ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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二週連続で週末に仕事が集中してしまいました……。

エキシビションマッチも遂に今回で決着が付きます。


第八十九話   Graduation ceremony

「榴弾だと!?履帯切り狙いか!?」

 

 

 二発連続で徹甲弾によるピンポイント攻撃を正面装甲に受けたまほは、ラブが何を意図しているかに気付き徹底した防御態勢で三撃目を彼女に撃たせようとしなかった。

 Love Gunがビットマンの正面を狙って射撃体勢に入る度、まほは食事時の角度で避弾経始を稼ぐと同時に、カウンターを狙う構えでラブを牽制していたのだ。

 しかしこれはポーズのみでまほも実際に撃つ事はなく、彼女のビットマンも残念ながら残弾が僅かな為に不用意に発砲する事が出来ないのであった。

 このまま牽制し合うのみでは千日手も同然な上、弾薬よりも先に燃料が尽き兼ねない。

 まほもそれがよく解っていたのでラブを牽制する間にも、何か打開策はないかと彼女は頭をフル回転させていた。

 それ故にこのタイミングでビットマンの足回りを狙った榴弾による砲撃は、まほの虚を突くには充分効果があり彼女はどういう事だと焦りを隠せなかった。

 

 

「いよいよ徹甲弾が尽きたのか?なら何故今の今まで正面装甲を執拗に狙い続けた……ったく!一々面倒なヤツめ!」

 

 

 また一つ増えた頭の痛い問題にまほは相当苛立った様子だが、それで問題が解決しない事は彼女も解っているので気持ちを切り替えるように大きく深呼吸したまほは、自分がカッカする事でラブに足元を掬われぬよう指揮に集中するのだった。

 

 

 

 

 

「あ…まほのクセに学習しやがった……」

 

 

 足回りを狙った榴弾による二度目の砲撃をまほに躱され、ラブはやや憮然とした様子で中々に酷い事を呟いている。

 

 

「フン…生意気なヤツ……ならぼちぼちコレの出番ね……」

 

 

 完全にまほを妹扱いしているラブは面白くなさそうに鼻を一つ鳴らすと、コマンダーキューポラから車内に手を突っ込み何やらゴソゴソ弄り始めた。

 

 

「よし…って、アレ?胸につっかえて……あ、マズい…もうちょっと……ぐっ!」

 

 

 妙な体勢で無理して車内に手を突っ込んだせいか、ティーガー以上と言われる胸部重装甲に手にした物を引っ掛けてしまったラブは、圧迫され苦し気な表情で呻き声を上げながらどうにかこうにか車外に問題のブツを引っ張り出した。

 

 

「ハァハァ…ちょっとヤバかったわ……大丈夫、壊れてないわね……」

 

 

 余程苦しかったのか顔を赤くして息の荒いラブは、無理矢理たわわの間から引っ張り出した物の状態を確認すると慣れた手付きで電源スイッチを入れる。

 一説にはラブが職員室から勝手に持ち出したとも噂されるソレは、親しい者達の間ではLove Gunのパーソナルマークと並び彼女のトレードマークと認識されていた。

 本体のスピーカーホーン部分にクセのある彼女の文字で三笠女子と大書された拡声器は、まほを筆頭に仲間内では悪夢の象徴であった。

 

 

「ふぅ…それじゃやるか……ゴラぁまほぉ!」

 

 

 壊れていない事にホッとしたラブは拡声器をまほに向かって構えると、トークボタンを押し込み特徴的なハスキーボイスでドスを効かせて怒鳴り付けていた。

 

 

「うわっ!な、何で今拡声器が出て来るんだよ!?」

 

 

 ラブを倒す事に集中しているまほは晶に対するチッパイ発言などすっかり忘れているので、ここで拡声器が登場する意味が解らず悲鳴を上げた。

 

 

「やかましい!この発育不良の貧乳が!」

 

「な、なんだとぉ!?誰が貧乳だってぇ!?」

 

 

 いきなり強調するように胸を反らしたわわを揺らしたラブに貧乳扱いされたまほは、目を白黒させながらも抗議していた。

 しかしラブはその声が耳に入らぬとばかりに無視を決め込み、被せるように更にまほに向かって怒りの罵声を浴びせるのだった。

 

 

「黙れこのボケぇ!まだとぼけるかぁ!」

 

「いやだから何を言って──」

 

「問答無用!晶ちゃんより胸のサイズが残念なクセに貧乳呼ばわりした罪、万死に値する!」

 

「え…オマエ何を言って……あ……あれはそういう意味じゃなくて──」

 

「言い訳は聞か──────ん!」

 

 

事此処に至って漸くまほもラブが何に怒っているか気が付いたようだが、彼女が言い訳を口にしかける度にラブは尽くそれらを封殺し、今度は逆に罵声の弾丸のカウンター掃射でまほを滅多打ちの蜂の巣状態にしたのであった。

 

 

 

 

 

『……』

 

 

 ラブがコマンダーキューポラにつっかえたたわわをムニュムニュさせながらその谷間から拡声器を引っ張り出す光景は、観戦中の後輩達を絶句させるのに充分な破壊力を有していた。

 根が真面目なルクリリなどは耳まで真っ赤にして両手で顔を覆って俯いているし、ラブのお気に入りの後輩の筆頭であるエリカですら頬を赤らめ、鼻血でも抑えるように片手で口元を覆う程だった。

 

 

「…ま、あれをラブ姉が見過ごす程甘くはないと思ってはいたけれど、正直このタイミングでアレを使うとは……イヤ、使うわよね、ラブ姉なら……これ以上のタイミングはないもの」

 

「……」

 

 

 ラブ必殺の拡声器パフォーマンスの前に、涙目の弁解も空しくまほはフルボッコにされていた。

 折を見てはまほのポンコツを少しでも矯正しようと試みて来たエリカであったが、筋金入りの朴念仁が相手とあっては彼女の努力も中々成果を上げる事が出来なかった。

 そんな背景があってか追い詰められるまほの姿に、エリカは何処か嬉しそうに見えた。

 

 

「これは結構いい薬になるんじゃないかしら?ホントあの人は戦車道以外はポンコツなんだもの…ねぇみほ、アンタん家(西住家)ってその辺の教育どうなってるワケ……?」

 

「うぐっ……」

 

 

 正直まほのポンコツぶりにはかなり手を焼いていたエリカにとって、やらかしが原因でラブにやり込められる彼女の姿は胸のすく思いのするものであったようだ。

 だがその一方で妹であるみほの方はと言えば、もしその場にあんこうがあったなら榴弾で穴を掘り飛び込んでしまいたい心境であった。

 容赦の全く感じられぬエリカの口撃を前に一切反論出来ないみほがペチャンコになる姿は、周囲で肩を震わせる者達に笑いを堪える苦労を強いるのだった。

 

 

「で、でも西住先輩だってスタイルいいんだからあの扱い(貧乳)ちょっと気の毒かも……」

 

 

 隠せぬ苦笑に口元を引き攣らせながらも、アンツィオ一結構なモノの持ち主であると言われるカルパッチョがヘコむみほを気遣ってフォローを入れるがここでもエリカは容赦がなかった。

 

 

「いいのよカルパッチョ、あのまんまなら先々苦労するのはまほ姉本人なんだもの、ここらでラブ姉にきっついお灸を据えられた方がいいのよ」

 

「う゛ぅ゛……」

 

 

 きっぱり言い切るエリカの表情には迷いなど欠片も見受けられず、それだけで彼女がまほの副官としてどれだけいらん苦労をして来たかが窺えるのだった。

 そして彼女の隣にいるみほもエリカの耳の痛くなる言葉と視線に、耐え難いとでもいうかのように絞り出すような声で呻き声を上げていた。

 何故なら彼女もまた西住のお嬢様なので、日常生活の端々で世間知らずな一面が露呈する事が少なからずあり、エリカから自分まで糾弾されているように思えたのだ。

 

 

「仮にも先輩相手に容赦ないなぁ…けどラブ先輩の方がもっと容赦ないからなぁ……」

 

「えぇ、西住先輩相手だとラブ先輩は特にね……」

 

 

 ラブのオモチャの一人であるみほの手前あまり大っぴらに笑う事も出来ず、ルクリリとカルパッチョは困ったように顔を見合わせる。

 

 

「ホラまた…二人共いい加減そのラブ先輩って呼び方改めないとどうなっても知らないわよ……?」

 

『え……?』

 

「え……?じゃないわよ、二人共うっかりラブ姉の前でラブ先輩なんて呼ぼうものなら、確実にあの人拗ねるわよ?もしそうなったらどれだけ厄介な事になるか知らない訳じゃないでしょ?」

 

『う゛…それは……』

 

 

 ジト目のラブに延々とグチグチ不満を聞かされたり、如何にも悲しそうな顔で厭味ったらしい小芝居を演じる姿がリアルに想像出来た二人は、グッと息を呑み言葉に詰まるのだった。

 

 

「う~ん…けどラブ姉もまほ姉も残弾が少ないのは一緒だしどうやって決着付けるのかしら……?」

 

 

 組んだ足に頬杖を突いたエリカは、好奇心の強いネコ科の目で中継に楽し気に目を向けていた。

 

 

 

 

 

「だからさっきから何度も謝ってるじゃないかぁ!」

 

「謝る相手が違────う!」

 

 

 互いに牽制し合いながら走り回るLove Gunとビットマンであったが、その砲塔上ではまほがラブにほぼ一方的に説教され続けていた。

 しかしその状況があまりにも長く続いた為に、遂にまほも我慢の限界を超えラブに向かって怒鳴り返してしまったのだった。

 

 

「おいラブ!オマエもいい加減しつこいぞ!」

 

「何ですってぇ!?お姉ちゃんに怒られてる最中に逆ギレとかどういうつもり!?」

 

「誰が誰のお姉ちゃんだぁ!大体さっきから機銃ばっか撃ちやがって!さてはオマエ徹甲弾も榴弾も撃ち尽くしたなぁ!?」

 

 

 榴弾を使用した二度の履帯切りを躱されて以降ラブは拡声器でまほを罵倒する間、Love Gunの主砲は只の一度も発砲する事なく沈黙していた。

 

 

「だったらどうだっていうのよ!?まさかその程度の事で、この私に勝ったつもりになってるんじゃないでしょうね!?」

 

 

 ラブに指を突き付けたまほはLove Gunの弾切れを確信し叫んだが、ラブはそれがどうしたとばかりにまほを挑発するような態度を取り続けていた。

 

 

「ふざけるな!お前こそあんな手が何度も通用すると思ってるんじゃないだろうな!?だったらそんな考えは大間違いだと私が思い知らせてやる!」

 

 

 弾切れしているはずなのに尚も強気な態度を崩さぬラブに、中学時代同様の状況から敗北を喫した経験のあるまほは、もうその手は喰わぬと声高に叫び決着を付けるべく攻勢に転じるのだった。

 

 

「随分と大きく出たわね、やれるものならやってみなさいよ」

 

 

 凶悪極まりない88㎜の砲口にLove Gunを捉えんとするまほを嘲笑うように、ラブはLove Gunを振り回して機銃弾をビットマンに浴びせ続けている。

 

 

「いつまでも無駄な事を!そんな物がティーガーに効かない事ぐらいお前だって解ってるだろう!?」

 

 

 全く効果など期待出来ない攻撃を続けるラブにまほは業を煮やすが、そんな事などお構いなしに彼女はしつこく機銃掃射続けていた。

 だがそれもいつまでも続けられるはずもなく、キツツキのドラミングのようにティーガーの装甲を叩いていた機銃弾の弾ける音が不意に止んだ瞬間、まほはラブが全ての弾薬を使い果たした事を覚ったのだった。

 

 

「……!遂に弾切れしたな!気を付けろ!今度は側面を狙って来るぞ!」

 

 

 中学時代Love Gunが駆動系の破壊を狙って蹴り飛ばした一抱えはある石を駆動輪と転輪の間に噛み込んだ結果、ラブの目論見通りまほのティーガーは足回りに致命傷を負ったのだった。

 そしてそれが原因でまほのティーガーは走行不能となり、前代未聞の石蹴りなどという攻撃の前に手痛い黒星を付けられていたのだ。

 弾切れした以上ラブがまたその手を使って来ると踏んだまほは、即座にそれを警戒しLove Gunに側面を取られぬよう注意喚起を促した。

 実際まほが警戒した通りにLove Gunをハーフスピンさせたラブは、直ぐ傍に転がっていたサッカーボール程もある大きさの瓦礫の塊をビットマン目掛けて蹴り飛ばしていた。

 弾丸ライナーでビットマンの正面装甲に叩き付けられた瓦礫の塊りは粉々砕け、辺り一帯に大量の破片を撒き散らした。

 

 

「ふん!やっぱり弾切れか!そんな物をいくら正面装甲に喰らっても痛くも痒くもないわ!」

 

 

 自分の予想は間違っていなかったと鼻息を荒くしたまほは、一気に畳み込みLove Gunを葬ろうと攻勢を強めようとしていた。

 だが彼女のビットマンに残された弾薬も片手に足りず、その狙いは必然的に一撃必殺を意識した慎重なものだった。

 

 

「何よまほ!?偉そうな事言ったクセに何をそんなにビビってんのよ!?」

 

「やかましい!オマエこそいい加減諦めて降伏したらどうだ!?」

 

 

 好き勝手走り回って石を蹴飛ばしては挑発を繰り返すラブ相手に、迂闊に発砲して無駄弾を使う訳に行かないまほはイライラを蓄積させて行く。

 ラブもまほの置かれた状況はほぼ把握しているので、ラブはまほが迂闊に撃てないのをいい事により一層えげつない挑発に精を出すのだった。

 

 

 

 

 

「ん?どうした……?」

 

 

 あまりにえげつないラブの挑発にドン引きしていたエリカがふと気が付くと、彼女の下には伝令らしき一年生が控えていた。

 

 

「…そうかご苦労、下がってよし……あぁ、やっぱりか……」

 

 

 後輩から何やら耳打ちされた後に受け取ったメモ書きに目を通したエリカは、これまで誰も見た事のないようなしょっぱい顔で力なく首を左右に振っていた。

 

 

「ど、どうしたのエリカさん……?」

 

 

 エリカの様子にギョッとしたみほが恐る恐る声を掛けたが、彼女がそれ以上何か聞く前にエリカは面倒そうにヒラヒラと手を振るだけだった。

 だが周囲の視線が全て自分に集まるとさすがに無視も出来ないと見え、一層面倒そうに溜息を吐き最低限の事だけ答えていた。

 

 

「…見てれば解るわ……ラブ姉のやる事だって言えば大体察しは付くでしょ……?」

 

『……?』

 

 

 確かにラブがこのまま終わるはずがないと誰もが思っていたが、彼女が何を企んでいるかまでは予想が付かず、全員訳が解らぬといった顔で首を捻るのだった。

 

 

『…ミスリードさせたらあの人の右に出る者なんていないんじゃないかしら……?まほ姉…気付かないわよね……あ~あ、これは完全にラブ姉の掌に乗っちゃってるかぁ……』

 

 

 もう一度メモ書きに目を落としたエリカはそれを誰にも覚られないようそっと握り締めると、視線を中継の映像に戻しラブ相手にキレるまほにもう一つ溜息を吐いていた。

 

 

 

 

 

「おいラブ!ホントいい加減にしろ!いつまでそんな石ころティーガーの装甲にぶつけて遊んでる気だ!?」

 

 

 巧みにフェイントを交えて狙いを絞らせる事なく、逆に隙を見てはビットマンの正面装甲に瓦礫の塊りを蹴り込むラブに、まほの苛立ちは高まる一方だった。

 まほとてただ手を拱いていた訳ではないが、人並外れた集中力を発揮して回避機動を取るラブ相手に中々射角にLove Gunを捉える事が出来ず、このままでは燃料切れで試合終了になるのではという最悪な結末が脳内にチラつき始めていたのだ。

 

 

「あら?そこまで言うならそのご自慢のアハトアハトで、サッサと私を仕留めて見せなさいよ?」

 

「この!調子に乗りやがって!」

 

 

 ああ言えばこう言うの繰り返しで挑発を続けるラブに冷静な判断力を削られたまほは、今や完全にラブの術中に陥り、エリカが危惧した通り彼女の掌で踊らされていた。

 ラブが側面を狙って瓦礫を蹴り飛ばそうとする素振りに釣られ、彼女の注意力はそちらに向けられ他の事を警戒する余裕はなかった。

 

 

「そろそろいい頃合いかしら…まほのヤツもいい感じに頭に血が上って周りが良く見えなくなって来てるみたいだし……瑠伽、準備は出来てる?」

 

「やっと?遊び過ぎよ…待ちくたびれたわ……」

 

「ちょっと、私別に遊んでなんかないわよ!?それより瑠伽、あなたまさか集中力が途切れたとか言うんじゃないでしょうね!?」

 

「そんな訳ないでしょ……それよりサッサと決めないと燃料ヤバいんじゃないの?」

 

 

 榴弾二発を使ったブラフを仕掛けて以降出番のなかった瑠伽は、如何にも暇を持て余していたといった顔で伸びをすると砲手席に座り直した。

 

 

「解ってるわよ、だからこうして決着付けようとしてるんじゃない……」

 

 

 瑠伽の気だるげな態度ともの言いに頬を膨らませたラブに、彼女は淡々と事実を指摘しラブは一層面白くなさそうな顔をする。

 

 

「なら早く始めてくれる?こっちは暇過ぎて身体が冷えて来たんだけど?」

 

「…ったくコイツは……いいわよ、解ったわよ!やればいいんでしょやれば!それじゃ行くよ!?一発で決めるからね!今回ばかりは絶対失敗は許さないよ!?」

 

 

 ぞんざいに扱われるのは毎度の事ながらも、ここ一番という場面でもその扱いが変わらない事にムッとした顔になったラブが、彼女にしては珍しくヤケ気味に指示を出し始めた。

 

 

「美衣子、装填準備!()()()()!」

 

 

 ここまで体を張った地道な演技でまほがそれを信じるまで弾切れを装ったラブが、満を持して装填手の美衣子に徹甲弾の装填準備を命じた。

 激しい回避機動で揺さぶられながらも、美衣子は動じる事なく無駄のない動きで不気味に鈍く輝く徹甲弾を抱えて装填に備える。

 

 

「花楓、突撃タイミングの秒読み始め!香子、ドリフトアングルに気を付けて!大き過ぎるとアハトアハトの射角に捕まるよ!」

 

 

 指示を出し始めたラブは既に不貞腐れたような素振りはなく、AP-Girlsのリーダーの顔で突撃に備え次々と指示を出していた。

 

 

「それじゃ始めるよ!シュバルツヴァルト(黒い森)大虎(ティーガー)を仕留めるぞ!」

 

 

 それまでとは異質な雰囲気を身に纏ったLove Gunが花楓のカウントに合わせて突撃を開始すると、相対するまほもまたその突撃がこれまでとは何かが違うと本能的に感じ取っていた。

 

 

「ラブのヤツ何考えてやがる!?特攻で相討ちでも狙ってるのか!?いいだろう!そっちがその気なら返り討ちにしてやるから覚悟しろ!」

 

 

 右に左にランダムなフェイントを交えながら距離を詰めるLove Gunを睨み付けるまほは、握り締めた右の拳を左の掌に打ち付け気合を入れると迎撃態勢を取るのだった。

 

 

「どう出る…何を仕掛けて来る……」

 

 

 素早く周囲に鋭い視線を奔らせたまほは、それまでLove Gunが蹴飛ばして来た物より二回り以上大きい瓦礫の塊りに目を止めた。

 

 

「アレか…?今度はあのデカいのをぶつけて来る気か……!?」

 

 

 もしそれを駆動系に喰らい込めば只では済まないサイズの瓦礫の塊りは、元は発電施設の柱の一部だったらしく、爆発で千切れた鉄筋が不気味な棘のように突き出しているのが確認出来た。

 

 

「10時方向のデカい瓦礫に気を付けろ!絶対アレを側面に喰らうんじゃないぞ!」

 

 

 まほの指示に操縦手も心得たように微妙な角度を取り、彼女が指定した瓦礫を側面に撃ち込めない位置にビットマンを移動させる。

 

 

「徹甲弾装填準備!Love Gunがドリフトで側面を晒した瞬間を狙う!」

 

 

 ビットマンの装填手が両手をグッと握り締め装填手用の皮手袋の感触を確かめた後、強力無比な破壊力を誇る徹甲弾を装填に備え抱え込んだ。

 

 

「まほ!そろそろ決着付けようじゃない!」

 

「弾切れの分際で偉そうにほざくな!」

 

 

 まほが睨んだ通りの瓦礫を狙ってLove Gunがドリフトに移行する素振りを見せると、まほはその瞳に猛虎の光を宿らせ装填命令を下した。

 

 

「徹甲弾装填!Love Gunのどてっ腹に風穴を開けてやれ!」

 

 

 徹甲弾が装填されるのと同時にLove Gunがドリフトに移行し、薄暮の中目の眩むような火花を履帯から撒き散らしながら横滑りして行く。

 

 

「今だ撃てぇ!」

 

 

 まほの読み通りのポイントでドリフトに入り側面を晒したLove Gun目掛け、絶妙のタイミングでまほは砲手に砲撃の命を下していた。

 

 

「ナニっ!?」

 

 

 ビットマンの砲口にマズルフラッシュが花開いた瞬間、それは外しようのない会心の一撃であると誰もが確信したはずであった。

 だがまほは砲撃命令を下した直後、信じられない光景に我が目を疑い愕然としていた。

 確かにLove Gunはまほに側面を晒しドリフトを敢行したが、その速度は彼女がこれまでに経験した事のない常軌を逸したものであった。

 まほの放った徹甲弾は彼女の狙い通りのポイント目掛け飛翔したが、Love Gunは徹甲弾が突き刺さるより遥かに早いタイミングでその場を駆け抜けていたのだ。

 

 

「速過ぎる!横転するぞ!」

 

 

 Love Gunを仕留められなかった事よりその異常ともいえるスピードに驚いたまほは、最悪の事故を予感し叫びを上げたのだった。

 だが彼女の予想に反しLove Gunは、超高速の横滑りからその速度では考えられない旋回半径でターンを決めると、蹴るように見せ掛けた瓦礫を軸に鮮やかなドーナツランニングでビットマンの正面に回り込んでいたのだ。

 

 

「なっ!オマエ!?」

 

「Love Gunを昔のままと思ったか!?徹甲弾装填!今だ瑠伽、撃てぇ!」

 

「何だと!?」

 

 

 驚愕に目を見開くまほの目の前で徹甲弾の装填を命じたラブは息吐く間もなく砲撃を命令し、砲手の瑠伽が発射ペダルを踏み込めば、高射速で撃ち出された徹甲弾は一撃目と二撃目が突き刺さったのと寸分違わぬ場所にダイレクトヒットしていた。

 

 

「くっ!しまった!」

 

 

 弾着の激しい衝撃をコマンダーキューポラ上で耐えるまほは、その一撃がビットマンにとって致命傷となる事をその肌で感じ取っていた。

 ブラフを交え変則的且つ巧妙に仕掛けられたピンポイントな精密射撃は、まほが悟った通り三撃目にしてビットマンの正面装甲を貫きはその息の根を止めたのだった。

 

 

「三年生連合フラッグ車走行不能!」

 

 

 即座に射出された白旗を愕然と見つめるまほの耳に、運営本部で勝負の行方を見守っていた審判長の亜美の声で試合終了を告げる声が届いた。

 

 

「馬鹿な……」

 

 

 状況に頭が追い付かぬまほそれだけ呟くと、まだ信じられぬといった様子で白旗を凝視している。

 だがその判定は覆しようがない現実であり、この瞬間クセの強い新設校を束ねてまほ達古強者に戦いを挑んだラブの勝利が決まったのであった。

 驚異の八人抜き、ラブがそれぞれに向け止めに撃ち込んだ徹甲弾は、この試合を最後に高校戦車道から巣立って行く彼女達への送辞であったのかもしれない。

 そして勝利が決まったその時ほんの一瞬俯いたラブの寂しげな表情と、彼女の唇から零れた小さな呟きに誰一人として気付く者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ご卒業…おめでとうございます……』

 

 

 




やっぱりまほはお姉ちゃんに勝てませんでしたw

同じ高校生としての戦いはこの一戦が最後になるので、
詰め込める要素は極力詰め込んだ結果としてどうしても話が長くなりました。
最後の驚異の八人抜きに関してはダージリンとアッサムが同じ車両に乗っているので、ちょっと表現的にどうかとも思ったのですが、あくまでも仲間全員をラブが独りで倒したという事で敢えてこの表現にしました。

けどこの連中、卒業しても絶対何かと口実付けて首突っ込んで来ますよねww
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