はてさてどんな戦い方をするのやら。
なお、まほは今回も安定のポンコツですw
「壮観だな」
ティーガーⅠの砲塔上に立ち周囲をぐるりと見回すまほの視線の先には、国籍も様々な戦車達がずらりと並び、それぞれの車両の搭乗員達の手で整備が行われていた。
学校毎の車両数にバラつきはあるが、トータルで10校からの戦車が集められればその総数は軽く大学選抜戦の参加車両数を超えており、それだけでも充分見応えのある光景だった。
だが、それだけの数の戦車が並んでもなおその空間の広さからみればほんの片隅に寄せ集めた程度でしかなく、誰かの落とした工具が立てた金属音の響きが天井の高さを物語っていた。
笠女学園艦の艦尾に位置するその格納庫はリフトでウェルドックに直結しており、サンダースのスーパーギャラクシーで空輸されて来た各校の戦車達は、こちらも格納庫直通のエレベーターで効率良く順次収容されていたのだった。
今回アンツィオからの参加は彼女一人であり、まほの希望もあって短期留学の際に使用したティーガーⅠ
「ふ~む、あれがラム巡航戦車とグリズリー巡航戦車か……さっきケイのヤツが教えてくれたんだが、サンダースじゃラム巡航戦車の事はM3カナディアンとかM3A6などと呼んでるんだそうだ。グリズリー巡航戦車の方も基本M4A1だがCanadian Dry Pin… CDPと言ったか……全鋼製のシングルピン型履帯は本家M4に比べて重量が半分程で機動力高いって言ってたな」
「ラムの方はM3と比べると大分ルックスが変わっているがグリズリーはまんまM4だな」
「いずれにしても高校戦車道で組織的な運用は多分初めてだろう」
「その点
「いや、M6重戦車とM22軽戦車は正統派かぁ?」
いずれもアメリカ戦車の中ではマイノリティかつ訳ありな存在の名を挙げたアンチョビだったが、彼女の視線はその両車ではなく、フサリア高等女学院の車両に向けられていた。
「TPとTK…ポーランド戦車は10TPだけでも珍しいのに14TPなんて私も見るのは初めてだぞ……いずれにしても、ポーランド戦車なんてこれまで使用していた学校はボンプルぐらいじゃないのか?」
「…多分そうだろう……それにしてもTP14なんてよく知ってるな」
まほの口からボンプルの名が出た途端、同校の隊長であり騎士団長の異名を持つヤイカとはタンカスロンのしずか絡みで色々あるアンチョビの表情が微妙なものになった。
「戦車に関しては物心つくかつかないうちからクソババアに叩き込まれて来たからな……」
「オマエはまたそんな言い方をしてぇ……」
最近では会う度に隙あらば自分を押しのけアンチョビをモフる母を快く思わぬまほは、事ある毎にしほをクソババア呼ばわりしており、そんな彼女の態度をアンチョビはその都度咎めていた。
だがこの件に関しては注意すればする程まほは頬を膨らませ、一層へそを曲げるだけであった。
「全くしょうがないヤツだなぁ……にしてもアレだ、
しかしアンチョビも新設校リーグ戦でのフサリア高等女学院のアーニャ隊長の水際立った指揮ぶりと、彼女の指揮の下で豆戦車を駆りラブ相手に一歩も引かず勇猛果敢に戦い抜いたのは見ていたので、少しも油断出来ない相手である事は理解していた。
「でもあの戦い方はアンツィオ…安斎の戦い方に似ている気がしたんだが……」
「そうかぁ……?」
この手の事は本人は意外と気付かないものなのかアンチョビはいまいちピンと来ない顔をするが、ずっと彼女の事を意識して見続けて来たまほの目にはそれがよく見えているようだ。
「似ていると言えば中学時代のラブそっくりの動きをするエニグマの古庄選手も先々恐ろしいな、あの動きが出来てパンターに乗っているというだけで充分に脅威と言っていいだろう。それと数が少ないとはいえ武田菱の風林火山の高速機動戦術も要注意だ」
高校戦車道では既に現役を退いたとはいえ、いざ戦うとなれば即座に優秀な指揮官の横顔を見せるまほを好ましく思うアンチョビは、大学で彼女と轡を並べ戦う日が来る事が急激に待ち遠しく思え彼女の凛々しい横顔に胸の高まりを覚えるのだった。
「どうした?」
「いや、なんでもない……」
思わず口元が緩みそうになるのを寸での処で堪えたアンチョビであったが、やはりまほはそんな彼女の微妙な変化も見逃さなかった。
「そうか……?まぁそれはいいとして少し彼女達の本音も聞いてみたいものだな」
「妙にキャラを作ってるように見えるのは、どうせラブのヤツが箝口令でも布いてやがるんだろう……試合前の今こっちからあれこれ詮索するのも可哀そうだからそういう事は試合後にしよう」
「それもそうか……さて、私はちょっと角谷に挨拶して来るか」
「ん?何故今更角谷のヤツに……?」
アンチョビが不思議そうな顔でまほの視線を追ってみれば、彼女は横付けしたシャーマンとヘッツァーの上で楽し気に談笑するケイと杏を見ていた。
「まぁ今回はラブの我が侭に巻き込んでしまったから一応
そう言いながらまほは既に軽い身のこなしで砲塔から車体部分に飛び降りておりアンチョビもそれに続いて宙に舞えば、まほは手を差し伸べ着地寸前に彼女の体を支えていた。
女子力の方は相変わらずだが、アンチョビに対しては常に男前なまほであった。
「別にそこまで角谷のヤツに気を遣う必要もないと思うぞぉ?そもそも今のアイツは誰がどう見たって喜んでる風にしか見えないんだからなぁ」
着地した処をまほにエスコートされ周囲から生温い視線が集まっているにも拘わらず、アンチョビがそれに気付かずに杏に対して手厳しい事を言えば、まほは困ったなといった顔を杏の方に向けた。
彼女の視線の先には突然拉致され笠女に連れて来られ錯乱する桃と、それを宥める柚子を他所に、微かに頬をピンク色に染めながらケイとのひと時を楽しむ杏の姿があった。
その様子は確かに誰が見てもハイハイごちそうさまなもので、彼女が言う事も一理あると言えた。
「それでも他に何人も巻き込んでるから一応はな……」
アンチョビもまほの根が真面目な事はよく解っているのでそれ以上は何も言わず、一つ肩を竦めるとついでに私もケイとの仲を少し揶揄ってやるかなどと考えながら彼女の後を付いて行くのだった。
「あれ?まほちゃんとチョビ──」
「いよぅ角谷、お楽しみのトコ済まんなぁ♪」
「まほちゃん……」
ケイとの会話に夢中になっていた杏が二人の存在に気付いたのは、アンチョビとまほがヘッツァーの直ぐ傍まで来てからであった。
そして彼女がいつもの調子でチョビ子と言いかけたその時、機先を制するようにアンチョビが人の悪い笑みと共にカウンターを見舞っていた。
だがそのアンチョビの隣では、
「Hey!アンチョビ!あまりアンジーの事を揶揄わないでもらえる!?」
腰に手を当て如何にも怒ったような顔と口調でアンチョビに異議を申し立てるケイであったが、実際の処は杏の少し困ったよう照れた表情にデレてその目は笑っていた。
「そ、それで二人して連れ立ってどうしたのさ……?」
パートナーの萌えな視線に眉をへにょっと下げながら杏が話題を変えようと問いかければ、やっと我に返ったまほはいつもの至って真面目な口調でラブの思い付きに巻き込んだ事を詫び始めた。
「なんだ、そんな事を態々言いに来たんだ」
「いや、まだ会長の引継ぎやら何かと忙しいだろうに済まないと思ってな……」
まほの生真面目さに杏が苦笑すれば彼女は尚も少し困ったように呟き続け、その様子が何とも可愛く見えて周りもクスクスと笑っていた。
「そんな気にしなくていいよ~、付き合いが浅いのに呼んで貰えて私も嬉しかったからさ♪」
「そ、そうか?ならいいんだが……」
杏のその言葉でやっと納得したのか、まほの硬く困った顔もやっと和らぐのだった。
「そういえばラブもAP-Girlsも姿が見えないけど、ここには来ないのかな……?」
そこで杏がこの話はこれで終わりといった感じで周囲をキョロキョロすれば、アンチョビも今度は揶揄うでもなく普通に説明を始めた。
「あいつ等の戦車は専用の工廠で整備学科の生徒達が整備してるから、S-LCACに積載するまでここに来る必要はないだろ?それにラブ達は試合後のライブのリハやらで忙しいだろうしな」
「そういやそっか……」
まだラブと顔を合わせていないので杏は少し残念そうにしていたが、アンチョビの説明を受けて思いがけぬ処から声が上がった。
「あ~、それなんだけど工廠の方に行ったらいつもは出入り自由な状態なんだけど、どういう訳か今日に限って関係者以外立ち入り禁止になってたんだよね~」
いつものツナギ姿でレオポンの中からトルクレンチ片手に顔を出したナカジマが、こちらもいつものようにツナギを腰の所で縛り、タンクトップ姿で腕を組みスタイルの良さを誇示するホシノと顔を見合わせ不思議そうに首を捻っていた。
「呆れた……さっき姿が見えなかったのはそんな所まで行っていたからなの?」
カモさんチームの中で只一人三年生であったそど子は、逆に一人だけ二年生で不参加のツチヤの穴埋めのように臨時メンバーとしてレオポンさんチームに加わり整備の手伝いをしていたが、到着するなり行方を晦ませていた彼女達が何処に行っていたかを知り呆れ顔をしていた。
「ん…?今いつもは出入り自由と言ったがそれはどういう意味だろう?その口ぶりからするとよく来ているように聞こえたんだが私の気のせいか?」
「あ……あははバレちゃった♪さすが西住隊長のお姉さんは鋭いなぁ」
お気楽に笑いながら手にしたトルクレンチで頭の後ろをコリコリするナカジマであったが、当事者であるホシノとスズキ以外の者達は訳が解らず怪訝な顔をしている。
「ええと…ナカジマさん、出来れば私達にも解るように説明してもらえないだろうか……?」
いつも通り飄々とした態度を崩さぬナカジマ相手に困惑しきりなまほだったが、それでも笑みを絶やさずナカジマは種明かしをするように事情を説明するのだった。
昨年大洗戦の後に工廠を見学して以来アンツィオのペパロニ達が給養員学科の生徒達と意気投合したのと同様に、レオポンさんチームのメンバー達も整備学科の生徒達と頻繁に交流を続けていた。
そしてその話ぶりからすると彼女達の笠女への訪問頻度はペパロニ達を軽く上回っており、現場で鍛えられたレオポンメンバーはその持てる技術を惜しみなく伝授している様子だった。
「それであなた達やたら高速連絡艇やら使いまくってたのね?後最近レオポンが故障し難くなったのにはそんなカラクリがあったとは……これでやっと納得いったわ」
許可を取っていれば別段校則に引っ掛かかる事ではなく、話の内容からしてやっている事も校外実習として単位に加算されるものなので何ら問題はなかった。
だがその頻度と帰る際にお土産として半端に残っていた少々値の張るグリスやパーツクリーナーのようなケミカル類、更に共通規格の部品の残り物など大洗の予算では中々手が出ないパーツ類も貰っていた事を聞かされたそど子は眉を顰めたが、それらは全て亜梨亜の許可を得ての事と聞かされてはそれ以上何も言えなかった。
「いやはや全く以って頼もしい事だなぁ、先々楽しみな話だよ」
「いやぁ、それ程でも」
転んでもただでは起きないを地で行くレオポンメンバーにアンチョビが無責任且つ愉快そうに笑っている横で、元責任者であり彼女達を戦車道に引っ張り込んだ張本人である杏はさすがにバツの悪そうな顔をしていたが、ナカジマは何処までも屈託なくいつも通りに笑みを浮かべるだけだった。
「ま、それは置いといてさすがに試合直前ともなれば、あれだけピーキーな戦車をベストな状態に仕上げるのに立ち入り禁止になるのも無理はないさ」
「だな…あれだけのバケモノだ……これが
「それもどうなんだ……?」
アンチョビの後を受けてまほが当然のように真面目な顔で語ったあんまりな話に、それまで笑っていたレオポンのメンバーやそど子までもが酢でも飲んだような顔をするのだった。
「──以上が交戦エリアと禁止エリア、それと三浦市との境になるポイントだから気を付けてね。野比から海沿いのルートは気持ちいいかもしれないけど、うっかりお隣の三浦市に越境して入ったり弾着させるとその場で即失格になるからね~」
今回のエキシビションの参加人数はサポートも含めそれなりに多い為、事前の全体ブリーフィングはAP-Girls専用アリーナを使用して行われていた。
ステージの背後の特大スクリーンに投影された交戦エリアを表示した地図に向けて、時折レーザーポインターを当てながら注意事項を伝達するラブは冗談を交えながら説明を続けている。
「そうそう、今回交戦エリアで目玉になるのは久里浜の火力発電所ね、何しろ解体が決まってるからぶっ壊し放題好き放題やっていいわよ~♪」
ラブはさもお買い得情報でも知らせるような口調だったが、ダージリンとケイと晶の表情が何とも形容し難い微妙なものに変わっていた。
「ねぇラブ姉…また……?」
「う゛…それは……」
ステージ下の晶の一言でラブは返答に詰まり彼女にしてはらしくない程視線が泳ぎ始め、ダージリンとケイが顔を見合わせ溜息を吐くのは揃って身に覚えがあるからだろう。
聖グロ戦が行われた横浜の金沢工業団地もサンダース戦の炭鉱島も、試合に託け体よく地元自治体から再開発に当たっての解体作業を肩代わりさせられたようなものであった。
晶のエニグマとの一戦も舞台となった地方都市は、財政破綻後の再生に当たり以降の試合も含め街そのものを更地にする片棒を担がされた印象は拭えなかった。
それ故の晶の『また?』であり、ダージリンとケイの溜息であった。
「まぁこれに関しては私達もあれこれ言う資格はありませんわ……」
「Ditto…右に同じね……」
冴えない表情の二人の何処か投げやりな口調に、ラブは不満げに口を尖らせた。
「だって仕方ないじゃない、横須賀で開けた平地なんてそうそうないんだもの……その横須賀で80万㎡からのスペースでドンパチ出来るんだからいいでしょ?」
彼女のせいではないといくら言われても、自分の起こした事故以降衰退した地元横須賀の戦車道に対し今も後ろめたさを抱き続けるラブにとって、今回のエキシビションマッチを主催するに当たり地元自治体から出された要望を無下に断る事は出来なかった。
だがそれは彼女に限った事ではなく地元とのしがらみはどの学校にも存在し、試合を行う際には何某かの要望が出されるのはよくある事だった。
「別になんだっていいじゃない!私達はただぶっ放してぶっ壊すだけなんだから!」
そろそろラブが拗ね始めアンチョビがまほに目配せして諫めにかかろうとしたその時、細かい事はどうでもいいカチューシャがノンナの肩の上で偉そうに腕組みしたまま声高に話を纏めてしまった。
「カチューシャの言う通りだな、大人の事情なんて私達には関係ない…ただぶっ放してぶっ壊す……それだけでいいじゃないか」
カチューシャの大雑把且つ乱暴極まりない意見にほぅっと目を大きく開いたまほは、その考えに賛同の意を示すとカチューシャと同じように腕を組み何度も頷いていた。
「全く脳筋なんだから…私だってそれくらい解ってますわ……」
おそらくはこの場にいる者の中で一番多くのしがらみに縛られているであろうダージリンが、この話はこれで終わりとばかりにツンデレな態度で話を締めた。
「それじゃこれで質問とかがなければ全体ブリーフィングを終了するわ、後は学食でガッツリ夕食食べて明日に備えてね~」
漸く機嫌を直したラブがブリーフィングの終了を宣言すると、アリーナに会した一同はぞろぞろと学食へと移動し、試合前の景気付けなのかやたら豪華な夕食にモチベーションを大幅に上げていた。
「ふむ…この久里浜近辺の平地の交戦エリアは工場が多いようだな……だがそこからちょっと離れるとアップダウンが多くて基本的に地元有利な地形なんだが、中心となるAP-Girlsも地元での試合経験がまだないから何とも言えんなぁ……」
宿舎に戻り地図を広げ改めて交戦エリアと交戦規定の確認を始めたアンチョビは、あれこれと注意点を地図に書き込んでいた。
「横須賀でもこの地区での試合はラブですら経験がないと言ってたしな…とことん異例な事だよ、アウェイチーム処か迎え撃つホーム側まで初めてのフィールドで戦うなんてな……」
アンチョビの手元の地図の書き込みを見ながらまほも複雑そうな顔をするのは、ラブが横須賀で試合をするのはあの事故の少し前の初夏以来である事を思い出していたからであった。
「しかもそれがエキシビションマッチなんだからおかしな話だよなぁ……」
一応は新設校リーグ戦の覇者であるAP-Girlsを中心とした新設校連合に対し、既に引退した有力校の三年生達が挑むという過去に例のない形式で行われる今回のエキシビションマッチは、相手の情報の少なさ故急造チームでどう試合が転がるか彼女達にも予想が付かなかないようだ。
「ま、あれだ…今ここであれこれ考えてもどうなるもんでもない、明日に備えて早めに休むのが吉だろう……どういう形であれラブを相手にするんだ、体力を温存しておかないと絶対持たんからな」
「だな……」
それがどんな形式の試合であれラブが相手となれば一切油断が出来ず、それこそ体力を使い切るまで戦う羽目になる事もままある事が解っているので、アンチョビは一刻も早く床に就きしっかり睡眠を取っておかねばとパンツァージャケットの上着を脱ぎ始めていた。
「あ、あんざい…その……」
上着を脱いだアンチョビがネクタイを解いたその時、突然モジモジし始めたまほがゴクリと喉を鳴らし裏返った声で迫って来た。
「西住ぃ!オマエひと晩くらい我慢出来んのかぁ!?」
早く休まねばと言っている傍から辛抱堪らず目を血走らせるまほの事を、アンチョビは肩を怒らせ声を限りにどやし付けていた。
「はい……」
またしてもアンチョビを怒らせシュンとなったまほは、ノロノロとパンツァージャケットを脱ぐと就寝前にシャワーを浴びるべくバスルームへと向かうのだった。
その後彼女と入れ替わりにシャワーを浴びたアンチョビが部屋に戻れば、ポンコツ健康優良児なまほは既にベッドで寝息を立てていた。
「全くこいつは相変わらず寝付きだけはいいな……」
クスリと笑ったアンチョビが寝息を立てるまほの隣に潜り込むと、リモコンに手を伸ばし部屋の灯りを落とし明日の試合に想いを馳せつつ瞳を閉じた。
やがてまほの寝息にアンチョビの寝息が重なってから数分の後、何やら湿り気を帯びた音が寝息に交じり室内に響き始めていた。
「ん……あぁん♡」
そしてその音と共にそれまで寝息を立てていたアンチョビの唇から何とも色っぽい声が漏れ始め、その声に合わせるように彼女は毛布の下で身悶えていた。
「あ…♡そ、そこは……ってにしずみぃ!」
ビクッと大きく身を震わせたアンチョビがカッと目を見開くなり力任せに毛布を跳ね除けてみれば、微かに燈る常夜灯の淡い光の下まほが彼女の可愛らしい胸の膨らみ吸い付き先っちょをちゅ~ちゅ~していたのだった。
そう、まほはラブとアンチョビの黒森峰短期留学の時と同様に寝ぼけてやらかしてしまったのだ。
「お、お前というヤツはぁ……!」
キャミソールを捲り上げ先っちょちゅ~ちゅ~を続けるまほから逃れようとアンチョビは藻掻くが、がっしりと彼女をホールドしたまほの腕から逃れる事は出来ずいらだったアンチョビは力任せにまほの頭頂部に拳骨を振り下ろしていた。
「ゼェゼェ…全くこのバカタレが……」
グッと呻いた後に再び寝息を立て始めたまほを引っ剥がし横に転がしたアンチョビは、荒い息でちゅ~ちゅ~されてヒリヒリする先っちょを気にしながらも、襲って来た疲労感に抗う事は出来ずそのままベッドに突っ伏し眠りに落ちて行った。
「なんでだろう……今朝は何故か頭のてっぺんが痛いんだ」
「……」
明けて翌朝若干早めに学食に集った参加選手一同は試合に備え旺盛な食欲を示していたが、アンチョビの隣で箸を止めたまほが不思議そうに頭頂部を撫でさすっていた。
「アンタまたなんかバカやったんじゃないの~?」
「いや、そんなはずはない…昨夜は床に就いてから朝までぐっすりだったからな……」
ラブの少しバカにしたような指摘にまほは至って真面目な顔で反論したが、その隣のアンチョビは溜息と共に疲れた視線をポンコツ健康優良児に向けており、それだけで全てを察したラブは彼女に視線だけで
「さ、ご飯が済んだら一休みしてそれからS-LCACに乗り込むからね~」
トレイに盛り付けた朝食を全て平らげたラブは愛の持って来た食後のコーヒーのカップから立ち上る香りに満足げに頷くと、今回がS-LCAC初体験となる新設校の隊員達に呼びかけた。
今日の試合前の久里浜港へのS-LCACによる揚陸パフォーマンスは今回のエキシビションマッチのもう一つの目玉であり、ラブはこのパフォーマンスで勢いを付け締めのライブまで一気に持って行くつもりで、のんびりしているように見えてその実相当気合が入っていた。
凱旋パレードの話が出た当初は気乗りしない彼女であったが、エキシビションという形で新設校には経験値を、まほ達には新設校と手合わせしてみたいという希望を叶えてやる事を思い付いてからは積極的にその準備に奔走して来たのであった。
そしてこれが同じ高校生として戦う事が出来る最後のチャンスである事も良く解っているラブは、試合とステージに持てる力の全てを出し切る事を自分自身に誓っていた。
嘗て東京湾の雷鳴と例えられたS-LCACのエンジンが目を覚ましその轟音を轟かせれば、ラブ達が同じ高校生として戦う最後の試合の幕が切って落とされる時がやって来るのだ。
「うふ♡せいぜい驚くがいいわ♪」
年内の投稿はこれが最後になるかもしれません、とにかく忙し過ぎて……。
この戦いが終わればいよいよまほ達も卒業です。
彼女達の卒業がラブに与える影響も気になる処ですが、
それらの問題も全てこのエキシビションが終わってからの事になります。
作中登場する久里浜の火力発電所は現在も解体が進み、
もう間もなく煙突も姿を消す処まで来ています。