「オマエ私らを脅かす為だけに戦車道やってるだろ……?」
英子と亜美がラブの過去と復活したLove Gunに纏わる話に複雑な思いで耳を傾けていた頃、彼女達の眼下では奇しくもアンチョビが突然姿を現したLove Gunの事でラブを吊し上げようとしていた。
ラブに振り回されるのは毎度の事とはいえ、間もなく四年が経とうとしている榴弾暴発事故の後に彼女と共に姿を消したLove Gunが派手な演出で表舞台に復帰したの瞬間の衝撃は、昨年の秋に行われた高校戦車道観閲式にラブが姿を現した時に次ぐものであった。
実際シャチが獲物を砂浜に追い込むオルカアタックを彷彿とさせるS-LCACの揚陸パフォーマンスに続き、Love Gunがその姿を現した瞬間は悲鳴を上げる程に驚かされたし、そういう時にラブが見せる人を喰ったような笑みはアンチョビ達にとっては心底腹立たしかったのだ。
それだけにアンチョビとしてもラブに何か一言言ってやらねば気が済まず、彼女の思いは他の者達にとっても同じであった。
「何よいきなり失礼ね…一体何が言いたいのよ……?」
アンチョビに小言を言われる時の常でラブは面白くなさそうに口を尖らせるが、その程度の事でアンチョビが怯むはずもなかった。
「解ってるクセに白々しくとぼけるんじゃない!ったくオマエってヤツは昔からそうだ、下らない事程手間暇掛けて大袈裟にやりやがる……Love Gunが直ったんなら普通にお披露目すりゃいいものを、あんな馬鹿みたいに派手にする必要が何処にあるんだ!?」
今になって思えば久里浜港への全参加車両の揚陸と、カチューシャが騎乗するKV-2のスモーク弾を使ったパフォーマンスもLove Gun復活をより引き立たせる為の布石、つまりは自分達が体のいい当て馬にされていた事にアンチョビも気付いたのだ。
「馬鹿みたいとはご挨拶ね、やっと復活したLove Gunのお披露目なのよ?やっぱりそれなりの感動は必要だと思わない?」
「何が感動だ!こっちは死ぬ程ビックリしたわこのバカタレが!」
仏頂面のアンチョビにLove Gunの復活を祝福する処か馬鹿呼ばわりされたラブは、あからさまに面白くなさそうにムッとした顔をする。
この程度の事でここまで文句を言われる筋合いないというのが彼女の言い分であり、振り回される側も楽しいはずと本気で思い込んでいるから始末に負えなかった。
だが彼女の馬鹿げた規模のサプライズに皆がそれなり腹を立てているとはいっても、怒鳴って肩で息をするアンチョビ程ではなくその怒り方は少々行き過ぎとも感じられた。
確かに全員何か一言ぐらいは言ってやろうと考えていたが、それと同時に言うだけ無駄である事も長年の付き合いからよく解っていたからだ。
『全く無駄に体力使って…暖簾に腕押し糠に釘ですのに……にしても馬鹿にしつこく絡みますわね、今朝の一件といいどういう事なのかしら──』
「Hey!チョビ~、もういいじゃないよ~」
完全に説教モードなアンチョビに違和感を抱くダージリンであったが、彼女の思考は仲間内で最も楽天的且つ大雑把な思考の持ち主の声によって中断させられた。
「あ?誰がチョビ~だ!?勝手に変な仇名付けるんじゃない!」
バイキングスタイルの立食パーティー故に各種料理を盛り付けたプレートを手にしたまま、ケイはアンチョビがイラッとする程能天気に首を突っ込んで来た。
「このf●ckなおっぱいに今更言って聞くなら、とっくの昔にみんな言ってるって~」
「オマエなぁ!」
まさかコイツ飲んでるのかと疑いたくなる程ふざけた態度のケイにその矛先を向けるアンチョビであったが、杏と一緒にいる事で機嫌よく鼻の下を伸ばす彼女には何も効果がなかった。
「また随分な言われようね……」
「そんな事よりさ、やり過ぎと言うならやっぱKISS MEの方でしょ?」
何を言われようと酔ったようなヘラヘラとした態度を崩さないケイは、それまでローストビーフを口に運んでいたフォークをラブに向けると軽くピコピコと振って見せた。
周りにいる者達は突然何を言い出したのかとケイの顔をマジマジと見ていたが、彼女の傍で合流したアリサをからかって遊んでいたナオミまでが解る解るといった風にウンウン頷いていた。
そしてそれだけではなくサンダースの隊員達も大体似たような反応を示しており、それが余計にケイが何を言っているか解らぬ者達を困惑させるのだった。
「やり過ぎぃ?どの辺が~?」
だがそれまでアンチョビに小言を言われ続け面白くなさそうだったラブは、口元にニヤニヤ笑いを貼り付けた顔でケイねめつけ始めた。
「イヤイヤイヤ…頭のチョンマゲといい
「ふん、まぁよく見てるじゃない…確かにベースは特注、ステージのセットも拘ったわ……やっぱりアーミーとしてはその辺も絶対妥協出来ないもの」
腕を組み高飛車な態度を装うラブであったが、
「けどさすがにあのコープス・ペイントはしなかったのね?」
「…試合直後のステージには、例え煤塗れだろうがそのままの姿で上がる事に決めてるから……」
「なんか歯切れ悪いわね?」
知り合って間もなくから彼女が
「…試合後以外のステージでは私はやろうと思ったんだけど……これだけはどうしてか亜梨亜ママの許可が下りなかったのよ……」
『そりゃそうだろ……』
いくら神の如くリスペクトしているとはいえ、年頃の娘が公の場において悪魔の白黒パンダメイクをする事にはさすがの亜梨亜もいい顔をしなかったらしく、彼女にしては珍しく母の下した決定に対して不満そうに口を尖らせていた。
だがケイとナオミも亜梨亜の決定は至極真っ当なものだと思ったし、超の付くお嬢様であるラブがあのメイクをするのは二人にも考えられなかった。
そして同時にフリーダム過ぎる娘を持つ、母亜梨亜の苦労の一端を見た気がしたのだった。
「む~、私としてはそこまでやってこそアーミーを名乗れると思うんだけどねぇ……」
「ねぇ!私にも解るよう話しなさいよ!」
何処まで本気か解らないラブにどう反応したものかとケイとナオミが顔を見合わせると、その二人の背後から焦れた様子の小さな暴君の怒声が割って入った。
「カチューシャ様、口の周りがグレイビーソースでベタベタですよ?」
「あ、ちょっ!…むぐっ……!」
『ヒドイ……』
話に付いて行けないカチューシャが更に何か言い募ろうとしたが、狙い澄ましたようにノンナが彼女の口の周りをナプキンで拭い始めた。
しかしそれは拭うと呼ぶには些か強引に過ぎ、どちらかというとサイコな誘拐犯が口封じをしているようにしか見えず、ノンナの容赦のなさに周囲はドン引きだった。
「ま、まぁラブが熱心なファンなのは解った…けど君達は何も異存はなかったのか……?」
カチューシャ程疎い訳ではないがそれでも詳しいとは言えないまほが、ラブの背後に涼しい顔で控えるLove Gunのメンバー達に話を振れば、砲手の瑠伽が代表するように一切言い淀む事なく即答するのだった。
「全然、これっぽっちもないですね……ラブ姉がやりたいモノなら私達何でもやりますよ?」
「瑠伽君……」
音楽の方向性を巡ってはかなり激しく衝突する事も多いと以前聞かされていただけに、彼女達がその事で何一つ不満を漏らさない事がまほとしては意外であった。
「ステージ上の私達、楽しそうに見えませんでしたか?」
瑠伽の口から予想とは違う答えが返って来た事でまほが少し考え込む仕草を見せると、今度はその様子に自分達のステージに何か問題があったのかと瑠伽が気にした素振りを見せた。
「あ……イヤ!そんな事はない!迫力満点のステージに圧倒されっ放しだったぞ!」
慌ててそう答えながら唐突にラブの挑発的なパンチらを思い出してしまったまほは、顔を真っ赤にしながら瑠伽の心配を振り払うようにヒラヒラと両手を振って見せる。
「ふふ♪そうですか?ならいいんですけど……」
彼女が何を考えているか見透かしたように口元に薄っすらと笑みを浮かべた瑠伽は、ワタワタするまほに軽く頭を下げるとそれ以上は何も言う事はなかった。
AP-Girlsのメンバー中、鈴鹿と並びクールビューティーの双璧と称される瑠伽は純粋な一年生ながらも非常に大人っぽく、彼女の見せる大人の女性の微笑にまほの心臓は一層ドキドキしたのだった。
「ま、まぁそれはともかくだな…お、おいラブ!そろそろ私達にも彼女達と普通に話をさせてくれないか……?」
「ん~?普通って何よ~?」
ノンナに猿轡でもされるように口元を塞がれてモゴモゴ言いながらジタバタするカチューシャの可愛い姿に萌えていたラブは、胸のドキドキを誤魔化そうするかのように話題を変えたまほの裏返り気味なトーンの高い声に面倒そうに振り向くと、への字にした唇をこれまた面倒そうに開くのだった。
「いや、だからな──」
「あなた一年生連合に箝口令を敷いて、私達に余計な情報が洩れないよう小芝居をさせていたでしょう?試合も終わったのですから、もういい加減彼女達と普通に話をさせろと言っているのです」
ラブ相手ではまほが口で勝てるはずもなく煙に巻かれるのが関の山と踏んだダージリンは、まほが更に何か言い募ろうとするのに被せる形で口を挿むと、ラブに言い返されないよう一気に試合に参戦した三年生達全員が思っているであろう事を一気にまくし立てた。
「特にあのエニグマの隊長の……」
そしてここからが一番肝心とばかり念を押すように、新設校連合にあって今回の試合で最も目立つ存在となった晶について言及し掛けたダージリンは、暫し視線を彷徨わせ彼女の姿を見付けた瞬間そこで初めてその事実に気付いたのか絶句し、ポカンと口を開けそれきり何も言えなくなっていた。
「あの…何でしょう……?」
空腹を満たすべく他の新設校の選手達と共に並べられた料理の数々の消費に勤しんでいた晶は、気を抜いていた処に不意を突くように視線が集中した事で、何とも居心地の悪さを感じ恥ずかしそうに俯きモジモジするのだった。
『何でこの子は試合も終わったのにラブのコスプレをしたまんまなんだろう……?』
入浴後エキシビションマッチ参戦記念の制服を身に着けているのは自分達と一緒だが、晶だけがラブ発案のコスプレ作戦で使用したのと同じ真紅のウィッグをまだ着用していたのだ。
しかもそのウィッグは念の入った事に試合中に煤で汚れた物ではなく、別途用意された新品らしくキラキラと輝き見る者に溜息を吐かせる程美しかった。
だが絶句したダージリンを始め三年生連合の全員が、試合が終わっても尚コスプレを続ける意味が理解出来ず彼女に遠慮のない視線を浴びせ続けていた。
「あの…何か言って下さい……」
無遠慮に突き刺さる視線にいたたまれない気持ちとなった晶は、目じりに涙を浮かべか細い声で短く囁くのがやっとだった。
「だ、だからこれはKISS MEのライブ会場に入れて貰う為に仕方なく……」
「ふんふん、ライブの為なら大学生でも躊躇なく高校の制服を着ると?」
「それはその……」
「で?誰がその笠女の制服を着せてくれたって?」
「……」
「ねぇ?さっきからアンタの腕にぶら下がってる可愛い子は誰?」
「くっ……」
晶が思いもよらぬ羞恥プレイに涙目になっていた頃、打ち上げパーティーの会場となっているアリーナ内ではもう一名笠女の制服姿で公開処刑されている人物の姿があった。
KISS MEとAP-Girlsのライブを間近で見る為と称し、彼女にぞっこんな笠女の生徒会長を務める結依にまんまと笠女の制服を着せられたメグミは、結局その後も着替えさせては貰えずそのままの姿でこうしてパーティーに参加させられたのだった。
そしてとうとう彼女と共に参加車両の空輸に関わったサンダース大のチームメイトに捕まってしまい、こうして衆人環視の中容赦のない尋問を受ける羽目になったのであった。
ネチネチと執拗なチームメイト達に知っているクセに白々しいと思いながらも、口が裂けてもそんな事を言えないメグミは答えに窮し唇を噛む。
サンダース戦以降メグミに不審な行動が目立ち、彼女の周囲では結依の姿が度々目撃されている事はチーム内でもある程度噂にはなっていた。
しかしそれでもギリギリ決定的な場面を押さえられる事は回避出来ていたが、今回は結依が暴走気味だったせいでこうしてチームメイト達に取っ捕まってしまったのであった。
「ルミとアズミもなんか最近メグミの行動が怪しいとか言ってたけどこういう事だったか……」
「う゛……」
結依の存在を知られたら一番厄介な事になる相手であるルミとアズミの名が出た途端、メグミは餅でも喉に詰まらせたような呻き声を上げて涙目でチームメイト達を睨んだ。
「何よその目は……?」
「チッ……」
メグミの宜しくない目付きと反抗的な態度にチームメイトの目がスッと細められると、小さく舌打ちしたメグミは追及から逃れるように目を逸らすのだった。
「ちょっと宜しいですか?」
窮地に立たされたメグミの腕にぶら下がる結依は、それまでニコニコと無言で事の成り行きを静観していたが、僅かに尋問が途切れた隙間を狙い沈黙を破った。
「ハイ?えっと…確か木幡さんだったわね、何かしら……?」
「結依で構いませんわ、それより少しお願いがあるのですが聞いて頂けますか?」
「お願い……?」
「はい、お願いです」
それまで沈黙を貫いていた結依が不意にお願いなどと言い出した事で、メグミのチームメイト達もやや戸惑った表情になったが、結依は全く構う事なく話を進めるのだった。
「いくらチームメイトとはいえ、これ以上私の大事なメグミお姉様を苛めないで頂きたいのです」
『え゛……?』
ニコニコと笑顔を絶やす事なくそれでもハッキリとよく通る声で言い切った結依は、その視線を端から順にメグミのチームメイト達に巡らせる。
しかし彼女の放った言葉の意味を直ぐに呑み込めなかったチームメイト達は、ひと呼吸分の間が空いた後短く声を洩らし頭真っ白で固まっていた。
「ゆ、結依ちゃんちょっと!」
メグミも彼女達と同様暫くの間固まっていたが、しれっととんでもない事を言い放った結依の言葉の内容を理解すると血相を変えたのだった。
「だ……だだだ大事なお姉様ぁ!?」
「ちょ────っ!マジぃ!?」
「わ、私リアルでお姉様なんて言葉初めて聞いたわ!」
「し、しかもこんな可愛い現役女子高生の口からよ!」
放り込まれた爆弾の破壊力にチームメイト達が蜂の巣を突いたような騒ぎになる中、当事者たるメグミは『完全に終わった』などと力なく虚ろに呟きながら、風に揺れる柳の枝のようにふらふらとしながら立ち尽くしている。
「勿論タダでとは申しません、それなりの見返りはご用意させて頂いておりますわ♪」
『は?見返り……?』
アホな騒ぎなどどこ吹く風で澄ました態度を崩さぬ結依が何を言っているか理解出来ず、チームメイト達が揃って間の抜けた反応を示す中、結依は芝居がかった仕草でパチリと指を一つ鳴らす。
すると一体今まで何処で待機していたのか、結依揮下の最精鋭である笠女生徒会の執行部の役員達が彼女達を取り囲むように姿を現したのであった。
「この子達は一体……?」
「え…ナニ……?」
「ちょ、ちょっと……」
「は?えぇ~!?」
まるで拘束でもするかのように彼女達を取り囲み腕を絡めて来た生徒会執行部の役員達は、職務中である証の校章入りの腕章を付けているにも拘わらず、全員その目を好奇心に輝かせながら意味あり気に微笑んでいる。
傍から見れば美少女のおしくらまんじゅう状態で取り囲まれたメグミのチームメイト達は、キャッキャウフフする役員達に連れられジワジワと移動し始めていた。
「ね、ねえ何処行くのよ……?」
「まぁまぁ、あちらに別の席をご用意してありますので♪」
「そ、そんな胸を押し付けられたら……」
「さ、私達生徒会執行部が心を込めておもてなしさせて頂きますわ♪」
「いやだから…あ、このマシュマロのような感触は……♡」
「……」
ピンクのオーラを放出するケダモノの群れに包囲され、鼻の下を伸ばして何処かに拉致されて行くチームメイトの姿を死んだような目で見送ったメグミは、その目を結依に向けるとそのまま無言で説明を求めた。
「ほら、私サンダース戦の時にエスコート役を決める戦いに勝ち残ってメグミお姉様とお近付きになったでしょ?今回こうして素敵な現役女子大生のお姉様達が揃ったものですから、あの子達すっかりテンション爆上げしちゃって自分達に紹介しろって……ふふっ、ホント困った子達ですよね♪」
結依の言う事は嘘ではない、だが同時に本当でもないと根拠はないが瞬間的にメグミの直感はそう感じ取っていた。
現役女子高生に手を出していたメグミにこれ以上の肴はないと盛り上がる彼女のチームメイト達を、揮下のケダモノ達の中に放り込む事で既成事実を作りメグミに何も言えぬ立場に貶める。
これが超やり手な生徒会長木幡結依の策略であると見抜いたメグミは、まんまと策にハマり遠ざかるチームメイト達を見送りながら力なく呟くのだった。
「結依ちゃん、恐ろしい子……」
そんなメグミの様子などお構いなしに甘えた仔猫のように目を細めた結依は、縋り付いたメグミの腕に弾力抜群な自らのたわわをギュッと押し付けるのだった。
年内の投稿はどうもこれが最後になりそうです。
やはりコロナの影響で色々と仕事の予定も狂っています。
年明けは例によって読み切りの短編を一本投稿して、
本編はその後にスタートする事になると思います。
それでは少し早いですが来年も恋愛戦車道を宜しくお願い致します。
読者の皆様にとって来年が少しでも良い年となりますようお祈り申し上げます。