ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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恋愛戦車道本編も今日から再開となります。
改めて今年も宜しくお願い致します。

タイトルでというか既にネタバレでしょうが、
お話もやっとここまで辿り着きましたw


第五十三話   女豹復活

『ちょっと待てぇ!』

 

 

 それが姿を現した瞬間、往時を知る者達は異口同音一斉に悲鳴を上げていた。

 

 

 

 

 

「全く何度見てもふざけたサイズよね!街道上の怪物と恐れられたKVたんがS-LCACに乗せられた途端小さなブリキのオモチャか何かに見えるわ!」

 

 

 笠女学園艦の艦尾に位置するウェルドック内で超弩級上陸用舟艇S-LCAC1号艇にKV-2の積載を終えたカチューシャは、ドックを俯瞰して見る事が出来る管制室を訪れ眼前の光景に対する素直な感想を口にしていた。

 今回試合に先立ち行われる揚陸パフォーマンスで久里浜港にカチューシャが騎乗するKV-2を最初に上陸させる事に決めたのは、大学選抜戦の際にお寝坊さんして一番乗りを逃した事をラブがノンナから笑い話の一つとして聞かされていたからであった。

 但し、もしその事をカチューシャが知れば絶対にヘソを曲げて一番乗りを拒否するのが目に見えていたので、計画を実行するに当たり細心の注意が必要であった。

 だが相手はあのカチューシャなのでラブとノンナは共謀の上で彼女の自尊心をくすぐり、上手い事丸め込んで見事()()()()()()()はカチューシャが務める事に決定していた。

 

 

「如何です?ここからの眺めは中々壮観でしょう?」

 

 

 以前サンダース戦の際にメグミが訪れた時にも案内役を務めた管制室の主任らしき少女は、身を乗り出しウィンドウの強化ガラスに張り付くカチューシャの姿に微笑んでいた。

 

 

「そうね!人がいる事でS-LCACの大きさとウェルドックの広さが実感出来るけど、もしそうじゃなかったら目の前のこれが現実の光景だとはとてもじゃないけど思えないわ!」

 

 

 相変わらずウィンドウに張り付いたまま興奮気味なカチューシャの眼下では、格納庫から専用リフトで降りて来た戦車が次々とS-LCACに乗り込んでいた。

 そして彼女の視線の先ではまほの指揮するティーガーⅠ212号車(ビットマン)の固定作業が、S-LCACの搭乗員の手で行われている処であった。

 

 

「あ~いたいた、カチューシャこんなトコにいたんだ~」

 

「ラブ!?アンタこそ今までドコにいたのよ!?」

 

 

 不意に背後から聞こえたラブの声に振り向いたカチューシャとても驚いた顔をしている。

 

 

「ドコってずっと工廠よ?Love Gunの試合前最後の調整をしてたわ……ホラ、Love Gunに限らずウチのⅢ号J型はどれもピーキーだから何かと手間が掛かるのよね~」

 

 

 やっと姿を見せたラブの釈明を聞いたカチューシャは、極限までチューンされたLove Gunの整備に掛かる手間を考え一瞬面倒そうに顔をしかめた。

 

 

「少数精鋭も大変ね……それよりいいの?そんな忙しいのにこんなトコでのんびりしてて?」

 

「あ、それなら大丈夫よ、ウチはトリで登場して美味しいトコ持って行かせてもらうから♪」

 

「それはリーグ戦の覇者でこのエキシビションマッチの主催者である、ラブとAP-Girlsに与えられた当然の権利だわ!」

 

 

 カチューシャが不敵に笑いながらビシッと親指を立てて見せれば、ラブも苦笑するしかなかった。

 

 

「うふふ♪ありがとカチューシャ……それでね、私がここに来たのは揚陸パフォーマンスの時にやってもらいたい事があってそのお願いに来たのよ~」

 

「お願い…お願いってナニよ……?」

 

 

 何かを企む時彼女が見せる特有の表情にカチューシャが俄かに警戒したような顔を見せたが、身長差のあるラブが大きく屈み込んでカチューシャの耳元で何やら囁き始めた。

 

 

「実はね──」

 

 

 耳元で響くラブのセクシーなハスキーボイスと耳朶をくすぐる甘やかな吐息にカチューシャは頬を朱に染め目をグルグルさせていたが、話を聞くうちに再び不敵な笑みを浮かべやがてその表情は悪戯っぽい笑い顔へと変わって行った。

 

 

「呆れたわ!忙しいはずなのにそんな手配までしてたなんて!それにしても昨日の今日でよくそんな物が直ぐに手に入ったものね?」

 

「ええ、ダメ元でメーカーに問い合わせたんだけど、しっかり在庫があって二つ返事で即日発送で昨日のうちに納品してくれたのよね……でもこんな専用な物まで用意されてる辺りはさすが天下のプラウダだって思ったわ~」

 

 

 それまでの妖しく艶っぽい雰囲気は何処へやら、二人揃っておちゃらけた口調で何やら話しているがその内容は意味不明なものだった。

 

 

「それに関しちゃ私の方が驚いたわよ!まさかそんなシロモノが存在している事すら知らなかったもの……でも話は解ったわ、バッチリ派手に決めてやるから安心なさい!」

 

「うん任せたわ、みんな驚くわよ~♪」

 

 

 ニタ~っと気味の悪い笑みでガッチリと握手を交わした二人は周囲を見回し管制スタッフ以外には自分達しかいないのを確認すると、もう一度ニヤリと笑うのだった。

 

 

「さ、もう行きなさいよ!そろそろノンナもここに来るわ!」

 

「そうなの?それじゃその前に私は撤退するわね~」

 

 

 ヒラヒラと手を振ったラブが管制室を立ち去るのと入れ替わるように、カチューシャの予想した通りのタイミングでプラウダの参加車両の固定作業に立ち会っていたノンナが姿を現した。

 

 

「目が笑っていますがどうかしましたか?」

 

『…チッ!こういう時がノンナは一番鋭いわね……!』

 

 

 カチューシャが内心でそう毒づいた一瞬の間にノンナが目をスッと細めたが、それ以上詮索させぬよう彼女はいつも通り高圧的な態度で押し通すのだった。

 

 

「何でもないわ!ここからの眺めが壮観だから感心してただけよ!それよりプラウダ(ウチ)の車両の固定作業は終わったのね!?」

 

「はい、ウチを含め1号艇から3号艇までの積載は完了しました。この後は4号5号6号と入れ替わって作業が行われます」

 

「そう、なら私達は離艦するまでもうここにいる必要はないわね!」

 

 

 軽く手を打ち鳴らしたカチューシャが強い口調で話を締めにかかれば、ノンナもそれ以上追及する気はないらしくひとつ頷いて見せた。

 

 

「それでは我々は作業の邪魔にならぬよう時間まで待機室でお茶でも頂いて待つとしましょう……先程覗いたらちゃんとジャムも用意してくれていましたよ」

 

「あらそう♪中々気が利いてるじゃない!それじゃ早速待機室に行きましょ!」

 

 

 意気揚々大股で歩き始めたカチューシャに続きノンナが管制室を後にするとそれを待っていたかのようにウェルドックの艦尾門扉が解放され、積載のポジション替えの為にエンジンから轟音を轟かせ3艇のS-LCACが滑るように離艦し始めていた。

 

 

 

 

 

「来たぞ!」

 

「なんて音なの!」

 

「とんでもなくデカいぞ!」

 

 

 揚陸パフォーマンス終了後は交戦エリアとなる久里浜海岸周辺には、一般車両はシャットアウトされている為に専用にチャーターされたシャトルバスで詰めかけた見物客が溢れている。

 他の新設校学園艦と共に停泊していた相模灘を離れ久里浜沖に移動していた笠女学園艦から揚陸パフォーマンスの為にS-LCACの離艦が始まると、早朝にも拘わらず詰めかけた見物客の中から大きなどよめきが上がりS-LCACが近付くにつれその声は一層大きなものになっていた。

 

 

『間もなく久里浜海岸に揚陸します!念の為に各員耐衝撃姿勢を取るよう願います!』

 

 

 揚陸後即上陸する為にS-LCACのキャビンではなくそれぞれの戦車に搭乗し待機しているカチューシャ達の耳に、装着した騒音対策のイヤーマフに繋がった無線越しに1号艇の艇長である宮乃杜櫻(みやのもりさくら)の轟音に負けぬよう張り上げた声で注意を促す指示が聞こえた。

 

 

「いよいよね……」

 

 

 それは試合の前の余興でありまさに見物客向けのパフォーマンスでしかないのだが、分厚いKV-2の装甲の中で周囲の状況など一切解らぬカチューシャは、まるで本物の揚陸作戦に従事する戦車乗りのような緊張感と高揚感に包まれていた。

 

 

「凄い……」

 

「ちょっと…あれ大丈夫?ぶつかるんじゃない……!?」

 

「あのスピードでいいの!?」

 

 

 接触ギリギリの並走状態で雷鳴のような唸りを上げながら迫り来るS-LCACの姿に、見物客からは悲鳴にも似た声が次々と上がり始めた。

 だがそんな声を嘲笑うかのように一気に砂浜に乗り上げた2艇のS-LCACの全通式の車両甲板では、停止するなり作業にかかった搭乗員の手で固定されていた戦車が次々解放されて行った。

 

 

『カチューシャ隊長お待たせしました!上陸準備完了です!』

 

 

 耳を弄する爆音を轟かせるS-LCACのエンジンがカットされた事で、先程までとは違い明瞭に聴こえる1号艇艇長の櫻の声がカチューシャに出番が来た事を告げる。

 

 

「お待たせとか言う割にえらい早業だったわね…それにもう私は隊長じゃないんだけど……了解よ櫻!これより上陸を開始する!」

 

 

 KV-2の巨大な砲塔上に顔を出したカチューシャは、ぐるりと周囲を確認すると親指を立てて作業完了を告げる作業員達に答礼を以ってその労を労っていた。

 

 

「それじゃ行くか……いい事!?派手に決めるんだから気を抜くんじゃないわよ!」

 

 

 車内を覗き込んだカチューシャの檄にプラウダとサンダースに黒森峰という異色の混成の搭乗員達も、親指を立てながらプラウダ流の鬨の声で答えるのだった。

 

 

Ураааааааа!(ウラ──ッ!)

 

 

 そしてその声に続き海岸に設営された実況ブースの笠女映像学科の生徒による煽るような実況アナウンスの声を聴いたカチューシャは、操縦手に向け前進の指示を出すのだった。

 

 

Танки вперед!(戦車前進せよ!)

 

 

 聴き慣れたカチューシャの命令を下す声に操縦を担当するプラウダの三年生は、口元に凶暴な笑みを浮かべるとチラリと舌を舐め操縦桿を押し込んだ。

 そして姿を現した街道上の怪物に海岸を埋め尽くす群衆からS-LCACの登場の時とはまた違ったどよめきが上がれば、カチューシャは得意げに肩をそびやかしながら更なる命令を下した。

 

 

「よし今よ!Огонь!(撃て!)

 

 

 砂浜に深々と履帯痕を刻み付けながら上陸したKV-2は見物客が注視する中停車すると、化け物じみたサイズの砲塔を旋回させて砲身を振り上げた。

 突然の事にそれまでの騒めきが波が引くように静まったその時、20口径152mmの主砲が火を噴き轟いた砲声が見物客達の鼓膜を激しく叩くのだった。

 その砲声と共に砲口から噴き出したのはプラウダの赤、使われた砲弾はこのパフォーマンスを思い付いたラブが急遽メーカーから取り寄せた特殊スモーク弾であった。

 この豪快なパフォーマンスに驚き言葉を失っていた見物客もスモークが風に流されKV-2の姿が顕わになると、砲塔上で得意満面の顔で仁王立ちするカチューシャに向け拍手喝采を送っていた。

 

 

「まぁ…何をこそこそとやっているかと思えばこれはラブの差し金でしょうね……全く相変わらず派手好きなんですから……」

 

 

 カチューシャのKV-2に続きいつも通りIS-2に騎乗したノンナが上陸した直後、目の前でいきなり行われたスモーク弾パフォーマンスにスッと目を細めるもその瞳は実に楽し気に笑っていた。

 そしてカチューシャが打ち上げた派手な花火を皮切りに繰り返し行われた揚陸パフォーマンスに、久里浜海岸と市内各所のサテライト観戦エリアは試合前から大いに盛り上がりを見せるのだった。

 

 

 

 

 

「やっと本命のお出ましか……」

 

 

 既に上陸し、まほのティーガーⅠ212号車(ビットマン)の隣に停車させた123号車(ベルター)のコマンダーキューポラ上に立つアンチョビは、双眼鏡で笠女学園艦のウェルドックからAP-Girlsを乗せ滑り出したS-LCAC1号艇を追っていた。

 

 

「あ……?」

 

 

 S-LCAC1号艇が離艦した事を確認したアンチョビが双眼鏡から目を離した直後、役目を終えそれまで沖合で待機していた2号艇から6号艇までが一気に加速すると1号艇と並走を始めていた。

 

 

「オイオイ…今度は何を始める気だぁ……?」

 

「さぁ…でもまた何か派手な事をやるんだろうな……」

 

 

 ビットマンのコマンダーキューポラから顔を出しているまほがアンチョビの呟きに曖昧に答えたが、その目には期待の色が浮かんでいるのが見て取れた。

 そしてその期待に応えるかのようにそれまで実況の声を流していたスピーカーからAP-Girlsの曲が流れ始めると、それに合わせて6艇のS-LCACがその巨体を右に左にクルクルと一斉に振り回し始め、その豪快なパフォーマンスに集まっていた見物客達の間から感嘆の声が沸き起こった。

 

 

「これはいくらなんでも派手過ぎるだろぉ~」

 

「でも実にあの子らしいですわ」

 

 

 予想を上回る派手な演出とパフォーマンスに如何にも呆れたという顔で感想を口にするアンチョビであったが、直ぐ傍に停車しているブラックプリンスの砲塔上のダージリンが何やら含みのある笑みを浮かべながら鷹揚な態度で頷いて見せた。

 

 

「そりゃそうかもしれんがなぁ……」

 

 

 尚も食い下がるような事を言うアンチョビであったが彼女もその表情は苦笑に変わっており、その苦笑がダージリンの言う事に同意している証拠だった。

 そうこうするうちに曲の方はラストに近付き、それに合わせて2号艇から6号艇はAP-Girlsの乗り込んだ1号艇から離れ後方へと下がり始めた。

 

 

「来るぞ……」

 

 

 旋回運動を終えた1号艇が砂浜に向け一直線に加速を開始すると、それまでとは質が違う緊張感を孕んだ空気に顔を引き締めたまほが突進して来る1号艇を正面から見据えていた。

 

 

「全く何度見ても凄まじいわね!」

 

「Wow!これぞ強襲揚陸って感じだわ!」

 

「いや!このサイズで強襲揚陸とか有り得ないからな!」

 

 

 はしゃぐカチューシャとケイにアンチョビが突っ込みを入れる間に、S-LCAC1号艇は決して誰にも止める事の出来ぬ突進力で一気に砂浜の中程まで突き進んだ。

 そして東京湾の雷鳴と渾名される轟音を生み出す強力無比なガスタービンエンジンが停止すると、それまでの騒々しさが嘘のような静寂が海岸に訪れた。

 だがアンチョビ達がそれを嵐の前の静けさだと感じるのは、やはり試合前の高揚感故の事だろう。

 

 

「お出ましよ……」

 

 

 ダージリンの鋭い視線の先でS-LCACのエアクッションが萎み正面ハッチが開けば、迅速な作業で美しき野獣達を繋ぐ鎖が解かれ猛り狂ったエンジンが早く戦わせろと咆哮を上げた。

 

 

「ん?二列縦隊だとぉ?」

 

 

 本人は否定するが派手好きで目立ちたがりなラブの事だから、大方ミニカイルを組んで勢いよく飛び出して来るだろうと予想していたアンチョビは、その予想に反し大人しい二列縦隊でゆっくりと姿を現したAP-Girlsに肩透かしを喰らったような顔で首を傾げていた。

 

 

「先頭はブルーとイエロー…二列目にピンクとブラック……おや?Love Gunが出て来ない……?」

 

 

 Four Cardsに続き登場するはずのLove Gunが姿を見せずまほも怪訝な顔をするが、それは彼女だけに限った事ではなかった。

 

 

「Hey!AP-Girlsが今度は一列横隊になったわ!」

 

 

 いつも通り無印M4に搭乗するケイが指差す先では流れるような動きでブルー・ハーツとイエロー・ハーツが左右に展開し、その間にピンク・ハーツとブラック・ハーツが割って入り一列横隊を形成したがその真ん中は丁度一両分間隔が空けられていた。

 

 

「あそこにLove Gunを入れる気?勿体ぶるわね~!」

 

 

 自分も周囲には黙ってラブのパフォーマンスに加担しておきながら、カチューシャは中々姿を現さぬラブとLove Gunに少し焦れた顔をするが怒った様子はなく、むしろ勝者の特権を存分に行使するラブに対し満足しているようであった。

 

 

「カチューシャ様、もしやまだ何か隠していらっしゃるのではないでしょうね?」

 

「もうないわよ!短時間であれ以上仕込める訳ないでしょ!?」

 

 

 カチューシャの態度を少し違う方向に勘違いしたらしいノンナの目がスッと細くなったが、カチューシャがいつも通り即座に肩を怒らせそれを否定するのだった。

 だが彼女達がそんな事をやっているうちにS-LCACの搭乗員がオーバーなアクションと共に親指を立てGOサインを出し、それまでとは質の違うエンジン音が周囲に轟いた。

 

 

「うん?何だ…Love Gun(Ⅲ号J型)のエンジン音じゃない……?だがこれは……」

 

 

 その異変に真っ先に気付いたのはやはりドイツ戦車に一番精通しているまほであったが、基本的に聞き覚えのあるエンジン音ながらも遥かに洗練されたそのエキゾーストノートに、彼女は戸惑いを隠す事が出来ずまさかといった顔をしていた。

 

 

「あれ…?この音は……」

 

 

 次いでアンチョビもそれに気付いたが、聞き覚えのある音ながらも彼女の記憶の中にある音との違いにまほと同様戸惑いながらも更なる情報を求め聞き耳を立てるのだった。

 そして履帯が金属の床に爪を立てる耳障りなノイズに全ての目がS-LCAC1号艇に集中する中、遂にそれは姿を現し、その姿に付き合いの長い者達は一斉に衝撃を受け悲鳴にも似た叫びを上げていた。

 

 

『ちょっと待てぇ!』

 

 

 だが現れた最強の野獣の姿に驚き叫びはしたが頭が目の前の現実に付いて行かず、失語症にでもかかったように口から零れ出る言葉はどれも断片的なものであった。

 

 

「え……?」

 

「ウソ……」

 

「新車……?」

 

「いや…アレは……」

 

 

 避弾経始を採用した正面装甲とショットトラップ対策を施された主砲前面防循、そしてコマンダーキューポラの前面に装備されたまるで一眼レフの大砲レンズのような筒状の装備。

 それこそがZG1221ビュアーと赤外線ヘッドランプで構成された世界初の実戦型夜間用赤外線暗視装置であり、その車両最大の特徴となる存在だったが非常に高価であり生産数も極めて少なかった。

 

 

「おりょ?みんなどったの?あれはパンターの……ん?Love Gunマークが付いてるね~」

 

 

 車高の低いヘッツァー(カメさん)の上で少し背伸びをして小手を翳し状況を観察していた杏の不思議そう呟きに、レオポンの面々も興味津々な顔で喰い付いていた。

 

 

「う~んこれは相当にレアっぽいね~」

 

「パンターのG型みたいだけどあれは赤外線暗視装置…かな……?」

 

「あのエンジン音も只事じゃないねぇ…ありゃあ相当チューンしてるっぽい音だよ……」

 

 

 過去の詳しい経緯を知らぬ大洗勢は至って能天気であったが、当時を知る者達はそれ処ではなくパニックを起こした頭の中を整理するのに必死だった。

 パンターG型赤外線暗視装置装備車、ラブが幼少期に亡くなった生みの母麻梨亜(まりあ)の形見として受け継いだその戦車は、()()()以降彼女と共に公の場から姿を消し、三年の間厳島の城で傷付いた姿のまま眠り続けていたのだ。

 その彼女の分身であるパンターG型が復活を遂げ、遂にその姿を現した事は、旧友達にとっても大いなる衝撃であった。

 

 

「Love Gun…なのか……?」

 

「ですが…本当に……?」

 

「Jesus!マジで!?」

 

「あんなバケモノ他にいないわよ!」

 

「確かにあんなオーラを放つ戦車は何処を探しても他にいないだろうな……」

 

 

 嘗てLove Gun相手に散々苦労した者達にとって例えどれだけ時間が経過していようと、その脳裏に刻み付けられた記憶は決して薄れる事はなかった。

 

 

「それでは本当に……?」

 

「あぁ…復活したんだよ……Love Gunもな……」

 

 

 若干青ざめたダージリンの更なる問いに答えたまほも口元を引き攣らせていたが、その瞳にはまるで鬼火のような闘争心剥き出しの光を宿していた。

 

 

「そうか…お前も生きていたんだな……」

 

 

 だが真のLove Gunを前にやる気満々になったまほの直ぐ傍でアンチョビが感慨深げに呟いた後、彼女の頬に一筋の涙が伝うのを見たまほはたちどころにテンパって声を裏返らせていた。

 

 

「あ……ああああんざいどうしたぁ!?」

 

「だから西住、変な声を出すなと何度言えば…あれ……?」

 

 

 いつものようにお小言を口にしかけたアンチョビだったが、その時になって初めて自分の頬に涙が伝い落ちている事に気付いたらしく戸惑った様子で涙を拭うのだった。

 

 

「ちょっと…あなた本当に大丈夫ですの……?」

 

 

 突然の事にさすがのダージリンも驚いた様子で気遣って来るが、当の本人も少し驚いている事でどうしたものかとそれ以上の事を言えずにいた。

 

 

「あ…いや、驚かせて済まない、大丈夫だ……そのなんだ、細かい事は試合の後にでもな……」

 

「そうですか…あなたがそう言うのなら今は深くは問いません……」

 

「すまんな……」

 

 

 こういう時の対応はダージリンもおちゃらけたり執拗に追及するような真似はしないので、アンチョビも短く礼を言うに留めていた。

 これまで彼女もあまり多くを語る事はしなかったが、仲間内で唯一事故直後演習場の只中で自身も傷付いた身体で独りラブの帰りを待つように佇んでいたLove Gunを見ていたアンチョビは、完全復活を遂げたその姿に無意識のうちに涙を零していたのだった。

 

 

「安斎……」

 

「大丈夫だよ西住……それよりこれは厄介な事になったぞ、ラブのヤツまだ何か隠し玉用意してるだろうとは思ったがこれはさすがに想定外だ」

 

 

 気持ちを切り替えたアンチョビの視線の先では両翼にAP-Girlsを従えたラブが、新生Love Gunのコマンダーキューポラ上でポニーに結って尚腰に届く深紅の髪を吹き抜ける海風に揺らしながら微笑を浮かべており、少しでも気を抜けばそれだけで呑まれそうなオーラを放っていた。

 

 

 

 

 

「あれ?なんか反応薄くない……?」

 

 

 公の場での搭乗は暴発事故の前に行った練習試合以来であるLove Gunのコマンダーキューポラ上で、微笑を浮かべたままラブは自分の予想と違う反応に少々不満そうであった。

 

 

「あいつ等の事だからもっと蜂の巣を突いたような騒ぎになると思ったんだけど……」

 

 

 彼女の予想通り騒ぎになりかけはしたが、皮肉にもアンチョビが涙を零した事で事態は収拾してしまった事を浮かれていたラブは気付いていなかった。

 

 

「だからこのおっぱいは何を期待してんのよ?」

 

 

 試合以外の部分での仕込みに熱心なラブに凛々子が例によって毒を吐くが、都合の悪い事は聞こえなくなるラブの耳にその声は届いていなかった。

 

 

「言ったって聞くタマじゃね~だろがよ~」

 

「うっさいわね!そうやって放任するから増長するんでしょうが!」

 

「オメぇだって人の事言えねぇだろうが!」

 

 

 揃いも揃って緊張感の欠片もなく、AP-Girlsは相変わらずな図太さを発揮していた。

 だが突然彼女達の仮面は、この後直ぐに予想外な形で剥がれ落ちる事になる。

 

 

「うん?映像学科のディレクターが走って来るわ…血相変えてどうしたのかしら……?」

 

 

 夏妃と凛々子の夫婦漫才が始まって間もなく、揚陸パフォーマンスの実況を行っていたブースより一人の少女がたわわを上下に激しく揺らしながらダッシュして来る姿見えた。

 

 

「はぁ──────っ!?」

 

 

 駆け寄った現場ディレクターの少女から報告を受けた瞬間、ラブは彼女らしくない間の抜けた顔でホンキートンク(調子っぱずれ)な絶叫を上げていた。

 Love Gunから飛び降りたラブはディレクターから詳しい話を聞くうちにその口元を引き攣らせ、終いには頭を抱えその場に座り込んでしまうのだった。

 彼女にとって大事な一戦の直前に舞い込んだトラブルとは何か?

 果たして試合は無事開催出来るのか?

 ラブの星の巡りが悪いのかはたまた単なる偶然か、彼女の苦労が絶える事はないようだ。

 

 

 




遂に復活したラブの分身であるLove Gunですが、
これでやっと物語も本当のスタートラインに付いた訳なんですよね……。
でもこれからもまだ色々と波乱があるのは確実なので、
果たしてラブとLove Gunがそれをどうやって乗り越えて行くかが見所かな?
まずこのエキシビションマッチ後のまほ達の卒業が一つの山になると思います。
でもその前にこの一戦を楽しんでもらえたらと思っています。

それにしても土曜のこの時間に投稿出来るのはいつ以来だろう……?
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