ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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今回は英子さんとチョビ子が大暴走します♡
でもR指定大丈夫かなぁ?今までで一番やばい気も……。


第五十話   チヨミウム

「なんて香しいの♪この髪の分け目すら愛おしいわ♡」

 

『変態だ…筋金入りの変態だ……』

 

 

 新設校の隊長達がドン引きする中アンチョビを膝の上に乗せその華奢なウェストを抱き締め後頭部に顔を埋めクンカクンカする英子は、恍惚の表情を浮かべながら延々とその行為を繰り返していた。

 そのせいでアンチョビの髪はすっかり乱れ、トレードマークのツインテを束ねる黒いリボンもヨレヨレでへにょっと力なく垂れ下がってしまっている。

 

 

「あの~英子さん、そろそろ下ろして貰えませんか……?」

 

()()()()……?」

 

「…英子姉さん……」

 

「宜しい……でもまだダ~メ♪」

 

「ダ~メて……」

 

「体内で完全に枯渇したチヨミウムを満たすには、まだまだこんなもんじゃ全然足りないわ!」

 

『ち、チヨミウムぅ!?』

 

 

 抱え込んだアンチョビの後頭部を一層激しくクンカクンカする英子の戯言に、突然現れた彼女にアンチョビを独占され死んだような目をしているまほ以外の者達は呆けた顔をしていた。

 

 

『この人会う度にどんどん壊れて行くような気が……』

 

 

 初対面からトラウマレベルの忘れようにも忘れられぬインパクトを残し、三年の時を経て再会して以降も会う度にその強烈な個性で少女達を翻弄して来た自称ドゥーチェ・アンチョビというキャラクターの生みの親、現役時代上総の大猪として恐れられた元知波単戦車隊隊長の敷島英子は、最近では専ら暴走したら誰も止められないただの危ないお姉さんと化していた。

 何しろつい今しがたも『千代美ちゃ──────ん!』の絶叫と共に地響きを立て学食に飛び込んで来た英子は、電光石火の早業でアンチョビの座る椅子に滑り込むと皆が気付いた時には既に彼女を膝の上に乗せ全力でモフっていたのだった。

 結果として英子は新設校の隊長達から少しでも情報を得ようとしていたアンチョビの足を引っ張り、彼女はそのタイミングを逸する事になったのだ。

 

 

「えぇと英子姉さん…姉さんは何故ここに……?」

 

「何故って恋お嬢さんに招待して頂いたのよ、久しぶりに皆で一緒に食事をしましょうって。ホント恋お嬢さんってお優しいわよね~♪」

 

『コイツはぁ……』

 

 

 抱え込んだアンチョビの頭に顎を乗せたまま嬉しそうに答えた英子の声に、彼女はラブが何を狙って英子()を注入して来たのかに気付きラブを睨み付けたが、ラブの方は明らかに解っているクセにわざとらしくそれに気付かぬふりをしながらまほを指差しケラケラと笑っていた。

 真の狙いまでは解らぬがラブは新設校とその隊長達の情報を必要以上に与えるつもりはないらしく、英子を投入する事で全てを煙に巻こうとしている事だけはアンチョビも理解していた。

 実際その目論みは成功し、まほなどは既に食事をする処ではなくなり、隣でモフられるアンチョビに只オロオロするばかりであった。

 

 

『あぁ…それで先にまほさんにカレーを食べさせたのね……』

 

『Oh……成程、やっぱラブってまほには甘いのね~』

 

『甘い?どこがよ!?』

 

 

 そのヒソヒソする声が聞こえているのかいないのか、上機嫌な英子はゆっくりと一同を見回し不思議そうに言うのだった。

 

 

「どうした?食事の手が止まっているぞ?フム……そうだ西住の、貴様には可愛い千代美ちゃんに『はい、あ~ん♡』する権利をやろう。私は今チヨミウムを補給するのに忙しく、残念ながらそこまで手が回らぬからな」

 

 

 真面目くさった顔でポンコツ極まりない事を言う英子だったが、まほもまほでそれを聞いた途端パァっとその顔を輝かせ英子に対し最敬礼していた。

 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「にしずみぃ────!」

 

 

 堪らず絶望的な顔で抗議の声を上げたアンチョビであったがその声はまほの耳に届いてはおらず、彼女の手には切り分けて肉汁滴るTボーンステーキを刺したフォークが握られていた。

 

 

「あ…あんざい……はい、あ~ん♡」

 

『ちょろい…ちょろ過ぎるわ西住まほ……』

 

 

 そのシュール過ぎる光景に一同は只々唖然とするばかりであったが、只一人の犠牲者であるアンチョビはそれ処ではなかった。

 

 

「西住オマエなぁ!おいラブ!オマエも後で覚えてろよ!?」

 

「良かったわねまほ……ん~、良い事をした後はごはんが美味しいわぁ~♪」

 

「聞いちゃいねぇ……」

 

 

 このカオスな状況を作り出した張本人であるラブは、一人ニコニコしながらフォークで付け合わせの人参のグラッセを口に放り込んでいた。

 

 

「おいし♪」

 

 

 結局その夜アンチョビ達は新設校とその隊長達とあまり突っ込んだ話をする事は出来ず、彼女達に関する有用な情報を得る事なく只グダグダな時間の浪費をするだけだった。

 

 

 

 

 

「ホントにオマエというヤツはぁ!」

 

「いやだってその…ゴメン……」

 

 

 まんまとラブの策に乗り前泊した部屋にもう一泊する事になった一行は、夕食を終えると早々に手配されていた笠女のスクールバスで挨拶もそこそこに宿舎へと強制収容されていた。

 しかしその後も暫くの間もしかしたらラブがふらりと現れるのではと最上階のラウンジで待ってはみたが、小一時間経っても彼女は現れず三々五々それぞれの部屋へと散って行ったのだった。

 そして英子に散々モフられボサボサのヒヨコ頭のままのアンチョビにベッドの上に正座させられたまほは、腰に手を当てイライラと爪先を床に打ち付ける彼女の前でオドオドしながらこれ以上はない位小さくなっていた。

 

 

「ったくラブのヤツめ英子姉さんまで利用しやがって明日覚えてろよ……」

 

 

 英子の名が出た途端まほはその身をビクっと震わせたが、今のアンチョビにはそんな些細な事も火に油でしかなかった。

 何故ならまほは英子に言われるまま食事の間中『はい、あ~ん♡』を繰り返し、食後のデザートまで全て食べさせてしまったのでそれも当たり前と言えば当たり前だった。

 

 

「西住!お前もいい加減英子さんの名前を聞いただけでビビるのは止めんか!あんなに優しくて綺麗な人なのに失礼だろう!?」

 

「い、いや優しいのは安斎にだけで…そりゃ凄く綺麗な人だとは思うけどさ……」

 

 

 初めて会った当時はベリーショートだった黒髪も今では背中まで伸び、その艶やかさも相まって彼女の美貌を引き立てていた。

 彼女が知波単出身という事もあって醸し出す雰囲気が似ているのか、一部では現隊長の西絹代と並ぶと姉妹で通ると言われるクールな日本美人の英子とは、熊本の西住家滞在の折にその関係は大幅に改善されたとはいえやはりまほにとって彼女はトラウマである事に変わりはなかった。

 

 

「思うけどなんだ……?」

 

 

 まほのどうにもはっきりとしないもの言いは更ににアンチョビの怒りに油を注ぐ形になり、ギロリと睨まれたまほは一層身を固くしていた。

 

 

『それにしても英子姉さんも英子姉さんだ…大体チヨミウムって何よ……?』

 

 

 イライラと怒りが収まらない様子のアンチョビを前に、恐怖の対象に唆されたとはいえ好き放題やってしまったまほは何とか取り繕おうと必死だった。

 

 

「あ、安斎…わ、私が悪かったからもう機嫌を直してくれよぅ……そ、その…こ、今夜は安斎の好きにしていいから……だからその……な?」

 

 

 拝むように手を合わせ何とも情けないセリフを口にしたまほに対し、アンチョビは再び鋭い視線を突き付けた後に試合中に時折見せる好戦的な笑みを浮かべて見せた。

 

 

「…ホゥ……随分しおらしい事を言うじゃないか?その言葉に偽りはないな?」

 

「あ…あぁ勿論だとも……」

 

 

 本人を前にとても口にする事は出来ないが、まほは普段温厚なアンチョビがたまに見せるその表情が実は何よりも好きだった。

 現に今も鋭い視線で射竦められた瞬間に身体の芯が熱くなり、彼女は頬を微かに上気させ恍惚の表情を浮かべる程なのだから。

 そしてその様はアンチョビの中のほんの僅かなサディスティックな一面に火を付けたようだ。

 

 

「…よかろう……胸の前で手を組め、そしてそのままバンザイしろ」

 

「あ、安斎…一体何を……?」

 

「西住……?」

 

「あ、あぁ解った……」

 

 

 再び鋭い視線で睨まれたまほは言われるまま祈るように胸の前で手を組むと、そのまま天に向けて組んだ両手を突き上げた。

 

 

「暫くそのままにしていろ……」

 

 

 今度は無言で小さく頷いたまほの前に立ったアンチョビは、英子に散々モフられヨレヨレになった右のリボンを解くと組み合わせたまほの手首を縛り上げ始めた。

 

 

「これでよし……」

 

 

 戸惑った表情を浮かべるまほの手首を縛り終えたアンチョビは、加虐的な笑みで満足げに頷くと今度は右手の人差し指をまほの額に突き付けた。

 

 

「え?今度は何を……?あっ!」

 

 

 安定感の乏しいベッドの上で正座させられていたまほ、いともはあっさりとバランスを崩しそのまま後ろに倒れ込んでいた。

 

 

「いい眺めだな西住……」

 

「え……?あっ!」

 

 

 正座の姿勢から後ろに倒れ込んだ為に制服のミニスカートは捲れ上がり、所謂Mの字に開脚してしまったまほはアンチョビにその下半身をモロに晒していた。

 

 

「ダメだ!そのままでいろ!」

 

「いやだって恥ずかし──」

 

「私の好きにしていいんじゃなかったのか?」

 

「そ、それは…はい、解りました……」

 

 

 慌てて脚を閉じようとしたがアンチョビにそれを止められたまほは命令に従い閉じかけた脚を再び開いたが、その恥ずかしさに耳まで真っ赤になり目尻には薄っすらと涙まで浮かんでいた。

 

 

「…可愛いぞ西住……」

 

 

 恥ずかしさのあまり身悶えるまほの姿にゾクゾクと来たアンチョビは恍惚の笑みを浮かべながらもう片方のリボンを解くと、ベッドに上がり開脚したまほの股を割る形でそのままのしかると恥ずかしがりながら戸惑う彼女の唇を自らの唇で塞いでいた。

 

 

「あ、あんざい…んぐ……あ……ん……」

 

 

 いつもならば西住製重戦車まほ型が包容力のあるアンチョビ要塞に電撃戦を展開するのが常であったが、今夜に限っては立場が逆転しまほは一方的に蹂躙されるのだった。

 唇が重なり舌が絡む湿り気を帯びた淫靡な音がまほの被虐心を刺激し、日頃の彼女からしたら想像も付かぬ可愛らしい声がその唇から漏れる。

 その声は更にアンチョビの心の中に潜伏する征服欲を刺激し、唇に舌を這わせた彼女は手際良くまほの制服のボタンを外しにかかった。

 

 

「素晴らしい……」

 

 

 制服がはだけ顕わになったまほの腹部は鍛えられ良く引き締まり美しい曲線を形成し、喘ぐまほの呼吸に合わせ艶めかしくアンチョビを扇動していた。

 それに誘われるようにアンチョビがまほの腹部に舌を這わせれば一層彼女の呼吸は荒くなり、室内は増々淫靡な空気で満たされて行くのだった。

 

 

「ゾクゾクが止まらない……」

 

 

 すっかり妖しい目付きになったアンチョビは軽く身を起こすと、以前一緒に買い物に行った際に選んでやったまほに似合いのブラジャーを一気にたくし上げた。

 そしてその反動でぷるんと元気に揺れた年齢から考えれば充分に発育の良いたわわの先っちょは、ピンク色に輝き僅かに残っていたアンチョビの理性を吹き飛ばしたのだった。

 

 

「ハァハァ…あんざい……」

 

「西住…はい、あ~ん♡」

 

「んあ……!?」

 

 

 何をするのかと問う間も与えずアンチョビの華奢な左手の人差し指がまほの口内に侵入する。

 

 

「西住、解ってるだろ?」

 

 

 アンチョビに促されたまほは虚ろな目で自らの口内に差し込まれた指を、愛おし気にちゅぱちゅぱと淫らな音を立てしゃぶり始めた。

 

 

「あ…あんざい……私はもう……」

 

 

 色々と限界に達しつつあったまほが瞳一杯に涙を溜め、小刻みにその身を震わせながら何かを懇願するようにアンチョビを見つめている。

 

 

「もういいだろう…安心しろ西住……今夜はたっぷりと泣かせてやる……」

 

 

 何ともテンプレートなセリフを口にしたアンチョビは再びまほと唇を重ねながら、彼女にたっぷりとしゃぶらせた指をまほのミニスカートとその下の薄布の更にその下、若草の奥の谷間へと潜り込ませて行くのだった。

 

 

「あ…そ、そこは……」

 

「ふふふ♪本当に可愛いぞ西住……♡」

 

「あぁん♡こんな世界があったなんて……」

 

 

 その夜アンチョビに徹底的に凌辱されたまほは、押し寄せる快楽の前に新境地に目覚めたという。

 

 

 

 

 

「あら?他の隊長さん達はどうしましたの?」

 

 

 翌朝朝食の為に訪れた学食には既にAP-Girlsが勢揃いしていたが新設校の隊長達の姿はなく、ダージリンは不思議そうに周囲を見回していた。

 

 

「何言ってんのよダージリン、あの子達なら試合の準備しなきゃいけないから夕食の後早々にウチのスーパースタリオンでそれぞれの母艦に帰ったわよ?」

 

 

 トレイ片手におかずバイキングの列に並んでいたラブが振り向きざまに呆れたように答えれば、少し後からやって来てダージリンの直ぐ後ろにいたアンチョビは、試合前に様子を窺う最後の機会を失った事を知り小さく舌打ちをしていた。

 

 

『チッ…ラブのヤツやっぱりあれ以上私達を彼女らと接触させる気はなかったって事か……』

 

 

 そんなアンチョビの心情を知ってか知らずか、ラブは表情を呆れ顔からにこやかな笑みに変えると新しいトレイを手に取りアンチョビへと差し出していた。

 

 

「千代美おはよ~♪昨夜はよく眠れたのかしら?随分と顔色がいいじゃな~い」

 

 

 まるで昨夜何があったかお見通しなような調子でラブがアンチョビにトレイを手渡しながら声をかけると、何故かその背後にいたまほがぽっと頬を赤らめながらぴとっと彼女の腕に縋り付いた。

 

 

『な、何よその乙女チックな反応は……?昨夜何があった西住まほ……!?』

 

 

 さすがにこれは予想外の反応であったらしく表情が固まってしまったラブも含め、その場にいた者達はまほのリアクションの不気味さにアンチョビ以外全員揃ってドン引きしていた。

 

 

「にしずみぃ……」

 

 

 だがそのアンチョビもまた内股でモジモジしながら我が腕に縋り付くまほの姿に死にそうな顔をしていたが、それもある意味自業自得であった。

 

 

「そ…そうでしたか……彼女達ともう少しお話してみたいと思いましたが仕方ありませんわね……」

 

 

 あまり成功はしているとは言い難いがダージリンがそんな感じで話を締めくくれば、全員がやっとバイキングの列に並んだがその表情は何とも複雑なものだった。

 

 

 

 

 

「それじゃこれで私達も一旦帰艦して試合の準備に入るが、本当にこちらに手伝いの人員を派遣しなくてもいいのか?」

 

 

 一晩中アンチョビにヒイヒイ言わされたまほであったが、さすがに戦車道の事となれば話は別らしくいつも通りキビキビとした態度でラブに確認していた。

 

 

「えぇ、その必要はないわ。まぁアンツィオだけは出店の事もあるから早めに来てもらう事になるけどね~。それよりそっちの方がすり合わせやら色々と大変でしょ?早く帰って準備しなさいよ」

 

 

 今回のエキシビションマッチに出場するのは三年生のみであり、その人数の都合で各校一部の隊員は他校の車両に搭乗する事が決定しており、試合までにその調整も必要だったのだ。

 特にアンチョビの所属するアンツィオなどは三年生といえば彼女一人だけなので、必然的に彼女は他校の生徒と合同で搭乗せざる得なかったのだ。

 だが彼女の場合はまほのたっての希望により短期留学の際に使用した車両、ティーガーⅠの123号車(ベルター)に搭乗する事が既に決定していた。

 しかしアンチョビ以外で他校の車両に搭乗する事になる者達の配車はまだ全く決まってはおらず、来週末の試合当日までに決めねばならぬ問題は山積みだった。

 

 

「まぁそれはそうなんだが……」

 

「でしょ?大体空輸担当するケイだってこの短期間じゃ相当な負担よ?解ったら即行動!」

 

 

 朝食後フライトまでの僅かな時間をヘリデッキの傍にあるカフェで打ち合わせがてらティータイムを共にしていた一行であったが、一応今回のエキシビションマッチのホストとなる笠女戦車隊の隊長であるラブは、その準備期間の短さとスーパーギャラクシーで各校の戦車の空輸を担当するケイに掛かる負担を気にしていた。

 

 

「Dont 'worry!何も気にしなくても大丈夫よ!交代のパイロットはそれなりに人数いるし、機体の方も頑丈だから心配無用よ!」

 

 

 まほにハッパをかけたラブに対しケイは何も問題ないと親指を立てて見せたが、それでもタイムスケージュールはギリギリである事に変わりはなく、ラブとしては試合前にケイとナオミが疲れてしまわないかと危惧している様子であった。

 

 

「だから大丈夫だって言ってんだろ?ウチの隊員数考えてみろよ、準備は一、二年に任せて三年は試合に備えて適当に手を抜くから問題ないって言ってんだよ」

 

「そう?ならいいけど……」

 

 

 尚も心配するラブに向けナオミは敢えて軽薄な素振りで笑いながら肩を竦めて見せれば、それでやっとラブも納得したようだった。

 

 

「あれ…?そういやエリカよ、お前今回ミカのヤツに声をかけなかったのか……?」

 

 

 会話がひと段落した処でふと周りをキョロキョロしていたアンチョビは、その時になってやっとその存在を思い出したような顔で継続の隊長であるミカの名を口にしていた。

 

 

「…一応連絡はしたのですが何の反応もありませんでした……」

 

「私もバレンタインにチョコレート取りに来てね~ってメール送ったんだけどねぇ……」

 

 

 アンチョビの問いに少し困ったような顔をしたエリカに続き、ラブも頬に指を当て小首を傾げて戸惑うような表情を見せていた。

 

 

「は?取りに来てってオマエ、ミカのヤツには送らなかったのか……?」

 

「だってミカさんって中々私に会ってくれないんだもん……」

 

『そりゃ初対面であんなエグい事したオマエの自業自得だろ……』

 

 

 相変わらず自分のやった事を忘れ被害者ぶるラブに全員が白い目を向けたが、彼女はそれに気付かず一人不思議そうに首を捻り続けていた。

 

 

「う~ん…仕掛けたトラップにも全部引っ掛かった痕跡があったし、ちゃんと用意しておいたチョコレートもなくなってたんだけどなぁ……」

 

『ひでぇヤツ……』

 

 

 何故かミカ相手になると仕掛ける悪戯に一切手加減がなくなるラブに全員が今度こそ本気で軽蔑の視線を向けていたが、やはり彼女はそれに気付く事なくただ不思議そうにしていた。

 

 

「ダメだコイツ……まぁ連絡が付かないのならしょうがない、一応ギリギリまで待つが今回はミカの参加はなしの方向で準備を進めよう」

 

 

 ラブのミカに対する鬼畜ぶりにアンチョビは顔をしかめながらも、エキシビションに向け準備を進めるよう促していた。

 

 

「それじゃ私達は行くわ!少しでも輸送距離を減らす為にこちらに向かわせているけど、今の処ウチの艦が一番遠くにいる事に変わりはないからね!」

 

 

 カチューシャはカップに残っていたコーヒーを一気に飲み干すと腰掛けていた脚の届かぬ椅子から勢いを付けて飛び降り、ノンナを伴いフライト準備の整ったスーパースタリオンに乗り込むべくヘリデッキに向かうのだった。

 

 

「私達もそろそろ……」

 

「ええ、そうですわね……」

 

 

 カチューシャが椅子から飛び降りるのを合図とするようにダージリンとアッサムの二人も軽く目配せを交わし席を立てば、他の者もそれに続き立ち上がり始めた。

 

 

「あぁそうだみほ、今回試合に参加出来ないアンタ達の分も観戦席を用意しておくから前日にはこっちに来るといいわ。宿舎も押さえておくから安心していらっしゃい」

 

「え?いいのラブお姉ちゃん?」

 

「構わないわ、他の学校にもその旨連絡しておくから何も気にする事はないわよ」

 

「うん解ったよラブお姉ちゃん、みんな連れて見に来るね」

 

 

 思いがけぬラブの誘いに嬉しそうにする辺りは、彼女もまた西住の娘である事を証明していた。

 

 

「さて、そうとなったらいよいよ人員の移送準備もせにゃならんな…アンツィオの場合は物資やら調理器材も送り出さにゃならんからマジでのんびりしている暇はないぞ……」

 

 

 手帳を取り出しスケジュールを確認したアンチョビは更に何やら書き込むと、携帯を取り出しメールで指示を出し始めた。

 

 

「これでよし……おいラブ!明日には鍋釜一式送り出すから受け入れ準備を整えておいてくれ!」

 

「解った~、給養員学科の子達にも伝えておくわ~」

 

 

 話す内容はまるで祭りの準備か何かのようであるが、ラブにしてもアンチョビにしてもその目は既に試合中の戦車道選手の目になっていた。

 そしてそれは二人だけに限った事ではなく、試合に向けあれこれ手配を始めた者達全てに共通した事であった。

 

 

「Really!?マジ!?ナイスよメグミ!」

 

 

 そんな中おそらく空輸に関する連絡を行っていたであろうケイが、拳を握り締め興奮気味に携帯に向かって称賛の言葉を送っていた。

 

 

「どうかしたのケイ?」

 

「あぁラブ……なんかアリサが頼み込んだらしいんだけどね、今メグミの方から大学の方で運用してるスーパーギャラクシーも空輸の増援に回してくれるって連絡が来たのよ」

 

「あら~、メグミさんってあのメグミさんが?それはまた結依ちゃんのメグミさんに対する評価が爆上げしそうな話ねぇ♪」

 

 

 メグミにぞっこんな笠女生徒会長、木幡結依(こはたゆい)に翻弄されるメグミの姿を思い浮かべたケイはニカっと笑ってビシッと親指を立てて見せた。

 

 

「でもそうなるとこっちでも早めに受け入れ態勢整えないとダメね…こりゃ忙しくなるわ……」

 

 

 受け入れる戦車と人員、その他諸々指折り数えたラブは試合の規模が昨年みほ達が経験した大学選抜戦処ではないものになる事に気付き溜息を吐いた。

 しかしいつまでもそうしている訳にも行かず次々と飛び立つスーパースタリオンを見送ったラブは、自身も携帯で各所に連絡を取りつつヘリデッキを後にするのだった。

 

 

 

 

 

「──えぇそうね…その線で宜しく……それじゃあまた何かあったら連絡をちょうだい」

 

 

 休日ではあるが試合に向けこなさねばならぬ業務が山積しているラブは隊長執務室にこもり、常人では到底不可能なレベルのマルチタスク能力を発揮し次々と問題を片付けていた。

 

 

「恋、亜梨亜様から伝言よ…今夜……正確には明日の早朝搬入する事になったそうよ」

 

「あら?随分急ね……?」

 

「試合で使うのなら慣らしの事も考えて、早い方がいいだろうと先方から連絡があったそうよ……」

 

「そう…それはありがたいわ……」

 

 

 執務室にいつの間にか滑り込んで来た愛の報告に弾薬の申請書にサインしていた手を止めたラブは、掛けていた眼鏡を一旦外すと背もたれに身を預けながらグッと一つ伸びをした。

 

 

「ん~、まぁあの子達なら何も問題はないだろうし何とかなるでしょ……」

 

「恋……?」

 

 

 いつも通り無表情ながらも愛が彼女を気遣うようなそぶりを見せると、問題ないといった風に軽く手を上げたラブはそのまま仕事に戻るよう促し、愛もそれに逆らわずラブが片付けデスクに積まれた書類の束を抱えると退室して行った。

 

 

「いよいよか…麻梨亜(まりあ)ママ……」

 

 

 やや愁いを帯びた表情のラブの呟きに被せるように、帰投して来たスーパースタリオンのうちの一機の爆音がそれを掻き消していた。

 再会を果たした仲間達と、同じ高校生として戦う事が出来るチャンスはこれが最後だろう。

 その面に浮かぶ一抹の寂しさが果たしてそれを想っての事なのかは解らぬが彼女が試合に全身全霊で臨むのは間違いなく、激戦必至になる事だけははっきりとしていた。

 

 

 




チヨミウムは私も補給したいw

師走に入って増々忙しく投稿が遅れ気味です……。
仕事の方も結局大晦日まで目一杯……。

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