この忙しさは年末だからとは思いたいけど、そうじゃないのは解ってるんだよなぁ……。
遂に新設校の隊長が全員出揃いますが、やはりそれぞれ相当クセがありそうです。
「い~いまほ、解ってるわね?これ本当に特別なんだから心して食べるのよ?」
「わ、解ってるよぅ……」
夕食には少し早く人影もまばらな学食の一角、テーブルに着いたまほの前に立ち腰の両側に手を当てて少し前屈みで話すラブの姿は、何処か小さな弟か妹に何かを言い聞かせるような印象があった。
そしてまほの方はといえば目の前の置かれていたカレー皿を取られまいと隠すように抱え込み、その子供じみた行動はどちらかといえば弟のそれであった。
笠女の学食で学園艦カレーがメニューに載るのは金曜日のみで土曜日には食べる事は出来ないのだが、ラブが厨房の給養員学科の生徒に頼み込み本来なら賄いとして消費されるはずの僅かに残っていた一晩寝かせた学園艦カレーがこうしてまほにだけ特別に用意されたのだった。
「本当に解ってるのかしら?言っておくけどお替りはなしよ?いいわね?」
「だから解ってるって言っただろぅ!いい加減子供扱いするなぁ!」
誕生日が数日違えば一つ学年が上だったラブが夏生まれのまほを事ある毎に妹扱いするのは昔からの事であったが、大人数の前、ましてや下級生やそれまで面識のない者もいる前とあっては彼女がこれだけ嫌がるのも無理のない事だろう。
だが付き合いの長い者達からすれば、こうしてまほの為にカレーを用意してやるラブは妹想いの良い姉に映るようだ
「コイツ何だかんだ言っても西住には甘いよなぁ……」
「あはは……」
まほの隣で特別に用意された夕食に舌鼓を打ちながらも二人の姉妹宛らなやり取りに何だかなぁといった顔をしながらアンチョビが呟けば、対面に座るみほは返答に困り力なく笑うだけだった。
「それはともかくとしてだ…オマエさん達はこのアホな状況にも動じるでもなく眉一つ動かさんのは一体どういう訳だぁ……?」
砕けた口調ながらも何かを測るようなアンチョビの視線の先、今は空席となっているラブの席の両側には平然とカロリー摂取に勤しむ新設校の隊長達の姿があった。
「…何でって相手はあのラブ姉ですよ?私等程度でどうこう出来る訳ないじゃないですか、その辺に関してはそちらの方が詳しいのではないですか?」
「そりゃまぁそうだがなぁ……」
食事の手を止め皆の意見を代弁するように答えたのは、エニグマの隊長である晶であった。
そしてその身も蓋もない答えに、アンチョビもそれだけ返すのがやっとな様子だ。
『やっぱ新設校で1年から隊長を任されるだけあってどいつもこいつもアクが強そうだなぁ……』
アンチョビのぼやくような返答など耳に入らぬかのように食事を続ける新設校の隊長達の姿に、アクの強さならダントツなアンツィオをたった三年で全国クラスまで纏め上げた自分の事を棚に上げ、彼女は口にこそ出さぬが内心でそんな事を呟いていた。
そんなアンチョビは同時に学食に来る少し前、AP-Girls専用アリーナでの一幕を思い出していた。
「イヤイヤイヤちょっと待て!」
「何よ千代美……?」
多少のドタバタはあったものの漸くラブがその目論見を明らかにした後にそれで話は済んだとばかりに皆を食事に誘いさっさとステージを降りようとしたその時、アンチョビは面倒そうな顔をしながらもそれを押し止めていた。
「何よじゃないだろうがぁ…そこにいる新設校の隊長達と私達は面識がないんだ……食事もいいがその前にちゃんと紹介ぐらいしろよなぁ……」
「何だそんな事か…別に食事の時でもいいのに……」
「あのなぁ……」
「解ったわよ…誰から?やっぱ晶ちゃんから……?」
「ですかね……?」
スッと肩を竦めた晶は一歩前に進み出ると襟を正しその表情を一変させた。
「私は私立エニグマ情報工学院大学付属女子高等学校の
ステージ下でボケっと見上げる者達に向けて、晶が目の覚めるような敬礼を決めて見せた。
そして晶が回れ右で後ろに下がろうとすれば、それと入れ替わるように進み出た一人の少女が晶と交代の挨拶でもするかのように軽く目配せをしていた。
「
何処か戦国武将の陣羽織を思わせるパンツァージャケットを身に着けた少女はそれだけ言うと晶と同様に踵を返し、今度は紺色の詰襟にたわわを締め付ける白の帯革と腰に下げたサーベルが印象的なブロンドに青い瞳の少女が進み出て来た。
「
その派手な印象とは裏腹に妙に落ち着いた雰囲気の語り口調のカレンもまた、それ以上は何も語らず即回れ右してしまった。
「ハ~イ♪私が
やたらストイックな感じのするカレンに続き進み出た少女は、一転して陽気に名乗ったもののやはりそれだけで直ぐに引っ込んでしまうのだった。
そして最後に挨拶に立った少女はおそらく猛禽類の物らしい羽飾りのついた軍帽を被り、その瞳もまた気高い猛禽を思わせる鋭い光を放っていた。
「フサリア高等女学院のアーニャと申します」
ポーランドの有翼重騎兵の名を冠した校名を名乗った少女もまた、それまでの者達と同様に名乗るだけ名乗るとさっさと背を向けてしまうのだった。
「コイツらはぁ……」
所属する校名と名前以外何も語らぬ少女達に思わずアンチョビは何か毒づきかけたが、そこで何か言ってもおそらくは何も答えないだろうと彼女はそこで口を噤んでいた。
だがさすがの彼女も気付いていなかったが、彼女達は全員背を向けた直後ラブに向けて何とも意地の悪いニヤニヤ笑いを見せていたのだった。
「さ、もうこれでいいでしょ?それじゃ今度こそ学食にいくわよ」
これでいいだろうと云わんばかりにラブ手を打ち鳴らせば、それを合図にステージ上から少女達が次々と飛び降り始めた。
「お、おい!」
「今度は何よ~?」
ラブがステージから飛び降り胸のたわわを盛大に揺らし着地するのと同時にアンチョビが血相変えて彼女の下に駆け寄ったが、ラブの方はさすがに面倒そうな反応をしていた。
「いやだってお前そんな所から飛び降りたら──」
「あぁそういう事…馬鹿ねぇ、私だってこれ位何ともないわよ普段どれだけ鍛えてると思ってるの?AP-Girlsのリーダーは伊達じゃないの……でもまぁ心配してくれてありがと」
「うひゃあ!?」
榴弾暴発事故の際、唯一手術直後のラブの無残な姿を見ているアンチョビはついその当時の感覚で彼女の身体の事を心配してしまうが、実際ラブの言う通りAP-Girlsを率いる今の彼女その程度は全く問題にならぬ程その身を鍛えていたのだ。
それでもアンチョビの心配する気持ちに気付いたラブは、彼女の身長に合わせ軽く屈み込むとそっと抱き締めその気持ちに応えたが、たわわの感触とほんのりと香るラブ愛用のフレグランスの香りにわたわたと狼狽えながら耳まで真っ赤になっていた。
『…ったくコイツは直ぐ無自覚にああいう事しやがる……』
まほ相手にお姉さんぶるラブの事をぼけっと見ながら抱き着かれた際のたわわの感触とフレグランスの香りを思い出したアンチョビは、急に血圧でも上がったのかぽっと頬を赤らめていた。
「どうしました?頬が赤いですよ?」
アンチョビが顔の火照りを自覚したその時、彼女のほんのわずかな変化を見逃さずダージリンが声をかけて来たが、その瞳には面白がるような好奇の光が宿っていた。
「なんでもない!そんな事よりラブ!いつまでも西住で遊んでないでエキシビジョンマッチの説明をせんか!それと彼女達の紹介もあれで終わりとか有り得んからなぁ!」
アンチョビが照れ隠しにその矛先をラブに向けた事で漸くラブのお小言から解放されたまほは、ホッとした顔で黙々と学園艦カレーを食べ始めていた。
しかしラブの方はといえば、少し面白くなさそうにアンチョビに言い返すのであった。
「なにようるさいわね~、別に遊んでないわよ…大体説明も何も言った通り私達新設校とアンタ達で試合をするってだけの事じゃない、何も難しいことじゃないわ……そもそも私達とまほが
「だからその言い方やめんか!」
ラブが帰還して以降、皆電話やメールで彼女と頻繁に連絡し合うようになっていたが、その会話の内容といえば殆どが他愛のない
そんなやり取りの中でアンチョビがラブにエニグマ戦の際のまほの呟きを伝えており、それを覚えていたラブがこうしてその機会を作った訳なのだが、やはり彼女の性格上直にそれを実行するはずもなく周りは振り回される事になるのだった。
「…事実しか言ってないじゃない……それにみんなだってちゃんと自己紹介したのに何が不満なのよ……千代美最近どんどん口喧しくなってない……?」
「誰のせいだ誰の……?」
不満げに口を尖らすラブにアンチョビは心底めんどくさそうにぼやくのみであった。
「あの二人仲が良いんですね~」
「……アンタ達も大概ね!」
供された夕食を満足げに頷きながら消費していた晶が興味深々といった顔で呟けば、そのマイペースぶりに口元をノンナに拭いて貰っていたカチューシャがすっかり呆れていた。
「とにかくだなぁ、試合をやるにしたって何処でやるつもりなんだよ~?」
「そりゃ私達の優勝記念エキシビジョンだもの、横須賀でやるに決まってるじゃない……」
周囲の雑音を他所にアンチョビが尚もラブの追及を続けたが、最初は何を解り切った事をといった口調であったラブは急にその声がトーンダウンして行った。
「どうした?」
「ん…あぁ、ええとね、多分みんな16号戦を期待してるのかもしれないけど、まだトンネルの強化カーボンの施工が終わってないのよ。だから申し訳ないけどその希望にだけは応えられないの……」
実際彼女達の卒業までの僅かな時間内で可能な限りその望みを叶えようとしていたラブであったが、彼女が無敗を誇った国道16号線のみを用いてサーキットのように周回しながら戦う通称16号戦だけは、ラブの復活を受けて始まったトンネル自体の補強と強化カーボンの施工がそのトンネル数の多さからまだ暫く時間を要するのであった。
「あ!いや!そんな事は気にしなくていいぞぉ!」
「そ、そうよ!」
「の、No problemよ!」
「あなたがそんな顔してはいけませんわ!」
急に意気消沈したラブの姿に一同が慌ててフォロー始めると、その慌てぶりが面白いのか新設校の隊長達が食事をする手を止め興味深げにその光景を見ていた。
「か、カレー美味いぞ!」
「にしずみぃ!」
『この人達本当に面白いなぁ……』
そしてお約束の著しくピントのずれたまほのボケにアンチョビがツッコめば、彼女達はこの日何度目かの感想を胸に抱くのであった。
「ま、まぁ16号戦もいつかまたやる機会もあるだろうからそんなに気にするな…しかしそうなると市街地戦って事になるだろうがやはり中央周辺になるか……?」
頭の中に大雑把な横須賀の地図を思い浮かべたアンチョビが腕組みをして考え込み始めたが、そこでラブが再び言い難そうに口を開いた。
「えっとそれなんだけどね…参加車両数の問題で中央周辺じゃ正直狭過ぎるのよ……でね、今回は市の中心地からは外れるけど久里浜周辺でやらせて欲しいの……」
「久里浜ですって?」
「うん……」
仲間内で横須賀周辺に一番地理感あるダージリンがアッサムと顔見合わせた後、確認するように問えばラブ少し申し訳なさそうに短く答えるのだった。
「Hmm……久里浜というと東京湾フェリーの通過待ちで時々学園艦が足止めされるあの久里浜?」
「
「う……」
学園艦のサイズとしては大型に類するサンダースに所属するケイが、東京湾に入る際久里浜沖が一種の鬼門に当たる事を指摘すれば、即座にダージリンが茶々を入れていた。
「えぇそうよ…久里浜周辺なら市内でも比較的フラットで開けているから大規模戦闘もどうにか展開出来るわ……それでね、みんなにはもう一つお願いがあるんだけど……」
「お願い……?またなんか企んでるんじゃないでしょうね!?」
毎度の事とはいえこれ以上まだ何か振り回される事があるのかと、カチューシャが警戒の色の混じった声を上げた。
「え?あぁ、そういう事じゃないの…これは試合当日の事なんだけどね、参加する全チームにはウチのS-LCACで久里浜港への揚陸パフォーマンスに参加して欲しいのよ……」
「S-LCACですってぇ!?」
ラブの口から出た思いもよらぬ提案に、カチューシャが今度は驚きの声を上げた。
「うん、私達は今回が地元での初試合でしょ?だからS-LCACの搭乗員達にも活躍の機会を与えて欲しいんだけどダメかな……?」
海上自衛隊のおおすみ型輸送艦を原型とする笠女学園艦には計6艇の超弩級上陸用舟艇S-LCACが収容されており、その巨体を自在に操って展開される揚陸パフォーマンスはAP-Girlsの試合と共に高い人気を誇っているのだった。
「Wow!参加全チームとはまた豪快ね~」
「ただ揚陸予定の久里浜海岸があまり広くないから一回に2艇づつ計三回の揚陸パフォーマンスになる予定だけどね…で、どうかな?ダメ……?」
ラブが様子を窺うように周囲を見回せば、皆互いに顔を見合わせ頷きあっていた。
「そういう事でしたら私達も協力を惜しみませんわ……あなた達もそれで宜しいかしら?」
「はい、私達は一向に構いません。事前にラブ姉から聞かされていましたから」
ダージリンが取り纏めるように答えた後に新設校の隊長達に話を振れば、彼女達も頷き合った後に晶が代表してそれに答えた。
「そうなると後は日取りだが希望はあるか?お前達が帰港中に済ませた方がいいんじゃないか?補給もそれなり時間かかるだろ?その間にやるのはどうだ?」
「え?そりゃ10日くらいは横須賀にいるけどそんな急は無理なんじゃ……」
一気に乗り気になって話を進め始めたアンチョビ達に、逆にラブが驚いて目を丸くしている。
「それこそNo problemよ!ウチのスーパーギャラクシーで各艦回ってバンバン空輸するから
「もーまんたいって……」
驚くラブを他所に携帯を取り出しケイがいそいそと連絡を始めれば、皆一斉にそれぞれの母艦に戦車を送り出す準備をするよう連絡を取っていた。
「ちょ、ちょっと待って!みんなは引退してるからいいとしても、後輩達はそれぞれ練習試合やら予定があるんじゃないの!?」
『冇問題!』
さすがのラブも少し慌ててそう言ったものの、即座に全員から返って来た問題なしの言葉にこの日初めて彼女の頭の中に後悔の二文字が浮かんでいた。
「よし、日取りも次の土曜日に決定したぞ」
「え?」
その声に驚いてラブがまほに目を向ければ、彼女は通話を終えた携帯を懐に戻す処たった。
「ちょっとまほ、あんた黒森峰に連絡してたんじゃないの?」
「うむ、それはエリカに任せてある」
「エリカさん!?」
思いがけぬ展開にラブがエリカに目を向ければ、通話中の彼女はラブの視線に気付いた瞬間クルっと背を向け通話に集中するふりをしていた。
「エリカさん……」
「…じゃあまほは一体誰に電話してたのよ……?」
「誰って亜梨亜おば様に決まってるじゃないか、試合の告知やら色々と手配が必要だろ?」
「アンタね……」
こんな時ばかり知恵が回りやがるなどと考えながらも、自分の始めた事なのに事態が勝手に動き始めた事に彼女も戸惑いを隠せない様子であった。
「お姉ちゃん、お母さんにも連絡しておいた方がいいんじゃない?」
「……そうだな、またアホな格好で来られたら堪らんから事前に釘を刺しておいた方がよかろう」
「アンタ達ね……」
この試合に限っては蚊帳の外であるみほがいらん事を言えば、まほもそれに同調し無駄に姉妹の連係プレイで事態を加速させラブはただ茫然とするのみであった。
「これでよしっと……」
「こちらも連盟への審判団派遣要請は済みましたわ」
「蝶野教官も二つ返事で審判長を引き受けてくれたわよ!」
「OK!スーパーギャラクシーのフライトプランも当局に申請済みよ!」
「ウチのペパロニも早々に笠女の給養員学科と特別メニューの準備に入るそうだ」
「どうしてこうなった……」
あっという間に次の週末に試合が決定してしまい、完全に事態が自分のコントロール下になくなったような感覚に囚われたラブは独り呆然としていた。
だがそうしている間にも亜梨亜の手配により試合翌日の緊急ライブのチケットも既に発売の公式発表がなされており、翌日からの発売準備態勢も万全であった。
『この人達どんだけラブ姉の事が好きなんだろう……?』
食事そっちのけで電話で方々に矢継ぎ早に指示を出す者達を前に、今日が初対面であるにも関わらず新設校の隊長達は見事にその事を見抜いていた。
だが同時に今回の計画を打診された段階で、彼女達はラブがどれ程この古い付き合いの仲間達を大切に思っているか良く解っていたので即彼女の依頼を快諾していたのだった。
「取り敢えずこんなもんだろう、後の細かい事はこれだけ頭数がいるんだからどうとでもなるさ」
アンチョビが状況の終了を宣言するようにそんな事を言えば皆同意するように頷き食事を再開したが、ここまでの間AP-Girlsだけは一切口を挿む事なく淡々と食事を続けていた。
『ねぇ凛々子、この人達っていつもこんな感じなの?』
ラブの事前の指示によりそれまで必要以上に口を開かずにいた晶だったが、空になったサラダボウル片手にお替りを取りに立ち上がった凛々子に小声で尋ねた。
『そうね…去年の秋に初めて会って以降ずっとこんな感じだけどさすがに慣れたわ……』
『……』
始めて間近に見る全国クラスの
『慣れって怖いわね』
『そういう問題じゃない気もするけど……』
それまで隣でそのやり取りを黙って聞いていたパーペチュアルの隊長のカレンが大して怖そうでもなさそうに呟けば、晶はコイツ話ちゃんと聞いてたのかといった小さく溜息を吐くのだった。
しかしその頃にはそれまでの騒ぎも落ち着き会話も日常会話に戻り、ラブも諦めたのかエキシビジョンマッチに関しては何も言わなかった。
「そういえばアンチョビ、アンツィオはバレンタインに随分と稼いだようね?これで大幅に戦力の増強でもするのかしら?」
ああでもないこうでもないと食事の合間に会話するうちに如何にも今思い出したという風にダージリンが少々意地の悪い笑みと共にアンチョビに話を振ったが、途端に笑顔が固まったアンチョビのトレードマークのリボンが力なくへにょっと下がってしまった。
「ど、どうしましたの……?」
突然の事にさすがのダージリンも何か地雷を踏んだかとオドオドし始めたが、アンチョビの方がいや大丈夫だといった感じでダージリンに落ち着くよう軽く手を上げていた。
「いやな、実の処恥ずかしながら今回の売り上げでやっとタンケッテの全車対戦車ライフル化への目途が立ったんだよ……」
「え?ちょっとお待ちになって…それはAP-Girls戦の時の売り上げで何とかなったんじゃ……?」
その情報はアッサムがある程度集めていたし、何よりも本人が以前語っていた事であった。
「ん~、本来ならそうなるはずだったんだがなぁ…やっぱP40が金食い虫であれこれやってたら途端に予算が足りなくなって今回やっと改修出来るようになったんだわ……」
『それは……』
引退しても尚苦労の絶えぬアンチョビに全員が言葉を失ったが、当の本人が気にするなとばかりに自嘲気味な笑みと共に肩を竦めて見せるのだった。
「ま、貧乏には慣れてるよ……それよりダージリンはそこの武田菱の装備の方が気になるんじゃないのか?何しろ全車クロムウェル巡行戦車なんだからなぁ」
「別に
「解ってるよ、お前さんのトコの
即座に混ぜっ返され条件反射でキッとなったダージリンであったが、それも見越していたらしいアンチョビは軽く手を上げダージリンをいなしていた。
「いや…全車クロムウェルつっても風林火山全部合わせてもたった8両しかいませんからね……」
突然アンチョビに話のネタにされた武田菱の隊長である真奈は絶対数の少なさを口にしたが、2両ひと組計4隊からなる風林火山が繰り出す縦横無尽な高速機動戦術は、既にこの場にいる実力者達の研究対象であり値踏みするような視線が真奈に集中していた。
「えぇと……」
「あら、初対面なのにごめんなさいね…ですが拝見したAP-Girls戦に於けるあなた達の戦いぶりは実に見事なものでしたからつい……」
ダージリンが極上の笑みと共に謝罪の言葉を口にすれば、何処か野武士のようなワイルドな印象を併せ持つ美少女の真奈の頬に朱が奔った。
『出たよこの女たらしが……』
『相変わらず手が早いわね!』
『Hey!アッサム!絹代たぶらかした時もあんな調子だったの?』
『全く持ってけしからん技を使うものだな……』
「あなた達ねぇ!」
全くヒソヒソになっていないヒソヒソ話を始めた連中を睨み付けたダージリンが肩を怒らせ声を荒げたが、途端に全員が容赦なくゲラゲラ笑いだしていた。
「本当に仲が良くていらっしゃる……」
「何処がよ?あんたの目はどうなってんの?お互い一切容赦がないようにしか見えないぞ……?」
毎度お馴染みなルーティーンなやり取りにパーペチュアルの隊長のカレンが表情一つ変えず真顔で感心したように言う事は何処かピントがずれており、晶はそのずれっぷりに呆れたようにツッコみを入れたがカレンはそれにも気付いていないようだった。
「その鉄面皮に皮肉は通じませんよ?」
「それアーニャが言う~?」
カレン同様表情を変えぬフサリアのアーニャの頬をクワイエットレボリューションのメープルが楽しそうにツンツンするが、それでも彼女の表情は変わらなかった。
『コイツ等仲間内だと結構しゃべりやがるな…何か聞いても最低限しか答えんクセに……これはアレか?ラブのヤツが箝口令でも敷いてやがるのか?にしてもなんかわざとらしいっつ~かキャラ作ってるっぽいんだよなぁ……』
ダージリンを弄る合間にチラリと晶達の様子を盗み見たアンチョビは、彼女達が自分達に対しまだ何か一線引いているような印象を抱いていた。
『うふふ♪疑ってる、疑ってるわね千代美……でももうじきそれ処じゃなくなるわよ~』
エキシビジョンマッチの日程やらを勝手に決められ閉口していたラブだったが、アンチョビがチラチラと晶達に視線を奔らせていた事には気付いていた。
そんなラブは腕時計に目を落とし時間を確認するともう一度アンチョビに視線を戻したが、スッと細めたその目は何とも楽し気であった。
今回でやっと全6校の校名が明らかになりましたが、
初期のプロットでは1校だけ校名とバックボーンの設定が違う学校がありました。
これも一種のネタバレになるかな?
その校名は村上水産女子学園……そう、劇場版最終章よりはるか前に考えた設定であった為にムラカミの登場には頭を抱えましたw
まぁどの学校が元は村上水産であったかは読者様の想像にお任せしますww