ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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今回の冒頭は今までと少し違うスタイルにしてみました。

しかしサブタイトルは全然意味がないなぁw


第三十九話   浸透強襲梅こぶ茶

 皆様ごきげんよう、私は聖グロリアーナ女学院戦車隊の隊長を務めるルクリリと申します。

 本日は我が校にAP-Girlsのラブせ……いえ、厳島様が短期留学された際の顛末についてこのルクリリからお話しさせて頂きたく思います。

 え?こういう事はダージリン様かオレンジペコの役処だろうって?

 はぁ…まぁ仰りたい事はご尤もですしよく解かります、解かるのですが、現在肝心のダージリン様はただのポンコツに成り下がっておりますし、アッサム様もローズヒップを連れて現実逃避の旅に出ておられましてね……ペコに至ってはいつの間にか姿を消している始末でして……ったくペコの野郎さっさとケツ捲くりやがって…大方大洗にでも逃げ込みやがったんだろう、あのちゃっかり者め後で覚えてろ……あ、いえ失礼こちらの話ですので気になさらないで下さい……それでは気を取り直して我が聖グロ戦車隊に何が起きたかお話したいと思います。

 

 

 

 

 

「コイツ等……」

 

 

 早朝金縛りに似た感覚と息苦しさと妙な開放感で目を覚ましたラブは、唯一自由になる首を左右に振るとわが身の置かれた状況を即座に理解したのであった。

 一体どうやって部屋に入れたのかすら謎なサイズのベッドでダージリンとアッサムの二人に挟まれる形で眠りに付いたラブであったが、果たしていつ頃からそうしていたのか二人揃って示し合わせたように彼女に抱き枕宜しく両側から抱き付いていたのだ。

 しかも暖かい毛布の中とはいえ彼女が身に着けているキャミソールはご丁寧に胸元まで捲り上げられ、重力に負けずに山脈を形成するたわわが丸出しになっていた。

 

 

「うふん……♡」

 

「おい……」

 

 

 未だ夢の中にいるらしいダージリンは一体どんな夢を見ているのかラブに抱き付いたまま、毛布の中で彼女の弾力性抜群な左側のたわわにスリスリと頬擦りをし始めた。

 そしてその反対側ではアッサムが右のたわわをモミモミしており、そのまま放っておけば二人揃って黒森峰留学時の時のまほと同様にちゅ~ちゅ~しだすのは確実だった。

 

 

「二人共ホントにまだ寝てるの……?」

 

 

 ガッチリ抱き付かれ全く身動きの取れぬ事にイライラし始めたラブは、二人に絡め取られた両の腕がそれぞれの太股の間に挟まれている事に気が付いた。

 

 

「コイツ等マジか……?って事は……」

 

 

 微かに指先を動かし両手のポジションを確認したラブは、自分の両手が二人の秘部に押し当てられている事に気付き死んだような目をしていた。

 

 

「……」

 

 

 だがいつまでもそうしている訳にもいかず、ラブもあまりよく回らぬ頭で打開策を考え始めた。

 

 

『ええと…こういう時は……やっぱ絹代さん直伝のアレか……』

 

 

 ラブがまだ若干眠たげだった瞳を一旦閉じると、次の瞬間カッと目を見開き知波単の西絹代ばりのキリリとした目付きで例のセリフを叫んでいた。

 

 

「吶喊!」

 

 

 そしてその叫びと共に、彼女は長くしなやかな両手の中指をクイっと勢いよく折り曲げた。

 

 

『ふぁっ!?』

 

 

 すると今度はダージリンとアッサムの二人が揃って大きく目を見開き、悲鳴とも何ともつかぬ妙な声を上げたのだった。

 

 

「なっ!?ら…ラブ、あなた一体何を……!?」

 

「目ェ覚めたか……?」

 

「中指第二関節まで一気になんてラブも結構大胆なのね……でもそういうのも嫌いじゃないわ♡」

 

「コイツも大概だな……」

 

 

 いとも容易くディフェンスラインを突破され内股で秘部を押さえ悶絶するダージリンと対照的に、アッサムはポッと赤らめた頬に両手を添えまんざらでもなさそうしている。

 朝っぱらから抱き付かれた上にそれぞれの最も敏感な場所に我が手を押し当てられていたラブは、怒りに任せて両手の中指をアッサムが指摘した通り中指の第二関節まで秘密の渓谷の奥深くまでかなり強引に吶喊させていたのだった。

 

 

「ねぇ、いつまでそうしているのよ?い~加減離れてくれない?」

 

 

 腕こそ離しはしたが未だ二人は両側からラブにピッタリと身体を密着させた状態にあり、これまでの経緯からして彼女もかなりうっとおしく感じていた。

 

 

「も、もう少しくらい余韻を楽しませなさいよ!」

 

 

 完全に開き直ったダージリンが、アホな戯言をぬかしながら尚もラブに肢体にしがみ付く。

 

 

「えぇいうっとおしい!私を抱き枕にしていいのは愛だけよ!」

 

「あっ!このおっぱいしれっと何か言い切りやがりましたわ!ちょっとぐらいいいじゃない!減るもんじゃないんだから私達にもこの感触を味あわせなさいよ!」

 

「わたしのおっぱいは公共物じゃない!」

 

「なによケチねぇ!」

 

 

 まだ完全に夜も明け切らぬうちからポンコツ極まりないダージリンと、もう一度やって欲しそうにラブの脚に自らの脚を絡めるアッサムに業を煮やしたラブは強引に上体を引き起こした。

 

 

「ったくばっちぃ…・・・」

 

「失礼ね!」

 

 

 背後から返って来たダージリンの抗議の声をあっさり無視して、キャミソールが捲れ上がったままのラブは嫌そうな顔で手を洗うべく部屋備え付けのミニキッチンへと向かって行った。

 こうしてラブの聖グロ留学初日の朝は、些か下品に始まったのだった。

 

 

 

 

 

『ほんと大きいですわ……』

 

『ツンツンしたらどんな感触なんでしょう?』

 

『私はあの御御足で踏まれたいですわぁ♡』

 

『とんでもない変態がいますわ』

 

『しっ!聴こえますわよ!』

 

 

 形式上クラス担任に連れられホームルーム前の教室へと向かうラブに、各教室の廊下に面した窓越しに彼女への好奇の視線と声が飛び交っていた。

 

 

「あはははは……」

 

 

 それらに全く気付かぬフリで前を行くクラス担任の背後で、ラブはどう反応すべきか困ったように笑いながら後に続いて歩き続けていた。

 しかし一般の生徒達にとっては、聖グロ戦後のライブなどの時より遥かに間近に見るラブのスタイルは衝撃的であり、そんな騒ぎも無理なからぬ事かもしれなかった。

 何しろ既存のサイズでは如何ともし難く、特注で作られて尚パッツンパッツンな彼女のニットのセーターの胸周りは、ガン見するなというのが無理な注文な程主張が激しかったのだから。

 それでも教室に辿り着けば用意された席は左右をオレンジペコとローズヒップに挟まれており、ラブの為に臨時に席替えされたらしいその席順は彼女をにっこりさせていた。

 そして始まった一般教科の授業では例によってラブの人間離れした才能が遺憾なく発揮され、各教科の担任教師をパニックに陥れたのだった。

 特に数学と英語の授業では完全に教科担任を圧倒し、音楽の授業ではその特徴的なハスキーボイスとピアノテクニックで感動した教科担任を大泣きさせていた。

 

 

「そういやイギリスでおいしい料理を食べたいのであれば、朝食を一日三回食べよ…だっけ……?」

 

「あのぉいつく……ラブ姉──」

 

「何を仰っていますのペコさん、違いますわ!」

 

「ひゃっ!?」

 

 

 教科毎に波乱を起し午前中の授業を終えたラブは、学食でそれが一番無難であろうとチョイスしたサンドイッチのランチセットをパク付いていた。

 だがそんな彼女にオレンジペコが声を掛けようとすると、途端にラブが完全にローズヒップの口調を真似てそれを遮った。

 

 

「ペコさん?今の私には()()()()というダージリン様から賜ったティーネームが御座いますのよ!?ですから私に声を掛ける時には梅こぶ茶と呼んで下さいまし!」

 

「う゛ぅ゛……」

 

 

 無駄にレベルの高いローズヒップの喋り口調のコピーに、オレンジペコは彼女が二人に分裂したような錯覚に囚われ眩暈を覚えるのだった。

 

 

「さすが梅こぶ茶!完璧な淑女の言葉遣いを早くもマスターしていますわ!」

 

「まぁ♪ほんとですの!?」

 

「…やめて下さい……」

 

 

 天然なローズヒップと完全に悪乗りで面白がっているラブにオレンジペコが力なく抗議するが、その声が二人に届く事がないのは彼女にも解かっていた。

 

 

「…早退したい……」

 

 

 そんな彼女の思いとは裏腹に午後からはいよいよラブの短期留学の主目的である戦車道の訓練が控えており、それを前にして珍しく弱音を吐くオレンジペコであった。

 

 

「ごちそうさまでした……」

 

 

 それでもなんとかラブと同じサンドイッチのランチを完食したオレンジペコが、少しでも一人で残りの昼休み時間を休息に当てようと一足早く席を立とうとしたその時、それまでローズヒップと二人似非お嬢様言葉での会話に興じていたラブが不意打ちのように彼女に声を掛けた。

 

 

「ねぇペコさん!私ペコさんにお願いしたい事がございますの!」

 

「はいぃぃぃ?」

 

 

 既に精神的に疲れていたオレンジペコはラブのお願いという言葉に、残りの昼休みも消し飛んだ事を予感し露骨に顔をしかめ疑いの目をラブに向けてしまうのだった。

 

 

 

 

 

「な…なんという……」

 

「よ、予想はしていましたがこれはそれ以上ですわ……」

 

「それにしてもあれは一体……」

 

 

 昼休み明けの戦車道の訓練開始前、格納庫から引き出され整然と並べられた戦車の前に整列を始めた聖グロ戦車隊の隊員達であったが、やはりお約束通り彼女達の視線は漏れなくラブのタンクジャケット姿に集中していた。

 オーダーメイドであり余裕があるはずだが、今にも金ボタンが弾け飛ぶのでは思える程真紅のタンクジャケットの胸元は張り詰め、黒のミニスカートの下でスラリと長い脚とオーバニーソックスが形成する絶対領域に淑女であるはずの隊員達は揃って息が荒かった。

 

 

「……」

 

 

 毎度の事ながら集団セクハラに晒されるラブも、自身に集中する好色な視線に言葉が出ない。

 だが今回視線を集めるのはそれらの服装だけではなく、その髪型も原因の一つになっていた。

 今の彼女の髪型は高く結って尚腰に届くいつものポニーテールではなく、ダージリンやオレンジペコ同様ギブソンタックに結い上げられていたが、その長さ故か彼女の依頼でその髪を結ったらしいオレンジペコは余程大変だったと見えて一人げんなりしていた。

 

 

「コラぁ!何をやっている!何故整列しておらんのだぁ!?」

 

「あ……ルクリリ様」

 

「隊長……」

 

 

 昼休み中ニルギリに補佐して貰い、訓練開始直前まで隊長としての雑務をこなしていたルクリリがようやく姿を見せた頃にも隊員達の整列が完了しておらず、思わず叱責の声を上げたのだった。

 

 

「あ、ルクリリさまぁ♪」

 

「い゛ぃ゛…!?ラブ先輩……?」

 

 

 真紅のタンクジャケットに包まれた規格外のたわわをユサユサと揺らしながらラブがルクリリの下へと駆け寄って行けば、彼女のエロ過ぎるタンクジャケット姿とダージリン頭にルクリリと影の如く彼女に従って来たニルギリが固まっていた。

 

 

「あら?違いますわ、今の私は梅こぶ茶で御座いますわよ?ルクリリ様♪」

 

「ルクリリ様て……」

 

 

 彼女からすればこうして話すだけでも奇跡のような相手であるラブにルクリリ様と呼ばれ、思わず頭を抱えるルクリリは恨めしそうにその視線をダージリンへと向けた。

 

 

「頭が痛くなって来た…あの人はなんでこう次から次へと迷惑の種を蒔くんだ……」

 

 

 今回もダージリンが過去に蒔いた種が最悪なタイミングで芽を出した為、運悪く隊長となっていたルクリリは結果としてその巻き添えの渦の中心に立つ破目になったのだった。

 ラブの弾けるような笑顔と今にも胸の金ボタンを飛ばしそうな程揺れるたわわを前に、今日から三日間の事を考えれば嫌な予感しかせず頭痛を覚えるルクリリだった。

 

 

「さあルクリリ様!訓練の時間でございますわよ!」

 

「お願いだからその喋り方止めて……」

 

 

 囁くような声でもルクリリのささやかな願いは聞こえているはずなのに、ラブはそれを完全に聞こえないフリでやり過ごし整列を始めた隊員達の方へと走り去って行った。

 

 

「帰りたい……」

 

「ルクリリ様……」

 

 

 ガックリと肩を落とすルクリリに、ニルギリはどうする事も出来ずただオロオロするのみだった。

 だがそんな状態であっても隊長としての職務は待ってはくれず、ルクリリはやっと整列を終えた隊員達の列に向けてトボトボと歩を進め始めた。

 

 

 

 

 

「それではこれより訓練を開始するがその前に改めて紹介する…今日から三日間短期留学生として戦車道の訓練に参加するいつく……えぇと…その……」

 

 

 整列した隊員達に向けて訓練前の訓示を始めたルクリリであったが、いざその名を口にしようとするとどうにもそれが躊躇われ口篭ってしまうのだった。

 

 

「まぁ!?どうされたのですかルクリリ様?早く私を皆様に紹介して下さいまし!」

 

「…もう許して……」

 

 

 彼女の隣に立ち自分の出番を待っていたラブがそのタイミングを逃すはずもなく、すかさず目を輝かせてローズヒップ直伝の喋り口調でルクリリに絡み始めた。

 

 

「皆様!私は梅こぶ茶!梅こぶ茶でございますわ!」

 

『ぶふぉっ!』

 

 

 更に間髪入れずにラブが名乗りを上げれば整列していた一、二年生達が一斉に吹き、ルクリリの背後で引退してはいるが訓練には顔を出している三年生達も同様だった。

 だがその三年生の中でそもそもの原因を作ったダージリンだけが独り死にそうな顔をしていたが、チラリと背後に目をやったルクリリはそんな彼女の様子に心の中で思わず毒づくのであった。

 

 

『誰のせいですか誰の……』

 

 

 しかしいつまでもそうしている訳にも行かずルクリリは必死に隊長としての表情を取り繕うと、笑ってはいけない聖グロリアーナ中の隊員達に向け訓示を再開した。

 

 

「と、とにかく……う、梅こぶ茶にはぁ──」

 

『ぶふぉっ!』

 

 

 何とか話を進めようと努力するルクリリだったが盛大に噛んだ上にその声は完全に裏返り、それが更なるカオスを呼び訓練前の訓示は完全に笑いの地獄と化していた。

 

 

「ゼェゼェ…う、梅こぶ茶はクルセイダー隊への配属が決まっている……だが他の隊の者も彼女から学べることは多いはずだ、それを忘れず訓練に勤しむよう留意せよ」

 

『はい!』

 

 

 肩で息をするルクリリが何とか訓示を終えれば今度は部隊毎のミーティングが始まり、ラブはローズヒップと共にクルセイダー隊のミーティングに参加していた。

 

 

「皆さん宜しくて!?今日から三日間梅こぶ茶が私達クルセイダー隊の隊長ですわ!」

 

「了解ですわ!」

 

「歓迎しますわ梅こぶ茶!」

 

 

 順応性が高いのかそれとも単にローズヒップ同様お頭が大洗・アンツィオ枠なのか、クルセイダー隊の隊員達は誰一人梅こぶ茶の名で吹く物はおらずローズヒップの紹介に歓迎の意を示していた。

 可愛くて元気の良いクルセイダー隊のメンバーに囲まれて、ラブもご機嫌でそれに応えている。

 

 

「本当にこれで宜しいんですの?」

 

「ええ構わないわ…聖グロリアーナも変革の時を迎えている、これも云わばその変革の一つ……ラブにはその起爆剤になってもらうつもりですの」

 

 

 賑やかなクルセイダー隊の様子にアッサムがどこか含みのある声音で問えば、ダージリンも意味あり気な笑みを浮かべながらすっと目を細めそれに答えた。

 多くを期待されながらもやはりそれ以上の旧弊な制約により優勝が叶わなかったダージリンであったが、引退した後もあれこれと画策しては影で動く彼女にアッサムは尚も問うような目を向けた。

 しかしその程度で簡単に口を割る彼女ではなく、わざとらしく溜め息を吐いたアッサムは改めてダージリンに問うのだった。

 

 

「ねぇ、本当にそれだけ?」

 

「…賑やかな連中は一つに纏めておけば他が静かでいいですわ……」

 

 

 ラブを聖グロに引っ張り込んだはいいが嘗て自分が使ったネタを忘れずに温存して使って来る彼女を持て余したダージリンは、何かと騒がしいクルセイダー隊と一つに纏める事で他に累が及ばぬと実に安易な解決策を取った事を白状していた。

 

 

「浅はかな…後悔するわよ……」

 

 

 説明は終わったとばかりにアッサムに背を向けたダージリンに小さく呟くアッサムの声は果たして届いたかは解からぬが、その呟きはさして時間が掛からぬうちに現実となるのだった。

 だがアッサムもそれがどれ程の規模の災厄となるかまでは、さすがに想像は出来なかった。

 

 

 

 

 

「わんつ~すり~ふぉっ♪」

 

 

 元は弾薬の入っていたであろう木箱の上に立ったラブが、タクト(指揮棒)代わりなのか折れた無線機のアンテナらしき物を振って合図を出すと、その彼女の前に整列したクルセイダー隊のメンバー達がAP-Girlsの発表されて間もない新曲を歌い始めた。

 

 

「アレは一体何をやっているの……?」

 

「しっ!目を合わせてはダメよ!」

 

 

 各隊演習場へ向かうべくそれぞれが点検を終えた戦車に搭乗を始める中、ラブを臨時の隊長としたクルセイダー隊だけが呑気に格納庫の片隅で合唱を始めていたのだった。

 

 

「え~?でもちょっと羨ましくない?」

 

 

 ルクリリが隊長に就任後部隊の再編中である為に、適正の見極めで仮にマチルダ隊に配属された一年生隊員達がチラチラとラブを中心に盛り上がるクルセイダー隊の方を見ていた。

 ダージリンとアッサムにラブと幼馴染みと言ってもいい程古くからの付き合いがあるため、一般的な戦車道履修校の生徒に比べればラブに会う機会が多い彼女達にしても、彼女とあそこまで距離なしで一緒に歌う機会などはまず無く、羨ましがるのも無理のない事であった。

 

 

「コラぁ!そこで何をグズグズやっている!他の車両はもう進発しているぞ!」

 

「あ、ヤバっ!」

 

「は、はい!今直ぐ出ます!」

 

 

 目立たぬようにしていたつもりでもルクリリにはバレバレであり、すかさず飛んで来た彼女の叱責の声に一年生隊員は転がるようにマチルダに乗り込んで行った。

 

 

「全くしょうのないヤツ等だ…それにしても……」

 

 

 ダージリンからラブのやり方に任せるよう言い置かれていたルクリリであったが、クルセイダーに乗り込む処かエンジンを始動させる気配もない彼女にさすがに心配そうな顔をしていた。

 だが背中に目が付いているのかラブはタクトを振りながらクルっと振り向き、ルクリリに思わずドキリとするような極上の笑みを投げ掛けるのだった。

 

 

『うっ…この(ひと)はまた……』

 

 

 ものの見事にハートを打ち抜かれたルクリリはその場で腰砕けになりそうになったが、直ぐ傍らにニルギリが控えている事を思い出し寸での処でそれを堪えていた。

 

 

「ルクリリ様?」

 

「い、いやなんでもない…クルセイダーの連中はダージリン様からもラブ先輩に任せるよう言われているのだから、その通りにして我々も演習場に向かうとしよう……今日はクルセイダー隊は直ぐに動かぬようだから先行偵察の役割はニルギリ、お前のクロムウェルに任せたいがいいか?」

 

「はい!お任せ下さい!」

 

 

 ラブの笑みにルクリリがやられている事を見抜いていたニルギリであったが、そのルクリリに頼られた事であっさりと瞳をキラキラさせて従う辺りが何とも可愛いかった。

 そしてそんな感じで些かグダグダに始まった訓練にラブ指揮下のクルセイダー隊が参加したのは結局最後の一時間程度であったが、それもAP-Girlsさながらに隊列を組んで歌いながら走り回るだけで直接訓練に参加する事はなかった。

 

 

 

 

 

「そう…今度はそっち(聖グロ)にラブ姉が行ってるんだ、ルクリリも苦労するわね……」

 

『ああそうなんだ…全くダージリン様の思い付きには本当に毎度苦労させられるよ……』

 

 

 電話の向こうで同情した口調で労うエリカに、ルクリリも心底困ったように応じた。

 あまり公にはしていないがラブの帰還後、嘗て彼女に教えを受けた者達もかなり密に連絡を取り合うようになり、特に近しいポジションにあるエリカには他の者から報告が来るようになっていた。

 訓練参加初日の夜、現にこうして同じ隊長同士最近連絡を取り合う事が増えているルクリリから、ラブが聖グロに短期留学中である事を知らせる電話が掛かって来ていたのだった。

 

 

「でもそれだけのイベントによくあの口煩い聖グロのOGが口出しして来ないわね?」

 

『いや…だってそこはホラ、相手があの厳島だもの……ウチのOG程度じゃ相手にならないでしょ?』

 

「……愚問だったわね」

 

 

 いくら短期留学中の部外者とはいえ、自分の事でダージリンを始め親しい者達に累が及ぶとなれば、日頃家の力を行使する事のないラブでも何をするかちょっと想像が付かないエリカだった。

 

 

『まぁウチのOGも厳島相手にケンカ売る程馬鹿じゃないとは思うけどね……』

 

「ははは……」

 

 

 ルクリリの口ぶりから聖グロOG会各派の伏魔殿ぶりが窺え、エリカの口からは乾いた笑いが零れてしまうのだった。

 

 

「それで今日のラブ姉は何を?」

 

『え?あぁ、今日のラブ先輩ね…ダージリン様から一任されてクルセイダー隊の隊長として訓練を始めたんだけどねぇ……』

 

「けど……?」

 

 

 今日のラブの動向を尋ねれば何処か歯切れの悪いルクリリに、エリカが先を促せば電話の向こうで少し唸った後にルクリリは言い難そうにポツポツと話し始めるのだった。

 

 

『う~ん…それが訓練の時間中殆どクルセイダー隊と一緒に歌ってたのよ……』

 

「歌ってた……」

 

『そう…歌ってたのよ……ラブ先輩のやる事だから必ず意味があるんだろうけどね……』

 

「そうね……」

 

 

 ラブが何を意図しているか二人共何となく頭の何処かで解かっているような気もしたが、何しろ相手があのラブであるだけにそれ以上その話はしない事にした。

 

 

「あ…そういえば聖グロで小隊長と云えばさ、普通はティーネーム持ちが勤めるんじゃないの……?ダージリン先輩の事だからもしかして何か特別な名前でも用意してたんじゃない?」

 

『ぶふぉ!そ…それはぁ……ゲホゲホ!』

 

「ど、どうしたのよ大丈夫!?」

 

 

 自分が特大の地雷を踏み抜いたとは露知らぬエリカが、突然咽こんだルクリリに驚いている。

 

 

『…お、驚かせてすまない……』

 

「ちょっと、本当に大丈夫?」 

 

 

 やっと落ち着いた様子のルクリリを気遣うエリカだったが、彼女の呼吸はまだ荒く、電話の向こうで肩で息をしているのが手に取るように解かった。

 

 

「でもそんなに慌てるなんてダージリン先輩は余程のビッグネームを用意してたのね…今聖グロのティーネームで空位なのは……あ!まさかアール──」

 

『そうじゃないの!』

 

「え……?」

 

 

 それもある意味正解ではあるが深読みしたエリカの予想を遮るようにルクリリが声を上げ、エリカは再び驚きそして戸惑うのだった。

 

 

『いや…それもあるけどそうじゃないのよエリカ……実はね──』

 

 

 何とも疲れ切った声でルクリリが後からアッサムに聞いた笠女学園艦での梅こぶ茶の話の顛末は、エリカも以前まほとみほそれぞれから聞かされ知っている話であった。

 しかしそんなネタをこの機会を逃さずぶっ込んで来るラブの性質の悪さに、彼女まで何とも言えない疲労感を覚えていた。

 

 

「梅こぶ茶……」

 

『本当にあの人は……』

 

「そういう攻撃のチャンスは絶対逃さない人よね……」

 

 

 他の者なら大笑いするかもしれないがラブと親しく関わっていれば明日は我が身な話であり、エリカはルクリリの身に降り掛かった災難を笑う事が出来なかった。

 美しくて可愛くて優しい憧れの(ひと)、しかしそのエキセントリック且つフリーダムな性格と最強にして最凶な戦車乗りとしての実力は彼女達にとって恐怖の対象でもあったのだ。

 口は災いの元、ルクリリから聞かされたダージリン自爆の報にそんな諺を思い出したエリカは、ラブの前での発言にはくれぐれも気を付けようと心の中で誓うのだった。

 

 

『そうね…本当に楽しそうだもの……まぁ今日はそんな処よ……また連絡するわ』

 

「了解……今日は早く休みなさいよね、でないとラブ姉相手に後二日持たないわよ?」

 

『…頼むから気力が萎えるような事言わないでよ……』

 

「あ、ゴメン……それじゃあね、お休みルクリリ」

 

『ええ、お休みエリカ……』

 

 

 思わず笑いそうになるのを堪えながら通話を終えたエリカは寮の自室で一つ伸びをすると、肩にスポーツタオルを掛けシャワールームへと入っていった。

 ルクリリから電話が来た時日課であるボクササイズを終えたばかりだったので、完全に身体が冷える前に熱いシャワーで汗を流したかったのだ。

 

 

「ふぅ…それにしても相変わらず容赦のない(ひと)ねぇ……」

 

 

 シャワーを浴びながら人心地付いたエリカの洩らした呟きは彼女の嘘偽りないラブへの評価であったが、彼女の頬が上気しているのは熱いシャワーだけのせいではないだろう。

 

 

「でも懲りずにラブ姉とずっと付き合ってる人達って結局みんなドMなんじゃないかしら……?」

 

 

 クスクスと笑いながらシャワーを浴び続けるエリカの美しく引き締まった腹筋を流れ落ちるボディーソープの泡は何とも艶かしく扇情的で、もしその場に誰かいれば理性を保つ事など出来はしない程のエロスを誇っていた。

 

 

 




冒頭の語り役は実際初稿ではオレンジペコが勤めていました。
でも何処かしっくり来なくてルクリリにバトンタッチさせましたが如何でしたか?
自分としてはこの方が面白いと思ったのですが、
果たしてどっちがよかったのかちょっと読まれた方の反応も気になる処です。

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