それが彼女の常套手段である事はそこに集う者達も長年の経験からよく解っていた。
そしてそれに反応すればそれこそ彼女の思うツボである事も重々承知していた。
だが世の中には解っていてもやってしまう失敗というものが確実に存在し、彼女達はこれまでその失敗を幾度となく犯して来たのであった。
「オマエ今度は何始める気だよぉ…?ってかオマエ等も何でそんなに沸点が低いんだ……」
この場にいる事自体が彼女の策略であるとも知らずノコノコとAP-Girlsの新設校リーグ戦優勝記念パレードを見物に来ていたいつものメンツであったが、パレードが始まって早々の挑発行為にいともあっさりと彼女達は釣られていた。
だがその中にあってアンチョビだけが只一人渋柿でも喰ったような表情で、心底めんどくさそうにLove Gunのコマンダーキューポラに収まるラブを見上げていた。
「ったくこの間のチョコといい今日といい──」
「千♡代♡美♡ちゃ────────ん!」
しかしアンチョビがラブにその真意を質そうとしたその時、Love Gunの露払いを務めていたオープンのパトカーの助手席に収まっていた英子が振り返ってブンブンと手を振りながら彼女の名を全力で呼び、結果的にそこで思い切り話の腰を折ってしまうのだった。
「英子さぁん……あ、オイ待て!」
さすがに予想しなかった不意打ちにアンチョビがズッコケてまほが死にそうな顔をしている間に、ラブが進発の命を下し隊列はその場からサッサと立ち去ってしまっていた。
『いや~さすが英子さん、ナイスアシストだわ♪これ以上はないってタイミングで見事にボケる辺り期待を裏切らない人ね!』
沿道の両側の人垣に向け微笑みながら手を振るラブは、『可愛い千代美ちゃん』の前で隊列を止めた事で英子が軽く暴走したのはさすがに想定外であったらしく、笑いを堪えるのに苦労していた。
だが結果的にそれが彼女の企ての後押しもしており、その事も笑いを誘う一因であったが、思いがけぬ援護射撃に仕込みがより一層上手く行き上機嫌であった。
『なんだかなぁ……』
綺麗な等間隔の一列縦隊で進む隊列の丁度真ん中、ブルー・ハーツのコマンダーキューポラ上の夏妃は沿道の両側を埋める群衆に向け犯罪レベルで可愛らしい笑顔で愛想を振り撒きながらも、その内心ではラブの始めた次なる企てと仕込みに半ば呆れ前を行くその背中を見ていた。
そして短く呟いた夏妃は直ぐ後ろに着けるイエロー・ハーツ上の凛々子にチラリと目をやると、彼女に向けて後ろ手でハンドサインを送り始めた。
「何よあれ…無線の周波数を変えろですって……?」
夏妃が送ったハンドサインは無線の周波数を変える要請とその周波数を伝えるものであり、それを読み取った凛々子はほんの一瞬夏妃の背中を睨み付けると、イエローハーツの通信手である
「あまり長々としゃべるんじゃないよ……」
「私に言わないでよ!」
寧に気だるげな声で釘を刺された凛々子は不満げに言い返すと、ひと呼吸置いてから咽頭マイクに手を添え通信回線を開いたのであった。
「何よ……?」
凛々子もまた愛想を振り撒きつつ、声のトーンだけを下げ剣呑な口調で夏妃に呼びかけた。
『…なぁ、あれでいいのか……?』
無線越しに返って来た声は彼女にしては珍しくはっきりとしないもの言いな上に、声援に応える合間に見えた横顔には微かながらも困惑の色が浮かんで見えた。
「…私に聞かないでよ……」
少ない言葉数ながらもそれだけで夏妃が何を言いたいか解る凛々子だったが、少し言葉に詰まった後に答えた彼女もまたそれ以上の事が言えなかった。
『まぁそうだろうけどよぅ…にしてもだ……あの人達は何でいつもああも簡単に釣られるんだ?』
「…私に聞かないでよ……」
昨年の秋以降半年に満たぬ僅かな期間ながら、夏妃を始めAP-Girlsのメンバー達が見て来たラブの愉快な仲間達の釣られっぷりは最早呆れるを通り越し感心するレベルであった。
例えその根底にあるのがやっと自分達の下へと戻って来た彼女の望みを全て叶えてやりたいという思いがあるにしても、やはりものには限度があるだろうと夏妃は感じていたようだ。
「だけどいくらなんでもあの釣られ方はねぇだろ?言っちゃ悪いがあれじゃ只のバカだぜ?凛々子だってそう思わねぇか?」
「…だから私に聞かないでって言ってるじゃない……」
『二人共もうその辺にしておきなさいよ』
寧が釘を刺したにも拘らず話が長くなりかけたその時、二人の交信の割り込む声があった。
「鈴鹿!?聞いていたの……?」
隊列の最後尾、クールな笑みで黄色い歓声を集めていた鈴鹿にも夏妃のハンドサインは見えており、彼女は二人に気取られぬよう注意しながらブラック・ハーツの通信手である
『周りの目があるんだからあまり大っぴらにやるんじゃない…それにラブ姉の気持ちも察してやりなさいよ、おそらくはこれが最後になるんだから……二人だってそれ位は解ってるんでしょ?』
「それは……」
「まぁ……」
鈴鹿の指摘は図星であり二人も返す言葉がない様子だが、鈴鹿はそれに構わず話を続ける。
『ラブ姉があの人達と同じ高校生として試合が出来るのは卒業までの残り時間を考えると、タイミング的に考えて今を置いて他にないわ…ま、毎度の事とはいえ確かにあのやりようは私もどうかと思うけどさ……特に今回は晶達も巻き込むんだからなおさらね……』
言うだけ言った鈴鹿は話の最後を締めるように肩を竦めると、口調を変え前方で顔を見合わせる夏妃と凛々子に注意喚起をするのだった。
『さ、二人共今度こそパレードに集中しな……そろそろマジでラブ姉が気付くよ?』
鈴鹿の最後の言葉にハッとした二人は今度こそ交信を終えると、互いに目配せして沿道に並ぶ群衆からの声援に応える事に集中するのだった。
「アイツ戻って来た時は徹底してガン無視決め込んでいやがったな…英子さんまで澄まして通り過ぎて行ったしアレは事前に打ち合わせでもしてやがったのか……?」
『……』
パレードの隊列が市街地中心部に近付くにつれ歓声も波のように押し寄せ、それでAP-Girlsが戻って来た事も直ぐに解ったが再びラブが彼女達の目の前を通過した時、今度は先程とはうって変わってそこに彼女達がいないかのようにラブは振る舞っていたのだった。
彼女のその態度にはさすがにアンチョビもカチンと来たらしく、その目が据わっていた。
「…それはともかく、この人出はただ事ではありませんわね……この様子だと私達も直ぐには帰れそうにありませんわ……」
エリカの手配で笠女のスーパースタリオンでピックアップされた彼女達はそれが既にラブの仕込みだと気付かぬままいつもの笠女学園艦内の宿舎に前泊していたが、周囲の混み具合を考えると直ぐにベースに戻る事も出来そうになく、小洒落たデザインのドレスウォッチに目を落としたアッサムが帰艦の時間が読めぬ事に溜息を吐いていた。
「さすがにもう一泊って訳に…いやエリカ、解ってるよ……」
放って置けば後先考えずに平気でもう一泊しそうなまほをエリカが白い目で一瞥して黙らせたが、実際この調子ではアッサムの言う通り帰りが何時になるか解らなかった。
「これじゃベース前のあの店でソフトクリーム食べるのも無理そうだわ!」
どうやらそれを楽しみにしていたらしいカチューシャは、人混みに埋もれぬようノンナに肩車されながら残念そうに周囲を見回していた。
「あら?あの子達は……」
パレードは終了したがまだ交通規制が解除されておらず、混み合う歩道に比べ車の通らぬ車道側はガラガラの状態であった。
その車道を自分達の方へと迷う事なくぞろぞろとやって来る、笠女の制服の一団の顔ぶれにカチューシャは見覚えがあった。
「どうかしましたカチューシャ様?」
カチューシャを肩車するノンナに問われた彼女は、手をかざし改めて接近する笠女の生徒達の顔ぶれを確認すると腕組みをして不思議そうに呟いた。
「なんか笠女の子らがこっちに来るんだけど、確かあの子達は生徒会執行部じゃなかったかしら?」
「生徒会執行部ぅ?あの結依揮下のエリート部隊の?Why?なんであの子達がこんな所に?」
「私に分かる訳ないでしょ!」
大学選抜バミューダトライアングルの一角であるメグミにぞっこんな笠女の生徒会長である
「ええと君達は……?」
目の前までやって来た少女達に、まほは歩道と車道を仕切る柵越しに、やや困惑気味に声を掛けた。
「お迎えに参りました。さ、どうぞこちらに♪」
先頭に立つ少女がパチリと指を鳴らせば、背後に控える生徒会執行部の腕章を付けた少女達がまほの前の柵を手際よく撤去し始める。
「え?おい…君達……!?」
「大丈夫、許可は得ていますし直ぐに元に戻しますから……それより間もなく交通規制が解除されて一般の車両の通行が始まりますのでお急ぎ下さい」
「え?あ?おいぃ……!」
驚くまほを他所に彼女の手を取ったリーダーらしき少女は彼女の腕に自分の腕を絡めると、そのまままほの腕をグイグイと自身のたわわの谷間に押し付けるのだった。
だがそれはまほだけに限った事ではなく、その場にいた者達全員があっという間に生徒会執行部のたわわな美少女達に包囲され彼女と同様な状態で連行されて行くのだった。
「うひゃあ!お、お前達!?」
「離しなさい!何をするので…あ……この感触は……♡」
「い、息が……!」
「カチューシャ様!?い、いけません!そ、そこは……」
「Hey!Hey!Hey!ちょっと待ちなさいよ!って、あ…背中にマシュマロの感触が……♡」
「ふえぇ…普通の一年生までこんなに大きいよぅ……」
本町1丁目の交差点でパレードを見物していた一行は、たわわな壁で囲まれその感触にピンク色の悲鳴を上げながら移動を続けベースのメインゲート前に辿り着いていた。
「だから何で私まで!?あ…肘に……♡」
今回は実質ツアコン役でまほ達の横須賀行きの手配をしていたエリカだったが、今や完全に巻き添えでたわわ地獄に飲み込まれていた。
「さぁお乗り下さいな♪」
沿道からの好奇の視線に晒されながらゲート前までやって来た一行は、そのままそこに待機していた笠女のスクールバスに次々と問答無用で押し込まれて行く。
通常であればベースへの出入りはパスポート或いは住民票等が必要なのだが、前日のうちにヘリで笠女学園艦入りしていた彼女達はAP-Girlsのゲストとして専用のIDパスを支給されていた上に、笠女生徒会執行部と同行しているので実質フリーパスでゲートを通過していた。
「き、君達…これは一体──」
「艦で厳島隊長が皆様の事をお待ちでいらっしゃいます、今夜は是非夕食をご一緒にとの事ですが、その前に何かお話があるとの事ですのでこのまま専用アリーナの方へ向かって頂きます」
まほがリーダー役の生徒に説明を求めかけたが、その彼女がまほの機先を制するように口を開くと立て板に水で彼女達のこの後のスケジュールの説明をするのだった。
「ちょっと待ちなさいよ!何勝手に人の予定決めてんのよ!?」
「さて……決めたのは厳島隊長で私は只のメッセンジャーに過ぎませんので、それに関してはは直接厳島隊長にお聞き下さい」
パレードを見物した後は早々にそれぞれの母艦に向け帰投するつもりだったので、いきなりその予定を変えられたカチューシャがすかさず噛みついたが、執行部の少女はそれをさらりと躱していた。
「つまり今夜ラブと夕食を共にしないと帰りの便はない…そういう事ですのね……?」
艦が母港横浜に帰港中であれば京急で帰る事も出来たのになどと考えつつも、ダージリンは敢えて目の前の少女に問い質したが、彼女はにこりと笑うのみでそれには答えなかった。
「…だそうですわ……」
観念したのか開き直ったのかダージリンはハッと一つ息を突くと、大げさに肩を竦めながらドサリと座席のシートにその身を預けていた。
そしてそのタイミングに合わせるようにスクールバスは笠女学園艦のランプドアから艦内へとその姿を消したのであった。
「ちょっと……真っ暗で誰もいないじゃないよ!」
執行部に連れられAP-Girls専用アリーナのステージ前までやって来た一行であったが、ホールの内部は最低限足元を照らす間接照明と非常口を示す誘導灯が燈るのみで、それ以外の照明は一切点いていなかった。
「これはどういう事…あれ……?」
まだ闇に慣れぬ目で回りをキョロキョロしながら吠えるカチューシャは置いといて、取り敢えず脇に控えているはずの執行部に説明を求めてまほが声をかければ、いつの間にか彼女達は一人残らずその場から姿を消していた。
「ったくラブのヤツはどうしてこう回りくどい手ばかり使うんだ……」
『人の事言えないと思うのは私だけ……?』
バレンタインの手作りチョコレートに端を発しラブが次々仕掛ける小細工に、いい加減うんざりした様子のアンチョビがぼやけば全員が同じ事を考えていた。
「何にしても私達をこんな所に呼び出してラブは一体どういうつもりだろう…ん?あれは……?」
血縁であり幼少期より一番ラブに振り回さて来たまほはその分耐性が出来ているのか、この程度はまだ許容範囲らしく腕組みをして首を捻っていた。
しかしその頃になると目の方も大分暗闇に慣れ間接照明の弱々しい光でも多少状況が把握出来るようになったらしく、周囲を見回していたまほはステージ上に複数の人のシルエットが見える事に気が付いた。
「おい…みんなアレを……うわ!?」
まほがその事を皆に伝えようとしたまさにその時、ステージ上の照明に一斉に灯が燈りその眩しさにまほは思わず目を片手で覆いながら驚きの声を上げてしまうのだった。
「What's up!?一体何事よ!?」
「眩しいですわ!いきなりなんですの!?」
突然の事に悲鳴に近い声が上がったがそれをあざ笑うかのようなラブの声がステージ上から響き、それを耳にした者達は眩しさを堪えて一斉にステージに向き直った。
「ほ~ほっほ♪みんなご覧なさい、あそこにいるのがとっくに引退したのに未だ隊長面でチームに居座る三年の
「ラブっ!?」
片手で目を覆いながらも声のする方にまほが向き直れば、ラブはステージ上で口元を手の甲で覆いながらわざとらしく小馬鹿にしたように笑っていた。
「おいラブ!お前いい加減に…ん?君達は……?」
さすがに何か一言言ってやろうと口を開きかけたまほであったが、その視界にはラブとAP-Girlsのメンバー以外の数名の少女が映っていた。
「…ありゃあ確かラブが戦った新設校の隊長達じゃなかったか……?」
「そのようですわね……」
眩しさに目を細めていたアンチョビがステージ上の少女達の正体に漸く気付けば、その隣で同様に目を細めていたダージリンもやや棘のある口調でそれに同意していた。
「あぁそうだ思い出したぞ…あのパーペチュアルユニオンとかいう学校はファイアフライをフラッグにしてたよな……」
中継で見たラブとの一戦を思い出したナオミが俄かに好戦的な表情でステージ上を睨み付けていたが、そのナオミの発言で全員が彼女達が誰であるか思い出したようであった。
「やっと思い出したようねぇ、やっぱり三年のおばちゃんは記憶力も鈍くなるのかしら?」
「お前な……」
あくまでもふざけた態度を崩さぬラブに、疲れた様子のアンチョビが恨めし気な視線を向ける。
だがそれでも挑発的なおふざけを続けるラブに、少し困った様子のエリカがストップをかけた。
「あの…ラブ姉そろそろ本題に入って頂けないでしょうか……?」
疲れの混じった声音のエリカのお願いに表情こそ変えぬものの、ラブはほんの一瞬だけ彼女に向けてチョロっと舌を出して見せるのだった。
『この
それを見たエリカが脱力しガックリと肩を落とすの見たラブが、そこでやっと本題に入る気になったらしくふっと表情を緩めたのであった。
「そうねぇ…三年のおばちゃん達は鈍いみたいだから特別に教えてあげましょうかしらねぇ……」
大仰な仕草で肩を竦めくるりと目を一回転させたラブは右の頬に人差し指を当てて考えるふりをして見せると、今度はその指を口元に移し不意を突くように指笛を鳴らすのだった。
するとステージ上で照明を吊るすトラス構造の櫓の一部が下りて来たと思うと、ストンと帯状の紙が巻物を開くように落っこちて来た。
それはどう見ても模造紙か何かをセロテープで繋いだだけのシロモノで、そこにはマーカーで癖のあるラブの手書きと思われる文字で『優勝記念えきしびしょんまっち』と大書きされていた。
『やっつけにも程があるだろ……』
そのいい加減極まりない垂れ幕を見た一同は、脱力しながらそれでやっと彼女が何を企んでいるか朧気ながらもその一端を理解したのだった。
「あ~ラブよ…要するにお前は私達にその優勝記念エキシビションマッチの対戦相手なれと……そう言いたいんだな?」
また面倒な事を思い付きやがったといった顔で面倒そうにアンチョビが問えば、ラブは一瞬嬉しそうに口元をムニュムニュしかけたが更にわざとらしい口調でそれに答えた。
「えぇそうよ、や~っとご理解頂けたようね…その通りよ、私達新設校連合がこんなパレードまでノコノコと見に来るヒマなあんた達三年生を揉んでやるって言ってるのよ」
「あのな……」
そのパレード自体は彼女が望んだものでないとしても、それを利用し自分達を釣る為に利用したのは間違いないとここに至ってやっと理解したアンチョビは心底面倒そうな顔をしていた。
「あら、聞いてるわよ?私達と
「お……お前!その言い方!!」
やっとラブが何を意図しているか完全に理解出来たものの、その言い回しと媚笑を浮かべながらグロスが淫靡な光沢を放つ唇をチロリと舐める仕草に、耳まで真っ赤になったアンチョビが肩を怒らせプルプルと震える指をラブに突き付けどやし付けていた。
「全く…本当に下品なんだから……」
「Phew……そう言いながら意味は解ってるみたいね」
「あなたも本当に下品ね!」
「だから何でいつもノンナは直ぐに目隠しするのよ!?目隠ししたって丸聞こえなんだから全然意味ないでしょ!?」
「ふぇっ!?」
「…何を今更わざとらしいわねぇ……」
反応は様々だが一人の例外を除いて全員揃ってアンチョビ同様耳まで真っ赤だった。
「フム、そうだな是非やらせてもらおうか」
『ぶふぉ!』
「にしずみ──────っ!」
ある意味極め付けにお嬢様育ちで世間知らずなまほの超絶天然発言に堪り兼ねたアンチョビは、その名を叫びながら駆け出すと一足飛びにステージに飛び上がった。
『おいラブ!お前だって西住が箱入りなのは解ってんだろう!?』
『箱は箱でもクルップの鋼鉄製だけどね~、尤も同じ箱入りでも妹の方は解ってるみたいだけど~』
『オマエなぁ!とにかくアイツの前じゃもうちょっと言葉を選んでくれ!時々とんでもない場面でとんでもない事口走られて肝を冷やす身にもなれ!』
『イタタタタ!解ったからそんなに強く耳を引っ張らないで!』
周囲も驚く跳躍力でステージ上に飛び上がったアンチョビは一気にラブに駆け寄ると、目一杯背伸びをして彼女の耳を引っ張り自分の口元に寄せていた。
『やかましい!とにかくもっと気を遣え!大体もっとやりようがあるだろう…それをこんな手間暇かける処か一体幾らかかってんだ!?』
『ちょっと!パレードは私の発案じゃないわよ!何でもかんでも私のせいにしないで!』
当事者の二人はヒソヒソやっているつもりでも駄々洩れな密談に、ステージ上でラブの背後に控えるAP-Girlsと新設校の隊長達は同じ感想を抱いていた。
『この人達本当に面白いなぁ……』
それはラブとアンチョビの二人だけに向けられたものではなく、そこに集った愉快なお仲間達全員に向けられたものであった。
「と、とにかくそういう事だから気を付けろ!…ん?あ……」
やっとラブを解放したアンチョビだったが、そこでやっと彼女は周りの視線が自分達に集中している事に気が付いた。
「…ゴホン……よし解った、エキシビションと称してお前は私達三年生と新設校で試合がしたい……そういう事でいいんだな?」
「えぇ、やっと理解して頂けてうれしいわ」
わざとらしく咳払いをしたアンチョビが腕を組み大仰に頷きながら確認するように問い返したが、手遅れ感は拭う事は出来ず彼女とラブの頬は恥ずかしさに赤くなっていた。
『この人達本当に面白いなぁ……』
呆けた顔をするお仲間達と二人を他所に、ステージ上の少女達は笑いを堪えるのに苦慮していた。
ラブの回りくどい上に馬鹿々々しいまでに大掛かりなものになった企ては、多くの者を巻き込みながらその全貌が明らかになった。
ラブ率いる
だがその戦いが波乱含みなものになる事だけは全員が理解している唯一の事であった。
「さて、そういう訳でエキシビションマッチは開催決定って事でいいわね?それじゃ少し早いけど学食に行って夕食にしましょう、今夜は特別メニューにしてもらってあるから期待していいわよ~♪」
「あ…ラブ……その……」
やっと口調をいつもの調子に戻したラブが歌うように宣言すると、ステージの下で学食と聞き一瞬目を輝かせたまほが次の瞬間には何処かおずおずとした様子で小さく手を上げていた。
「ん?何よまほ……?」
彼女らしからぬ歯切れの悪さにラブが訝しむように先を促せば、まほは少し決まり悪そうにボソボソと口を開いた。
「ええと…あの……今日はカレーは──」
「にしずみぃぃぃ……」
まほがカレーと言った途端、アンチョビが深い溜息と共に呆れ声でそれ以上言わせなかった。
「だよな……」
今日は土曜日であり笠女名物学園艦カレーが学食で供されない事は彼女も解ってはいた。
旧帝国海軍と自衛隊に倣い笠女の学食でも園艦カレーがメニューに載るのは金曜のみである事はまほも解ってはいたが、それでも彼女はつい聞かずにはいられなかったようだ。
カレーの王女様が健在である事に彼女のパートナーであるアンチョビはガックリと肩を落とし、心なしトレードマークである黒のリボンまでへにょりと力なく萎んで見えた。
『この人達本当に面白いなぁ……』
ラブの背後では三度そのセリフを胸の中で呟く少女達が、目の前で繰り広げられる間抜けなやり取りに小さくその肩を震わせていた。
昨日も急な仕事で遅くなり投稿出来ませんでした。
もう少し時間的余裕が欲しいなぁ……。
新設校でまだ登場していない2校もやっと次回登場します。
果たしてどんな戦車を使う学校でしょうね?
あまり期待しないでお待ち下さいww