ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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ペコと梓の留学編も一応これで終了ですw
なのに今回は副題が最高に下らないというww


第三十六話   揺れる重い

「そう…そんな事が……」

 

「はい……」

 

「でもそれはいつもという訳ではないのですね……?」

 

「はい、仰る通りです……一番多かったのは夕食後だったと思います」

 

 

 その報告にダージリンの表情が若干険しいものになり、隣にいるアッサムも表情こそ変えないがその顔に影が差したように見えたのは決してオレンジペコの見間違いではないだろう。

 ここは聖グロリアーナ女学院戦車道チームにあってティーネームを与えられたものだけが出入り出来る聖域、通称紅茶の園と呼ばれる特別な空間だ。

 私立三笠女子学園への短期留学から帰艦したオレンジペコは、帰る早々ダージリンとアッサムと共に紅茶の園を訪れその報告を行なっていた。

 

 

「その…何と申しますか、そういう時の厳島様は酷く頑なで、どうにも幼い印象を受けました……」

 

 

 そう言った後にダージリンの顔色を窺うような素振りを見せたオレンジペコだったが、それに敢えて気付かないフリをしたダージリンは、ティーカップを傾け紅茶で喉を潤すとそのまま報告を続けるよう無言で促していた。

 

 

「拒絶反応…この表現が果たして適切かは解かりませんが、他の表現が見付かりません……」

 

「…やはり相当副作用が強いのでしょう……」

 

 

 溜め息と共にアッサムが吐き出した一言が三人しかいない紅茶の園に重く響く。

 

 

「ペコ──」

 

「はい、心得ております、決して他言は致しません」

 

「結構…この話は以上よ……」

 

 

 珍しく皆まで言わせなかったオレンジペコに、ダージリンもまた短く答える。

 

 

「それで通常の科目の内容と進み具合は如何でしたか?」

 

 

 そこで話題を変えるようにアッサムが穏やかな声音で尋ねれば、オレンジペコは逆にそれまで以上に沈鬱な表情になりドロドロとした瘴気を放ち始めるのであった。

 

 

「ペ、ペコ?どうしましたの……?」

 

 

 その只ならぬ様子がさすがにおかしいと感じたダージリンが声を掛けたが、彼女の問い掛けは何処か腰が引けたものになっていた。

 

 

「…笠女の一般教科の授業内容に関しては凡そ高校一年生が学ぶ内容ではありません……そして…そしてその授業の進行スピードは……」

 

「…その進行スピードは……?」

 

 

 腰が引けてはいるが彼女の語り口に引き込まれたダージリンが思わず身を乗り出した。

 

 

「聖グロの授業の進み具合がチャーチルだとしたら、笠女の授業の進み方はリミッターを外したクルセイダーです!」

 

「ひっ!?」

 

 

 くわっと大きく目を見開いたオレンジペコが聖グロの淑女らしからぬ荒々しさでテーブルを叩き立ち上がると、それに驚いたダージリンは勢い余って椅子ごと後ろに引っくり返った。

 

 

「…痛い……一体何事ですの……」

 

 

 座り姿勢のまましたたかに後頭部を強打したダージリンはその状態で頭を抱え悶絶していたが、そんな彼女の事をアッサムは極めて冷ややかな目で見下ろしていた。

 

 

『絵に描いたような自業自得ね…それにしても……』

 

 

 ラブ自身が語った事と彼女が属するGI6が多少行なった調査の結果、笠女の学力が相当高いレベルにあることは把握していたが、実際にそれを体験して来た者の口から語られる実体験と比較すればその情報の質に大きな違いがあった。

 

 

「ご苦労でしたねペコ……ですがラブだけに止まらずAP-Girlsのメンバー全員が、その授業に問題なく付いて行けていたのですね?」

 

「え…?あ、ハイ!確かにそれなり大変そうではありましたが問題なく……」

 

「そう……」

 

 

 オレンジペコから返って来た答えに何か想う処があるのか、アッサムは暫し考え込む。

 

 

「そ、それで肝心の戦車道訓練の方は如何だったのかしら?」

 

『あ…復活した……』

 

 

 自分諸共引っくり返った椅子をガタガタと音を立てて起しながら、ダージリンは今更平静を取り繕い無駄に気取った様子で二人の視線を無視して更なる報告を促した。

 

 

「もし仮にあの訓練プログラムをこの聖グロで導入したとしたら…おそらくティーネームを持つ者はその矜持から必死に喰らい付いて行くでしょう…ですがそうでない者は早々に脱落するかと……尤も喰らい付いて最後まで耐えたとしても倒れる者が続出するかと思いますが……」

 

 

 オレンジペコは凄惨な笑みをその面に貼り付け、その後も淡々と自分が体験したAP-Girlsの戦車道に関する全ての訓練内容を細大漏らさず報告していた。

 

 

「そんなに……」

 

 

 ペコが語る厳島流の訓練はそれまで想像していた処を遥かに超えた域にあり、その聞いただけでも苛烈に過ぎる内容にダージリンとアッサムは返す言葉を失うのだった。

 

 

「一度この目で見る必要があるかもしれませんね……」

 

 

 既に引継ぎを行い隊長の職にないにも拘わらず、ダージリンは指揮官としての顔で真剣にそんな事を呟きながら考え込んでいた。

 しかしそんな彼女もアッサムに促され、ペコに労いと先々を見据えた言葉を掛けるのだった。

 

 

「ペコには色々と非常に良い経験になったようですわね…今後はそれを活かし副隊長としてルクリリを支えるよう頼みますよ?」

 

「ハイ…微力を尽くします……」

 

 

 何やら警戒した様子ながらも恭しく頭を垂れたオレンジペコであったが、彼女が頭を上げるか上げないかのうちにダージリンが次なる言葉を発していた。

 

 

「処で……()()は一体どういう事なのかご説明頂けますかしら?」

 

 

 事ここに至りやっとその言葉と共に全く遠慮のない視線をオレンジペコの生まれ変わった胸のたわわに突き付けたダージリンであったが、当のオレンジペコは何を今更敵な表情で溜め息を吐きながら力なく首を左右に振っていた。

 だがそんな彼女もたわわ化した当日の夜から今日までの事を思い起こし、その意識は身体の真に残る残り火のような熱を帯びた何かに呑まれ薄らいで行くのだった。

 

 

 

 

 

「あ…梓ぁ……♡」

 

「ペ、ペコ凄過ぎぃ……♡」

 

 

 それまでの控えめなサイズから一転、胸がぷるんぷるんなたわわと化したその夜、朝から散々その事で弄られていたにも拘わらず二人はその欲求の赴くまま互いを求め激しく交わり続けていた。

 そんな二人が身に着けているのはかなり際どいランジェリーだったが、それらは全てその日の朝ラブ達が朝駆けを敢行した際に持ち込まれた物だった。

 二人が部屋に戻りそれを見付けた時、最初はその過激なデザインに真っ赤な顔で見ないフリをしていたがやはり好奇心に抗う事は出来ず、結局は代わる代わる身に着けては一層気持ちを昂らせて最後はそのまま抱き合いベッドに倒れ込んでいた。

 しかし一体何をどうすればそうなるのかは一切謎だが、サイズも感度も大幅にアップした二人は完全にケダモノと化しそのまま朝方失神するまで吶喊し続けたのであった。

 

 

「あら二人共食欲旺盛ね、実によい事だわ♪そうでなくてはA()P()-()G()i()r()l()s()()()()()()は勤まらないもの。うん、実に結構結構♪」

 

 

 明けて翌朝の朝食の席、ラブは二人の目の下の隈に言及する事なくその食欲を褒め称えていた。

 ラブだけではなくその場にいるAP-Girlsのメンバー達全員にも、昨夜の何があったかはバレバレな事が解かっているだけに一瞬その箸を止めた二人だったが、消耗し切った身体がそれを求め再び凄い勢いでカロリーの摂取を再開するのだった。

 だがしかし、この時二人は既に気付いていた。

 確かに夜通し互いを求め激しく突撃を続けた結果凄まじいカロリーを消費し疲れ切っているにも拘わらず、二人は朝早くに空腹感に襲われ目を覚ましていた。

 だが体の疲労だけではなく、今や立派なたわわと化した二人の胸がエネルギーを求めている事、そのたわわを維持する為には莫大なカロリーが必要な事に気付いていたのだ。

 

 

「うふふ♡いいわ、二人共完璧よ♪」

 

 

 ラブを始めとするAP-Girlsのメンバー全員が見守る中、黙々と朝食を取る二人だった。

 だが二人にとって不思議な事に、その日を境に訓練中にそれまでずっと感じていたしんどさを感じる事が大幅に減っていたのだ。

 これまでは訓練終盤になるとただもう付いて行く事意外考えられない位消耗していた二人だったが、たわわな胸がぷるんぷるんするようになってからは、最後まで与えられた課題に対して何をどうすべきか考え行動出来るようになっていたのだった。

 

 

「どういう事でしょう……?」

 

「私に聞かれても……」

 

 

 二人にとって最後まで一般教科のハードルの高さだけは如何ともし難かった。

 だがフィジカル面で大幅に楽になった事だけでもその違いは大きく、それに気付いた二人は首を捻るものの、胸がたわわになったのが原因だとは俄かには信じられなかった。

 だが訓練中のみならず歩くだけでもユサユサ揺れるようになった互いの胸を意識から逸らす事は出来ず、常に下腹部の奥に熱い疼きを感じ続け夜は一層激しく互いに吶喊し合うのだった。

 高度な一般教科の授業にAP-Girlsメンバーとしての厳しいレッスンと厳島流の過酷な訓練、そして毎夜繰り広げられる艶かしい吶喊。

 そんなこんなで迎えた訓練最終日、ラブが出した最後の課題は二人にとっても予想外な実弾を使っての一騎打ちであった。

 梓は当初気後れしていたが、らしくない程にやる気を見せるオレンジペコのに引き摺られる形でそれを受け入れると、ラブ立会いの下激しい格闘戦を演じたのだった。

 その一騎打ちに際し二人が乗機にと選んだのは、この一週間の間に代わる代わる搭乗し、最も相性が良いと感じた車両であった。

 だがそれぞれが選んだ乗機にはラブ達も大いに驚き、最後まで意外だを連発していた。

 何故なら梓が鈴鹿のブラック・ハーツを、オレンジ・ペコに至っては夏妃のブルー・ハーツを選択しており、これに関してラブ達は互いに自分にないものを求めた結果かと首を捻っていた。

 しかし蓋を開けてみれば二人の一騎打ちは思わずラブも目を丸くする程激しい展開となり、最後まで目の離せない素晴らしい戦いだったが、最終的には僅差で梓が勝利したのだった。

 とはいえ実質結末は相打ちに近かったが、その展開に手に汗握ったラブ達は拳を突き上げやんやの歓声を上げながら二人の対決を心の底から楽しんでいた。

 そして僅差とはいえ映像判定なしにブルー・ハーツから先に白旗が射出されたのが確認された直後、オレンジペコは側面同士を接触させる形で停車した両車の間を軽々と飛び移ると、感極まった表情で周辺を飛ぶドローンに録画されているのも忘れ梓に勝利を祝福する口付けを与えていた。

 

 

『これ絶対入ってるよね……?』

 

 

 衆人環視である事も忘れなんともディープなキスを交わす二人に対し、その時突然の事に呆けて見入っていたラブ達の共通の見解がコレであった。

 だが二人が揃って戦車道選手として一枚殻を破ったのは間違いなく、あれこれ余計な事をやりながらもラブがダージリンからの依頼もしっかり果たす辺りはさすが家元といった処だろう。

 二人の訓練中に夏妃も指摘していた通りラブの指導者としての資質は極めて高く、この後も多くの選手の成長の手助けをする事になるが、それは彼女が昔からやっていた事であった。

 彼女も人から依頼を受けて指導を行なったのは今回が初めてであったが、その事には依頼したダージリンも受けたラブも気付いてはいなかった。

 それでも今回の一件はラブにとっても大きな意義があり、彼女のその後に影響を残すのだが、それに気付くのは大分先の事になるのであった。

 かくして短期留学プログラムを全て消化した二人は翌日の日曜日にそれぞれの母艦に帰艦する事になっていたが、それまでの残り時間を笠女学園艦内でラブ達と遊び倒す予定になっていた。

 但し、その前に最後の夜という事で留学終了記念の宴会が盛大に行なわれたがその宴席も大きななお世話的意向で程々の時間で切り上げられ、二人は弄られつつも足早に仮住まいである寮の部屋へと消えて行き、結局朝まで際限なく欲に身を任せ感度が高まった互いの身体を貪るのだった。

 何しろ一旦帰艦すればそう頻繁に会えなくなる二人にとって、このような機会は滅多にある事ではないのでそれも仕方のない事かもしれなかった。

 とはいえいくら若いとはいえ徹夜で行為に耽ればさすがに体力を使い果たし、翌朝フラフラでAP-Girls全員から失笑を買う二人だった。

 そしてそんな二人がそれぞれの母艦にラブに付き添われて帰艦すれば、その突然の変化に騒動になるのも当然の事であった。

 まず両校の母艦の航路の関係で梓が先に帰艦したが、その際迎えに来たみほの狼狽と嫉妬ぶりは凄まじかったものの梓が短期留学した経緯はエリカ同様にラブもお見通しで、騒ぐみほはラブの長くしなやかな指から繰り出されたデコピンの一撃で完黙させられたのだった。

 その後Itsukushima Oneが離艦する直前、濃密な一週間を共に過ごしたオレンジペコと梓がその場で一戦おっぱじめそうなほど密着しての愁嘆場を演じ、ラブの耳打ちで漸く二人は分離したのだが、彼女達に一体何を言ったのかは謎が残った。

 

 

 

 

 

「な…こ、コレは一体どういう事!?ら、ラブ!あ、あなたペコに何してくれやがりましたの!?」

 

「ダージリン…言葉遣い……」

 

 

 そして辿り着いた聖グロ学園艦のヘリポートではいつも通りに英国面全開で乙に澄まして登場したダージリンが、Itsukushima Oneより降り立ったオレンジペコのぷるんぷるんなたわわにその目を大きく見開き愕然とした表情でその顎を落としていた。

 しかしそんなダージリンを前にしてもラブはわざとらしくヘラヘラと笑いながら何も答えず、一緒に迎えに出たルクリリなどもラブをよく知るだけにこれ位の事は起こっても不思議はないといった何処か悟ったような顔をしていた。

 だがそんな彼女もオレンジペコと目が合った瞬間、その目に可哀想にとか気の毒にといった何処か哀れむような感情の入り混じった色を浮かべ、それを見たオレンジペコに溜め息を吐かせていた。

 

 

「…そんな目で見るのは止めて下さいまし……」

 

 

 消え入りそうな声でやっとそれだけ言ったオレンジペコであったが、ダージリンの反応や他の者達の視線を受けて今後自身のたわわにどんな運命が待ち受けているかを考えれば、自然と涙目にならざるを得なかった。

 しかしそんな水面下のやり取りがなされる中、やはりというか案の定というか只一人空気読めないアホの子が存在した。

 

 

「ねぇアッサム様!見て下さいすっごいですわ!ペコったらポヨンポヨンになってますわ!一体どうなってますの?ちょっとツンツンしても宜しいかしら!?」

 

「…止めて下さい……」

 

 

 目尻に大粒の涙を溜めたオレンジペコは感度が上がったたわわをガードするように抱き締めると、ツンツン揉み揉みのジェスチャーをするローズヒップに背を向けていた。

 

 

「まぁ!?ペコったらそんなケチくさい事言わないでちょっとツンツンさせなさいですわ!」

 

「ほんと…止めて……」

 

 

 その程度でローズヒップにリミッターが掛かる事はないと解かっていながらも、オレンジペコは弱々しい声音で抵抗を続けている。

 そんなルクリリですら怒鳴る気力を失うようなアホな騒ぎが起きている影で、只一人アッサムだけが平静を装った表情でラブ相手に視線のみで駆け引きを行なっていた。

 まず彼女の鋭い視線がラブの瞳を射ると、ラブの視線もそれに追従して移動を始めた。

 アッサムの視線が彼女にとって最愛のローズヒップの胸の膨らみから、オレンジペコのたわわ化して間もない胸元を経由してラブのドレッドノートなたわわへと巡る。

 その一秒に満たない一瞬のアイコンタクトの後再びラブと視線を交わしたアッサムが無言で一つ頷けば、ラブもまた無言でコクコクと頷いた。

 

 

「さて、それじゃ私帰るわね~♪」

 

 

 ローズヒップに端を発した騒動が続く中わざとらしく帰る事をアピールしたラブは、()()()()()ダージリン達の返事も待たず夕闇迫る空へとItsukushima Oneを舞い上がらせるのだった。

 そしてラブが去り騒動が落ち着いた頃、ふと気付けばローズヒップの姿もそこになかったという。

 

 

 

 

 

「──ペコ、ねぇペコ!聞いていますの!?」

 

「はい?」

 

 

 記憶の沼に沈んでいたオレンジペコがふと気付けば、目の前にいるダージリンが独り目尻を吊り上げ小型犬宜しくキャンキャンとよく吼えていた。

 

 

「全く!人間お胸が大きくなると態度も大きくなるのかしら!?」

 

 

 己の所業も忘れ形もサイズも自分を上回りたわわと化したオレンジペコの胸に嫉妬したダージリンは、彼女が話を全く聞いていなかった事にえらくご立腹な様子だった。

 だが話は聞いておらずとも彼女が如何に理不尽極まりない勝手な事を言っていたかは容易に想像が付き、その身勝手さにさすがのオレンジペコもカチンと来たようであった。

 

 

「──なクセに……」

 

「は?ペコ…今なんと言いました……?」

 

 

 興奮してチャーチルに搭載されたベサの7.92mmを乱射するように捲し立てていたダージリンは、まさかオレンジペコが言い返すなどとは露程も思っていなかったらしく、直ぐには理解出来なかった彼女の発言に思わず間抜けな顔で問い返していた。

 

 

「一年生以下の残念なちっぱいの分際でご高説賜っても何も説得力は御座いません!」

 

「な…は?ペ、ペコ……あ、ああああなた……」

 

 

 それまでぞんざいな扱いはしても決して暴言を吐くような事のなかったオレンジペコに、いきなりばっさりと袈裟懸けで切り捨てられたダージリンは酸欠の金魚のように口をパクパクさせ、アッサムも驚いた様子でおや?っといった表情をしていた。

 

 

「──とでも言えばご満足頂けますか?」

 

 

 すっかり据わった目付きで一呼吸置いたオレンジペコがそう続け、それが彼女なりの今回の一連の騒動に対する一種の意趣返しであると気付いたダージリンはまさにぐぬぬ状態で黙る他なかった。

 

 

「ペ…ペコのクセにおやりになるわね……」

 

 

 それでもせめて一太刀と考えたダージリンの口から出たセリフは、完全に小学生レベルの負け惜しみでしかなくオレンジペコにいともあっさりスルーされていた。

 

 

「と、とにかく一週間の笠女への留学ご苦労でした…今日はもう下がってゆっくりするといいでしょう、明日からはその経験を活かし働いて貰わねば為りませんからそのつもりで……」

 

「…はい、ダージリン様……」

 

 

 既に引退したにも拘わらず未だ隊長としての振る舞いが抜けぬダージリンの言葉であったが、オレンジペコもそこまでは言及せずに大人しく頭を下げていた。

 

 

「処でアッサム…ペコが帰って来たのと入れ替わりにローズヒップの姿が見えなくなったのは一体どういう事かしら……?」

 

 

 やっと気付いたかこの紅茶女と思いつつもアッサムはそんな事はおくびにも出さず、至って涼しい顔で淡々と答えるのだった。

 

 

「あら、何かと思えばそんな事ですか?それなら簡単な事、ラブに頼んでローズヒップも笠女へと短期留学させましたわ…だってペコだけが厳島の戦車道を体験しても片手落ちだと思いませんこと?これはクルセイダー隊を指揮する彼女にこそ必要な体験だと私は思いますわ……それに何より我が校で一番AP-Girlsに夢中なローズヒップが可哀想ではありませんか」

 

「こ、こいつは私になんの断りもなく……」

 

 

 握り締めた拳をわなわなと震わせダージリンは再び絶句する。

 眉一つ動かさぬアッサムだが、彼女が寵愛するローズヒップもオレンジペコ同様ぷるんぷるんなたわわへと生まれ変らせたいと策を巡らせたのは明白で、例えその事で攻め立てたとしても暖簾に腕押し糠に釘で彼女には一切通用しない事が解かっているダージリンは、肩をいからせギリギリと歯噛みした後に溜め息と呼ぶには少々荒々しい息を盛大に吐き出していた。

 

 

「そ、それでは私はこれで失礼致します……」

 

 

 そんな二人のやり取りにこれ以上のとばっちりは御免被るとばかりに、オレンジペコは挨拶もそこそこに紅茶の園から逃げ出し一目散に寮へと帰って行くのだった。

 

 

「これ以上私を巻き込まないで下さいまし……」

 

 

 まだ制服を作り直していないので笠女の制服姿のオレンジペコはぷるんぷるんと上下に揺れるたわわを抱き抱え、そんな事をぼやきながら寮への道を小走りに走り去って行ったという。

 

 

 

 

 

「そ、そんな…ろ、ローズヒップが……う、嘘でしょう……?」

 

 

 ローズヒップの笠女留学から6日後、とある学校と練習試合をこなしたAP-Girlsの試合後のライブ中継を紅茶の園で見ていたダージリンは、完全に腰を抜かしてカーペットの上にへたり込んでいた。

 そんな彼女が震える指で指し示した先にある大型液晶モニターの中では、AP-Girls専用アリーナのステージ上で夏妃と共にすっかり立派に膨らんだ胸のたわわをぷるんぷるんさせながら、ローズヒップが超高速のバク転20連発を決めた処だった。

 実はライブの前の試合にもローズヒップは出場しており、その際には愛に変わりピンク・ハーツの車長を務め対戦校の車両を2両撃破という大戦果を挙げダージリンを卒倒させていた。

 しかもピンク・ハーツのパーソナルマークにはご丁寧にも薔薇の花が描き加えられ、この日登録された呼称の方もピンク・ローズに変更されていたのだった。

 尚、ピンク・ハーツの車長の座をローズヒップに譲った愛がどうしていたかといえば、彼女はこの日お飾りでLove Gunに同乗し終始砲塔に箱乗りでラブとユリユリしていたという。

 

 

「あぁ♡私の可愛いローズヒップ…なんて素敵に成長を遂げたのかしら……♪」

 

「★@Å%▼ΩΦ〆!!!」

 

 

 その瞳をピンクのハートにして身悶えるアッサムに震える指を突き付け何かを叫ぶダージリンだったが、その言葉は興奮し過ぎて言葉になっておらず何を言っているのかさっぱり解からなかった。

 その場にいた隊員達もさすがにこれは後々問題になるのではと不安を抱いたが、あの厳島が相手とあっては聖グロの口喧しいOG達も何も言えず彼女達の心配は杞憂に終わっていた。

 だがそんな中にあって、オレンジペコだけが少し違った思いでそのステージを見ていたのだった。

 何故ならば日頃クラスメイトとして彼女の言動を目にしているだけに、戦車道やステージなど体力勝負な場面はともかくあのハイレベルでハイスピードな笠女の授業に、果たしてローズヒップが付いて行けているのかどうか甚だ疑問だったのだ。

 

 

「あのいつもの珍回答を乱発していないといいのですが……」

 

 

 だが、このオレンジペコの不安も全くの杞憂であった。

 帰艦後のローズヒップの語った処によれば笠女のあのハイペースが彼女にとっては実に快適であり、あれ程ストレスフリーで生活出来る環境は他にないと豪語しオレンジペコを驚愕させたのだった。

 しかし元々ラブには気に入られていたローズヒップが、この短期留学でAP-Girlsのメンバー達からも絶大な支持を集める事になるとはさすがにアッサムも予想出来なかったようだ。

 

 

 

 

 

「あの…宜しかったのでしょうか……?」

 

「うん…?あぁ、あの事か……」

 

 

 ローズヒップが夏妃と共にバク転を決めたその夜、聖グロ戦車隊の隊長室ではその部屋の新しい主であるルクリリが執務の合間に、ニルギリが入れてくれた自身のティーネームの由来である茶葉の香りに満足気に目を細めていた。

 

 

「はい……」

 

「まぁなぁ、ダージリン様にしてもアッサム様ににしても私なんかが話しても太刀打ち出来る人じゃないしな…ましてあのラブ先輩に至っては話が通じる相手じゃないからなぁ……」

 

「……」

 

 

 内心そこまで言うかと思いつつもニルギリはルクリリの的確に過ぎる評価に何も言えなかったが、直接の先輩である二人はともかくそれまで面識のなかったラブと戦った経験から、彼女の常軌を逸した強さに人為らざる者であるとさえ感じたニルギリは、少しラブに苦手意識があったようだ。

 

 

「…ニルギリはラブ先輩が苦手か……?」 

 

「……!」

 

 

 ルクリリは彼女の様子から敏感にそれを感じ取ったらしく、勤めて穏やかな口調で尋ねて来た。

 

 

「いや、別にニルギリを責めてるんじゃないんだ…ただ今の私があるのは間違いなくラブ先輩のお陰なのでそれだけは解かっていて欲しくてな……」

 

「も、申し訳御座いません!」

 

 

 ハッとした表情で頭を下げたニルギリだったが、ルクリリは軽く手を挙げ笑ってそれに答えた。

 

 

「ははは、まぁ確かにあんな神業で討ち取られたら恐怖を感じるのは無理もないさ…でもラブ先輩は本当に優しい方なんだ……そのうちニルギリにもそれを実感する時が必ずやって来るよ」

 

「はぁ……」

 

 

 こればかりは体験しないと解からない事でありニルギリも曖昧に返事を返すしかなかったが、ルクリリもそれ以上その事で言及する事はなかった。

 

 

「それにしてもペコとローズヒップのアレはなぁ……」

 

 

 話題を変えるようルクリリがぼそりと呟いた瞬間、自身の入れたティーカップの中身を口にしかけていたニルギリは盛大に咽てしまうのだった。

 

 

「ぐっ!げほげほ……!」

 

「す、すまないニルギリ!こ、これを使ってくれ!」

 

 

 自らの不用意な発言で紅茶を気管に入れてしまったニルギリが咽るのを見たルクリリは、慌てて懐からハンカチを取り出すと彼女に差し出しその背中をさすってやるのだった。

 

 

「だ、大丈夫かニルギリ…?本当にすまなかった……」

 

「い、いえ大丈夫です…こちらこそ申し訳御座いません……」

 

 

 ソファーに並んで座り彼女の呼吸が落ち着くまでその背中をさすっていたルクリリは、やっと会話が出来るようになったニルギリの様子に安堵の息を吐くのだった。

 期せずしてぴったりと寄り添っていた二人は実によい雰囲気になってしまい暫くはそうしていたのだが、何やらモジモジしていたニルギリが意を決したようにその口を開いた。

 

 

「あ、あの…ルクリリ様もやはりあれ位あった方がお好みなのでしょうか……?」

 

「え…?あ……!」

 

 

 ニルギリが自らの発言に真っ赤になって俯いた直後、ルクリリもまた即その発言の意味する処を察してその顔に狼狽の色を浮かべていた。

 

 

「い、いやその!わ、私は今のニルギリに満足して…い、いや私は何という事を!そ、その私にニルギリこそ過ぎる位の存在だし、逆に私の方こそがさつだしもう少し胸の方も……むぐ!?」

 

 

 テンパったルクリリがワタワタしていると潤んだ瞳で見上げて来たニルギリが、その細い右手の人差し指でそっと彼女の唇を塞いで来た。

 

 

「どうかもうそんな事は仰らないで下さいルクリリ様……」

 

「あ……♡」

 

 

 ニルギリがトレードマークである丸眼鏡を外し一層その瞳を潤ませれば、ルクリリももう自分を抑える事など出来はしなかった。

 

 

「ニルギリ……♡」

 

「ルクリリ様……♡」

 

 

 急接近した二人の艶やかな唇が重ると、隊長室を湿り気を帯びた艶かしい音が支配し始めた。

 更に時折その合間に熱い吐息が混じり、徐々にその呼吸も荒くなって行った。

 そしてその後、寄り添う二人が隊長室を後にしたのは夜も大分更けてからの事であったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…見てらっしゃい、絶対このままでは終わらせませんからね……」

 

 

 




なんか最後の最後で何やら企んでる方がいるようです……。

この留学編は結局毎回えっちなお話になりましたが、
ラストでルクリリとニルギリの絡みを予想した人はさすがにいなかったのでは?

さて、彼女の企みは一体どんな展開になるのでしょうねぇwww

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