「Tanks move forward!」
「あぁヤバい…熔けそう……♡」
鏃の先端であるLove Gunのコマンダーキューポラに収まるラブの艶っぽい唇から独特なハスキーボイスで放たれる命に、その背後に付き従う晶は蕩けた雌の顔でその身を震わせた。
三年生連合を向こうに回し欠片もビビった処を見せぬ新設校連合の隊長達は、ラブが指示を出すより先に各々のチームの特色を生かした行動に移っていた。
中でも武田菱の風林火山とAP-Girlsはラブをエニグマに任せると、速度重視の奇襲を仕掛ける為サッサと出撃してしまたのだった。
だがラブもまた彼女達の自主性を尊重し割り振られた役回りを受け入れると、
「うぅ…晶ちゃんの視線がネットリと……」
しかし小学生の時にラブの戦う姿に心奪われ、彼女の戦闘スタイルをフルコピーするに至ったエニグマの隊長である晶の少々危ない熱っぽい視線を背中に感じたラブは、何とも言えぬむず痒さに口元をヒクヒクさせながら指揮を執っていた。
「真正面からやり合って撃ち負ける事はないが、さすがにⅢ号の50㎜とは訳が違うな……」
三年生連合とラブ率いる囮の突撃隊は、行動を起こして数分後には正面から激しく激突していた。
懐に飛び込み相手の首を斬り飛ばすような近接戦闘を当たり前に仕掛ける厳島流のスタイルからすれば余裕で攻撃をかわせる距離で始まった砲撃戦の最中、三年の時を経て姿を現したLove Gunを前にビットマンのコマンダーキューポラに収まるまほは感慨深げに呟きを漏らしていた。
重装甲と高火力を誇るティーガーを前面に押し立て全軍を上げて力押しで攻める三年生連合に対し、ラブ率いる新設校連合はLove Gunを頭にエニグマのみが従う編成で立ち向かっている。
しかし片側二車線で決して広いとは言い難い道路の緩い曲線区間では数の多さはメリットにならず、結果的に戦力的な均衡が保たれ一進一退の攻防が続いていた。
「いや…それは単なる言い訳だな……私が本物のLove Gunの存在感に押されてるんだ」
今も一旦ディフェンスラインを下げると見せかけ一気に突出したLove Gunに肉薄されアンチョビとナカジマの援護を受けて凌いだまほは、右に左にLove Gunを振り回し援護の集中砲火を回避しながら後退するラブの姿を見送りながら素直に現実を認めるのだった。
「無事か西住!?」
「あぁ大丈夫だ!だがこのままでは埒が明かん、見通しの利く場所まで前進しないとダメだ!」
「解ってる!だがLove Gunとエニグマの姿しか見えんのが怪し過ぎだ!」
アンチョビに言われるまでもなく別動隊の奇襲を警戒したまほは、後衛に脚は遅いが面の皮の厚いブラックプリンスとKV-2を配し、彼女の意図を酌んだダージリンもカチューシャと共に前面装甲を後方に向ける形で守りを固めていた。
ラブの小細工で新設校の情報が不足している事も勿論だが、単騎でも既に充分脅威となりうる存在であるAP-Girlsの姿が見えないのが目下最大の不安要素だった。
「ったくラブといいAP-Girlsといい、姿が見えても見えなくても厄介だから質が悪い……」
ラブを警戒して前方に注意を払うまほの背中に叫んだアンチョビも、周囲に警戒の視線を巡らせながらぼやきが口を衝いている。
エニグマを引き連れ正面切って鍔迫り合いを繰り返すラブと、いつもなら彼女と一緒に派手な戦闘機動で喰らい付いて来るはずのAP-Girls姿がない事で、まほを始めとする三年生連合の意識はどうしてもそちらに持って行かれていた。
だがこれは決して彼女達の注意力が散漫だからという訳ではなく、ラブ渾身の演技によって知らず知らずのうちに意識を誘導されているからに他ならなかった。
何しろ陽動でありながらも一切躊躇する事なく先陣を切って敵本隊に肉薄し、あわよくば大将の首を上げんと斬りかかる様には本気以外の何ものも感じられず、守勢に回らねばならぬ立場に立たされる側はとてもではないがそこまで考える余裕などないのだった。
「お~いドゥ~チェ~、ちょっといいかな~?」
「ん?ナカジマか…どうした、また何かトラブルか……?」
どうにかラブの猛攻を凌いだまほが再度攻勢に転じようとする背後で、アンチョビのベルターと並んで戦列を支えたレオポンからナカジマがサーキットテスター片手に顔を出していた。
笠女から供給された資材で改良を重ね、最近では滅多に故障せず稼働率も目覚ましく向上したレオポンだったが、基本的に問題児である事に変わりはなかった。
なのでナカジマが手にするテスターを見てアンチョビは今の攻撃で不具合発生かと表情を曇らせたが、彼女の視線に気が付いたナカジマがいつもの調子でそれを否定していた。
「あぁ大丈夫大丈夫、まだ何処も壊れちゃいないよ」
「そうか、ならいいんだが……」
まだまだ試合は始まったばかりの状況で戦力ダウンを避けたいアンチョビとしては、些細なトラブルが原因で戦列に穴が開くのは避けたかった。
「大丈夫よ安斎さん、
「アンチョビ…え?あ……風紀委員長か……」
つい習慣で訂正しかけたが、思いもよらぬ相手であるそど子から突然名字で呼ばれたアンチョビは、一瞬何と呼ぶべきか迷った末に彼女の大洗での肩書で呼び掛けに応えた。
「私ももう風紀委員じゃないんだけど、まぁいいわ…それよりレオポンの事なら今も言ったように何も問題ないわよ……まぁ正直実際にこの目で見ると呆れたけど大したものだわ、試合中に動いてる戦車修理しちゃうんですからね」
「あ?」
「安斎さんだって全国大会決勝の中継は見てたでしょ?ナカジマさんが走行中にぐずったレオポンの故障個所修理した場面を」
「え?あぁ…まあな……」
決勝当日いの一番で現地入りしたはいいが早過ぎたが為に調子に乗って夜通し宴会をした結果、その後寝入って肝心な試合を寝過ごして見ていなかったなどとは口が裂けても言えぬアンチョビは、見ていた事を前提に話すそど子に対し曖昧な返事でお茶を濁すのだった。
「いやぁそんな大袈裟な話じゃないよ委員長、大体さっきやってたのも修理じゃなくてちょっとした調整だからね~」
「え?そうなの?」
思わず挙動不審になりかけたアンチョビの様子をそど子が不審に思う前に、ナカジマが相変わらずな軽い口調で彼女の言った事を修正していた。
「それでその調整とは一体どういう事だろう?」
「うん、それこそがさっき言いかけた事なんだけど、次に厳島さんが仕掛けて来た時に試したい事があるんだけどその許可が欲しくてさ」
「許可?それはいいんだが具体的に何をやる気なんだろう?おい西住!」
さすがに作戦行動となれば自分一人で許可を出す訳にも行かず、攻めるにしても守るにしても隊列を整えるべく指示を飛ばすまほの名を呼んだ。
「どうした安斎?今後衛のダージリンに警戒レベルを更に上げるよう連絡した処なんだが……」
振り向いたまほはどうにか退けたとはいえ先程の攻撃でギリギリの所まで肉薄され相当表情が険しかったが、アンチョビに向き直った途端その顔つきが柔らかくなっていた。
『うわぁ…すっげ~変わりよう……』
その豹変ぶりにツッコミの一つも入れたかったが、状況が状況だけに皆胸の内に留めたのだった。
『ラブ姉聴こえる?こちらアーニャ、敵の隊列の状況を確認したわ…隊列後方、後衛にはブラックプリンスとKV-2を正面装甲を後ろに向けて配置……さすがに抜かりがないけど隊列は長く伸びてるわ』
アーニャからの無線報告を受けたラブは咽頭マイクに手を当てたまま暫し考え込んでいたが、報告内容からそろそろ頃合いかと腕時計に目を落としていた。
「それでアーニャ、アチラさん陽動やら偵察やら部隊を分散させたりしてない?」
『いえ、今の処それはないみたいね……只じきに動き出しそうな感じがするわ』
「了解、そろそろこっちも仕上げに移る頃合いか……いいわ、次の突撃でタイミングを合わせて後退してカレンの
只単純に後退すれば簡単に罠の存在を見破られ、まほも追撃戦に転じる事はなく、カレンの要塞砲も不発に終わってしまうのは目に見えていた。
故にラブはここまで一歩間違えれば自滅必至なギリギリの突撃を繰り返し、まほを始めとする猛者達の注意を逸らす事に全精力を注いでいたのだ。
云わばここまでの一連の行動は彼女の迫真の演技であり、疑ってはいても深く考える時間を与えない事で自らの術中にまほ達を絡め捕りつつあった。
『ならアタイらがケツを蹴っ飛ばして追い掛けざるを得ないようにしてやんよ』
「夏妃!?」
『今真奈のヤツが直接見える所まで偵察に出てるから代わりにアタイが全体の指揮取ってんだけどよ、もういつでも攻撃出来るポジションに到達してるぜ』
武田菱の風林火山と行動を共にしているAP-Girlsは、三年生連合の殿を任されたダージリンとカチューシャを直接狙える距離まで忍び寄っていた。
「迂回した割にエライ早かったわね……」
結果的に仕掛けるタイミングにピッタリ間に合ったAP-Girlsと風林火山の即席チームだったが、別行動を取ってからの経過時間を考えると試合序盤にも拘わらず後先考えぬ全速力で突っ走ったのが明白なので、ラブは少々眉を顰めていた。
「ま、いいわ…それでそっちはこれからどう動くつもり……?」
『あまり凝った事をやるつもりはねぇよ…っと、待ってくれ……』
無線越しにどうやら偵察から戻ったらしい真奈が夏妃に向かって何やら報告している声が聴こえ、その後途切れた無線の前でラブは夏妃からの応答を待った。
『…そうか解った……ラブ姉、敵さんじきに動き出しそうだからそのタイミングで仕掛けるのがベストだろうって言ってるぜ、これに関しちゃアタイも同意見だ』
夏妃と真奈の判断は迷いがなく、ラブもそれで問題なしと見てその作戦に許可を出すと、要塞砲の陣地展開と偵察の為に別行動中のカレンとメイプルとアーニャに無線で指示を飛ばした。
「みんな聞いた通りよ…次の攻撃のタイミングで突撃部隊は作戦に
『アクションを起こすタイミングはこちらから指示を出す形でいいかしら?』
ラブのふざけたもの言いに乾いた笑いが起きた後、偵察部隊のアーニャが作戦の成否のカギとなる指示出しの役割を買って出ると、ラブは即決でそれを了承し各部隊は作戦開始に備えていつでも動けるよう態勢を整えて行った。
「成程な……確かにそれなら十分にラブの意表を突く事が出来そうだ」
「話は解ったがちょっと待ってくれ、大学選抜戦であれをやった後確かレオポンは……」
反転攻勢に出るべく隊列を再編していたまほは、アンチョビに呼ばれナカジマからレオポンの奥の手を使ってラブの意表を突き均衡を崩す作戦の提案を受けると、それまでの慎重な表情から一変し納得した様子で頷いていた。
しかしアンチョビの方は選抜戦の際EPSによる超加速の後、エンジンの方が音を上げブローした事を思い出し、序盤からその手を使う事を躊躇していたのだ。
「あぁ、それなら本当に大丈夫、その辺は厳島さんのお陰で大幅に改善出来てるから…まぁそれでも回数制限はあるけど1回2回程度でどうにかなるような事はないよ……実はそんな訳でさっきもその調整をしてたんだよね~」
「そうなのか……?でも回数制限って?何回位まで行けるものなんだ?」
「あ~、それはちょっと企業秘密ってヤツかな~?」
ナカジマもさすがに手の内を全て晒すのはマズいと思っているようで、お気楽な笑みを浮かべ、後頭部をスパナでポリポリしながら話の細かい部分は誤魔化していた。
だがまほの方はそれで充分だったらしく、その顔に不敵な笑みを浮かべると、鼻息も荒く拳を握り締めては交互に指をポキポキと鳴らすのだった。
「もうあまり考えている時間もないしその手で行こう、これなら間違いなくラブのヤツに一泡吹かせてやれるさ……やってくれるかナカジマ君?」
ここまでは試合の主導権をラブに握られっぱなしでストレスを溜め込んでいたまほは、やっと巡って来た自分のターンに戦意を滾らせているように見えた。
「勿論だよ、尤もあの厳島さん相手じゃ私らに出来るのは、精々がトコ一発ぶっ放して脅かす程度の事しか出来ないけどね~」
「それで充分だよ…見てろよラブのヤツめ、そういつまでも好きにさせてなるものか……」
まほは前方に視線を戻すと再び挑発して来るであろうラブに向けどすの利いた声で呟くと、それに備えて隊列の再編を急がせるのだった。
だがこの時はラブもまほも互いの思惑とタイミングの全てが噛み合った結果として、次の接触が試合序盤最大の撃ち合いとなるとは欠片も予想してはいなかった。
『Tanks move forward!』
『Panzer vor!』
「始まったわね…二人共そろそろ均衡を崩しにかかる頃合いじゃないかしら……?」
「うん…多分そうだと思う……」
観戦エリアの巨大モニタースクリーンの小さな分割画面にはラブとまほが同時に部隊に前進の指示を出す姿が映し出され、さらにその背景のような大きな分割画面では両軍の隊列が動き出す様子が上空からの空撮で映されていた。
その二人の様子と動き出した戦車群のが放つ物々しい雰囲気からエリカは二人がそれまでの様子見や牽制とは違い、戦況を変える為に本気で動き出した事を本能的に感じ取っていた。
そしてみほもまた映し出された姉の横顔から、エリカと同様に彼女の本気を見出していたのだ。
「でもこうして向かい合った横顔を見比べるとやっぱり二人ってどこか似てるのよね……熊本で全員揃った時に成程って思ったけど、こうして並ぶと改めて血縁者だってのがよく判るわ」
「う……」
熊本で勢揃いした際に発覚した事だが、母親似であるまほに対し、そのおっとりとしたみほの目元は父親である常夫によく似ていたのだった。
「ナニ?まだ気にしてんの?アンタだってまほ姉と並べば姉妹だってのがモロ解りだしラブ姉とだって同じなんだからね?」
「ふぇっ!?」
敬愛するまほと姉妹であるのみならず、今や押しも押されぬアイドルであるラブとも遠縁とはいえ親戚であるみほのほっぺを、エリカは面白くなさそう顔でムニュっと引っ張っていた。
「全く何でこんなのがあの厳島恋と血縁者なのかしら?時々マジで腹立つのよね」
「ふぇぇっ!?なんでみんなまで!?」
それは完全に八つ当たりだったが、エリカの理不尽極まりないセリフにルクリリやカルパッチョまでもが腕を組んでウンウンと頷き、ショックを受けたみほは情けない悲鳴を上げたのだった。
「ほら、いつまでバカやってんの!ちゃんと見ときなさい、ラブ姉が動き出したわよ」
「エリカさん酷い……」
いいようにエリカにオモチャにされたみほはいじけるが、エリカの方は既に他の者達とこの先の展開の予想し合っていた。
「ま、ラブ姉はまほ姉達を例のパーペチュアルの重砲陣の前まで引っ張りたいんだろうけどね……」
「アレはAP-Girlsも結構てこずってたよな?でもあの超密集隊形程後先考えてない攻撃陣形を私は今まで見た事ないぞ?」
「あれは殆ど要塞ですよね……」
対AP-Girls戦でカレンが見せた極端な密集隊形による攻撃は、実際身動きも儘ならぬ車間距離で行われる為にそれに伴うリスクも非常に高いものだった。
だがそれでもその破壊力は絶大であり、その難攻不落な城壁を思わせる陣形を奇しくもカルパッチョは
「要塞か…言い得て妙ね……
「やめてくれ…そんなん攻略するのに何日かかるか解ったもんじゃない……大体それじゃもう戦車道じゃないだろうが……」
だが何やら考え込んでいたエリカが突然言い出した戯言に、その悪夢のような光景を想像したルクリリが心底嫌そうな顔をする。
「要塞道なんてあったかしら?」
「オイ……」
「冗談よ」
「笑えないぞ……」
「二人共、ラブ先輩が加速したわよ?」
エリカとルクリリがアホなやり取りをするうちに楔の先頭を行くLove Gunが増速し、その様子は何処から見ても全力で突撃を行うようにしか見えなかった。
「大丈夫見てるわよ……あ~、如何にも本気で突撃してるようにしか見えないわよね~」
「あの人本気と冗談に全然差がないからな~」
一応窘める風にカルパッチョが声をかけるも、二人はセリフを棒読みするような調子で答える。
だが周りにいるラブと対戦経験があり主に巻き添えで彼女の本気の冗談の餌食なった事のある者達は、全員揃ってしょっぱい顔をしていた。
「こうやって第三者の立場の目で見てれば多少は違いも分かるけど、現場でやり合ってる最中はそこまで見極める余裕なんてラブ先輩与えてくれないものね……」
一旦舞台に上がればラブは本気であれ陽動であれで一切手を抜く事がなく、相対する者達も終始気を抜く暇を与えられずその見極めは非常に困難であった。
そして今のカルパッチョの呟きも皆の気持ちを代弁したものらしく、それぞれが自らの経験に照らし合わせ胃の痛みを覚えたのかお腹の辺りを撫で擦っていた。
「あ…AP-Girlsと武田菱も動き始めたよ……」
「どういう事?後退してるじゃない……」
いじけていたみほが指差したサブスクリーンに映るAP-Girlsと風林火山は、前後の間隔の狭い一列縦隊を形成すると直交する交差点から距離を取るべく後退を始めていた。
「連携して仕掛けるんだろうけどあれ指示出してるのはラブ先輩じゃないだろ?」
「それはあれよ、あの偵察に出てるアーニャとかいう子が全体の目の役割を担ってるみたいね」
試合が最初の山場を迎えつつある状況で映像の情報量も増え始め、皆分割画面に忙しなく目を走らせては情報収集に余念がなかった。
「一年生だけでここまでやるか……」
事ある毎に際立つ新設校の一年生達の自主性は、その度に強豪校の隊長達を唸らせる。
「傾向的に見ると先輩に対する依存度は多分サンダースが筆頭だと思うわ…次いで聖グロにプラウダ、そして黒森峰って感じかしら……」
「アリサさん……?」
それまであまり口を開かなかったサンダースのアリサの指摘に不意を突かれたみほが目を丸くするが、それに構わずアリサはそのまま話を続けた。
「フレンドリーでフランクな分どうしてもサンダースは先輩に頼る傾向が強いのよ…聖グロもティーネーム持ちに対する依存度が高いから似たり寄ったりね……プラウダと黒森峰も同じと言えば同じだけど、2軍3軍の競争意識が激しい分マシだと思うわ」
「へぇ…意外によく見てるじゃない……でもアンツィオと大洗が抜けてるわよ?」
「それ聞く?どっちも斜め上過ぎて評価のしようがないわ」
「ふぇっ!?」
面白そうにツッコミを入れるエリカに対するアリサの答えは素っ気ない上に容赦がなく、みほは目を白黒させたがカルパッチョは苦笑するのみだった。
「因みに知波単は?」
「帝国陸軍の鉄の規律をどう評価しろと……?ホラ、いよいよ激突するわよ?」
答えが解っているはずのエリカの問いにアリサの答えはにべもなく、その口調のまま試合が動く事を指摘するとその後は再び口を噤んでしまった。
「来たな…調子に乗って飛ばしてやがる……ナカジマさん、突出するタイミングは本当にこちらに任せて貰っていいんだな?」
『あ~いいよ~、っていうかその方が間違いがないでしょ~?』
「了解した!」
重戦車を従え先頭切って突き進むまほは、今回の作戦のカギを握るレオポンの車長であるナカジマに再度確認を取ると視線を前方に戻し、迫り来るラブを睨み付けた。
「あの単細胞め、性懲りもなく先陣切って突っ込んで来るわ~」
どんな局面でも一番目立つ場所に身を置く自分の事を棚に上げ、ラブは肩を竦めて見せる。
『ラブ姉、夏妃と真奈も準備完了よ』
「了解よ、それじゃあの子達の突撃のタイミングはアーニャに任せるわ~」
『了解、ベストなタイミングでトップスピードで突撃させて見せるわ』
エリカが不審に思ったAP-Girlsと風林火山の後退は、突撃時にトップスピードに乗せるのに必要な助走距離を稼ぐ為の行動であった。
これが成功すれば前後からの攻撃に晒された三年生連合の隊列が大きく崩されるのは必至であり、下手をすれば取り返しのつかない損害を被る可能性も高かった。
その一方でレオポンが仕掛けるカウンターが決まれば、フラッグ車であるLove Gunが討ち取られそこで試合が決まる可能性もあった。
当然その緊張感は一般の観戦客達にも伝わり、観戦エリアには奇妙な静けさが広まり始めていた。
「確か西住と厳島の両家は血縁関係だったわね…二人揃って平気で矢面に立つとか行動が似てるのはその辺が関係してるのかしら……?」
AP-Girlsの訓練場に隣接するグランドスタンドで笠女生徒会長の結依を膝に乗せたメグミは、激戦必至な最前線に余裕で居座るラブとまほについそんな事を呟いていた。
「大洗にいらっしゃる妹のみほさんも含めて、皆さん揃うと血縁者なのがよく解りますよ」
「…そうなんだ……」
蟠りこそもうないが、それでも大洗の名はメグミにとってまだ微妙に心の機微に触れるワードであり、結依の解説に彼女の反応は僅かに遅れていた。
「うふふ♪厳島隊長とまほさんも将来はあそこにいらっしゃるお二人のようになるのかしら?そう考えるとちょっと素敵だとメグミお姉様も思いませんか?」
「え…お二人って……ぐっ!」
結依の視線をメグミが追えばその先には何処かの企業のトップと挨拶を交わす亜梨亜としほの姿があり、不意を突かれた彼女は思わず言葉に詰まるのだった。
『素敵って結依ちゃん…やっぱこの子も普通じゃないわね……』
笠女のような特殊極まりない環境で生徒会長の要職に就くだけあり、その優秀さも飛び抜けている結依だったが、性格や度胸なども相当にぶっ飛んでいるのはメグミも既に把握していた。
「ほらメグミお姉様、厳島隊長が一気に斬り込んで行きますよ」
「そ、そうね……ってあれは!?」
結依の声に我に返ったメグミが中継映像に目をやれば、そこには丁度ほぼトップスピードで突撃するLove Gunの姿があった。
それまでの突撃とは比較にならぬ高加速の突撃にメグミはラブの本気度を感じ取ったが、次の瞬間に起こった予想外の事態に大きく目を見開き絶句していた。
メグミとて大学選抜では中隊を任される実力の持ち主だが、その彼女を絶句させる程の事態とは果たして一体何だろうか?
膠着しかけた状況の均衡を崩すのはラブとまほのどちらか?
揺れるヤジロベエのようにバランスを保っていた試合はその揺れ幅が大きくなり、今戦況を見守る者達の目はどちらに大きく傾くのかその一点に集中している。
あまり絡んだ事のない者同士を絡ませるのは、
書いてて大変な面もあるけどその分楽しいです。
次回は戦闘が中心になりますがそれも相当ドタバタしたものになる予定ですw