しかし金持ちのやる事はホントに…。
『東京湾の雷鳴…恐らくその正体はあの
あてがわれた宿舎の窓辺のソファーで紅茶を口にしつつそう独りごちるのはアッサム。
肌触りの良いバスローブに身を包み今はリボンも結んでいない。
同室となったダージリンより一足早く目が覚めた彼女は、ベッドを抜け出すとシャワーを浴びこうして目覚めの紅茶を楽しんでいるのであった。
朝食後にそれぞれ宿舎に移動しフロントで鍵を受け取り部屋に入ると、そこは宿舎というよりちょっとしたスイートルームの様な部屋であり、目に飛び込んで来たベッドもラブの差し金かキングサイズのダブルベッドで二人も暫し絶句したが、結局はここまでの疲れと眠気に抗う事は出来ずベッドを共にするのであった。
「しかしこの女の寝相の悪さはどうにかならないものか……」
アッサムがダージリンより先に起きたのも、彼女の寝返りという名のラリアットを喰らったのが原因であり、今も安らかなダージリンの寝顔を見ると顔に油性マジックかなにかで落書きの一つもしてやりたい気分であった。
東京湾の雷鳴…それは大洗連合対大学選抜戦が終わって暫くした頃の事、夜も明けぬ時間帯と日が暮れて周囲も良く見えなくなる時間帯に、時折東京湾に鳴り響く謎の轟音に付けられた呼び名の事であり、アッサムも一度だけ耳にした事があったのだ。
当時はあまり気に留めず深く調べる事もしなかったが、今にして思えばあの音と今日聞いたS-LCACの発する轟音はとてもよく似ており、あの時調べていればもっと早くラブの存在に気付く事も出来たかもしれないと思うアッサムであった。
「良い香りね、私にも一杯頂けるかしら?」
紅茶の香りに釣られてかダージリンも目を覚ます、まだ少しトロンとした目にこちらも解いて寝乱れた金髪に夜着代わりのキャミソールと何ともしどけない姿で実に何とも目の正月だ。
「
「まあ!」
ダージリンは口に掌を当て驚いているが大げさではなく本当に驚いている様だった。
「それは早く淹れて下さいましな」
「はいはい」
するりとベッドを抜け出るといそいそとソファーに座るダージリンにいつもの淑女の姿は無い。
カップに注がれた紅茶の香りを深く吸い込み陶然とした表情を浮かべると、満足げに中身に口を付け至福の溜め息を吐く。
「で?何を考えていらしたのかしら?」
「東京湾の雷鳴」
「はい?」
「噂は耳にされた事もあるはずですが」
小首を傾げ少し考える素振りを見せたダージリンも思い出したのか曖昧ながら答える。
「ええまあ…横浜に帰港した際に一度聴いた事もありましたわね」
「はい、あれは多分今日乗せられたS-LCACの発する轟音だったのではないかと」
「ちょっと待って!あれは確か大学選抜戦の終わった頃から噂になっていたんじゃ?」
「ええ、そうですね」
「それではその頃ラブは既に横須賀に居たという事?」
「解りません…ですがそう考えるのが一番妥当かと思われますわ」
難しい顔をし腕を組むダージリン、脚も組んでいるので酷く行儀が悪く見えるがその姿も色っぽく見えるのはやはりダージリンの魅力という事か。
その姿勢のまま、視線をテーブル上のティーセットの傍らのアッサム愛用のノートPCに向けるが、アッサムはというと小さく左右に首を振る。
「他愛も無い事ならともかくここは三笠女子学園の学園艦、それに纏わる事は怖くてとても迂闊に検索する気にはなれませんわ」
いくらGI6などと言っても所詮は高校生のやる事、そうそう簡単に世界的グループ企業の厳島にちょっかいを出すなど恐ろしくて出来る事ではなかった。
「やはり後でラブの口を割らせるしか無い様ですわね」
ダージリンがそう言うと二人は酷く面倒くさそうに首を項垂れるのであった。
二人がそんな会話を交わしていたその頃、実は未だに学園艦は駿河湾から抜け出せずにいるのであった、厳密には三笠女子学園の学園艦はひと足早く巨大な学園艦がひしめく駿河湾から脱出していたのであったが、その他の黒森峰やサンダースなどの特大サイズ組は連盟差し回しのタグボートをもってしても回頭に時間を食い、大洗も小型ではありながら老朽艦故何かと手間が掛かっていた。
清水港で待機していたアンツィオもとばっちりで身動きが取れず出港が遅れに遅れ、結果三笠女子学園のみが更に沖合で洋上待機して他の学園艦との合流をポツンと待っているのである。
しかし何故三笠女子学園のみ先に脱出出来たかと言えば、そこはさすが小なりとはいえ最新鋭の学園艦であり、装備も素晴らしくバウスラスターなどをフル活用して自力回頭しさっさと抜け出してしまっていたのだが、結局他の艦が付いて来れずこの状態とあいなったのだ。
「私はこの艦の艦長で本当に良かったよ、この状況で黒森峰辺りの学園艦に乗っていたらと思うとゾッとするわ。」
そう話すのは三笠女子学園の学園艦の艦長を任される船舶科の
藍色の長い髪を三つ編みにし背中に垂らし、涼しげな菫色の瞳が印象的な美少女だ。
今は海上自衛隊の幹部の作業服に準じたマリンブルーの幹部の作業服を着用している。
どうやらこの色が三笠女子学園のイメージカラーであるらしいが、その胸元はと言えばなんというか実に素晴らしい重装甲を誇っていた。
「何しろあのサイズですからね、実際黒森峰が一番手こずってる様ですよ」
苦笑しながらそう話すのは同船舶科で副長の
そしてその胸元はと言えば艦長に以下同文。
「でも一番気の毒なのはアンツィオの艦長よね、いつでも出港出来るのに航路が塞がっててずっと清水の母港で足止めでしょ?」
「先程も船舶無線で航路局とやりあってるのが聞こえましたよ」
「とにかく我々はここで待つしかないわね、でもこの分だと各艦の艦長も招いての晩餐会はこのまま駿河湾沖留めでやる事になりそうねぇ……」
「そうなりそうですね」
「ところでさ皐月、私やっぱり第1種礼装着用しないとダメ?」
「当たり前じゃないですか、今更何言ってんだかこの艦長様は」
そんなやり取りをしている処に特徴的なハスキーボイスが声を掛けた来た。
「小町ちゃ~ん♪今どんな感じ~?」
「やあ厳島隊長、ブリッジにようこそ」
「やっぱここは良い眺めよね~♪で、ど~お?」
「今副長とも話していたのですがウチ以外はまだ脱出は無理です」
「え~?パーティーど~しよ~?」
「とにかく待つしかありませんが、各艦で居残り待機しておられる戦車隊の皆さんは先に当艦にお招きするとして、艦長の皆さんはこちらに集結後に改めて迎えを出すしかありませんね」
「そっか~、解った~。じゃあそれは小町ちゃんにお任せしてい~い?」
「はいそれで大丈夫ですよ」
「それじゃ~宜しくね~♪」
ラブはそう言うとご機嫌でブンブン右手を振りながらブリッジを後にする。
「いつも以上にお元気でおられましたね」
「ああ、やはり嘗ての御友人方と再会出来たのが何より嬉しいのだろう」
そう言うと小町と皐月も微笑んで頷き合うのだった。
そしてここで舞台は再び宿舎のとある一室に移る。
その部屋もダージリン達と同様な部屋で更に大きなベッドが据えられていた。
この特大ベッドの真ん中でエリカは結局一睡も出来ず、その目を赤く血走らせているのだった。
何故なら──。
右の腕にはみほが、左の腕にはまほが、それぞれが己が腕を絡め実に幸せそうに安らかな寝息を立てているからに他ならなかった。
『眠れない…眠れる訳が無い!この状況でどうして眠れるっていうのよ~!?』
部屋の割り振りでラブが実に人の悪い笑みを浮かべていたので嫌な予感はしていた。
しかし実際に部屋に入りベッドを見た瞬間その予感は現実のものとなった。
西住姉妹と一緒に寝る…しかも一つのベッドで一緒に!
みほなどは大きなベッドで一緒に寝る事に、早朝の一件を開き直ったのか忘れているのかはしゃいでいるし、まほはまほで仕方あるまい何か不都合があるかと平然としていたのだ。
そしていざベッドに入るとなると何故か自然にエリカは真ん中に挟まれ川の字で寝る事となり、最初は穏やかな小川であったが数分もすると左右から腕を絡ませ二の腕には柔らかな感触が、掌に至っては二人の秘密の場所に押し当てられるという激流に飲み込まれて行った。
『二人と本当に寝ているの!?それともワザと!?ねぇ!ワザとなの!?』
エリカ天国と地獄の一幕であった。
一方他の部屋ではそろそろ起き出して活動し始める者も出始めており、全て無料のゲームコーナーでゲームに興じる者、宿舎の地下に当たる階層にある50mプールで泳いだり、併設されているジャグジーやサウナでリフレッシュしたり様々に楽しんでいる。
そんな中みほを欠いたあんこうチームの部屋でも珍しく麻子も含め全員が起きていた。
フロントフロア併設のコンビニで沙織が調達して来たスイーツ類を貪っている処を見ると、小腹が減って目が覚めたというのが妥当な線かもしれない。
「それであの厳島さんという人は一体どういう人なんだ秋山さん?」
生クリームたっぷりなプリンを頬張りつつ聞いて来る麻子のほっぺには生クリームが付いている。
「んも~!麻子ったらお行儀悪いよ~!」
沙織はそう言いながら麻子のほっぺの生クリームをナプキンで拭いている。
「自分も詳しくは存じません、ただ西住殿の姉上殿と同い年で中学時代は対等かそれ以上に渡り合っていたと記憶しております。」
「え~みぽりんのお姉さんと~!それって凄くな~い!?」
「ええ、それ処か今回行動を共にしている各校の隊長の方達ともそうでありました」
「優秀な方でしたのね」
凄い勢いでポンポンとミニシュークリームを口に放り込みつつ華が口を挟む。
「んも~!華までお行儀わるい~!」
「はい、将来を嘱望されていて注目度はある意味では姉上殿以上だったかもしれません」
「そんなに凄かったのか…」
「ええ……ですが中学三年の全国大会の直前に榴弾の暴発事故がありまして……」
「そのニュースなら何となく覚えていますわ、随分騒ぎになっていましたし。尤もあの頃は自分が戦車道に関わるとは夢にも思いませんでしたけれど」
「その事故以降厳島殿の名は一切表に出る事は無くなりました…そう、昨日の観閲式までは……」
「そうだったのか…でも一体どんな事故だったかいまいち思い出せないんだが」
「それは──」
優花里は当時の様子を記憶を探りつつ説明を始めた、そして聴き入る一同も砲塔内で榴弾が爆発するという事がどういう事態になるか想像し、青ざめた顔で身震いするのだった。
「私もそこまで詳しくは存じ上げませんでしたが、後は西住殿が大戦車行列の中でポツポツと話された通りな様です」
「そうだったんですか、みほさんにはさぞ辛い事だったのでしょうね……そう考えれば朝のあのはしゃぎようも納得が行きますわ」
「五十鈴殿ぉ、あれははしゃぐのとはちょっと違うのではぁ…」
「しかし東邦
「はい、一時経営陣は行方不明、結局社長は逃亡先の東南アジアで身柄を拘束されましたから」
「増々もって許せん話だ」
麻子にしては珍しく感情的な物言いをするがそれだけ衝撃的な話という事の表れだろう。
だがここで重くなった空気を払拭しようとするかの様に沙織が口を挟む。
「でもでもぉ、あの厳島って隊長さん美人よねぇ、おまけにあの抜群のスタイル!どうやったらあんなスタイルになれるのかなぁ?」
「よせ、そこで想像するな、自分が虚しくなる」
麻子が自分の胸元を覗き込みつつ仏頂面で静止するが沙織は止まらない。
「え~!?だって美人でスタイルが良くて戦車道の隊長で更にアイドルだよ、気になるじゃ~ん!」
「自分はそちらの方は疎いのでありますが中学生の頃から大人向けのファッション雑誌でモデルをやっていたそうで……」
「すご~い!私もAP-Girlsにスカウトされたりしないかなぁ?そうしたら私もアイドルになってファンにモテモテでやだも~♪」
「沙織さんに限ってそれはありませんわ」
「あ~!華ひ~ど~い~!」
相変わらず沙織にだけは辛辣な物言いをする華であった。
いつもの様にそんなオチが付いた処で部屋の内線電話の呼び出し音が鳴る。
「はい、あぁ、西住殿おはようございます…と、言うのもおかしな時間でありますね。はい、はい、そうですか、了解致しました。ええ、では後程」
「みぽりんから?」
「はい、今夜は厳島殿が我々の為に晩餐会を開いてくれるとの事でその連絡です。ですので時間まで出来れば宿舎で待機していて欲しいとの事であります」
「まあ!朝食も大変美味でしたのでそれはとても楽しみですわ♪」
「五十鈴さん、もうシュークリームはそれ位で控えておいた方がいいと思うぞ」
「あら、これ位なら何も問題ありませんわ」
そう言うや華は最後の一個を口に放り込み両のほっぺをニコニコと押えるのだった。
麻子がそれを見てやれやれといった顔をしていたその頃、ブリッジでは艦長の黒姫小町が他の学園艦に対し迎えのヘリを出す指示を出していた。
「そうだ、CH-53Eは六機全部出す。何しろ人数が人数だ、それでも各艦回ればそれなり時間が掛かるからな。ああ、順番はそちらに任せる、宜しく頼むよ
艦内電話で艦載航空戦力を束ねる航空団司令にGOサインを出すと、CH-53Eの発艦に向けブリッジもにわかに忙しくなり始めていた。
その後六機のCH-53Eが日が傾き始めた空に一斉に舞い上がった頃、隊長達は宿舎の最上階のカフェラウンジに参集しその様を眺めている処だった。
「今度はスーパースタリオンが六機か…」
「もうイヤ、このガッコ……」
まほの呟きにカチューシャが涙目で続く。
「全くもってUnbelievableね!」
「この分だと次はオスプレイ辺りが出て来そうですわ」
そう続くケイとダージリンの言葉に、お茶でも一緒に飲もうと誘い出されたラブが実にさり気なく何でもない話の様に答える。
「あ~、亜梨亜ママはその件の最終調整で今アメリカに行ってるのよ~」
「何ですってー!まさかスーパーオスプレイとか言わないでしょうねー!?」
「さすがにそれは無いわよ~カチューシャ」
もう何が出て来ても驚くものかと一同心に決めるのだった。
「さて、それでは始めるとするか」
「なにを~?」
まほのわざとらしさのこもった宣言にラブは呑気に質問する。
「軍法会議だ」
「査問委員会かな?」
「公聴会かしら?」
「軍事法廷ですわ」
「
「懲罰委員会ね」
「粛正よ!」
「さあラブ…」
「好きなモノを選びたまえ!」
最後にノンナとアンチョビに詰め寄られラブはソファーの上で後ずさりながらとぼける。
「え~?なに?なんのこと~?」
『後で追々って言ったよな!?』
全員に睨まれラブは消え入りそうな声で答えた。
「お、お手柔らかにね……」
今週はやはり忙しく投稿ペースも落ちましたね。
これからもこういう事が時々ありますが宜しくです。
現在AP-Girlsのラブと愛以外のメンバー23人のネーミングで地獄を見てますw