「榴弾装填!Love Gunの行き足を止めつつ第2射点に移動する!」
黒森峰のエース車、ビットマンの主砲が放った榴弾の爆発に基礎部分を破壊され、発電施設の太い配管が耳障りな金属音を響かせ倒壊する。
そして土煙を上げ倒れた特大の鉄パイプは、まほの狙い通りLove Gunの進路を塞ぐ。
急減速で激突こそ回避したLove Gunであったが進路変更を余儀なくされ、その間に第2射点に移動していたビットマンは絶好のポジションから射線上にLove Gunを捉えていた。
「徹甲弾装填!撃て!」
まほの仕掛けたトラップに掛かり迂回したLove Gun目掛け、必殺のアハトアハトが襲い掛かる。
撃破確実な直撃コースを駆け抜けた徹甲弾は、そのままならLove Gunの砲塔側面の装甲を貫き白旗を揚げさせるはずであった。
しかし徹甲弾が装甲に突き刺さる直前、Love Gunは突然コントロールを失ったようにスピンすると直撃必至な一撃を回避していた。
「このバケモノが!下がれ!スモークだ!」
撃ち砕くはずの標的をロストした徹甲弾が背後の朽ちかけた建物の壁を貫通すると、それが止めとなり壁は崩落し瓦礫の山となり果てていた。
撃破とまでは行かなくとも何がしかのダメージを与えられると踏んでいたまほは、渾身の一撃を躱されたと見るやカウンターを警戒し即座に後退の指示を出したのであった。
文字通りラブを煙に巻く為に放出されたスモークの中、全力で後退を始めたビットマンであったが、まるでそこにいるのが解っているようにLove Gunが掃射した機銃弾がその装甲を叩いていた。
「このっ…ラブのヤツめ……だが機銃を使ったトコを見るとさすがに主砲弾が心許ないんだろう」
的確に居所目掛けて機銃弾を浴びせて来た事に忌々し気なまほであったが、同時にLove Gunが弾切れ間近である事も彼女は確信していたようだ。
だがそれに関してはビットマンも同様なので、まほもこの勝負が短期決戦になる事は充分解っていた。
「だがあの目立ちたがりの事だ、最後は何か派手な仕掛けで私に恥を掻かせようと目論んでるに違いない…けど見てろよ、私だって伊達に長年オマエの悪戯の被害を被って来た訳じゃないんだ……必ず返り討ちにしてやるから覚悟しとけよ!?」
些か被害妄想の強過ぎる情けないとも取れる事を口走るまほだったが、残念ながら確かに彼女にはこんな事を口走るだけの過去の実績が山程あったのだ。
一人っ子で早くに両親を亡くしたラブにとってまほは他に誰も変わる事の出来ない程重要な存在であったが、彼女の事が好き過ぎるあまりラブはその愛情をややおかしな方向へと拗らせていた。
やたらお姉さんぶるラブが何かにつけて過剰に彼女の事を構うので、まほが怒ったり卑屈になったりするのも無理はなかった。
『だから自分から率先してフラグ立てんな……』
被害妄想からつい如何にもなセリフをまほが口走れば、彼女の事は勿論ラブの事もよく知る古参の搭乗員達は、この試合の結末というかオチが見えたような気がして顔を見合わせてしまうのだった。
「なんかこれも昔よく見た光景ね……あぁ、あの頃はアンタも一緒にやられてたっけね?」
「うぅ……」
まほ相手にラブが女狐の本領を発揮し始めると、先輩が追い詰められているにも拘わらずエリカはニヤニヤと笑いながら人差し指でみほの頬を楽し気にグリグリやっていた。
中等部時代まほのオマケで巻き添えを喰らい散々な目に遭って来たみほは、エリカとは対照的に全く笑う事など出来なかった。
「けどあれね、相変わらず本気と欺瞞の区別が付かない人ねぇ……あの機銃掃射だって果たして弾切れ間際の苦肉の策かどうかすらも怪しいものだわ」
みほのヘコんだ様子に満足したのか用済みとでもいった感じで彼女を放置し、エリカはモニターの中で蠱惑の笑みを浮かべ快走する魔女の横顔を目で追っていた。
「なぁエリカ…それを私達に見抜けるとでも……?そりゃあれだけ派手に立ち回ってるんだから残弾だって僅かなのは間違いないだろうけどさ……」
「何言ってるのよ?ラブ姉は弾切れだって勝ちに来るじゃない、ホント怪獣みたいな人よね」
「みたいって言うより完全に怪獣だろ……?」
何処か他人事なエリカにルクリリは顔をしかめて見せるが、彼女にはエリカの『怪獣みたいな人』という表現が控えめに過ぎると感じられたのだった。
「それ本人に直接言えば?」
「エリカこそ」
「私はいいのよ」
「あの…西住隊長、弾切れでも勝ちに来るってどういう意味ですか……?」
ラブの後輩達の中でも特に
「ふぇ!?え…あ、梓さん……?」
それまでの人生で戦車道の経験は皆無、大洗に入学し裏の事情など知りもせず流されるまま何となくその世界に足を踏み入れた梓にしてみれば、中学三年の夏前に姿を消したラブの過去の実績など知る由もなく、そんな疑問を抱くのも当然の事であった。
しかし梓が疑問を抱く件の一件の当事者の妹、弾切れしたラブに姉が討ち取られるのを目の当たりにしていたみほは、鬱状態から未だ回復しておらず梓の疑問に即答してやる事が出来ずにいた。
「ホラみほ!後輩が質問しているんだから直ぐに答えてやりなさいよ!」
「ほえ?あ痛っ!?」
こういう時だけは依然と変わらず当たりがキツいエリカが、イラっとした様子でみほの額に容赦の欠片も感じられないデコピンを一発見舞う。
脳の奥まで届く衝撃に漸くみほの目も覚めたかに見えたが、そもそもが上の空であった彼女は梓の質問をちゃんと聞いていなかったので、結局それに答える事が出来なかったのだ。
「ハァ────っ!アンタそれでも隊長なの!?後輩の話位ちゃんと聞いときなさいよね!」
「ぐふっ!」
みほの態度に業を煮やしたエリカは先程以上に容赦なく平手で彼女の後頭部を引っ叩くと、梓の方へと向き直りみほに代わって質問に答えてやるのだった。
「梓、あなたもAP-Girlsとサンダースの一戦の事は覚えてるわよね?」
「サンダース…ですか?はい一応は……」
黒森峰の新隊長にしてみほのパートナーであるエリカとは、自身も大洗の副隊長を務める事になった都合上何かと顔を合わせる事が増えていた。
しかしそれ以前の怖いイメージがまだ拭えない梓は、言葉を選びながら如何にも恐る恐るといった感じでエリカの問いに答えていた。
「別に取って食ったりしないから安心なさい……で、あの試合の最後、ラブ姉が一体何をやったかあなた覚えてる?」
「最後……?えっと……」
サンダースの母港である佐世保の沖合、紺碧の海の只中に浮かぶ炭鉱島。
その時の流れの中に埋もれつつある小島で行われたラブとケイの激闘に想いを馳せた梓は、記憶を辿るうちにエリカの言わんとする事に気付き小さく声を洩らすのだった。
「最後…最後……あ……」
「思い出したようね…そうよ、今ラブ姉と戦っているまほね……
「エ゛……?」
これまでの戦車道の常識では有り得ない大物食いぶりに、大洗の首狩り兎の異名を奉られたウサギさんチームのリーダーの梓だったが、そんな彼女でもさすがにエリカの話は俄かに信じられる話ではなかったようだ。
「ま、気持ちは解るけど事実よ?嘘だと思うなら時間のある時にでもネットで検索してみるといいわ、今でもあの場面の動画は時々見かけるから」
「それじゃあ……」
梓もエリカがこんな事で嘘を吐くタイプの人間でない事は解っているので、決して彼女の言う事を疑っている訳ではなかった。
それでもさすがに弾切れした戦車で試合に勝つなどという話はそう簡単に信じられるものではなく、絶句した梓はそれまで黙って成り行きを見守っていたオレンジペコと顔を見合わせてしまうのであった。
「良かったわねあなた達、あのラブ姉と後二年も戦えるなんてホント羨ましい話だわ♪」
「また心にもない事を…お前は鬼か……?」
王座奪還の重責を担うエリカからすれば、ラブの復活は打倒みほ以上に頭の痛い問題であった。
ラブとAP-Girlsの実力を以ってすれば緒戦で四強の一つと当たりでもしない限り、彼女達が黒森峰と対戦する処まで確実に勝ち上がって来る事はエリカの中で既定の事実だった。
その辺の事情をお見通しなルクリリの言う事は辛辣だが、彼女とてエリカと似たような立場だったので、ラブが目の上のタンコブである事に変わりはなかった。
「何か厄介事を押し付けられているように思えるのは私の気のせいでしょうか……?」
「ペコさん……」
先輩達の投げやり且つ適当な様子に、オレンジペコは至極迷惑そうな感情を隠そうともせず、梓は独り途方に暮れたようにオロオロするだけだった。
「ふん…まあまあの反応するじゃない……」
トラップを見破られたと見るや即座に後退したまほの引き際の良さに、ラブは一つ鼻を鳴らすとキュっと目を細めていた。
「けどラブ姉、本当にあれで良かったの?」
スモークの中へと身を隠したビットマンへの警告射撃に機銃を使った事に対し、瑠伽は一応念の為にといった感じで確認するが、ラブはそれが最適であると言い切っていた。
「勿論あれでいいのよ…機銃を使った事でまほはLove Gunの残弾が後何発か考えなくてはいけなくなった……土壇場に来てこれは結構効果的なプレッシャーになるわよ?」
「あっそ……」
まほ相手に容赦の欠片もないラブの言動は毎度の事だが、こういう時の彼女の表情が決まって嬉しそうな事に瑠伽は心底呆れたように短く返すのだった。
「何よ?何が言いたいのよ……?」
「別に何もないわ…ただ嬉しそうだなって思っただけよ……」
「何よそれ?」
「だから何でもないって…それよりあっちはどうするのよ?ティーガー相手にそう余裕かましてるヒマはないと思うんだけど……?」
照準を覗き込んだ瑠伽は一旦後退したビットマンが態勢を立て直し、再度仕掛けるタイミングを窺っている事を指摘する。
「解ってるわよそんな事……正面3発でケリを付けるわ、瑠伽の精度がモノを言うんだからしっかり頼むわよ?Ⅲ号からパンターに乗り替わったばかりで慣れてないとかはなしよ?」
「ラブ姉こそタイミング外さないでよね」
「…可愛くないわね……」
振り返りもせず即座に言い返す瑠伽にラブは口を尖らすが、相手にするだけ時間のムダとばかりに瑠伽はそのまま無言で受け流す。
「ほらラブ姉来たよ」
ぞんざいな扱いにブチブチ言うラブだったが誰一人それに付き合う事なく淡々と職務をこなし、操縦手の香子に至ってはビットマンが動き出した事を淡々と告げるのだった。
「アンタ達帰ったら覚えてなさい…ふん、先手必勝のつもり?いいわ、ならこっちはカウンターで一撃目を撃ち込むまでよ……美衣子、徹甲弾装填用意!香子はまほの一撃を回避した後にビットマンの正面を取って!Tank move forward!」
ラブの矢継ぎ早の指示の下動き出したLove Gunはフェイントを交えたスラローム走行をしながらカウンター狙いの突撃を開始、それを見て取ったまほも臨戦態勢で目を吊り上げ状況は再び緊張の度合いが高まって行く。
「ヤツのフェイントに乗せられるな!今度こそ一撃来るぞ!徹甲弾装填!」
ラブの放つ殺気を敏感に感じ取ったまほも負けじと鼻息荒く指示を飛ばし、ほぼ正面から向き合った両車は共に全速で飛ばしていた。
「右左…左、右……撃てぇ!」
激しいマズルフラッシュと耳を打つ砲声と共に撃ち出された徹甲弾がLove Gunの正面装甲を叩くが、どうにかギリギリで傾斜装甲がそれを弾く。
だが同時にLove Gunの主砲も火を噴き放たれた徹甲弾がビットマンに襲い掛かり、こちらも見事に正面装甲に突き刺さっていた。
「やるじゃない…私に正面から直撃させるのはまほ、アナタぐらいよ……」
すれ違いざま射殺すように睨み付けて来たまほの視線を薄い笑みで受け流したラブは、この日2発目の直撃弾にほんの一瞬だけ憮然とした表情を見せたのだった。
「でもまぁ1発目は綺麗に真正面から撃ち込んでやったから良しとするか……」
ラブとてそこまで傲慢な訳ではなく相手を見くびるような事もないので、まほの一撃を真摯に受け止め彼女の実力をちゃんと評価していた。
実際アンチョビがラブのクセから機動を予測したのとは違い、まほはその場の状況から彼女がどちらにLove Gunを振るか読んでいたのでラブの評価は確かなものと言っていいだろう。
「あのヤロウ真正面から…けどそれで抜ける装甲じゃないのはヤツも解ってるはずだ……」
一旦距離を取り鮮やかなスピンターンで方向転換を終えたLove Gunを目で追いながら、まほはラブが次はどんな手で仕掛けて来るかと頭をフル回転させていた。
「残弾が僅かな状況で正面からの一撃…一体ラブのヤツは何を考えている……機関部狙いか足回り狙い……まさか正面からの砲身破壊を狙っているんじゃあるまいな……?」
ギリギリの領域で斬り結ぶ毎に増えるラブが取り得る選択肢の数の多さに、ウンザリした様子でまほは顔をしかめる。
相手の戦車の砲身に正面から徹甲弾を撃ち込み破壊するなど普通ではまず有り得ない事だが、過去にラブがやらかしたのをまほは生で見ているので、こんな可能性まで選択肢の一つとしてカウントせねばならなかったのだ。
「えぇい!とことん厄介なヤツだ!」
疑心暗鬼に捕らわれてドツボにはまりそうな自分に喝を入れるように大声でラブを罵ったまほは、一旦距離を取ったラブを睨み付けながら突撃命令を下すのだった。
「Panzer vor!あの程度でこのティーガーの装甲が抜けるものか!行けぇ!もう一発正面からぶっ飛ばしてやれ!」
まほの檄にビットマンの巨体が履帯を軋ませ動き出すと、Love Gunも呼応するようにまほ目掛けて高加速で突撃を開始する。
「来るか!?私を舐めてるのかそれともまた何か奇策を思い付いたか!?」
再び正面から突撃して来るラブに驚いたまほは、同時にまた何かロクでもない策を巡らせ自分に恥を掻かせようとしているのではないかと疑うのだった。
「何キレてんのよあの子は……?」
肩を怒らせ何やら叫ぶまほの姿にラブは妙な顔で首を捻るが、可愛さの余って弄り過ぎた結果自分に対してまほが色々疑り深くなっている事に彼女は無自覚だった。
「あの様子だと真正面から楽にもう一撃決められそうね……徹甲弾装填!瑠伽任せたわよ!」
フルスピードでのスラローム走行で揺れる車内、ガッチリと身体をホールドし照準を覗き込む瑠伽は微動だにせず、彼女が如何に体幹を鍛えているかの一端が垣間見えた。
「まだよ…もうちょい……よし撃てぇ!」
二度目の撃ち合いは一度目と違い双方の主砲が同時に発砲し、まほの放った一撃はアンチョビが抉ったのとは反対側のLove Gunのパーソナルマークを黒焦げにしていた。
「ちっ!やってくれる…けどこっちだって……瑠伽よくやったわ、2発目も見事に決めたわね!」
砲塔を叩かれた衝撃に耐えながらすれ違いざまに戦果を確認したラブは、油断ならないまほに舌打ちしながらも今回もしっかり仕事をした瑠伽を賞賛した。
「これで布石は打った…けどここからが肝心……みんな集中力を途切れさせないようにね」
この日一撃も喰らうつもりのなかったラブに一太刀ならず浴びせてみせたまほに対し、内心相当苛立ちを覚えているようであったが、その程度でメンタル的に崩れる彼女ではなく自分自信にも言い聞かせるようにラブは注意喚起を行うのだった。
「アイツめ…ピンポイントで同じ場所狙って来やがったな……」
キレながらも状況判断に影響が出ていないまほは、ラブの二撃目が一撃目と全く同じ場所を狙っていた事を見抜き背中に冷たいものが伝うのを感じていた。
「ラブのヤツ本気でティーガーの正面装甲を抜く気か……?だが残念だったな、二撃目で抜けなかった上に私が狙いに気付いた以上三度目の正直はないぞ?何を目論んでいるか解った以上こちらにもやりようはある…見てろよ、こっちにだって策の一つや二つあるんだからな……」
二度の激しい激突の果てにその目的を見抜いたまほはそのイカれっぷりに呆れながらも、それを実行するだけの実力をラブが有している事にウンザリした様子だった。
だが同時にそれさえ解っていれば対処のしようがあると不敵な笑みを浮かべるまほは、ここが勝負の分かれ目と気合を入れ直すように両の頬をピシャリと掌で打つ。
「決着を付けよう…覚悟しろラブ……」
強い決意でラブを見据えるまほの瞳は迷いがなく、何処までも真っ直ぐであった。
竜虎相搏つ…ラブとまほの場合、虎がまほで竜がラブになるでしょう。
でもラブの場合竜と言っても西洋の翼のある竜でしょうね。
しかも神話に出て来るような絶対ヤバいヤツクラスのw
さて、次回で長かったエキシビションも遂に決着が付きます。
やっぱりラブとまほ達の高校最後の戦いなので、
どうしても話が長くなってしまいました。
とはいえ卒業後も彼女達は何かにつけてちょこちょこ顔を出すんですけどねww