ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

249 / 309
今回は前半がポンコツで後半が重めですw


第百十三話   知波の大波

「取り敢えずはあれだ、熊本に戻ってからお母様と相談して連絡するわ……」

 

「だね…私が一番悪いんだけど、この件は亜梨亜ママがヘタレてしほママに丸投げしてるし……」

 

 

 笠女学園艦上の空港区画、長大な滑走路を一望出来る展望デッキでは、ラブとまほがどうにも浮かない顔で角突き合わせ何やら延々と話し込んでいる。

 帰艦前の挨拶に顔を出したアンチョビが立ち去り際、みほに春休みの帰郷を促すついでに放った一言は、同時に彼女達にもクリアせねばならない重要な問題を突き付けていたのだった。

 

 

「安斎は何かあるといつもこちらが手を打つ前に自分でサッサと動いて、気が付いた時には問題を片付けちゃってるんだよなぁ……」

 

「まぁアレは昔っからよねぇ……」

 

 

 おそらくは多忙なしほの事を慮り、自分達親子が熊本に赴いた方が効率が良いと判断したアンチョビの配慮が働いていると二人も推察していたが、今回ばかりはさすがに二人もハイ解りましたと彼女のプランを受け入れる訳には行かなかった。

 進学問題だけではなく四年前のあの日、気が動転していたとはいえアンチョビに暴力をふるってしまったまほは、例え今更と言われようと彼女の両親に謝罪せねばならないと思っていた。

 そして彼女自身に責任は無いとはいえ、その元凶となった事故を引き起こしたラブも同じ思いであり、是非とも命の恩人であるアンチョビの両親に直接感謝の気持ちを伝えたかったのだ。

 だがその為には自分達がアンチョビの両親の下へと赴くのが筋であり、熊本まで足を運んで貰うなど本末転倒以外の何ものでもないというのが二人の共通見解であった。

 

 

「さて…いつまこうしていても答えが出る訳じゃないからな、私達もケイがいつ戻って来てもいいよう準備しておくとするよ……あぁそうだ、一つ気になっていたんだが、お前新設校連合の事昨日からほったらかしにしてるけどいいのか?もしかして私達の事優先して彼女達の事なおざりにしてたんじゃないだろうな?だとしたらちょっと彼女達に申し訳ないぞ……?」

 

「それならいいのよ、あの子等ウチの娘っ子達と昨日からずっと一緒に遊び倒してるし~」

 

「昨日からずっと…新設校の一年生達はお前達も含めて何でそんなに元気なんだ……?」

 

 

 今回のエキシビションマッチ開催の経緯は、彼女の新設校の実力を卒業前に見ておきたいという考えが発端だったので、まほとしては自分の我が侭に付き合ってくれた相手をラブが放置しているのではと気になっていたのだ。

 だがラブはまるでナイナイとでも言うようにヒラヒラと手を振りまほの杞憂を否定すると、彼女達が如何に笠女学園艦を満喫しているかを簡単に説明していた。

 

 

「まほだって知ってるでしょ?ウチの艦は云わばテーマパーク的な学園艦だって事をさ…あの子達それこそ艦内の娯楽施設を全部制覇する勢いでP-Girlsと遊び回ってたし、もう全員と帰艦前の挨拶は済ませてるから何も気にする事はないわ……それに今回の試合はあの子達にも経験値を積むいい機会だったから、そんな事誰も気にしてないから安心なさい」

 

「そうか…ならいいんだが……」

 

「まぁ残ってる子達はもう一回顔を見せに来るって──」

 

「お~いラブ姉~!」

 

「あぁ、言ってる傍から来たわ……」

 

 

 根が真面目なだけにちょっとした事も直ぐ気にするまほだったが、その辺がよく解っているラブは即座に彼女の思い込みを否定し、更にエキシビションマッチが新設校にとっても大変意義のあるものであった事を教えてやったのだった。

 更にほったらかしなのではとまほが気にするまでもなく、帰艦前の挨拶もとっくに済ませている事やフライト待ちの間にもう一度彼女の下に顔を出す事も付け加えようとしていた。

 ところが丁度その事をラブが話しかけた処で、まるでそれを待っていたように彼女の名を呼ぶ大きな声が展望デッキに響き渡った。

 その大きな声に驚いたまほが何事かと声のした方へと目を向ければ、そこのにはAP-Girlsに引き連れられた新設校連合の姿があった。

 そしてその中でひと際大きく手を振りながらぴょこぴょこ飛び跳ねて目立っているのが、どうやら今の声の主らしいクワイエットレボリューション(静かなる革命)ハイスクールの隊長、試合の序盤でケイを手玉に取り新設校連合の隊長達の中で最も陽気で能天気なメイプルその人だった。

 

 

『う~ん…クワイエットレボリューションのメイプル君だったか……どうにもあのキャラクターも作ってるような気がするのは、単に私が疑り深くなっているだけなのだろうか……?』

 

 

 常にゆるふわな能天気キャラを一切崩さぬメイプルに限らず、クセの強い新設校連合に翻弄されたまほは、果たしてあれが彼女の本当の姿なのか確信が持てずにいた。

 

 

『やっぱりこの辺も含めてラブの術中にはまってるのか……』

 

 

 それが疑心暗鬼なのはまほも解ってはいるが、長年ラブの掌で踊って来た彼女は改めてラブの掌の広さを痛感させられて、小さな溜息と共に展望デッキの高い天井を見上げたのだった。

 

 

 

 

 

「貰ったお土産と買ったお土産詰め込んだら、結局グリズリーの操縦席まで埋まっちゃって積み直すのが凄い大変だったのよね~」

 

「考えなしに買うからよ」

 

 

 賑やかに挨拶しながらやって来た新設校連合に呆気に取られるまほ達の前で、現れて早々間抜けな失敗をあっけらかんと話すメイプルを、パーペチュアルユニオン(永遠の連合)女学園のクールな騎兵隊長のカレンは何の躊躇いもなくバッサリと斬って捨てる。

 

 

『新設校の一年生は何でこんなに元気なんだろう……?黒森峰では…いや、強豪と呼ばれるような学校ではまず有り得んよなぁ……』

 

 

 帰艦前にもう一度顔を見せに来るとラブが言った通り、先程メグミが操縦桿を握る二便目で飛び去った武田菱以外のチームの選手達がラブの周りに集まっている。

 しかし来て早々ああでもないこうでもないと大騒ぎする一年生達と、自分が身を置いて来た環境とを比較して、まほ何処か納得行かないような顔でその光景を見ていた。

 

 

「まほ、アンタなんて顔してんのよ……?」

 

「ん?何で新設校の一年生がこんなに元気なのかと思ってな……」

 

「何よそれ……?」

 

「今言ったまんまだよ…って、うん?あれ……おいちょっと待て……」

 

「今度は何よ?」

 

 

 それまで何とも釈然としない様子で賑やかな一年生達をぼんやりと眺めていたまほは、ある事に気付いた途端驚きのあまり大きく目を見開き一点を凝視したまま固まってしまった。

 

 

「まほ……?」

 

 

 突然フリーズしたまほを不審に思ったラブが彼女の視線を追うと、そこにはエニグマの隊長古庄晶(ふるしょうあきら)の姿があったが、まほが固まった直接の原因は晶自身ではなく彼女の身に着けた服にあった。

 

 

「おいラブ、お前一体何考えてんだ……?」

 

「だから何よ……?」

 

 

 暫く晶の事を凝視ていたまほはゴリゴリと音がしそうな動きで向き直ると、不満そうな目付きで自分を睨むラブを信じられないものを見るような目で見ていた。

 まほ達も昨日まではエキシビションマッチ参戦記念の制服で過ごしていたが、帰艦する段になっても晶だけがまだその制服を身に着けた上に、試合でもラブに変装する為に使用したウィッグまで着用していたのだ。

 それをまたラブがまだ悪ふざけを続けているものだと思い込んだまほは、これはさすがに一言言わねばと目の前で仏頂面をするラブに呆れて溜息を吐いた。

 

 

「ラブお前なぁ、いい加減にしろよ?いつまで彼女にコスプレさせとくつもりなんだ?」

 

「彼女にコスプレって晶ちゃんの事?」

 

「そうだ、いくら何だってやり過ぎだろう?」

 

 

 少し離れた所で他の新設校連合の隊長達と何やら話し込んでいた晶は、まほ相手に言い合いを始めたラブの口から突然自分の名前が出た事でキョトンとしていたが、どうやら言い合いの原因が自分のコスプレにあるらしいと知ると小走りに二人の下へとやって来た。

 

 

「何よ~?何が気に入らないのよ?可愛いんだからいいじゃない!」

 

「だからそういう問題じゃない」

 

 

 言い争う二人の下へやって来た晶は仲裁に入ろうとするが、いつの間にか周囲の視線が全て自分に集中している事に気付き、何とも言えぬ居心地の悪さに恥ずかし気にモジモジし始めた。

 

 

「古庄君…晶君、ラブもアレだが君も君だぞ……?嫌な事は嫌とハッキリ言わないとダメだ、何しろコイツは黙ってると直ぐ調子に乗って下らん事ばかり思い付くからな」

 

「ちょっとまほ、黙って聞いてれば随分失礼ね」

 

 

 ラブの顔にビシッと指を突き付けたまほは、戸惑う晶にラブの非道っぷりを懇々と説く。

 それはひとえに彼女がラブの仕掛けた悪戯の最大の被害者だったからで、横でラブが異議を申し立ててもまほは一切取り合おうとはしなかった。

 だがまほがそこまで言った処でずっと困った様子で二人の顔を交互に見ていた晶が、日頃ハキハキと喋る彼女らしくないオドオドとした口調で口を挿んで来た。

 

 

「あ、あの…これはその……私が好きでやってる事なので……」

 

「そうだ、そういう風に言ってやらんとコイツは…は?何だって……?」

 

 

 てっきり晶が自分の説得に応じたものと思い込んでいたまほは勢い込んで一気に畳み込もうしたが、話し始めて暫くして彼女が何を言っているか理解した途端世にも間抜けな顔で固まっていた。

 

 

「…ですからこれは私が自ら望んでやっている事なので、ラブ姉は何も悪くないんです……」

 

「は…え……?そ、そうなのか……?」

 

 

 呆けた顔でぼんやりとコイツ何言ってんだと言いたげな目で自分を見るまほの視線に、一層居心地の悪そうな晶が説明を加えれば、漸く状況が呑み込めたまほからは先程までの勢いは最早影も形もなく消え失せていた。

 

 

「あの…おかしいですか……?」

 

「い、いや!決してそんな事は!」

 

 

 何処か悲しそうな晶に上目遣いで問われたまほは何ともいえない罪悪感に捕らわれ、バタバタと両手を振りながら慌てて彼女の疑問を否定したのだった。

 

 

『いや、充分おかしいでしょうが……』

 

 

 ラブの戦闘機動のフルコピーなどというとんでもない大技を体得している晶だが、そのラブの事となると彼女が途端に見境をなくすのは新設校連合の一年生の間では周知の事であった。

 とはいえ強烈なポンコツぶりを発揮してまほを翻弄する晶を、彼女達は麦茶と間違えて麺つゆを飲んでしまった時のような顔で見ていたのだった。

 

 

「…け、けどさすがにそれは……」

 

「私…ずっと憧れてたラブ姉みたいになれたのが嬉しくて……」

 

『怖えぇよ……』

 

 

 ラブのコスプレをした我が身を抱き締め夢見心地な表情で独りクネクネする晶に、全員がドン引きしながらヤバいものを見る目を向ける。

 

 

「晶君……」

 

 

 興奮気味に頬を赤らめる晶の表情は恋する少女のそれで、状況を受け止めきれないまほは只絶句する事しか出来なかった。

 

 

「ほら!晶ちゃんこっちおいで!ったくこの可愛さが解らんとはトコトン見る目のないヤツだ!」

 

「ラブ姉♡」

 

 

 手招きされて寄って来た晶をギュッと抱き締めたラブは、仔猫でもモフるかのように彼女の頬に自らの頬を合わせてスリスリし始めた。

 

 

『これも一種のナルシストになるんだろうか……?』

 

 

 目の前で展開される倒錯的な光景に全員が既視感と共に鼻の奥がツーンとする感覚を覚え、ついそんな事を考えてしまう。

 

 

「愛君…君はこれでいいのか……?」

 

 

 ラブが抱き寄せた晶をモフり始めると、それまで一歩引いたポジションでいつも通りの無表情を貫いていた愛がまほの前に滑り込んで来た。

 何となくこの後の展開は彼女にも解っていたが、それでもまほが様子を窺うように愛の顔を覗き込むと、携帯を取り出した愛はそのまま無言で二人の写メを撮り始めていた。

 

 

「愛君……」

 

 

 そして鼻息も荒く無言で写メを撮り続ける愛に、まほは再び言葉を失うのだった。

 

 

「──まほ!ねぇまほ聴こえてないの!?」

 

「う…え……うわ!」

 

 

 いくら呼んでも反応がないまほの直ぐ傍で、やや大き目な声でラブが彼女の名を呼ぶ。

 それで漸くまほも我に返ったが、極至近距離にラブのエメラルドの瞳がある事に気付いた彼女は驚いてつい大声を上げていた。

 

 

「煩いから変な大声出すな…けどまぁそれはいいわ……それよりまほ、アンタ私に何か言わなきゃいけない事があるんじゃないかしら……?」

 

「え?あ…その、スミマセンでした……」

 

 

 晶をモフりながらもトゲのある声で詰問されたまほは、ラブの鋭い視線に自分が何を成すべきか電撃戦並みの速さで答えを導き出すと、機械人形のように90度ガックリと腰を折り()()()()()に謝罪したのだった。

 

 

 

 

 

「それではそろそろ行くとするか…安斎にはもう一度私の方から話をするが、果たして素直に話を聞いてくれるかどうかが問題だな……とにかく日取りが決まったら連絡するからな」

 

「お願いするわ…けどまほの言う通り千代美もあれで相当頑固者だからなぁ……でもねぇ、これに関しちゃいくら千代美の言う事でも呑めないわ……」

 

「あぁ、迷惑を掛けたのはこちらなのだから筋を通させて貰わんと申し訳が立たん…っとイカン、今度こそ本当に行かないとケイの負担が増えてしまう……それじゃあまたな、お前も疲れてるだろうからあまり無理はするなよ」

 

「ありがとう解ってるわ」

 

 

 馬鹿はやっても互いに多忙な身故に、ラブとまほは念の為に今後の予定を確認している。

 そして粗方の話が終わった辺りで、ラブの手元にある広帯域受信機からケイが管制に着陸許可を求める声が聴こえ、まほも積載作業を手伝う為に席を立とうとしていた。

 

 

「それじゃあみんなも元気でね、全国大会で会えるのを楽しみにしてるわ…あ、でもその前に練習試合とか合同で強化合宿くらいは出来るかしら……?」

 

 

 もう目前とはいえ、年度が替わってからの話にその場に居合せた者達の間から軽い笑いが起き、それを別れの挨拶として一斉に立ち去ろうとしていた。

 

 

「何よみほ?アンタ何をそんなにキョロキョロしてんのよ?」

 

 

 だがまほに続き踵を返したエリカは、自分に付いて来るはずのみほが何処か腑に落ちないとでもいった顔で、誰かを探すようにキョロキョロしているのを見逃さなかった。

 

 

「ふぇ!?あ…えっとね、今回は結局知波単の西さん来なかったなと思って……」

 

 

 基本的にエリカに何か言われると条件反射的にビビる傾向あるみほが、落ち着きなくキョロキョロしていた理由を説明すると、彼女の態度には慣れっこになエリカは特に怒るでもなく視線を天に向け暫しの間考え込んだ。

 みほの言う通り今回観戦エリアで知波単の隊員の姿を見た記憶はなく、絹代の豪快な高笑いを聴いた覚えもない事をエリカは思い出していた。

 

 

「言われてみれば確かにそうね…けどそれを言ったら今回は絹代はおろか知波単からは誰一人として来てなかったわよ……?」

 

 

 つい足を止め顔を見合わせながら考え込むみほとエリカの周りでもそういえばなどと声が上がり、相当クセの強い新設校の実力を間近に見る良い機会にも拘わらず、知波単から偵察要員の一人すら派遣されていない事を不思議がっていた。

 今回のエキシビションマッチの開催は連盟を通じ全国にアナウンスされていたので、それなりに鼻の効く学校からは情報収集に長けた者が派遣されていたが、エリカが指摘した通り知波単からは中野学校などと揶揄される情報収集班すら派遣されていなかったのだ。

 

 

「まぁ時期が時期だし、あそこも三年生がいないから何かと大変なんじゃない?」

 

「あ、そっか…そうなのかもね……」

 

 

 エリカの指摘は単なる思い付きで決して深い意味はなかったが、彼女が何気なく言った三年生がいないという一言は当たりであり、今の知波単にとってそれはとても危険な地雷ワードであった。

 だが彼女達がそんな事情など知る由もなく、エリカの何気ない一言で全員が何となく納得してその話はそこで終わり、帰艦準備の為に展望デッキから立ち去って行ったのだった。

 しかしこの時、彼女達は誰一人として気付いていなかった。

 彼女達を見送るラブとダージリンの口元が、緊張感を孕み微かに引き攣っていた事を。

 

 

 

 

 

「ダージリン……」

 

「えぇ…ここにはもう私達しか残っていないから大丈夫よ……」

 

 

 まほ達の姿が見えなくなるまで見送っていた間にダージリンは人払いをしていたらしく、ラブが気付いた時既に周りにはダージリン以外の人の姿はなかった。

 

 

「そう…ダージリン、あなたはどの程度事態を把握しているのかしら……?」

 

 

 人払いされ周囲に人影はないがそれでも慎重な態度を崩さないラブは、トーンを抑えた声で探るようにダージリンの様子を窺う。

 その一方でダージリンもまたそれまで以上に表情を硬くしながらも、ラブと同様警戒した様子で漸く重い口を開いたのだった。

 

 

「大雑把な事しか…でも私などに聞かずとも厳島の人間であるあなたの方が、より正確に知波単の今の状況を把握しているのではないのかしら……?」

 

 

 世界を向こうに回し経済の荒海を圧倒的な財力で突き進む厳島家は、常に内外の情報に目を光らせその分野に於いても他を圧倒し頂点に君臨していた。

 その辺りの事情はダージリンもアッサムを通してよく理解していたので、ラブに対してもつい皮肉の混じったもの言いをしてしまうのであった。

 しかしラブもそれで機嫌を損ねるでもなく、軽く肩を竦めダージリンの皮肉を受け流している。

 

 

「今の諸事の仔細が外部に漏れ伝わっている形跡はないみたいね…さすが知波単、箝口令は徹底してるわ……尤も近年の成績が成績だけに知波単相手に情報収集するような真似は誰もしないから、そこまでする必要もない気がするけどね……」

 

 

 古豪などと呼ばれてもそれは所詮過去の栄光でしかなく、現在の知波単は連戦連敗の噛ませ犬というのが一般的な認識で、ラブの言う通りその知波単相手に情報収集などという酔狂な真似をする者など存在しなかった。

 みほ率いる大洗が栄光を掴んだ陰で黒森峰相手に歴史的大敗を喫し、またしても初戦で姿を消した知波単の隊長であった辻つつじは、大会終了後その責任を取る形で隊長の職を辞していた。

 しかしそれは実質更迭人事であり、長い歴史を誇る知波単戦車道にあっても異例中の異例な事態であった。

 そして二年生ながら隊長に抜擢された西絹代は、長き不振に喘ぐ知波単にとっては新風となる事を期待された次代のエースである事は間違いなかった。

 だがそれを快く思わない者も当然存在し、その筆頭はやはり更迭された辻のシンパと目される一部の三年生達であった。

 彼女達は辻更迭後彼女と共に戦車道の履修を放棄し、一見戦車道と関わりを絶ったように見えたが、それはあくまでも表向きの事で、裏では履修を続ける同期生達を始め後輩達に陰湿な嫌がらせ等の行為を働き、結果残っていた三年生も一人減り二人減りで最終的に三年生は一人も残らなかった。

 これらの経緯があり、新隊長の絹代としても大いにその頭を悩ませていたのだ。

 学校としても前代未聞の更迭人事であった故に、外聞を気にしてかあまり表沙汰にせず穏便に済ませ卒業させようとの意図があってか、それらの行為は実質黙認され退学等の話には至っていなかった。

 だがそれらの恩情は結果的に彼女達をより増長させ、卒業前に武装蜂起を起こすのではなどという噂が学内を駆け巡る事態に発展し、それらを鎮静化させる雑務に忙殺される絹代を始めとする知波単の戦車道履修生は、エキシビジョンマッチで新設校の情報収集どころではなかったのだ。

 以上の状況をダージリンは精神的にパンク寸前であった絹代の状態から推察した上で、アッサムに依頼しその裏を取っていたが、やはりそこは高校生のやる事でありおのずと限界もあった。

 その点彼女が指摘した通り厳島の情報網を使う事が出来るラブの方が、ダージリンよりより正確に絹代の置かれた窮状を把握しているのは確かだった。

 何しろ知波単学園は政界財界に多くの人材を輩出している名門である事は今も変わりがなく、厳島家としてもその情報を完全に無視する事はなかったのだ。

 特にラブの場合英子の口利きで絹代には世話になった恩もあるので、いざという時は厳島の名を使い政治的介入も辞さずという覚悟も持っていたようだった。

 とはいえ彼女もこの段階でダージリンにそれを洩らすような事はなく、スッと席を立ったラブはダージリンの隣に腰を下ろすと、そっと彼女の手に自らの手を重ね穏やかに告げたのだった。

 

 

「ダージリン、絹代さんの心のケアをお願いね…それが出来るのはあなただけなんだから……」

 

「…えぇ、心得ているわ……」

 

 

 短く答えたダージリンの手は重ねられたラブの手の下でギュッと強く握り締められ、俯いて見る事は出来ないがその青い瞳には怒りの炎が踊っていた。




最終章見に行きたいけど、増々行き辛い状況になって来てますねぇ……。

今回は最後で話が重くなった分、次回は冒頭からポンコツに戻りますw
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。