ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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先週末は風邪貰って久しぶりに寝込みました。
幸いインフルや例のアレじゃなかったのは幸いですが……。

いよいよ今回から新設校の手の内が明らかになり始めます。


第五十七話   ポンコツ合戦

『おととととととと!』

 

 

 バンピーな路面コンデションの交差点に続く長く緩やかなRを描く曲線に大きなアングルのドリフトで進入した2両のパンターG型のコマンダーキューポラ上のラブと晶は、小刻みに激しく揺さぶられ何処かで聞いたような雄叫びを上げながら横滑りして行く。

 だが速過ぎる進入速度と路面のうねりに、2両共に姿勢を大きく乱しスピンを喫していた。

 

 

「あ!やりやが──」

 

「からの~ど────んっ!」

 

「──ったなーっ!」

 

 

 調子に乗るからだこのアホがといったニュアンスの籠った声でスピンするラブに向かってアンチョビが叫びかけたが、一回転したラブのふざけた叫びがそれを遮っていた。

 そしてその叫びを合図に2両のパンターの主砲から徹甲弾が撃ち出され、アンチョビとまほが搭乗するそれぞれのティーガーⅠの正面装甲を叩いていた。

 

 

「っく!このヤロウ!」

 

「ば~い♪まほ!スモーク!」

 

 まんまと挑発行動を成功させたラブはいつものピンクスモークでまほ達の視界を奪うと、晶を引き連れ元来た方へとサッサと逃げ出していた。

 ここで一応弁護するならば、まほ達とて何の備えもなしに陣地展開していた訳ではなく、交差点を中心に対峙する方向に被弾経始を稼ぐべく食事時の角度を取り陣形を組んでいたのだ。

 故に二人のティーガーⅠに撃ち込まれた徹甲弾も直撃しながらも跳弾し、それぞれ交差点近くのチェーンの釣具店とカーディーラーの建屋に大穴を開けていた。

 しかしそれでもⅢ号J型の長砲身60口径50㎜とは比較にならぬパンターG型の主砲である70口径75㎜はティーガーの主砲をも凌駕する高い初速を誇り、弾いたとはいえその直撃を受けたまほは激しく揺さぶられながらラブを睨み付け悪態を吐いていた。

 まほとてラブ相手に冷静さを欠き安い挑発に乗れば、セコい手で足元を掬われるのは彼女も頭では充分に解っている。

 だが解ってはいても試合開始早々に2発も挑発弾を喰らわせられたとなると、ここで冷静さを保つのは中々に難しいだろう。

 現に彼女は目を吊り上げ今にも追撃命令を下し、わざとらしくお尻を突き出しミニスカートを風にヒラヒラさせながら走り去ったラブを追って自身が真っ先に飛び出して行きそうだった。

 

 

「まほさんダメよ──」

 

「落ち着け西住!安い挑発に乗るな!」

 

 

 展開した陣地の第二列、まほの直ぐ後ろで事の成り行きを見守っていたダージリンだったが、激高したまほの背中にさすがに危機感を抱き諫めようとしていた。

 しかし彼女がストップをかけるより早くアンチョビがブレーキを踏んでいたので、身を乗り出しパンツァーフォーの命令を出しかけていたまほはコマンダーキューポラの縁をグッと掴み寸での処でそれを堪えていた。

 

 

「……解ってるよ!どうせラブのヤツの事だ、追えば途中に何かしょーもないトラップでも仕掛けてるって言うんだろ!?」

 

「解ってるならいい…それにしてもアイツはAP-Girlsじゃなくて早速あの晶とかいうラブの動きをコピーしてる子を使って来やがったな……」

 

「あぁ…ラブが大分抑えてるんだろうが即興であれだけ一緒に動けるんだから侮れんな……」

 

『あらあら、これは余計なお世話でしたわね……』

 

 

 ラブ相手となると途端に瞬間湯沸し器と化すまほを難なく御してみせたアンチョビと、彼女の言う事なら直ぐに聞くまほを背後から観察していたダージリンは、いつものティーカップを手にしたままヤレヤレと器用に肩を竦めていた。

 

 

「ですが確かにあのエニグマの隊長は少々厄介な存在ですわね…これ以上ラブとのコンビネーションのレベルが上がる前に何とかしないと後々面倒な事になりそうですわ……全くまだ一年の分際で中々立派な物をお持ちでいやがりますこと……」

 

「ねぇ、ダー様っていつもこんな調子な訳?」

 

「その辺どうなのよアッサム?」

 

「……」

 

 

 普通の高校一年生としては充分に発育の良い晶はラブと共にたわわをぷるぷるさせながら遁走していたが、スッと目を細めラブ達の走り去った先を見据えたダージリンはその思考が途中から完全に駄々洩れだった。

 そんな彼女のしょうもない呟きに疑問を投げかけて来たのはサンダースとプラウダから乗り込んで来た三年生二人だったが、答える代わりにアッサムは只面倒そうに眉を顰めていた。

 

 

 

 

 

「あれ~、付いて来ないねぇ……?」

 

 

 武田菱の隊長國守真奈(くにもりまな)と配下の風林火山を伏せさせたポイントの手前まで後退したラブは、いつもなら頭に血を上らせて追い掛けて来ているはずのまほの姿が影も形も見えない事に気付き、Love Gunを停車させて後方を窺い首を捻っていた。

 

 

「何か変に知恵が付いたかあの戦車脳め……」

 

 

 いくら待てども一向に追って来る気配のないまほに対し中々に酷い事を言うラブだったが、昨年の秋からとはいえこの二人の関係を見て来たLove Gunのメンバーから見ればどっちもどっちだった。

 

 

「そりゃこれだけやってりゃ普通学習するでしょ?」

 

「でも子供の頃から繰り返してる辺りでこの()()もお察しじゃね?」

 

 

 答えは解っているがそれでも言ってみた感満載な砲手の瑠伽呟きに、身も蓋もない受け答えをした装填手の美衣子の口調も相当に投げやりだ。

 

 

「ラブ姉どうする?もう一回仕掛ける?」

 

 

 瑠伽と美衣子が頭上のおっぱいを見上げ聴こえるようにヒソヒソやる中、この馬鹿げた挑発行為を毛程もおかしいと思っていないらしい晶が腕を組んで首を捻るラブの顔を覗き込んでいた。

 

 

「う~ん……同じギャグ二回やるのも何だかな~」

 

 

 凡そ戦車道の試合中のものとは思えぬラブの発言だが、これに関しても晶はツッコみの一つも入れる事なくラブと一緒に考え込み周囲を呆れさせている。

 

 

「やっぱラブ姉に小学生の時から感化されてるだけあって、この子もどっかおかしいわ」

 

「それも何を今更な感じね……お~いラブ姉、真奈に連絡してやんないと待ってんじゃない?」

 

 

 それぞれのハッチから座席を上げて顔を出していた操縦手の香子と通信手の花楓だったが、部隊全体に指示を出すフラッグ車の通信手なだけに、いつまでもこうしてはいられぬと花楓はラブに次の行動を起こすよう促していた。

 

 

「あ、そうだった…仕方ない一旦本隊と合流するか……花楓、その旨全部隊に通達してくれる~?」

 

「はいよ……」

 

 

 花楓は車内に引っ込むと、再集結して仕切り直す旨通達すべく無線機に取り付いていた。

 

 

 

 

 

「さすが千代美さん、完璧にまほをコントロールしているわ♪」

 

 

 ラブと晶のふざけてはいるが驚異的なパフォーマンスに沸き返るAP-Girlsの練習場併設のグランドスタンドでは、しほがキレかけたまほの手綱をアンチョビが難なく捌いて見せた事にみほが見たら卒倒しそうな満面の笑みで賞賛していた。

 

 

「それでいいのしほちゃん……?」

 

 

 自分の娘の舐め切った行動を棚に上げ、手放しでお気に入りのアンチョビを称えるしほに亜梨亜は呆れたような顔をしていた。

 

 

「何を仰います亜梨亜様、あれだけ出来たお嬢さんがまほの隣にいてくれるならこれ程心強い事はありませんから♪そんな千代美さんが西住家に入ってくれるとなれば我が家の将来も安泰というもの…その為にも三年前の事も含め卒業式の後、大学入学前に一度千代美さんのご両親にご挨拶に伺わなければなりません……ですがあれだけのお嬢さんを育てたのですから、ご両親もさぞや出来た方達なのでしょうね」

 

 

 多忙を極める身故に中々時間が取れず延び延びになってはいたが、それでも夫である常夫と共にアンチョビの実家に挨拶に行くアポイントは取っていた。

 しかしそれまでの言動に呆れていた亜梨亜の様子が一変し、日頃の彼女からは想像も付かぬオロオロとした態度でしほに縋り付いた。

 

 

「あ、亜梨亜様!?な、なんですか急に……?」

 

「しほちゃん!お願いだからその時は是非私も一緒に連れて行って頂戴!」

 

「……!だから何度も早くご挨拶に行かれた方がいいと申していたではないですか!」

 

 

 しほの忙しさなどとは比べものにならぬ程多忙な身である亜梨亜は、未だアンチョビの両親にラブの事故の際の件に関する挨拶を果たしていなかった。

 だが忙しさ以上に完全にタイミングを逸した事ですっかり腰が重くなっていた亜梨亜は、しほの話に便乗する気満々で彼女の腕を掴み離そうとはしなかった。

 

 

「だって忙し過ぎて全然時間取れないんだもん!」

 

「子供ですか……」

 

 

 昔から時折ポンコツと化す亜梨亜だが、そのタイミングがいつも狙ったように最悪な為に、しほは暗澹たる気持ちで脱力し大きく肩を落としていた。

 

 

 

 

 

「ふ~む…あそこまで消極的だといっそ全軍で一気に攻め込んでやった方がよかったかしら……?」

 

 

 まほが挑発に乗らず追撃もなかった事に納得行かぬ様子のラブは、作戦の方針の変更を迫られどうしたものかと天を仰ぎブツクサと呟いていた。

 彼女としては追って来たまほ達の背後から風林火山に奇襲させた上で、自らも反転し本隊と合流の後に挟撃の態勢に持ち込むつもりであった。

 だが実際にはアンチョビがまほの抑え役として機能していたのでラブの思惑通りに事は運ばず、結果的に彼女の最初の一手は不発に終わったのであった。

 

 

「最終的には発電所の跡地でドンパチやるんだろ?なら最初からそっちに誘導すりゃよかったんじゃね~のか?風林火山の機動力ならそれ位余裕で出来るぜ?」

 

 

 武田菱の隊長の真奈は待ちぼうけに終わり出番がなかった事で消化不良なのか、相手が猛者揃いなのにも拘らずかなり力技な事を平然と言ってのけていた。

 しかし美少女ながらもワイルドな印象で野武士然とした雰囲気のある彼女なら、どんな相手でも本気で言った通りに暴れた上で余裕で帰って来そうだった。

 

 

「さすがにそれはちょっと…まだこれから暴れる場面はいくらでもあるから今はもうちょっと待ってくれる……?」

 

 

 夏妃と同じで多少の事は有無を言わさぬスピードと力技で押し通してしまう真奈は、例え相手が黒森峰だろうが全く臆する事なく仕掛けるだけの度胸と技量を持ち合わせているので、ラブもその点は心配していなかったが、まだ試合は序盤であり彼女も多少は慎重さを見せていた。

 

 

「そうか?ラブ姉がそう言うなら従うけどな……」

 

 

 真奈はそう言うと陣羽織のようなパンツァージャケットを翼のようにはためかせてLove Gunの砲塔から宙に舞うと、周囲を取り囲む戦車の砲塔から砲塔へと次々跳躍を繰り返し自らが車長を務めるクロムウェルへと戻って行った。

 

 

「あら~、八艘飛びね……」

 

「八艘飛びって、義経じゃあるまいし…でもラブ姉よく八艘飛びなんて知ってたわね……?」

 

「私を何人だと思ってるのよ……?」

 

 

 飛び去った真奈の背を見送ったラブの呟きに地図を片手に状況を確認していた晶が思わずそんな事を言ってしまったが、すかさず目の据わったラブに絡まれていた。

 等身が日本人離れしたラブだが、そう言われると視線はつい彼女の今にもパンツァージャケットのボタンを弾き飛ばしそうな胸のたわわな徹甲弾へと向いてしまうのだった。

 

 

「どこ見てんのよ……?」

 

 

 毎度のお約束とはいえ、刺さる視線にラブの声は一段階トーンが下がっていた。

 

 

「ラブ姉、もう一度私達を偵察に出してくれる……?」

 

「アーニャ……?」

 

 

 ラブが晶相手に実にしょうもない事で絡み始めたその時、フサリアの隊長のアーニャがいつの間にかLove Gunの砲塔の直ぐ傍まで登り声をかけて来た。

 

 

「それはいいけど連中もさっきより警戒してるはずよ?」

 

「えぇ、だから今度は道路は通らずに工場の敷地を抜けて行くわ」

 

「工場を……?」

 

「大丈夫、いくら軽戦車とはいっても民間工場の塀や壁程度で行く手を阻む事は出来ないから」

 

 

 気高い猛禽を思わせる鋭さと美しさを兼ね備えたアーニャが、控えめながらも自信を持って言い切るとラブであっても口を挿む余地はなかった。

 

 

「…解った、それじゃお願いするわ……でもくれぐれも気を付けてね?」

 

「それこそ大丈夫よ、私達が逃げ足じゃラブ姉にも引けを取らないのは知ってるでしょ?」

 

「もう…アーニャったら……」

 

 

 新設校リーグ戦においてフサリアと対戦した際、AP-Girls相手にアーニャは水際立った戦術と引き際で善戦しラブを大いに感嘆させていたのだった。

 その記憶も新しいラブは困ったように笑いながらも、それ以上の事は何も言わずアーニャが再び偵察に出る事を認めていた。

 

 

Chodźmy!(行くぞ!)

 

 

 校名であるポーランドの有翼重騎兵の如く愛馬である10TPに軽々と飛び乗ったアーニャが進発の指示を出せば、即座に軽戦車の一群が動き出し無駄のない動きで工場の敷地内に走り去って行った。

 

 

「ん~♪アーニャってやっぱ()()()よねぇ♡」

 

「あ……やっぱこのおっぱいそういう目でアーニャの事見てやがったか!」

 

 

 アーニャの背を見送ったラブがうっとりと呟くとすかさず夏妃が罵倒するが特に堪えた風でもなく、好色な妄想にでも浸っているのかたわわを抱き締めその身をくねらせていた。

 

 

「え~?だってあの凛々しいアーニャにあんな事やこんな事されるの想像しただけでもう……♡」

 

「このど変態が!朝っぱらからそのめでたいお頭の妄想垂れ流しにするんじゃねぇ!」

 

 

 キレた夏妃に更に激しく罵倒されても今のラブは柳に風で、何を言っても効果がなかった。

 

 

「…ねぇ愛、あなたはいいの……?」

 

「……何が?」

 

 

 凡そ試合中とは思えぬ光景だがお察しなラブと愛の関係を意識した晶の問いに対し、返って来た愛の答えは何処までも素っ気なかった。

 

 

『これが正妻の余裕ってヤツなのかしら……?』

 

 

 完璧にラブに毒されている晶は相当にポンコツな感想を抱いていたが、このアホな状況下にも拘わらずそれに流されず冷静に先の事を考えている者もいる事はいた。

 

 

「ラブ姉ちょっといいかしら?」

 

「え?あ……何かしらカレン?」

 

 

 パーペチュアルユニオン(永遠の連合)の鉄血騎兵隊長水瀬(みなせ)カレンは、冷静な態度を崩す事なく話の切れ目を待って落ち着いた口調でラブに語り掛けた。

 

 

「アーニャを偵察に出した以上何も策がない訳ではないと思うけど、もし何か仕掛けるならそろそろ私達に出番を貰えないかしら?」

 

「カレン達に……って事はまさか?」

 

「ええそうよ、Fortress cannon(要塞砲)を仕掛けさせて貰うわ」

 

「アレか……」

 

 

 その名を聞いた途端ラブが渋茶でも飲んだような顔になったのは、新設校リーグ戦の際にカレンの言った要塞砲なる戦術に散々苦労させられたからに他ならなかった。

 まるで拠点防衛の要塞のようにM6重戦車やファイアフライを軸に密集隊形を取り、重砲による波状攻撃を仕掛けられると、Ⅲ号J型のみでは近寄るのも儘ならず悪夢以外の何物でもなかった。

 

 

「という訳で私達は陣地構築の為に本隊から離れさせて貰うわ。今回はメイプル達にも加わって貰って火力をアップするから、ラブ姉は頃合いを見て上手い事キルゾーンに敵のフラッグを引っ張って来てくれる?」

 

「あぁ…そう……」

 

「それじゃあメイプル行きましょう」

 

「は~い♪」

 

 

 表情一つ変えずそれだけ言うとカレンはクワイエットレボリューション(静かなる革命)のメイプルと共に本隊を離れ、必殺のFortress cannon(要塞砲)を仕掛けるべく動き出していた。

 

 

「ホント騎兵隊長様(カレン)ってストイックよね…同じアメリカ系の学校なのにあのサンダースのケイとの差って何なのかしら……?」

 

 

 スタイルも風貌もケイ以上にヤンキーな印象のカレンだが性格の方は真逆であり、所属する学校の特徴から新設校連合の中で彼女は騎兵隊長様と呼ばれていた。

 

 

「ラブ姉!カレンが要塞砲やるなら風林火山とAP-Girlsで背後に回り込んで追い立てて来るわ!」

 

「は?私達も一緒に?」

 

「いや、ラブ姉は敵さんが動き出したら晶達と要塞砲のキルゾーンに引き摺り込んでくれ!」

 

「そりゃいいけど……」

 

「てな訳で行って来るわ!スピード最優先だからな!」

 

「ちょっとアンタ達……」

 

 

 真奈と夏妃が畳み込むように話を纏めると、AP-Girlsのメンバー達もそれに異を唱える事なく風林火山と共にあっという間に走り去っていた。

 

 

「え~と……」

 

 

 彼女の指示を待たずにサッサと行動を起こす新設校連合を言われるまま見送ってしまったラブは、一瞬自分は要らないのではなどと愚にも付かぬ事を頬をポリポリしながら考えていた。

 

 

「ほらラブ姉、パンターを軸に突撃陣形組むよ?当然センターはラブ姉だからね」

 

「センターてステージじゃあるまいし……」

 

 

 何か釈然としないものを感じながらも晶に促されたラブは操縦手の香子に突撃に備えるよう指示を出し、自身は背後で隊形を整えつつあるエニグマの戦車群に目を向けていた。

 

 

「やっぱり新設校の中じゃ断トツの戦力ね……」

 

 

 全10両中4両のパンターG型と同じく4両のⅣ号、加えて強力無比なアハトアハト(88㎜)を搭載したヤークトパンター2両で構成されたエニグマの戦車隊はラブが呟く通り新設校の中では屈指の攻撃力を有し、新設校リーグ戦もAP-Girlsに次ぐ戦績を納めていたのだ。

 思いもよらぬアクシデントでⅢ号J型のみでスタートを切る羽目になったAP-Girlsのリーダーであるラブとしては、メンバー達に要らぬ苦労を掛けた事に対する忸怩たる思いもあった。

 だが厳島流の戦闘機動に耐えられるだけの戦車造りには一切の妥協は許されず、当時はそれ以上の選択肢がなかっただけに彼女の胸中は複雑だった。

 

 

『こちらアーニャ、ラブ姉聴こえる?三年生連合は現在横浜横須賀道路高架下付近で変則的ながらもパンツァーカイルを形成しつつあり…これはいよいよ本気で来るわね……楔の先端は西住まほよ……もう間もなく進軍を開始するわ、ラブ姉も動くなら急いだほうがいいわ』

 

「王道で来たか……さすがね、それでこそまほだわ」

 

 

 僅かばかりの間思考が目の前の戦いから逸れたラブであったが、アーニャからの無線連絡が耳に入るやその瞳に好戦的な光を宿していた。

 

 

「AP-Girlsみたいには行かないかもしれないけど柔に鍛えてはいないから期待してくれていいわ」

 

 

 まほに対抗すべくLove Gunを先頭に楔を形成した晶がラブに自信たっぷりな笑みを見せれば、背後でそれに付き従うエニグマの各車の車長達も同様に不敵な笑顔を見せていた。

 並み処かそれなりに実力のある学校であっても、まほと対峙するとなれば緊張や恐怖を隠す事が出来ないのが普通の反応だろう。

 だが新設校連合の隊員達は臆する処かむしろ積極的に、まほだけではなく強豪を率いて来た猛者達に喰らい付こうと虎視眈々と狙っているように見えた。

 

 

『単に怖いもの知らず…なだけじゃないわね……』

 

 

 自分と戦った時もそうだが、晶達が海千山千の古狸達を相手にしても全く動じる事なく普段通りに実力を発揮している事は少なからぬ驚きだった。

 

 

 

 

 

「どうもラブ姉が指示を出す前に独自の判断で動いてるっぽいわ……」

 

 

 まだまだ冷え込みの厳しい季節、観戦エリアのスタンド上で聖グロ勢が用意した紅茶で喉を潤し暖を取ったエリカは、その様子から彼女達がラブの指示を待たずに行動を起こしている事に気付いていた。

 試合が動き始めて早々に顔を見せた新設校の一年生の自主性の高さは黒森峰のような強豪校の一年生に一番欠けている部分であり、それは今試合中のまほ達も気にしている一面であった。

 

 

「あの判断力や行動力…ウチも含めてここに揃っている各校の一年生にあるかしら……?」

 

 

 意味あり気にエリカに水を向けられた新隊長達は答え難そうにするが、別にそれを気に留めた風でもなく彼女はそのまま一人話を続けた。

 

 

「絶対的な存在である先輩に対する絶対的な依存…ま、これに関しちゃ私がその筆頭ね……でも何処の学校も大なり小なりある事なはずよ?」

 

 

 自嘲的に肩を竦めながらエリカはみほに向き直ると、その顔に指を突き付け人の悪い笑みで上から目線でねめつけるように指摘した。

 

 

「あぁ……けどやっぱり筆頭はみほ、アンタかもね?」

 

「ふぇっ!?」

 

 

 今となればその才能は疑うべくもないが、彼女ですら黒森峰が連覇を逃したあの日までは絶対的な存在の姉に依存し、それが当たり前の事であると疑う事もしなかった。

 しかし大洗に逃げた彼女には戦車道で頼る事の出来る()()は存在せず、牽引する立場になった事でみほは初めてまほの苦労を知ったのだ。

 だが新設校の一年生には初めから頼るべき先輩が存在しないので、何でも自分達で考え行動せねばならなかった。

 それこそが新設校と既存の学校の一年生の一番の違いであり、その結果彼女達が身に着けた自主性と判断力と行動力は強豪校の一年生ですら遠く及ばぬ程高かったのだ。

 

 

「別に責めちゃいないわ、ここにいる一年生と嘗て一年生だった私ら全員が同じ穴の何とやらなんだからね……あぁ、でもアンタんトコ(大洗)一年坊主共(ウサギさんチーム)は斜め上の規格外か」

 

 

 後学の為に各校現役の主力選手を連れて来ていたが、紅茶を振舞った後当然のようにちゃっかりと隣に座るオレンジペコ相手にあたふたしている梓に目をやったエリカはニヤニヤと笑っていた。

 全員がド素人な上に戦車はポンコツなM3でジャイアントキリングを連発したウサギさんチームを率いる梓は、エリカのようなガチな戦車乗りからすれば存在そのものがあり得なかった。

 

 

「エリカさぁん……」

 

 

 ウサギさんのみならずチームを上げて変わり者揃いな事を自覚しているみほは、何とも情けない声を上げエリカの更なる笑いを誘ってしまっていた。

 

 

 

 

 

「隊列は整ったがさて…偵察部隊を全部戻したのは早まったか……おい西住!もう一度偵察を出すか?こちらも動くがラブのヤツもまた何か仕掛けて来る頃合いだと思うんだが?」

 

 

 道幅に合わせ変則的ながらも装甲の厚さと火力にものを言わせたパンツァーカイルの第二列、まほのビットマンの直ぐ後ろの右翼を固めるポジションにベルターを付けたアンチョビは、楔の頂点で前方を見据え微動だにしないまほの背中に向けて辺りに響くエンジン音に負けぬよう声を張り上げた。

 

 

「いや!これ以上ヤツの好きにさせるつもりはない!俄か仕立てとはいえこれだけの厚みで突き進めばそう簡単に抜く事は出来んさ、勿論後方の警戒は厳にするがな!」

 

「そうか、ならいい!」

 

 

 隊長であるまほの方針が決まっているならアンチョビもそれに異を唱えるつもりはなく、彼女の指示に従って行動すると腹を括っていた。

 

 

「それにしても……」

 

 

 まほの指示に従うとは決めていたアンチョビだが、同じ第二列左翼に目を向けた彼女はその配置に少し意外そうな顔で目を丸くしていた。

 

 

「やぁドゥーチェ宜しくね~♪」

 

 

 レオポンことポルシェティーガーのコマンダーキューポラからお気楽に手を振るナカジマに軽く手を挙げて応えたアンチョビは、改めて隣に並ぶ極めて特殊な戦車を眺めていた。

 

 

『フ~ム…最近は壊れなくなったらしいが、今回はよく観察させて貰うとするか……』

 

 

 笠女の整備班から提供された物資を使い改良を重ねた結果、最近では滅多な事では故障しなくなったレオポンは、他校から見ても格段にその脅威度が上がっていた。

 故障しなければ火力装甲共にティーガーⅠと同等なポルシェティーガーは充分恐ろしい存在であり、自動車部謹製のギミックを搭載している事を考えれば脅威度は寧ろ上回っていると言えた。

 

 

 

「そうか了解だ……うむ、後方はダージリンに任せた」

 

 

 機動性に難のあるブラックプリンスとKV-2を最後列に配し後衛としたまほは、ダージリンからの無線連絡で隊列が整った事を確認すると左の掌に右の拳を打ち付け不敵に口角を吊り上げた。

 

 

「これ以上あの邪悪なおっぱいを調子に乗らせるな!」

 

「おいおい……」

 

 

 咽頭マイクを押さえまほが飛ばした檄にアンチョビは困った顔で小さく突っ込みを入れる。

 しかし闘争心に火が付いたまほの耳にその声は届く事はなく、前方を睨み付けた彼女は薙ぎ払うように右手を振ると部隊に進軍の命を下した。

 

 

「行くぞ!一年坊主を叩きのめせ!パンツァーフォー!」

 

 

 まほが下した命に従い履帯が軋みを上げ鋼鉄の野獣の群れが動き出した。

 

 

「なんつ~か戦車使った姉妹喧嘩だよな~」

 

 

 だがアンチョビはまほの背にラブが彼女を妹扱いする理由の一端を見る思いだった。

 

 

 




今回は揃いも揃って結構なポンコツぶりを発揮してくれましたw
この分だと試合も相当にドタバタするでしょうww

新設校の面々も中々にフリーダムで書いてても楽しいです♪

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