必須タグに残酷な描写を追加しました。
ただ今回の話はこの先の展開の中で重要な部分になるので仕方ないとはいえ、
執筆していて自分でも非常に悲しい気分になりました。
第一話 千代美の頑張り
落ち着け、落ち着いて考えろ自分、冷静に考えろ千代美!
通常の発射音とは明らかに違う爆発音とラブの悲鳴。
そして途切れ途切れに聞こえた、この弾は使っちゃだめだという言葉。
これは事故だ、榴弾が暴発したんだ!
携帯はノイズ雑じりだがまだ繋がっているから切る事は出来ない。
そうだ!家の固定電話から消防に通報だ!
でもこちらは名古屋でラブがいるのは横須賀、どう伝えればいい?
とにかくまずは119番だ!
千代美は固定電話の子機を手に取り震える指で119をプッシュした。
コール2回でオペレーターの対応する声が聞こえた。
『119番消防です、火事ですか?救急ですか?』
「きゅ、救急をお願いします!」
少しどもりつつも千代美は応える。
『それでは救急車の向かう住所を教えて下さい』
「住所は……」
一瞬どう伝えるか迷う千代美。
「住所は解りませんが場所は横須賀です!」
『ハイ?』
消防オペレーターが戸惑いの声を上げる。
「神奈川の…横須賀にある横須賀市立臨海中学校戦車道の地上射撃演習場に救急車をお願いします!お願いだから急いで!」
そして千代美は極力簡素にオペレーターにこれまでの経緯を伝える。
『解りました、あまり例の無い事ですが、今現地の消防指令部に連絡して救急車とハイパーレスキューに出場指令が下されました』
「そ、それじゃあ!」
『ハイ、、もう既に出場しています、あなた偉いわね、これだけ冷静に通報出来る人は大人でもあまり居ませんよ』
オペレーターの言葉に少し胸を撫で下ろしつつも千代美は更に懇願する。
「お願いします!携帯はまだ繋がってるけど応答しないんです!大事な友達なんです!ラ…恋を、厳島恋を助けて下さい!」
最後にはもう涙声で言葉を絞り出す千代美。
『バッテリーはまだ持ちますか?可能な限り呼び掛けを続けてあげて下さい、それではこの電話は切らせてもらいますね』
通報に使った固定電話が切れた後、千代美は再び携帯を手に取りスピーカーに耳を澄ます。
幸いな事にノイズ雑じりながらもまだ通話は途切れていなかった。
「おい!ラブ!聞こえているか!今救急車がそっちに向かっているからな!」
しかし相変わらず恋からの反応は何もない。
それでも千代美は勇気を振り絞って声を掛け続ける。
「頑張れ!ラブ!し…死ぬんじゃないぞ!恋!」
千代美が必死の呼び掛けを続ける間にも時間だけは経過して行く。
不安ばかりが大きくなり始めたその時。
ノイズ雑じりの携帯から微かに複数のサイレンの音が聴こえて来た。
「ラブ!もう大丈夫だぞ!救急車が来たからな!」
徐々に近付くサイレンの音に負けじと千代美も声を掛け続ける。
やがてサイレンが止まり複数の人の声が聞こえ始めた。
『おい!こっちだ!……急げ出血が酷すぎる!』
救急隊員と思しき声に千代美の血も瞬間凍りつく。
『メインは駄目だ!スクープストレッチャーを後ろの丸いハッチの外に用意してくれ!』
携帯の向こうで救急隊員の指示が飛び、堪らず千代美も携帯に叫びかける。
「恋は!?恋は大丈夫ですか!?」
指示を出す傍ら漏れ聞こえて来た千代美の声に救急隊員が気付き携帯を取り応える。
『話は聞いている、君が通報して来た子だね?ここまでよく頑張ったね、後は我々に任せるんだ。これから救助活動に入るから電話を切るよ、君は本当によく頑張った。』
その言葉に千代美の目からも大粒の涙が零れ落ちる。
「お願いします!恋をお願いしますっ!」
そう泣き声で叫んだ後遂に手の中の携帯から聞こえる音が途切れたのだった。
力尽き自室の床に座り込む千代美、その部屋には窓から初夏の風が吹き込んでいた。
話を創るのは楽しいけど書くのは難しいなぁ…。