ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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今回もAP-Girlsの新装備が登場しますw


第五十四話   黒魔女の宴

「鈴鹿さまぁ!」

 

「オ~イ……」

 

「お姉様ぁ♪」

 

「おいおい……」

 

「抱いてぇ♡」

 

「ぶふぉ!」

 

 

 ステージ上で一年生らしからぬ色気を放つ鈴鹿の姿に、周囲の同期の者達の間で飛び交う黄色かったりピンクだったりする嬌声にアンチョビは何処から突っ込んでいいか解らなかった。

 

 

 

 

 

「おぉぉぉ!あのパンターG型!あれは赤外線暗視装置装備の後期型ではありませんか!レア中のレア、非常に希少な戦車でありますよぉ♪」

 

 

 観戦エリアの一角に設けられた実質ラブの関係者のみで占められた特設スタンドの只中で、完全に不意打ちで姿を現した真のLove Gunに興奮を隠せぬ優花里の声が響いていた。

 

 

「って、あれ?西住殿……?西住殿!?どうされたのですか?大丈夫でありますか!?」

 

 

 優花里のこの手の話に対応出来る相手はみほしかおらず、優花里も当然のように話を振った訳だが、肝心のみほから何の反応もなく不審に思った優花里が様子を窺うように顔を覗き込んでみれば、そこにはやや青ざめ完全に硬直したみほの姿があった。

 だがそれはみほに限った事ではなくエリカやルクリリにカルパッチョなどラブと親しい関係にあった者達全員に共通した事であった。

 

 

「…え?優花里さん……?あ……ごめんなさい、聞いてなかったです」

 

 

 一拍置いて優花里の呼びかけに応えたみほであったが、彼女の耳には優花里の話の内容までは全く届いていなかったようだった。

 

 

「エ、エリカさん……」

 

「……」

 

「エリカさん……?」

 

「聞こえてるわよ……けど私よりあんたの方が…あんたが一番解ってるんじゃないの……?」

 

「それは……」

 

 

 いつも以上にオドオドとしたみほの声音にイラついたような態度のエリカだったが、彼女自身もまた信じられないといった顔で大型モニターに映るLove Gunを凝視していた。

 

 

「ま、気持ちは分からないでもないけどね……だけどあれだけの存在感を誇る戦車なんて他にいる?あなた達もそう思うでしょ?」

 

「それはまぁ……」

 

「それじゃやはりあれは……」

 

 

 どちらからともなく顔を見合わせていたルクリリとカルパッチョの視線が自分に向いた途端、みほは何か答えようとしたが口をパクパクさせるのみで何も言う事が出来なかった。

 

 

「あ~全くもう!肝心な時にそうやって直ぐ挙動不審になるんだから!」

 

「イタタ痛いよエリカさん!」

 

 

 みほのはっきりしない態度に余程腹が立ったのか、エリカはヘッドロックをかけると、頭のてっぺんを握り締めた拳でグリグリとやり始めた。

 

 

「やかましい!そう……あれは間違いなくLove Gunよ!帰って来たのよ、本物のLove Gunがね!」

 

 

 エリカが強い口調でそう言い切ると、中学時代ラブに世話になった経験のある者達は一斉に息を呑み、改めて大型モニターに映るLove Gunの姿を見直していた。

 

 

「厄介な事になったわね。来年度の全国大会で対戦する相手は地獄を見る事になるわよ……」

 

 

 厄介と言いながらもLove Gunの復活に、エリカは口角を吊り上げ肉食獣の笑みを浮かべていた。

 

 

「あの~、逸見殿…出来れば我々にも解るように説明して頂けませんか……?」

 

「そうですね、それは私からもお願いしたいですわ」

 

「クラーラ……」

 

 

 優花里に同調して声を上げたのは、留学生で過去の事故に関し殆ど知識のないクラーラであった。

 そのクラーラに続いて他にもあちこちで似たような声が上がり始め、エリカだけではなく当時の事情を知る者達がスタンドのあちこちで説明会を行う破目になっていた。

 

 

「この戦車道オタクが…あんたは大体凡その事情は解ってんじゃないの……?」

 

「あ…いえ自分は高校戦車道が中心でしたので……()()()の西住殿や逸見殿のように詳しい事情を知っている訳ではありませんので……」

 

「ば、ばばば…アンタ何馬鹿な事言ってんのよ!?」

 

 

 優花里は別に深い意味で言った訳ではなかったが、身内という単語に反応してしまったエリカが顔を真っ赤にして荒げた声はものの見事に裏返っていた。

 

 

「はぁ?いやそれよりも逸見殿……」

 

「わ、解ってるわよ!」

 

 

 この期に及んでも尚オタオタして使い物にならぬみほにイラつきながらもエリカは自分の知る範囲で当時の説明を行い、更にその後ラブと共に姿を消したLove Gunの所在も長く不明であった事を付け加えたのだった。

 

 

「そうでありましたか……」

 

「えぇ、まぁ順当に考えるならラブね…ラブ先輩の御実家で保管されていたと考えるのが筋よね……ねぇみほ、その辺あなた達も本当に何も知らされていなかったの?」

 

「うん…あの当時はお母さんも亜梨亜おば様に連絡するのは控えていたし……それである程度経ってから連絡取ろうとした時には音信不通になっちゃってたから……」

 

「そう……」

 

 

 ここまではグダグダなみほに対し手厳しく当たっていたエリカだったが、この件に関しては西住と厳島両家の間でも心の機微に触れる微妙な問題であると思え、彼女もそれ以上の追及をする事は躊躇われたようだ。

 

 

「あのぉ…隊長達は当然あのパンターと戦った事があるんですよね……?」

 

 

 笠女への短期留学以降、公の場においても当然のように一緒にいるようになった梓とオレンジペコの二人がその場に集った隊長達に不安げな視線を向けていた。

 

 

「それはまぁそうなんだけど……」

 

「戦ったというよりいつもコテンパンにやられてたという方が正しいかもなぁ……」

 

 

 二人の問いに曖昧且つ歯切れの悪い答えしか返せないみほの代わりに腕を組み天を仰いで当時を思い出すような仕草でルクリリが答えれば、身に覚えのある者達が一斉に彼女と同じように腕を組み瞑目してしまうのだった。

 

 

『こればっかりは実際戦わないと解らないか…あの怪物(Love Gun)の強さは別物だから口で言っても理解は出来ないわよね……怪物と言えばこの二人も短期間で随分実ったわね…みほから聞いてはいたけどラブ姉はこの子達に一体何をやったのかしら……?』

 

 

 その小柄なボディにあるまじきけしからんサイズのたわわを装備した梓とオレンジペコの胸元を見てしまったエリカは、不謹慎だとは思いつつもついそんな事を考えてしまうのだった。

 

 

「あれ……?何か様子がおかしいであります」

 

 

 優花里の声で我に返ったエリカが大型モニターに目を向ければ、何やら焦った様子のラブが盛大に胸のたわわを揺らしながらLove Gunから飛び降りる姿が映っていた。

 

 

 

 

 

「何かトラブルか…?ラブのヤツが頭を抱えて座り込んでるぞ……」

 

 

 アンチョビが涙を零した事で騒ぎが収まりラブは反応が薄いと勘違いしたが、予想だにしなかったLove Gunの登場に充分驚いていた一同だった。

 しかし彼女達のあずかり知らぬ処で事態が思わぬ方向へ進んでおり、ラブの張り上げた声に気付いてそちらを見た時には既にラブは頭を抱えその場に座り込んでいた。

 

 

「フム…あの様子からすると大した事ではなさそうな気もするがはて……?」

 

 

 幼少期からラブを知るまほからすれば何かにつけて直ぐに騒ぐのがラブであり、その騒ぎ方である程度トラブルの度合いが計れるようであった。

 

 

「そうなのか?」

 

「いや、下らない事程ラブが大騒ぎするのは皆もよく知ってるだろ?」

 

「そりゃまぁそうだがいつもの大袈裟とはちょっと違う気がするぞ……?」

 

 

 アンチョビが顎で示す先で、ラブは何やら早口な英語でまくし立てていた。

 

 

「Aww……相変わらず興奮し過ぎるとあの子日本語話せなくなるのね~」

 

 

 ネイティブでも閉口するレベルのラブの早口英語を聞き取る事が出来ないケイは、開き直ったというか投げやりというかふざけた口調で肩を竦め首を左右に振っている。

 

 

「とにかくここでは事情が分からん、取り敢えずラブの所に行ってみよう……」

 

 

 

 

 

What are you saying!?(どういう事!?)▽¥♯F word!Why is it like that!? (何でそうなるのよ!?)ΨΩΦα@F word!Are you serious!?(それ本気で言ってんの!?)

 

「無茶苦茶だな……おいケイよ、やっぱり何言ってるか聞き取れんか?」

 

 

 アンチョビも別に揶揄うつもりで言った訳ではなく至って真面目に尋ねたのだが、彼女に改めて聞かれたケイは若干涙目で悔しそうな顔をしていた。

 仲間達が直ぐ傍まで来ているにも拘らず、人間の舌の動きの限界を超えているような高速言語と化した英語でオーバーアクションな身振りも交えて喚くラブは、それにすら気付いてはいなかった。

 

 

「全くしょうがね~なぁ、日本語で話すとこれでもかって位間延びしてるクセに……アイツの頭の中はホントにどうなってんだ?」

 

 

 アンチョビは無造作に髪をわしゃわしゃと掻きながら騒ぐラブを囲むAP-Girlsの輪の中に割って入ったが、そこで見た愛を始めとするAP-Girlsのメンバー達は表情の消えた顔で事態を静観していた。

 しかしより正確に言うのならば、それは静観ではなく放置と言うのが正しいだろう。

 何故なら彼女達の顔には揃って『面倒くさい』と書かれており、どうやら諫めたりするつもりはこれっぽっちもなくラブが息切れするのを待っているらしかった。

 

 

「コイツらはぁ……ホラ、通してくれ…オイ愛、これは一体何の騒ぎだ……?」

 

 

 たわわで形成された壁の間をすり抜けたアンチョビが最前列にいる愛の下に辿り着きその名を呼んだものの、その愛までもが他のメンバーと同様の表情で無言を貫いていた。

 

 

「ったく世話の焼ける…この人垣なら外からも見えないしカメラにも映らないか……オラ、いい加減もちつけラブ!……って聞いちゃいねぇ……てぃっ!」

 

『ふぁっ!?』

 

「──Σμ%★жF word!F word!F word!って、きゃ────っ!ち、ちちち千代美ぃ!?な、ななな何すんのよぉ!?」

 

 

 口で何か言っても今のラブには通用せぬと即座に判断したアンチョビは、つかつかと天に向かって喚くラブの傍へと歩み寄ると電光の速さでラブのミニスカートを捲り上げていた。

 アンチョビの予想外の行動に滅多な事では動じないAP-Girlsも相当に面喰ったらしく妙な声を出し、それまで支離滅裂に喚いていたラブも我に返り片手でミニスカートの裾を押さえながら、真っ赤な顔でアンチョビに突き付けた指をプルプルと震わせていた。

 

 

「何すんのよじゃない、オマエはさっきから何を馬鹿みたいに一人で騒いでたんだ?ちゃんと我々にも解るように説明…ん?何だ?どうした雁首揃えて……?」

 

 

 アンチョビの後を追ってAP-Girlsの人垣の間から顔を出したまほ達であったが、視界が開けた瞬間アンチョビがラブのスカートを捲り、所謂試合用の見せパンの類ではあるが凡そ高校生らしからぬデザインの大人のおパンツをモロに見てしまった一同は、真っ赤な顔で鼻から一筋顔以上に赤い鮮血を滴らせていた。

 

 

『やっぱりこの人達みんな変だ……』

 

 

 AP-Girlsの間に混じり事態を傍観していた新設校の隊員達は、ここまでの流れるようなアホなやり取りにラブに限らずそのお仲間達全員何処かおかしい事を認識したようだった。

 だがアンチョビの暴挙に言葉を失っていたラブはそれすらも気付かずにいたが、ショックから立ち直るなり早口英語で騒ぎ始めた。

 

 

「な、何って……あ──っ!そうよ大変なのよ!I can't believe it!(ホント信じらんない!)βξЯ──」

 

「スト────ップ!だから落ち着けと言ってるだろうが!もっぺんスカート捲られたいか!?」

 

「う゛……!」

 

 

再び暴走しかけた処でアンチョビにどやされたラブは、耳まで真っ赤にしながら恥ずかしそうに慌てて両手でミニスカートの裾を押さえ込んだ。

 

 

「おい、あ…ダメだコイツ拗ねやがった……誰か……鈴鹿!状況説明!」

 

 

 目尻に涙を浮かべアンチョビを睨み付けるラブは何やらブツブツと文句を言い続け何があったか中々説明しようとせず、仕方ないといった風にアンチョビは鋭い視線の矛先をこの状況でも一番冷静であろう鈴鹿へと向けていた。

 おそらく鈴鹿の方もアンチョビの視線が自分に定まった時にそうなるであろう事を予想していたらしく、命令を受けると小さく溜息を吐いた後に一礼し説明を始めた。

 

 

「交戦エリアの一角に小さな工業団地があるのですが、その中の一軒の工場で昨夜のうちに出荷する予定だった荷物を積んだトレーラーが故障して動けずにそのまま今も居座ってるそうで……」

 

「何だそりゃ?代わりのトレーラーを手配しなかったのか?」

 

「出荷が夜だったのと輸送を請け負っている会社が遠方な為に、代打のトレーラーヘッドの到着にも時間が掛かっているそうです…話がちゃんと伝わっていなかったらしく運送会社の方も今日横須賀で戦車道の試合がある事を知らなかったようで……まぁそんな訳で到着までまだ1時間程、退去は特例で横須賀横浜道路の佐原インターの規制を解除するので、トータルで約1時間半程試合開始が遅れると運営スタッフ達も見ています」

 

 

 鈴鹿の説明を聞いたアンチョビ達も、予想外の事態に拍子抜けしたような顔をしていた。

 

 

「はぁ~、でも何で今の今まで誰にも気付かれなかったんだ?」

 

「さほど大きくない工場とはいえ敷地内での事でしたので……それでそのまま夜明かししたドライバーが近所のコンビニに朝食を調達に出たらしいのですが、コンビニもとっくに臨時休業に入ってますからね。で、そこで騒いでいた処を安全確認の為に巡回していた警察の方に発見されたそうです」

 

「う~ん…試合前に一般人が試合会場に紛れ込む事は稀にあるがこれは珍しいな……」

 

 

 アンチョビが腕を組み考え込む仕草を見せると、それで説明責任を果たしたと判断したらしい鈴鹿は一歩下がり再び口を噤んだ。

 

 

「状況は解った、だが試合開始前がこの手のトラブルで遅れるのは割とよくある事なんだからそこまで大騒ぎする事でもなかろうに?」

 

「だってЁ&㎡℃──!」

 

 

 アンチョビが呆れ顔のままラブの方へと向き直ればまだ興奮が収まらぬ彼女は早口英語で暴走を再開しかけたが、アンチョビの手がスカート捲りの素振りを見せると慌ててミニスカートの裾を押さえながら口を噤むのだった。

 だがさすがのアンチョビもそこまで気付いてはいなかったが、同じ高校生として臨む最後の一戦に対する思い入れはとても強く、故にこの1時間のロスは彼女にとって耐え難いものだったのだ。

 

 

「まあこうなってしまっては仕方ない……我々としてはとにかく待つしかないからな」

 

 

 公式非公式を問わず年間を通してこなして来た試合数も断トツな黒森峰を率いて来たまほは、その分この手のトラブルも数多く経験しているせいかさばさばとした様子で肩を竦めて見せた。

 

 

「そういう事ならばカタが付くまでティータイムとするのは如何かしら?」

 

 

 ここぞとばかりに澄ました態度でダージリンはアッサムに目配せをしながらお茶会の準備に入ろうとしたが、先程説明を終えると即座に身を引いていた鈴鹿が一歩進み出るとその提案を遮った。

 

 

「お待ち下さい、ここは我々にお任せ頂けませんか?ラブ姉、私達こういう時の為の装備を整えたばかりじゃない、忘れたの?」

 

 

 一歩進み出た鈴鹿の背後にはブラック・ハーツのメンバーが集まり全員でラブを見据えている。

 その視線を受けてやっとラブも多少冷静になったのか、それまでのテンパった表情から一変してたわわな美少女達を束ねるAP-Girlsのリーダーの顔に戻っていた。

 

 

「そうか……それじゃあ早速──」

 

「ちょっと待ってラブ姉、残念ながら去年の6連戦の時は私達ブラック・ハーツまで出番が回って来なかったわ……だからここは私達に任せて貰えないかしら?」

 

「お~い装備って何だ?今度は何を始める気だぁ?」

 

 

 何やら意味不明な会話ながらもAP-Girlsがまた何かを始めようとしている事に不安を覚えたアンチョビだったが、これにはラブが答えるよりも先に鈴鹿が彼女にしては珍しい屈託のない笑みと共に種明かしをするのだった。

 

 

「あぁドゥーチェ、何も心配には及びません、いつもの繋ぎをやるだけですから」

 

「繋ぎ……?」

 

 

 鈴鹿の答えにアンチョビだけでなくその場にいるAP-Girlsのメンバー以外の者達が揃って不思議そうな顔をしたが、今度はそれに対してAP-Girlsが不思議そうな顔を返していた。

 

 

「皆さんとの試合の時にやりましたよね?車両毎のミニライブを……」

 

「え?…あ……?あぁ、繋ぎってそういう事か……」

 

 

 やっと鈴鹿が何を言っているか朧気ながら理解したが、まだ今一つピンと来ないのかアンチョビの返事は何処か曖昧なものだった。

 

 

「先程も言ったように6連戦の時は残念ながら私達ブラック・ハーツまで出番が回って来ませんでした……ですが今回不測の事態ながらその機会が巡って来ましたので、試合が可能になるまでの間私達ブラック・ハーツのステージを楽しんで頂こうかと考えています」

 

「でもステージの準備はそれなりに時間が掛かるのではなくて?」

 

 

 納得はいったが一切その為の設備がない環境にダージリンが当然な疑問を投げかけると、その疑問を誰かが口にするのを待っていたかのように鈴鹿は意味あり気な笑みを浮かべるのだった。

 

 

「ですからその為の装備がやっと出来上がったんですよ」

 

 

 それだけ答えた鈴鹿は人垣の間をすり抜けると軽い身のこなしでブラックハーツに飛び乗り、コマンダーキューポラのハッチに引っ掛けてあった咽頭マイクを首にかけた。

 

 

「こちらブラック・ハーツ鈴鹿、櫻聴こえる?」

 

 

 鈴鹿が無線でS-LCAC1号艇艇長の宮乃杜櫻(みやのもりさくら)を呼び出せば、AP-Girls上陸後その場で待機しつつ帰艦準備を進めていた櫻から間髪入れずに応答があった。

 

 

『はいこちら1号艇櫻です、鈴ちゃんどうかした?』

 

「ええ、早速あれを使う事態が発生したから愛莉(あいり)に言って3号艇に積んでる私達のコンテナを下ろして貰える?」

 

『あら?了解です』

 

 

 鈴鹿が3号艇艇長剣崎愛莉(けんざきあいり)を名指しで指名すれば、それだけで余計な事聞かず櫻はその指示に従い行動に移っていた。

 

 

「オイ鈴鹿、コンテナって何だ?」

 

「見ていれば解りますよ」

 

 

 コイツ等何企んでやがるといった感じで不審がるアンチョビに対し、鈴鹿はにっこりと笑うのみで詳しい事は何も説明しなかった。

 だがそうしているうちにも行動の早い櫻が艇長を務めるS-LCAC1号艇はエンジンを再始動すると早々に離岸し、それと入れ替わるように愛莉の3号艇が豪快に揚陸して来た。

 

 

「オラぁ!モタモタすんじゃねぇぞぉ!」

 

 

 揚陸した3号艇のエンジンが停止するなり轟いた愛莉の怒号に続き、素早い動きで作業を始めた搭乗員達の手で後部に搭載されていた謎の車両の固定があっという間に解除されて行く。

 

 

「あの子もしかして夏妃より口が悪いんじゃない!?」

 

 

 黙っていれば楚々とした雰囲気のある黒髪の大和撫子にしか見えぬ3号艇の艇長である愛莉だったが、カチューシャが言うようにその口の悪さは夏妃以上に思われた。

 しかし夏妃同様に口の悪さと指揮能力は比例せず、その卓越した指揮の下即作業は終了していた。

 

 

「なんだありゃ?」

 

「Who knows? でも私達が乗った時からあのコンテナ積んであったわよ?」

 

「そういえば私達の乗り込んだ4号艇にも積んでありましたわね……」

 

「ちょっと待ってくれ……よく見ればあのコンテナが乗っている台車は74式戦車じゃないのか?」

 

「なんですってぇ!?」

 

 

 空冷2ストV10ターボディーゼルのエンジン音を響かせS-LCACから降りて来たそのコンテナは、サイズ的にはJRが使用する20フィートコンテナに近い物であった。

 だがまほが気付いた通りそのコンテナを乗せているのは間違いなく陸自の74式戦車であり、既に退役も進みつつあるが未だ現役に踏み止まる古強者だった。

 

 

「だから何でこの学校は普通に現行装備を使ってんのよ!?」

 

「知らんがな……つ~か厳島なら何でもありだろ?いい加減学習したらどうだカチューシャよ?」

 

「……」

 

 

 キレるカチューシャにアンチョビが投げやりに突っ込むうちに上陸し目の前までやって来たコンテナ装備の74式は、油気圧サスペンションを駆使して車体の水平を取り始めた。

 そしてその作業が完了すると、今度は砲塔代わりにコンテナを旋回させ見物客に正対させる。

 

 

「ねぇ鈴鹿さん、もうそろそろ本当の種明かしをしてくれても宜しいんじゃなくて?」

 

「うふふ♪焦らなくてももう直ぐに解りますよ」

 

 

 焦らす訳ではないがダージリンの探るような視線を鈴鹿はさらりと躱し微笑んで見せた。

 実際鈴鹿の言った通り74式の上に乗ったコンテナからダンパーの類の圧が抜けるような音がすると、背面を残しコンテナが展開を始め中からライブハウスのステージが現れたのだった。

 

 

「成程…そういう事でしたのね……」

 

 

 現れたステージを前に漸く合点が行ったダージリンであったが、そのポカンとした表情は彼女の素の一面が現れ妙に可愛らしかった。

 

 

 

 

 

Merry Black Witches(陽気な黒魔女達)ねぇ…処でこれはロックでいいのかぁ……?」

 

 

 クールビューティ鈴鹿が束ねるブラック・ハーツのメンバーで構成されたMerry Black Witchesのステージは、開始早々に見る者全てのハートを鷲掴みにしていた。

 

 

「Hmm…多分ブルース・ロックだと思うんだけど凄いロック寄りに振ってるわ……でもそんな細かい事はどうでもいいっていうか、とにかくクールでかっこ良過ぎなのよ」

 

「はぁ?お前顔が赤いけど大丈夫か……?」

 

 

 アンチョビの疑問に答えたケイだったが、彼女はすっかりステージに君臨する鈴鹿とMerry Black Witchesの放つクールな色気に中てられていた。

 そしてかくいうアンチョビもまたその頬を微かにピンク色に上気させていたが、当の本人はその事に気付いてはいなかった。

 

 

「しかしアイツ等元気だな…試合前からあんなに暴れて大丈夫なのかぁ……?」

 

 

 呆れるというより少し心配げなアンチョビの視線の先では、ステージ前に集まったAP-Girlsのメンバー達がMerry Black Witchesの演奏に合わせ好き勝手に踊りステージに花を添えていた。

 彼女が一番心配する対象であるラブも当然のように他のメンバーと共に全開で踊り続けていたが、心配のあまりアンチョビは完全にラブの体力を見誤っていたようで、それは後の試合で証明されるのだった。

 

 

「いや…だからそんなに揺らすなよ……」

 

 

 ラブの様子を窺ううちに彼女の視線は、曲に合わせ上下左右に激しく揺れるラブの胸のたわわなアハト・アハトに釘付けになっていた。

 そして自分でも気付かぬうちに彼女も耳まで真っ赤になっていたが、熱だけは感じているようで真冬の寒さで冷え切った手を耳に当てその熱を冷ましていた。

 だがライブが終わればその熱が冷めぬうちに激しい戦車戦が始まる事を、ステージに熱狂する少女達はほんの一時忘れているようであった。

 

 

 




やっと鈴鹿のブラック・ハーツもライブが出来ましたが、
肝心のラブとLove Gunがまだなんですよね……。

当初ステージコンテナの台車は90式か74式でどちらにするか迷いました。
油気圧サスペンションのネタが使えればどちらでもよかったので、
結局は趣味を優先して74式に決まった感じです。

さて、次回からは漸く戦車戦が始まりますが果たしてどんな試合になりますやらww
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