ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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高校編第一部で張った伏線にやっと辿り着きましたw


第三十七話   降臨梅こぶ茶  

「やられた…アイツらまた私を売ったわね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なだらかな起伏が続く冬枯れの草原地帯。だが、そこに至るまでの古き良き英国風の街道の其処此処では無数の戦車達が火を噴き或いは黒煙を上げ燻っていた。

 そんな殺伐とした光景を背に、吹き抜ける寒風にポニーに結い上げた自慢の真紅のロングヘアーを靡かせるラブは、巡航戦車クルセイダーMk.Ⅲの砲塔上で戦場に君臨する軍神の如く鷹揚な態度で周囲を睥睨していた。

 彼女の乗機であればⅢ号J型の間違いではないかと思われるかもしれないが、現在彼女が乗り込んでいるのは間違いなくクルセイダーMk.Ⅲであり、彼女が身に着けている()()()()()()()()も赤を基調に黒い襟と黒のミニスカートで、それは紛れもなく聖グロリアーナ女学院の戦車道チームの選手達が着用する隊服であった。

 しかも彼女が騎乗するクルセイダーの砲塔側面には聖グロの校章が描かれており、そのクルセイダーが何処に所属する車両であるかを明確に示していた。

 だがその校章に並ぶ形でラブのパーソナルマークであるハートを貫く徹甲弾も描かれており、それが益々謎を深める一因になっていた。

 果たして彼女はこんな処で一体何をやっているのであろうか?

 

 

「さっきからどうしましたの()()()()?」

 

「ん?あぁ、何でもないわ()()()()

 

 

 クルセイダーの操縦席から顔を出したローズヒップに梅こぶ茶と呼ばれたラブは微笑みを以ってそれに応え、その笑みの意味する処まで読めぬローズヒップは不思議そうな顔をしている。

 

 

「変な梅こぶ茶……まぁいいですわ、それよりパッパと決着を付けましょうですわ」

 

「ふふっ♪そうね、そうしましょう」

 

 

 ラブが同意するや否やローズヒップが操縦席に戻ると、それまでアイドリング状態を保っていたクルセイダーのナッフィールド・リバティ製のエンジンが軽快な唸り声を上げた。

 最初こそ重たげに車体の軋む音を上げたクルセイダーも、やがて速度が乗れば草原の中の一本道に履帯痕を刻み付けながら颯爽と奔り去って行くのだった。

 

 

 

 

 

「あぁ、見えましたわ……」

 

 

 白く長大な航跡を黒潮の上に残しながら突き進む巨大な鋼鉄の大陸、アーク・ロイヤル型を原型とする聖グロリアーナ女学院の学園艦目がけ、特異な形状の機体が滑るように降下するのが見えた。

 Itsukushima One、本来軍用でありながら、民間企業である厳島の為だけに唯一大掛かりなカスタマイズを加えて製造されたその機体は、機内も国際線ファーストクラスと同等に改装され、主に厳島に関わる要人の輸送に従事していた。

 厳島のイメージカラーであるマリンブルーを纏ったその機体はみるみるうちに高度を下げると、待ち受けていたダージリン達の頭上を一旦フライパスした後、滑らかな動きで巨大なローターの向きを変えバタバタと腹を打つ爆音と共にヘリポートへと降り立った。

 接近するItsukushima Oneの存在に真っ先に気付きながら何でもなさ気に呟いたアッサムであったが、その目には一種の狂喜と獣の光を宿らせていた。

 

 

『コイツは……』

 

 

 表向き涼しげな表情を取り繕うアッサムに対し、傍らで同じようにItsukushima Oneを目で追っていたダージリンは対照的に苦々しげな顔をしている。

 何故なら、たった今駐機スポットに移動し甲板員のエンジンカットのハンドサインに従いエンジンを停止したItsukushima Oneには、完全にアッサムの私利私欲でオレンジペコと入れ替わりに短期留学中であった笠女から帰艦したローズヒップが搭乗しているからであった。

 出来の悪い子程可愛いを体現するローズヒップを溺愛するアッサムは、たわわ化したオレンジペコの胸元を見た瞬間ローズヒップを笠女に送り込む手筈を整えていたのだ。

 そんな彼女の下へと最愛の少女が生まれ変った姿で帰って来るとなればアッサムが熱に浮かされた目をするのも頷けたが、今回の彼女の暴挙といってもいい行動はダージリンとしてやはり納得し難いものがあるのだろう。

 

 

「アッサムさまぁ!ローズヒップは只今戻りましたわぁ────っ♪」

 

 

 機体のハッチが開くなり転がり落ちるように飛び出して来たローズヒップは、見事にたわわ化した胸を激しく上下にぷるんぷるん揺さぶりながらアッサムの胸の中へと飛び込んでいた。

 

 

「まぁ♪素敵よローズヒップ…見違えたわ……♡」

 

「あぁ…アッサム様ぁ……♡」

 

『コイツら……』

 

 

 抱き締めたローズヒップのたわわの弾力にうっとりするアッサムと、すっかっり感度がアップしてそれだけでも感じて蕩けた雌の声を漏らすローズヒップにダージリンの目は完全に死んでいた。

 

 

「ダージリンったらなんて目してるのよ~?」

 

「ラブ……」

 

 

 意識が抱き合う二人に向いていた処に不意に声を掛けられたダージリンは、声のする方へと目を向ければラブがなんともふざけたニヤニヤ笑いをその顔に貼り付け直ぐ傍に立っていた。

 

 

「あなたね……一体何をどうやればたかが一週間かそこらであんな事になるのよ!?」

 

「ん~?あぁ、可愛いでしょ~?」

 

「可愛いでしょ…じゃないですわ!……先輩を差し置いて一年の分際で…全くけしからん……」

 

 

 後半はブツブツとただの愚痴を垂れ流すだけのダージリンは目が据わっており思わず噴出しそうになったラブだったが、こういう状態のダージリンを下手に刺激すると後が面倒なのがよく解かっているので彼女は微妙に視線を逸らしそれに堪えていた。

 

 

「ありがとうラブ、ローズヒップを大分()()()くれたようですわね♪」

 

「んふふ♡ロージーは元々フィジカル面の基礎レベルが高かったから意外と手間は掛からなかったわ、なんと言っても夏妃のバク転20連に付いて行ける子なんて今までいなかったんだから大したものよ?練習試合で2両撃破のスコアを上げたのも予想以上の成果だったしね~♪」

 

 

 それが偽りないラブの評価である事がよく解かっているアッサムが満足気にローズヒップのピンク髪を撫でてやれば、彼女もそれが一番のご褒美だと云わんばかりにその目を猫のように細め気持ちよさそうな表情でアッサムに甘えていた。

 

 

「そうそう、これを渡しておくわ……」

 

「何かしら……?」

 

 

 ラブが制服の内ポケットから取り出したメモを受け取ったアッサムが怪訝な表情をすると、その耳元でラブはクスクス笑いながら耳打ちするのだった。

 

 

「生まれ変ったロージーのスリーサイズよ♡当面必要なインナーの類はこちらで用意させてもらったけど、制服やタンクジャケットはさすがに勝手に作る訳には行かないでしょ?ペコの時と同じように出来るだけ早めに用意してあげてくれる?」

 

「何から何までありがとう……」

 

 

 そういう事かと納得したアッサムが拍子抜けした顔で礼を言えば、ラブは更に付け足しのように今度は皆に聞こえるように言うのだった。

 

 

「それともう一つ、今のロージーは肩凝りが大変だからよ~くマッサージしてあげるのよ?」

 

「まぁ♡」

 

 

 ポッと頬を赤らめたアッサムは、その頬に両の手を当てて嬉しそうにその身をくねらせている。

 

 

「…あ……でもこれに関してはパートナーが近くにいないペコの方が大変かもね~?」

 

「ら、ラブね…厳島様!?」

 

 

 いきなりネタにされボンっと音がしそうな勢いで顔を真っ赤にしたオレンジペコは、留学中にそう呼ぶ事を強要された習慣でラブ姉と呼びかけたが、ダージリン達の手前それはさすがに憚られると感じたのか彼女は以前のように様付けで呼び直しラブに不満そうに睨まれていた。

 だがラブが不満気な表情を見せたのも一瞬の事であり、彼女は直ぐに人の悪い笑みに戻ると制服の紺のニットを盛大に突き上げるオレンジペコのたわわを見て何度もうんうんと頷くのだった。

 

 

「ま、いいわ……それじゃダージリン、私もそろそろお暇するわ」

 

「あら?もう帰るおつもり?もう少しゆっくりして行けば宜しいのに……」

 

 

 ローズヒップの()()に歓喜するアッサムと順調にニットに包まれたたわわをぷるんぷるんさせているオレンジペコの姿が確認出来た事に、用件は済んだとばかりに帰投する旨宣言したラブだったが、それまで荒れていたダージリンは態度を豹変させて名残を惜しむような事を言っていた。

 だが彼女の口元には何やら企んでいるような引き攣った笑みが張り付いていたのだが、既に帰るつもりになっていたラブはダージリンに背を向けておりそれに気付かなかった。

 そしてラブがアッサム始めその場にいた聖グロの隊員達に帰る旨を伝え挨拶を済ませていたその時、背後でItsukushima Oneがエンジンを始動させそのハッチを閉じ始めていた。

 

 

「え…?あ……ちょっとっ!」

 

 

 振り向いたラブは一瞬事態が飲み込めなかったが、彼女が我に返った時にはItsukushima Oneはふわりと浮き上がりその高度を上げつつあった。

 

 

「ねぇ!私まだ乗ってないわよ!って、きゃあ!」

 

 

 そんなラブの叫びをローターの回転音が掻き消しヘリポートに叩き付けられたダウンウォッシュが彼女の制服のミニスカートを捲くり上げ盛大にパンチラさせる。

 

 

「どういう事…あ……」

 

 

 あっという間に飛び去ってしまったItsukushima Oneを呆然と見送ったラブであったが、先程までそのItsukushima Oneが翼を休めていた駐機スポットに、使い込まれた自分の旅行トランクがポツンと残されているのが目に入った。

 

 

「あぁ…そういう事……」

 

 

 そのトランクを見た途端、彼女はそれが何を意味するかに気付き、その鋭い視線を遠慮なくダージリンに突き付けたが、ダージリンの方もそれを待っていたかのように不敵に微笑んでいた。

 

 

「やられた…アイツらまた私を売ったわね……」

 

 

 そしてその時を待っていたかのように彼女の携帯の着メロであるパンツァー・リート鳴り響き、取り出した携帯の液晶画面に予想通りの発信者の名を見い出したラブは思わず顔をしかめていた。

 

 

「もしもし……」

 

「オホホホホホ!ラブ姉、アナタは売られたのよ聖グロに!ああ可笑しい!アナタはもうAP-Girlsリーダー厳島恋じゃないの、聖グロの新米隊員厳島恋なのよ!アハハハハ♪ホント傑作だわ!」

 

「凜々子……」

 

 

 耳元で響く高笑いと何処かで聞き覚えのあるセリフに脱力したラブは、自分の予想が間違っていなかった事に面倒そうに溜め息を吐くのだった。

 

 

「どうしましたの?もっと喜んでいいんですのよ?」

 

「ダージリンあんたね……」

 

 

 またしても自分の与り知らぬ処で勝手に短期留学を決められていた事を悟ったラブに向け、ダージリンは思わず張り倒したくなる程わざとらしい態度で口元に手の甲を当て笑っていた。

 

 

「また下らない事を…どうなっても私は知りませんわよ……?」

 

 

 彼女もこの事は知らされていなかったらしく、アッサムもローズヒップをモフりながらもやや険しさの混じった呆れ顔でその視線をダージリン向けていた。

 

 

 

 

 

「…なによ……?」

 

「お…おやりになるわね……」

 

 

 特注で作らせた聖グロの制服を身に着けたラブを前に、それまでの高飛車な態度を一変させたダージリンは何とも悔しそうにその口元を歪ませていた。

 事前にデータを取り寄せていたとはいえ実際ラブが聖グロのニットを身に着けると、その視覚的破壊力はオレンジペコのたわわの比ではなく、早くもダージリンは敗北を突きつけられていたのだ。

 実際特注であるにも拘わらずそのたわわ周りはパツパツで、そのビジュアルは何かそっち系のフェティッシュな嗜好のえっちなDVDでも見ているようで、紅茶の園に集まっていたティーネームを持つ隊員達は漏れなく顔を赤らめその呼吸を荒くしていた。

 

 

「全く…だから止めた方が宜しいのではと言ったのに……」

 

 

 隊長として事前にその下準備を手伝わされたルクリリは、ダージリンに言われ今も一人で着替えが出来ぬラブの着付けを手伝い、ある意味ご褒美ある意味地獄なラブの生着替えに数回鼻血を噴出させ一時的な貧血状態でフラフラしながらブツブツと愚痴っていた。

 

 

「と、とにかく!今日から三日間と超短期ではありますが、ラブには我が聖グロリアーナ女学院に留学してもらいます。クラスの方はペコ、ローズヒップと同じクラスにしておきましたわ」

 

 

 ダージリンとしては出来れば自分と同じクラスにしたい処であったが、そうすると一年生である事に固執するラブの機嫌を損ねる可能性があったので彼女もそれは断念していた。

 それを聞きローズヒップがまぁ素敵と云わんばかりに全身で喜びを表す一方で、如何にも面倒そうに余計な事をといった表情を浮かべるオレンジペコであった。

 そして二人とクラスメイトという事で若干ラブの機嫌も直ったのか、それまでよりその態度も多少柔らかいものになっていた。

 

 

「それならそれで最初に言えばいいのに……まぁいいわ、ご希望通り聖グロに短期留学してあげる」

 

 

 やっとラブが折れた事に、それを面にこそ出さぬものの内心ダージリンも安堵していた。

 

 

「それでは今日から三日間ラブにはこの紅茶の園の住人として過ごして貰う為に、特例でティーネームを授けましょう……」

 

 

 そこまで言うと何やら考え込んだ表情になったダージリンは、現在空位となっているティーネームを次々と頭の中に並べ始めた。

 

 

『…ラブの実力を考えればそれなりのグレードの名を与えねばなりませんわね……ですがそうなるとそうなると現在空いているティーネームはやはり……』

 

 

 徐々にその表情が硬いものになって来たダージリンの脳裏には、癖のない金髪のロングヘアで彼女にとっては偉大ながらも天敵である女性のシルエットが浮かんでいた。

 

 

「ラブ…あなたには留学中アール──」

 

「あら!?私はとっくの昔に()()()()()()からティーネームを賜っておりますわ!」

 

「へ?」

 

 

 緊張感を孕んだ声でダージリンがその名を口にしかけたその時、ラブはそれを遮りローズヒップを髣髴とさせる口調で思いがけぬ事を言うのだった。

 思いもよらぬラブの言葉に虚を吐かれたダージリンが間抜けな声上げ、次いでいつ自分がそんな事をしたかとこめかみを右手の指先でトントンしながら考え込んでいた。

 だがそんなダージリンの隣では、何か心当たりがあるのかアッサムが浮かぬ顔をしている。

 

 

「皆様始めまして、私梅こぶ茶で御座います……明日から三日間宜しくお願い致します」

 

『う、梅こぶ茶ぁ!?』

 

「やっぱり……」

 

 

 優雅に腰を折り淑女らしく挨拶を決めて見せたラブであったが、彼女が名乗ったその珍妙なティーネームに紅茶の園の住人達は揃って素っ頓狂な声を上げ、只一人アッサムのみが困ったものだとばかりに力なく左右に首を振りトレードマークの黒いリボンを揺らしていた。

 

 

「ちょ、ちょっとラブ…あなたそれって……!?」

 

 

 梅こぶ茶、ラブが突然名乗ったそのティーネームを覚えているだろうか?

 嘗て榴弾の暴発事故に巻き込まれ仲間達の下から姿を消していたラブと再会を果たしたダージリン達が、更なる闇の底から彼女を救い出した後の事だった。

 それは漸く落ち着きを取り戻したラブを囲み揃って湯に浸かり心身共に解き解された時の事、話の流れで興の乗ったダージリンが悪乗りしてラブに与えたティーネーム、それこそが件の梅こぶ茶なる実にふざけたティーネームであった。

 

 

「どうなさいました?ダージリン様?」

 

「だ、ダージリン様ってあなたねぇ!ラブそれって何かの仕返しのつもりですの!?」

 

「何を仰いますのダージリン様?一年生である私が三年の先輩であるダージリン様を呼び捨てに出来る訳がないではありませんか?」

 

「くっ……」

 

 

 如何にも聖グロの淑女といった立ち居振る舞いで紅茶の園の住人になりきって見せるラブであったが、その喋り口調だけは明らかにローズヒップを真似ており、それがより一層ダージリンをイラっとさせるのだった。

 

 

「あなたの負けよダージリン……」

 

「誰が誰と戦っていますの!?」

 

 

 一連のやり取りに実に愉快そうなアッサムは何とも人の悪い笑みをその口元に貼り付けており、牙を剥くダージリンの事も実に軽々とあしらっていた。

 だがこの時こそが聖グロ戦車隊隊員、梅こぶ茶誕生の瞬間であった。

 

 

 

 

 

「これはさすが聖グロといった処ね……」

 

 

 AP-Girlsの厳島恋の聖グロ短期留学という事で幾つかのちょっとした騒動もあったが、日が暮れた頃ラブはダージリン達が暮らす寮へと辿り着いていた。

 その英国面満載の寮はといえばその外観も内部も充分に歴史を感じさせるもので、その寮の一切合財を取り仕切る寮監も如何にもな雰囲気で中々に手強そうな人物であった。

 そんな寮の一室に通されたラブは、室内を見回しその雰囲気に感慨深げに呟くのだった。

 

 

「さ、そんな処に突っ立ってないでこちらにいらっしゃい」

 

「あのさ、二人がルームメイトなのは解かるとして何で私まで同室なワケ?」

 

 

 嫌がるという訳ではないが、やはり何かと疑り深くなっているラブは何処か警戒している様子だ。

 

 

「何をそんなに警戒してるのよ?別に何も企んでなんかないわよ、単にラブとの寮生活を楽しみたいだけ……いけないかしら?」

 

 

 彼女にしては珍しく屈託のない笑顔を浮かべたダージリンに逆に警戒心を強めかけたラブだったが、そんな様子にもダージリンは肩を竦めるだけでそれ以上何も言わなかった。

 

 

「ま、別にいいわ…単に健全なピロートークを楽しみたいだけだから……」

 

「健全なピロートークって何よ……?」

 

「パジャマパーティーとも言ったかしら?」

 

「あんたね……」

 

 

 何とも云えぬ疲労感を覚えたラブはそのままベッドに倒れ込みたい衝動に駆られ、室内に視線を巡らせればそこにあったのはエクストラサイズの真新しいベッドであった。

 

 

「アッサム……?」

 

「私は止めたわ……」

 

 

 どうやらダージリンは本気で一つのベッドで三人揃ってガールズトークに花を咲かせたかったらしいが、彼女の寝相の悪さを知るだけに気の乗らぬ表情をしていた。

 

 

「…同じ教室で机を並べたかったけどそこは譲歩したんだからこれ位はいいじゃない……」

 

「ぷっ……馬鹿ねぇダージリンったら♪」

 

 

 それまでとは一変し急に子供っぽく拗ねてみせるダージリンに、ラブも思わず吹き出した。

 

 

「解かった、解かったわダージリン、あなたの思うようにしてちょうだい」

 

 

 苦笑するラブが降参ポーズでダージリンの願いを受け入れれば、アッサムは盛大に溜め息を吐きながらもそれに続いた。

 

 

「後悔するわよ?最初に言っておくけどダージリンの寝相の悪さは相当ですからね?」

 

「いきなり失礼ね……私そこまで寝相悪くないはずよ?」

 

「寝ている本人はそりゃあ気付かないでしょうね……でも笠女でお世話になった時寝返りラリアットを喰らったのを私は忘れていませんからね?」

 

「ラリアット……」

 

 

 アッサムの証言に早くもラブは後悔していたが、それは既に後の祭りというものだった。

 それから暫く他愛のない雑談で時を過ごした後に迎えた夕食の時間、目の前に並ぶ英国面溢れる品々にさすがのラブもその顔から表情を消していた。

 

 

「…ウナギのゼリー寄せにスターゲイジー・パイ、そしてハギス……ねぇ、これってもしかしてわざとやってるの……?」

 

「そ、そんな訳ないでしょ……」

 

『嘘だ…絶対に嘘よ……』

 

 

 いつもの調子ではぐらかそうとしたダージリンであったが、出落ちのように噛んでいる辺りからして彼女がラブに洗礼を与えるべく、態々英国マズイ物博覧会を企てていたのは明らかだった。

 それが証拠にテーブルに着くルクリリを始めオレンジペコやローズヒップ達も、揃って涙目で居並ぶ料理を嫌そうに口に運んでいた。

 

 

「なら自分も率先して食べなさいよ……ホラ、手が止まってるわよ?」

 

「わ、私はいいのよいつも食べてるから……」

 

 

 うんざりした顔でラブがダージリンにハギスの皿を突き付ければ、彼女も速攻で顔を背ける辺り欠片も説得力がなかった。

 

 

「全く無茶しやがって……」

 

 

 ダージリンがやらかした結果地獄の晩餐会と化した聖グロ短期留学初日の夕食であった。

 

 

「せ、聖グロに来たからにはこれを食さねば嘘ですわ……」

 

「嘘付け…ねぇ、お願いだから明日の朝からは普通の食事にしてくれない……?」

 

「……」

 

「だからあれ程止めろと言ったのに……」

 

 

 昼間のうちに彼女の企みに気付いたアッサムの忠告を聞く事なく計画を実行したダージリンは、ラブの手前あまり逃げる訳にも行かず無理をした結果、青い顔で部屋に戻る事になったのだった。

 そしてその夜彼女達が暮らす寮の廊下には、各部屋から漏れ出した各種カップ麵の匂いが立ち込めるという事態を招いていた。

 

 

「で…?ダージリンが後生大事に抱えてる赤帯のきつねうどんのカップは何かしら……?」

 

「う…うるさいわね!体力勝負の戦車道選手ですもの!これ位のお夜食は当然でしょ!?」

 

「ロクに夕食食べなかったクセに何開き直ってんのよ?」

 

「くっ……」

 

 

 部屋に戻り一息吐いた彼女達は毎度お馴染みになりつつあるすったもんだの入浴を済ませると、微妙な空腹感に襲われる時間を迎えていた。

 そしてその空腹感に耐えられなくなったダージリンが、共産主義的ネーミングなきつねうどんのカップをこっそりと抱え部屋のミニキッチンではなくコソコソと給湯室へ行こうとしていた処を、いともあっさりとラブにインターセプトされていたのだった。

 

 

「も~、だからそんな下らない見栄張るの止しなさいってば」

 

 

 呆れたラブが真顔で諭せば完全に開き直ったダージリンはその場でカップ麵を開封し、部屋のミニキッチンに湯を沸かしに行ってしまった。

 

 

「ねぇアッサム、あの子っていつもあんな調子なワケ?」

 

「違うと思うような根拠でもありますの?」

 

「あっそ……」

 

 

 アッサムから返って来た辛辣な一言に、ラブはそれ以上何も言えなかった。

 だがこんなちょっとしたやり取りにもダージリンとアッサムの二人の付き合いの長さが垣間見え、それが妙に可笑しく感じられるラブであった。

 

 

 

 

 

「あなたにしては随分と可愛らしいデザインのキャミねぇ……」

 

 

 一応決められている消灯時間も近付き着替えを始めたラブ達だったが、彼女の着替えの手伝いを始めたダージリンとアッサムはラブが持ち込んだ寝巻き代わりのゆったりとしたキャミソールが、どちらかといえばオレンジペコ辺りに似合いそうな物である事を意外に感じていた。

 

 

「変かしら……?」

 

「そんな事はなくってよ…ただ意外に思っただけ……」

 

「そう……」

 

 

 彼女が余裕を持って身に着けられるという事は間違いなく特注のオーダーメード品だろうと容易に予想出来たが、そのデザインが彼女らしからぬ物である事に二人は違和感を覚えていた。

 

 

『これってやっぱりあの愛さんの趣味かしら……?』

 

『解からないわ…でもちょっと違う気もするわね……』

 

 

 ダージリンとアッサムは小声でそんな事を話していたが、真相は全く違う理由にあった。

 日頃は何も身に着けぬラブにとって普通のパジャマは特注でも窮屈極まりない物であり、そんな彼女の為に秘密裏に用意されたのが今回のキャミソールだった。

 デザイン的に可愛らしさを強調した物になっているのは、いつもの大人っぽ過ぎる彼女のインナーのようなデザインでは周囲に与える刺激が強過ぎるからという配慮からであった。

 だがそれでもラブが身に着ければ途端に色っぽく見えてしまう辺り、その配慮もあまり功を奏しているとは言い難かった。

 

 

「さぁいいですわ……」

 

「ん…ありがと……」

 

 

 キャミソールを着せてその真紅のロングヘアをざっくりと三つ編みにしてやれば、彼女の寝支度も何とか整いダージリンはベッドの淵に腰を下ろしたラブの背中を軽く叩いてやるのだった。

 そんなダージリンにラブが短く礼を言えば、ダージリンはそのまま今度はそっとラブの左肩に今も残る生々しい傷痕をそっと撫で続けていた。

 

 

「さ、こちらにいらっしゃい……やり方は事前に愛さんから聞いているから寝る前にマッサージとストレッチをしましょう」

 

「ん…解かった……」

 

 

 アッサムに促されラブは這うようにベッドの上に上がると、まずは腹ばいに横になった。

 二人の気遣いを素直に受け取るラブは、何とも心地良さ気に目を細めている。

 

 

「二人掛りなんて贅沢ね……」

 

「そうかしら?」

 

「えぇそうよ…でも良かった……」

 

「ん?何がですの?」

 

 

 横になったラブの両側で、彼女にマッサージを施していた二人が不思議そうに顔を見合わせる。

 

 

「…経緯はどうであれ二人の卒業前にこんな時間が持てた事よ……」

 

『あ……』

 

 

 力の抜けた声でラブが言った事に二人はハッとした。

 ラブの言う通り彼女達に残された高校生活は、いよいよ秒読みの段階に入っていたのだから。

 

 

 




ラブの聖グロ留学編はある意味一番書きたいエピソードでした。
何しろダー様に関するネタがいっぱい思い付いていますのでwww
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