ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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今回も犠牲者多数な模様w


第百十四話   べにふうき

「ラブ、ちょっとそこに座りなさい……」

 

 

 

 

 

 笠女学園艦の空港区画、滑走路を望むメインターミナルビルの展望デッキ併設のカフェは、天井も高く開放的で非常に居心地の良い空間であった。

 そのカフェの窓際の席は特に眺めも良く、春の日差しの下一見するととても穏やかな時間が流れているように思われた。

 ところが今現在その特等席を占有する二人、ラブとダージリンの間にはその穏やかな時間の流れとは逆に、何処か張り詰めた緊張感を孕んだ空気が漂っていた。

 立ち去り際にみほが何気なく漏らした絹代不在の一言から生まれた小さな波紋は、瞬く間に大波となり二人の心を激しく揺さぶり千々に乱していたのだった。

 海千山千なラブとダージリンの二人がそこまで動揺する理由は何かといえば、彼女達と縁の深い絹代が所属する知波単学園の内情にあった。

 あくまでも表向きは平穏を保っているように見える知波単学園だったが、現在学園内には戒厳令にも等しい警戒態勢が敷かれ外部との接触もほぼ絶たれた状態となっていたのだ。

 低迷する知波単戦車道史に於いても最悪と評される全国大会での大敗と、その後の実質更迭人事であった隊長の交代劇は同校の内部に様々な軋轢を呼び、卒業シーズンを目前にして前隊長辻つつじのシンパによる武装蜂起という名の最後っ屁があるのではなどという、物騒極まりない噂が飛び交う事態を招いていたのであった。

 結果として辻の後任として隊長に就任した西絹代は、事態を鎮静化させ彼女達を無事卒業させる為に奔走する羽目になり、エキシビションマッチの観戦処ではなかったのだ。

 そしてその事実を知る数少ない部外者の中で、彼女のパートナーのダージリンと戦車道履修問題で大恩のあるラブは、直接手助け出来ない事にもどかしさを感じていたのだった。

 ラブは厳島の政治力の行使も考えていたようであったがそれはあまり現実的ではなく、今の彼女に出来る事と言えばダージリンに精神的な支えになるよう促す事ぐらいだろう。

 そもそもがこれは他校のお家騒動であり彼女達が口出しする権利もなかったので、二人も何とかそれで自分を納得させるしかなかったのだ。

 取り敢えずの落とし処といえばそれまでかもしれないが、ラブとしてはダージリンに全幅の信頼よせているので彼女を信じて全てを任せる事に異存はなかった。

 それは決して万全の策ではないかもしれないが、取り敢えず懸念事項に関し方向性の決まったラブはそこで漸く表情を緩めたのだが、どういう訳か彼女とは対照的にダージリンの表情はより険しいものになっていた。

 険しいというより苦悶、より厳密に言うのなら苦々しいとか忌々しいとか、あらゆるマイナスな感情をブレンドした複雑な表情をダージリンはその顔に浮かべていたのだ。

 暫しの間その表情のまま沈黙していたダージリンは、顎の先っちょを梅干しにしながら何度か言い淀んだ後、漸くその固く閉ざしていた口を開いたのだった。

 しかし彼女の()()()()()ラブに向けて放った一言があまりに意味不明過ぎて、思わずラブもコイツ頭大丈夫かと馬鹿にし切った目でダージリンを見ていた。

 

 

「何言ってるのよダージリン…アンタ頭大丈夫?私ずっとここに座ってるじゃない……?」

 

「……」

 

 

 ラブの白い目と小馬鹿にした口調の一言で自らの失言に気が付いたダージリンの顔は、瞬間的に沸騰したように赤くなりその口元は悔しそうに歪んだ。

 もしラブが今彼女に『ねえ今どんな気持ち?』とかやろうものなら、即座にブチキレそうな程悔しそうに肩を小刻みに震わせていた。

 

 

「と、とにかく!黙って私の話をお聞きなさい!」

 

 

 いつもであればキレた彼女が喚き散らす場面にも拘わらず、ぐぬぬと呻き声を洩らしながらそれを堪えてラブに指を突き付け高飛車な態度で言い切ったのだった。

 だがプライドの高いダージリンが、ラブ相手にここまでして一体何をしようというのか?

 訳の解らぬラブが胡散臭そうに見上げる目の前で、興奮気味に肩で息をするダージリンが必死に自分を落ち着かせながらやろうとしていたのは過去の清算。

 調子に乗った自分がやらかした人生最大の失敗を、卒業までになかった事にしたかったのだ。

 

 

「あなたの──」

 

「難しい話は終わったようですわね」

 

「アッサム!?」

 

 

 しかしどうにか呼吸を整えたダージリンが意を決したように口を開いたタイミングで、その腰を折るようにわざとらしく気取ったアッサムの声が割って入り、驚いて振り返ったダージリンは澄まし顔でいつの間にか戻って来ていたアッサムを睨み付けていた。

 

 

『全くこの人はヤバくなるといつの間にか姿を消すクセに、自分に面白そうな事があると直ぐ戻って来るんだよなぁ…もしかしてダージリン様に盗聴器でも付けてるんじゃないのか……?お願いだからこれ以上私達を巻き込むのは勘弁して欲しいよ……』

 

 

 そして彼女の背後には絹代の件で人払いしていた紅茶の園の住人達の姿があり、その様子からしてアッサムが勝手に連れ戻して来た事は明らかだった。

 実際彼女の背後にいる現隊長のルクリリなどは非常に迷惑そうな顔でそんな事を考えていたし、彼女のパートナーのニルギリなどは顔色が悪くなっていた。

 

 

「どうしましたダージリン?構わず続けてくれていいんですのよ?」

 

「…チッ……」

 

 

 ダージリンの射殺すような視線などモノともせず涼しい顔で彼女の隣に腰を下ろしたアッサムは、何もなかったように先を促しダージリンに舌を打たせる。

 

 

『このデコッパチ…後で覚えてらっしゃい……』

 

 

 明らかに特等席で高みの見物を決め込まんとしているアッサムを苦虫顔で睨み付けたダージリンは、何やってんだコイツ等はと呆れるラブへと向き直った。

 

 

「ラブ…あなたのティーネームについて、とても重要な話があります……」

 

 

 それは絵に描いたような自爆劇。

 昨年の秋高校戦車道観閲式の舞台で再会を果たしたラブに、行き過ぎた戯れで梅こぶ茶などというふざけたティーネームを与えたダージリンは、それが原因で見事に自爆しジョッキサイズで熱鉄を飲む思いをして来たのだった。

 特に口の堅さはハマグリ以下と言われるローズヒップが原因で、この件が先々代隊長にしてダージリンの目の上のタンコブであるアールグレイにバレて以降、未だ憧れのラブに会えずにいる彼女の当たりが非常にきつく、ダージリンとしては卒業までにこの状況を是正しておきたかったのだ。

 

 

「ハッ!梅こぶ茶ならここに控えているんでごぜ~ますわ!」

 

 

 渋柿を丸齧りしたような渋面を浮かべたダージリンが血でも吐きそう声で話を切り出すと、彼女がティーネームと口にした瞬間ラブの表情は豹変し、左手で敬礼しながら頭のてっぺんから突き抜けるような声で元気に叫んでいた。

 

 

「だからその喋り方は止めろと何度も言っているでしょう!」

 

 

 最近では日頃彼女のフリーダムぶりに手を焼く紅茶の園の住人達をして、まるでローズヒップ本人と一緒にいるような気がして来ると言わしめるレベルの顔芸と仕草や口調の合わせ技は、瞬く間にダージリンの神経を沸騰させ金切り声を上げさせていたのだった。

 

 

「まあ!それは一体何故ですの!?これはマブダチのロージーから伝授された、淑女に相応しい完璧な言葉遣いですのに!」

 

 

 ここぞとばかりにわざとらしい小芝居を入れつつラブがダージリンをおちょくりに掛かれば、簡単にそのぶっと過ぎる釣り針に引っ掛かったダージリンは、ヒステリックに叫びながら盛大に大爆発を起こしていた。

 

 

『笑うなよ?オマエら絶対に笑うなよ!?』

 

 

 ここで笑えば後々面倒な事になるとルクリリは痙攣する腹筋と闘いながらも、自分の隣にずらりと並ぶティーネーム持ち達に、小声でほぼ死亡フラグとも言える注意喚起を行っている。

 

 

『ローズヒップ!お前もラブ先輩が何か言う度に一々頷くんじゃない!』

 

 

 そうしている間にも彼女の目の前では、ダージリンがラブの掌の上という名のステージで転げ回るように踊り狂い、ルクリリは襲い来る破壊的な笑いを堪えるのに多大なる苦労を強いられていた。

 

 

『アッサムさまぁ…マジで恨みますよぉぉぉ……』

 

 

 自業自得とか自分の蒔いた種やら身から出た錆などといった言葉がピッタリなダージリンの狂態を前に、ルクリリは自分をこの場に引っ張り込んだアッサムに向けて恨み言をぼやく。

 かくして始まった悪夢の時間、笑ってはいけない紅茶の園と化した展望デッキのカフェに、ルクリリ達は逃げる事の許されぬ地獄を見るのだった。

 

 

「と、とにかく!いつまでもあなたにその名を使わせる訳には行かないのよ!」

 

「何故です?何故ダージリン様はそんな事を仰るんですのぉ!?梅こぶ茶の名はダージリン様が自ら考えて下さったティーネームではありませんか!この梅こぶ茶、あの時の事は片時も忘れた事は御座いませんですわ!」

 

 

 舌好調なラブのローズヒップのモノマネパフォーマンスは留まる処を知らず、一層ノリノリで髪を掻きむしって呻くダージリンをおちょくり続ける。

 時に酷い頭痛持ちのように頭を抱え地団駄を踏むダージリンの、丁寧に結われていたギブソンタックは最早見る影もなく、アチコチが無残に解れ山姥の様相を呈し目尻に涙を溜めた目は赤く血走り、一言話す毎に肩で息をする程に激しく消耗していた。

 この時ダージリンは自分を呪っていた。

 あの日調子に乗ってラブに梅こぶ茶などというふざけたティーネームを付けた自分を。

 ラブの泣きっ面見たさに後先考えずに与えたティーネームが、まさかこのような形で自分に跳ね返って来るとは考えもしなかっただけに、彼女が受けるダメージは途轍もなく大きかった。

 だがこうして強烈なしっぺ返しを喰らった今になって考えてみれば、それが如何に軽率極まりない愚行であったかがよく解ったが、それは後の祭り以外の何ものでもなく只々自分の愚かさが恨めしいダージリンであった。

 もし出来る事なら、もしあの日の大洗の大浴場に戻れるのなら、調子に乗った挙句ラブに梅こぶ茶の名を与えた自分をぶん殴り、湯船の底に沈めてやりたいとダージリンは真剣に考えていた。

 

 

「お願いだから!私が悪かったからもうそのモノマネ止めなさいよ!」

 

「モノマネ!?モノマネとは一体何の話ですの!?」

 

 

 既にダージリンのライフは限りなくゼロに近かったが、これまでのラブに対する非道な行いの実績がモノを言い過ぎて、ラブに手綱を緩める気配まるで見られない。

 そして限界なのはダージリンだけではなく、笑ってはいけない紅茶の園を強いられるルクリリ達も似たような状況にあった。

 次々とラブが繰り出す笑いの波状攻撃を前に、彼女達の腹筋はまるでEMSマシンでも装着しているかのように超高速で小刻みに震え、額にはじっとりと脂汗が浮かんでいた。

 後一発でも笑いの直撃弾を喰らえば大穴が空いて一巻の終わり、今の彼女達の腹筋とメンタルは決壊寸前のダムに等しい状態にあった。

 

 

『も、もう止めて下さいラブ先輩…ダージリン様も私達ももう限界です……』

 

 

 出来る事ならその場から今直ぐにでも逃げ出したいが立場的にそれが許されないルクリリは、泣き笑いのような顔でラブにアイコンタクトを試みるが、明らかに気付いているはずのラブはそれをスルーしてえげつない小芝居を続けていた。

 

 

「これはいけませんわ!ダージリン様のおっ紅茶がすっかり冷めてしまったではありませんか!今直ぐおっ替りをご用意致しますわ!」

 

 

 それは相手に息吐く暇も与えぬ笑いの電撃戦。

 ダージリンの懇願もルクリリの細やかな願いもぶっちぎったラブは、ダージリンの手元のティーカップの中身が冷めて切っていると見るや、直ぐさま次なる手を打ち休む暇を与えない。

 隊長である自分が真っ先に笑う訳には行かぬと必死に腹筋と闘っていたルクリリだったが、ピンと張りつめた緊張の糸は思いもよらぬ形で途切れてしまうのだった。

 

 

 

 

 

「ぶぴ……」

 

 

 

 

 

 日頃小姓か従者のようにダージリンの世話係の役割をこなし、彼女のズレた蘊蓄トークや傍迷惑な行動に最も耐性のあるはずオレンジペコは、突然鼻から妙な音を立てたと思うとその場に膝から崩れ落ち、床をバシバシと叩きながら狂ったように笑い始めたのだ。

 

 

「おっ紅茶…ダージリン様のおっ紅茶のおっ替り……!」

 

 

 意外にも一番最初にアウトになったオレンジペコの腹筋が崩壊し、彼女が床でのたうち回りながら笑い狂う姿が呼び水となり、遂にはその場にいる紅茶の園の住人の全てがアウトになった。

 

 

「ペ、ペコぉ!お、オマエなぁ……!」

 

「あはははははははははははははははははははっ!おっ紅茶!ダージリン様のおっ紅茶ぁ!」

 

「だ、だから……ぶははははははははははははっ!」

 

 

 笑いだしたら止まらないとはこの事とばかりに、おパンツが丸見えになるのも構わず全員が床の上で転がりながら手足をバタつかせて笑い転げる。

 

 

「だ、だから嫌だったん…ア、アッサム様……こういうの本当に勘弁……ぶふっ!」

 

 

 床に転がり苦しむルクリリが息も絶え絶えにアッサムに異議申し立てをするが、当のアッサムはそれが聞こえないかのようにソファに腰を下ろしたまま微動だにしない。

 背中しか見えぬルクリリは気付かなかったが、実はこの時アッサムはとっくに過呼吸で白目を剥き自爆していたのだった。

 全ては自分の迂闊さが招いた事とはいえ、さすがにダージリンもティーネーム一つでまさかこのような事態が起きるとは予想出来なかった。

 とはいえラブ相手に何か仕掛ければ、自分も無事では済まない事は過去の経験から身に染みているはずなので、もしこの場に他の仲間達がいれば軽率の誹りは免れなかっただろう。

 

 

 

 

 

「もう…いいでしょ……もう充分でしょ……?いい加減私の話を聞きな…下さい……」

 

「…何も泣く事ないじゃない……」

 

 

 ラブを笑い者にする為に与えた酷いティーネームを逆手に取られ、こっ酷い目に遭わされた挙句自分が笑い者になったダージリンは、青い瞳に目一杯涙を溜めて食いしばった歯の間から悔しそうに泣き言を洩らす。

 

 

「…で?話ってナニ……?」

 

 

 すっかりいじけた態度のダージリンがいい加減鬱陶しくなって来たラブが面倒そうに先を促すと、涙目のダージリンもやっと話の本題に入る事が出来た。

 

 

「新しいティーネームぅ……?」

 

「そうよ…新しいティーネームよ……」

 

 

 ダージリンがラブにティーネームの変更を申し出ると、ここでも彼女のこれまでの行いがモノを言い、ラブは途端に胡散臭そうに疑いの視線をダージリンに向けたのだった。

 

 

「だからもう変なティーネームじゃないわよ!長く使われていなかったとはいえ、使用実績のあるれっきとしたティーネームを用意したのよ!?」

 

「長く使われていなかったティーネームねぇ……」

 

 

 その必死さからダージリンが嘘を言っていない事はラブにも解ってはいたが、それがどんな名前なのか想像も付かず彼女は腕を組み首を大きく捻っていた。

 

 

「嘗て紅茶の園の住人であったその方は、凡そ聖グロらしからぬ和の装いの良く似合う雅な方であったと語り継がれています…そのお方に当時の隊長がお与えになったティーネームこそがべにふうき……静岡は丸子で生産される茶葉の名前ですのよ……」

 

「べにふうき……」

 

「そう…(べに)に身分の高貴さを示す富貴と続けてべにふうき……その方以降この名を継げる者は現れず長く眠っていたティーネームですわ……ですがラブなら名前負けする事なくこの名を継げると私は思っていますのよ?勿論この事はご当人に許可を取り付けているので、何も問題になる事はありません…如何かしら?べにふうきの名前、受け取って頂けないかしら……?」

 

「う~ん…べにふうきねぇ……」

 

 

 新たに提案されたべにふうきという和テイストなティーネームを反芻するラブの姿は、まるで梅こぶ茶とべにふうきを天秤にかけているように見えて、自然とダージリンの顔にも緊張の色が浮かんでいるのが見て取れた。

 

 

「べにふうきかぁ……」

 

 

 実際ラブはこのままべにふうきの名を受け取らずに突っぱねて、梅こぶ茶のままこの先もダージリンに地獄を見せてやろうかなどと考えているのか、首を左右に傾けながらその表情をコロコロと変化させていた。

 その様子から彼女が何を考えているのか見抜いたダージリンのこめかみの辺りには、血管が浮かび上がりピクピクと脈打っていたのだった。

 

 

「ふ~ん、まあいいわ……そのべにふうきってティーネーム貰っといてあげる」

 

 

 しかしたっぷりともったいぶって間を取ったラブが漸くべにふうきの名を受け入れる意思を示すと、思わず大きな溜息を吐きそうになったダージリンもそれをグッと堪え、今更ながら体面を保つように鷹揚な態度で短くそれに応えたのであった。

 

 

「…結構……」

 

 

 実はこの時アッサムも既に復活してはいたが、ダージリンがべにふうきの名を持ち出した事に少なからず驚き、独り静かに事の成り行きを静観していたのだ。

 一代限りで長年空位になっていたとはいえ、べにふうきの名は公式な記録にも残っているティーネームだったので、まさか当の本人に許可を取ってまでしてラブに与えるとはさすがに彼女も思っていなかったのであった。

 

 

『一体いつの間に…さすがにちょっと驚いたわ……べにふうき様といえば滅多に表に出て来ない事で有名な方ですのに……』

 

 

 その名の通り初代べにふうきはかなりの名家の生まれな上に、とある組織の要職に就き多忙を極める為に中々アポイントが取れる相手ではなかったのだ。

 

 

「では、今後あなたのティーネームはべにふうきという事で宜しいですわね?」

 

「ええ、宜しいも宜しくないもダージリンは初めからそのつもりなんでしょ?」

 

 

 ラブの態度に苛立ちを覚えたダージリンは発作的に怒鳴りそうになったが、それを眉を顰めて堪えた彼女はソファーから立ち上がるとクルリと背後を振り返り、笑い過ぎて床に転がるルクリリを始めとする現役隊員達にお触れを出すように宣言していた。

 

 

「彼女の名はべにふうき…以後そのように呼ぶよう部隊全体に徹底なさい……決して…決して以前のティーネームで呼ぶ事のないよう注意する事……」

 

 

 ダージリンはここまで言った処でローズヒップをひと睨みして、特にお前は気を付けろと鋭く殺気の籠った目で釘を刺した。

 

 

「それとべにふうきの後見役ですが…これは現隊長であるルクリリ、あなたに任せましたよ……?」

 

「は…?え……?えぇ────────っ!?」

 

 

 寝耳に水、青天の霹靂、あまりに突然なとんでもない指名に仰天したルクリリは、事態が飲み込めた途端目を向いて素っ頓狂な悲鳴を上げた。

 

 

「何という声を出すのです騒々しい…あなたが隊長なのですからこれは当然の事でしょう……?」

 

「い、いやですが年下の者が後見役など聞いた事がありません!ま、まして相手はあのラブせ……ラブ姉なのですから、私ごときが後見役などどう考えてもおかしいでしょう!?」

 

 

 降って湧いた非常事態に、何としてでもこの危機を回避せねばとルクリリは必死だった。

 

 

「ルクリリ様が後見役…ルクリリ様が私の後見役……♡」

 

 

 だがダージリンの隣に座っていたラブが、すっくと立ち上がり嬉しそうに猫の目で自分を見つめながらうわ言のように自分の名を呟くのを聞いた途端、彼女は半ばパニックを起こし悲鳴交じりに叫んでいた。

 

 

「いやいやいや!ですから私は年下ですよ!?年下が後見役とかないでしょう!?」

 

「え~?でもルクリリ様はもうじき三年生で私は二年生だよ~?」

 

「うが────っ!カンベンしてくれ──────っ!」

 

 

 ああ言えばこう言うで何を言っても通用しない屁理屈の女王であるラブを前に、堪り兼ねたルクリリは頭を抱えて絶叫したが、彼女の三度目の悲鳴は荷下ろしを終え戻って来たケイのスーパーギャラクシーのスラストリバーサが上げる爆音に掻き消されていたのだった。

 

 

 




紅富貴の名を知ったのは実は割と近年の事で、
産地の茶園の火災のニュースが切っ掛けでした。
当初はアールグレイも候補でしたが、
それもちょっと捻りがないかとこの名に落ち着いた次第です。

しかしダー様イジリは何でこんなに楽しいんだろうw
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