ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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始めにお断りというかお約束。

学園艦のサイズを気にしてはいけません、
気にするとガルパンの世界は成立しなくなりますので~。

何でだろう?チョビ子とぺパロニの会話って、凄いリアルに脳内でCV再生するなぁ。


第六話   撤収狂騒曲

「西住隊長、お疲れ様でした」

 

「ああ、エリカすまない」

 

 

 パドックに戻って来たまほは礼を言うと、エリカから手渡されたスポーツドリンクを一気に飲み干しひとつ大きく息を吐いた。

 

 

「それであの……」

 

「うん?」

 

「ラブ先輩の事なのですが……」

 

 

 エリカもまた、嘗てラブから教えを受け事故当時心を痛めていた一人であった。

 

 

「ウム…私達もまだ詳しい事は何も解らんのだ、何しろあの性格で直ぐに口を割らんからな」

 

「ああ……」

 

 

 まほのその言葉で全てを察するエリカだが、そこにまほは更に付け加える。

 

 

「それに関しては日を改めてという事にしても、今はもう一仕事せねばならん」

 

「と、言いますと?」

 

「ラブをお母様の所に連行する!」

 

 

 鼻息荒くまほが言い放つとエリカはがっくりと首を項垂れた。

 

 

 

 

 

「ええい!観念してキリキリ歩かんか~!」

 

「痛いってば~!また感じちゃうってば~!」

 

「どアホ!!」

 

 

 またしてもアンチョビにお尻に鞭を入れられラブは抗議の声を上げる。

 ナオミとノンナそれぞれに両腕を極められしほの居る連盟の控えテントに連行されるラブ。

 

 

「言われなくっても歩くから離してよ~」

 

『ダメだ!』

 

 

 全員に一斉に攻められシュンとなるもその縛めは緩む事が無い。

 過去の行いからこういう事には仲間からの信用が一切無いラブであった。

 そして辿り着いた連盟の控えテントでは──。

 

 

「しほママ…その……ごめんなさい……」

 

 

 言葉にならぬしほがラブを強く抱きしめる、幼い頃たった半年とはいえ我が子同然に育てた娘。

 その娘が三年の時を経て再び我が元へ帰って来たのであれば無理からぬ事であろう。

 しかし連行して来た面々は少々違った視点でその光景を眺めていた。

 

 

 

『二大胸部重装甲激突!』

 

 

 

 しほが自分より上背のあるラブを胸元に抱き寄せようとした結果、胸部重装甲の激突事故という重大インシデントが発生していたのである。

 またしても全員顔を赤らめケイの目は完全に死んでいた。

 

 

「しほママ……」

 

「もういいのです…今はもう…それよりもその顔をよく見せて頂戴」

 

 

 漸くラブを胸元から解放したしほは、アンチョビがしたのと同様に右目に掛かる前髪を掻き上げるとその痛々しい傷痕を見た瞬間その場に崩れ落ちそうになる。

 

 

「あぁ!何という事!」

 

 

 横に立ち一緒にその傷痕を見た亜美も青い顔をしているがある事に気付く。

 

 

「恋さん…その目は──」

 

「蝶野教官、今はその話は……」

 

「え、えぇ、そうね、解りました……」

 

 

 そこでどうにか気を取り直したしほがラブに声を掛ける

 

 

「積もる話もあります、でも落ち着いてからで構いません、一度熊本にいらっしゃい」

 

「はい、その時は必ず亜梨亜ママも一緒に」

 

「ええ、待っていますよ」

 

 

 その言葉にラブも深々と頭を下げる。

 再びラブが頭を上げた時、亜美がひとつ手を叩き宣言する様に声を上げた。

 

 

 

「ハイ!皆さん疲れているでしょうけど一番大変な仕事が残っていますよ!」

 

 

 亜美のその言葉にその場にいる全員の顔が一斉に憂鬱で絶望的な表情に変わる。

 そう、高校戦車道観閲式が終了した今、一同には東富士演習場からの撤収という名の非情且つ過酷な難題が待ち構えているのである。

 お世辞にも交通インフラが整備されているとは言い難い東富士演習場周辺。

 搬入は分散させ早めに出来るがその逆となるとそれも中々難しくなる、如何せん集結している戦車の数が数だけにその撤収には例年参加者は胃の痛くなる思いをするのが通例だ。

 どの学校も陸路輸送は輸送車両に限りがあり、参加車輛が隊長車のみなどの場合以外ではそれで済ませられるのは極めて稀なケース。

 一部御殿場から鉄路を使う学校もあるがJR貨物にも限界がある。

 唯一鉄路組で例外なのは知波単位であろう、自前でK2形蒸気機関車を運用している知波単の、戦車を積載しての汽車ぽっぽ行列は毎年この時期沿線でも大層人気があった。

 それでも御殿場までの陸路は大戦車行列という名の渋滞にはまらねばならない。

 だがしかし一番大変なのはやはり海路組で、沼津港に毎年二本用意される仮設桟橋から学園艦に乗艦する訳だがそこまで辿り着くのに大戦車行列で一晩掛かる。

 そしてその大戦車行列も沿道の風物詩と化しており、一晩中続く戦車の行進を周辺住民が提灯行列で見送り、屋台も立ち並ぶのでちょっとしたお祭りとなるのであった。

 だが残念ながら彼女達の苦労はこれで終わりではなく、やっとの思いで辿り着いた沼津でも更なる試練が大口を開けて待ち受けているのだ。

 何しろ桟橋は二本しかなく、それぞれ両岸に接岸出来ても一度に四杯がやっと、沖合待機で入れ替わり立ち代わりで乗艦しても如何せん馬鹿デカい学園艦故時間が掛かる。

 天候次第では更なる足止めもあり毎年これで苦労させられるのであった。

 だが沼津港周辺は戦車で溢れ返る事になるのだが不思議と周辺から苦情が出た事はない。

 それというのも連盟からの要請もあり普段は滅多に見る事の出来ない戦車に、待機中に例え動かなくとも希望する者を戦車に乗せたり記念撮影に応じる事で周辺住民からも理解を得られているのだ。

 特に人気選手などはサインを求められる事も多く、それも地元では好評を博していた。

 

 

「ウチもタンケッテだけなら楽なんだがなぁ……」

 

『あ~』

 

 

 アンチョビのぼやきの意味を即座に理解した一同が揃って声を上げる。

 海無し県の栃木に本拠地があるアンツィオ高校は沼津港の云わば対岸にある清水港を母港にしている為、豆戦車のタンケッテのみであれば裏道を使って清水から自走も可能なのであった。

 しかしP40とセモヴェンテが居る為わざわざ沼津で時間を潰さなければならず、ある意味ではこの大戦車行列一番の被害者と呼べるかもしれない。

 

 

「それなら何故そうしなかったんですの?」

 

 

 ダージリンの素朴な問いに力無く溜め息を吐きアンチョビは答える。

 

 

「連盟から実に()()()()と拒絶されたんだよ、タンケッテだけだと箔が付かないって…」

 

『……』

 

 

 これには一同アンチョビに同情の視線を向け、しほは眉間に指を当て首を左右に振っている。

 

 

「まあこればっかりは言っても仕方がない、サッサと撤収準備に掛かるとしよう」

 

「あのさ、みんな…」

 

 

 気を取り直したアンチョビがそう言った処にラブがおずおずと声を掛けた。

 その声に一同がどうしたと反応するとラブはこう切り出した。

 

 

「あのさ、撤収の時間が読めないからみんなの所もこの後の日程って余裕持たせてるよね?だったらウチの学園艦に乗って一度横須賀に来られないかな?艦隊組んで横須賀に行ってウチの母港で積み替えすれば楽だと思うし…時間があるならみんなと横須賀で遊びたいんだけど……」

 

「横須賀はいいとしてラブの所の学園艦に乗るっていうのはどういう事だ?」

 

 

 皆の抱く疑問をまほが代表して口にする。

 

 

「えっとね、実際見て貰えば解る事なんだけど、ウチの学園艦は桟橋が必要無いの」

 

「はあ!?なによソレ?」

 

 

 カチューシャが声を上げるがラブは見れば解ると言うのみ。

 そこにしほが割って入る様に口を挟む。

 

 

「今は恋の思う様にしておあげなさい、大人は後にしてまずはあなた達だけの時間を持ちなさい」

 

 

 そう言うしほの顔は家元のソレではなく優しい母の顔である。

 

 

「お母様!」

 

「しほママありがとう!」

 

「各校には私の方から話を回しておきますから心置きなく楽しんでらっしゃい」

 

『ハイ!』

 

 

 一同揃って元気に返事をするとラブが説明する様に口を開く。

 

 

「それじゃあねぇ、沼津に向かうのは一緒なんだけど港に行かないでその先の今沢海岸にある沼津海浜訓練場に集結してもらえるかな?」

 

「今沢海岸?何故そんな場所に?三笠の学園艦は強襲揚陸艦か何かなのか?」

 

「う~んちょっと違うんだけど見れば解るから。とにかくウチの名前で許可は取ってあるから現地に着いたらソコに集まって欲しいの」

 

 

 まほの質問も例の如くかわしてラブはニコニコしながらそう言うのみ。

 一同もこれ以上聞いても無駄なのは解っているので軽く肩を竦め撤収作業に散って行く。

 かくして高校戦車道観閲式最大の難関大戦車行列が始まるのだった。

 

 

 

 

 

「毎年の事とはいえコレはもう少しどうにかならんのかぁ!」

 

 

 解ってはいても一向に進まぬ行列にアンチョビが絶叫する。

 無線の共用回線でも学校に関係無く愚痴が飛び交っていて、今のアンチョビの叫びに対しても事情を知る直ぐ前に居る部隊の隊長から『アンツィオさんも大変よね~』などと同情の声が飛んでいた。

 

 

『あ、そっかぁ、姐さ~ん!タンケッテだけ先に陸路で清水に行っててもいいッスか~?』

 

 

 聞こえて来た会話にぺパロニが名案とばかりに無線で聞いて来る。

 

 

「ダメに決まってるだろ~が!」

 

『え~?いいじゃないッスか~?』

 

「ダ~メ~だ~!もし先に帰ってみろ、私が卒業するまでオヤツは一切無しにするぞ!」

 

『えぇ~!?そりゃないッスよ姐さ~ん!』

 

 

 この会話を共用回線でやってしまった為に大戦車行列全体から大爆笑が沸き起こった。

 

 

「まったく、満天下に恥を晒してみっともない」

 

 

 ダージリンが忌々しげに言い紅茶を飲み干すと、傍らにいるオレンジペコにソーサーごとティーカップを差し出しお代わりを要求した。

 

 

「ペコ、もう一杯頂けるかしら?」

 

「ダージリン様、今はこれ位でお控えになった方が宜しいかと」

 

「何故かしら?」

 

「何分この辺りはまだコンビニはおろか民家もろくに御座いませんし、あまりハイペースでお飲みになりますと、その…おトイレの方が……」

 

「ぐっ…!」

 

 

 そんなやり取りをアッサムは砲手席で実に楽しそうに聞いている。

 かくして遅々として進まぬ大戦車行列は先が見えず一行のイライラは募るばかり。

 今年は特に大洗の活躍でにわか履修校が増え、そしてその多くがカヴェナンターを始め問題を抱えた戦車を使っている所が多い事もあり、オーバーヒートなど故障車が大量発生した結果沼津までの道中は更に困難を極める結果となるのであった。

 結果ラブ達が目的地の今沢海岸にある沼津海浜訓練場に辿り着いた頃には完全に夜も明け、全員疲労困憊で目の下にクマが出来た顔で砂浜に集まっていた。

 

 

「で?これからどうするって?」

 

 

 さすがのまほも疲れ切った顔でラブに聞くがこちらも同様の顔で答える。

 

 

「あ~、今連絡入れて迎えに来てもらうわ~」

 

「迎えったってそもそもおまえのトコの学園艦はどれなんだ?」

 

「ん~?あぁ、アレよ、あの白くて目立つヤツ~」

 

 

 沖合に大量に浮かぶ学園艦だがサイズがサイズなので艦型は容易に判別できる。

 その中でもサイズは一番小さいものの純白に輝く学園艦が一隻居た。

 

 

「お!お!おぉ~!」

 

「ど、どうしたのゆかり~ん!?」

 

 

 あんこう一のタフさを誇るも、さすがに疲れ切って眠い目をしていた優花里が突然復活し感嘆の声を上げた為、隣に居た沙織が驚き声を掛ける。

 

 

「あ、あの艦型は海上自衛隊のおおすみ型輸送艦ではありませんか!」

 

「イカスミ?」

 

「うぇぇ、沙織さん無理矢理ボケ過ぎ」

 

 

 そんな沙織とみほのボケとツッコミを余所に優花里のテンションは更に上がる。

 

 

「イカスミではありませ~ん!おおすみ型であります!海上自衛隊が誇る大型輸送艦で、艦尾にはウェルドックを備え二艇のエアクッション型揚陸艇のLCACを搭載しているのであります!」

 

 

 すっかり興奮しきった優花里は大きく目を見開きワナワナと震えて続ける。

 

 

「あれが三笠女子学園の学園艦なのでありますか?と、いう事はまさか…まさか!?」

 

「ええ、そうよ~、あなたが秋山さんね~?さすが詳しいわ、あなたの予想通りよ~」

 

 

 興奮した優花里の声に近付いて来たラブが声を掛けた。

 

 

「あ!あなたは厳島殿!そ、その、当時の事故の事は……私も存じております…お、お会い出来て大変光栄であります!」

 

 

 そう言うや優花里はラブにビシっと敬礼をする。

 そんな優花里に対しラブはニコニコとしながら話し掛けた。

 

 

「うふふ♪ありがと、まあ見てて頂戴、あれは中々の見ものだから。でもちょっと離れたトコに下がろうね~、物凄い事になるから~」

 

「ラブお姉ちゃんどういう事?」

 

「まあいいからいいから」

 

 

 事ここに至ってものらりくらりとかわすラブだが視線は沖合の学園艦に向いている。

 そのやり取りに集まった者達の視線が沖合に向くと純白の学園艦に変化が起こった。

 艦尾のハッチが開き、スルスルと滑らかな動きで六艇の特異なシルエットの船が続けて滑り出て、こちらを向いたと思うと轟音を上げ飛ぶ様に近付いて来るのだ。

 そして一同が呆然と見守る中あっと言う間に沼津海浜訓練場に揚陸したのだった。

 

 

「こ、これは!た、確かにLCACでありますがサイズが!サイズが大き過ぎます~!」

 

 

 ここに来て優花里の興奮も頂点に達しているがラブは至って呑気に言う。

 

 

「んふふ~♪これがウチに桟橋が必要無い理由なのよ~」

 

 

 




今回は如何に彼女達を東富士から撤収させるかでシリーズ中一番苦労した話です。
まあその分書いていて楽しくもありましたが。
最後には何かとんでもないモノも登場しましたし。

尚、週明け仕事が立て込むので若干投稿間隔が空くと思いますが御了承下さい。

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