ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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ある意味今回も私の趣味回ですw


第百二十一話   Don't tell anyone

『そうか…そんな事があったか……』

 

「あぁ……」

 

 

 就寝前のひと時、退寮日当日に持ち出す手荷物以外は既に発送し殺風景な寮の自室で、まほはアンチョビ相手に電話でその日あった事を報告していた。

 

 

『大変だったな…だが確かにそれはエリカの言う通り、今後迂闊にその事を本人の前で口にするんじゃないぞ……?でないとお前、それこそアイツに一生口利いて貰えなくなったりするからな、マジで気を付けろよ?』

 

「解った…けど安斎もエリカと同じような事を言うんだな……」

 

 

 電話の向こうのアンチョビは降って湧いた災難に疲れた様子のまほを労うが、同時に色々と鈍感な彼女が口を滑らせる事がないよう釘を刺す事を忘れていなかった。

 

 

「当たり前だ、今日だってアイツが拗ねたらどれだけ大変か身を以って体験したばかりだろうが」

 

「…仰る通りです……」

 

 

 過去にその鈍感さに起因する失態を犯しラブの機嫌を損ねた経験のあるまほは、その事で電話越しにアンチョビから釘を刺されぐうの音も出ず、冴えない顔で昼間の出来事を思い出していた。

 

 

 

 

 

「ええと、こっちの春休みの訓練日程は申請通りで、補充の弾薬発注も問題なし…後は特待枠の新入生達のランク分けか……この最初の書類選考は小梅達に任せればいいわよね……ちょっと待った、何で今更卒業生の退艦式で使う祝砲の使用申請書が私の所に回って来るのよ……?」

 

 

 歴史ある黒森峰の隊長室の執務机でまほ達の卒業イベント関連のスケジュールの確認や、来る新年度に向けて準備書類に目を通していたエリカは、その作業の合間に部屋の一角にある応接セットのソファーに腰を下ろす問題児二人の様子を窺っていた。

 

 

『ふ…それにしてもさすがにちょっと困ったわね……』

 

 

 まほ達の卒業を目前に気持ちの整理が付かず、持て余した感情を暴発させたラブの突然の来訪に、彼女の表情などからメンタル面で危険性はないだろうと判断したエリカだったが、デスクワークに限らず仕事が山積している為にそろそろ時間が気になり始めていたのだった。

 

 

『う~ん…ぼちぼちスーパースタリオンの方も物資の積み下ろしが終わる頃だろうし、これは最悪私が横須賀まで送って行かなきゃ駄目かしら……?』

 

 

 笠女から学園艦カレーのお替りを空輸して来た臨時便は帰路を空荷で帰る事はなく、黒森峰謹製の麦ジュースを始めとする各種艦内生産品を持ち帰る事が決まっていた。

 チラリと時計を確認したエリカは物資の積み下ろしに掛かる時間をザッと計算し、スーパースタリオンが帰投するのももう間もなくだろうと見積もっていたが、彼女にとって目下一番の問題はそのフライトまでにヘソを曲げたラブが果たして機嫌を直すかどうかであった。

 

 

『となるとやっぱり足の速い機体よね…今直ぐ使えそうなのはドルニエのプフィールの複座機辺りかしら……?たしかC整備から上がったばかりだったしあれなら…あ、ダメだ……あれの後席じゃ狭過ぎてあのおっぱいは積めないわね……』

 

 

 ラブを横須賀まで自分が送り届ける事になるかもしれないと想定したエリカは、その足として機体前後にエンジンを搭載する極めて特殊なドルニエ社製の双発機Do335の複座型であるA-6型を候補に挙げたが、直ぐにその狭いコックピットではラブのたわわが閊えて搭乗出来ない可能性に気付きプフィールの使用を断念していた。

 

 

『さてどうしよう…あのおっぱいが問題なく乗せられてそこそこ足の速い機体となるとやっぱ爆撃機クラスかな……そうなると選択肢はユンカースかドルニエ辺りだけれど、今稼働状態なのは空飛ぶ鉛筆の方だったかしら……?』

 

 

 高速郵便輸送機として開発がスタートし、その細い特徴的な容姿から空飛ぶ鉛筆なる仇名を奉られた爆撃機Do 17の機体を思い浮かべたエリカは、どのタイミングでラブを機体に乗せ送り返すかを検討し始めていた。

 

 

『取り敢えずパイロットは私がやるとして…航法アシストは小梅連れてっちゃうと他の雑務が回らくなるし、ここは直下を連れて行くのが無難かしら……?』

 

 

 副隊長は実質二人体制で小梅と直下がエリカのアシストをしていたが、自分が不在となる間卒業式に向けて細々した準備は小梅に任せ、熊本横須賀間の弾丸ツアーの航法アシストを直下に任せる事を決めたエリカは、そのフライトに要する時間を計算する為に机の上のアンティークな置時計へと目を向けていた。

 

 

「こりゃ寮に戻る時間はなさそうね…夕飯は早めにこっちに出前して貰おうかしら……?」

 

 

 しかし彼女が時計を見ながらついそんな事を口走ると、それまでまほを抱き抱えたまま置物のように身動ぎ一つしなかったラブの眉尻がピクリと動いたのであった。

 

 

「もういい……」

 

「え……?」

 

 

 しかしエリカは丁度その時、フライトの為に提出しなければならない必要書類の準備に集中していたので、ラブの僅かな変化に気付いていなかった。

 故にラブの唇から不意に零れた呟きにも気付くのが一瞬遅れ、ひと呼吸置いてから顔を上げ彼女が何を言ったのかと困惑していた。

 そしてその一方で虚ろな表情のままで、背中をぷにぷにするラブのたわわなアハトアハトの感触に顔を赤らめていたまほは、それまで只の一言も発しなかったラブが急に口を利いた事に驚き、振り向いて様子を窺おうと必死に首を左右に振っていた。

 

 

「お、おいラブ──」

 

 

 だがその只ならぬ雰囲気にまほがジタバタし始めたその直後、彼女の声に被せるように今度はハッキリと聞き取れる声と口調で、何とも理不尽極まりないセリフを吐き出したのだった。

 

 

「もういい、サッサと卒業しちゃえ……」

 

「は…え……?お前何を言って……おわぁっ!?」

 

 

 それまでギュッと抱き締めていた腕に込められていた力が若干緩み、どうにか身を捻ったまほがラブの顔を覗き込もうとした途端、彼女は勢いよくソファーの上に投げ出されてしまったのだ。

 

 

『あ~、やっぱりか……』

 

 

 そしてこの時一部始終を目撃していたエリカはラブの吐き捨てるような無茶苦茶な一言で、自分の予想が間違っていなかった事を再確認する事になったのであった。

 しかしエリカがそんな事を考えている間にまほをソファーの上に放り出したラブは、隊長室に乱入して来た時と同様に荒い足取りで肩を怒らせ無言で帰って行ったのだった。

 

 

「全く…何なんだアイツは……」

 

 

 訳も分からず羽交い絞め同然に抱き抱えられ、エリカにはクマのヌイグルミをやっていろと意味不明な事を言われた挙句、終いには無造作にソファーの上に放り投げられたまほは、すっかり乱れてしまった髪を手櫛で直しながらブツクサと文句を言っていた。

 

 

『これはもう必要ないわよね……』

 

 

 ラブが立ち去った後開けっ放しになったままの隊長室の扉をぼんやりと眺めていたエリカは、手元に目を戻すと机の上に用意していた書きかけのフライトプランの申請書を摘まみ上げ、そのままクシャクシャに丸めてゴミ箱へと放り込んだのだった。

 

 

『さて…アッチの後始末もしないとダメね……』

 

 

 散々モフられて気持ちを落ち着ける為に懸命に毛繕いする猫のように、髪の体裁を整えるまほのウンザリだと言いたげな顔にエリカはひとつ肩を竦めると、歴代隊長達が使い年季の入った隊長の椅子から大仰そうによっこらせなどと言いながら立ち上がった。

 

 

「まほ姉ちょっといいですか?」

 

「ん…何だ……?それより酷いじゃないかエリカ、さっきは何で助けてくれなかったんだ……?」

 

「やですよめんどくさい」

 

「なっ!?」

 

 

 ラブの好きにさせて放置したエリカに愚痴るまほであったが、返って来たのはにべもない一言であり、そのあまりな言いように絶句したまほは目を白黒させながら暫く口をパクパクさせていた。

 

 

「そんな事よりですね……」

 

「そんな事……」

 

 

 彼女の抗議を受け流しそんな事扱いするエリカにまほは呆然とするが、それに構う事なくエリカは一人勝手に話を進めるのだった。

 

 

「いいですかまほ姉?今日の事はもうラブ姉の中ではなかった事になってますからね、後でラブ姉にどうこう言って優位に立とうとか考えちゃダメですよ?」

 

「…それは一体どういう意味だ……?」

 

 

 仮にも先輩相手に何処か諭すような口調のエリカに、丸っきり彼女が言わんとする事の意味が解らないまほはあからさまに不満そうな顔をする。

 

 

「ですからクマのヌイグルミですよ……」

 

「は……?」

 

 

 またしても出たクマのヌイグルミに不満そうな顔が一変し間抜け面を晒すが、これから噛んで含めるように説明してやるから黙って話を聞けとばかりに、ソファーから腰を浮かしかけた彼女を軽く手を挙げ制したエリカはその対面に腰を下ろした。

 

 

「もうお忘れですか?幼少期のクマのヌイグルミのエピソードをついさっきご自分で披露したばかりでしょうに…今日のラブ姉は多分……いや、まず間違いなくクマのヌイグルミを抱いて拗ねていた小さなラブ姉と同じ状態だと思いますよ?」

 

「え…何だって……?」

 

 

 話が唐突過ぎてまだ言われた事の意味が理解出来ないまほは、何の話だと目の前に座るエリカの顔をマジマジと見直していた。

 するとエリカもそれまでの何処か呆れの色の混じった表情を改め真面目な表情を繕うと、それに合わせて口調も変えて話を続けた。

 

 

「ラブ姉って私らなんかじゃ想像も付かない位色々なものを抑え込んで、それこそクマのヌイグルミを抱いていた頃からずっと我慢に我慢を重ねて生きて来たんじゃないですか?」

 

「それは……」

 

 

 ここに来て漸く話が見えて来たまほであったが、何と答えたらいいのか言葉に詰まった彼女は何度か口を開き掛けたものの、結局は何も言う事が出来ず口を噤んでいた。

 

 

「やっと解って頂けました?そりゃあ確かにやってる事はえらい子供じみているとは思いますよ?けど今回はそれだけ色々溜め込んでたって事なんじゃないですか?」

 

「う~ん……」

 

「ラブ姉だって頭じゃ解っているんですよ…でもやっぱり気持ちって別問題なんじゃないですか……?現にああして感情を持て余した挙句、自分でもどうにもならなくて後先考えずに行動に出ちゃったんだと思いますよ……」

 

「それでクマのヌイグルミか……」

 

 

 飛び抜けて頭の良いラブが子供じみた行動に出るのは彼女が拗ねたりした時である事はまほも何となく覚えてはいたので、漸く自分がクマのヌイグルミ扱いされた事は理解出来たようであった。

 

 

「そういう訳ですから、この件をネタにラブ姉に何か言っちゃダメですよ?」

 

「だから何でそうなるんだよ……?」

 

 

 突然やって来たラブに理不尽な扱いを受けたまほとしては、今度会った時にはその事で何か嫌味の一つも言ってやりたいと思っていたが、彼女のそんな考えを否定し馬鹿な事をやらぬよう釘を刺しに来たのだった。

 

 

「さっきも言ったようにラブ姉の中じゃこの事はなかった事になってるんですよ…それこそ下手をすれば次に会った時に、今日の事に言及してもラブ姉は忘れてる可能性もあるんじゃないですか……例え覚えていたとしても絶対とぼけるに決まってますよ」

 

「いや、とぼけるってそれはさすがに無理があるだろ……」

 

 

 あまりに無茶苦茶な事を平然と言ってのけるエリカにまほの困惑は止まらないが、エリカはそれも肩を竦めるだけであっさりと受け流した。

 

 

「何言ってんですか?相手はあのラブ姉ですよ?」

 

「……」

 

 

 それを言われたら何も言えなくなる一言に、実際まほは沈黙し虚ろな視線を宙に彷徨わせる。

 

 

「とにかく…迂闊な事を言えば酷い目に遭うのはまほ姉なんですから、今日の事は今後ずっと黙っておいた方が身の為ですよ……?」

 

「身の為……」

 

 

 まほが勝てない事を前提に話をするエリカに多少カチンと来るものもあったようだが、残念ながらそれを否定する事も出来ず、面白くなさそうな顔をするのがまほの精一杯の抵抗だった。

 

 

『あ~、この様子じゃやっぱこの人気付いてないわね……』

 

 

 それはまほにとって迷惑この上ない事でしかないので気付けというのも酷な事かもしれないが、疲れの混じった彼女の仏頂面にエリカはやれやれと肩を竦めると、ソファーに座り直しこの問題の核心と言うべきポイントを語り始めた。

 

 

「いいですかまほ姉?多分、いや確実にまほ姉は気が付いていないと思いますけど、ラブ姉が我が侭言ったり甘えたりする相手はあなただけなんですよ?」

 

「は?え……?ちょっと待てエリカお前一体何言ってんだ?アイツが…ラブがいつ私に甘えたって……?アイツには散々やりたい放題振り回された記憶しか私にはないぞ?」

 

「うんハイハイ、やっぱ解ってないですよね、いいから落ち着いて座って下さい」

 

 

 思いもよらぬ事を言われたまほは驚いて気色ばむが、エリカは落ち着けとばかり掌をかざして制する仕草で、腰を浮かせるまほを落ち着かせようとしていた。

 

 

「まほ姉、落ち着いてよ~く考えて下さい…ラブ姉が今回みたいな事他の方達にやった事あります……?ないですよね?そりゃそうですよ、いくら仲の良い友人とは言ってもそこはやはり他人……おふざけ程度で似たような事をやっても、本気で我が侭言ったり甘えるのは血縁のまほ姉だけ……みほもいるけどアレはあくまでも小さい妹で子分扱いですから」

 

 

 寝耳に水とはこの事か、エリカの話はまほにとって驚き以外の何ものでもなく、大きく目を見開きビックリ顔のまほは思考が停止してそのまま固まっている。

 

 

「は~、絵に描いたようにテンプレな反応ね…ま、いいわ……てなわけでまほ姉、ラブ姉が唯一本当に甘えられるのはあなただけなんですけどその辺理解出来ましたか?」

 

 

 フリーズしたまほの目の前でエリカが反応を確かめるように手をヒラヒラさせると、それで漸くまほも我に返ったが、言っている事は丸っきり要領を得なかった。

 

 

「私が…エリカ、は?……何だって……?」

 

「全くこの人は戦車乗ってる時以外はとことんポンコツなんだから…ほらまほ姉、いい加減シャキッとして下さい……私の言った事まだ呑み込めませんか?」

 

 

 いい加減めんどくさくなって来たらしいエリカの口調はややぞんざいなものに変わっていたが、それでも彼女は根気よくまほの思考回路が元に戻るのを待っていた。

 

 

「ラブが甘える…私に……エッ!?」

 

「やっとお目覚めですか?」

 

「エリカ……」

 

「信じたくない気持ちは解らないでもないですけどね…けどまほ姉のその立場、周りからは羨ましがられる立場だって解ってます……?」

 

「羨ましいだって?どこが……?」

 

 

 次から次へと予想外にも程がある話が続いたが、今の話が今日一番の信じられない一言であり、まほは思わず聞き間違いではないかと自分の耳を疑ったのだった。

 

 

「やっぱ全然解ってないか…あのですね、公然とラブ姉とベッタベッタ出来るのは姉妹も同然で白馬の王子気取りなまほ姉だけ……まほ姉と一緒にいるとラブ姉の態度って違うから、誰もがまほ姉の事羨望の眼差しで見てるんですよ?」

 

「は、白馬の王子ぃ…!?大体ベッタベッタってオマエ……め、迷惑なんだよ!」

 

 

 しかし信じ難い話が続きすっかり疑り深くなっている処にエリカが止めの一撃を放つと、ツンデレのお手本のような反応を示したまほはプイっとそっぽを向いていた。

 それから暫くの間如何にも馬鹿臭そうにそっぽを向いたまほの背中を見ていたエリカだったが、同時に彼女はまほカットの最大の特徴である横跳ねの陰から見え隠れする耳が、すっかり真っ赤になっているのを見逃さなかった。

 

 

『解り易い…まぁあれだけオモチャにされりゃ無理もないけどね……そもそもが一番悪いのはラブ姉なのよ、いくらまほ姉の事が好き過ぎるからってこんな捻くれるまでイジってどうすんのよ……』

 

 

 目の前の拗らせたツンデレをどうしたものかと考えていたエリカは段々腹が立って来たのか、その怒りは元凶であるラブにまで向けられていた。

 しかし彼女も今ここでそれを言っても何の解決にもならない事は解っていたので、面倒そうに溜息を吐くと残りの仕事を片付けるべく席を立ったのだった。

 

 

『ほんっとメンドクサイ人達だわ……』

 

 

 だが席を立ち執務机に戻りかけたエリカは肝心な事を言っていなかった事を思い出し、まだ背中を向けたままのまほに注意喚起を行っていた。

 

 

「まほ姉、しつこいようですが今日の事はくれぐれも他言無用ですよ?」

 

「……」

 

「特にダージリン先輩には絶対言っちゃいけませんよ?もしあの人がこの事を知ったらどんな事になるかは火を見るよりも明らかなんですから気を付けて下さい…うっかりまほ姉が口を滑らせて面倒な事態になって泣き付いて来ても私は助けませんからね……?」

 

「言わないよ!」

 

 

 過去何度となく自分のポンコツの尻拭いをエリカがやった実績があるだけに、悔しそうな顔で振り向いたまほは語気も荒く言い返していた。

 

 

『…とはいえさすがに安斎だけには報告しておくか……言わずに置いて後で知れたら、それこそアイツは絶対に余計怒るしな……』

 

 

 唸る柴犬のように歯を食いしばっていたまほは、キレる一方でアンチョビにこの事が後でバレた場合の事を考え、今夜にでも伝えておくかなどと考えていたのだった。

 

 

「ああそうだ、どうしてもというならドゥーチェにだけは伝えてもいいですよ?あの人なら何かあってもフォローしてくれるでしょうし、下手に黙ってると後が怖いとか思ってたでしょうからね」

 

「……」

 

 

 強く言い返しそれで終わりにしたつもりのまほであったが、長く彼女の副官を務めたエリカはその辺もお見通しだったらしく、絶妙のタイミングで抜かりなく釘を刺したのだった。

 

 

 

 

 

「これでよし…忘れ物もなしと……」

 

 

 卒業式当日の早朝、日々戦車道の朝練に明け暮れていた頃と変わらず起床時間より早く目覚めたまほはシャワーを浴びると早々に身支度を整え、残りの荷物を全て遠征の時などに愛用して来たオリーブドラブの実用一点張りなドラムバッグに詰め込んでいた。

 

 

「…お世話になりました……」

 

 

 空になったクローゼットに机とベッド以外何もない室内を見回したまほは、別段感傷的になったようには見えなかったがそれでも感慨深げな表情で短く一言呟き一礼すると、時計を確認して朝食を取るべく部屋を後にしていた。

 基本的にドイツの朝食は冷たい食事などと言われる加熱調理をしないメニューが中心だが、毎日それでは生徒達が精神的に参ってしまうので、学校側もその辺は配慮して普通の日本食も用意して提供していたのだった。

 しかしまほ達卒業生達にとって今日が最終日という事もあり、今日の朝食メニューには黒森峰らしい物が用意され、まほ達も別れを惜しむように冷たい朝食を口にしていた。

 

 

『機甲科3年A組の西住さん…機甲科3年A組の西住まほさん、荷物が届いていますので一号館受付まで来て下さい……繰り返します、機甲科3年A組の西住さん──』

 

「ん…なんだ……?荷物が届いただって?」

 

 

 寮の食堂で食べる最後の朝食後、コーヒーを飲みながら同級生達と談笑していたまほは、不意にスピーカーから流れた当直による呼び出しに怪訝な顔をした。

 

 

「まさか送った荷物が戻って来たとかじゃないだろうな……?」

 

 

 卒業式当日に荷物が届くなど心当たりがないまほは、とっくに発送した私物が何かの不手際で戻って来たのかと笑えない状況を想像し、とにかく行って来ると食べ切った朝食のトレイを手に席を立ったのであった。

 

 

「まほ姉」

 

「エリカか……」

 

 

 返却口にトレイを返却し、三年間世話になった調理師達に礼を述べたまほが食堂を出ると、そこには朝食前に一仕事終えたエリカの姿があった。

 

 

「今の呼び出しは何ですか?」

 

「私にも解らん……」

 

 

 実際いくら考えても何も思い当たる事がないまほはそう答える事しか出来ず、聞いたエリカもその答えは予想していたようだった。

 

 

「ですよね…私も付いて行っていいですか……?」

 

「それは構わんが朝食を摂るつもりじゃなかったのか?」

 

「朝練がない分時間には充分余裕があるから大丈夫です」

 

「ならいいが……」

 

 

 これ以上この場で考えても仕方がないしとにかく話は荷物を受け取ってからだと、二人は連れ立って食堂を離れ寮の受付へと向かったのだった。

 

 

 




う~ん、卒業して傍にエリカがいなくなったまほって大丈夫だろうかw

今回作中で登場したドルニエのプフィールは私が大好きな機体でして、
漸く登場させる事が出来ました。
今度はエリカに操縦させて飛び回るエピソードも書きたいですね。
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