ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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チョビ子も気苦労が絶えません……。


第百五話   彼女だけが見ていた

「ったくラブのヤツめ…やっぱりアイツは私達を脅かすのを生き甲斐にしてやがるだろ……」

 

 

 エキシビションマッチ開始前の揚陸パフォーマンスで派手に復活したLove Gunに続き、一日に二度もLove Gunの登場で驚かされたアンチョビは、派手にコケた事で打ち付けた尻を摩りながらブチブチと文句を言っていた。

 

 

「大体あのステージのG型だっていつの間に作っていやがったんだか……」

 

 

 それまで使用されていたⅢ号J型に代わり、赤外線暗視装置を搭載したパンターG型にこっそりモデルチェンジしたLove Gunのレプリカの登場は、アンチョビ達に盛大に尻餅を突かせていた。

 驚いて尻餅を突いた自分達を体よくカラオケ大会のオチに使われ憤懣やるかたないアンチョビは、パーティーも跳ね宿舎に戻る道すがら延々とおちょくられた事に対する怒りをぶちまけていた。

 

 

「あ、あんざい……」

 

 

 肩を怒らせズンズンと前を行くアンチョビの背中をまほはオロオロしながら追っていたが、二人の後に続く者達はその様子をただ呆れながら眺めていた。

 

 

「あの子昔っからこういう時意外としつこいわよね?」

 

「散々キツネとタヌキの化かし合いやって来たクセに呆れますね……」

 

「どっちがキツネでどっちがタヌキだって?」

 

「それは中々答え難いクエスチョンですわね……」

 

「Ha!一番の古狸が何言ってんだか」

 

「何ですってぇ!?」

 

 

 口々に言いたい放題言う連中の声が聞こえているのかいないのか、アンチョビは振り返る事なく歩を緩める気配も見せず立ち止まる事もなかった。

 

 

 

 

 

「そ~いやさ、メグミのヤツいつの間にか姿見えなくなってたわよね」

 

「何を今更言っているんです?私達がステージを降りる頃、木幡会長に引っ張られるように退出していたじゃありませんか」

 

「What!?」

 

「呆れた…メグミさんだけではありませんわ、サンダース大の皆さんも生徒会執行部の子達に囲まれてみんな出て行ったじゃありませんか……ケイ、あなた本当に気付かなかったんですの?」

 

「ぐっ……」

 

 

 ああでもないこうでもないと騒ぎながら辿り着いた宿舎のフロントでも、チェックインの順番待ちの間ですらアホな騒ぎは続いていた。

 

 

「アッサム様でいらっしゃいますね?はい、恋お嬢様から承っております」

 

 

 ケイとダージリンが馬鹿をやっているうちにチェックインの手続きを始めたアッサムは、片腕にローズヒップをぶら下げたまま、他の利用者とは少々違う対応をするフロントスタッフから明らかに仕様の違うルームキーを躊躇する事なく受け取っていた。

 笠女学園艦に滞在する者の為に用意されている宿泊施設は宿舎などと呼ばれてはいるが、実質かなり豪華な部類のシティホテルだった。

 ラブからの打診を受け渋るローズヒップを説き伏せたアッサムは、彼女の配下にあるクルセイダーをエキシビションマッチ出場させる見返りとして、笠女学園艦に滞在する者の為に用意されている宿泊施設部屋の中でも特に豪華な、所謂スイートルームを使用する権利をラブとの裏取引で得ていたのだ。

 

 

『この腐れ外道マジさいってぇぇぇ……』

 

 

 澄ました顔でローズヒップのローズなヒップに手を回しエレベーターホールに向かおうとするアッサムを、それまでバカ話を続けていた者達も黙り込み死んだ目で追う。

 

 

「…西住、私らも行くぞ……」

 

 

 アッサムに続いてフロントでルームキーを受け取ったアンチョビが疲れの滲んだ顔で振り向けば、何処か落ち着かない様子のまほが慌てて彼女の下へと駆け寄って来る。

 

 

「さすがに疲れた…西住、今夜はマジで勘弁してくれよ……」

 

「え?あ…あぁ……」

 

 

 一見顔色を窺うようなオドオドした態度ながらも、何かを期待するような気配の見え隠れするまほの表情に、とてもその気になれないアンチョビは先手を打つようにやんわりと釘を刺す。

 体力底なしの西住製重戦車まほ型の相手をする程余力のないアンチョビは、さっさと宛がわれた部屋に入りベッドに倒れ込みたい心境だったのだ。

 

 

「お待ちなさい!今朝の約束をもう忘れたんですの!?」

 

 

 だが、あからさまにガッカリしているまほを引き連れたアンチョビがエレベーターホールへと一歩踏み出した処で、背後から彼女を呼び止める甲高い声が上がった。

 こういう状況下で一番聞きたくないキレ気味なダージリンの声が耳を打った途端、酷く面倒そうな顔でアンチョビは脚を止めたのだった。

 

 

「別に忘れた訳じゃないよ……」

 

「だったら!」

 

「そんなに深刻な話じゃないんだ…その顔じゃ明日って訳には行かなそうだな……しかたない、()()()()ラウンジに行こうか……」

 

 

 今朝の約束の意味が直ぐに理解出来なかった者達も暫く考えて、自分達を前座に派手な演出のサプライズで復活したLove Gunの姿に、突然アンチョビが涙を見せたのを思い出した。

 一人ヒスを起こして喚くダージリンと、疲れ切ってウザそうな表情のアンチョビ。

 対照的な二人の顔を交互に見比べる一同に向けて緩慢な動作で天井を指差したアンチョビは、返事も聞かず重い足取りでエレベーターホールに向かって歩き出していた。

 

 

「ローズヒップ、あなた一足先に部屋に行って待っていてくれる?」

 

 

 一連のやり取りでダージリンが何を言っているか一番最初に気が付いたアッサムは、そっと溜息を吐きローズヒップの腰に回していた腕を解くと、何故とばかりに不思議そうな顔をするローズヒップに優しく言い聞かせるように語り掛けた。

 それでもやや不満そうにローズヒップが頬を膨らませて見せると、困ったように笑ったアッサムは彼女の耳元にそっと何やら耳打ちをした。

 

 

「解っかりましたわアッサム様!私先に部屋に行って待ってます!けどアッサム様も早くお戻り下さいましね!」

 

 

 するとそれまでの不満そうな表情をしていたローズヒップは、一転してパッと顔を輝かせアッサムからルームキーを受け取ると、選手宣誓でもするような元気さでお返事しエレベーターではなく階段をダッシュで上層階のスイートルーム目指して駆け上がって行った。

 しかし三段飛ばしで駆け上がるローズヒップの姿は、まるで投げられた棒切れを追い駆ける元気のあまった犬っコロにしか見えず、その背中を見送った者達は揃ってポカンと呆けた顔をしていた。

 

 

『わんこか…にしてもこのでこっぱち、ローズヒップに一体吹き込みやがった……?』

 

 

 にこにこと走り去るローズヒップを見送るアッサムの背中に白い目が集まるが、笑みを絶やさない彼女に何一つ悪びれた様子は見られなかった。

 

 

「それじゃおケイさん、私も一足お先に部屋に行ってるとするかねぇ」

 

「ん…あ、そう……?ごめんアンジー、私も直ぐに行くからちょっと待っててくれる……?」

 

 

 ケイと杏の為にラブは当然のように部屋を手配していたので、表向き困った顔でケイの後に付いて来ていた杏は、空気を読んでいつものメンバーだけになれるよう気を遣うのだった。

 

 

「さぁ!それではキッチリ説明して頂きますわよ!」

 

 

 アンチョビが涙を零した直後はさすがに気遣いを見せていたダージリンであったが、その後の試合で失策続きのいいトコなしだったせいか、今はすっかりやさぐれて詮索の鬼と化していた。

 

 

『…全くとんだ大失態だったな……にしてもダージリンのしつこさは何なんだよ……』

 

 

 疲れ切って大きく肩を落としたアンチョビは、渋面で内心そんな事を毒づくのだった。

 

 

 

 

 

「皆さん紅茶で宜しいですわね?」

 

 

 すっかり使い慣れた感のある宿舎最上階のラウンジのキッチンを拝借したアッサムは、一応は確認しながらも返事を聞く事なく人数分の紅茶を淹れ始める。

 いつもであれば彼女と連係プレイで紅茶を淹れるダージリンは、ラウンジのソファーに大股開きでどっかと腰を降ろし、腕組みしたまま二の腕の辺りを人差し指でトントンし続けていた。

 

 

「どうぞ……」

 

 

 ダージリンは相当苛立たしげであったが、アッサムが紅茶を淹れている以上は待つのが礼儀だと考えたアンチョビは、彼女が全員に紅茶を給仕し終えるのを待って漸く口を開いたのだった。

 

 

「…何と言うか今朝は驚かせて済まなかった……ただな、まぁこれは言い訳にしかならないんだが正直私自信も驚いているんだよ……何しろ私自身も忘れていた事だったからな……」

 

 

 厳密に言うならば彼女の忘れていたというのは嘘であった。

 ()()()から今日に至るまで、彼女が抱え込んだもの全てを忘れた事はなかったのだから。

 ただ、さすがに彼女も復活を果たしたLove Gunが目の前に現れるまで、事故後臨海中学の演習場で無残な姿を晒しながらもラブの帰りを待っていたLove Gunをその目で見た事を記憶の隅に追いやっていたのだ。

 

 

「三年…もうじき四年前になるんだな……あの事故の後唯一横須賀に残った私が……私だけが事故直後のLove Gunの姿を見ているんだよ……」

 

「だからそれが何だと──!」

 

 

 当時を思い出しながら考え考え口を開いていたアンチョビであったが、最初彼女が何の話をしているか直ぐには理解出来なかったダージリンは、案の定早々に噛み付きかけていた。

 だがその途中で漸く彼女の話が何を意味するか気付いたらしいダージリンは、ハッとして開き掛けていた口を噤んだのだった。

 

 

「まぁ事故の直後とはいっても実際にはあの欠陥榴弾も撤去した後で、安全が確保されてからの事だったんだがな…とにかくあの時の私は英子さんに無理を言って、事故現場である臨中の演習場に連れて行って貰いこの目でLove Gunの姿を見て来たんだ……」

 

「安斎……」

 

 

 ここまで話せば彼女が何を言いたいか全員が理解し、まほなどは当時の苦い記憶を掘り起こすアンチョビを気遣い痛々し気な顔をしていた。

 

 

「ありがとう西住、でも大丈夫だ…ええと何処まで話したかな……そう、事故現場で直接Love Gunの姿を確認させて貰ったんだ。たださすがに英子さんも車内の様子までは見せてはくれなかったけどね……尤ももし車内の惨状を見たら多分その場でへたり込んでいただろうし、何より現場検証も始まっていなかったから当然といえば当然だよな」

 

 

 極力生々しくならぬよう努めて淡々と話すアンチョビであったが、この時既に全員が彼女の話に口を挿む事など出来なくなっていた。

 

 

「何て言うかな…戦車道なんかやってりゃ撃破された戦車なんて散々見てる訳だし、私なんざそれこそ撃破されまくってるから戦車のそんな姿は見慣れてるつもりだったんだがな……けどな、やっぱり違うんだよ…試合で撃破されたのと暴発事故を起こした車両とじゃその雰囲気が全然違うんだ……」

 

 

 彼女が淡々と話す分却って話は重みが増し、今や全員が完全に口を閉ざし沈黙していたが、それでもアンチョビは構わずにそのまま話続けていた。

 そして実際にそれを見た者だけが語る事が出来る真実は、話を聞いただけの者達ですら表情を硬くする程真に迫っていたのだった。

 特に仲間達の中でも一番ビビりな性格のカチューシャなどは、色々と余計な想像でもしたのか青い顔で小さな身体を震わせていた。

 

 

「それでな…こんな事を言うと笑われるかもしれんが、あの時私には自分も深く傷ついたLove Gunがラブが帰って来るのを待っているようにみえたんだよ……だからかな、アイツと一緒にいなくなったLove Gunが姿を見せた時、お前も生きていたんだなって…そしたら何か急に……イヤ、実にみっともない処を見せたし色々誤解させてしまって本当に済まなかった」

 

 

 最後の方は自分でも余程恥ずかしかったのか、如何にも情けなさそうな口調となったアンチョビは、それで締めとばかりに一つ頭を下げ話を終えたのだった。

 

「あ、そうだ…この事はくれぐれもラブには内密に頼む……アイツが知ったらまた気に病んで色々と面倒な事になるからな……」

 

 

 そして思い出したようにこれが肝心と一言付け足したアンチョビが話を終えると、朝からずっとモヤモヤを抱え鼻息の荒かったダージリンも当初の勢いは何処へやら、意気消沈しすっかり小さくなり俯いていた。

 

 

「…ゴメンなさい……」

 

 

 さすがに気まずいのか顔を上げられないダージリンは消え入りそうな声でそれだけ言うと、アッサムの淹れた紅茶の入ったティーカップを掌の中でゆっくりと揺らしていた。

 

 

「…もう、いいよな……?今日はもうマジで無理だわ……どうせラブの事だから明日はライブ以外にも目一杯予定をぶっ込んで来るはずだからな、少しでも早く休まんと身体が持たん……」

 

 

 余程疲れているのか頭を左右に振って首を鳴らしたアンチョビは、力なく呟きながら今度は目頭をグリグリと揉み始めた。

 

 

「あ~早くコンタクト外したい……」

 

 

 その仕草と絞り出すような呟きに我に返った一同が漸くアンチョビを解放すると、ふらりとソファーから立ち上がった彼女はヨタヨタと覚束ない足取りで心配そうなまほと共に立ち去るのだった。

 

 

 

 

 

「おっはよ~♪」

 

「…だからお前は朝っぱらから何でそんな無駄に元気なんだよ……?」

 

「何よ…人が折角朝ごはん誘いに来てあげたのに失礼ね……」

 

 

 こちらの都合も考えずにラブが来るであろう事は予想していたアンチョビも、まさかここまで早い時間に来るとは思ってはいなかったようだ。

 朝は少し寝坊して多少なりとも疲労回復を図りたかったアンチョビであったが、事前の連絡もなしに宿舎を訪れたラブに内線電話で叩き起こされた彼女は、見事に目の下に隈の出来た顔で思ったままの事を言葉にしていた。

 昨夜は彼女のメンタル面を考慮し気遣いを見せたアンチョビも、さすがにこれは我慢の限度を超えるらしく容赦ない言葉をラブに浴びせるのだった。

 

 

「うるせぇ…ちったぁ人の迷惑ってモンを考えろこのバカタレが……」

 

 

 仏頂面のアンチョビに邪険に扱われ不満そうなラブはフグ提灯のように頬を膨らませるが、長年の経験でアンチョビもその程度では動じはしなかった。

 

 

「誰がバカですってぇ!?」

 

「他に誰がいるこのどアホウめ」

 

「どアホウっ!?」

 

 

 朝っぱらから中々に険悪な状況にも拘わらず、いつもなら一言ならず口を挿む連中が珍しく揃って口を噤んでいるのは、単に寝込みを襲われ疲れの抜けていない頭が回っていないからであったが、特にパートナーと共に一夜を過ごした者達の方がその傾向は顕著であった。

 アッサムがラブとの裏取引でゲットしていたスイートルーム程ではなくとも、彼女達の為に用意されていた部屋はどれも雰囲気の良いものであったので、この機を逃すまじと意地汚く夜通し盛ったとなればそれも当然の事だろう。

 中でもカチューシャなどは小さい分より消耗も激しいらしく、フロントのあるロビーに姿を現した時からノンナの肩の上で器用に舟を漕ぎ続けていた。

 そしてラブとアンチョビが言い争ううちにとうとうバランスを崩し後ろに引っ繰り返ったカチューシャであったが、余程眠いのか逆さ吊りになっても起きる事はなく、スカートが捲れおパンツ丸出しのまま爆睡し続けていた。

 

 

「な、なぁ安斎…気持ちは解るがここでいつまでもこうしているのもなんだから、取り敢えず学食に行った方がいいんじゃないのか……?」

 

「…解ってるよ……」

 

 

 それまでオロオロしながら言い争う二人の顔を交互に見比べていたまほは、このままではただ時間を浪費するだけだと意を決したように口を挿むと、更にラブに何か辛辣な事を言おうとしていたアンチョビもそこで言葉をグッと呑み込み、如何にも不承不承といった顔で漸く矛を収めたのだった。

 

 

「…ラブももういいだろ……?」

 

「わ、解ってるわよ!怖いからその顔で迫るな!」

 

 

 機先を制したアンチョビに釘を刺され、言い付け通り昨夜はケダモノ化する事のなかったまほであったが、滾る煩悩を無理矢理抑えひと晩悶々と過ごした結果彼女の目はすっかり充血し、その血走った目で迫られたラブも身の危険を感じ素直に彼女の言葉に従ったのであった。

 

 

 

 

 

「…今の一年生は何処もこうなのか……?」

 

「私に聞かれても知りませんわ…少なくとも聖グロでは──」

 

「ねぇラブ!ケーキは?ケーキバイキングはありますの!?」

 

「ちゃんとあるわよ~、デザートコーナーに行けばフルーツから何から一通り用意してあるわよ~」

 

『元気じゃね~か……』

 

「あの子は昨日の試合に出ていませんわ!」

 

 

 ひと悶着の後一行が学食に辿り着くと、比類なき規模を誇るホールでは既に新設校連合の一年生達とAP-Girlsが、凡そ朝食とは思えぬ勢いで賑やかにカロリー摂取に勤しんでいた。

 それに比べると同じ試合とその後のイベントに参加した三年生連合の選手達の姿はまばらで、どうにも一年生達の元気さだけが際立つ光景だった。

 疲労感を引き摺る彼女達は能天気なラブとローズヒップのやり取りに、思わずダージリンに力なくツッコミを入れたが、キッとなって言い返したダージリンも何処か恥ずかしそうに見えた。

 

 

「何と言うかもう年かな……」

 

「年寄りかよ……」

 

「それを言ったらラブはどうなるんですの……?」

 

 

 数日早く生まれていれば一つ学年が上だったラブにとって、それは最大の地雷ワードだった。

 話の流れで無意識にダージリンがそれを口にした途端、背中越しに彼女達の会話を聞いていたラブの耳がピクリと反応する。

 だが様子を見るつもりなのかラブは即それに絡もうとはせず、ローズヒップの相手をしながら背後の()()()()の会話に聞き耳を立てていた。

 

 

「ダージリン、あなたそれラブに面と向かって言えますか?」

 

「い、言えますわ!その程度でこの私が臆するとでもお思いですの!?」

 

「今噛んだよな?」

 

「噛みましたね」

 

「Yes!噛んだわ!」

 

「小心者のクセに粋がるから」

 

「ソコ!煩いですわよ!」

 

 

 逆さ吊りのまま爆睡するカチューシャを背負ったノンナが冷静にツッコミを入れると、チラリとラブの背中を見たダージリンは精一杯虚勢を張って答えたが、その声は微妙に震えていた上にノンナの指摘通り第一声から噛んでいたので、その主張は全く説得力というものに欠けていた。

 

 

『…やっぱダージリンには敵わないわね……さすが最強のネタ女の二つ名は伊達じゃないわ……』

 

 

 頃合いを見て不意を突いてやろうと隙を窺っていたラブであったが、たった一回噛んだだけでも容赦なく弄られるダージリンに同情しながら腹筋の震えと戦っていた。

 彼女としてはちょっとダージリンを脅かしてやろう程度の考えであったが、容赦なく仲間達にフルボッコにされる彼女を見ているうちにその気はすっかり失せていたのだった。

 

 

「まぁいいか……ほらアンタ達!いつまでそこでウダウダやってるつもり?今日は夕方からのライブまでに目一杯予定が詰め込んであるんだからサッサと朝ごはん食べるわよ!」

 

 

 急き立てるようにラブが二つ程手を叩けば仲間達もゾロゾロと移動を始め、涙目のダージリンもトレイを手に取り人気の厚焼き玉子を求めておかずのコーナーの最後尾に並んでいた。

 

 

「うんうん、朝ごはんは大事よ♪しっかり食べないと今日一日持たないわよ~?」

 

 

 両の腰に手を当て何度も頷くラブは歌うようにそう言うと、自身もトレイを手に彼女達の後を追ってダージリンの後に並ぶのだった。

 

 

 




ダー様とカチューシャをぞんざいに扱うと楽しいのは何故w
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