ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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今回はどちらかというと大人達が話の中心です。

しかししほさん色々忙しい人ですw


第九十八話   母達の想い

「私もアッチの方がよかったな~」

 

「ちょ!英子!?」

 

 

 落ち着いたデザインのパーテーションで仕切られたその空間は、仮設とは思えぬちょっとしたパーティールームのような設えのプライベートスペースであった。

 しかしその席が設けられているのはレストランのホールなどではなく、笠女学園艦内に建てられた国内でも最大規模と噂されるAP-Girls専用アリーナの一角、高さはかなりあるが階層的には二階席に該当する区画の最前列に位置する場所だった。

 ラブの榴弾暴発事故以来厳島家とは何かと縁があり、厳島の当主である亜梨亜の信望も厚い敷島英子は、今回のエキシビションマッチを開催するに当たり、亜梨亜の正式な依頼により警備全体を統括する警備主任の任に付いていた。

 そして試合終了後全ての業務を片付けた彼女は、試合の審判長である亜美と共にこうして夕食の席に招待されていたのだ。

 その席には二人だけではなく怒涛の名刺交換を乗り切り疲労の色を隠せないしほと、厳島と西住の両家それぞれに仕える菊代と雪緒も同席しており、これがみほなら裸足で逃げ出しそうな独特な緊張感がその席には漂っていた。

 だが現役時代上総の大猪やら鬼敷島などロクでもない仇名を奉られ、黒森峰の選手すら泣き出す程恐れられた英子がその程度で萎縮するはずもなかった。

 勿論彼女も本気で言った訳ではないが、招待した亜梨亜と西住流家元のしほを前に堂々とそんな事を言う辺りは、度胸がいいとかいうレベルを通り越していた。

 最早変態の域に達しつつある千代美ちゃん愛を拗らせた彼女にとっては、笠女の制服を身に纏ったアンチョビという初物を間近で愛でる事が出来ないのは最悪の事態であり、眼下でラブ相手に騒ぐアンチョビの姿に鼻の下を伸ばしていた英子はついそんな戯言を口にしてしまったのであった。

 亜美も彼女の強心臓ぶりはよく知っているが、自分の心臓が持たぬとばかりに戦車道界の重鎮を前に信じられないボケをかます英子の後頭部を力任せに引っ叩いた。

 

 

「何すんだ亜美?痛いじゃないか……」

 

「何すんだじゃない!少しは場を弁えろこの馬鹿猪が!」

 

 

 痛いと言う割にちっとも痛そうに見えない顔で引っ叩かれた後頭部をさする英子は、逆に痛そうに石頭を叩いた右手を押さえる亜美に口を尖らせた。

 

 

「だって仕方ないだろ…あの可愛い千代美ちゃんが笠女の制服を着ているんだぞ……?もっと近くでじっくり鑑賞して抱っこしたりしてみたいと思うのは当然だろ──」

 

「え?何処ですか?」

 

 

 亜美に対し途中からこれだから素人はといった風にピコピコと指を振りながら、したり顔でアホな事この上ない戯言を垂れ流す英子だったが、千代美ちゃんの笠女の制服姿の辺りで耳をピクリとさせたしほが口を挿みながら身を乗り出して来た。

 

 

「ん?あぁ、あそこですよあそこ……」

 

「あそこ?」

 

「えぇホラ、ステージの直ぐ傍の真ん中辺り…恋お嬢さんの隣に……」

 

「あ、見付けた…成程これは抱っこしたくなるわ……♡」

 

「でしょう?」

 

『この人はぁぁぁぁぁぁ……』

 

 

 千代美ちゃん愛を拗らせた重症患者二人が身を乗り出し、アンチョビの制服姿を肴にああでもないこうでもないと与太な妄言で盛り上がる。

 アンチョビが絡むと救いようないレベルのポンコツと化すしほの背中に亜美も思わず頭を抱えたくなるが、亜梨亜は全く動じた様子もなくワイングラスを傾けていた。

 

 

「ふふっ、英子さん御免なさいね…今回は子供達だけで気兼ねなく好きにさせてあげたかったものですから……その代わりと言ってはなんですが、今夜はこの通りお酒を用意させて頂きましたのでそれでお許し願えませんか?」

 

 

 空になったワイングラスを軽く掲げて朗らかな語り口調の亜梨亜に、その名を呼ばれ振り向いた英子は亜梨亜の穏やかな笑みに目を丸くして驚いた後に真顔で一礼していた。

 

 

「や、これは失礼……笠女の制服姿の千代美ちゃんがあまりに可愛かったので、ついはしゃぎ過ぎてしまいました」

 

 

 キリっと引き締まった真面目な顔を繕う英子であったが言っている事が極めてスカタンな為に、頭の痛くなって来た亜美は口元を歪めながら拳をプルプル震わせていた。

 

 

『この脳筋猪め……』

 

 

 ラブの榴弾暴発事故がきっかけで再会した英子と高校時代そういう関係にあった亜美は、焼け木杭が炎上し再びそういう関係に戻っていたが、それだけにアンチョビが絡む度に壊れる英子に振り回される事が腹立たしかったのだ。

 

 

「さ、亜美さんももう一杯いかが?」

 

「亜梨亜様……」

 

 

 酔ってはいないが多少アルコールが入った事で色気が増したように見える亜梨亜は、ワインクーラーから取り上げたボトルを亜美に軽く掲げて見せる。

 空気を読んでいるのかいないのか、或いは端からこのアホな状況など気にも留めていないように上機嫌な亜梨亜は、ボトルを手に亜美が空になっているグラスを手に取るのを待っている。

 

 

「お口に合わなかったかしら?何か違う物をご用意しましょうか?」

 

「あ、いやそんな事は…とても美味しいので気を付けないと飲み過ぎてしまいそうで……」

 

「そうでしたか、でも亜美さんも相当お強くていらっしゃいましたよね?」

 

「そ、それ程でも…その、頂きます……」

 

 

 亜梨亜をボトルを掲げたままで待たせている事にやっと気が付いた亜美が慌ててグラスを手にすると、ラベルに鷲の描かれたボトルが傾き程良く冷やされた白が注ぎ込まれた。

 

 

『本当に美味しい…美味しいけどこのワイン……』

 

 

 注がれたワインを口にした亜美は喉伝い身体に染み渡る感覚にほぅっと溜息を洩らすと、同席する西住と厳島両家の使用人である菊代と雪緒の二人と談笑する亜梨亜に目をやった。

 何処か同窓会のような雰囲気で会話する三人はその合間に酒杯を重ね、傍らにはもう数本のボトルが空になっていたが誰一人として酔った素振りは見えなかった。

 そのドイツワインの名は亜美も知識として知ってはいたが、実際に口にするのは初めてであり彼女がこれまでに飲んだ事のあるワインと比べても別次元の物であった。

 勿論値段が全てではないが厳島の頂点である亜梨亜がこうしてもてなしの席で供する以上、今自分が口にしているこのワインもそれなりの物で事は間違いはないだろうが、亜美もそれに関してあれやこれや詮索したりする気にはとてもなれずにいた。

 何故なら彼女も怖かったのだ、亜梨亜が用意したこのワインの真の価値を知る事を。

 

 

『聞きたくないと言うより聞くのが怖いわ…このワインが一本いくらするかなんて……』

 

 

 菊代と雪緒相手に思い出話を肴に亜梨亜は気軽にグラスを傾けるが、どう考えても自分の稼ぎではお手軽に手を出せる物ではないだろうと亜美は複雑な思いで手の中のグラスを見ていた。

 

 

「ホラホラ!千代美ちゃんはああやって怒った時がまた可愛いんですよ♪」

 

「えぇホントに、あんなに髪を揺らして…あぁあんなに可愛い子がウチ(西住)の子になってくれるなんて夢のようだわ……♡」

 

「……」

 

 

 転げ落ちるのではないかという程手摺りから身を乗り出しアンチョビ観察を続ける英子としほは、二人揃って亜美の複雑な心境など気付く事なく馬鹿丸出しで騒ぎ続けている。

 

 

「ダメだこの二人…早く何とかしないと……」

 

 

 極めて質の良いアルコールを摂取する事で亜美が感じていた微かな心地良さは、ポンコツ二匹を前に潮が引くように消えていた。

 だがそれでも尚亜梨亜はそんな事など気にも留めず、機嫌良く酒杯を重ね続けるのであった。

 

 

 

 

 

「ったくオマエってヤツは!こんな事に金使いまくってどういうつもりだ!?」

 

 

 一応座席も用意されているが実質立食形式で食事を取りつつ、ラブ達はアチコチのテーブルを回ってはエキシビションマッチに参戦した両連合の選手とコミュニケーションを取っていた。

 だが回遊魚の群れのようにAP-Girlsを引き連れあちらのテーブルこちらのテーブルと巡っていたラブは、その途中何処か落ち着かない様子で食事を取るアンチョビと遭遇していた。

 後輩達と合流した事でその視線が笠女の制服姿の自分に集中している事に気付いたアンチョビは、ラブが姿を現した途端気恥ずかしさを誤魔化そうと、大盤振る舞いで制服を用意していたラブに小言を言っていた。

 

 

「何よ~?何が不満なのよ~?」

 

 

 顔を合わせるなり文句を言われて面白くなさそうに頬を膨らませたラブは、ツインテを揺らして噛み付いて来たアンチョビを睨み返していた。

 

 

「何でって今言っただろ?この制服だよ!この大人数に制服用意するなんて何考えてんだ?しかも全員誂えたようにサイズピッタリとかおかしいいだろ?いっくら何だってこれはさすがにやり過ぎだって言ってるんだ!」

 

「け、けど安斎には凄い似合ってると思うぞ……」

 

「に~し~ず~み~!」

 

 

 後輩達の視線に耐え兼ねたアンチョビがそれから逃れるようにラブに噛み付けば、彼女とラブの間でオロオロしていたまほは取りなすように口を挿んだが、そこはやはりまほのやる事なのでアンチョビを余計に怒らせるだけであった。

 

 

「い、いや…だって……」

 

「だってじゃない!」

 

 

 自分でもそれが八つ当たりである事は自覚していても、引っ込みの付かないアンチョビがその矛先をまほに向けると、好機と見たラブはそのタイミングを逃す事なくここぞとばかりにまほのポンコツ発言に乗っかっていた。

 

 

「あら?まほはよく解ってるじゃない、さすが私の妹なだけの事はあるわね」

 

 

 ここまでの処そのポンコツぶりが原因でいいトコなしでヘコみっ放しだったまほは、猿芝居とはいえラブに褒められると嬉しそうにエヘヘと照れて見せ、その単純さに頭痛を覚えたアンチョビは独り頭を抱えしゃがみ込んでいた。

 

 

「あら?あらら?アッサム様のブレザーのワッペン、私が留学した時に用意して貰ったのと何かちょっと違いますわ!」

 

「…今度は何だ……?」

 

 

 好き放題自分達を振り回すラブにうんざりしている処に、今度はローズヒップの頭のてっぺんから突き抜けたような声が響き、頭痛を堪えるように顔をしかめたアンチョビは声のする方へとゆっくりと首を巡らせた。

 

 

「じ、こ…こめもれ~てぃう゛おぶじ……にゅうりぃ……え、えすた……」

 

 

 笠女留学中一気に発育したぷるんぷるんなたわわをギュッと押し当て仔猫のように甘えていたローズヒップは、ふと目にしたアッサムが着用するブレザーのワッペンが自分の制服に付いている物と若干違っている事に気付き、不思議そうな顔でそこに刺繍された文字を読み始めた。

 

 

「ダージリン、ちょっと宜しくて?」

 

「…何ですの……?」

 

 

 アッサムに手招きされたダージリンが彼女の下へと赴くと、少し屈み込んだアッサムはダージリンの胸元を覗き込み校章のワッペンに刺繍で記された文字に目を走らせるのだった。

 

 

「アッサム……?」

 

「The Commemorative Of The newly established school league……新設校リーグ戦優勝記念エキシビションマッチ…これ、よく見たら笠女の校章ではありませんわね……今回のエキシビションマッチ参戦を記念するタクティカルワッペンですわ……」

 

「どういう事ですの……?」

 

「今言った通り…これは単なる笠女の制服ではなく、エキシビションマッチ参戦者の為だけに用意された記念品……つまりはそういう事ですわね……?」

 

 

 刺繍の文字を読んだアッサムが少し驚きながらも説明を加えると、彼女が何を言っているか直ぐには理解出来なかったダージリンが妙な顔をした。

 

 

「や────っと気付いたかこのボンクラ共が……」

 

「ラブ!?」

 

 

 だがそんな彼女を無視するように確認するような視線をアッサムがラブに向けると、誰にも気付かれないよう口元だけそっとニヤリとさせたラブは、両の拳を腰に当てて如何にもなポーズを作り、さも私呆れたわとでも言いたげな表情でざわつく者達を見回した。

 

 

「けどさぁ、最初に気付いたのが試合に参戦した当事者じゃなくてロージーってどうなの……?」

 

 

 校章のワッペンを変えただけとはいえ自分達が着ているのが只の笠女の制服ではなく、エキシビションマッチ参戦者のみに用意された特別な記念品である事に漸く気付いた者達は、ラブの指摘に戸惑った様子で顔を見合わせていた。

 

 

「そ、そうは言うけどオマエ、こんなん最初に言われなきゃ普通気付かんぞぉ……」

 

 

 それまで散々ラブに噛み付いていただけにアンチョビも素直にその指摘を受け入れる事も出来ず、どうにかそれだけそれだけ言い返すもその語気にはそれまでのような勢いはなかった。

 

 

「…で?他に何か言う事は……?」

 

 

 しかしラブの方はそんなアンチョビの負け惜しみじみた言い訳など聞こえないかのように、据わった目で気まずそうに目を逸らす者達を見回している。

 

 

『…アリガトウゴザイマス……』

 

「…フン、まぁいいわ……」

 

 

 その一言の前後に何か言いたげな間があった上に、出来の悪いAIが喋るようなイントネーションに眉をピクリとさせたラブは、鼻を鳴らしもう一度鋭い視線で周囲を見回すのだった。

 

 

 

 

 

「しかし宜しかったのですか?いくら記念とはいえあの大人数に制服まで用意して頂いて……」

 

 

 英子としほの興奮もひと段落し漸く落ち着いて亜美もグラスを傾けられるようになった頃、彼女は一番気になっていた事を多少のアルコールの力を借りて質問していた。

 それがラブの発案である事は亜美にも察しが付いていたが、いざアイディアを実行するとなると厳島の財力がモノを言う訳で、そうなれば当然亜梨亜の許可が必要な事も彼女は理解していた。

 

 

「些か急な話ではありましたが何ら問題はありません…ただあれを記念品として参戦された皆さんに気に入って頂けたかどうかは別の問題ですが……」

 

「はぁ……」

 

 

 返って来た亜梨亜の回答は実に彼女らしいもので、それを聞いた亜美は自分の質問が愚問であった事に直ぐに気が付いていた。

 しかしこうもサラリと返されると彼女もどう反応すればよいか判断が付き兼ね、まるで溜息のような何とも曖昧な言葉しか出て来なかった。

 

 

「何しけた顔してんのよ~?そこはあんなに可愛い千代美ちゃんの可愛い制服姿を拝ませて頂いた事に感謝する場面でしょうが~」

 

「馬鹿は黙れ……」

 

 

 極上の酒と最高の酒の肴(千代美ちゃん)に英子はすっかりご機嫌だったが、その全く空気を読まないポンコツぶりに、亜美は空のワインボトルで頭の一発も叩いてやりたい心境だった。

 

 

「本当にお二人は仲が良くていらっしゃるのね、菊代さんから伺った通りですわ」

 

「でしょう?熊本に御出で頂いた際も、大層楽しい酒宴のひと時を過ごさせて頂きましたから」

 

「いやあの…この状況の何処を見れば仲が良く見えるのかと……」

 

 

 基本ボケる英子に亜美がツッコむ図式が常態化している二人の関係は、傍から見れば限りなくお笑いのそれであったが当人達にその自覚はまるでなかった。

 そしてそういう関係が復活した後もそれは変わる事はなく、会う度にどんどん壊れて行くと評される英子が何かやらかす度にキレる亜美は、雪緒の自分達を見る目に疑問を呈するのだった。

 だが久しぶりの対面という事で酒も進み話も弾む雪緒と菊代は、英子と亜美を新たな酒のアテとでも思っているのか、自分達より年若い二人を肴に杯を重ねていた。

 

 

『ダメだ…この人菊代さんと同じニオイがする……』

 

 

 厳島の城の一切を取り仕切るメイド長である藤代雪緒(ふじしろゆきお)に、亜美は彼女が菊代と同種の人間である事を本能的に感じ取っていた。

 一見して落ち着いた雰囲気の黒髪美人の雪緒であったが、西住家の女中頭であるにも拘らず主たるしほを平気でぞんざいに扱う菊代と気が合う辺り、相当な要注意人物であるとほぼ初対面ながらも亜美は彼女に対する認識を新たにするのだった。

 

 

「しかしあれですね…金銭的な事はともかくこれだけの数の制服、よくもこの短時間で用意出来たものですな……ある程度は既成のサイズで何とかなるにしても、何人か規格外というが完全にオーダーじゃないとどうにもならないのもいるじゃないですか」

 

「英子ぉ!」

 

 

 亜美が雪緒相手に手こずるうちに再びしほと千代美ちゃん談議に花を咲かせていた英子は、楽し気な亜梨亜に勧められるままに杯を重ねすっかり口が滑らかになっていた。

 そんな彼女の視線はあからさまに規格外の代表カチューシャに固定されており、思わず亜美はニヤニヤ笑う英子の後頭部を平手で叩いていた。

 

 

「うふふ♪やっぱり仲がよろしくていらっしゃるのね」

 

「あ!いやですからそういう訳では……」

 

 

 二人のコントじみたやり取りに雪緒が口元を手の甲で覆いながらクスクスすれば、再びいつもの調子で醜態を晒した亜美はしどろもどろになりながらも、頭を叩かれて尚ヘラヘラする英子をキッと睨み付けるのだった。

 

 

「元々あまり我が侭を言う子ではありませんし幼少期から我慢の連続でしたので、この程度の事であれば願いを叶えてやる事に何の問題もありません…まぁ確かに発想が突飛である事も否定はしませんけど……ただそれが原因でご迷惑を掛ける事も多々ありますので、それに関してはこうして頭を下げるしかないのも事実ですが……」

 

「あ、いえ!ご迷惑だなんてそんな……」

 

 

 雪緒に揶揄われ目を白黒させていた亜美は、不意に口を挿んだ亜梨亜の娘に対する想いにハッとすると、慌てて胸の前で両手を振り首を垂れようとする厳島の当主を止めようとしていた。

 

 

「甘いと思われるかもしれません…ですがあの子が理不尽にも背負わされたものを考えれば、私にとってこの程度の事は我が侭でも何でもないと思えるのです……」

 

「亜梨亜様……」

 

 

 亜梨亜に頭を下げられワタワタとしていた亜美であったが、それに続いて彼女が吐露した胸の内に亜美は何と返してよいか言葉を見付けられずにいた。

 

 

「確かに…私も亜梨亜様と同じ思いです……私はもう二度と狂ったように泣きながら麻梨亜様と(たつき)様の姿を求めて、城内を走り回る恋の姿は見たくありませんからね……」

 

「家元……?」

 

 

 それまで亜梨亜のラブに対する想いに伏し目がちで無言を貫いていたしほが、手元のワイングラスに半分程残ったワインを揺らしながら何処か沈んだ声で呟いていた。

 突然の事にその呟きの意味の解らぬ亜美は怪訝な顔で続きを待つが、再び目を伏せたしほは過去に想いを馳せているのか中々その口を開こうとはしなかった。

 

 

 




次回はちょっと過去の闇が顔を出します……。
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