ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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今回より悲惨なのはまほとみほの果たしてどちらかw


第六十話   No Mercy

「出たよ……」

 

 

 ラブがそれを手にすると、心底嫌そうに呟いたアンチョビの顔からは一切の表情が抜け落ち、半眼になったその目は完全に死んでいた。

 そんなアンチョビとは対照的に、まほは今にも口から火でも噴きそうな憤怒の形相でラブを睨み付け、猛る肉食獣のような低い唸り声を上げている。

 

 

「キタ──────ッ!キタキタキタキタ来ちゃったよ──────っ!」

 

 

 その一方で、負の感情を露にする二人とは更に対照的にテンションMAXな晶は、完全に精神のタガが外れた様子で狂喜していた。

 

 

「キタ──────ッ!拡声器キタ──────ッ!」

 

 

 高々と掲げた後に大仰なポーズで笠女の校名が手書きされた拡声器を不敵な笑みで肩に担ぐ様は、レバーアクションのウィンチェスターを担ぐ西部開拓時代のガンマンのようだった。

 だがどれだけカッコ付けても担いでいるのは拡声器であり、その間抜けさが過去に受けた仕打ちと合わせて一層まほを怒らせていた。

 しかし小学生の頃にラブの試合を見て以降、彼女に心酔しその戦闘機動をフルコピーするに至った晶にとっては間抜けな拡声器ですら憧れのアイテムであった。

 それが証拠に晶が搭乗するパンターG型にはエニグマの校名入りの拡声器が常備されている程なので、至近距離でラブが拡声器を構える姿を見る事が出来たのは望外のご褒美だった。

 但し喜んでいるのは晶のみで、まほを筆頭にその拡声器の餌食になった経験のある者達にとってその姿は腹立たしい以外の何ものでもなかった。

 

 

「マジマジマジぃ!?こんな間近で見られる日が来るなんてヤバ過ぎる──────っ!」

 

「晶あんた……」

 

「いきなり壊れたな……」

 

「実家の晶の部屋ってさ、中学時代のラブ姉の記事の切り抜きとか写真で溢れてるらしいよ……」

 

「ラブ姉が絡むと途端にコレか……」

 

 

 挑発行動に出るラブの為に揮下の部隊を下がらせた晶だったが、ラブが拡声器を構えた途端に日頃の冷静さは何処へやら、いきなりポンコツと化した隊長にフラッグ車の搭乗員達は珍獣でも発見したような奇異の視線を向けていた。

 

 

 

 

 

「出たわね……」

 

「……」

 

 

 潮が引くように急速にエニグマ戦車隊が距離を取りスペースが確保されると、それまでとは明らかに違う速度で新生Love Gunは戦闘機動を見せていた。

 そしてLove Gunのコマンダーキューポラ上でラブが校名入り拡声器を構える姿は、観戦エリアに設置された巨大モニタースクリーンにも映し出されていた。

 エリカも中学時代主に巻き添えだが幾度となくその被害を被った経験があり、ラブが拡声器を担ぐ姿に苦い溜息と共に短く一言それだけ呟いたが、隣にいるみほは黙して語らずこれから起こる悲劇に只鬱な表情を浮かべるのみだった。

 

 

「あ~あ、あの嬉々とした顔……」

 

 

 まほを弄る気満々なラブの顔には人を食ったような質の悪い笑みが浮かび、如何にもご愁傷様とでもいったニュアンスながらも投げやり気味にルクリリが行儀悪く頬杖を突きながら呟いた。

 

 

「他人事だからってそんな…あ、始まりますよ……」

 

 

 少し困った顔のカルパッチョが窘めかけたが、それに合わせたようにそれまで以上にLove Gunの機動が激しくなり、彼女もそこで話を中断してしまった。

 

 

「それにしてもよ?香子はⅢ号の時と全く変わらないレベルでLove Gunを振り回してるけど、あれは一体どういう事かしら?いくらあの子が優秀せも納車されてからまだ日が浅いはずなのに……」

 

 

 エリカの指摘する通りLove Gun自体の慣らし運転は済んでいるようだが、操縦手の香子が慣熟出来る程の時間はなかったはずで、幾らラブ指導の下鍛え上げられたAP-Girlsだとしても短期間でそこまで乗りこなせるとは彼女にも考えられなかった。

 

 

「まぁその程度の事は聞けば隠さず答えてくれるとは思いますけどね……」

 

 

 エリカの疑問は尤もだが、それに答えたカルパッチョも少々自信なさ気だった。

 だが彼女達が抱く疑問など知らぬラブは要塞砲の前にまほを引き摺り出すべく、本格的に激しい戦闘機動で単騎駆けを仕掛け始めていた。

 

 

 

 

 

「ったくアンタは()()一年生相手に何消極的な事やってんのよ~!?」

 

 

 集中砲火を浴びせられながらも飛来する徹甲弾を余裕で悉く躱すLove Gunの戦闘機動は激しくも美しく踊るように見え、高い操縦技術から繰り出される技の数々に見る者は思わず息を飲むのだった。

 シングルディファレンシャルのパンターには超信地旋回が不可能だったが、その加速力と操縦者の荷重移動技術を武器にLove Gunは疑似的な超信地旋回でクルクルと華麗に直撃必至な徹甲弾を回避し続けていた。

 

 

「やかましいこのペテン師が!毎回毎回適当な事吹聴しやがっていい加減にしろ!」

 

 

 拡声器パフォーマンス最大の犠牲者であるまほは、砲撃指示の合間に挑発を始めたラブに向かって肩を怒らせ怒鳴り返したが、怒鳴られたラブはその声などまるで聴こえていないかのように本格的にまほの事を弄り始めた。

 

 

「何が適当よ~?私概ね事実しか言ってないわよ~?」

 

「それが嘘だと言ってるんだ!大体概ねって何だ概ねって!?」

 

 

 拡声器を使うラブに対して地声で叫ぶまほは既に肩で息をしているが、ラブはそれすらも速攻で拾っておちょくるネタにしていた。

 

 

「アンタ何肩で息してんのよ?現役引退して身体鈍ってんじゃない?まさかお腹の肉掴めるようになったりしてないでしょうね?」

 

「何だとぅ!?オマエと一緒にすんなこのおっぱいデブ!」

 

「や~ねぇ、貧乳の僻みぃ?」

 

「だっ、誰が貧乳だぁ!?」

 

 

 その手の事には無頓着なまほだが鍛え抜いたスタイルにはそれなりに自信があるらしく、顔を真っ赤にしてわざとらしくたわわな胸部重装甲を揺らして見せるラブに怒鳴り返した。

 

 

「だから乗せられるなってあれだけ言ったのに…って、言うだけ無駄か……」

 

 

 自身も砲撃の指示を出すが、高速機動での近接戦闘でLove Gun当てるのは至難の業であり、これが挑発行動である事はよく解ってるアンチョビの指示は散発的だった。

 事前に注意はしたが彼女もまたつい乗せられてしまうのであまり強い事は言えず、複雑な表情でキレてアハトアハトぶっ放すまほの背中を見ていた。

 だがそのアンチョビの頬が微かに赤みを帯びているのは、たった今ネタでラブがディスった程良く発育し鍛えられて引き締まったまほの肢体が脳裏に浮かんでいたからだ。

 何しろ昨夜も宛がわれた宿舎のいつもの部屋でやりたい盛りのまほが迫るのをどやし付け何とか早めに床に就いたはいいが、お約束で寝惚けた彼女に黒森峰短期留学時にラブがやられたのと同様にその可愛らしく敏感なたわわの先っちょをちゅ~ちゅ~された為に、まだ僅かにヒリヒリしていたのだ。

 

 

「ぐぬぬぬぬぬ…デカきゃいいってもんじゃない……撃てぇ!」

 

「ほっほっほ♪甘い甘い、そんな腑抜けた狙いで当たるものかぁ!」

 

 

 挑発を繰り返しながらも後退を続けるラブに釣られたまほに引き摺られ、前衛部隊は後続と一時的にとはいえ分断された分比較的早いペースでキルゾーンに向け移動を続けていた。

 

 

「ほらまた外した!ほんっと成長しないわね~、お姉ちゃん情けないわ~」

 

「だから誰が誰のお姉ちゃんだ!?」

 

「あら?あらあらあら?舌ったらずな喋り方で私の事恋おねえしゃんって呼びながら後を付いて回ってたのは何処の誰だったかしら~?」

 

「そ、そんな昔の事!一体何年前の事だと思ってんだぁ!?」

 

 

 初めて会った当時のエピソードを暴露されたまほはそれこそ茹でダコ状態な顔で抗議するように怒鳴り返したが、その程度の事でラブが口を噤むはずもなく、彼女の()()は増々エスカレートして行くのだった。

 

 

「いや~♪一生懸命背伸びして私の真似をするまほは可愛かったわ~♡そういやアンタ私がブラ使い始めて間もない頃、お風呂上りに私のブラを必死に自分の胸に宛がってたわよね~」

 

『ぶふぉっ!』

 

 

 ラブの放り投げた爆弾に、その場にいた者達と観戦エリアにいる者達が一斉に吹く。

 

 

「うううウソを言うなウソを!」

 

「あら!?私いっこもウソなんか言ってないわよ~?」

 

 

 次々と幼少期の可愛らしくも恥ずかしい失敗談を世に晒されたまほは、今や完全にブチギレモードで冷静さなど欠片も残ってはいなかった。

 

 

「ちょ!その話私は聞いてないぞぉ!?」

 

 

 幼稚園を卒園後の春休みに熊本を訪れたラブが既にブラジャーを着用していた事は以前聞かされていたが、その後日談に関しては初耳であったアンチョビがワクテカ顔で興奮気味に叫ぶ。

 幼いまほの写真は熊本訪問時に西住家で目にしていたので、その幼いまほがドキドキしながらラブのブラを身に着ける姿を想像したアンチョビは興奮が抑えられずハァハァが止まらない。

 

 

「ああああんざいぃぃぃ!ウソだ!こんな話信じるなぁぁぁ!」

 

 

 ラブの口を封じようと躍起になっていたまほは突如背後から聞こえたアンチョビの魂の叫びに驚いて振り向くと、そこには目を血走らせて興奮するパートナーの姿があった。

 思いもよらぬ事態に絶望的な表情で断末魔の叫びを上げたまほは、前に向き直ると涙目でラブの事を睨みながら震える指を突き付け怒声を上げていた。

 

 

「オマエいい加減にしろよぉ!いつも適当な事ばっか言いやがって絶対ぶっ飛ばしてやる!」

 

 

 だがまほの事を完全に妹扱いするラブにはそれこそお姉ちゃんに食って掛かる小さな妹程度にしか見えていないのか、それすらケラケラ笑いながら受け流すのだった。

 

 

 

 

 

「な、なぁ西住隊長…その、さっきの話なんだけどさ……」

 

「ふぇ?な、何がですか……?」

 

 

 ラブの拡声器パフォーマンスが始まって暫くはその経験が乏しい一年生達はあまりのエグさに固まっていたが、直接面識がありそれなり親しい関係にある二年生達の表情は非常に渋かった。

 しかしラブが次々と繰り出す暴露ネタに戦々恐々としていた者達も、ラブのブラに話が及んだ辺りから聞き耳を立てたり微妙にその反応も変化していた。

 そしてその中でもルクリリがどうやら好奇心を抑えられなくなったのか、辺りを憚りながらもみほの傍に来てそっと質問を投げかけていた。

 

 

「その、何がってラブね…ラブ先輩のブラの事だけど……」

 

「お、お姉ちゃんがラブお姉ちゃんのブラを付けたかって事ですかぁ!?」

 

「いやだからそうじゃなくてさ…その何だ……ラブ先輩がブラを使い始めたのって一体いつ頃の話なのかと思ってだな……」

 

 

 力いっぱい的外れな事を言いかけたみほを制しながら改めて質問し直したルクリリだったが、馬鹿な事を聞いている自覚はあるらしく彼女は耳まで真っ赤にしていた。

 だが彼女の質問は周囲の者達も大いに気になるポイントらしく、一気に注目が集まったみほはかかるプレッシャーに途端にアワアワし始めた。

 

 

「何でアンタがアワアワすんのよ!?ラブ姉の事なんだからサッサと答えなさいよね!」

 

「え、エリカさん!?」

 

 

 毎度の事ながら直ぐにテンパるみほに腹を立てたエリカに背中を平手でバシッとやられ、驚いたみほは目を白黒させる。

 

 

「みほ……?」

 

「あ…えぇとその……幼稚園を卒園した春休みに熊本に来た時には……」

 

『え…え……?エェ─────────────────ッ!?』

 

 

 エリカの声のトーンが下がった事でシドロモドロながらもみほは漸く皆が一番聞きたかった答えを口にしたが、それを聞いた者達は直ぐには現実に頭が追い付かなかった。

 それから暫くの間沈黙が続き漸くみほの言った事が理解出来た途端、全員揃って全力で観戦用のスタンドを揺るがすような絶叫の声を上げたのだった。

 

 

「うぇっ!?そ、そんなに!?」

 

 

 予想を上回る反響にみほはいつも以上に挙動不審になったが、今のエリカにはそんな彼女にツッコミを入れる余裕はなかった。

 

 

「いやいやいや!さすがにそれは冗談よね!?」

 

「よ、ようちえん……」

 

「そ、そりゃあ相当早いだろうとは思ったけど……」

 

 

 初期のショック状態からは立ち直ったがやはりその衝撃の大きさはただ事ではなく、全員まだ信じられぬといった顔であれやこれや愚にも付かぬ事を言い合っていた。

 

 

「そ、それで西住隊長…さ、サイズの方はどれ位だったんだろう……?」

 

 

 重ねて質問を投げかけたルクリリだが、その表情は物凄くエッチな話でもしているようで今にも鼻血を噴きそうに見えた。

 そして問われたみほの方はといえば周囲の全ての視線が自分の胸元に集中しているような錯覚に捕らわれ、慌てて両腕で胸を隠すように覆うと恥ずかしそうに叫んでいた。

 

 

「い、今の私の方が大きいもん!ほ、本当だよ!」

 

 

 涙目で抗議するように叫んだみほだったが、それに対する反応は微妙なものだった。

 

 

『あ、ウソね……』

 

『どうかな?』

 

『でもさすがに幼稚園児が今の西住さんより大きいとか有り得ないでしょ……?』

 

『けど相手はあのラブ先輩ですよ?』

 

『う~ん…そう言われると……』

 

『エリカはどう見る?』

 

『…微妙ね……嘘は付いてないと思うけど本当でもないような……まぁラブ姉の事だから近いサイズ位には成長してたんじゃないかしら?』

 

『マジか……?』

 

 

 全然ヒソヒソする気のないヒソヒソ声と自分とラブを比較する話の内容、更には無遠慮に自分の胸元をガン見する視線に耐えかね遂にみほは悲鳴を上げた。

 

 

「ふえぇ!嘘じゃないもん!本当だもん!」

 

 

 だが彼女の叫びも空しく試合のライブ映像を流すモニターからは、追い打ちをかけるかのようにラブの次なる爆弾が投げ付けられていた。

 

 

『アンタ達姉妹はどっちが私をお嫁さんにするかで戦車持ち出してケンカするとかさぁ、ほ~んと底なしにお馬鹿さんよね~』

 

『だから嘘を言うなぁ!取っ組み合いはしたけど戦車は持ち出してないぞ!』

 

『ふ~ん、ケンカしたのは認める訳ね~♪』

 

『うが────っ!』

 

『ぶふぉ!』

 

 

 まんまと乗せられたまほが自爆して意味不明な雄叫びを上げると、その間抜けぶりにエリカ達は一斉に噴出していたが巻き添えにされたみほは頭を抱えて姉を罵っていた。

 

 

「バカ────っ!お姉ちゃんのおバカ────っ!」

 

 

 しかしその叫びが呼び水となり、その場にいた者達の腹筋は遂に崩壊してしまうのだった。

 

 

「た、助けてくれ……」

 

「に、西住さんかわい…くっ……」

 

「ま、まほ姉まんまと…ぶふっ!ダメ……ぶははははははは!」

 

 

 その話自体は西住家訪問時にしほから聞かされ既に散々笑っていた話だったが、抜け目なくパフォーマンスのネタとして聞かされたエリカが一番ダメージが大きかった。

 そして同様のダメージを受けたのは、他でもないその元ネタの提供者であるしほであった。

 

 

 

 

 

「し、失礼!」

 

 

 笠女学園艦内のAP-Girlsの訓練場併設のグランドスタンド上、亜梨亜の計らいで各界の有力者と顔合わせをしていたしほだったが、ラブがおっぱじめた拡声器パフォーマンスで自らが提供してしまったネタを使われた結果、挨拶を交わしていたとある戦車道関連企業の経営トップの前で吹き出しかけ慌てて化粧室に逃げ込んでいた。

 

 

「ふぅ…あ、あの子はもう!ぷっ……!」

 

 

 呼吸を落ち着けようと深呼吸をするしほだったが、ラブのせいで何度も当時を思い出しては吹き出すのを繰り返す悪循環に陥っていたのだった。

 

 

「ゼェゼェ…亜梨亜様もいい加減恋を野放しにするのを止めて頂けないかしら……」

 

 

 肩で息をしながら思わず愚痴を零すしほであったが、彼女も内心では亜梨亜ですらラブのフリーダムぶりを持て余している事は解ってはいた。

 

 

「まぁアレを抜きにしても個人レベルで恋に勝てる者は同世代…ううん、プロレベルでもそうそういないでしょうね……」

 

 

 気持ちを落ち着けるように大きく息を吐いた後にそう呟くと、気合を入れ直すように両手で頬をピシャリと叩き再び戦場へと戻って行くのだった。

 

 

「エグい……」

 

 

 どうにか呼吸を整え平静さを取り戻したしほが背後を通り過ぎた時、そうとは知らぬメグミはラブの容赦ない拡声器パフォーマンスに短く一言呟いていた。

 

 

「厳島隊長は本当に西住さんの事が大好きなんですね~♪」

 

「結依ちゃん……」

 

 

 やっと膝の上からは降りてくれたが今度は隣に座ってピッタリと密着し、彼女の腕にしがみついて離れようとしない笠女の生徒会長をメグミは信じ難いという目で見ていた。

 だが彼女はこれがまだ序の口だという事を知らず、この後エスカレートするラブの口撃の容赦なさにガクブルで絶句するのだった。

 

 

 

 

 

『良かった…私達二年生で本当に良かった……』

 

 

 まほをキルゾーンに引きずり込む為とはいえ休む間もなく延々と続く容赦ないラブの拡声器パフォーマンスに、観戦スタンドの一つを占拠する()()()はそのあまりにもえげつないやり口に戦々恐々としていた。

 

 

「う~ん…でも年度が替われば結局みほ先輩達がメインターゲットになるんじゃないかなぁ……」

 

「はぁ…まぁそうですよね……」

 

 

 笠女短期留学時に()()()()を施された結果、今ではその小柄なボディに不釣り合いにご立派なたわわを誇るようになった梓とオレンジペコの二人は、それが当たり前であるかの如く極自然に仲良く並んで試合を観戦していた。

 しかし、ラブの拡声器パフォーマンスを前に各校の二年生達が自分達がターゲットではない事に安堵の溜息を吐く姿に、一年生たわわコンビは辛辣な事を囁き合っていた。

 だがその二人にしても自分達が三年になった時、ラブの拡声器が今度は自分達に向けられるであろう現実から目を逸らしているのだった。

 

 

『ホラホラぁ♪そんなんじゃこのLove Gunはいつまで経っても仕留めらんないわよ~!』

 

『やっかましい!調子に乗りやがってこの風船おっぱいがぁ!』

 

 

 試合の様子を映し続けるモニターの中では尚も挑発を続けるラブの姿と怒鳴り返すまほの姿がリピート映像のように流れ続け、スピーカーからは無駄に高性能なマイクが砲声の合間に拾った二人の低レベルな姉妹喧嘩を延々と垂れ流しにしていた。

 

 

『所詮アンタじゃお姉ちゃんには勝てっこないんだから諦めなさいって~』

 

『いつまでそうやってお姉ちゃんぶる気だぁ!』

 

 

 ほんの僅かの差で同学年の二人だが、もしラブが生まれるのが数日でも早まっていれば彼女は一学年先輩だったので、何かにつけてお姉さんぶるラブの事をまほは結構本気でウザがっていた。

 それでもラブがまほを妹扱いするのを止める事がないのは、彼女が一人っ子である事と両親を早くに亡くしている事が大きく影響していると思われたが、本人にその自覚があるかまでは不明だ。

 いずれにしてもラブのまほ弄りは止まる所を知らず、事態はいよいよ最終局面を迎えつつあった。

 

 

「う~ん…二人揃うとっていうか親族勢揃いするとやっぱ似てるって思うのよ、だからラブ姉が言うように姉妹でも通るとは思うけどね……」

 

 

 西住家での宴席を始め度々そういう場面に出くわしているエリカは苦笑いしながらまほがラブに翻弄される様を見ていたが、みほの方は散々巻き添えにされて来たせいか冴えない顔をしていた。

 そして今もまた試合に出ていないにも拘わらず被害を被る瞬間がやって来たのだった。

 

 

『いや、お姉ちゃんぶるもなにもそのまんまじゃないのよ♪昔っから家に来る度に姉妹揃って甘えて私のベッドに潜り込んで朝目が覚めると──』

 

 

 モニターに大写しになったラブがヘラヘラした態度でそこまで言いかけた瞬間、まほの騎乗するビットマンの主砲がドカンと火を噴き彼女の声を掻き消していた。

 

 

『ふざけんなこの野郎!』

 

 

 直後に轟いたまほの怒声と立て続けの砲声は、ラブにそれ以上喋らせまいとするかのようだ。

 

 

「ねぇみほ、今ラブ姉は何を言おうとしていたのかしら……?」

 

「ふぇ!?な、何の事……?」

 

 

 内心ではラブに対して余計な事をと毒づきながらも、砲声に掻き消される直前に彼女が言いかけた事について問い詰めて来るエリカから逃れようと必死だった。

 だが隣に座るエリカはさり気なく彼女の腰に手を回しているようでいて、その実ガッチリとホールドしていたので脱出はかなり難しそうだ。

 

 

「いやいや西住隊長、今更おとぼけはなしにしましょう♪ラブ先輩が何を言おうとしていたかは私もぜひ知りたい処だよ」

 

「る、ルクリリさんまで!?」

 

 

 軽い身のこなしでするりとエリカとは反対隣りに滑り込んだルクリリは、実に男前な笑顔でガッシリとみほの肩に腕を回していた。

 

 

「そんなに怯えなくても大丈夫ですよみほさん♪」

 

「か、カルパッチョさん!?」

 

 

 背後からはカルパッチョがみほの背中に密着するように張り付き、その耳元で優しく囁くように語り掛けたがその目は相当危ない光を放っている。

 

 

「Ух ты!この団結力が選抜戦で勝利した原動力なのですね!」

 

「クラーラさんそれ違うから!」

 

 

 完全に絡め捕られ退路を断たれたみほがアワアワしながら視線を泳がせたが、見える範囲に並ぶ顔は全てワクテカで好奇心丸出し状態だった。

 事此処に至って完全に詰んだ事を悟ったみほがガックリと項垂れると、止めを刺すようにエリカがダメ押しの命令を下していた。

 

 

「さぁみほ、観念して一切合切包み隠さず白状なさい……拒否権は認めないわ、徹底的に詳しくさせてもらうわよ♪さあ、さあさあさあ!」

 

「う…そ、それは……」

 

『それは?』

 

 

 エリカに畳み込まれ窮地に追いやられたみほが答えに詰まれば、即座にスタンド中がオウム返しのように続きを促して来た。

 全国大会や大学選抜戦でもここまで窮地に立たされたと感じた事はなく、遂に心の中の何かが決壊したみほは自棄になったように絶叫していた。

 

 

「んも────っ!ラブお姉ちゃんの……ラブお姉ちゃんのバカ──────っ!」

 

 

 理不尽極まりないとばっちりでドツボに陥ったみほの断末魔の絶叫が、晴れ渡った横須賀の空に実に空しく響き渡っていた。

 試合はまだ序盤、彼女にとっては実に長い一日になりそうであった。

 

 

 




う~ん、今回揃いも揃って見事にポンコツぶり発揮してましたねぇw
でもこういう話が書いてて一番楽しいんですわww


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