ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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この週末は忙しく完全に休日返上になってしまいました……。


第七十五話   洗礼

「なっ!なんですの!?」

 

 

 たった今目の前を駆け抜けたはずのLove Gunに背後からほぼゼロ距離射程で砲撃を受けたダージリンは、弾着の衝撃に揺さぶられながら振り返り驚愕の表情を浮かべている。

 訳が解らず大きく目を見開く彼女の視線の先では、息を呑む程に美しくも恐ろしい好戦的な微笑を浮かべたラブが勝ち誇ったようにダージリンを見据えていた。

 

 

 

 

 

「吶喊!」

 

 

 あわやフレンドリーファイアになるのではという程の至近距離への援護射撃を盾に、AP-Girlsと風林火山を従えたラブが速度最優先の高速突撃を敢行する。

 重砲部隊と合流後に発電所に突入したまほであったが、ラブの姿を視認して早々に激しい突撃を受け、いきなり防戦一方の苦しい展開に追い込まれていた。

 

 

「数は多くない!慌てずに重装甲の車両で壁を作れ!これ以上の接近を許すな、重砲部隊はカウンターだ!敵の高火力支援を黙らせろ!」

 

 

 確かにラブの火の出るような怒涛の突撃は並みの相手であれば防戦する間もあらばこそ、あっという間に防御陣形を喰い破られ瓦解している処だろう。

 だがまほとてこれまで黒森峰を率いて来た猛者中の猛者であり、この程度のジャブで打ち負かされる程柔ではなかった。

 個々の実力を比べれば、仲間の内でもやはりまほが頭一つ以上抜け出しているだろう。

 但しそれはラブを除いての話であり、そのまほから見てもラブの実力は現時点で既に化け物の領域に足を踏み入れていた。

 トップクラスの実力を持つ者であっても凡そ考え付かぬ策を考え出す頭脳と、それを実行に移す事が出来る高い実力は確かに他の追随を許さない。

 それでもまほが怯む事なくラブの前に立ちはだかるのは、ひとえに彼女に負けたくないという強い思いの表れに他ならなかった。

 

 

「正気か!?相変わらず無茶苦茶しやがる!」

 

 

 まほの傍らで彼女を支えるべく奮闘するアンチョビは、徹甲弾による足止めに続き榴弾の爆炎を隠れ蓑に肉薄するラブのリスキー極まりない戦術に苦虫顔になっていた。

 何しろ爆炎に隠れて彼女の姿を視認する事が出来ないのに、その爆炎を切り裂き次々撃ち込まれる徹甲弾は確実に自分達を狩りに来ていたのだから。

 

 

「目測で構わん!爆炎に向けて応射しろ!」

 

 

 実質新設校と手合わせをしてみたいというまほの希望を叶える為にラブが企てたこのエキシビションマッチは、ここからが本番でありアンチョビもラブの挨拶程度の攻撃で討ち取られるつもりは毛頭なかった。

 

 

「ったく!様子見のジャブだろうが何だろうがお構いなしにハードパンチ繰り出しやがって!そこだ撃てぇ!」

 

 

 再び視界を奪うように広がった爆炎の向こう、質の悪い微笑を浮かべるラブの姿が容易に想像出来るアンチョビは、忌々しげな様子で砲撃の命を下すのだった。

 とにかく今はこの攻撃を凌ぐしかないと自分に言い聞かせ、まほがいつでも動けるよう戦列を維持する事にアンチョビは全神経を集中していた。

 

 

「あともう一撃喰らわせてやれ!だがそれでラストだ!」

 

 

 これが敵の攻撃であれば至近弾と言っていい距離に弾着する榴弾が生み出す熱と風。

 傍から見れば自殺行為に等しい危険極まりない援護射撃を盾にラブは突撃を続けたが、彼女も本気で敵陣突破やフラッグ車の撃破を目的とはしていなかった。

 この辺は確かにアンチョビが読んだ通りなのだが、同時に彼女が愚痴ったように挨拶代わりのジャブですらラブが撃つとヘビー級のフィニッシュブロー並みの破壊力を秘めていたのだ。

 それでも引き際を心得ているラブが隙を見せる事なく一気に後退すると、張り詰めていた緊張の糸が緩み三年生達は一斉に安堵の溜息を洩らしたのだった。

 だがラブの本気にしか見えない特攻紛いの突撃に、肩で息をする彼女達のメンタルは大きく削られ顔面蒼白になっていた。

 

 

 

 

 

「あれはやれって言われても危険過ぎるしそれ以前にやりたくないわね……」

 

 

 笠女艦内のAP-Girls専用の練習場併設のグランドスタンドで戦況を見守っていたメグミは、まほ達が発電所に姿を見せるなりラブが仕掛けたリスキーな突撃に只々呆れていた。

 

 

「うふふ♪でも厳島隊長は出来ない事はやらないしやらせないって常々言ってますよ?」

 

「いや…それでも普通はあんなヤバい手使わないから……」

 

 

 戦車道選手としてそれが如何に危険な手であるかが解るメグミが渋い顔をする傍らで、周囲の目を憚る事なく彼女の腕に抱き着きたわわをグイグイする美少女生徒会長の結依は、いっそ能天気と言ってもいい笑顔でそれに答えていた。

 しかし自分がごく普通の人間だと思っているメグミとしては、結依のその言葉ととびっきりの笑顔を額面通りに受け取る事は出来なかった。

 

 

『ホント…ああいう処は亜梨亜様そっくりね……』

 

 

 ラブの一歩間違えれば即自滅な戦法にメグミが青い顔をする一方、挨拶回りの合間に試合の様子を確認していたしほは昔を思い出し深い溜息を吐いていた。

 強気とかそんな言葉だけでは表現し切れないラブの攻めの姿勢が、しほには黒森峰に進学した当時隊長であった亜梨亜とそっくりそのままにしか見えなかった。

 対外試合の場面ではしほの為に西住流のスタイルで戦ってみせる亜梨亜であったが、訓練となると一変して厳島の夜叉姫と化し彼女をしごき倒したのだった。

 西住流とほぼ同時期に厳島流を起こした初代家元は、姉妹以上に仲が良かったとされる西住の初代家元の為に考え得る限りの手を尽くし仮想敵役を演じたという。

 以降両家の図式は初代二人の間柄をなぞるように連綿と受け継がれ、厳島に鍛えられた西住流は現在の高み迄昇りつめたのであった。

 それ故に当時は美しい亜梨亜の寵愛を一身に受けるしほを羨みあれこれ言う者も多かったが、それは訓練に於ける夜叉姫の厳しさを知らぬ者の戯言でしかなく、昔を思い出したしほの顔には鬱な縦線が入っていた。

 

 

『全く亜梨亜様の振るう鞭がどれ程痛いか知りもしないで…けど……まぁ確かにその分飴も甘かったのですが……』

 

 

 昔を思い出し最初こそ鬱な顔になったしほだったが何か()()な事も思い出したらしく、突然その頬をポッと赤らめモジモジし始めて、それに気付いた亜梨亜に怪訝な顔をさせていた。

 

 

「…どうしたのしほちゃん?今度は大都物流の会長をご紹介しようと思ったんだけど大丈夫……?もし疲れちゃったなら少し休む?」

 

「え…あ……だ、大丈夫です!つい中継に見入ってしまいました……」

 

「そう……?ならいいけど無理しちゃダメよ?」

 

「はい、でも本当に大丈夫ですから」

 

 

 ラブの狂気をはらんだ攻撃に昔の亜梨亜の姿を見たなどと口が裂けてもいえぬしほは、ラブと姉妹で通ると言われる程年齢を感じさせぬ美貌を誇る亜梨亜に間近から顔を覗き込まれドキドキしたが、何とか言い繕うと名刺入れに新しい名刺を補充し次に備えるのだった。

 

 

 

 

 

「ラブ姉…ソレ、本気でやるつもり……?」

 

 

 挑発を兼ねた挨拶代わりの突撃を成功させたラブは、まほ達が冷静さを取り戻す前に目晦ましのスモークを焚くとあっという間に安全圏迄後退していた。

 その後スモークが晴れ視界がクリアになった頃にはAP-Girls以外の新設校連合の姿はそこになく、ミニカイルの先端で腕組みしたラブが口角を吊り上げ不敵に笑う姿があるのみだった。

 だが観戦エリアで試合の行方を見守っていたエリカはメインモニターではなく、サブの分割画面の一角に映る晶とパンターの姿に能面のような顔で面倒そうにぼやいていた。

 

 

「まああの人ならやるだろうな……」

 

「……」

 

 

 エリカは特に誰かが自分のぼやきに答える事を期待してぼやいた訳ではなかったが、彼女と同じ分割画面を見ていたルクリリが砂糖のつもりで間違えて塩を入れてしまった紅茶でも飲んだような顔でそれに応じると、口を噤んだエリカの表情は覿面渋い顔に変わって行くのだった。

 

 

「アレ、誰か引っ掛かるでしょうか……?」

 

 

 かなり無理した笑みを浮かべたカルパッチョが、口元を引き攣らせながら誰もがそう思いつつも口にしなかった疑問を言葉にすると、何故か自然と周りの視線はみほに集中していた。

 

 

「ふぇ!?わ、私ですかぁ!?」

 

 

 色物枠の事は色物に聞けとでもいうかのような視線に、みほは例によって目をグルグルさせるだけで何も答える事が出来なかった。

 だがみほに丸投げしておきながらも全員最初から答えは出ているらしく、オロオロするみほの事はほったらかしでモニターの中で恥ずかしそうにする晶を気の毒そうに見ていた。

 

 

『まぁ全員引っ掛かるだろうなぁ……』

 

 

 そしてラブが絡むと途端にダメになるポンコツな先輩達にそっと溜息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

「AP-Girlsしかいないだと……?他の連中は何処に行った!?」

 

「全方位警戒!ラブがまた何かやらかすぞ!」

 

 

 スモークが晴れてみればそこにはAP-Girls以外の姿はなく、驚いた様子のまほがきょろきょろと周囲を見回す傍でアンチョビが大声で部隊に警戒を促した。

 

 

「失礼ね千代美、聞こえてるぞ…大体やらかすって何よ……?」

 

『失礼も何も事実だろーが……』

 

 

 過去の経験上ラブがこうしてあからさまな行動に出る時は、100%決まってろくでもない手を使って来ると身に染みているので、即座に警戒を促したアンチョビの判断は正しく的確だった。

 不敵な笑みと挑発的な態度こそ崩さないがアンチョビの的確な叫びを耳にしたラブが面白くなさそうに不満を漏らすと、そんな彼女にAP-Girlsのメンバー達は鬱陶しそうにサイレントツッコミを入れていた。

 それでも隊長であるラブがやると決めた以上AP-Girlsはその決定に従うのだが、子供じみた発想と準備にかかった手間暇を考えると馬鹿々々しさを覚えずにはいられなかったようだ。

 だがいざ作戦を実行に移すと思いもよらぬ戦果を上げる事になるとは、神ならぬ身の彼女達には予想する事など出来はしなかった。

 

 

「…どいつもこいつも……それじゃあ始めるわよ……晶ちゃんも準備はいいわね?」

 

『あ、ハイ大丈夫です!』

 

「この作戦のカギを握るのは晶ちゃんなんだから頑張ってね~♪」

 

『…了解……』

 

 

 口には出さずとも態度には出ているAP-Girlsをひと睨みしたラブは、咽頭マイクを押さえ無線で晶を呼び出すと実に楽し気な様子で念を押すのだった。

 

 

「さあ、それじゃあ作戦を開始するわよ!ここで一気に畳み込んで決めるからね!各車存分に暴れなさい、新参者と高を括って私達を下に見て来た全国の有象無象共に目にもの見せてやれ!」

 

 

 新設校リーグ戦で高い実力を示して尚、彼女達に練習試合の申し込んで来る学校の大半がそれ以前と同じような弱小か、或いは軽い気持ちで戦車道を再開した再履修校ばかりであった。

 笠女に至っては申し込みが激増したものの、その殆どがAP-Girlsのライブ目当ての申し込みであり、彼女達とお近付きになりたいという邪な動機が見え見えだったのだ。

 ラブとて人の子であり斯かる状況に相当な不満を抱えており、たった今彼女が飛ばした檄は新設校連合の選手全員の気持ちを代弁したでもあった。

 

 

「Hey!girls! Get ready! Get set!」

 

Go for it!(やっちまえ!)

 

 

 そしてひと呼吸置いたラブがいつも通りに掛け声を叫べば、AP-Girlsのみならず新設校連合の全選手がそれに応え鬨の声を上げた。

 

 

 

 

 

「いよいよ来るぞ!向こうには足の速い奴等が多い!側面と後背への警戒を厳にせよ!」

 

 

 ラブの本気を感じ取ったのかまほの目付きはより一層鋭くなり、並みの相手ならばそれだけで勝手に白旗を揚げそうな殺気を放っていた。

 そしてまだ距離があるにも拘わらず敏感にまほが放つ強い闘気を嗅ぎ付けたラブは、獲物を見付けた女狐のようにキュっと目を細める。

 

 

「だからオマエもそういう顔をするんじゃない……」

 

 

 まほの闘気をラブが感じ取ったのと同様にアンチョビもまた彼女が九尾狐の本性を現した事を見抜き、ここから先は本当に一切気が抜けぬと渋面で周囲の警戒を続けていた。

 

 

「ここでこうして何時までも固まっていては、それこそ座して死を待つようなものですわね」

 

「アンタ今度は何やる気よ!?私はもうダージリンの立てた作戦になんか乗っからないわよ!」

 

「…ふん……」

 

 

 オペレーション・ボッシュバスターがグダグダなまま不調に終わり、その後ずっと不貞腐れていたダージリンであったが、ラブの放つ女狐の瘴気の中てられたのかいつの間にやら復活していた。

 そしてまた何か謀を企てたような素振りを見せると、即座にカチューシャがそれを潰しにかかりダージリンは再びヘソを曲げたのだった。

 

 

「…子供か……ホラ!そこ!そんな事やってるヒマはないぞ!」

 

「アンタに言われなくたって解ってるわよ!」

 

「……」

 

『メンドクセぇヤツ……』

 

 

 ラブが目の前にいるにも拘わらず何やらブツブツ言っているダージリンと、また癇癪を起したカチューシャにとうとうアンチョビも匙を投げた。

 

 

「もういい、コイツ等は当てにならん!オイ西住!こうなったらもう隊列行動に固執するな!アドリブに慣れた連中も多いんだからある程度自由裁量でやらせてみろ!」

 

 

 それは奇しくもダージリンが危惧したのと同じ問題であったが、アンチョビの場合はそのダージリンが拗ねた状態での隊列行動が一番危険だと判断しての事だった。

 

 

「解った……安斎の判断に任せる!ラブの一撃目は私が受け止めるから周囲の警戒を頼む!」

 

「了解……来たぞ!」

 

 

 土壇場でのゴタゴタに多少腹立たしさもあったが今は攻勢に出たラブに対応せねばならず、アンチョビは奇襲に備え周囲へと警戒の目を向けるのだった。

 

 

 

 

 

『ラブ姉が動いたわ』

 

「了解!私達も予定通りラブ姉が一撃お見舞いしたタイミングで仕掛ける!」

 

 

 ラブの作戦のアシストに回った晶に代わりエニグマの指揮を執る副隊長の原沢紗江子(はらさわさえこ)は、スカウト役のアーニャからの報告を受け周囲の物陰に展開する配下の部隊に向け、いつでも突撃命令を出せる状態で待機していた。

 

 

「晶、上手くやりなさいよ……」

 

 

 突撃前の緊張した場面にも拘らず単騎潜伏中の晶の姿を思い出した紗江子は、その口元に今にも吹き出しそうな笑みを貼り付けている。

 ラブとAP-Girlsに留まらずこの新設校連合に参加する者達は、一年生ながら他の学校では考えられない程に胆が据わっているように見えた。

 

 

「花楓!突撃らっぱ鳴らせ!」

 

 

 ラブの叫び声に被さるようにLove Gunの車載スピーカーから騎兵隊の突撃ラッパが鳴り響く。

 それに合わせLove Gunが弾かれたような高加速で突撃を開始すると、AP-Girlsの4両もピタリと息を合わせ追走して行く。

 

 

「ここからが本番よ!美衣子!徹甲弾装填!」

 

 

 命令に従い装填手の美衣子が抜く手も見せぬ早業で徹甲弾を装填したが、驚くべき事にその装填速度は50㎜のⅢ号J型の頃と比べても何ら遜色は見受けられなかった。

 

 

「香子!あと5㎞増速!」

 

 

 楔の先端を行くLove Gunの操縦手である香子が指示通りに速度を上げれば、接触ギリギリの間隔で追走する4両もピタリとそれに合わせ加速する。

 

 

「いいぞそのまま行け…もうチョイ……ヨシ!瑠伽今よ!撃てぇ!」

 

 

 ラブの号令にピッタリのタイミングで砲手の瑠伽が発射ペダルを踏み込めば、高い装甲貫徹力を誇る70口径75mmの主砲が轟音と共に徹甲弾を撃ち出した。

 更に付き従う4両の主砲も同じタイミングで発砲しており、その砲声には全くずれがなかった。

 全ては一瞬の芸術、見る者はその鮮やかさに息を呑み直ぐには言葉を発する事も出来ずにいる。

 そして直後の弾着と破裂音は普通であればターゲットに確実な破壊をもたらすはずであったが、狙われたまほもやはり只者ではなく、紙一重の回避機動で食事時の角度を取り撃ち込まれた徹甲弾を全て弾き飛ばしていた。

 刹那の攻防とはこの事かという程に、全てが一瞬の出来事であった。

 

 

「この化け物め!そういつまでも好きには……チッ!」

 

 

 これが電撃戦だと云わんばかりの突撃からの一撃をどうにか凌いだまほは即座に反撃に転じようとしたが、再び後方から絶妙のタイミングで榴弾による援護射撃が行われ、立ち込める黒煙に彼女はラブの姿をロストしていた。

 

 

「ん……?Love Gunがいない!?ラブは何処に行った!?」

 

 

 至近弾が巻き上げた土埃を浴びながらも、まほは注意深く黒煙の向こうに目を凝らす。

 だが煙の切れ間に4両のⅢ号J型のシルエットは確認出来たが、肝心のLove Gunの姿が確認出来ず驚愕の表情でまほは視線を彷徨わせている。

 怒涛の展開にまほ達は振り回されるが、これは開幕のベルに過ぎず、次なる刺客が間髪入れずに三年生連合に襲い掛かっていた。

 

 

 

 

 

Angriff!(突撃!)

 

 

 ラブが気を引くうちに三年生連合の左側面に回り込み、物陰でその時を待っていたエニグマの戦車群が一斉に飛び出すと、新設校連合随一を誇る高火力で痛打を浴びせ始めた。

 

 

「やっぱり来やがったか!差し込まれるな!押し戻せ!」

 

 

 たまたま隊列の左翼に展開し奇襲を警戒していたナオミは、不幸にもエニグマの集中砲火の矢面に立つ形になり、防戦一方で反撃のタイミングすら掴む事が出来ずにいた。

 

 

「あ!バカ!それ以上前に出るな!」

 

 

 重要な戦力であるナオミのファイアフライの盾になるつもりなのか、1両のマチルダがかなり無理矢理被せるように突出し始めていた。

 驚いたナオミが止まるよう叫んだが残念ながら時既に遅く、ファイアフライの前に立ちはだかるように突出したマチルダは、エニグマ最強の火力を誇るヤークトパンター2両によるアハトアハトの集中砲火を受け、無常の白旗を揚げる憂き目に遭っていた。

 

 

『三年生連合マチルダⅡ走行不能!』

 

「なっ!?」

 

 

 即座に無線から響く亜美の撃破コールに、ダージリンが絶句する声が重なる。

 だが漸くこれでダージリンも正気に戻ったのかひと呼吸分だけ間を置いた後、堰を切ったようにマイクに向かい次々と指示を出し始めた。

 

 

「ブラックプリンスを左翼前面に!カチューシャ出番よ!今こそその面の皮の厚さを役立てる時ですわ!一気に押し戻します、攻撃開始!」

 

 

 ダージリン指揮の下、左側面を突いたエニグマに対し三年生連合が反撃を開始する。

 あわや崩壊寸前であったディフェンスラインは、ダージリンが介入した事でまさに首の皮一枚の処でそれは回避されたのだった。

 しかし激しい撃ち合いの結果、周囲に立ち並ぶ取り壊し待ち発電所の施設にも流れ弾が当たり、あちこちで火災が発生し辺りには黒煙が立ち込め視界が悪くなり始めていた。

 

 

「チッ!視界が…迂闊でした……えっ……!?」

 

 

 どうにか戦列の崩壊を防いだダージリンであったが、なりふり構わず反撃した代償として極めて視界が悪化し敵影の捕捉が困難になりつつあった。

 だが彼女は立ち込める黒煙を切り裂き、突如として目の前に現れた影に顔色を変えていた。

 煙越しでもそれと分かる長い髪を走行風に靡かせながら駆け抜けるシルエットが、驚くダージリンの目の前で鮮やかに一回転する。

 

 

「くっ!Love Gun…いつの間に……!?」

 

 

 ラブが得意とするスピンターンからの一撃が、ブラックプリンスの正面装甲に突き刺さった。

 砲塔上で直撃の衝撃に揺さぶられながらも、ダージリンは鬼の形相でラブを睨み付ける。

 そのダージリンの視線の先、切り裂かれた黒煙の隙間を、Love Gunの象徴であるハートを貫く徹甲弾のパーソナルマークが閃光のように駆け抜けた。

 

 

「おのれ……!」

 

 

 完全に手玉に取られたダージリンはあまりの悔しさにそれ以上言葉が続かず、ギリギリと軋む程に歯を噛み締め肩を震わせていた。

 だがこれはまだ序の口であり、この後彼女以外の者達も次々屈辱的な洗礼を受ける事になるのだ。

 

 

 




戦闘はいよいよ佳境を迎え激化の一途です。
毎度毎度ラブの奇策を考えるのは大変だけど書くのは楽しいです。

しかし亜梨亜としほの現役時代ってどんなだったんだろう?
まぁR指定なのは間違いないと思いますがw

果たして今回ラブが執った奇策とは?
ネタバレかなww
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