ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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遂にラブとまほ達の高校最後の戦いの始まりです。


第五十五話   それぞれの戦場

『あら~、見事に全員内股ね……』

 

 

 エキシビションマッチに先立ち行われた揚陸パフォーマンスの直後に発覚したトラブルにより試合開始時間が遅れる事になったが、鈴鹿の機転で急遽行われたMerry Black Witches(陽気な黒魔女達)のライブでどうにか無駄に時間を過ごす事態は回避していた。

 だが、それぞれのスタート地点に戦車を配置した後に試合前の挨拶の為メイン観戦エリアとなっている平成町のうみかぜ公園に再集結した参加選手達は、鈴鹿達のクール且つアダルトな雰囲気溢れるステージにすっかり中てられAP-Girlsのメンバー以外は漏れなく内股でキュンキュンになっていた。

 両陣営に分かれて整列する内股の少女達を前に審判長の亜美は猫のように目を細め苦笑していたが、いつまでもそうしている訳にも行かず頭の中を仕事モードに切り替えた。

 

 

『それにしてもアイツのああいう処はさすがよね…仕事は出来るから助かるわ……』

 

 

 亜美が挨拶の前にチラリと目を向けた運営本部のテントの下では今回も亜梨亜のご指名により警備主任を務める英子が、交戦エリアと禁止エリアを分ける境界線の各所で警備の配置に付いている制服警官に指示を飛ばす姿があった。

 これまで彼女が観戦に来る度に色々とやらかして苦い思いもさせられたが、安全を預かる立場の今はそんな気配は毛程も見せずその有能さを遺憾なく発揮していたので、亜美も安心して自身の職務に集中する事が出来るのだった。

 

 

「さて、こちらも始めるとするか……皆さん準備はいいですね?」

 

 

 亜美の登場に整列待機していた選手達が一斉に敬礼し、亜美もそれに答礼で答える。

 それは試合前のいつもの見慣れた光景だったが、やはりこの時もAP-Girls以外の選手達は内股のままで絵的には何とも締まらないものであった。

 

 

 

 

 

「う~ん…彼女達は本当に一年生なんだろうか……?」

 

 

 愛機ティーガーⅠ212号車(ビットマン)のコマンダーキューポラ上で今更ながらな疑問を口にするまほは、自身のパンツァージャケットの胸元に手を差し込みグイっと持ち上げて見せた。

 

 

「だからそういう真似はよせ!」

 

 

 ラブ達新設校連合のスタート地点である久里浜港の東京湾フェリーのターミナルからも然程遠くない距離にある、佐原(さはら)交差点近くにある市内唯一の人工芝サッカーコート。

 そこをスタート地点と定め集結した三年生連合の戦車群の只中で、アンチョビは突然聞いているだけでも空しくなるボケをかますまほをどやし付けていた。

 

 

「ったく中継カメラだっているのにコイツは……それより西住、スタート地点がこんなだだっ広い遮蔽物のない場所でいいのか?ラブのヤツ例のアレを仕掛けて来るんじゃないのか?」

 

 

 嘗て中学時代はノックと呼ばれ、黒森峰留学時にはミカによって魔女の口付けと名付けられたラブの超長距離予測射撃を敢行して来るだろう事を指摘したアンチョビだったが、指摘を受けたまほの方は突然不機嫌そうな顔になって鼻を一つ鳴らしていた。

 

 

「ふん…いいんだよコレで……どうせ避けられないんだからな」

 

「お前ナニ開き直ってんだよ……」

 

 

 面白くなさそうな顔で腕を組んで開き直るまほは端から自分が狙われる事を前提に布陣を行ったらしく、ビットマンをサッカーコートのど真ん中のセンターサークルの中に停車させていたのだった。

 

 

「まぁ確実に狙って来るでしょうね」

 

「統計的に言ってもほぼ100%ですわ」

 

 

 涼しい顔でティーカップを傾けながらダージリンが当然のように言えば、愛用のノートパソコンを弄りながらアッサムも頷いて見せる。

 

 

「こういう時はマホーシャ一択よね!」

 

「はい、ラブはまほさんの事が本当に好きですから」

 

「へ~、ラブってそんなにまほちゃんの事が好きなんだ」

 

「ぐっ……!」

 

 

 完全に面白がっているカチューシャとノンナが実に嬉しそうにまほ弄りに加わると、ヘッツァーからひょっこりと顔を出した杏の天然な一撃がまほに止めを刺していた。

 

 

「Oh!アンジー止めてあげて~、まほのライフはもうゼロよ~♪」

 

「容赦なく抉りやがったな~」

 

 

 棒読みだが完全に声の笑っているケイのセリフに続き、指鉄砲でまほを撃つ真似をしたナオミは遠慮なくゲラゲラと笑ってみせた。

 

 

「オマエら煩いぞ!もう信号弾が上がるからいつでも動けるよう準備しておけ!」

 

 

 言いたい放題な連中相手に完全に不貞腐れたまほは、ビットマンの車内に引っ込むと荒々しくコマンダーキューポラのハッチを閉じてしまった。

 

 

「オマエらなぁ……」

 

 

 アンチョビがガックリと肩を落とし脱力するが、それでも仲間達は無責任に笑うのみだった。

 そして信号弾が打ち上げられ試合が始まって数秒後、全員が予想した通り飛来した徹甲弾は狙い違わずビットマンの砲塔を直撃し大きなエクボを刻み付けていた。

 

 

 

 

 

「それにしても本当にお久しぶりですこと」

 

「ええ、でもこうしてお会い出来て本当に嬉しいですわ」

 

 

 まるでサーキットのグランドスタンドを思わせる見通しの良い観客席には多くの招待客が集められ、提供される飲食物を楽しみながらも大型モニターに何度となくリプレイ映像が映し出されるラブの超長距離予測射撃に見入っていた。

 AP-Girlsの新設校リーグ戦優勝を記念して行われているエキシビションマッチの試合開始前、笠女学園艦は再度横須賀港に入港してベース内にある専用桟橋に接岸すると、基地司令を始めとする米軍関係者や財界の大物に加え、戦車道関連の有力者、更には地元横須賀のローカルVIP等の招待客を多数受け入れ試合観戦という名の接待を行っていた。

 寒い地上観戦スタンドと違いAP-Girlsの訓練場に隣接して造られたグランドスタンドは、強化ガラスのシールドが降ろされ空調が行き届き快適な温度が保たれた別世界だった。

 そのグランドスタンドの片隅で和やかに挨拶を交わす二人の女性のいで立ちは、和装とメイドドレスという些かその場には不釣り合いな物であった。

 菊代と雪緒、西住と厳島の両家それぞれに長年仕える女中頭とメイド長の二人は、良好な関係を築く主家と同様に親交があり、傍から見れば非常に仲の良い姉妹のようにも見えた。

 

 

『菊代!お願いだから公の場であまり馬鹿な事を言ったりしないでね!頼みましたよ雪緒さん!』

 

 

 談笑する二人を尻目に西住流家元の西住しほは厳島の当主である亜梨亜に連れられ、今後の西住流と日本戦車道にとって有益な存在となるであろうお歴々相手に挨拶行脚中であった。

 試合前、西住姉妹はしほと菊代がまた何かおバカな真似をしでかさぬかと危惧していたが、幸いな事に今回は亜梨亜が西住流の立場をより強固なものにする為に各界の名士に引き合わせる場を設けており、おかげで二人が観戦エリアに現れる事は無く、姉妹の心配は杞憂に終わっていた。

 だが逆にしほの方は同行して来た菊代を一人で野放しにする事になり、西住流最強のJoker(ババ札)とも噂される菊代が周囲に要らぬ事を言わないかと気が気ではなかったのだ。

 そんな彼女にとって唯一の拠り所は菊代と共にある雪緒の存在であったが、その雪緒とて菊代と馬が合う段階で既に普通ではなく安心材料とは言い切れなかった。

 

 

「しほちゃんどうかした?次は新日本油脂と太平洋興産の代表を紹介するわね……両社共に世界大会とプロリーグの公式スポンサードに大変興味をお持ちですし、今のうちにご挨拶しておいても損はないでしょう」

 

「あ、ハイ亜梨亜様……」

 

 

 自身の西住流家元の肩書に加え厳島グループの代表である亜梨亜の後ろ盾だけで充分ではないかと思わないでもなかったが、彼女にとって亜梨亜のいう事は絶対であり、その亜梨亜が弾く算盤もまた計算を誤る事がないのは解っているので今は黙って言う事に従う他道はなかった。

 

 

『相変わらず亜梨亜様の人脈は…そりゃ厳島は世界規模の企業だけど今日集められているのは全て何がしかの形で戦車道に関わりのある優良企業のトップばかりじゃない……』

 

 

 しほとてそれなりの人脈を有しているが、それは戦車道という枠の中に限られたものであり、今日引き合わされた各企業のトップとの顔合わせは彼女の力を以ってしても到底叶うものではなかった。

 だがバックに亜梨亜がいるとなれば話は全く異なった状況となり、今日一日でどれ程の新たな人脈が確保出来るかを考えるとしほは眩暈がするような感覚を覚えるのだった。

 

 

『濡れ手に粟ってこういう時に使っていい言葉だったかしら……?』

 

 

 些か不謹慎な事を考えながらもしほは亜梨亜の後に付いて名刺交換を繰り返し、事前に言われ多めに用意していた名刺は着々とその枚数を減らしていた。

 

 

「これは亜梨亜様、本日はお招き頂きありがとうございます…お嬢様のAP-Girlsは大活躍ですな、それに突然登場したパンター……あれは新車ですか?これは増々目が離せなくなりそうですよ」

 

「まさにサプライズですね、お陰で一緒に招待して頂いた娘も大はしゃぎですよ」

 

「ありがとうございます──」

 

 

 Love Gunの素性には触れる事なく亜梨亜は言葉巧みに話の方向を切り替えると、新日本油脂と太平洋興産の代表にしほを紹介するのだった。

 しほを紹介された二人もまた西住流家元とお近付きになれるまたとない機会に大いに気を良くしており、互いにとって実りある対面となっているのは間違いなかった。

 だがこれはまだ序の口であり、この日亜梨亜は娘の地元デビュー戦に託け集めた有力者をしほに紹介し続け、それは彼女が用意した名刺を全て使い切る頃まで終わる事はなかった。

 

 

パンター(Love Gun)か…修復を終えていたのなら一言言って下さればいいのに、こういう処は間違いなく親子……というよりやっぱりこの人こそが恋の母親だわ……』

 

 

 まほ達と同様に突如姿を現したLove Gunが、ラブの生みの親である麻梨亜の形見のパンターである事はしほも見た瞬間に気付いていた。

 肝心な事は何も言わずに周囲を振り回すのはラブの常套手段だがそれは母である亜梨亜にも当てはまる事で、ラブにいいように振り回されるまほ達の姿は学生時代亜梨亜に翻弄されたしほの姿そのままであった。

 

 

「さぁ次は東都精工の会長にご挨拶しましょう」

 

 

 しほが新日本油脂と太平洋興産の代表と名刺交換と一通りの挨拶を終えたと見るや、亜梨亜は次なるターゲットを見定めて突撃を開始していた。

 

 

「電撃戦ね……」

 

 

 先を行く亜梨亜の背を追いながらしほは溜息を吐くと、ケリーバッグから新しい名刺の箱を取り出し使い込み革の馴染んだ名刺入れに次々装填していった。

 

 

 

 

 

「何でアレが当たるんだ……?」

 

「そりゃあラブ姉だからに決まってるじゃない」

 

「答えになってないぞ……」

 

 

 ラブの挨拶代わりの一撃の後にフェリーターミナルを進発した新設校連合は、部隊を分散させる事なく比較的ゆっくりとしたペースでくりはま花の国への入り口を左手に見ながら、三年生連合がスタート地点と定めた佐原方向へと進んでいた。

 そんな中、エニグマの隊長を務める古庄晶(ふるしょうあきら)が騎乗するパンターG型の隣にクロムウェル巡行戦車を並走させて来た武田菱の隊長の國守真奈(くにもりまな)が、初めて間近に見たラブの超長距離予測射撃について疑問を口にしていた。

 だが返って来た答えは真奈の指摘した通り答えになっておらず、彼女は少しムッとした顔で晶を睨み付けたが全く気にした様子に見えなかった。

 真奈にしても晶が小学生の時に見たラブの試合の影響を受け、その戦闘スタイルをフルコピーする程ラブに憧れていた事は聞いていたのでそれを踏まえた上での質問だったのだ。

 しかしその晶を以ってしてもラブの超長距離予測射撃まではコピーする事は叶わず、結果としてそう答える事しか出来なかったのだ。

 

 

「あれだけは別…誰にも真似出来るものじゃないわ……」

 

「そりゃまぁなぁ……」

 

「でも今回これだけは絶対使ってみせるわ!」

 

「あ゛ぁ゛……」

 

 

 少し悔し気な色を垣間見せた晶であったが、その表情を一変させると車内から取り出したエニグマの校名入りの拡声器を掲げて見せ、途端に真奈は面倒そうにその顔をしかめていた。

 

 

 

 

 

『愛も気にしてたけどもう完全に大丈夫みたいね……』

 

 

 隊列の後方で晶と真奈の間でアホなやり取りがなされていたその時、新生Love Gunの車内では砲手である瑠伽が独りそっと安堵の溜息を吐いていた。

 何故ならこのLove Gunの砲手席こそ榴弾暴発事故によりラブが深手を負い人生が大きく狂った現場であり、そこに彼女が座り試合開始直後の超長距離予測射撃の発射ペダルを何も躊躇せずに踏み込んだ事はとても重要な出来事だったのだ。

 Love Gunが陸上自衛隊武山駐屯地の高等工科学校からレストアを終え戻って以降、ラブが当時を思い出し拒絶反応を起こさぬかが彼女達AP-Girlsにとって最大の懸案事項となっていたのだった。

 しかしラブは一切そんな素振りを見せる事はなく瑠伽に代わり砲手席に収まると、彼女の代名詞といってもいい超長距離予測射撃『魔女の口付け』を難なく決めて見せていた。

 コマンダーキューポラからその身を晒し颯爽と冬の風を受けるラブを見上げた瑠伽は、ホッとした様子でもう一度小さく溜息を吐くのだった。

 

 

『これで後は残り四両のパンターが届けば大分楽になるわね…それと問題になるのは新入生がどうなるかだけどこればかりは実際入って来ないと解らないか……』

 

 

 気分を変えようと肩の力を抜いた瑠伽が解放した後部ハッチからふと後続へと目をやれば、直ぐ後ろに付けるピンク・ハーツの車長である愛と目が合った。

 そこで彼女は砲撃前の自分自身と同じように心配げな顔をしている愛に向けて、何も問題ないといった風に親指を立てて優しく微笑んで見せた。

 すると愛もそれでやっと安心したのか、その口元に微かな笑みを浮かべたのだった。

 

 

「全員聞いて頂戴、もう間もなく三年のおばちゃん達と接触する事になるわ……でも決して初手から深追いはしない事、一撃離脱で連中をその気にさせる事に徹するのよ」

 

 

 瑠伽が近い将来の展望に想いを馳せたその時、隊列は進路上最初の危険個所と認識されているJR横須賀線の踏切に近付きつつあり、ラブはその注意喚起も兼ね無線で部隊全体に指示を出し始めた。

 

 

「アーニャ、この先のS字区間は見通しが悪いからあなたの部隊で先行偵察をお願いね」

 

『了解』

 

 

 アーニャが束ねるフサリア女学院高等学校のポーランド製戦車である10TPと7TPは、軽戦車故に装甲火力共に戦車道で戦うには厳しいものがあった。

 最も高火力な14TPでも47㎜砲であり絶対的な攻撃力が存在しないフサリアは、アンツィオ以上に火力面での苦労が絶えなかった。

 しかしその分小回りが利くため偵察任務や攪乱工作にはうってつけであり、ラブは本隊が踏切を渡る前にアーニャを先行させ進路上の安全確保を任せていた。

 ラブの命を受けたアーニャもそれを心得ているらしく、無線での指示に短く答えると部隊を引き連れ隊列を離れ、軍帽の羽飾りを風に揺らしながらLove Gunの横を駆け抜けて行った。

 

 

「メイプルは殿で後方の警戒をお願い、あっちにも足の速いのがいるから念の為にね」

 

『りょうか~い♪』

 

 

 クワイエットレボリューション(静かなる革命)ハイスクールの隊長メイプルは軽い調子で答えると、隊列から逸れその場で部隊を停止させると後方の監視を始めていた。

 

 

「晶とカレンは私に続いて踏切を超えて貰うわよ……あなた達の火力は攻撃の要、出番はもうちょっと後だからね」

 

『了解しました……』

 

『ラブ姉と一緒か~』

 

 

 冷静な騎兵隊長、同じファイアフライに乗るナオミがひそかに対抗意識を燃やすパーペチュアルユニオン(永遠の連合)のカレンが落ち着いた声で答えたが、もう一方の晶は少々面倒そうに語尾を伸ばして視線をラブに向けていた。

 

 

「何よ晶ちゃん……?」

 

 

 晶の含みのある物言いに振り向いたラブはジト目で彼女を睨み付けたが、晶はわざとらしく肩を竦めて見せるだけで全く堪えた素振りも見せなかった。

 

 

『いやぁ、だってラブ姉と一緒にいると集中的に狙われるのが目に見えてるじゃない?』

 

 

 言っている内容はともかくその声音と目は実に楽しそうであり、カレンなどはそんな彼女に向けてその手の嗜好の者に向ける冷めた視線を向けていた。

 

 

「だからカレンは何で私まで一緒の目で見るのよ……?」

 

『何か問題でも?』

 

「……」

 

 

 晶の戦車乗りとしての行動原理がラブの影響を色濃く受けているのは新設校連合の間では周知の事なので、その根源であるラブを同じ目で見るのは当然と言えば当然の事だった。

 

 

「とにかく!晶は例の作戦もあるんだから途中で脱落なんかしちゃダメよ!?」

 

『りょうか~い♪』

 

 

 頬を膨らませたラブが念を押すように無線に向かって叫べば晶はメイプルの口調を真似て答え、途端に部隊全体から笑いが起こるとラブは一層頬を膨らませていた。

 

 

「何でみんなして笑うのよ!?真奈!アンタ笑い過ぎ!踏切超えたら直ぐ風林火山には動いて貰うの忘れてないよね!?」

 

 

 Love Gunのコマンダーキューポラから身を乗り出したラブが指を突き指しながら無線に向かって叫んだが、返って来たのは更なる真奈の笑い声だけであった。

 新設校の隊員達は既にラブを同期生として扱っているのでその会話もすっかり砕けたものになり、それを望んでいたラブも彼女達との交流が本当に楽しそうだった。

 

 

 

 

 

「完全にまほ姉開き直ってたわね……」

 

「ダイレクトヒットだもんなぁ……」

 

「でもまさか一歩も動かないとは……」

 

「……」

 

 

 エリカとルクリリとカルパッチョがLove Gunの復帰早々に超長距離予測射撃を成功させた事に対する感想を言い合う中、爆炎が晴れた後再びコマンダーキューポラから顔を出したまほの憮然とした表情に妹であるみほは口元を引き攣らせて何も言えずにいた。

 

 

「覚えてる限りでも西住先輩がいる時は必ず狙ってたよな~」

 

 

 腕を組んで当時を思い出していたルクリリがウンウンと何度も頷くと、それに合わせてその現場に常に一緒にいたみほの表情が増々曇って行った。

 そんなみほの表情の変化を見ていたエリカはニヤリとすると、彼女の頬を人差し指でグリグリしながら意地の悪い声で楽し気に笑うのだった。

 

 

「ふふっ♪まぁアンタはいつもその巻き添えでとばっちり喰らってたもんね~」

 

「ひゃう!?ひゃ、ひゃめてエリカさん!」

 

 

 しかしエリカはグリグリする指を止める事なくみほの反応を暫く楽しんでいたが、不意に不敵な表情になると周囲の隊長達に嬉しくない事を言い放った。

 

 

「けど今度は巻き添えのとばっちりじゃ済まないわよ?来年度からは隊長の私達が狙われるんだからね……そうそう、クラーラも覚悟しておいた方がいいわよ?ラブ姉は多分もうあなたの考え方や行動パターンも見抜いているはずだからね」

 

「私もですか?」

 

 

 いきなり指名されたクラーラは自分の顔を指差し不思議そうにしていたが、エリカの方は無言で何度も頷いて見せるのみだった。

 

 

「…あまり考えないようにしてたけどやっぱそうなるよなぁ……」

 

「P40やセモヴェンテで耐えられるかしら……?」

 

 

 腕を組んだまま話を聞いていたルクリリは困った顔で首を傾け、装甲火力共に悩みの多いカルパッチョは切実な問題を口にしていた。

 

 

「そうだ西住さん、私達がラブ先輩と試合する時はウチ(聖グロ)に短期留学してくれない?そうすれば弾は全部あなたの所に飛んで行くから私達は安心出来るわ!」

 

「うえぇ酷いよルクリリさん……」

 

 

 如何にも名案だといった風にポンっと握った拳で反対の掌を叩いたルクリリが言い放ったあんまりなセリフに、みほが何とも情けない声を上げスタンドには爆笑が巻き起こっていた。

 

 

 

 

 

「ラブの奴め覚えてろよ……Panzer vor!」

 

 

 復活したLove Gunの洗礼を受けたまほは、その後仏頂面で部隊に進発の指示を出していた。

 解っていたとはいえ今回も見事にダイレクトヒットを喰らった事に腹立たしさもあったが、それでも作戦行動に対する指示に迷いは無く、彼女の指揮官としての才は確かなものであった。

 スタート地点であるサッカーコートを離れた三年生連合はその後直ぐ近くの佐原交差点を中心に展開し、確実に挑発を兼ねて進行して来るであろうラブを迎え撃つ準備を進めていた。

 先制ではなく迎撃をえらんだのは試合前のブリーフィングの席で、『どうせあのお調子者がジッとしてるはずはないからこちらから動いても燃料を無駄にするだけだ』とまほが言い放ったのを満場一致で受け入れたからであった。

 そしてその後は海千山千の女狐達が寄ってたかってラブ対策を話し合った結果、交差点には重砲を集めそこに至る道中の枝道に機動力のある車両を控えさせ、攻め上って来たラブを囲い込み袋叩きにする作戦が立案されていたのだ。

 

 

「いやぁ、ウチ(大洗)の西住隊長も言ってたけどお姉さんも大変だね~」

 

 

 声のした方へとまほが顔を向ければ、その面の皮の厚さ(重装甲)アハト・アハト(88㎜)の火力を買われ交差点を固める主力に加えられていたレオポンから、何か調整中であったらしいナカジマがスパナ片手に顔を出していた。

 

 

「ナカジマ君か…ラブのヤツは昔から私に下らない悪戯ばかりして来たからね……それより君達のポルシェ……レオポンは初めて戦った時に比べ随分と動きが良くなっているように見えるのだが?」

 

「う~んやっぱり解っちゃうか……さすが西住隊長のお姉さんだね~」

 

「私の事はまほでいよ……それよりレオポンは本当に見違えるように動きが良くなっているね」

 

「そう?まぁ今後の事もあるしお互い名前で呼び合った方がいいかもね~」

 

「ん?それはどういう──」

 

「それはまあ置いといて確かに今のレオポンはあの頃とは別物になってるのは事実だからね」

 

「格納庫でも聞いたがやはりそうか……」

 

 

 何かが気になったまほだったが直ぐにナカジマが話し始めたレオポンの現状に興味を惹かれ、彼女が語ったレオポンが辿った詳しい進化の過程に聞き入っていた。

 

 

「成程…そんな事もあったのか……」

 

 

 ナカジマだけではなくホシノとスズキも加わったレオポンの進化に関する話に何だかんだで戦車馬鹿なまほは興味津々だったが、臨時でレオポンに乗せられメカニカルな話などさっぱりで蚊帳の外なそど子は独り呆れていた。

 

 

「ふ~むもっと詳しく聞きたいが今は試合中だしな……」

 

「あぁ、それなら大丈夫。これからいくらでも話せるようになるさ」

 

「……?」

 

 

 ホシノまで何やら謎めいた事を言うので気になったまほだったが、タイミング悪く展開中の偵察部隊から無線報告が入りその話はそこで終わってしまった。

 

 

『仕方ない…試合が終わったらまた声をかけるか……』

 

 

 滅多に話す機会のなかった相手との会話は新鮮だったが、残念ながら試合後も中々時間が取れずまほの思惑通りに行く事はなかった。

 しかし彼女の願いは後に予想だにしない形で叶う事になるがそれはまた別の話であり、今のまほにはそこまで予想する事は不可能だった。

 

 

「おい西住!」

 

「あぁ解ってるまだ動かんよ、向こうも完全に様子見の偵察行動を取っているだけだからな」

 

 

 レオポンさんチームとのやり取りは面白そうに聞いていただけのアンチョビも、偵察部隊からの無線での報告を耳にするなりその表情を俄かに引き締めていた。

 そしてそのアンチョビに声をかけられたまほも動じた様子を見せる事なく、落ち着いた態度でそれに応えると、次なる報告を待つように無線のヘッドセットをかけ直していた。

 未だその姿こそ見えぬが彼我の距離は既に2㎞を切り、いくらゆっくりと進行しているとしても双方が接触するのは時間の問題だった。

 

 

「さてラブの奴めどう仕掛けて来る気だ?少数精鋭が基本の厳島流のお前がそれだけの大部隊をどう使いこなす?お手並みとくと拝見させて貰おう……」

 

 

 大部隊を操る事に慣れているまほは交差点の真ん中で不敵な笑みを浮かべている。

 アンチョビもその横顔に一旦口元を緩めると、次の瞬間には口角を吊り上げまほと同様に好戦的な笑みを浮かべ交差点の先を見据えていた。

 

 

 




今回しほさんはどれ位名刺を消費するんでしょうね?
でも菊代さんが野放しだから気が気じゃないでしょうねぇw

次回からはいよいよラブとまほの全面対決が始まりますが、
双方共にバックにはクセのある連中が控えているので荒れるのは必至ですww

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