ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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今回タイトルで何が登場するか察した方は、
私と同様に相当お好きな方かと思いますw

尚、やはり来週はお盆休み返上でお仕事決定ですww




第五話   Typ 166

『あ~そう、解ったわ…なら買い物がてら迎えに行ってあげるから、馬堀(まぼり)海岸まで来ないで中央駅で降りなさいよ……うん、そう横須賀中央よ……その方が品川から快特一本で楽でしょ?』

 

 

 

 

 

 新横浜駅を定刻通り発車し、あっという間に品川駅に到着した新幹線から降車したまほとアンチョビは、横須賀に向かう京浜急行に乗り換える為人の流れに乗り連絡通路を移動していた。

 それから長い連絡通路を歩く事暫し、JR側から直結する京急の改札口前に辿り着くと、まほは品川に到着した事とこれから京急に乗り換える旨をメールでラブに送っていた。

 するとメールを送ったまほが携帯をポケットに戻すより早く着信音が鳴り、発信者がラブである事を確認した彼女はその反応の速さに驚いたのであった。

 

 

「アイツずっと携帯握り締めて待ってたのか……?」

 

 

 呆気に取られながらアンチョビと顔を見合わせたまほが電話に出ると、ラブは挨拶もそこそこに彼女の自宅の最寄り駅である馬堀海岸ではなく、それより手前の横須賀中央で下車するよう指示したのだった。

 

 

「ラブのヤツなんだって?」

 

「フム…それが何だかよく解らんが、買い物がてら迎えに行くから馬堀まで来ないで中央で降りろと言ってた……」

 

「中央ねぇ…それなら乗り換えの手間は省けるが……けど買い物はともかくとして、迎えに来るってのはどういう意味だ?まさかアイツLove Gun転がして来るんじゃないだろうなぁ~?」

 

「いや、さすがにそれはないと思うんだが……」

 

 

 広い熊本で日常的に戦車を下駄代わりに使用する西住家と違い、小さな街ながらも首都圏に属する横須賀でさすがにそれはないだろうと言いたかったが、ラブの事を考えるとまほもアンチョビの抱く疑念を完全には否定する事が出来なかった。

 だが自分の家族が平気で街中で戦車を自由に乗り回す事が出来るのは、西住流の知名度と地元熊本の土地の豊かさと大らかな気質があっての事だと彼女も解ってはいた。

 

 

「まぁ多分雪緒さん辺りに車を出して貰うんだと思うけどな……」

 

「雪緒さん…あぁ、ラブの家のメイド長の雪緒さんか……」

 

 

 

 大きく首を傾げ少し考えて自分なりの予想をまほが呟くと、アンチョビもエキシビションマッチの際に見掛けた黒髪美人なメイドを思い出しあの人の事かと納得したが、同時に城住まいでメイドに傅かれるお姫様とかどんなおとぎ話の世界だなどと思ったりもしていた。

 

 

「取り敢えず考えるのは後にしてホームに行って並ばないか?えぇと…次は普通だからその次の快特に乗ればいいんだよな……?」

 

 

 乗り継ぎ改札口の切符売り場の上の電光掲示板で横須賀方面の発着時刻を確認したまほは、以前乗車した時の記憶を頼りに自分達が乗るべき快速特急の表示を指差した。

 

 

「あ~うん、それで間違いない……それじゃ早速切符を買うとしよう」

 

 

 券売機で切符を購入後改札を抜けた二人は普通列車を一本見送った後、程なくして滑り込んで来た快速特急に乗り込んだのだった。

 

 

 

 

 

「座れてよかったな、空いてて助かったよ」

 

「そうだな、時間帯もあるんだろうが品川始発だったのが大きいだろう」

 

 

 品川駅を出発後まだ空席のある車内で座席に並んで腰を降ろして落ち着いた二人は、高速で流れる車窓からの景色を眺めながら無事乗り換えが済んだ事に安堵していた。

 

 

「西住もさすがに疲れただろう?何だったら横須賀まで寝ててもいいぞ?尤もこの快特だと横須賀中央まで一時間もかからんけどな」

 

「それなんだがな…子供頃に乗った時はさして気にもしていなかったんだが、この快速特急ってやたら速い気がしないか……?東京から横須賀まで一時間切るって結構無茶苦茶な気がするんだが、単に私が滅多に電車に乗る事がなかったからそう感じるだけだろうか……?」

 

 

 ラブ程極端ではないにしても自分もかなりなお嬢様育ちである事に自覚のあるまほは、本格的に飛ばし始めた快特の加速を体感しながら少し複雑そうにしている。

 

 

「気のせいじゃないぞ、実際相当速いらしいからな」

 

「う~む…何か新幹線に乗ってる時より速く感じるのはどういう訳だろう……?」

 

「あ~、そりゃ多分街中を突っ走ってるからそう感じるんだろう、私も初めて乗った時に何じゃこりゃって思ったからな~」

 

 

 遠く愛知県は豊田市の実家から携帯と固定電話を駆使しての離れ業で窮地に陥ったラブを救った後、居ても立っても居られず横須賀を目指した当時を思い出したアンチョビは、同時に辿り着いた中央駅前で事故後初動に当たった英子と、初めて対面した時の事も思い出していた。

 

 

『初めて会った時はまだ髪も随分と短かったっけ…今回は何も言わずに来たから会う事もないだろうけど、英子姉さんはどうしてるかな……?多分相変わらず忙しくしてるんだと思うけど、無理してないといいな……』

 

「どうした……?」

 

「ああいや、何でもない…えぇと何と言ったかな、標準軌だったっけ……?何でもこの京急は新幹線と線路の幅が一緒らしくてな、そのおかげでこうしてぶっ飛ばせるんだそうだ」

 

「詳しいな」

 

 

 英子の事となると途端にトラウマが発動してしまうまほに、とても彼女の事を思い出していたなどととは言えず、アンチョビは記憶を頼りに京急がやたら速い理由を説明していた。

 

 

「ちょっと前にダージリンに聞いたんだ…あ~、それで思い出した……そのダージリンとアッサムにラブのヤツまでが口を揃えて京急が最速だと豪語してたっけ……」

 

「何だそりゃ……?」

 

「私にもよく解らん…解らんが沿線住民には私らには理解出来ない何かがあるようだ……」

 

 

 ラブと再会後事故当時の事も含めて漸く感情的にならずに話せるようになった頃、話の流れで飛び乗った快特の速さに驚いた事にアンチョビが言及すると、神奈川勢の三人がさも当然と言った口調で京急最速論をぶち上げていたのを思い出していた。

 だがよそ者にとってローカルネタは通用し難いものなので、アンチョビもそれを聞かされたまほも訳が解らんと首を捻ったのだった。

 

 

 

 

 

「え~っと確か西口の改札に出ろと言ってたな…しかし本当に速い、あっという間に到着だ……」

 

 

 品川を発車後あれこれ話しているうちに間もなく横須賀中央の車内アナウンスが流れ、乗車前にラブから聞かされていた駅の出口を確認したまほは、合わせて時計を確認し品川から横須賀までの所要時間の短さに改めて驚いていた。

 

 

「私が初めて降り立ったのも西口だったな…って事はやっぱり車で迎えに来るんだろうか……でもまさか本当にLove Gunで迎えに来てたりしないよなぁ……?」

 

 

 英子の指示で西口の改札で迎えに来ていた覆面パトカーに乗り込んだ事を思い出し、その時と同じ状況にやはりラブが車で迎えに来ているであろうと思ったが、まさかのLove Gunという嫌な予感の方もアンチョビは完全に否定し切れずにいた。

 

 

「おい、もう着くみたいだからそろそろ席を立っておいた方がいいんじゃないか?」

 

「そうだな……」

 

 

 それから程なくしてアンチョビとまほを乗せた快特は中央駅のホームに滑り込み、多くの降車する乗客と共に二人も横須賀の地に降り立ったのだった。

 

 

 

 

 

「オ~イ!こっちこっち!」

 

 

 横須賀中央駅西口の改札を抜けた二人が駅ビルの外へと足を踏み出すなり、聴き慣れた特徴的なハスキーボイスの大声が駅前の下り坂に響き、いきなりの事に思わずアンチョビは顔をしかめていた。

 

 

「アイツはまた大声で騒ぎやがって…ただでさえ目立つヤツが…あぁ……?」

 

 

 横須賀一有名で目立つ存在のラブの考えなしな大声に呆れたアンチョビが、ブツブツと文句を言いながら声のした方へと目を向ければ、その先には胸のたわわなアドバルーンをユサユサと揺らしながらピョコピョコと飛び跳ね大きく手を振るラブの姿があった。

 しかし彼女の文句が途切れたのはたわわを上下に激しく揺さぶる姿が原因ではなく、ラブの傍らにちょこんと停まった極めて小さく特殊な存在が原因であった。

 

 

「おぉ!?あれはTyp 166じゃないか!」

 

 

 ポカンとして言葉を失うアンチョビとは対照的に、大きく目を見開き興奮を隠そうともしないまほが指差す先に佇む小さな車。

 日本の軽自動車と大差ないその車の外観は車と言うよりは小舟に近く、飛び出した丸目ライトのせいかルックスは愛嬌のあるカエル顔だった。

 まほが興奮気味に叫んだのはこの車の型式であり、一般的にはシュビムワーゲンの名で知られるポルシェが生んだ傑作水陸両用車であった。

 日本語に訳せば泳ぐ自動車と呼ばれるこのシュビムワーゲンは、ただ水上航行が可能な特殊車両という訳ではなく、上陸する際必要となる前輪の駆動力を確保する為に四輪駆動が採用され、駆動系も車内に内包してフラットな車体底面を確保し大きなロードクリアランスを実現していた。

 故に高い不整地走破力を獲得したシュビムワーゲンは、単なるイロモノやキワモノ扱いされる珍兵器ではなく、極めて優秀な軍用車両と呼べる存在であった。

 まさかLove Gunで迎えに来るんじゃあるまいなという予想を遥か斜めに上回り、ある意味赤外線暗視装置装備の希少なパンターG型以上にレアな存在であるシュビムワーゲンの登場に二人も驚きを隠せず、暫くの間その場でラブとお散歩中のワンコ宜しく傍に佇むシュビムワーゲンという、これ以上はない程目立つコンビをポカンとした顔で眺めていたのだった。

 

 

「ちょっとぉ!二人共ナニそんなトコでぼんやり突っ立ってんのよ!?」

 

「え…あぁスマン今行く……」

 

 

 大きく手を振って出迎えるも、その場で固まり動かぬアンチョビとまほに業を煮やしたラブは、腰の両側に手を当て少し苛立った様子で二人を急き立てた。

 するとその声で我に返った二人は、慌ててバタバタと駆け寄って行ったのであった。

 

 

「何やってんのよ~?」

 

「いやスマン、ちょっとぼ~っとしてしまった…迎えに来るとは聞いていたが、まさかシュビムワーゲンで来るとは思いもしなかったからな……」

 

 

 ぼんやりして待たせてしまった事を謝罪したアンチョビは、驚いた顔のままポニーに結った髪を大きく揺らしペコリと頭を下げた。

 

 

「別にそんな謝る程の事じゃないわ…って千代美、今日はツインテじゃなくてポニーなのね……」

 

「変か……?」

 

「ううん…初めて見た訳じゃないけどなんか新鮮だわ……しかもとっても可愛いしね♡」

 

「止せって……」

 

 

 お泊りの時などは互いに髪結いを任せる事も多く、アンチョビのポニーに結った姿は何度となく見た事のあるラブであったが、公の場では見た記憶がなく彼女のエメラルドの瞳にはそれが何とも新鮮に映っていたのだった。

 

 

「しかし驚いたなぁ……」

 

「ん?何がよ……?」

 

 

 ラブにポニーに結った髪を褒められ照れるアンチョビの隣では、しげしげとシュビムワーゲンに見入っていたまほが唸るように呟きを洩らし、その声にどういう事かとラブも首を捻っていた。

 

 

「何がってオマエ…私はオマエの家にシュビムワーゲンがあるなんて知らなかったぞ……?」

 

「あぁこの子の事……?」

 

「この子ってオマエ、犬か猫じゃあるまいし……」

 

「何よ文句ある?」

 

「いや…別にないけど……」

 

 

 それが例え無骨な戦車の類であってもラブがこの子扱いするのは昔からの事だが、その辺の感覚がまほには今ひとつ理解出来ないのであった。

 とはいえ彼女もその事でラブにあまり強く言い返すつもりはなく、ジロリと睨まれると条件反射的にすっと目を逸らしてしまうのだった。

 

 

「今年の誕生日よ…亜梨亜ママが誕生日のプレゼントに贈ってくれたの……実家でずっと寝てたこの子を、その為に大分前から時間を掛けてフルレストアしてくれたらしいわ……」

 

「シュビムワーゲンが誕生日のプレゼント……」

 

 

 まほにしてもラブにしても戦車道の宗家の生まれ故に、身の回りに軍用車がゴロゴロしている環境が当たり前だが、あくまでも一般家庭に生まれ育ったアンチョビとしては、シュビムワーゲンのようなシロモノが誕生日のプレゼントに贈られるなどという状況はあり得ない事なので、目の前の現実離れした話に只々絶句する事しか出来なかった。

 

 

「誕生日のプレゼント…って事はこのシュビムワーゲンはオマエのなのか……でもコレってどう見ても正真正銘のオリジナルだろ?いいなぁ……」

 

 

 しかしまほも家柄のせいかその素性を見抜く目を持ち合わせており、ラブが誕生プレゼントに貰ったというシュビムワーゲンをしきりに羨ましがっていた。

 ところがまほはラブのシュビムワーゲンを羨ましがりながらも、妙に落ち着きなく周囲をキョロキョロし始め、それを見咎めたラブは小言を口にするのだった。

 

 

「ちょっとまほ、アンタさっきから何を落ち着きなくキョロキョロしてんのよ?」

 

「え?あ…ホラ、雪緒さんは何処かと思ってさ……」

 

「は?アンタ何言ってんの?何でここで雪緒ママの名前が出るのよ……?」

 

 

 車で迎えに来ている以上は当然誰かが運転して来ているはずで、ラブが実家から来た事を考えればおそらく運転手はメイド長の雪緒だろうと考えていたまほは、エキシビションマッチの時はろくに挨拶もしていなかったので、先ずは迎えに来てくれた礼を言わねばと彼女の事を探していたのだ。

 しかしそんな彼女を落ち着きがないと小言を言ったラブは、何故今ここに雪緒がいるとまほが考えたのかが理解出来ず戸惑いの表情を見せたのだった。

 

 

「何でって城から車で来たって事は雪緒さんが運転して来たんだろ?エキシビションの時はまともに話もしてないし、まずは挨拶しなきゃって思ってだなぁ……」

 

「ちょっと待って…自分の車で来るのに何で雪緒ママに運転して貰わなきゃいけないのよ……?」

 

「雪緒さんじゃない…じゃあこのシュビムワーゲンは一体誰が運転して来たんだよ……?」

 

「誰って私が運転して来たに決まってんじゃん」

 

『はぁ!?』

 

 

 どうにも会話が噛み合っていない事に、まほも傍でそのやり取りに耳を傾けていたアンチョビも薄々気が付いてはいたが、ラブが自分で運転して来たと言った途端二人同時に裏返った声で驚きの声を上げたのであった。

 

 

「イヤイヤイヤ、ちょっと待ってくれ!お前いつの間に普通免許取ったんだ!?」

 

 

 一足先に思考回路が回復したアンチョビが至極当然な質問をラブに突き付けるが、当のラブは何言ってんのよとでも言いたげな顔をしつつも彼女の質問に答え始めていた。

 

 

「いつって目の手術の後、何やっても問題なしのお墨付きを貰って暫くしてからよ…艦内の教習所でおさらいみたいな教習を受けて、その後も普通に試験場で書き換えの試験で合格して免許取ったわ…この辺の手順はアンタ達だって一緒でしょ……?」

 

「そりゃまぁそうだが……」

 

「けどお前の場合……」

 

 

 戦車道履修生は戦車以外の車両も日常的に使用しているので、通常の免許を取得する場合一般の生徒より遥かにそのハードルは低く、ラブが言ったように学科も実地もその教習はそれまで学んだ事のおさらいに近く、試験場での試験も新規取得と言うよりは免許書き換えに近かったのだ。

 実際アンチョビとまほもラブと同様の教習と試験を卒業前に艦内で受け、普通免許と幾つか今後必要になりそうな免許の書き換えは済ませていたいたので、逆に聞き返された二人は顔を見合わせながら釈然としない様子で頷いていた。

 

 

「…言いたい事は解るわ……けど一応条件付きとは言え、正真正銘の普通免許を取得してるわよ?」

 

 

 僅かに言い淀む二人の様子に彼女達が何を言いたいのか察しが付いていたラブは、それを見越していたかのようにベルトポーチから取り出していたパスケースの中から、まだ真新しい免許証を抜き出し掲げて見せた。

 彼女の言う条件が果たしてどの程度のものかまでは不明ながらも、ラブが掲げて見せているのは紛れもなく普通自動車の運転免許証であり、自分でシュビムワーゲンをここまで運転して来たのはどうやら本当の事らしかった。

 

 

「そっか…けどなぁ、若葉マークでいきなりシュビムワーゲンを運転するってのは、さすがにちょっとハードルが高過ぎやしないか……?」

 

 

 今時のアシスト機能満載な車とは違い、運転操作の一つ一つにまるで儀式のような面倒な手順や体力が必要だったりするので、アンチョビとしてもハンデを抱えるラブがシュビムワーゲンのようにクセの強い車に乗る事に一抹の不安があったのだ。

 

 

「千代美が不安に思うのは解るわ…けど亜梨亜ママが私でも運転し易いようにあちこち大幅に改造してくれてるから大丈夫よ……まぁその代わりこのシュビムワーゲンはオリジナルとしての価値はほぼなくなっちゃってるんだけどね~」

 

「そうだったか…けどまぁ運転はくれぐれも気を付けてな……」

 

「勿論よ」

 

 

 困ったもんだと自虐的に眉尻をへにょりと下げて笑うラブを前に、厳島の財力を以ってすれば例え扱い辛い軍用車両であっても乗り易い車にアップデートする位は容易いだろうと考えを切り替え、事故だけは気を付けろよとだけ言いそれ以上の事は言わないようにしたのだった。

 

 

「フ~ム改造か…あ、テールとフロントにガッツリラブのパーソナルマークまで入ってるじゃないか……これだけでもう誰の車か直ぐに解って盗難防止にもなるんじゃないか?」

 

 

 希少なシュビムワーゲンだけに盗難等も心配だが、車体前後にラブのパーソナルマークがマーキングされている事に気が付いたまほは、それが何にも勝る盗難防止装置になるだろうと考えていた。

 何しろ横須賀で厳島相手に盗みを働くなど自殺行為以外のなにものでもなく、それをよく知っているまほはラブのパーソナルマーク入りのシュビムワーゲン前で思わず唸ったのだった。

 

 

「いやまぁねぇ…けど亜梨亜ママも一応は最新のイモビライザーを組み込んだけどね……」

 

 

 まほはそう言うが物事に絶対はないので、亜梨亜もこの希少なシュビムワーゲンには出来得る限りのセキュリティ対策は施しているらしく、ラブも迂闊な事はしないよう気を付けていた。

 

 

「しかしあれだなぁ……」

 

「何よ……?」

 

 

 一通りシュビムワーゲンの説明をラブが終えると、一歩引いて全体像を見直すようにしていたまほの顔に何とも人の悪い笑みが浮かび、その笑みを見たラブの顔には警戒の色が浮かんだのだった。

 

 

「いやな、一体いつの間に高校一年生が普通免許を取れるようになったのかと思ってな…う~ん私が知らない間に道路交通法が改正されていたとはな……いや、これは不勉強だったなぁ」

 

「あ~まほ!アンタ今言ってはならん事を言ったわねぇ!?」

 

 

 再会以降事ある毎に自分が高校一年生である事を強調し、時にはそれを口実に言いたい事を言って人をおちょくるネタにするラブ対し腹に一物二物溜め込んでいたまほは、ここが意趣返しの為所とばかりに痛打を浴びせたのであった。

 日頃お姉さんぶっては自分を顎でこき使ったりするクセに、都合が悪くなるとまだ一年生である事を強調して言い逃れようとするラブを忌々しく思っていたまほは、その一年生(間もなく二年生)の彼女が普通免許を取って得意げにしている矛盾点を逆手に取り見事その足元を掬っていた。

 

 

「ほ~、どの辺が言ってはいけない事なんだ?いつも自分はまだ一年生だと声高に言ってたのは何処の誰だったかな?」

 

 

 何を言っても勝てた例のないラブ相手に鮮やかに一本取った事ですっかり気を良くしたまほは、いっそ卑屈なまでにその口元を歪めて下卑た笑みを浮かべている。

 

 

「きぃ!まほのクセに生意気な!」

 

「フハハ!無様な、何とでも言うがいいさ♪」

 

 

 過去を顧みればこれは完全に彼女の身から出た錆なだけに、アンチョビもあまり同情する気になれずこの低レベルな姉妹の言い争いに介入しようとはしなかった。

 

 

「ムッカ──!あ~もうまほはこのシュビムワーゲンに乗せてやんない!オマエは小原台の山の上まで自分の足で歩いて来い!」

 

「え!?あ!ウソウソ!頼むから私もシュビムワーゲンに乗せてくれよぅ!」

 

 

 完全にガキの口喧嘩になり果てた二人の言い争いは、最後の最後でラブが実に下らない伝家の宝刀を抜いた事であっさりと立場は逆転し、まほは何とも情けない泣き言を言いながらラブに泣き付く結末を迎えたのであった。

 

 

「オマエらはアホか……」

 

 

 口出しはすまいと傍観者に徹していたアンチョビではあったが、おバカ()()のあまりにレベルの低い言い争いに激しく脱力しボヤキを洩らしていた。

 

 

 




現存するシュビムワーゲンのお値段は2000万とか3000万とかするそうでw

ちょっと来週は相当忙しくなりそうなので、
残念ながら投稿はお休みする事になりそうです……。
それを過ぎれば落ち着くので投稿もいつも通りになると思うのでご容赦下さい。
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