ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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急な仕事で昨日と今日はフルに仕事でした……。

この期に及んでミカ登場w



第百十八話   宴の終わり

『言えない…同じM1でも10台しか存在しないワイドボディのM1とか、グループ5の3.5CLSなんかもあるなんて絶対に言えない……』

 

 

 フロントの左フェンダーから斜め後方に向け赤青水色のストライプを大胆に入れたBMW M1の前で、自動車部の三人は興奮を隠さず煩悩全開で騒いでいる。

 そんな三人の姿を前にラブは亜梨亜の所有するコレクションの一部を思い出し、M1一台でこの騒ぎならもしそれがバレた場合もっと凄い事になるとガクブルしていた。

 

 

「確か477台しか製造されなかったんだよね……?」

 

「うん…途中で提携を解消したけど開発をランボルギーニに委託してたから、ランボルギーニBMWなんて名前でも呼ばれてたらしいねぇ……」

 

「まさか本物をこの目で見る機会が来るなんて夢にも思わなかった…これがBMWが唯一作ったスーパーカーなのか……あ~、ツチヤを先に帰らせるんじゃなかった、可哀想な事しちゃったなぁ……」

 

「あなた達随分と詳しいのね…もし良かったら乗ってみる……?」

 

 

 オタク知識総動員でM1を前に大騒ぎする三人に亜梨亜も最初は何事かと面喰っていたが、その会話の内容を聞くうちに目を丸くした彼女は、感心したように三人の思う壺な提案をしたのだった。

 

 

『あ~あ…やっぱこうなったか……』

 

 

 亜梨亜の申し出に代わる代わるハイタッチを交わす三人に、彼女達のちゃっかりぶりをよく知るラブは思わず天を仰ぎながら溜息を吐いている。

 

 

「さすがに運転まではさせてあげられないけど横に乗る位なら…それでいいかしら……?」

 

 

 その希少性はともかくいくら自動車部とはいえ相手はやはり高校生、亜梨亜も競技車両である自身のM1を彼女達に運転させる気はないようであった。

 とはいえ滅多に見る事も出来ないスーパーカーに乗れるとあって、三人はそれでも充分と何度も頭をヘッドバンキングのようにブンブンと何度も振っていた。

 

 

「う~む、さっき477台しか生産されていないと言っていたな…昔から亜梨亜おば様が普通に乗り回していたから何とも思わなかったが、あのM1ってのはそんなに希少な車だったのか……」

 

 

 幼い頃より互いの家を頻繁に行き来していたので、まほにとっても亜梨亜が所有する多数の骨董品のような車達は普通の存在だった。

 

 

「おば様の持っているBMWの中では507が私は断然好きだな、あの流麗なボディの美しさは300SLにも負けていないと思うんだ」

 

「ちょっとまほ!余計な事言わないで!あれはM1より更に数が少ないのよ!?」

 

「あ、スマン……」

 

 

 ラブの隣で浮かれる三人の様子を眺めていたまほが昔を思い出し、亜梨亜所有のオープン2シーターのBMWの美しさを、メルセデスが生んだガルウィングドアのロードスターを引き合いに出して賞賛すると、ラブは慌てて人差し指を唇の前に立て小声ながらも鋭く注意を促した。

 するとまほも条件反射的に両手で口元を覆い、言わざるのポーズで口を噤んだのだった。

 

 

『最初はグー!じゃんけんポン!』

 

 

 そして始まった体験搭乗会はまずは最初に誰が乗るかじゃんけんで順番を決め、見事一番最初に勝ち抜けたホシノが助手席に乗り込むと、他の離発着がないのをいいことに滑走路外周の管理通路と一部タキシングウェイをサーキットに見立てたドライブへと出発したのだった。

 ラブが腕時計を指差し亜梨亜にあまり時間ないよとアピールする目の前で、BMWの代名詞であるシルキーシックス(直列六気筒)が製造後40年以上が経過したとは思えぬ咆哮を上げ、M1は派手なタイヤスモークを残して走り去って行った。

 

 

「あ~あ、ホントに行っちゃったよ…わたしゃどうなっても知らないよ……」

 

 

 ゴムの焼ける臭いに顔を顰めたラブは、遠ざかるM1のシルエットにボヤキ交じりの呟きを洩らす。

 

 

「まるでシルバーストーンですわね……」

 

「ダージリン……」

 

 

 第二次世界大戦中イギリス空軍の爆撃機基地であった土地で1947年にレースが開催されて以降、王立自動車クラブ(RAC)の手でサーキットとして生まれ変わったシルバーストーンは、1991年の大改修によりコースレイアウトが変わるまでは世界有数の超高速サーキットであった。

 ホシノを乗せたM1でタキシングウェイに飛び出して行った亜梨亜の姿に、元が空港であるシルバーストーンサーキットの名を出したのは如何にもダージリンらしかったが、初めて見た亜梨亜の意外過ぎる一面に彼女も少々面喰っているようだった。

 

 

「ねぇラブ……」

 

「何よ……?」

 

 

 どこか心此処にあらずな印象のダージリンにその名を呼ばれたラブは、相手がダージリンなだけにどうにも嫌な予感がしてつい身構えてしまう。

 

 

「亜梨亜様って……」

 

「亜梨亜ママが何だって?」

 

 

 無意識なのかわざとなのか妙に溜めを作るダージリンに、苛立ちを覚えたラブの声は自然と棘のあるものに変わっているが、それすらスルーしたダージリンはそこで漸く本題を切り出したのだった。

 

 

「亜梨亜様って英国車にご興味はおありかしら……?」

 

「チッ……」

 

 

 ぼんやりとM1が走り去った方を眺めたままのダージリンが口走ったセリフに、彼女の考えが透けて見えたラブは瞬間的に舌打ちしていた。

 

 

「ERAターボとかJEM GTみたいに、小さいけどスパルタンな英国車って素敵だと思わない……?あとはそうねぇ…MGメトロ 6R4なんて異端な存在も嫌いじゃないわ……」

 

『コイツ……』

 

 

 一見ぼんやりしているように見えて、実際の処は自分が興味を持つ英国車を頭の中で数え上げていたダージリンは、如何にもうわ言のような口調でカマを掛けるような事を口走る。

 そんな彼女のしたたかさに、やはりコイツは食えない奴だと認識を新たにするラブであった。

 

 

「あら…もう戻って来たようですわ……」

 

 

 ジト目で睨むラブの視線に気付いていないようにスルーしたダージリンは、徐々に近付いていたドリフト時のスキール音がひと際大きく聴こえた瞬間音のする方へと目を向けていた。

 するとそれに合わせたように亜梨亜の操るM1が鮮やかに弧を描きハンガーの陰から躍り出て、テンポよくシフトダウンしながらそのまま彼女達の前に滑り込んで来た。

 

 

「ほ、ホシノぉ!?」

 

「凄かった……」

 

「何が!?」

 

「乗れば解る……」

 

 

 停車したM1から転がり落ちるように降車したホシノがその場にへたり込み、驚いたナカジマとスズキが駆け寄ると彼女はただ凄かったと言うのみで具体的な事は何も言わず、訳が解らぬまま二番手のナカジマは首を捻りながら助手席に潜り込んだのだった。

 

 

「Heyラブ!」

 

「ナニ……?」

 

 

 ナカジマを乗せたM1がホシノの時と同様な勢いで走り去り、それを見送ったラブが浮かぬ顔でどっかと折り畳み式のディレクターズチェアに腰を下ろすと、今度はケイが彼女の隣にやって来てその肩に腕を回して来た。

 

 

「さっきまほと二人で何やらごちゃごちゃやってけどさ、ぶっちゃけ亜梨亜様ってあと何台くらい車持ってるワケ?それとアンタ何だかんだでアメリカに長くいたじゃない?向こうにいた間一体どんな車に乗ってたのかな~?」

 

『やっぱ聞いてやがったか…まほのヤツめホントいらん時にいらん事言いやがって……』

 

 

 明らかに逃がすまいと肩を組むケイの腕に一層力がこもりラブも一瞬舌打ちしそうになるが、寸ででそれを堪えた彼女はポーカーフェイスを意識しながら努めて抑えた声でとぼけようとしていた。

 

 

「さぁ…お互い趣味には干渉しないし特に意識した事ないからよく解らないわ……」

 

「ウソね」

 

「ウソってケイ、アンタね……」

 

 

 彼女の言った事を即座に否定するケイにラブは言葉を失うが、そんな事などお構いなしに趣味丸出しの妄想と憶測をケイは一方的に語り始めた。

 

 

「亜梨亜様って派手なテールフィンのコンバチとか似合うと思わない?キャディにベルエア…あの髪を靡かせて走る姿とかどハマりすると思うんだけどな~?あ、マッスルカーなんかもいけるんじゃない?GTOとかチャージャー……案外チャージャーのデイトナなんて持ってたりして……マスタングやコブラは当然抑えてるとしてそうだラブ、スチュードベーカーのアヴァンティとか71年型のクーダなんかに見覚えない?」

 

『この煩悩の塊め…見て来たみたいに言いやがって……』

 

 

 レアなアメ車の名を片っ端から列挙するケイにイラッとするも、ここで反応したら彼女の思う壺だとグッと堪えるラブだったが、たった今ケイが呪文のように唱えた車名は確かに全て亜梨亜が所有しており、何処かでコレクションの事を知られたのかと内心ヒヤヒヤしていた。

 

 

「あのねぇ、グループ企業の代表にそうそう自分で運転して自由に走り回る余裕があると思う?」

 

「またまたぁ、たった今BMW M1なんてレアな車で登場したのは何処の誰よ?私達()()なのに隠し事はないんじゃない?」

 

「別に隠し事なんて…あぁ、もう帰って来たわ……また随分とペースアップしてるわね、ナカジマさん大丈夫かしら……?」

 

 

 再び接近するエキゾーストノートとスキール音に渡りに船と話題を変えるラブだったが、それでもなおケイは彼女の事を解放しようとはしなかった。

 

 

「それなんだけどさぁ、亜梨亜様って何かレースとかやってんの?ちょっと見ただけでもドラテクがハンパないのが解るわ、もしかして国際Aライとか持ってんじゃない?」

 

「国際Aなんて国際格式のレースで一回も決勝レースに出走した実績がなければ、それこそあっという間に降格されるのよ?さっきも言った事だけど厳島の代表やってて忙しい今の亜梨亜ママに、そんな事やってる余裕があると思う?」

 

 

 肩をガッシリと抱いたまま離そうとせず、ピッタリと頬を寄せ執拗にカマをかけ続けるケイを横目で睨みながら呆れて見せるラブだったが、それでも彼女は堪えた様子もなく独り勝手にしゃべり続けるのだった。

 

 

「随分詳しいじゃない?それに今はって事は昔は国際Aを持ってたって解釈していいのよね?その辺はJAF…FIAが統括してるんだもの、幾らでも調べようがあるしまぁいいわ……」

 

『コイツ一体どこまで解ってて言ってるのかしら……?』

 

 

 日本自動車連盟を飛び越え、パリのコンコルド広場に本拠地のある国際自動車連盟の略称を引き合いに出したケイのねちっこいもの言いに、彼女の真意を掴めずいよいよ迂闊な事を言えぬとラブは一層警戒心を強めていた。

 

 

「いや凄かった!あははははハハハハハ!」

 

「ナカジマ!?」

 

「ナカジマさんアナタも?ねぇ大丈夫なの……?」

 

 

 M1が戻って来るなりそれを口実にケイの腕を振り解いたラブは、ホシノと似たような状態で助手席から這い出て来たナカジマを心配していたが、当の本人はアスファルトの上に座り込んでただハイテンションに笑い続けラブを困惑させるだけだった。

 

 

 

 

 

「う~ん凄い…以下同文……」

 

「ちょっとアナタ達本当に大丈夫……?」

 

 

 ナカジマと入れ替わりでスズキを乗せたM1が戻るまでの間、まだ何か探ろうとするダージリンとケイの追及をのらりくらりと躱していたラブは、腰砕けで座り込んだまま放心する自動車部の三人を本気で心配していた。

 しかし彼女達はフニャフニャな割に妙に楽しそうな上に、いくら心配しても大丈夫と言うのみでラブもそれ以上は何を言っても無駄だろうと判断しそのまま放置する事にしたのだった。

 

 

「とはいえさすがに亜梨亜ママには一言言わないとね…いくら何だって高校生相手にこれはちょっとやり過ぎよ……全く亜梨亜ママにも困ったモノだわ、趣味の事で一旦その気になると途端に歯止めが利かなくなるんだもの……」

 

 

 高校生としては相当なレベルにあると噂に聞く自動車部の三人がここまでになるのは、その気になった亜梨亜が相当無茶をやった結果である事を見抜いていた。

 

 

「それじゃあ恋、私はこれで行くからあなたもライブの時間に気を付けるのよ?それとまほちゃん、しほちゃんにさっきのお菓子忘れず渡してね」

 

「あ、はい……」

 

「ちょ、亜梨亜ママ!だからさっきもそういう親戚のおばちゃん丸出しな事止めてって言ったでしょ!?ってそれよりも──」

 

「あぁいけない、もうこんな時間だわ…私この後永田町に顔出さなきゃいけないのよ……」

 

「あ!ちょっと待って亜梨亜ママ!」

 

 

 一方的に言うだけ言った亜梨亜は時間を確認すると返事も聞かずに再びM1に乗り込み、来た時同様に派手な走りであっという間に走り去っていたのだった。

 

 

「Whooo!さっすが亜梨亜様ね~、永田町に顔出すとかサラッと言うから怖いわ~」

 

「ケイ…アンタね……」

 

 ホイルスピンが生み出したタイヤスモークで文字通り亜梨亜に煙に巻かれたラブは、変な所で感心したように茶々を入れるケイにガックリと肩を落とすのだった。

 

 

「さぁ午後の作業始めるわよ!レオポンも行けるわね!?」

 

 

 春の嵐のように駆け抜けて行った亜梨亜に翻弄され、疲れの色の滲んだ顔で肩を落とすラブの姿に満足したのか、ケイは緩んだ空気を引き締めるように続けて二回手を打つと、戦力として一番当てにしている自動車部の三人にハッパをかけていた。

 

 

「うん大丈夫」

 

「西住隊長のお姉さんのプランを元に積み込む手順は決まってるからね」

 

「多分日暮れ前には全部の作業が終わるんじゃないかな?」

 

「はい……?」

 

 

 ケイにハッパをかけられると、それまで放心したままクタっていた三人はいきなりシャキッと立ち上がり、それに驚いたラブも思わず間の抜けた声を出したのだった。

 

 

「…片付けしよ……」

 

 

 それまでの酷い有り様が噓のように三人が元気に動き出すと、学園艦カレーで腹を満たし気力も充分になった他の者達も、口々にご馳走様などと言いながらそれぞれの作業に戻って行き、暫く所在なさげにポツンと立っていたラブも何処か納得行かないような顔で溜息を吐くと、少し緩慢な動作で仮設学食の撤収作業を始めていた。

 

 

「あぁ…ダージリン達はいいわよ、着替えて帰り支度してて頂戴……付き合わせて悪かったわね、後は私達がやっておくから、あなた達はラウンジに戻って迎えが来るまで休んでてよ」

 

「別に構いませんわ…人手が多い方がその分早く片付けも済むのですから、皆でサッサとやってしまいましょう……」

 

「…ありがと……けど輸送車が来たら途中でも構わないから自分達の帰り支度始めてね」

 

「えぇ…けどその心配は無用ですわ……何故なら迎えの輸送車の到着は、まだ当分先の事になりますからね……」

 

 

 時折現隊長のルクリリが輸送部隊の現在位置を確認しているようだが、未だ渋滞にどハマり中の輸送車の到着時刻は全く目途が立たず、能面のような顔でそれだけ答えたダージリンは黙々と片付け作業に精を出すのだった。

 それから暫くして午後の一番機がターボファンの排気音も高らかに飛び立つと、それ以降の帰艦作業も午前中以上のハイペースで展開し、ケイの予想通り日が暮れるより早くサンダース以外の戦車はそれぞれの母艦に帰艦を果たし、作業の為だけに残っていた各校の三年生の有志達もスーパースタリオンで帰艦し始めていた。

 

 

「結局まほは最後まで作業してたのね……」

 

 

 既に黒森峰の戦車は母艦に送り届けられていたが、まほを含めた黒森峰の三年生達は最後まで残って支援作業に従事していたのだった。

 彼女はその事について口にこそ出さなかったが、今回のエキシビションマッチは自分の一言が発端である事を自覚していたので、最後まで作業を手伝う事を自らのけじめとしていたようであった。

 

 

「まぁあれだ、立つ鳥跡を濁さずってヤツだ」

 

「ありがたいけどよかったの?帰ってからの片付けもあるでしょうに……」

 

「それなら心配ない、点検整備も含めてエリカ達が全てやってくれているからな」

 

 

 サンダースの参戦車両の積み込みを最後まで指揮したまほは、自動車部の三人を始め各校の助っ人達を送り出すと、漸く自分達も帰り支度を済ませ見送りに来たラブと暫し言葉を交わしていた。

 

 

「何だかエリカさん達に悪い事しちゃったわね……」

 

「いや、私達はとっくに引退してるからな…それで自分達で使う戦車は自分達で整備するってエリカに言われたんだ……まぁこれに関しては何処の学校も似たようなもんだろうな」

 

「そう……」

 

「そうよ、これで帰艦したら私達はもう用済みだもの、全部現役に任せれば問題nothingよ」

 

「ケイ…アンタね……」

 

 

 まほとの会話に途中口を挿んだケイの軽さにラブは呆れるが、本人は全く意に介していなかった。

 しかしそんなケイも後からやって来たメグミの一言を聞くなり情けない顔になり、周囲の失笑を買うのだった。

 

 

「ナニ言ってんのよケイ?アンタ機長なんだから、帰ったらスーパーギャラクシーの飛行後点検は自分でキッチリやらなきゃ駄目に決まってるんだからね」

 

「ゲっ!really!?メグミそれマジで言ってんの!?」

 

「当たり前でしょ?あんま馬鹿な事言ってるとこっちの機体の点検もやらせるわよ?」

 

 

 今はまだ大学生と高校生の関係にあるが、付属校の先輩と後輩なのでその辺の線引きが曖昧らしく、メグミはケイの事を体育会系の図式そのままにシメ上げていた。

 

 

「それなんだけどケイ、あなた達これだけ連続して飛んでるから疲れてるでしょ?せめてもう一泊して明日帰ったらどうかしら?」

 

 

 それまでメグミにやり込められるケイの情けない姿を笑っていたラブであったが、彼女達のハードワークに話が及ぶとそのまま帰艦せずにもう一泊してはどうかと提案していた。

 

 

「う~ん、申し出は有難いけど、こういう時は勢いで帰っちゃった方が後々断然楽なのよね~」

 

 

 ラブの提案を聞いて頭の中で何かを天秤にかけるように少し考え込んだケイであったが、直ぐに彼女はその申し出を辞退していた。

 

 

「そうね、ケイの言う通りよ……明日辺りになると疲れが出て余計しんどくなるから、今日中に帰ってやる事やっておくのが正解だわ」

 

「それは何となく解るけどさ……」

 

 

 メグミもその考えに同調しラブも彼女が言う事は理解で来ていたが、やはり何処か一抹の寂しさのような感情をその顔に浮かべていた。

 

 

「ラブ、あまり無理を言うものではなくてよ…私達もまだ卒業までに片付けておかなければならない問題が色々ありますのよ……?」

 

「うん……」

 

 

 そんな彼女の表情からまだ何か言いたげなのを見て取ったダージリンが、窘めるように言葉を添えるとそれで漸くラブも納得したようであった。

 

 

「そうだぞラブ、私だってこれで帰ったら早々に例の件を何とかしなきゃならないんだからな」

 

「あぁ…そうだったわね……」

 

 

 止めのつもりがあった訳ではないがまほがアンチョビの件を持ち出した事で、ラブも目下抱える最大の問題を思い出し大きく項垂れ力なく返事を返していた。

 

 

「それじゃラブ、私達も帰るけどアンタも今夜ライブあるんだから無理すんじゃないわよ!」

 

「ええ解ってる、自分のキャパは充分解ってるから大丈夫」

 

 

 ラブの返事を背中で聞いたケイがそのまま二本指の敬礼を投げながらその場を後にすると、メグミもナオミと共にその後を追った。

 

 

「それじゃ我々も行くとするか…しかし安斎のヤツを何と言って説得したものか……」

 

「…頼むわね……」

 

 

 立ち去り際にまほが漏らした呟きに縋るような一言を返したラブは、そのまま立ち去るまほの背中に向かって小さく手を振る。

 そしてヘリデッキから回して貰ったスーパースタリオンでまほ達が飛び立つと、その日のフライト業務が終了した空港区画はそれまでの騒がしさが嘘のように静まり返っていた。

 

 

「やっと終わりましたわね……」

 

「うん…何だかんだでケイ達は新設校を優先して帰艦させてくれたのね……もうここにいる意味はないわ……どこか落ち着ける場所に行きましょ」

 

 

 まほを乗せたスーパースタリオンが飛び去った空を見上げていたラブは、ダージリンの控えめな声に振りむくと、まだ迎えの来ぬ彼女達ともう少し話せる場所を求め空港区画を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

「…そっか、それで今回もアールグレイさんは来られなかった訳か……」

 

「ええ…一軍とはいえまだ一年生、今回もチームの雑務で時間が取れなかったようですわ……」

 

 

 ラブとAP-Girlsのデビュー以降メグミと同様にその魅力にどハマりしていたアールグレイは、何とか彼女とお近付きになりたいとダージリンとアッサムに度々無理難題を吹っかけていた。

 ところが事ある毎に何がしかの邪魔が入り、アールグレイは未だに直接会うのは勿論ライブすら見に来る事が出来ずにいたのだった。

 

 

「あの人の場合身から出た錆ですわ……」

 

「アッサムまで……」

 

 

 メイドドレスから制服に着替え再び訪れた展望デッキのカフェの窓際の席で、茶飲み話の話題の一つとして出たアールグレイの話は、導火線の短いダージリンのみならずアッサムにまで辛辣なセリフを吐かせ、二人のあまりの言いようにラブも同返答したらよいか困る程であった。

 

 

「まぁそんな話は別にどうでもいいですわ……それよりラブ、あなたの方は時間大丈夫ですの?今夜は地元の方達の為のライブなのでしょう?」

 

「ん?まだもう少し大丈夫よ…何しろケイ達が大幅に時間短縮してくれたから、私もみんな見送る事が出来たわ……後はあなた達だけだけど──」

 

「お話し中の処申し訳ございません…ダージリン様、漸く迎えの輸送車がベースのゲート前に到着したとたった今連絡がございました……」

 

 

 丁度その事についてラブが言及しかけたタイミングで、隊長のルクリリが輸送車両の到着の知らせを持って来たのだった。

 

 

「そうですか…では早速ですが帰り支度を急いで下さい……下手をすると今度は夕方の退勤ラッシュに引っかかって大変な事になりますわ」

 

「それなんだけどダージリン、亜梨亜ママが利用申請しておいてくれたから、本町中山から横横使って湾岸経由で本牧まで帰ってね」

 

「まあ……」

 

 

 ルクリリの報告を受け帰路の渋滞を懸念するダージリンであったが、横須賀から横浜まで高速を使えるよう亜梨亜が配慮してくれていた事に驚き目を丸くしていた。

 

 

「やっぱ16号って鬼門じゃない?事故一発で大渋滞して場所によっちゃ逃げ道ないから今回みたいに酷い目に遭うのよね…横横が出来る前はもっと酷かったって聞くけど、ちょっと想像付かないし想像自体したくないわよね……」

 

「それは確かに…尤もその横横も休日などは酷い渋滞になりますからね……今日は平日とはいえ夕方になると何処で混むか解らないから早めにお暇するとしましょう」

 

 

「あ、それなら大丈夫、あなた達が通る時は占有に近い状態になるよう亜梨亜ママが手配してあるって言ってたから、そう慌てずに帰り支度しても大丈夫よ」

 

「え゛……」

 

 

 いくらなんでもたかが高校の戦車道チームを通行させる為に、一般車両の通行を規制してしまえる亜梨亜の神経の太さと権力の絶大さにさすがのダージリンも絶句する。

 

 

「ちょ、ちょっとラブ…それホントですの……?」

 

「別にそんな気にしなくていいわ、亜梨亜ママがその辺上手く前後に渋滞が起きないよう調整してるから大丈夫よ」

 

「いや!ですからそういう問題ではなくて……!」

 

「厳島なめんな~」

 

「……」

 

 

 あまりの事に絶句したダージリンに比べ、やはりラブも厳島の人間らしくこういった行為に禁忌を感じないのか平然としており、ダージリンは改めてラブが普通の人間とはその辺の感覚がかけ離れている事を痛感させられたのだった。

 

 

「…ではお言葉に甘えさせてもらいますわ……亜梨亜様には改めてお礼をせねばなりませんね」

 

「だからそんな気にしなくていいってば」

 

「とにかく!これ以上長居しては各方面にご迷惑を掛ける事になりますからこれで失礼しますわ……ルクリリ!帰艦準備の指揮を執りなさい!我々も日が落ちる前に出発しますよ!」

 

「かしこまりました!総員直ちに格納庫に移動!輸送車が到着次第、積載作業を開始せよ!」

 

 

 二人のやり取りに注意を払っていたルクリリは、ダージリンがどんな指示を出すかある程度予想が付いていたらしく、打てば響くで帰艦に向け行動を起こそうとしていた。

 

 

「それじゃまたねですわ()()()()()!春休みは絶対一緒に遊びに行きたいですわ!」

 

「マジいい加減にしろよこのタコ焼き頭!オマエそれ絶対わざとやってるだろう!?」

 

 

 ところが彼女が隊員達に指示を飛ばし次いで自身も行動に移ろうとした途端、満を持して聖グロ最強のお笑い担当がここぞとばかりにダージリンに止めを刺しに来たのだった。

 そしてその頭のてっぺんから突き抜けたような叫びにぶちキレたルクリリは、後先考えず突っ走るローズヒップの頭を抱え込み拳でグリグリ言い聞かせ始めていた。

 

 

「あだだだだだ!だからそんな強くグリグリされたら脳ミソがへっこんでおバカになってしまうから止めて下さいまし!」

 

「やっかましいこのバカタレがぁ!つーかラブ姉!コイツにつまらん入れ知恵してるのはラブ姉でしょう!?こう見えてダージリン様の胃腸はデリケートなんですからマジで止めて下さい!」

 

 

 おかしな敬語を駆使するローズヒップの頭を抱えたまま、彼女の黒幕がラブではないかと気が付いたルクリリがその事を指摘すると、すっとラブは視線を逸らし自分の間違いではない事をルクリリは確信したのだった。

 

 

「あぁぁやっぱりぃ!コイツにそんなボキャブラリーがあるはずないからおかしいと思った──」

 

「ルクリリ…あなたとは帰ってから一度ゆっくりと話す必要がありそうですわね……」

 

「え?あ……あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!」

 

 

 視線を逸らすラブに勘弁してくれとばかりに恨み言を言いかけたルクリリであったが、ダージリンが引き攣った笑みと共に底冷えするような声で口を挿むと、そこで漸く彼女は自分が特大の地雷を踏み抜いた事に気付き、今度は自分の頭を抱え二日酔いのような呻き声を上げる羽目になっていた。

 

 

『ちょっとやり過ぎたかしら……?』

 

 

 遠慮なく笑うアッサムと笑ってはいけない紅茶の園に地獄を見るティーネーム持ち達を前に、ラブは何処までもふざけた事を考えながら彼女達の演じるショートコントを眺めていた。

 その後肩を怒らせ鼻息も荒くズカズカと淑女にあるまじき歩き方で立ち去るダージリンを見送ったラブは、AP-Girlsと共に地元ファンの為に完全燃焼のステージをこなし、夜には疲れ果て愛と二人ステージ衣装のままベッドに倒れ込み、異例ずくめのエキシビションマッチはここに全日程を終了したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとミカ!ホントに解ってるの!?」

 

「な、何がだい……?」

 

 

 継続高校の戦車道チームの格納庫の中、整備済みと思しきBT-42突撃砲の砲塔上には既に引退した元隊長のミカが正座させられ、アキに何やら厳しく言い募られていた。

 

 

「何がじゃないわよ!これ以上補修をさぼったら本当に留年しちゃうの解ってる!?折角特待生扱いで色々免除して貰って大学行ける事になったのに、留年したら全部パーになっちゃうんだよ!?」

 

 

 ムー○ン谷のスナ○キンこと継続の風来坊のミカは、気の向くまま目先の悦楽を優先して来た結果として、どうやら卒業秒読みのこの期に及んで尚単位が足りないらしく、連日の追試と補習に追われる日々を送っていたのであった。

 ただここで一つだけ彼女の為に弁護しておくならミカは決して勉強が出来ない訳ではなく、むしろちゃんとやれば成績は良い方であった。

 だが前述した通りその性格が災いし、この事態を引き起こしていた事も事実ではあった。

 

 

「全くもう!笠女の厳島さんにエキシビションマッチも呼ばれてたのに、補習で行けなかったなんて大恥もいいトコじゃない!なのにミカは隙あらば補習をさぼって何考えてんのよ!?」

 

「何もそんな怒鳴らなくても……」

 

「そうだ!ミカのせいで学園艦カレー貰えなかったんだぞ!どうしてくれんだぁ!」

 

「み、ミッコまで酷いなぁ……」

 

 

 絵に描いたような自業自得であったが、この状況でも何とか逃げ道はないかとミカはキョロキョロと落ち着きなく視線を彷徨わせていた。

 

 

「いいミカ?もしあと一秒でも補習をさぼったら、このカンテレをドラム缶風呂の焚き付けにするからね!解った!?」

 

「あぁそれは!…うぅ、アキは本当に容赦がないなぁ……」

 

 

 何とか同情を買えないかと上目遣いに見上げたミカだったが、アキもミッコも鬼の形相で彼女を見下ろしており、逃げられないとやっと悟ったミカはガックリと項垂れ我が身の不幸を嘆くのだった。

 只々呆れるしかないがこれこそがエキシビションマッチにミカが姿を現さなかった真相であり、後々とある人物を激怒させる原因となるのであった。

 

 

 




今回はほぼ作者の車趣味ダダ洩れ話ですねw
それにしても亜梨亜さんのコレクションはどうなってるんだかww

私も昔は富士と筑波に走行会で走りに行ってました。
けど最後に走った富士は旧コースなんだよなぁw

今回ミカが最後まで登場しなかったのは、
最初からこのネタありきだったからなんですよねwww
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