開始直前、梓断末魔の呟きだった。

 

 

 

 

 

「ダージリン様!アッサム様!番組が始まってしまいます!早く早くですわ!」

 

 

 聖グロ戦車道チームでもティーネームを持つ者だけが入室を許される通称紅茶の園、その紅茶の園では今年に入りAP-Girls TVが始まって以降は初回放送を紅茶を頂きつつ揃って鑑賞するのが恒例になっており、放送開始を待ち切れぬローズヒップに急き立てられたダージリンとアッサムの二人が軽く溜め息を吐きながら入室して来た処であった。

 

 

「ローズヒップ、落ち着きなさい……」

 

 

 その程度で言う事を聞くわけがないのは解かっていたが、それでも言うだけ言ってみたダージリンは案の定なローズヒップにやれやれと首を左右に振っていた。

 そして用意された紅茶を口にしつつ大型の液晶モニターに目をやればそれまで先週分をリピート放送していたのが暗転し、次の瞬間満面の笑みを湛えたラブがどアップで登場したのだった。

 

 

「まぁ……♡」

 

 

 それに苦笑したダージリンの視界の中で、ラブは周囲に目配せしながら第一声を発していた。

 

 

『それじゃい~い?行くよ……』

 

 

 ラブは周囲に確認するように言った後に、拳を天に突き上げながら番組タイトルをコールする。

 

 

『せ~の、AP-Girls TV!(え~ぴ~が~るずてぃ~び~!)

 

『いぇ~い♪』

 

 

 彼女のコールに合わせ周囲のメンバー達の叫びが続き、カメラも一気に引いて雛壇に並ぶAP-Girlsの姿が映るが、それを見た瞬間ダージリンは椅子からずり落ちアッサムは紅茶を盛大に吹いていた。

 何故ならラブの両隣には彼女と同様に新曲の衣装を身に着けたオレンジペコと梓がガチガチに緊張した面持ちで座っていたからに他ならなかった。

 

 

「ペ、ペペぺペコぉぉぉ!?」

 

 

 カーペットの上にへたり込んだダージリンがすっかり裏返った声と共に画面を指差し、アッサムがこれまでに一度も見た事がないようなアホ面を晒している。

 

 

「…これはさすがに予想していませんでしたわ……」

 

 

 アッサムがハンカチで口元を拭いながら呟いていたその頃、大洗でもみほがパソコンの前で思い切り後ろに引っくり返りテーブルに後頭部を打ち付けその痛みに悶絶していた。

 そして全国に散る仲間達もその瞬間揃って口にしていた飲み物を吹き、その結果汚してしまったパソコンのモニターの始末に追われていたが、唯一うさぎさんチームのメンバー達だけが違う反応を示していた。

 

 

「あ~!梓いいな~!」

 

「凄~い…同じ衣装着てる……」

 

「今度私達も出して貰えないかな~?」

 

「しれっととんでもない事を……」

 

「おっぱい……」

 

 

 さすが大洗の首狩り兎、その怖いもの知らずな処は健在であったようだ。

 

 

 

 

 

「さぁ、そういった訳で始まりましたAP-Girls TV、今週は番組始まって以来初の生放送でお送りしていま~す♪更にこちらも番組史上初、二人の素晴らしいゲストが来てくれていますよ~♪」

 

 

 番組はラブのオープニングトークで始まったがしれっと画面の隅にはLIVEの文字が躍っており、ネット上ではそれに対する書き込みやら実況が凄い事になっていた。

 

 

「それでは改めてゲストの二人をご紹介します……まずは聖グロリアーナ女学院戦車道チームから一年生にしてティーネームを押し頂くオレンジペコさんで~す♪」

 

 

 ラブの紹介と共にカメラが切り替わり引き攣った笑みを浮かべるオレンジペコの顔がアップになり、それに合わせてAP-Girlsのメンバー達が歓声を上げたり指笛を鳴らして盛り上げている。

 

 

「そしてもう一人……大洗女子学園戦車道チームの澤梓さんで~す♪彼女は皆さんもご存知の通り昨年の高校戦車道大会の覇者であるチームの一員で、更には最優秀新人賞であるヤングタイガー賞も受賞しているんですよ~♪」

 

 

 ラブの煽りに同調し周りが尚一層盛り上がるが、当の梓はガチガチに緊張したまま引き攣った顔と目で止めてくれと訴えていたがラブはそれを華麗にスルーしていた。

 そして自分の時とは一転しラブが梓の事を盛大に持ち上げれば、最愛のパートナーが称えられた事に気を良くしたオレンジペコがそれに同調しニコニコ顔で拍手していた。

 

 

『ペコさん……』

 

 

 そんなオレンジペコの様子に梓は一人途方に暮れていたが、一方のオレンジペコもまた喜んでいられたのもその時だけであった。

 

 

「え~、そんな二人は現在私達AP-Girlsが通う私立三笠女子学園に一週間の短期留学中なんですが、我が校が留学生を迎えたのも今回が初めての事で色々と初が続いているんですよね~♪」

 

 

 ラブが何か言う度に突込みが入ったり混ぜっ返したりと絶妙なトークが続き、番組の方はオンエアと同時に視聴数がどんどん跳ね上がっていた。

 

 

「そんな訳で私達は同じ()()()()()とっても仲良しで~す♪」

 

 

 ここで不意打ちのように飛び出した、ラブの踏み絵のような地雷ワードに二人の顔が凍り付く。

 そして何と答えたらよいかと生まれた一瞬の沈黙。

 

 

「ね~?私達()()()()()で仲良しだよね~?」

 

 

 にこにこと屈託なく微笑みながらもラブの目は全く笑っておらず、その喉下に白刃を突き付けられたような心境に駆られた二人は目尻に涙を浮かべただガクガクと頷く事しか出来なかった。

 この時ネット上の書き込みの中で一部その文末に草を生やしていた者達が存在したが、それは明らかにその裏事情を知る比較的近しい立場にいる者達であると思われた。

 そして彼女と繋がりの深い者達の反応もまた様々であった。

 

 

「止めんかこのバカモノがぁ!」

 

「Jesus!私の可愛いラビットに何すんのよ!?」

 

「あの目はマジだぞ?誰も助けられないのは解かってるだろ?」

 

 

 アンツィオの寮ではアンチョビがパソコンのモニターに向かい思わず突っ込みを入れ、サンダースの寮ではお気に入りの梓をおもちゃにされケイが憤りそれに同室のナオミが冷静に応じていた。

 

 

「こ、これも一種の粛清かしら……」

 

『これがカチューシャ様なら確実に換えのパンツが必要な場面ですね……』

 

 

 プラウダの隊長室ではジャムで口の回りをベタベタにしたカチューシャがガクブルし、その背後ではノンナが決して口には出来ない事をその心の内で呟いていた。

 

 

「ペコ…なんて不憫な……」

 

「この状況に彼女を放り込んだのは何処のどなただったかしら……?」

 

 

 どうにか持ち直したダージリンが紅茶の園で心にもない呟きを吐き出せば、その隣でアッサムが即座にそれを切って捨てていた。

 

 

「うえぇ…ラブお姉ちゃん、梓さんをこれ以上いじめないで……」

 

 

 エリカとの飲茶デートに目が眩み梓を売ったみほは、自らの所業を忘れたのか寝言を言っていた。

 そして黒森峰の隊長室では、新たな主であるエリカと共にまほがその様子を見守っていた。

 

 

「う~む…ラブにも他校に同学年の友達が出来たか……いや、実にいい事だ」

 

「まほ姉…アンタどんだけポンコツなんですか……?」

 

「えぇ!?」

 

 

 相変わらずなまほにげんなりした様子でエリカが突っ込んでいたが、彼女もまたその心の内でちょっとした修羅場を迎えていたのであった。

 何故ならこの放送でオレンジペコと梓の笠女短期留学を知った彼女だったがその背景でみほが梓を売ったであろう事を見抜き、その代償が二人が留学した当日にみほに誘われていった横浜中華街の飲茶デートであった事に気付いていたからだった。

 

『みほ…アンタ梓をダージリン先輩に売ったわね……後でシバくから覚悟しときなさいよ!』

 

 

 正確にみほの仕出かした所業を見抜いたエリカは、猛烈な後悔と後ろめたさと共に込み上げてくる怒りにこめかみにバッテンを浮かべていた。

 それぞれが様々な思いで番組を見守る中、AP-Girls TVの生放送は続くのだった。

 

 

 




AP-Girlsの意味深な会話から、
そろそろ二人の身に何が起きるかネタバレでしょうかw

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